「………………」
 ベンチに腰かけ、静かに息をつく――目を閉じ、マスターコンボイはヒューマンフォームの少年の姿のまま、ひとり精神を集中していく。
 自分の相手はあまりにも強大。自分ひとりでそれに立ち向かうのはあまりにも絶望的。
 しかし――やらなければなるまい。
 ここは退くべき時ではない。前に進むべき時だ。
「…………よし」
 覚悟は決まった。後は踏み出すだけ。自らに気合を叩き込み、マスターコンボイは意を決して立ち上がり――

 

 

 

 

 

 

 

「ぬがぁっ!?」

 

 

 瞬間、視界が回転し――ローラーブレードを履いたまま盛大にすっ転び、その後頭部で自分の座っていたベンチを粉砕していた。

 

 


 

第97話

小休止
〜次なる戦いを前に〜

 


 

 

「△※☆$◇&○#*〜〜〜〜っ!」
 破片が刺さらなかったのが幸いと言えば幸いだが、それでも痛いものは痛いのだ――ベンチで痛打した後頭部を抱え、マスターコンボイは声にならない悲鳴を上げて転げ回った。
 今の身体になってからずっと続いている懸念――自分のロボットモード、その両足に装備されたローラーブレード型の高速走行ユニット“レッグダッシャー”を、自分はスバルやギンガの補助なしでは未だに満足に使うことができないでいる。
 それをなんとかしたくて、こうしてひとり練習を始め――ようとしたのだが、第一歩からいきなりコレである。
「だ、ダメか……!」
 これでは先が思いやられるというものだ。うめきながらも、マスターコンボイは壁を支えに立ち上がるが、彼のローラーブレードに対する苦手ぶりはなおも彼が立ち上がることを許さなかった。壁を支えにしてすらバランスを保てず、再び足を滑らせて顔面から床に突っ込み――
『あははははっ!』
 突然、彼の背後から笑い声が上がった。
「――――――っ!?」
 その声にはイヤと言うほど覚えがあった。なんとか上半身だけを起こし、マスターコンボイが笑い声のした方へと視線を向けると、
「あははははっ! 何ソレ! オイシすぎ!」
「マスターコンボイさん、まだできなかったんですね……ぷっ、アハハハハっ!」
「な……な、な、な……っ!?」
 そこには腹を抱えて笑い転げるこなたと、とうとう耐え切れなくなって笑い声を上げてしまったスバルの姿――いつの間にかそこにいた二人の姿に、マスターコンボイは「なぜそこにいる」という簡単な言葉すら放てず、口をパクパクさせるしかない。
「ス、スバル……そんなに笑っちゃダメだって……!」
「こ、こなたも……そのくらいにしときなさいよ……!」
 しかも、彼女達だけでなくフォワード陣が全員集合状態――傍らからスバルとこなたをたしなめるティアナとかがみだが、二人の肩もプルプルと震えている。説得力がないにも程がある。
「だ、大丈夫ですか……?」
「立てますか?」
「あ、あぁ……」
 そんな中、マスターコンボイを助けに動いたのはエリオとみなみだ。二人から差し伸べられた手を取り、答えるマスターコンボイだったが――それでも立てない。二人の手を引いて腰を浮かせた瞬間、再び足を滑らせてしりもちをついてしまう。
『あははははっ!』
「笑うな貴様らーっ!」
 そして同時に上がる笑い声――とうとうこらえきれなくなったティアナやかがみまで笑い声を上げるのに対し、マスターコンボイはとうとう怒りの声を上げた。
「オレが滑れないのがそんなにおかしいか、あぁっ!?」
「お、おかしいのはそっちじゃなくて……!」
「さっきの転び方……お笑い番組のコントそのままじゃない……!」
 凄みをきかせるマスターコンボイだが、エリオやみなみに両側から支えられ――否、引っ張り上げられたその姿ではむしろ笑いの種にしかならない。一度大声で笑って少しは落ち着いたものの、答えるティアナもかがみも再びこみ上げてきた笑いをこらえようと必死である。
「き、さ、ま、ら……!」
 だが、そんな二人の態度はマスターコンボイの怒りのボルテージをますます引き上げた。エリオ達の手を払いのけると乱暴に両足のローラーブレードを脱ぎ捨て、ティアナに向けて投げつける。
 とっさにそれを受け止めるティアナをビシッ!と指さし、言い放つ。
「そこまで笑うからには、貴様らはすべれるんだろうな!?
 オレを笑えるほどのその実力、見せてもらおうか!
 あ、ナカジマ姉妹と泉こなたは却下! できるのはわかりきってるんだからな!」
 一気にまくし立てるマスターコンボイに対し、ティアナはしばしポカンと呆け――尋ねた。
「…………いいの?」

 

挑戦者1.ティアナ&かがみ

「悪いけど、あたしもけっこう得意なのよねー。
 休日とか、たまにスバルと一緒にストリートでやってたりするし」
「まぁ、あたしも積極的ってワケじゃないけど、ね!」
 というワケで楽勝。
 

挑戦者2.エリオ、みゆき&みなみ

「よっ、ほっ、と……っ」
「最初は、けっこう戸惑いましたけど……」
「慣れれば、けっこういけますね……」
 とりあえずはそこそこのレベル。
 

挑戦者3.キャロ、つかさ&ひより

「わっ、わわ、ぅわぁっ!?」
「な、なんか、恐いけど……」
「とりあえず……バランスを取るくらいなら……」
 多分に見ていられないものがあるものの、立つくらいなら可能。

 

 そんなワケで――
「ま、負けた……」
 はからずもこの場の誰よりもヘタクソであることが証明され、その場に崩れ落ちるのはけしかけた張本人のマスターコンボイである。
「なんだかんだでアクティブなキャロ・ル・ルシエはまぁいい。姉の才覚を考えれば柊つかさもまぁ許そう……!
 だが……だが…………
 ………………ヒキコモリに負けた……!」
「ちょっと待ったぁっ!
 誰がヒキコモリっスか!? 誰がっ!?」
 本気で悔しがるマスターコンボイ――その屈辱の矢面に立たされ、ひよりは思わずツッコミの声を上げていた。
 

「――――――っ!」
 気づき、とっさに身をひるがえしたノーヴェの鼻先を、巻き起こった炎の渦が駆け抜けていく。
「くそ――っ!」
 舌打ちまじりに、ブレイクコンボイとなった自分の放った魔力弾が目標がいた“であろう”空間を貫く――すでにそこに目標の姿はなく、ノーヴェの一撃は虚しくその先の地面を吹き飛ばす。
「またか…………っ!」
「全員固まれ!
 ヘタにすき間を作ると、あっという間にすべり込まれるぞ!」
「ラジャっス!」
「了解!」
「うん!」
 ノーヴェに告げるセインの言葉にウェンディやディード、ホクトがうなずき、一同は一ヶ所に集結。襲撃者を警戒しつつその姿を探す。
 しばし、呼吸すらも困難なほどの沈黙がその場を支配し――
「――――いたっス!」
 気づいたのはウェンディだった。視界のすみを駆け抜けた青色の機体に向け、エリアルスライダーのライフルを最大速力で連射、弾幕を展開する。
 しかし――目標には当たらない。自分よりも体躯で勝っている相手のはずなのに、まるでアリを相手にしている恐竜のようにその姿を捉えることができない。
 そのまま、“敵”は成す術のないウェンディの眼前に飛び込んで――
「だぁぁぁぁぁっ!」
 ウェンディに向けて拳を繰り出そうとしていた“敵”に対し、セインがデプスダイバー専用の薙刀“ディープグレイヴ”を振り下ろした。目の前のウェンディに集中している“敵”を一撃が捉える――と思われたが、
「え――――――?」
 刃の駆け抜けた先から、“敵”の姿は霞のように消えていた。呆然と声を上げた次の瞬間、紙一重で一撃をかわし、視界の外にすべり込んでいた“敵”が一撃を放った。腹部にヒジを打ち込まれたセインはデプスダイバーもろとも沈黙する。
「セイン姉!
 このぉっ!」
 目の前で姉を撃墜され、ウェンディがエリアルライフルの銃口を向け――“敵”は左手でエリアルライフルの銃口付近をつかみ、右手でその中ほどに掌底を叩き込む。
 自分と“敵”の手によって両端を支えられたエリアルライフルは、その一撃で真ん中からへし折られた。一瞬の躊躇ちゅうちょの後、ウェンディがそれを投げ捨てて――その“一瞬”が致命傷だった。“敵”はすでに自分の背後。エリアルスライダーの後頭部を両手でつかみ、背骨にあたるメインフレームに渾身のヒザ蹴りを叩き込む!
 強烈な衝撃が背骨メインフレームを叩き折り、エリアルスライダーがその機能を停止する――
「はぁぁぁぁぁっ!」
「やぁぁぁぁぁっ!」
 しかし、その瞬間にはすでにディードとホクトが仕掛けていた。
 ウルフスラッシャーのテールブレイドとホクトのニーズヘグが最大速力で振り抜かれ――ダメだ。“敵”が両足から抜き放った二振りの剣が、二人の斬撃を受け止める。
 そのまま、“敵”は二人を押し返し――
「もらった!」
 今のが防がれるのは織り込み済みだった。二人を押し返すために動きを止めた“敵”を、ノーヴェが思い切り殴り飛ばす!
「まだまだぁっ!」
 反撃は許さない。このまま決める――間髪入れずにノーヴェは“敵”の後を追った。左方に跳んだ相手の動きを冷静に見極め、逃がすことなくその機体に回し蹴りを叩き込む。
 衝撃をまともにくらい、“敵”は勢いよく蹴り飛ばされて――

 ――飛ばされた先で、ホクトのギルティコンボイを一刀のもとに斬り捨てていた。

「え………………?」
 一瞬、何が起こったかわからなかった――が、ノーヴェは気づいた。
 自分が“敵”を蹴り飛ばした、その軌道上にたまたまホクトが居合わせてしまった――いや、違う。
(アイツ…………ホクトに攻撃を仕掛けるために、“そういう蹴られ方をした”んだ……!)
 自分の位置とノーヴェの位置。そしてノーヴェの蹴りで自分に加えられるであろう力のベクトルとその大きさ――そのすべてを計算に入れ、“敵”はわざと自分に蹴り飛ばされたのだ。こちらの蹴りを移動、さらには加速に利用し、一瞬にしてホクトとの間合いを詰めたのだ。
 それに、自分の蹴りがヒットした、その事実も大きい――こちらの攻撃が入ったことで、ホクトの心に気のゆるみが発生しなかったとは考えられない。絶対に油断していたはずだ。そんな彼女が“敵”の攻撃をしのげるはずもなく――結果は見ての通り。
 これで残るは――
「あっという間に……私達だけですか」
「まったく、イヤになるよなぁ……」
 つぶやくディードに答え、ノーヴェは目の前の青色の機体をにらみつけた。
 日の光に照らされ、鮮やかな青色に輝いているはずのそのカラーリングも、こうして対峙している自分達には死神を連想させる漆黒にしか見えない――イメージってすごいなー、などと半ば現実逃避しつつ、ノーヴェは“今回”の流れを思い返す。
 こちらの戦力は、戦闘開始時点でホクト、ノーヴェ、セイン、ウェンディ、ディード、ガスケット、ゆたか&マックスキング、そしてルーテシアと彼女の召喚虫一同というフルメンバーだった。
 が、戦闘開始早々、いつものように突出したガスケットが瞬殺。次いで砲狙撃でブリッジを破壊されたゆたか&マックスキングが脱落した。
 さらに、後方に下がってガリュー以下召喚虫を指揮していたルーテシアが叩かれた。後方に下げたことで単独行動になってしまったスキをつかれたのだ。
 フォーメーションを組む間もなく、瞬く間に3組が脱落――ようやくフォーメーションを組んでもセイン、ウェンディ、ホクトが叩かれて現在に至る。
「とはいえ今はここからのこと、だな……
 この状況から挽回しようと思ったら……」
「ですね」
 考えていることは同じだったようだ。つぶやくノーヴェの言葉に、ディードも静かにうなずいてみせた。

「ブレイクコンボイ!」
「ウルフスラッシャー!」

『爆裂武装!』

 ノーヴェとディードが咆哮し、ブレイクコンボイがホバリングで大地を疾走。ウルフスラッシャーもそれを追って加速していく。
 そして、ウルフスラッシャーがビークルモード、スラッシュウルフへと変形。大きく跳躍して距離を詰めると、ブレイクコンボイの肩を足場に頭上高く跳躍する。
 そのまま、空中でスラッシュウルフが変形――四肢をたたみ、分離したテールブレイドを口腔内に接続。後ろ半身が左右に別れ、その間にブレイクコンボイの右腕が差し込まれ、固定される。
 機体そのものを武器に変えたスラッシュウルフをブレイクコンボイがかまえ、ノーヴェとディードが名乗りを上げる。
『ブレイクコンボイ、ウルフェンセイバーモード!』
 そして、高らかに名乗りを上げ、爆裂武装を果たしたノーヴェとディードは“敵”へと襲いかかり――

 

 その次の瞬間、相手の位置を見失った二人はわずか一太刀で真っ二つに両断されていた。

 

 

「でぁあぁぁぁぁぁっ!」
「………………っ!」
 一方は大声で、もう一方は無言で――まったく同時に、ノーヴェとディードはその場に身を起こした。
 同時――自分達が“現実”に戻ってきたのだと理解した。ノーヴェの悲鳴がピタリと止み、二人はこれまた同時に息をつく。
 現在位置はマックスフリゲートの仮眠室。そして周りにはすでに目を覚ましていたウェンディやセイン達――しかし、別に彼女達は眠っていたワケではない。
 いや、“身体は”眠っていたのだが――彼女達が今行っていたのは、全員の意識を身体から切り離し、互いにリンクさせての、仮想空間での模擬戦。言ってみれば“多人数が参加できるイメージトレーニング”である。
 これでもいろんな勢力(管理局含む)の目をかいくぐって潜伏しながら移動している身の上なのだ。生身での模擬戦訓練程度であればまだしも、トランステクター等を使っての機動戦を想定した模擬戦となると現実に行うのはなかなかに難しい。増してやマックスキングの投入などもっての他だ。
 そんなワケでこのイメージトレーニングだ。専用のシミュレータを使い、仮想空間内で限りなく現実に近い状態で模擬戦を行う――限りなく現実に近く、しかし現実ではないからこそ、先の戦闘のように完全撃墜も可能になる。参加している身としてはある意味で現実に行う模擬戦よりもリアルに実戦を想定できる。
 そして、参加者達は撃墜された、すなわち仮想空間内で“死亡”した者から順次目覚めていく。つまり――
「…………ふぁあ〜あ……」
《…………システム切り替え完了、と……》
 最後まで爆睡してくれたこの二人が最終勝者、ということになる。気だるそうに身を起こしたジュンイチが大きく伸びをして、マグナも通常モードにシステムを切り替えて現実に帰ってくる。
「くっそー、また負けたーっ!」
「はっはっはっ、まだまだ甘いぜ」
 本気で悔しいのだろう。声を上げるノーヴェに、ジュンイチはカラカラと笑いながらそう答える。
「ホント、シャレになってないっスよねー。
 こっちはフル装備のトランステクターで出力設定はハイパーゴッドオン想定の全員参加。対するジュンイチはマグナのサポート付きとはいえ実質マグナブレイカー1機だけ。しかも出力は通常ゴッドオンと同等に想定。
 いったいどんだけのハンデがついてるんスか……」
「しかたねぇだろ。
 そんぐらいハンデつけなきゃ、お前らの修行にはなってもオレの修行にならない――オレだって自分の修業がしたいんだよ」
 こちらは悔しいと言うより現状に対し呆れるしかない、といったところか。ため息をつくウェンディには肩をすくめて応じる。
「とりあえず……現実の問題として、お前らはハイパーゴッドオンができてオレはできない。能力値的にはお前らの方が文句なしに上回ってるんだぜ。
 それをひっくり返されてるのは技術面、戦術面での圧倒的不利が原因で――だから、こうしてひたすら模擬戦やって、その辺りの不足をフォローしようとしてるんじゃねぇか。
 経験差、最大で10年――この差が簡単に埋まるとは、思わないこった」
「むー…………」
 ジュンイチの言いたいことはわかるが、それでも“今”力不足を痛感させられることには変わらない。
 ジュンイチの言葉にウェンディは唇を尖らせて――
「でも……本当に私達は実力を伸ばしているのでしょうか?」
 そう口を開いたのはディードだった。
「正直……伸びているのだとしても、あぁも負け続きではどのくらい伸びているのか、正直判断がつかないのですが……」
「あぁ、そこは大丈夫だ。
 確かに結果だけならオレの楽勝に見えるんだろうけど……これでもけっこう内心ヒヤヒヤすることも最近じゃ多くなってきた。
 作戦的にも『あー、そう来るか』って思わされるのがたまにあるし……安心しろ。みんな着実に伸びてきてるよ」
 そう説明すると、ジュンイチは軽く息をつき、
「……とまぁ、口で言ったところで実感が伴わないんじゃ意味はないよな?
 じゃあ、せっかくお前らも伸びてきてることだし、そろそろ……」

“お前ら専用の新デバイス”への切り替えの時期かな……?」

『………………新デバイス!?』
 果たしてどういう偶然か、それはかつて、六課の新人ズがなのはから言われたセリフの焼き直し――ジュンイチのその言葉に、ノーヴェ達は思わず驚きの声を上げていた。
 

「あー……うー……」
「ふみゅう〜……」
「あー、もう、二人そろって……」
 自分のとなりには、そろってデスクに突っ伏しているスバルとこなたの姿――作業の手を止め、ティアナはため息まじりにつぶやいた。
「六課に合流して日が浅いこなたはともかく、スバルにとってはいつもの報告書でしょうが。
 ちゃんとやっとかないと、また溜め込むわよ」
「ティアぁ〜、助けてぇ〜……」
「って、言ってるそばからこっちを頼るな!」
 そんなだからあちこちでKYだ何だと言われていることを彼女はわかっているのだろうか――こっちの言い分もスルーして迷わず頼ってくるスバルに対し、ティアナはすかさずツッコミを入れ、
「私はまだ『日が浅い』んだからいいでしょ?
 ねーねー、ティアにゃん、手伝ってよぉ」
「こなたもそーゆートコでスバルを見習わないっ!
 それと『ティアにゃん』ゆーなぁっ!」
 便乗してくるこなたに対してもツッコミに余念がない。力いっぱい言い返し、大きく肩を落とす。
「あー、もう、かがみ、早く戻ってきて……!」
 最近仲のいい戦友のことを思ってうめくが、その戦友は妹の報告書の手伝いで手一杯のはず――もうひとり、“戦力”になりそうな相手にチラリと視線を向けるが、その“戦力”改めマスターコンボイはそ知らぬ顔で自分の報告書に取りかかっている。
 報告書的にもツッコミの人手的にも孤立無援の現状を嘆き、ティアナは思わず天井を仰ぎ――
「相変わらず大変そうだね、ティアナ」
「ホントですよ……」
 かけられた声に答えてため息をつき――ティアナは「ん?」と眉をひそめた。
 顔を上げると、スバルやこなたも目を丸くしたまま動きを止めている。
 どうやら聞き間違いではなさそうだ。振り向き、スバル達と共に声を上げる。
『なのはさん!?』
「何――――?」
「うん。
 みんな……ただいま」
 スバル達の声に、マスターコンボイも反応してこちらを振り向く――それぞれに驚いている面々に対し、なのはは笑顔でうなずいてみせる。
 と――
「なのは!
 もう退院したのか!?」
「うん。
 ヴィータちゃんも、私がいない間の隊長代行、お疲れさま」
 気づいたのはスバル達だけではなかった。声を上げ、駆けてくるヴィータに、なのはもスバル達と同様に笑顔を返す。
「そっか……もう大丈夫なんだな」
「うん。
 もうヴィータちゃん達ばっかりにキツイ思いはさせない……か……ら……」
 言いながら、自分のデスクに視線を向けたなのはの言葉が勢いを失い、霧散する――そんな彼女の様子に、マスターコンボイは「まぁ、それも仕方のない話か」とため息をつく。
 何しろ――なのはのデスクは現在、隊長である彼女の決済を待つ書類の山によって完全に埋没しているのだから。
「………………ヴィータちゃん。
 あれは……何かな?」
「お前の決済待ちの書類」
「副隊長のヴィータちゃんの代印で……」
「けっこう上までいくヤツで、代印が利かないんだよ」
「だいぶ電子化進んでるよね? 六課ウチも」
「その上であの量だ」
 そこで会話が止まる――数秒の後、クルリときびすを返したなのはが軽く息をつき、
「さて。
 まだ何か後遺症が残ってるかもしれないし、念のため検査してもらいに――」
「ビクトリーレオ」
「はいよ」
 間髪入れずにヴィータが号令――ぐわしっ、とビクトリーレオが頭をつかみ、なのははあっさりと逃亡を阻まれた。
「さーて、なのはが復帰して、ようやく書類が片付くなー。
 ほら、キリキリやんぞー」
「あ、あの、ヴィータちゃん!?
 私、病み上がりなんだけど!?」
「大丈夫だ。
 スバル達の訓練ならあたしが代わってやるから、ゆっくり身体を休めながら書類を片づけられるぞ」
「い、いや、それちっとも休められないからぁぁぁぁぁっ!」
 そのままビクトリーレオからなのはを受け取り、ヴィータがデスクへと引きずっていく――身長で圧倒的に負けているはずのヴィータの方が大きく見える気がするが、それだけなのはが萎縮いしゅくしているということだろう。これが漫画なら、きっと今のなのはは3頭身くらいにディフォルメされて描かれているに違いない。
「………………さすがの仕事中毒ワーカホリックも、あの量はイヤか……」
 そんななのはの姿にため息つき、マスターコンボイはデスクに戻り、自分の書類仕事を再開するのだった。
 

「これが……」
「あたし達の、新しいデバイス……!?」
「あぁ」
 目の前には、メンテナンスケースに納められた、色も形も様々な宝石群――つぶやくディードやノーヴェに対し、ジュンイチはあっさりとうなずいた。
「それが、お前らのデバイス――“最後の切り札ラストカード”だ」
「最後の……切り札……?」
 聞き返すセインにうなずき、説明を続ける。
「オレの“蜃気楼”を初号機とするデバイスシリーズ――それが“最後の切り札ラストカード”。
 名前の意味はそのままと思っておいてくれてかまわないよ――それだけのシロモノに仕上げたって自負はあるからね」
「ふーん……」
 ジュンイチの言葉に、ホクトは興味深げにケースの中をのぞき込む――その一方で、セインはふと気づいた。顔を上げ、ジュンイチに尋ねる。
「なぁ。
 これ、6基あるけど、ひょっとして……」
「あぁ。
 お前らナンバーズ4人だけじゃない。ルーテシアやホクトの分もある。
 まぁ、二人のは今まで使ってたアスクレピオスやニーズヘグの強化バージョンとして仕上げたんだけどな。元々デバイスとしてかなりの出来だったから」
 ジュンイチがそう説明すると、今度はルーテシアから質問の声が上がる。
「それで……この子達の名前は……?」
「まだないよ」
 あっさりとジュンイチは答えた。
「そもそも、考えてすらいない。
 お前らに、自分で考えてもらおうと思ってたからな」
 言いながら、ジュンイチはケースを開くと青紫色の宝石を取り出し、ルーテシアに手渡した。どうやらそれがルーテシアのものらしい。
「コイツらはまだ完全に仕上がったワケじゃない――お前らに実際に使ってもらって、実動データも込みで最終調整しなくちゃならないからな。
 その過程で、コイツらのことを知って、理解して……その上で、名づけてやってくれ」
 ジュンイチの言葉に、ルーテシアは改めて手の中の宝石に視線を落とす――そんな彼女から視線を上げて、ジュンイチは先ほどから黙り込んでいる人物へと尋ねた。
「で…………ウェンディ。お前さんは何をさっきから黙り込んでるんだ?」
「あー、えっと……」
 そう。先ほどからウェンディは宝石群をじっと見つめたまま黙り込んでいる――ジュンイチの問いに、どこかバツが悪そうに答える。
「前に……あたし、ジュンイチの作った試作、ブッ壊してるじゃないっスか……」
「あー………………」
 そういえばそんなこともあったか――その時のことを思い出しつつ、ジュンイチはウェンディが黙り込んでいた理由に気づいた。
 要するに、また壊しはしないかと不安なのだろう――苦笑し、ウェンディに答える。
「いーよいーよ。
 あの時の教訓はちゃんと活かした作りにしてるし……むしろそういう“壊し方”なら大歓迎。遠慮しないでどんどんぶっ壊せ」
「ど、どんどん、って……」
「当然だよ。
 お前らにはその“権利”があるんだからな」
 まさか「むしろ壊せ」と言われるとは思わなかった。苦笑するウェンディに対し、ジュンイチは笑いながら肩をすくめてみせる。
「だってさ……元々“お前らが全力で戦えるように”ってのを目標に作ってんだぜ、コレ。
 だから、お前らの全力についていけないんじゃ意味がない――もしそれで壊れても、悪いのは“壊れるような使い方をしたお前ら”じゃなくて、“どんな使い方をされても壊れないように作れなかったオレ”なんだよ」
「そーゆーもんか?」
「そーゆーもんだ」
 思わず口をはさんでくるセインに答え、苦笑し――と、そんなジュンイチの笑顔がその在り方を変えた。鋭い視線をメンテナンスケースに戻し、
「で……お前らにコイツらを託すワケなんだけど……
 ただ……コイツらを手にする上で、ひとつだけ、言っておくことがある」
『………………?』
 突然マジメな口調でそう切り出したジュンイチに対し、一同の視線が集まる――全員の意識が自分に向いたことを確認した上で、ジュンイチはその事実を口にした。
「今この段階で渡すのは、お前達がコイツらに慣れるための慣熟訓練と、さっき話した、お前達に合わせての最終調整を行うためだってこと。
 実戦に投入できる段階にはまだ達してない――当然、そんなものを実戦で使わせるワケにはいかないから、起動システムにはオレの方でロックをかけさせてもらった。
 他のみんなにも解除パスワードは教えてないから、事実上オレの許可がないと起動すらできないってことを覚えておいてほしい」
「えー?
 せっかくもらったんスから、バリバリ使っていきたいっスよー」
「気持ちはわかるが、不完全なまま使わせるのは製作者として容認できないんだよ」
 口を尖らせるウェンディをたしなめ、ジュンイチは彼女の頭をなでてやり、
「心配するな。
 必要だと判断したらちゃんとロック解除してやっから、普段はおとなしくガマンしろ」
「…………うん……」
 ジュンイチに頭をなでられ、ウェンディはとりあえず納得する――まだ口を尖らせているのはまだ未練が残っているのか、それとも子ども扱いが不服なのか。
 とりあえず両方なんだろーなー、などと漠然と考えつつ、ノーヴェは「わたしもなでてーっ!」とジュンイチに飛びつくホクトを無視してメンテナンスケースへと視線を向けた。
「ジュンイチの作った……あたし達の力、か……」
 彼女は知っている。
 ジュンイチが、自分達を危機に陥れたクアットロに見せた本気の怒りを。
 ジュンイチが、自分達が傷つくことを心から恐れていることを。
 そして――そんなジュンイチが、自分達に力を与える、その意味を。
(あたし達の身を……守るためか……)
 ジュンイチ自身が守るだけじゃなく、自分達にも自らを守るための力を与える――自分達を守るために、一体この男はどれほどの手を打っているというのか。
「あたし達のための……力、か……」
 しかし、目の前でバカ騒ぎを繰り広げる男はそんなそぶりを微塵も見せない――もう一度声に出してつぶやき、ノーヴェはバカ騒ぎを鎮めるべく拳を振り上げるのだった。
 

「うーん……」
「何なんでしょうね? コレ……」
「………………?」
 フェイトとイクトが、額をつき合わせて話しているシャリオ、ルキノ、アルト――“ロングアーチ三人娘”の姿に気づいたのは、はやての姿を探してノイエ・アースラのブリッジを訪れた時のことだった。
 残念ながらはやては不在。次の場所を探そうときびすを返したところだったが――フェイトはそれがなんとなく気になった。
 それは執務官志望の身としての直感か、あるいは同じ女の子としてのウワサ好きの本能が働いたのか――ともあれ3人の輪の中に加わろうと声をかける。
「どうしたの?」
「あぁ、フェイトさん……」
「実は、ネットの掲示板の方にちょっと気になるものが……」
「ネット……ネットワークか?」
「はい」
 声をかけるフェイトに応えるのはアルトとルキノだ。聞き返すイクトにうなずくと、シャリオがウィンドを展開し、
「たとえば……この書き込みです。
 これと同じような書き込みが、あちこちのアングラサイトの掲示板に書き込まれているんです」
 言って、シャリオが見せたのはネット上のとある掲示板の書き込みだ。
 そこに記されているのは、数字と記号の羅列だ。書き込みごとにその数字は違うが、「X…………/Y…………/…………」の形で統一されている。
「これは……?」
「座標……だな」
 つぶやくフェイトに答え、イクトは書き込みのひとつを指さし、
「“/”を境に、前の羅列がX、二つめがYで始まっている。おそらくはX座標とY座標のことだろう。
 桁も、ミッドチルダで使用されている座標表記の様式と一致するしな」
「じゃあ、三つ目のデータは……?
 全部数字ですけど……」
「日付……いや、最初が“75”で統一されている。おそらくは年月日だ。“新暦75年”の“75”だろう。
 だとすると、まだ先の日付のようだが……」
 聞き返すルキノにイクトが答えると、フェイトが他の書き込みも確認し、
「どの書き込みも、すべて同じ日付を示してる……
 この日付に、この場所で何かあるってことかな?」
「犯行予告か、何らかの予言か……ということか」
「そうですね……
 眉唾物ではあるんですけど……実際、そういう風に考えたサイトの利用者で、ここを始めとして情報が書き込まれた掲示板はちょっとしたお祭り騒ぎですよ」
 確認するイクトにフェイトがうなずき、シャリオが同意する――改めてウィンドウに視線を戻し、イクトは書き込みの内容を確認する。
 この書き込みの場合、場所はミッドチルダの南部の小都市。日付は他の書き込みのものと同じ――
「…………3日後、か……」
 

《例の件、どうなっておる?》
《あの娘、いつになったら手に入るのだ?》
《よもや忘れてはおるまいな?》
「ご心配には及びません。
 我が策、準備は着々と進行しております」
 漆黒の空間の中、浮かび上がる三つのウィンドウ――相変わらず姿を見せず、声だけで告げる彼らに、ザインは恭しく一礼しながらそう答えた。
「すでに策に必要な“火種”はあらかたまき終えております。
 もうしばらくすれば、すべての準備は整いましょう」
《忘れておらぬのならよい》
 告げるザインの言葉に、真ん中のウィンドウから満足げな声が返ってきた。
《あの娘の能力を解析できれば、我らの力はさらに充実しよう》
《この機会を逃せば、“次”はいつになるかわからん》
《手段は問わぬ。
 手に入れるのだ、あの力を》
「御意に」
 3人の言葉にザインがうなずき――通信が切られた。室内が再び明るさを取り戻す。
「……言われなくても手に入れますよ」
 そんな室内で、ザインは静かにつぶやく――
「この私の、野望のためにね……」
 その口元に、この上なく邪悪に笑みをたたえたまま。
 

「………………」
 深夜、ノイエ・アースラの展望室――窓一面に広がる星空を、マスターコンボイはたったひとりで見上げていた。
 と――――
「マスターコンボイさん」
「ん………………?」
 声をかけられ、振り向くと、そこにはなのはがひとりで佇んでいた。
「なのは…………?」
 一体何の用だろうか。突然姿を見せた彼女の目的は気になったが――それよりもさらに気になることがひとつ。
「……あの書類の山は片づいたのか?」
「思い出させないでください……
 明日も全力全開でがんばらなきゃいけないんです。せめて今だけは……!」
 どうやら片づいていないらしい。
「それで? 何の用だ?」
「あぁ、そうでしたね」
 気を取り直して本題に入るマスターコンボイに、なのはも“こちら側”に帰ってきた。コホンッ、とせき払いして、マスターコンボイに告げる。
「実は、マスターコンボイさんに、お礼が言いたくて……」
「お礼……だと?」
「はい♪」
 思わず聞き返すマスターコンボイに答え、なのははペコリと一礼し、
「ありがとうございます。
 私のいない間、スバル達を守ってくれて……」
「フンッ、何を寝ぼけたことを。
 オレは別にアイツらを守ってなどいない」
「そんなことないですよ。
 スバル達があぁして笑顔でいられるのは、マスターコンボイさんがいるからなんですから」
「………………フンッ」
 なのはの言葉に、マスターコンボイは鼻を鳴らしてそっぽを向く――しかし、そんな彼の態度に、なのははどこか違和感を感じていた。
 一見すると礼を言われて照れているような態度だが、いつもの彼の“照れ”とはどこか違う。
 そう。この感じは“照れ”というよりも――
「マスターコンボイさん……
 何か……ありました?」
「………………?」
「なんていうか……すごく、張り詰めてる感じがします」
「気のせいだ」
 あっさりとマスターコンボイは言い放つ――こうなったマスターコンボイはきっと何を聞いても答えてはくれないだろう。「興が削がれた。帰る」とその場を後にする彼を、なのははただ見送るしかなかった。
 

「『張り詰めている』……か……」
 なのはと別れ――否、あの場にいづらくなって立ち去って、マスターコンボイはノイエ・アースラの廊下で独りなのはの言葉を反芻していた。
「確かに……その通りかもしれんな……」
 あの時告げられた言葉はおそらく真実だろう。
 確かに、自分はこのところ気を張っていたように思う――何をしていても集中できず、いつもの調子が出せずにいるのが自分でもハッキリとわかる。
 その原因はもちろん――
(“アレ”だろうな……)
 というか“アレ”しか思い当たらない――ため息をつき、マスターコンボイは先日、ミッドチルダ・サイバトロンシティを訪れた時のことを思い返していた。
 

「…………『このままでは死ぬ』か……
 あまりいい状態ではないとは思っていたが、そこまでとはな」
「セリフと感情が合致していないぞ。
 死ぬと言われたくせに動揺ひとつしないか」
「予測される結果のひとつとして、頭には入れていたからな」
 死亡宣告を受けたと言うのにあっさりとした態度のマスターコンボイに、ザラックコンボイは思わずため息をつく――これまたあっさりと返すと、マスターコンボイは詳しい説明を促した。
「それで?
 何がどうなって、オレが死ぬ、ということになっているんだ?」
「一言で言うなら……原因は今の貴様の存在そのものだ。
 わかりやすく言うと……“トランステクターにスパークの宿ったトランスフォーマー”という状態が、根本の原因と言えるだろう」
 そう告げると、ザラックコンボイはマスターコンボイの目の前にウィンドウを展開した。
 ウィンドウは二つ。ひとつにはマスターコンボイが提供した、スバルとのハイパーゴッドオン中の、そしてもうひとつには、先の診断で測定した今の自分のデータがそれぞれ表示されている。
「すでに、お前という存在が宿っているところに、その身体の本来の主であるスバルがゴッドオンする――それが、今のお前の身体の現状だ。
 元々、ひとつしか意識が入らないトランステクターに、お前らは二人分入ってるんだ。ゴッドマスター自身やトランステクター自体はともかく、貴様のスパークにはゴッドオン中、かなりの負担がかかっているはずだ――違うか?」
 マスターコンボイからの答えはない――それを肯定と受け取り、ザラックコンボイは続ける。
「今まではそれでもよかった。
 通常のゴッドオンでかかる程度の負荷ならば、自然回復で十分にフォローできていた。
 だが……」
「ハイパーゴッドオンによってかかる負担は、自然回復で補える限界を越えていた……」
「そういうことだ」
 こちらの言いたいことを理解し、つぶやくマスターコンボイに、ザラックコンボイもまたうなずいてみせる。
「スバルとのハイパーゴッドオンを繰り返すようになって、貴様の負担は一気に増大した――それが、ここ最近の貴様の不調の原因だ。
 早いところ、何らかの対策をとらなければ、いずれ貴様は……」
「そこまで聞けば十分だ」
 そこから先は聞かずともわかる――ザラックコンボイの言葉をさえぎり、マスターコンボイはあっさりとそう告げた。
「心配しなくても、その辺りは考えているさ」
「なら、いいんだがな……」
 

(…………そう……考えているさ……
 そして、結論も出ている……)
 自分の決意は、あの時とまったく変わっていない――強い意志に支えられ、マスターコンボイは足を止めた。
 自分の部屋の前にたどり着いたからだ――ドアを開け、中に足を踏み入れる。
(たとえどれだけ負担だろうが……オレにはハイパーゴッドオンしかない。
 スバルとのハイパーゴッドオンをモノにしたからこそ、オレは今、こうして戦える……)
 なのはの「スバル達を守ってくれた」という言葉を否定したのはまぎれもない彼の本音だ。
 スバル達がいるが、自分は今ここにいられる――自分がスバル達を守ってきたワケではない。自分をスバル達が守ってきた。それがマスターコンボイの認識だ。
「アイツらが、オレを“今”につなげてくれた……
 今度は、オレがその借りを返す番だ」
 決意を言葉にして、より深く自分の胸に刻んでいく――照明もつけず、暗闇に沈んだ自室の中で、マスターコンボイは自分の胸元で強く右の拳を握りしめた。
 まるで、自分の心臓スパークそのものを握りしめるかのように。
「今度はオレが、スバル達の“今”を“明日”につなげる。
 そのために必要なら、何度だってこの力を使ってやる――」

 

 

 

「あのひよっこどもが、オレの助けなど必要としなくなるまではな……」

 

 

 

 決して、彼女達に知られてはならない。

 

 それ以前に、彼女達が知る必要はない。

 

 すべてが“終わる”その時が来たとしても――

 

 

 

 

 

 

 彼女達の前から、姿を消しておけばいいのだから――


次回予告
 
なのは 「うぅ…………っ!
 地上本部で撃墜されて以来、病院のベッドでひたすら病欠状態をネタにされる日々……
 それがせっかく復帰したと思ったらこれ? どうすればいいの?
 本当に……こんな私に、誰がしたぁぁぁぁぁっ!?」
   

 

 

 

 

作者 「あぁ、オレだよ、オレ。
 いやはや、申し訳ない」
   
なのは 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜
 第98話『落ちる星〜動き出す災厄〜』に――
 ハイパー、ゴッド、オン!」

 

(初版:2010/02/06)