《ザインよ、どういうことだ!?》
《デブリを地上に落とすとは、気でも違ったか!?》
 目の前には、自分の“主”からの通信を示す三つのウィンドウ――左右のそれから上がった叱責の声を、ザインは気を悪くすることもなく聞き流していた。
《しかも、機動六課を丸ごと、など……
 ザインよ。欲をかくとロクなことはないぞ》
「別に、欲張っているワケではありませんよ」
 中央のウィンドウからの声に、ようやくザインは口を開いた。ただ平然とそう告げる。
「あの小娘――ティアナ・ランスターを直接要求すれば、こちらの狙いが相手に知られてしまいます。
 “木を隠すなら森の中”……木を手に入れるために森を、というワケです」
《しかし、そのための手段にしては、貴様の手口は乱暴ではないか?》
「彼らを甘く見てはなりません。
 あなた方の手出しが許されない以上、このくらいでなければ、あの連中の反撃を封じられはしませんよ」
 そう答え、ザインは三つのウィンドウを見渡し、
「ご心配なく。
 この作戦により、状況はすでに我らの掌握下にあります。
 たとえどのような結果になったとしても、あなた方には何の損害もありません」
《それは……デブリを落下させることとなっても、その責をすべて負うという意味でいいのだな?》
「むしろ、その責こそ我らにとって必要なもの。
 世界から憎まれることは、それらの感情を糧とする我らにとってはむしろ有益。
 それに……うまくすれば、我らにとっての目の上のこぶを排除することも」
 左側のウィンドウからの問いに、ザインは余裕の笑みと共にそう答える。
「先ほども申しましたが……あなた方は何も心配することはありません。
 この作戦を遂行する上で、彼らの戦力もまた計算の内に入っております。
 仮にこちらのデブリをすべて落としたところで、被害が出ることはないはずです」
《どういうことだ?》
「彼らならば、デブリの雨すらも防ぐだろう、ということですよ」
 あっさりと答え――ザインは息をつき、訂正した。
「いや……“彼”なら、と言い直すべきでしょうかね。
 防ぎますよ。柾木ジュンイチが――」

 

「自らを犠牲にして、ね……」

 

 


 

第99話

三つの星
〜機動六課、最後の日!?〜

 


 

 

「ザイン達の占拠したステーションはクラナガン直南300キロ、赤道上空の衛星軌道上……」
 事態を知ると同時、すぐに状況の把握に取りかかる――ザインの拠点となっていた廃棄ステーションの位置を特定し、ジュンイチはサーチ結果を表示したウィンドウ画面を前につぶやいた。
「掌握されたデブリは……うげ、レーダー真っ赤でわかりゃしねぇ」
 次にデブリの状況を把握しようとするが――サーチ対象を切り替えた途端、あまりの反応の数にサーチ画面が真っ赤に埋め尽くされた。実態の把握をあきらめ、ジュンイチはウィンドウを閉じてため息をつく。
「そんなにたくさんのデブリが、ザインの武器にされたっていうんですか……!」
「やってくれるね、ホント」
 正確な数の把握をあきらめたと言っても、その事実は事態の深刻さを雄弁に物語っていた。相手の“武器”のあまりの量に、ディードやセインがそれぞれに渋い顔をする。
「お姉ちゃん達、大丈夫かなぁ……?」
「うーん……」
「さすがの六課も、こればっかりはマズいっスかねー」
 一方、“姉”達の身を案じて不安そうにつぶやくのはホクトだ。事態が事態なだけに返答に困り、ノーヴェとウェンディが顔を見合わせて――
「あー、そっちは別にどーでもいーや」
 一方で、ジュンイチの反応はあっさりしたものだった。新たにウィンドウを立ち上げ、情報を集めながら淡々とそう答える。
「ど、『どうでもいい』って……」
「心配じゃないんですか? スバル達のこと……」
「何で?」
 いつもの彼からは考えられないジュンイチの淡白な反応に、思わず尋ねるイレインやすずかだが、ジュンイチは逆に、ごく平然とそう聞き返してきた。
「いや、『何で?』って……」
「むしろ、そうやって落ち着き払ってるジュンイチが『何で?』なんだけど……」
「ンなこと言われてもなぁ……」
 思わずうめくガスケットやセインの言葉に、ジュンイチは頭をかきながら、
「仕掛けられた作戦がしくじるってわかってるのに、心配しろって言う方がムリってもんだろう?」
『へ………………?』
 本当に何の疑いもなく、ザインの作戦を「失敗する」と断言したジュンイチの言葉に、一同は思わず顔を見合わせる――そんな周りの様子を一切気にかけず、ジュンイチは手元にウィンドウを展開した。
「それより……オレが気になるのはこっちかな?」
 言いながら、ジュンイチがメインモニターに転送したそのデータは――
 

「……これって……!」
「そんな……!」
 問題のデータは、六課の隊長陣も目にしていた――しかし、その内容は彼女達にとってとうてい信じがたいものだった。愕然とし、なのはとフェイトは目を見開いた。
「はやて……ウソだろう……!?」
「残念ながら……モノホンのデータや」
 信じられないのは彼女達も同じ――否定してほしいという願いと共に尋ねるヴィータだったが、はやての答えは絶望的なものだった。
「公開を阻止してくれたオーリス三佐やイリヤちゃん達のおかげで、どのデータも改ざんもされてへんのは確認済み。
 それが……今回の事件に対する正式な世論調査の結果や」
 それはミッドチルダの各テレビ局が実施した、今回の事件に対する世論調査の結果――ザインの要求した六課の引き渡しに対する意見を求めたものだった。
 しかし――
「正式な結果、って……これが!?」
 はやての言葉に、ライカは苛立ちもあらわにテーブルを叩いた。叩いた両手を強く握りしめ、うめくように告げる。
「何よ、コレ……!
 どの世論調査も、全部六課引き渡し派がほとんどじゃない!」
「私達だって認めたくないですよ……」
「ルビーやサファイアに走査してもらった結果です。
 紛れもなく、改ざんされていないオリジナルデータです」
 ライカに答えるイリヤや美遊の言葉にも力はない。世間の大半が「六課を瘴魔に差し出して手打ちにしよう」と自分達を生け贄にしようとしているのだから、それも仕方のないことかもしれないが――
「それで……地上本部の方は何と?」
「対応を協議中や」
 認めたくないものではあったが世間の意見はわかった。では局の方の意見はどうなのだろうか。尋ねるシグナムに対し、はやてはそう答えてため息をついた。
「元々が強気な気風のミッド地上本部や。『テロに屈してなるものか』って抵抗する方向で息巻いとったんやけど……そこにこの世論調査の結果や。
 おかげで徹底抗戦の結論は一時棚上げ。またどーしたもんかと話し合っとる」
「お役所仕事だなぁ……」
「まぁ、オーリス三佐の仕切りや。結論にはそう時間はかからんやろう」
 呆れるジャックプライムに答えると、はやては息をつき、
「まぁ……ここだけの話、私は抵抗する気マンマンやけどね。みんなもそうやろ?」
「当然だぜ!」
「我らは、人々を守るためにここに集ったのですから」
 問いかけるはやてに答えるのはビクトリーレオとスターセイバーだ。
 と――
「…………イクトさん?」
 ひとりだけ、黙り込んでいる人物がいた。声をかけるフェイトだが、イクトからの返事はなく――
「………………ん? どうした?」
「『どうした?』じゃないわよ。
 何静かに考え込んでるのよ?」
 いや、少し遅れて反応があった。まるで今気づいたようにフェイトに聞き返すイクトに、ライカは呆れて肩をすくめるが、
「いや……
 この世論調査の結果だが……少し、おかしくないか?」
 尋ねるイクトの言葉に、一同は思わず顔を見合わせた。
「『おかしい』……?」
「イクトさん、何か気づいたんですか?」
「『気づいた』というより……“理に合わない”といったところだな」
 聞き返すイリヤやなのはに答え、イクトはその場の全員を左から右へ順に見渡しながら、
「まず……ザインのことを知るオレ達は、当然ながら素直に投降したところでザインが約束を守る保証がないことはわかるな?
 世間も同じだ。市井の民衆もバカではあるまい――全員でなくとも、今のオレ達と同じように考える者も確かに現れるはずだ」
 言いながら、イクトは改めて世論調査のデータに視線を向け、
「しかし、世論調査の結果は引き渡し派が抵抗派を完全に抑え込んでいる……
 今言ったことを前提で考えると、世論があまりにも無抵抗すぎるとは思わないか?」
「裏がある……ってこと?」
「でも、世論調査のデータに改ざんがないことは確認済みですよ?」
《そうですよ。
 第97管理外世界最高の魔術礼装である私やサファイアちゃんのサーチを疑うつもりですか?》
「いや、そこは疑ってないさ」
 イリヤ、美遊、そしてルビーの言葉に、イクトはあっさりとそう答えた。
「おそらく、データに改ざんはないはずだ。
 というか……“改ざんの必要すらなかった”はずだ」
「えっと……どういうこと?」
 イクトの言いたいことがわからず、首をかしげながら尋ねるイリヤだったが、
「ひょっとして……」
 対し、気づいたのはフェイトだった。顔を上げ、イクトに確認する。
「イクトさん。
 ひょっとして……“細工があったのは世論調査の前”ってことですか?」
「その通りだ」
「? ? ??」
 そんなやりとりに、イリヤの周囲に「?」マークが散乱していく――頭から立ち上る湯気すら幻視できそうな様子のイリヤに、イクトはため息をついて説明してやる。
「貴様も覚えているだろう。
 瘴魔が起こしていた“もうひとつの事件”のことは」
「えっと……あちこちで街を砂漠化していた、アレ?」
「では、その時の被害者の証言の中で最も多かったのは?」
「あぁ、スバルとマスターコンボイが聞いてきてくれたヤツだよね?
 確か、『砂の中に埋まっていた間、笛の音が聞こえていた』って……」
「――――あぁっ!」
 イリヤの言葉に声を上げたのはなのはだった。以前目を通したデータの内容を思い出し、告げる。
「そうだ――セイレーンの“淫欲ラスト”!」
「あぁ。
 クロノの報告によれば、あの女の笛型デバイスには音色を聞いた者を操る能力があるらしい。
 もし、例の砂漠化事件の度に、あのデバイスが使われていたとしたら……」
「そうして用意していた手駒をサクラに、世論を誘導した……?」
 イクトの言葉に、美遊がつぶやく――「あぁ」とようやく理解したイリヤが声を上げる一方で、イクトはうなずき、世論調査のデータをにらみつけた。
「まったく、相変わらずイヤな手を使ってくれる……!
 こうも不特定多数に“仕込み”をされては手の打ちようがない。
 最悪、この世論調査のカラクリを暴露したとしても、それらの傀儡くぐつを使って何をしでかすか……」
「オレ達にしてみれば、二重の意味で人質を取られているようなもの、か……」
「………………くっ!」
 ビッグコンボイの言葉はまさに的確なたとえだった。どうすることもできない悔しさに、イクトは思わず拳を机に叩きつけた。
 

「でも……ちょっともったいないですね。
 あの“人形”、ホントならあちこちの街で騒ぎを起こさせるために用意してたのに」
「まぁ、いいでしょう。
 ただ治安を悪化させ、民衆の不安を高めるだけよりはいい仕事をしてくれました」
 軌道上の廃棄ステーション――資材がすべて運び出され、残された空箱に腰かけてつぶやくセイレーンに、ザインはあっさりとそう答えた。
「それより……セイレーン。
 皆の配備状況は?」
「あぁ、そっちは滞りなく。
 全員配置についてますよー」
「そうですか。それは何より」
 セイレーンの言葉にうなずき、ザインは眼下の地上を見下ろした。
「さぁ……こちらの準備は万端です。
 せいぜいあがいてくださいよ」
 地上にいるであろう機動六課の面々、ジュンイチ達――いや、戦いに加わっているであろうすべての勢力に向けてつぶやく。
「所詮あなた達は、私の手のひらの上で踊るしかないのですから……」
 

〈送られてきたデータを見たが……かなりマズいことになっているな。
 スパークの力が、以前こちらで診察した時よりもさらに減退している。
 たった一度ハイパーゴッドオンしただけでここまで弱るとは……〉
「………………っ」
 ウィンドウ越しに告げるのは、先日マスターコンボイを診断したというザラックコンボイだ――告げられた言葉に、スバルは唇をかみながら目の前のベッドへと視線を向けた。
 そこには、ヒューマンフォームのまま意識もなく眠り続けるマスターコンボイの姿――ロボットモードのまま倒れた彼を、消耗を避ける意味でヒューマンフォームに強制変身させ、ノイエ・アースラの医務室に運び込んだのだ。
 そして、彼の行動記録からザラックコンボイの元を訪れていたことを知り、事情を知っているんじゃないかと問い合わせ――先ほどのやりとりに至ったのである。
「マスターコンボイさんが、そんなことになってたなんて……!」
 しかし、その事実はスバルにとってショック以外の何者でもなかった。拳を握りしめ、うつむく彼女に、付き添っていたこなたやギンガも何も言えないでいる。
「そんなことも知らないで、あたしは……!
 ハイパーゴッドオンできて……マスターコンボイさんと二人で強くなって……そのことに浮かれて、マスターコンボイさんが大変なことになってることに、気づけなかった……!」
〈そう気に病むな、スバル〉
 しかし、そんなスバルに対し、ザラックコンボイは落ち着いた口調でそう答えた。
〈悪いのは、そんなことになっているのに相棒の貴様に何ひとつ相談しようとしなかったコイツだ〉
 言って、彼はウィンドウ越しに眠り続けるマスターコンボイを見下ろし、
〈確実に症状の悪化している中、いつまでも隠しきれるものじゃないことはわかっていただろうに……
 まったく、気遣う方向性が完全に間違っているんだ、コイツは……〉
「だけど……マスターコンボイさんが苦しんでるの、何度か見てたんです、あたし達……」
 告げるザラックコンボイだったが、スバルの表情は晴れない。
「なのに……マスターコンボイさんの『疲れてるだけだ』って言葉を真に受けて、疑わなくて……
 それがごまかしだとか強がりだとか、そういうのだって、ちっとも気づけなかった……!」
『〈………………〉』
 スバルの言葉に何も言えず、こなた達やザラックコンボイはそれぞれに視線を交わし――
「――スバル!」
 そんな彼女達の間に割って入ってきたのは、あわてて駆け込んできたティアナだった。
「ティア……?」
「どうしたの? ティア」
 顔を上げるスバルや尋ねるギンガに対し、ティアナは息を切らせて答えた。
「あのザインからの勧告に対して、上からの結論が来たんだけど……」
 

「ウソ、でしょ……?」
「残念ながら……事実や」
 ノイエ・アースラの艦長室、すなわち新たな六課の隊長室――思わず聞き返すなのはだったが、はやては沈痛な面持ちで、しかしハッキリと彼女の言葉を否定した。
「上の方で話し合った結果……瘴魔軍への六課の引き渡しが正式に決定したそうや」
「そんな……!?」
 それは六課がザインへの“生け贄”に差し出されたということ――はやてに明確に告げられ、フェイトはショックを受け、その場にへたり込んでしまった。
「予想はしてたけど……こうして現実になると辛いわね、やっぱり……」
「リンディ提督やクロノくん、カリム達もがんばってくれたみたいやけど……結局、止められへんかった……」
 うめくライカの言葉にはやてが答えると、
「…………すまない」
 そう謝罪を口にしたのはイクトだった。注目する一同に対して深々と頭を下げ、
「オレ達瘴魔のために、こんなことに……」
「そんな……イクトさんは悪くないじゃないですか」
「そうだよ。
 同じ瘴魔でも、イクトさんはザインとは違う――私達の仲間だよ」
 ザインと同じ瘴魔の神将として、この事態に責任を感じずにはいられないのだろう。持ち前のマジメさが完全に悪い方向にかたむいているイクトの言葉に、あずさやアリシアが反論の声を上げる。
「二人の言うとおりですよ、イクトさん。
 イクトさんが謝ることはあらへんし――仮に謝らなあかんかったとしても、それには少し早いですよ」
 そして、それははやても同じ意見だった。イクトに告げると、息をついて隊長格一同を見回し、
「私達はまだ、完全にザインの元に降ったワケやない。
 きっと、逆転のチャンスはまだどこかに残されてるはず――そのためにも、今は耐える時です」
「………………そうだな」
 その言葉に、ようやくイクトの表情が和らいだ――そんな彼に笑みを返すとはやては気を取り直して一同に指示を下した。
「ともかく、私達はこれから、ザインの指定した引渡し場所に向かう。
 このままじゃ終わらへん……アイツの策略、必ずひっくり返すよ!」
『了解っ!』
 

「ふーん……」
「どうした? クアットロ」
 その頃、スカリエッティのアジト――珍しく眉をひそめているクアットロの姿に、トーレは彼女の見ていたウィンドウへと視線を向けた。
 そこに表示されているのは、見晴らしのいい入り江の風景だ。
「この場所がどうかしたのか?」
「瘴魔の指定した、機動六課の引き渡し場所よ」
 尋ねるトーレに答え、クアットロは首をかしげながら続ける。
「向こうの首領……ザインでしたっけ? 一体何を考えているのかしら?
 こんな目立つところで六課の引渡しなんて……」
「確かに、こんな場所を選ぶ理由はどこにもないな……コソコソする理由も感じないが」
「そりゃ、トーレ姉様はそうでしょうけど……」
 誰も彼もが彼女のような堂々とした戦士というワケではないのだ。トーレの言葉に、クアットロは思わずため息をつき――

「おそらく……戦力を展開しやすくするためだろうね」

『――――――っ!?』
 突然の声は、まさに予想外の人物のもの――あわてて振り向き、トーレはそこにいた人物を前に驚きの声を上げた。
「ドクター!?
 マグマトロンの改良プランを練るためにラボにいらっしゃったのでは!?」
「まぁ、そちらはそれほど急いでいないから、かまわないよ。“聖王の器”――ヴィヴィオだっけ? 彼女も手に入っていないワケだしね。
 それに、こんな楽しそうなことになっているんだ。むしろこちらの方が今の私にとっては興味深い」
 驚くトーレに、スカリエッティはあっさりと答える――その傍らから、今度はクアットロが尋ねた。
「あの……ドクター?
 『戦力を展開しやすく』というのは、どういうことですか?
 まさか、瘴魔は最初から戦闘になることも視野に入れていると?」
「さぁ?」
 しかし、そんな彼女の疑問に対し、スカリエッティはあっさりと肩をすくめてみせた。
「詳しくは“彼女”に聞くといい。
 さっきの意見も、元をたどれば彼女の読みだしね」
「『彼女』………………?」
 スカリエッティの言葉に、トーレも眉をひそめて聞き返す。そんな彼女の前に現れたのは――
 

 一方、その問題の入り江では、すでに六課を待ち受け、サーペント、クラーケン、リュムナデスの3名が待機していた。
「…………なぁ」
 と、突然リュムナデスが口を開いた。
「ホントに、ザイン様の読みどおりの展開になるのか?
 なんか、オレにはずいぶんとご都合主義に聞こえたんだけど――」
「あぁ、オレもオレも」
 疑問を口にするリュムナデスの言葉に同意するサーペントだったが、
「さぁな」
 残るクラーケンの答えはそっけないものだった。
「オレ達の意見などどうでもいい。
 ただ、ザイン様の考えられた作戦を遂行することだけを考えていればいいんだ」
「へーへー、さいですか」
「優等生クンはマジメだねー。キレると一番その辺ブッちぎるクセにさ」
 淡々と告げるクラーケンの言葉に、リュムナデスやサーペントがイヤミを飛ばし――
「少し黙れ」
 そう返したクラーケンだが、それは決して二人の言葉にヘソを曲げたからではなかった。
「出番だ」
 視界のすみに、こちらに向かってくるノイエ・アースラの姿を捉えたからだ。
 

「…………いました。
 クラーケン、サーペント、リュムナデス――瘴魔獣将です」
「そっか」
 そんなクラーケン達の姿は、ノイエ・アースラからも捉えられていた。確認し、報告するシャリオの言葉にうなずくと、はやては傍らに振り向き、
「イクトさん……わかってると思いますけど――」
「『変な気は起こすな』か?
 わかっているさ――『今は耐える時』なんだろう?」
 はやての言葉に答え、イクトは軽く肩をすくめて――
「――――――っ!」
 突然、レーダーに反応――そこに表示されたデータの意味を悟り、アルトの顔から血の気が引いた。
「熱源――真上から多数!」
 その言葉と同時――飛来した多数のビームが、ノイエ・アースラに降り注ぐ!
「ぅわぁっ!?」
「きゃあっ!?」
「高町! テスタロッサ!」
 衝撃にふらつくなのはとフェイトを、あわててイクトが支える――その一方で、艦長席で衝撃をしのいだはやてがすぐに状況を確認する。
「攻撃……瘴魔からなん!?」
「いえ――違います!
 見てください!」
 そんなはやてに答え、シャリオがその映像を表示し――クラーケン達にも攻撃が降り注いでいる光景が映し出された。
 

「何だよ、コレ!?
 管理局か!?」
「いや、よく見ろ!
 連中にも攻撃がいってるぜ!?」
 突然の攻撃をなんとかかわし、サーペントやリュムナデスが声を上げる――どういうことなのかと状況の把握に努める二人だったが、
「いや……管理局ではない」
 一足先に状況をつかんだのはクラーケンだった。彼の視線をリュムナデス達も追いかけて――
「アイツら――ディセプティコン!?」
「ユニクロン軍までいやがる!?」
 上空でそれぞれにグループを作り、こちらを見下ろしている二大勢力を発見した。
 

「なんとか、間に合ったようだな……」
「みたいですね」
 一方、上空のディセプティコン――つぶやくマスターギガトロンの言葉に、傍らに滞空するブラックアウトがそう答え、
「瘴魔だか何だか知らねぇけど、六課の戦力で強化されるのは黙ってられねぇな」
「いずれ、その矛がこちらに向けられるのは明白だからな」
 眼下のクラーケン達を見下ろし、ノイズメイズやサウンドウェーブが口々に告げる。
 そして――
「そんなワケだ――」
「貴様ら全員、まとめて死ね!」
 ノイズメイズが、マスターギガトロンが告げ――ディセプティコンが控えさせていたエアドール部隊を展開、両軍が一斉に攻撃を開始する!
「撃ってきやがった!?」
「動じるな」
 対し、声を上げるリュムナデスにはクラーケンが冷静に答えていた。
「言ったはずだ。
 オレ達はただ、ザイン様の考えられた作戦を遂行することだけを考えていればいいと!
 瘴魔獣部隊!」
 そのクラーケンの言葉と同時――彼らの周囲の空間が歪んだ。歪みの中からベロクロニアが、ビルボネックが、さらにその他にも多数の瘴魔獣が姿を現し、上空の敵勢力への応戦を開始する!
 だが――
「――――――っ!?
 クラーケン! 海からもくるぞ!」
「何…………っ!?」
 リュムナデスの言葉にクラーケンが振り向き――同時、飛来したエネルギーミサイルやビームが瘴魔獣の群れへと降り注ぐ!
「残念じゃったのぉ!
 こっちだって、長い長い極貧生活の末にきっちり戦力整えとったんじゃ!」
 攻撃の主は、ランページに率いられたシャークトロン部隊。そして――
「“ドール”シリーズの初陣としては申し分のない相手か……
 行け! シードール部隊!」
 ショックフリートが繰り出すのは無数の無人兵器群――水上バイクのような形状の水上・水中用ドール“シードール”の群れもまた、瘴魔軍への攻撃を開始する。
 さらに――
「いくぞ、お前達!」
「了解っ!
 ランドール部隊、突撃!」
 ジェノスクリームやレッケージを始めとしたディセプティコン地上部隊も攻撃開始。無人バイク型の陸戦ドール“ランドール”部隊を従えて突撃してくる。
「へぇ……敵もやってくれるじゃねぇか!」
 先手必勝とばかりに猛攻撃を仕掛けてきた二大勢力を前に、サーペントが不敵な笑みと共に愛用の連結刃型デバイス“貪欲カバトスネス”をかまえ――
「あまりやりすぎるなよ、サーペント」
 そんな彼に、クラーケンはやんわりと釘を刺す。
「我々には我々の役目がある。
 楽しむな、とは言わんが……先の戦いのように、出すぎてシードラゴンに止められたくはないだろう」
「う゛………………っ。
 わ、わかったよ……」
「それでいい」
 前の戦いで突出しかけたのをシードラゴンによって力ずくで止められたことを思い出し、サーペントが顔をしかめる――そんな彼に告げて、クラーケンは静かに息をつき――
「怒り狂え――“憤怒アンガァ”」
 淡々と、自らのデバイスを起動させた。
 

「なーるほど……
 ジュンイチの言ってた『どうせしくじる』ってのは、このことだったのか」
「まぁな。
 あれだけハデにやらかして、しかも六課を大々的に取り込もうとしたんだぜ。
 他の勢力が黙って見てるワケがないだろうが」
 マックスフリゲートのブリッジ――戦端の開かれたその光景を映し出すメインモニターを前に、ジュンイチは感心してつぶやくセインにそう答えた。
「まぁ、あれだけの乱戦なら、ザインだって六課を取り込むどころじゃないな。
 うん。ざまぁみろってんだ」
「お姉ちゃん達、これでなんとかなるかな?」
 一方、姉妹達の身を案じていたノーヴェやホクトは満足げにうなずいているが、
「だと……いいんだけど……」
「………………?
 どうしたんスか? ジュンイチ」
「何か、予想と違ってたことでも?」
 「しくじる」と予見していた張本人であるはずのジュンイチは、ここに至って何やら浮かない顔だ。のぞき込んでくるウェンディやディードにかまわず、しばし思考をめぐらせて、
「…………うん、やっぱり変だ。
 ザインのオツムを考えれば、他の勢力が反発してくることくらい予測できてたはずだ。
 だから、絶対に対策はとってると思ってたのに、今のところそんな気配はない……」
 自分の結論に対し納得すると、ジュンイチは振り向き、ノーヴェ達に告げる。
「オレ達も出るぞ。
 この一件、まだ何かある――目の前の乱戦に手一杯の六課じゃ、対応できないかもしれない」
「はいはい。
 まったく、ジュンイチの妹思いっぷりには頭が下がるねぇ」
「るせぇ。ギンガとスバルのためだけじゃねぇよ。
 それより、出撃準備だ――オレがミッションプラン仕上げるまでに準備しとけ」
 茶化すセインにそう答え、ジュンイチは戦場を映し出した映像へと視線を向けた。
(高町なのは……
 こちとら、全部終わったらお前に頭下げに行く予定なんだ――その前に、くたばらせやしねぇからな……!)
 

「待って、マスターコンボイ!
 どこに行くつもりなの!?」
「決まっている――出撃するに決まっているだろう!」
 気がついてみれば、ノイエ・アースラは大乱戦の真っ只中――あわてて止めようとするシャマルに、マスターコンボイはヒューマンフォームのまま、起動させたオメガを杖代わりにして身体を支えながらそう答える。
「敵が来ているんだ……多少の不調で伏せっていられるか!」
「ちっとも『多少』じゃないですよ!
 フォートレス!」
「わかった」
 シャマルの言葉に相棒が動く――あくまで譲ろうとしないマスターコンボイを、フォートレスは頭上から強引に押さえ込んだ。
「戦っているのは貴様だけではない。
 今回はあきらめて、皆を信じて回復に努めるんだ」
「ぐ………………っ!」
 フォートレスの言葉に、マスターコンボイは悔しげに歯がみして――

 ――――――

「――――――っ!?」
 ハイパーゴッドオンが可能になって以来鋭敏さを増してきている、マスターコンボイの“力”に対する知覚能力――その感覚が“それ”を捉えた。
 この“力”の持ち主は――
「まさか――“ヤツ”か!?」
 

「ディバイン――バスター!」
〈Divine Buster!〉
《やっちゃえぇぇぇぇぇっ!》
 なのはの咆哮と共に、戦場を桃色の閃光が駆け抜ける――なのはのディバインバスターが、襲いかかってきたエアドールの一群をまとめて薙ぎ払う。
 しかし、敵はまだ数を残している。難を逃れたエアドールがなのはに迫り――
「範囲せまめの――散弾っ!」
 それに対応したのはイリヤだ。ルビーを介して放った魔力の散弾で、なのはを狙ったエアドールを叩き落とす――

 ディセプティコンやユニクロン軍の乱入により、瘴魔への――ザインへの投降は事実上ご破算となったが、それで完全に助かったかと言えばそうではない。
 なぜなら、自分達もまたこの乱戦の真っ只中にいるのだから――正直なところは共倒れを狙いたかったが、この状況ではそれも難しい。自分達の身を守るため、六課ははやての判断により全戦力が出撃、この状況を切り抜けるべく、それぞれに戦いに身を投じていた。

「ムチャしないでよ、なのは!
 なのはに何かあったら、フェイトとかスバルとかマスターコンボイとか、いろいろうるさい人がいるんだから!」
「大丈夫! わかってるよ!」
「なのはの場合、そうやって『大丈夫』って言ってて墜とされたことがあったんじゃなかったっけ?」
「だ、だからこそ学習してる、って思っていただけると……」
 心配しないようにと答えたものの、あっさりとツッコミの声が返ってくる――肩をこけさせ、なのはが苦笑まじりに答えると、
「なのは!」
「イリヤ!」
 そこへ合流してきたのは二人の身を案じて駆けつけてきたフェイトと美遊だ。さらに、イクトを先頭にシグナム達副隊長陣も集まってくる。
「なのは、大丈夫!?」
「大丈夫だよ。
 もう、イリヤちゃんといいフェイトちゃんといい、心配性なんだから」
「イリヤは大丈夫?」
「バッチリ!」
《私とイリヤさんのコンビを甘くみないでもらいたいですね》
 フェイトの問いになのはが、美遊の問いにイリヤやルビーがそれぞれに答え――今度はなのはが尋ねた。
「それで……みんなはどうしてここに?」
「オレの提案だ」
 そう答え、なのはの前に進み出てきたのはイクトだ。
「オレ達としては、この戦いにこだわる理由はないからな。さっさと脱出して、後は敵同士でつぶし合ってもらうのが理想だ。
 そのためにも、隊長格を一点に集中し、この戦場を一気に突破する方が適切だと判断した」
「フォワード陣とカイザーズにはノイエ・アースラの守りを任せた。
 彼女達が持ちこたえているうちに――」
 イクトの言葉にシグナムが続いた、その時――
《なのはさん!》
 突然の念話はスバルからのものだった。
《気をつけてください!
 そっちに、“アイツ”が向かってます!》
「“アイツ”じゃわかんねーって!
 報告は正確に、簡潔に、だろ!」
《す、すみません!》
 叱り飛ばすヴィータの言葉にあわててスバルが謝り――すぐに伝えるべきことを伝えてくる。
《それより――そっちに向かってるんです!
 前にあたし達を倒した――》
 

《シードラゴンが!》
 

『――――――っ!?』
 シードラゴンと言えば、その頃はハイパーゴッドオンできなかったとはいえスバルやマスターコンボイを圧倒、さらに先の戦闘ではシグナムすら手玉に取ったという瘴魔獣将――スバルの警告に、なのは達の間に緊張が走り、
「――――――上だ!」
 気づくと同時に先制――頭上に現れた気配に向け、イクトが炎を撃ち放つ。
 解放された真っ青な炎が、一直線に目標へと襲いかかり――
「IS、発動」
 淡々と告げられた言葉と同時――炎が吹き飛ばされた。
 そして、炎の向こうから姿を現したのは、まぎれもなく“七人の罪人クリミナル・セブン”のひとり、シードラゴンだ。
「……そういえば、今までの瘴魔獣将と違い、貴様はISを使うんだったな。報告は聞いているぞ」
「わかっているなら話は早い」
 うめくイクトにそう答え、シードラゴンは彼らと同等の高度まで降下し、
「“鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス”――確か、貴様らの故郷、地球の言葉だったな?
 他の勢力の介入により、貴様らの引渡しがご破算となった今、貴様らがこのまま解放されることを我が主は望んでおられない。
 故に――貴様らには、ここで全員消えてもらう」
「それは、貴様ひとりでオレ達全員を相手にするということか?
 ずいぶんと――甘く見られたものだな!」
 告げるシードラゴンの言葉に、イクトが言い返しながら加速。一気にシードラゴンの眼前に飛び込んで――
「ダメぇっ!」
 そのスバルの声は肉声だ――なのはが振り向くと、ウィングロードを展開し、こちらに向かってきているスバルの姿が視界に入ってくる。
 しかし、そのスバルの表情は焦りを通り越していきなり恐怖の域に達している。今まさにシードラゴンに一撃を加えようとしているイクトに向けて叫ぶ。
「イクトさん、すぐに下がって!
 ソイツに――」
 

「シードラゴンに、触れられちゃダメだ!」
 

「何――――――っ!?」
 スバルの言葉は彼の耳にも届いていた。突然の警告に、イクトが思わず声を上げ――
「手遅れだ」
 そんな彼の左腕を、シードラゴンの右手がつかんでいた。
 そして――告げる。
「IS――発動」
「がぁ………………っ!?」
 その瞬間、イクトの身体を衝撃が駆け抜けた。
 流し込まれた衝撃は全身を駆け巡り、一瞬にしてあちこちで強度の限界を超えた。皮膚が裂け、毛細血管が次々に破裂し、イクトの全身から鮮血がほとばしる!
「イクトさん!」
 フェイトの悲鳴が響く中、シードラゴンは無造作にイクトを投げ捨てた。ショックを受けたフェイトに変わり、イリヤと美遊が落下する彼を抱きとめる。
「何だ、今のは……!?」
「スバル!?」
「あ、あたしにもわからないんです! 知ってたら前にぶつかった時の報告で書いてますよ!
 あれがISだっていうことも、前の戦いで初めて知ったくらいで……!」
 かつての戦闘についての報告では、シードラゴンのISについては「正体不明」としか、そもそもそれがISであるということすら報告されていなかった。うめくシグナムのとなりで声を上げるヴィータに、彼女達に追いついてきたスバルは息を切らせながらそう答える。
 と――
「わからぬのなら、教えてやろうか?」
 そう口を開いたのは、他ならぬシードラゴン自身だった。
「そもそも、我ら瘴魔獣将は、ザイン様が独自のルートで調達した戦闘機人素体に瘴魔力を操る力を与え、それが無事に適合できた存在を示す。
 しかし、この“瘴魔力を操る力を与える”というのが難儀でな。下級瘴魔を改造した“生きた鎧”を与え、その力に適合できるよう素体自体も生体改造を施す――しかし、そうして瘴魔力という力を得た代償として、身体の大部分を改造された素体達は元々備えていたISを失うこととなった。
 その唯一の“例外”がオレだ――素体そのものが先天的に瘴魔力との高い適合性を持っていたオレは、身体を改造されることなく瘴魔力を操ることができた。
 つまりオレは、瘴魔力を操りながら同時にISも駆使できる、ただひとりの瘴魔獣将ということだ。
 そんなオレのISが、これだ」
 そう説明し――シードラゴンの差し出した右手が“力”を帯びた。激しく流れる“力”が火花を散らし、バチバチと音を立てる。
「“皆殺しの鼓動ジェノサイドビート”――オレは触れたものに、自身の瘴魔力をパルスとして流し込むことができる。
 その結果が、そこの裏切り者の神将だ。生命体の肉体は脳からの電気信号で動く。オレの“皆殺しの鼓動ジェノサイドビート”によって流し込まれた強力なパルスはその信号を狂わせ、さらに強大な負荷によって自壊を導く。
 ただ触れる――それだけで、私は貴様ら全員を血まみれの死体に変えてやることもできる、というワケだ」
「ハッ! だったら!」
 しかし――そんなシードラゴンの言葉にひるまず、ヴィータがグラーフアイゼンをかまえて飛翔した。シードラゴンに向けて鉄の伯爵を思い切り振り上げ、
「触れなきゃ、いいんだろうが!」
 渾身の力で、ヴィータがシードラゴンに向けて一撃を振り下ろし――
「発想は悪くないが――実行の手段が誤りだ」
 シードラゴンは迷うことなくその右手でグラーフアイゼンを受け止め――その瞬間、グラーフアイゼンのハンマー部分に火花が走った。内部から爆発を起こし、受け止められた側のハンマーが爆散する!
「な………………っ!?」
「遅い」
 さらに、間髪入れずにシードラゴンがヴィータに触れて――瞬間的に強力な衝撃を流し込まれ、ヴィータもまたイクトのように体内から破壊を受け、追い討ちとばかりに地上へと叩き落とされる!
「ヴィータ!
 てめぇっ!」
 一瞬にして相棒を撃墜され、怒りの声と共に突撃するのはビクトリーレオだ。
「生物は破壊できても、オレ達トランスフォーマーはどうなんだよ、あぁっ!?」
 その言葉と同時、ビクトリーレオがシードラゴンに向けて拳を振り下ろし――
「相棒のデバイスをオレが一瞬で破壊したのを、見ていなかったようだな」
 振り下ろされた鋼の拳をかわし、シードラゴンは空振りした彼の右腕に触れて――瞬間、ビクトリーレオの各部が内部から爆発した。意識を刈り取られ、ビクトリーレオの巨体が大地に落下していく。
「確かに生物ではないが――デバイスやトランスフォーマーのボディも電気信号によって制御されているのは同じこと。それらを破壊することは、人間を破壊するのと何ら変わりはない。
 そして、同様に“力”による攻撃にも有効だ。魔力砲だろうが魔力弾だろうが、そこに触れて“力”の流れを乱してやれば簡単に自壊させることができる」
「なるほど……
 先の戦いで私の飛竜一閃を防いだのもそれか」
「そういうことだ」
 うめくシグナムにあっさりとうなずくと、シードラゴンは彼女達へと向き直り、
「これでわかっただろう? どうして親切に能力を説明してやったのか。
 理解しところで、触れられただけで破壊されることになる貴様らにはどんな抵抗も意味がないからだ。
 私に触れられたものはすべて破壊される――貴様らも、撃墜された3人と同じ運命をたどるがいい!」
 言い放ち、シードラゴンがなのは達に向けて飛翔し――
「させないっ!」
「――――――っ!?」
 なのは達を救うべく飛び込んできたスバルの拳が、シードラゴンに向けて襲いかかる!
「バカめ……!」
 しかし、シードラゴンにとっては獲物が変わっただけの話だ。繰り出されたスバルの拳を受け止め、シードラゴンはISを発動させ――

 弾かれた。

 “シードラゴンの手が”。

「………………何?」
 本来なら、自分のISはスバルを血まみれにしていたはず――何が起きたのかと、シードラゴンはスバルを見返して――
「………………思ったとおりだ」
 そう告げるスバルの瞳は、金色に輝いていた。
「あたしのISは“振動破砕”……触れたものに高周波を叩き込んで破壊する。
 そう、ちょうどあなたの“皆殺しの鼓動ジェノサイドビート”のように」
「…………なるほど。
 物理振動か“力”のパルスか……アプローチは違えど能力の基本原理は同一。
 自分のISで、私のISを打ち消した……いや、ダメージを最小限に抑えたか」
「そういうことだよ。
 なのはさん達には有効かもしれないけど……仕掛けさえわかれば、あたしは自分のISで対抗できる!」
 納得したシードラゴンに答え、スバルはなのはへと振り向き、
「なのはさん。
 コイツはあたしが抑えますから、ノイエ・アースラをお願いします!」
「スバル!」
 声を上げるなのはにかまわず、スバルはシードラゴンに向けてウィングロードの上を突撃し――
「確かに、貴様にだけはオレのISは通用しないようだな」
 そうつぶやくシードラゴンとの距離が一瞬にして零になる。反撃するスキも与えまいと、スバルは迷うことなく拳を繰り出し――

「だが」

 その言葉と同時――衝撃を受けてたたらを踏んだのはスバルの方だった。
 一瞬にして身をひるがえしたシードラゴンが、スバルの拳をさばきつつカウンターのヒジを彼女の顔面に叩き込んだからだ。
 そして、痛みに顔をしかめるスバルへと向き直り――シードラゴンはあっさりと告げた。
「それなら、ISを使わずに貴様をつぶせば済む話だ」
 

「スバル!」
 フォートレスによって押さえつけられながらも、状況はモニターしていた。スバルがシードラゴンと戦い始めたことを知り、マスターコンボイは思わず声を上げた。
「あのバカが……!
 ハイパーゴッドオンなしでヤツに勝てんのは、以前の戦いでハッキリしているというのに……!」
 確かに能力の相性は悪くない。しかし、その他の部分で差がありすぎる。スバルだけで戦うには、シードラゴンという男はあまりにも強大すぎた。
 このままではスバルが――なんとか助けに向かいたいが、目の前の二人がそれを許さない。なんとか拘束から抜け出そうとするマスターコンボイだが、フォートレスはそんな彼をしっかりと押さえ込む。
「いい加減にしてください!
 そんな身体で出ていったら、今度こそ死にますよ!」
 医者として、それだけは認められない――フォートレスの下でもがくマスターコンボイに言い放つシャマルだったが、
「このままでも……“死に方”が変わるだけだ……っ!」
 そう答え――マスターコンボイがヒューマンフォームを解除。瞬時にロボットモードに戻った衝撃でフォートレスを弾き飛ばす!
「貴様ら……忘れていないだろうな!?
 オレが、どうしてこの六課に身を置いているのか!」
〈Stand by!〉
 直後、間髪入れずにオメガを起動。その切っ先を立ち上がろうとしたフォートレスの眼前に突きつける。
「オレは行くぞ。
 オレが六課にいる“理由”を守るために――オレがオレであるために!」
 消耗を感じさせない――いや、消耗を抑え込んだ力強い口調で言い放ち、マスターコンボイはきびすを返して医務室を飛び出していった。
 

「だぁぁぁぁぁっ!」
 渾身の咆哮と共にマッハキャリバーで疾走――そのままの勢いで跳躍、勢いのすべてを込めた拳を繰り出すスバルだが、
「いい拳だ。
 当たればオレすら叩き落とせるだろう――当たれば!」
 シードラゴンには届かない。あっさりとかいくぐられ、逆に背中にヒザ蹴りを一発。衝撃で動きが止まったところに追撃の蹴りを叩き込まれ、吹っ飛ばされる!
「パワーもスピードも申し分ない。
 だが――戦い方が正直すぎる!」
 それでも、すぐに体勢を立て直して再度しかけるスバルだが、シードラゴンはそんな彼女の動きを完全に見切っている。彼女の出しうる最大速度で繰り出される連撃のすべてをかわし、さばき、逆にカウンターを叩き込んでいく。
「スバルから、離れなさい!」
 もちろん、なのは達も黙って見ているワケではない。スバルを痛めつけるシードラゴンを止めようとするなのはだが、シードラゴンもスバルとの間合いを保ち、彼女の砲撃やシューターでの援護を巧みに阻む。シグナムやフェイトの強襲も、同様にスバルを楯にされて仕掛けることができないでいる。
「スバル!」
「ティアナ、待って!」
「ノイエ・アースラをほっとけないでしょうが!」
 一方、助けに行けないのはティアナ達も同じだ。完全に戦場の渦中に呑み込まれたノイエ・アースラは現在ドール、シャークトロン、瘴魔獣の総攻撃にさらされていた。フォワード陣、カイザーズ、そしてスプラングやヴァイス、アームバレットは総出で防衛に当たっており、なのは達を助けに突出したスバルの救援にはとてもではないが手が回らない。飛び出しかけたティアナを ギンガやかがみが抑え、協力して敵の迎撃にあたるのが精一杯だ。
 そうしている間にも、スバルは着実にシードラゴンに痛めつけられていく――
「なまじ実力が近いのが逆に地獄だな。
 圧倒的な実力差があるか、“皆殺しの鼓動ジェノサイドビート”が効くかすれば、痛めつけられることもなくすぐに撃墜されて終われたものを」
「…………そうでも、ないよ……!」
 スバルの胸倉をつかんでつるし上げ、ため息をつくシードラゴンだったが、対するスバルも身を起こしながらそう答える。
「実力が近いから……喰らいついていける……!
 喰らいついていけるから……お前は、なのはさん達に向かえない……!」
「ほぉ。高町なのは達の代わりに私と戦うのが目的かと思ったが、彼女達を守るための楯になるのが本当の目的か……
 なるほど。六課のメンバーで唯ひとり“皆殺しの鼓動ジェノサイドビート”が効かない、私に対するアドバンテージを逆手にとったか……
 ずいぶんと悪知恵が働く――柾木ジュンイチの教えか!?」
 言い放ち、シードラゴンはスバルを眼下に投げ捨てた。マッハキャリバーの判断で展開されたウィングロードの上に落下する彼女にはもはや目もくれず、改めてなのは達へと向き直る。
「そうだな。
 考えてみれば、貴様だけは“皆殺しの鼓動ジェノサイドビート”を防げるということは、逆の見方をするなら、貴様以外には問題なく“皆殺しの鼓動ジェノサイドビート”が効くということだ。
 ならば、チョロチョロとうるさい外野を叩いた後に、確実に貴様を叩くのがベストか」
「――――――っ!」
 スバルに告げ、シードラゴンの右手に“力”が収束する――そんな彼になのはがディバインバスターを放つが、シードラゴンの右手の一振りで吹き飛ばされる。
「残念だったな、スバル・ナカジマ」
 その瞬間、フェイトとシグナムが左右からしかける――繰り出された雷光と炎の刃も、シードラゴンは両手で難なく吹き飛ばす。
「せっかく貴様の作った時間も、コイツらは逃げるために使わなかった。
 貴様の時間稼ぎも、今となってはすべて無意味だ」
 誰から叩くか――獲物を物色しながら腰を落とし、シードラゴンがスバルに告げて――
「そうでもないよ」
 そんなシードラゴンに、なのははキッパリと告げた。
「スバルの時間稼ぎは、無意味なんかじゃないよ。
 だって――」
 

「マスターコンボイさんが間に合った」
 

 その瞬間――シードラゴンの飛びのいた先を、マスターコンボイの振るったオメガが薙ぎ払っていた。シードラゴンを追い払い、スバルの倒れるウィングロードの上に着地する。
「マスターコンボイさん!?」
 驚いたスバルが声を上げるが、かまうことなくオメガをかまえ――そんなマスターコンボイに、なのはが頭上から声をかけてくる。
「やっぱり、出てきちゃったね、マスターコンボイさん」
「なんだ、お見通しか」
「もちろん。
 マスターコンボイさんが、死にそうになったってくらいで止まるはずないもん」
 不敵な笑みを返すマスターコンボイにうなずくが、なのははすぐにため息をつき、
「でもね……ホントなら、私はマスターコンボイさんを止めなくちゃならないんだよ。
 スターズの隊長としても、一緒に戦う仲間としても」
「あきらめろ」
 迷うことなくなのはに答えると、マスターコンボイはスバルへと向き直った。
「マスターコンボイさん、どうして……!?
 あたしのせいで、死にそうになってるのに……」
「『どうして』?
 そんなものは決まっている」
 どうして出てきたのか。戦えるコンディションでもないのに――思わずつぶやくスバルだったが、そんな彼女にもマスターコンボイはあっさりと即答した。
「あぁ、そうだ。
 決まっている――」
 

「オレが、“機動六課のコンボイ”だからだ」
 

「オレはお前達を守るためにここにいる。
 自分の命が危ないからと、後方に引っ込んで……それでお前達に何かあったら、それはオレの、“守る者コンボイ”としての“死”だ」
 言って――マスターコンボイは軽く息をつき、
「だいたい、ハイパーゴッドオンは、オレも納得ずくで使ってきた力だ。
 しかも、オレは貴様よりも早く異変に気づいていた。その上で使ってきたんだ。そのせいでオレがどうなろうが、そこに貴様の責任など発生するはずもなかろうが」
 そう告げると、マスターコンボイはシードラゴンへと向き直った。そのまま、背後のスバルに向けて続ける。
「戦うことでオレ自身がどれだけ傷つこうが知ったことか。
 何度倒れても、オレは何度でも立ち上がる。
 立ち上がって、お前達を守ってみせる。
 守ることこそコンボイの本質――わかったら黙って守られてろ」
「ま、『守られてろ』って、そんな勝手な……」
「今に始まったことではあるまい?」
 うめくスバルに答え、マスターコンボイはシードラゴンをにらみつけ、
「わかったら、さっさと立て。
 ハイパーゴッドオンだ!」
「で、でも……!」
 促すマスターコンボイだが、スバルはやはり踏ん切りがつかない。
「スバル!」
「ダメだよ……!
 一緒に戦うとしても、ハイパーゴッドオンは絶対ダメ!」
 いくらマスターコンボイが「かまわない」と言っても、現実の問題として彼の命はハイパーゴッドオンによって着実に削られているのだ。
「だって……これ以上ハイパーゴッドオンを続けたら、マスターコンボイさんが死んじゃうんだよ!
 何度倒れて、その度に立ち上がっても……死んじゃったら、その立ち上がることもできなくなっちゃうんだよ! そんなのヤだ!」
 そして、スバルにはそれがどうしても納得できなくて――
 

〈なら、死ななければ問題はないんだな?〉
 

 突然の通信がそう告げた。
「え………………?」
 その言葉に、スバルが思わず顔を上げ――そんな彼女の眼前にウィンドウが展開。ザラックコンボイの姿が映し出された。
「ザラックコンボイさん……?」
〈ハイパーゴッドオンでマスターコンボイが死ななければ、何の問題もないんだろう?〉
「え? いや……その……」
 それができないから、こんなにも悩んでいるのに――ザラックコンボイの言葉に困惑するスバルだったが、
「まだ話は続くのか?
 いい加減――こっちは続きを始めたいんだがな!」
 相手側のガマンがそろそろ限界だった。しびれを切らしたシードラゴンが両手に“力”を集め、スバル達に向けて突撃する!
「やれやれ……こういうのは、話が終わるまで待つのがマナーだろうがっ!」
 そんなシードラゴンに対し、マスターコンボイが迎撃すべくオメガをかまえ――
「――――――っ!?」
 迎撃はまったく予期しない方向から。気づき、シードラゴンの後退した眼前を、飛来した閃光が駆け抜ける!
 そして、攻撃の主もまた戦場に飛来する――シードラゴンに立て続けに攻撃をかけ、後退させるのは、小型のステルス戦闘機をかたどった飛翔体である。
「な、何? アレ……!」
〈忘れたのか?
 マスターコンボイを最初に診察したのはこのオレだということを。
 当然、ヤツを救うために手は打たせてもらった――今回の事態のせいで、間に合うかどうかは、半ば賭けになってしまったがな〉
 突然の乱入者に目を丸くするスバルにザラックコンボイが答え、シードラゴンを後退させた飛翔体はスバル達の元へと戻ってくる。
〈“トライファイター”。お前達のハイパーゴッドオンを制御するために作ったサポートビークルだ〉
「ハイパーゴッドオンを、制御だと……?」
〈そうだ。
 お前達の一番の問題は、ハイパーゴッドオンの強大な力が遠慮なく貴様のスパークを圧迫していることにある。
 なら、それを制御し、貴様のスパークに対する圧迫を解消してやればいい。
 そのためのトライファイターだ――搭載されたエネルギー制御システム“トライ・スター・システム”が、お前達のハイパーゴッドオンの力を制御してくれるはずだ〉
〈えっと……〉
 その通信は他の面々にも届いていた。ザラックコンボイの言葉に、アリシアが乱入してきて確認する。
〈それって、つまり……ダブルオーガンダムに対するオーライザー?〉
〈ミもフタもないたとえはやめてくれないか!?〉

「なるほどな……」
 少しだけネタが混じったが、それだけ聞ければ十分だ――うなずき、マスターコンボイはスバルへと告げる。
「これで文句はないな?
 さっさとハイパーゴッドオンするぞ!」
「って、またイチかバチかのぶっつけ本番!?」
「開き直れ! いつものことだ!」
 思えば初出動でマッハキャリバーをいきなり試したことに始まり、機動六課に来て以来このパターンばかりだ。スバルのボヤきを一蹴し、マスターコンボイは改めて宣言する。
「やるぞ――スバル!」
「あー、もうっ! どーにでもなれぇっ!」
 

『ハイパー、ゴッドオン!』
 その瞬間――スバルの身体が光に包まれた。その姿を確認できないほど強く輝くその光は、やがてスバルの姿を形作り、そのままマスターコンボイと同等の大きさまで巨大化すると、その身体に重なり、溶け込んでいく。
 同時、マスターコンボイの意識が身体の奥底へともぐり込んだ。代わりに全身へ意思を伝えるのは、マスターコンボイの身体に溶け込み、一体化したスバルの意識だ。
〈Hyper Wind form!〉
 トランステクターのメインシステムが告げ、マスターメガトロンのボディカラーが変化する――グレーだった部分が、従来のウィンドフォームと同様に空色に変化するが、周囲に渦巻く虹色の魔力光に照らし出され、それ自体もまた七色に変化しているように見える。
 そんな中でオメガが分離――巨大な両刃の剣が真ん中から別れ、両腕の甲に合体。両腕と一体化した可動式のブレードとなる。
 と、ひとつとなった二人のもとにトライファイターが飛来する――機体下部、本体左右に備えられたランディングギアが基部ごと後方に展開。本体がマスターコンボイの胸部に合体、ランディングギアが両肩を押さえ、機体をしっかりと固定する。
〈“TRI-STAR-SYSTEM”――start!〉
 そして、トライファイターに備えられた“トライ・スター・システム”が起動――それに伴い、スバルとマスターコンボイ、二人の魔力がトライファイターに流れ込んでいく。
 胸部アーマーとなったトライファイターの表面に露出した、中央の大きなクリスタルを囲むように逆三角形を描く、三つの小さなクリスタル――右上のそれがスバルの空色の魔力に、左上のそれがマスターコンボイの紫色の魔力に満たされ、同時に下部のクリスタルに誘導されるとひとつにまとめ上げられ、虹色の輝きを放つ。
 “トライ・スター・システム”によって制御された“力”が再び身体に流れ込んでくる――ひとつとなったスバルとマスターコンボイ、輝く三つの星を胸に抱き、二人が高らかに名乗りを挙げる。
「双つの星がひとつの星に!」
「つながり“力”を呼び覚ます!」

『マスターコンボイトライスター――Stand by Ready!』

 

「何だ、あの形態は……!?
 あんなもの、ザイン様のデータにない……!?」
 スバルとのハイパーゴッドオン、そしてトライファイターとのドッキングを果たしたマスターコンボイTS――虹色の魔力に包まれたその姿を前に、シードラゴンの顔に初めて驚愕の色が浮かんだ。
「あれが、トライファイターの“力”……」
「あの魔力……今までと、違う……?」
 マスターコンボイから放たれる虹色の“力”が今までと違う。力強さをそのままに、それでいてとても落ち着いた、穏やかな感じがする。明らかな変化を感じ取り、なのはやイリヤがつぶやき――
「ザイン様にすら未知の力――危険すぎる!」
 一足早く、シードラゴンが動揺から立ち直った。マスターコンボイに対して一直線に飛翔し、一撃を繰り出すが、
「甘いっ!」
 その拳を、マスターコンボイはその手のひらでたやすく受け止めていた。
「スバルの拳を『正直すぎる』と評していたな。
 残念だが――オレの拳は少しばかりひねくれているぞ」
「言ってくれるな。
 だが――そのままオレの手を握りつぶせばいいものを!」
 ロボットモードの腕の大きさなら、腕力ならそんなものはたやすいはずだ。それをしない甘さが彼ら自身を殺すのだ。
 自分の拳を受け止めたままのマスターコンボイに言い放ち、シードラゴンがISを発動し――
「そっちこそ忘れてるよ!
 あたしの――能力を!」
 スバルがISで対抗。マスターコンボイの右手に発生した超振動が、シードラゴンのパルスを弾き返す。
「お互いISは使えない――ならば純粋に!」
「戦闘能力の勝負!」
 これでシードラゴンの“皆殺しの鼓動ジェノサイドビート”は完全に封じた。ここから仕切り直し――シードラゴンの言葉にマスターコンボイが言い返し、両者が互いに距離を取って対峙する。
「ゆくぞっ!」
 先手はシードラゴン――トランスフォーマーと生身の体格差を活かしてマスターコンボイの懐に飛び込もうとするが、
「そうくると、思っていた!」
 マスターコンボイもそれを読んでいた。シードラゴンにあわて後退しつつ、繰り出されたシードラゴンの拳を弾き飛ばす。
「スバルのことを『正直』といえた義理か!?
 貴様こそ、攻め口がまっとうすぎるぞ!」
「ぬかせ!」
 マスターコンボイに言い返すシードラゴンだが、今度はマスターコンボイの方からしかけた。両腕から分離、ブレードモードに戻したオメガで斬撃を繰り出すが、シードラゴンもそれをかわし――
「まだまだぁっ!」
 スバルの意志で追撃。こちらの頭上に逃れたシードラゴンを裏拳で弾き飛ばす。
「忘れたか!?
 オレ達は、二人でひとり!」
「マスターコンボイさんの死角をあたしが、あたしの死角をマスターコンボイさんが!
 二人で互いをフォローできるんだよ!」
 言い放つマスターコンボイにスバルが続き、マスターコンボイの放った蹴りが体勢を立て直したシードラゴンをさらに弾き飛ばし、
「オメガ!」
〈Hound Shooter!〉
 完全に体勢を崩されたシードラゴンにこれを弾く余裕はない。放たれた魔力弾の雨が、シードラゴンの展開した力場に降り注ぐ!
「やった!?」
「いや――耐えられた!」
 魔力弾は全弾直撃。コレならと意気込むスバルだが、マスターコンボイの言う通り、シードラゴンはその攻撃に耐えている。
「やっぱり、砲撃クラスの攻撃じゃないと……!」
「しかし、それだけの規模の攻撃はヤツのISで散らされる……」
 スバルの言葉につぶやき――マスターコンボイはしばしの黙考の末、提案した。
「スバル。
 フォワード陣に連絡だ」
「みんなを動かすの?
 ノイエ・アースラの守りは?」
「出てきてもらうのは最小限の人員だけで十分だ」
 尋ねるスバルに答え、マスターコンボイがイメージで“作戦”の内容を伝える――それを受け取り、スバルはただ一言で感想を告げた。
 すなわち――
「…………マスターコンボイさん、やっぱり意地悪だ」

「敵の攻撃に決定打がないと言っても、こちらもそれは同じか……
 せめて体格が同じなら、格闘戦で圧倒できるものを!」
 こういう時は人間とトランスフォーマーの体格差が憎い――舌打ちまじりにマスターコンボイTSをにらみつけ、シードラゴンは次の手を探る。
 幸い、決め手に欠けるのは向こうも同じ。慎重に攻めればなんとかなるか――そんなことを考えていた、その時だった。
「――――――っ!?」
 そんな彼の目の前で、マスターコンボイがオメガに魔力をチャージ――エナジーヴォルテクスの体勢である。
「砲撃、だと……!?
 何を考えている……!?」
 ただ砲撃を放つだけでは自分のISに吹き散らされるだけ。初撃を受け流したスキをついてくるつもりかとも思うが、スキの大きい砲撃ではそれも難しい。
 意図が読めず、眉をひそめるシードラゴンの前で、マスターコンボイがチャージを完了し、
『ハイパー、エナジー、ヴォルテクス!』
 一撃を放った。解放された“力”の渦が、一直線にシードラゴンへと襲いかかるが、
「IS発動――“皆殺しの鼓動ジェノサイドビート”!」
 やはりシードラゴンには通じない。その手に生み出した“力”の流れが砲撃の魔力流を乱し、吹き散らす!
「どういうつもりかは知らないが――スキができた以上、突かせてもらうぞ、コンボイ!」
 そのまま、襲いかかってきた“力”の渦を突き抜けてマスターコンボイの前へ。飛び出してきたそのままの勢いで、自らの“力”を集めた右手を振りかぶり――
 

「残念だったね」
 

「――――――っ!?」
 止まった。
 スバルの言葉と同時――振り上げた右手、さらに左手や両足、四肢にからみついた“鎖”に動きを封じられて。
「これは…………っ!?」
 突然のことに思わずうめき――同時、シードラゴンは気づいた。自分達の眼下に視線を落とし、その先に見つけた。
「錬鉄召喚――“アルケミックチェーン”」
 ティアナのゴッドオンしたジェットガンナー、エリオのゴッドオンしたアイゼンアンカーに守られたキャロ――彼女のゴッドオンしたシャープエッジの姿を。
「いつの間に、仲間を……!?
 だが、こんなバインドなど、オレのISで!」
 不意を突かれてこうして拘束されたが、それならば拘束を破って脱出すればいいだけの話。迷うことなくISを発動させるシードラゴンだったが、
「――――バカな!?」
 その“力”が、四肢にからみついた鎖を破壊することはなかった。
「残念だったな、シードラゴン」
 そんなシードラゴンに告げるのはもちろんマスターコンボイだ。
「貴様のISは確かに強力だ。攻撃、物質を問わず、エネルギーの通うもの、そのすべてを破壊することができるのだからな。
 だが――逆に言えば、“エネルギーの通うものしか破壊できない”」
「――――――っ!」
「気づいたようだな。
 アルケミックチェーンの本質は召喚と“無機物”操作――召喚によって呼び出され、無機物操作によって操られこそするが、そのもの自体はただの鎖だ。
 貴様を縛り上げた時点で、キャロ・ル・ルシエに無機物操作のみを解除させた――何の“力”も通わないただの鎖を、貴様のISで破壊することはできない!」
 そして、マスターコンボイはオメガをアームブレードモードとして両腕に装着。シードラゴンに向けてかまえ、マスターコンボイとスバルが告げる。
「オレとスバルは他のヤツらより一戦多く貴様とやり合っている。
 つまり、他のヤツらよりもほんの少しではあるが、対策を考える余地が余分にあった、ということだ」
「お兄ちゃんも言ってたよ。『人前で技を見せる時は、対策を立てられることを覚悟しろ』って!
 それなのに、簡単に自分の手の内をさらした……この結果を生んだのは、あなたのミスだ!」

「《フォースチップ、イグニッション!》」
 スバルとマスターコンボイの咆哮が交錯し――二人のもとにセイバートロン星のフォースチップが飛来した。そのまま、マスターコンボイのバックパックのチップスロットに飛び込んでいく。
 それに伴い、マスターコンボイの両足、両肩の装甲が継ぎ目にそって展開。内部から放熱システムが露出する。
〈Full drive mode, set up!〉
 二人に告げるのはトランステクターのメイン制御OS――同時、イグニッションしたフォースチップのエネルギーが全身を駆け巡った。四肢に展開された放熱システムが勢いよく熱風を噴出する。
〈Charge up!
 Final break Stand by Ready!〉

 強烈なエネルギーが周囲で渦巻く中、制御OSが告げる――身がまえた二人の目の前に環状魔法陣が展開され、その中央、そして同時に右拳にも魔力スフィアが形成される。
 そして、右腕のエネルギー加速リング“アクセルギア”が装着されたオメガのブレードもろとも高速回転、発生したエネルギーが右拳のスフィアにまとわりつき、その周囲で渦を巻いていく。
 そして、スバルは右拳を大きく振りかぶり――
《猛撃――》
「必倒ぉっ!」

「《ハイパー、ディバイン、テンペスト!》」

 右拳を環状魔法陣中央のスフィアに叩きつけた。二つのスフィアの魔力エネルギーが炸裂、強大な魔力の奔流となってシードラゴンに襲いかかり――爆裂する!
「ぐぅ…………っ!
 この程度で……このシードラゴンを墜とせるとでも思ったか!?」
 それでも――シードラゴンを撃墜するには至らない。体勢を立て直し、懐から竜を描いたデバイスカードを取り出した。頭上にかざし、告げる。
「まだ終わらん。戦いは――これからだ!
 ひざまずかせろ――」
 

《そこまでです》
 

 しかし、そんな彼の動きを止めたのは、ザインからの念話だった。
「ザイン様!?」
《シードラゴン。
 それ以上の戦いは不要です》
「………………っ」
 ザインのその言葉に、シードラゴンはその意味を正しく読み取っていた。
「では……」
《えぇ。
 もう、時間稼ぎは十分――あなたの“その場での”役割は終了です》
「わかりました」
 そううなずくと、次の行動は早かった。迷うことなくデバイスカードをしまうと、突然動きを止めたこちらを警戒しているマスターコンボイ達へと振り向き、
「すまんが、次の仕事の時間が近いようだ。
 名残惜しいが、この勝負は預ける」
「そう簡単に預けないでほしいんですけど!」
「それでなくても、背負ってるモノの数がハンパじゃないんでな!」
 言い返すと同時、“力”を解き放つ――スバルとマスターコンボイの振るったオメガから魔力の渦が放たれるが、それが届くよりも早く、シードラゴンはその場から姿を消していた。
「あー、もうっ! 逃げられた!」
「いや――十分だ、スバル。
 おかげで助かった」
 たった二戦。しかしその二戦でさんざん苦労させられた相手だ。できればここで仕留めておきたかった――悔しがるスバルだが、そんな彼女にそう答えたのはシグナムだ。
 そして、そのシグナムの言葉にうなずき、マスターコンボイも戦いの続く戦場を見渡し、
「今はヤツひとりにこだわらず、この場を制することを考えろ。
 それに……頭上に一番なんとかしなければならない問題が控えていることも忘れるな」
「う、うん……!」
「わかればよし、だ。
 そうと決まれば――さぁ、蹴散らすぞ!」
「はいっ!」
 マスターコンボイの言葉に、彼に諭されたスバルが力強くうなずく――“トライ・スター・システム”によって高められた虹色の“力”を身にまとい、一体となった二人は敵勢力の入り乱れる戦場に向けて飛翔した。
 

「スターズ1以下隊長陣、並びにスターズα、戦闘を続行!」
「ブレイカー2、ライトニング2、ライトニングβ――負傷したブレイカー1、スターズ2、スターズβを連れて帰還!」
「なんとか、しのいだみたいやね……!」
 なのは達は無事シードラゴンを退けて戦闘を再開。シードラゴンのISに敗れたイクト、ヴィータ、ビクトリーレオもライカやシグナム、スターセイバーによってノイエ・アースラに帰還、シャマルに引き渡された――シャリオやアルトの報告に、はやては艦長席で安堵の息をついた。
「とはいえ、戦いが終わったワケではない……
 はやて、やはりオレ達も出るべきだ。敵の数が多すぎる」
「かもしれへんね……
 グリフィスくん、ここは頼める?」
「はい」
 しかし、まだ気を抜くには早すぎる――ビッグコンボイの提案にうなずいたはやての言葉にグリフィスがうなずき――
「待ってください!」
 そこに、シャリオからの報告が割り込んできた。
「この宙域に、高速で接近する高エネルギー反応!」
「攻撃か!?」
「いえ!
 この反応は――」
「部隊長!」
 聞き返すビッグコンボイに答えるシャリオの言葉に、さらにルキノの悲鳴が重なる――その瞬間、わずかなスキをついて迎撃網を突破したエアドールの一機が、ノイエ・アースラのブリッジに肉迫する!
(迎撃――できない!)
 フォワード陣はマスターコンボイの要請で前線へ。カイザーズでは迎撃は間に合わない――そう直感で悟ると同時に身体が動いた。はやて以下ブリッジクルーを守るべく、ビッグコンボイがシュベルトハーケンを起動させ――
 

 エアドールが爆発を起こした。
 

 突然頭上から降り注いだビームが、エアドールの機首の人工魔力砲を撃ち抜いたのだ。さらに、次の瞬間、同じく上空から飛び込んできた影によって、エアドールが粉々に粉砕される。
 そして、ノイエ・アースラのブリッジの前に“救い主”が姿を現すが――
「………………え?」
 その正体は彼女の予想だにしない存在だった。呆然とはやてが声を上げ――
「…………“アレ”が、エネルギー反応の正体です」
 そんな彼女に、シャリオが震える声で報告した。
「エネルギー反応の正体は、あの……」
 その言葉に合わせるかのように右腕の光刃を頭上に掲げ――

 

「マグマトロンです!」

 

 振り下ろした。まるで見得を切るようにかまえ、マグマトロンがノイエ・アースラのブリッジを守るように力強くその翼を広げた。
「ま、マグマトロンが……」
「ノイエ・アースラを守った……!?」
 まさかマグマトロンが自分達を救うとは――まったくの予想外の展開に、かがみやひよりが呆然とつぶやき――
「私とて、助けたくはなかったさ」
 そんな彼女達の疑問は、当事者にとっても同意したいものだった。ため息をつき、マグマトロンにゴッドオンしているトーレがそう答える。
「だが、仕方あるまい。
 ウチの姉が、どうしてもというのだからな」
「姉…………?
 それって、まさか――」
「来ます!」
 聞き返そうとしたみゆきの言葉をみなみがさえぎった。同時、彼女達の守るノイエ・アースラに向け、再び各勢力の無人兵器が襲いかかり――
「インベイド、スコール!」
 ノイエ・アースラの背後から、彼女達を飛び越えるように放たれた砲火の雨が、迫り来る無人兵器群をまとめて、広範囲にわたって薙ぎ払う!
「援護砲撃……!?」
「でも、この規模……なのはさんだって、こんなの……!?」
 今度は一体誰が救ってくれたのか。こなたやかがみがつぶやき、砲撃の放たれたあたりへと振り向いて――
「アレって……ウーノさんの、アグリッサ!?」
 そう。つかさの言葉と同時、砲撃で巻き起こった爆煙の向こうから姿を現したのは、天をも突かんばかりにそびえ立つ超弩級トランステクター、アグリッサだ。
 そして、その両腕から再度砲火が放たれた。無数のエネルギーミサイルが、再びノイエ・アースラに殺到してきた無人兵器を蹴散らしていく。
「機動六課――母艦を前に出しすぎです」
「ウーノが援護してくれてるから、早く下がって!」
 さらに、その周りにはセッテのサンドストームやオットーのクラウドウェーブ、クアットロのブラックシャドー、地上にもディエチのアイアンハイドが控えている。セッテやディエチが告げ、彼女達もノイエ・アースラの援護を開始する。
「で、でも、どうしてアンタ達が……!?」
「トーレ姉様が言ったでしょう?
 『私達だって不本意だけど仕方なく』って」
 どうしてスカリエッティ一派がこちらを援護するのか――尋ねるかがみに、クアットロがため息まじりにそう答え、
「ドクターが、派手に動いて騒ぎを起こしてくれたザインに興味を持ったこと。
 それと……ウーノがグリフィス・ロウランを守りたがったこと。
 この二つの理由で、ボク達が出ることになった」
 続いてオットーが説明し、彼女のIS“レイストーム”で自分達を狙ってきたエアドールを蹴散らしていく。
「ウーノさん……」
「気にしないでください」
 彼女が援護を提案してくれたということか――名をつぶやくグリフィスに対し、ウーノは静かにそう答えた。
「これが……私の出した結論です。
 どんな形で私達決着がつくにしても……やっぱり、あなたには死なないでほしいみたいなんです、私。
 ――そのためにも、この場は死んでも守り通します!」
 最後はどちらかといえばグリフィスではなく自分自身に向けた叱咤――気合を入れ直し、ウーノはアグリッサの火力を総動員。迫る無人兵器を片っ端から破壊していく。
「まぁ……そういうことだ」
「この場限りだけど、一応は共通の敵を叩くための共同戦線ってことで。
 ホントにこの場限りだろうけど、仲良くやりましょ?」
 しめくくるのはトーレとクアットロだ。二人が口々に告げ、ナンバーズはそれぞれの定めた獲物に向けて攻撃を開始した。
 

 そんな戦いを静かに見下ろす廃棄ステーションでは――
「じゃあ、ザイン様。
 私も……」
「えぇ。
 お願いしますよ、セイレーン」
 そろそろ自分達も動かなければ――立ち上がり、告げるセイレーンに対し、ザインは静かにそう答えた。
「では、私もそろそろ……」
 今度は自分の番だ。つぶやき、ザインもまたその場を後にする。
「ディセプティコンも、ユニクロン軍も……スカリエッティ一味も現れた……
 すべては、予定通りに進んでいる……」
 そう、この展開は彼にとってすべて予定の内――こみ上げてくる笑いを隠し切れず、ザインの口元が歪む。
「これで後は、柾木ジュンイチ一派が現れるのを待てば……」
 

「…………あと少しで、ノーヴェ達の介入予定時刻か……」
 先行したノーヴェ達に構築したミッションプランを転送し、自らもマグナと共に出撃――遅れて現場に向かう途上で、ジュンイチはマグナダッシャーのコックピットで静かにつぶやいた。
《ジュンイチ……
 本当に、ザインは何か手を隠していると?》
「可能性は高いな。
 一番考えられるのはデブリの落下強行だけど……」
 尋ねるマグナに答えるジュンイチだが、その表情は優れない。
(デブリの落下強行……ザインならそのくらいは平気でやる。
 けど……あのザインが、“「平気でやる」程度のことで終わるだろうか”……?)
 何か、とてつもなくイヤな予感がする。少しでも早く自分も現場に加わらなければと、ジュンイチは気合を入れ直し――
《――ジュンイチ!》
「――――――っ!」
 レーダーからの警告音と同時、マグナの声が上がる――とっさにジュンイチはマグナダッシャーをドリフトさせ、飛来した攻撃を回避する。
 その攻撃は――
「ブラッドファング、だと……!?
 チンクか!」
 うめき、モニターを切り替える――表示された上空の映像には、静かに空中に佇むブラッドサッカーの姿がハッキリと映し出されている。
「何考えてやがる……この大変な時に!
 マグナ!」
《えぇ!》
 

「エヴォリューション、ブレイク!」
 ジュンイチの叫びにマグナが答え、マグナダッシャーが力強く大地を駆け抜ける。
 そして、車体両横の装甲が上部へと展開。さらに車体下部の推進器で起き上がると共に、車体後部が180度回転、後方へとスライドして左右に分割。つま先が起き上がり両足へと変形する。
 続いて、運転席が左右に分かれて肩アーマーとなり、その下部に折りたたまれるように収納されていた腕が展開。拳がその内部から飛び出し、力強く握りしめられる。
 車体上部――変形の結果背中となったそこに配された砲台はキャノン部が前方に倒れてショルダーキャノンに。ボディ内部からロボットモードの頭部がせり出し、その額から変形に伴い跳び下りていたジュンイチに向けて誘導トラクターフィールドが展開される。
 放たれた光に導かれ、ジュンイチはマグナダッシャーへと引き寄せられ――その姿が消えた。一瞬にして機体内部の圧縮空間に用意されたライドスペースへと転送される。
 そこに用意されたコックピットシートに腰かけ、ジュンイチはシート両側に設置されたクリスタル状のスロットルレバーを握りしめる。
「マグナ! 全システム起動!
 戦闘コンバットシステム――Get Ready!」
《了解!》
 マグナからの答えと共に、ジュンイチはスロットルレバーを勢いよく押し込む――変形を完了し、システムが完全に起動した機体のカメラアイが輝き、ジュンイチが高らかに名乗りを上げる。
「“龍”の“炎”に“王”の“牙”!
 “不屈の果てに高みあり”!
 
龍炎王牙――マグナブレイカー!」

 

「どういうつもりだ、チンク!?」
 変形したマグナブレイカーで上空へ――ブラッドサッカーにゴッドオンしたチンクと対峙し、ジュンイチは彼女に問いかけた。
「今がどういう状況か……わかってないのか!?」
「わかっているとも」
 しかし、チンクはあくまで冷静にジュンイチに答えた。
「だからこそ……私はこの場に現れた!
 そう――貴様の前に!」
 言い放つと同時、チンクが動く――猛スピードで間合いを詰めてきたブラッドサッカーが、両手に集めたブラッドファングで刃を形成。振り下ろされた斬撃を、ジュンイチもマグナセイバーを両手にかまえて受け止める。
「状況がわかってるなら……どうして仕掛けてくる!?
 今は、お互いこんなことをしてる場合じゃないだろ!」
「している場合だとも!」
「どこがっ!」
 チンクに言い返し、一気に押し返す――ジュンイチに初撃を弾かれ、チンクは一旦間合いを取り、
「解せないか。私がどうして今この場に現れたのか。
 ならば今……その答えを見せてやる!」
 チンクのその言葉と同時、ブラッドサッカーは巻き起こった“力”の渦に包まれた。
 自身の内よりあふれ出した――

 

 

 “虹色の魔力流”の渦に。

 

 

「な………………っ!?」
 突然ブラッドサッカーを包み込んだ虹色の輝き――しかし、ジュンイチはその輝きに見覚えがあった。
《ジュンイチ、あれは……!》
「“擬似カイゼルファルベ”、だと……!?」
 その正体に思い至り――ジュンイチは気づいた。
 彼女の今の状態、それは――
「まさか……!」

 

 

 

 

 

「ハイパー、ゴッドオン……!?」


次回予告
 
クアットロ 「そういえば、ウーノ姉様って、先日までずっと引きこもってたんですよね?」
ウーノ 「そ、そうね……」
クアットロ 「ってことは、ずっと動かずにいたワケで……
 お腹とか……ひょっとしてたるんd
   
  間。
   
ウーノ 「ナニカ言ッタカシラ?」
クアットロ 「………………」
(↑返事がない。ただの血みどろの屍のようだ)
ウーノ 「次回、魔法少女リリカルなのは〜Master strikerS〜
 第100話『砕ける星〜禁忌の砲火〜』に――
 ハイパー、ゴッド、オン!』

 

(初版:2010/02/20)