新暦0071年、4月始め。
第162観測指定世界――

「うーん……
 みんな、まだかなぁ……」
 見晴らしのいい岩山の上で、ひとりの少年トランスフォーマーがそわそわしながらパートナーの到着を待ちわびていた。
 時空管理局・本局所属嘱託トランスフォーマー、魔導剣士ジャックプライムだ。
 そして――
「いい加減落ちついたらどうだ?」
 そんな彼に告げるのは、守護騎士“ヴォルケンリッター”の名を冠せられたトランスフォーマーが筆頭――魔闘騎将ビッグコンボイである。
「すでにこちらの世界には到着しているはずだ。
 到着はもうすぐ――なぜそのわずかな時間が待てん?」
「だって、久しぶりなんだよ、みんな一緒の任務なんて」
 ビッグコンボイの言葉に、ジャックプライムは「むーっ」と口を尖らせて答える。
「なのはとはもちろん、ボクとフェイトだって最近は別件ばっかりでちっとも一緒に仕事してないんだよ。パートナーなのに。
 ビッグコンボイだってそれは同じでしょう?」
「オレの方は当然だ。
 捜査任務になると、オレはむしろ役立たずだからな」
「センサー性能低いもんねー」
 ビッグコンボイの言葉に、ジャックプライムがクスクスと笑いながら告げると、
「しかし――カンは貴様より優れているようだな」
「え………………?」
 思わず眉をひそめるジャックプライムにかまわず、ビッグコンボイは上空を見上げ、
「最強の――お姫様達の到着だ」
 そう告げると同時――彼女達はその場に舞い降りた。
 

「お待たせ、ビッグコンボイ」

 時空管理局特別捜査官:八神はやてwith“ユニゾンデバイス”リインフォースU&“騎士杖”シュベルトクロイツ
 

「久しぶりだね、ジャックプライム」
《息災なようで何よりです》

 時空管理局嘱託魔導師・三等海尉相当官:フェイト・T・高町with“閃光の戦斧”バルディッシュ&“雷光の鳳凰”ジンジャー
 

 そして――

 

「二人とも、元気だった?」
《今日は、みんなよろしくね!》

 時空管理局嘱託魔導師・二等空尉相当官:高町なのはwith“魔導師の杖”レイジングハート&“桜花の光竜”プリムラ

 

 

 管理局にその名を轟かせる3人の少女魔導師“トリプルブレイカーズ”揃い踏みの瞬間だった。

 

 


 

前奏1

ファースト・コンタクト
〜最初の“始まり”〜

 


 

 

《じゃあ、改めて今日の任務の確認ね》
 合流を果たし、ビークルモードのビッグコンボイ、ジャックプライムに乗り移動するなのは達――そんな彼女達に告げるのは、時空間航行艦“アースラ”の通信司令、エイミィ・“ハラオウン”だ。
 そして――傍らに座る彼女のパートナートランスフォーマー、分析情報官パーセプターがその後を続ける。
《そこの世界にある遺跡発掘先を2つ回って、発見された“古代遺物ロストロギア”を確保。
 具体的に言えば、最寄の基地で詳しい情報を聞いて、モノを受け取り、アースラに戻って本局に護送、という流れだ》
「平和な任務ですねぇ」
《ま、モノが“古代遺物ロストロギア”だから油断は禁物だけどね》
 思わずつぶやくなのはにエイミィが答えると、
「…………あれ? ちょっと待って」
 ふと気づき、ジャックプライムが声を上げた。
「ボク、出発前の説明だと『遺跡は3ヶ所ある』って聞かされてたんだけど」
《あぁ、それは――》
《ウチの担当が今言った2ヶ所だけだからだ》
 エイミィをさえぎってそう答えたのはアースラの艦長、クロノ・ハラオウンである。
《残る1ヶ所はアリシアが向かっているし――陸士部隊の方でも動いてくれた。
 このテのことに長けた人材がちょうどヒマを持て余していたらしくてな》
「陸士部隊が……?」
 その言葉に眉をひそめたのはビッグコンボイだ。
「アリシアはともかく、陸士部隊に“古代遺物ロストロギア”対策のこなせるヤツがいたか?
 確か陸士部隊は、少し前の大規模な組織改革で、希少技能保有者レアスキルホルダーは軒並みよそに飛ばされたはずだが」
「えー? そんなことないんじゃないかな?
 なのはやフェイトみたいに、希少技能レアスキル持ってなくても強い子っているでしょ?」
「あのなぁ……」
 聞き返すジャックプライムにビッグコンボイは思わずため息をつき――代わりになのはが答えた。
「うーん、陸士部隊って、現場の叩き上げが多いせいか、よそよりも実力重視の傾向が強いんだよね。
 だから、希少技能レアスキルなしでも強い人、ってことになると、もう一気に出世しちゃって――」
「あっという間に指揮官職。後方職になってまうから、現場に出れなくなってまうんよ」
「へー……」
「そんな状態だから、実際の問題として、陸士部隊は“古代遺物ロストロギア”対策が苦手、っていうのが最近の定説なんだよね」
 なのはとはやての言葉に納得するジャックプライムにフェイトが告げると、
《確かに、正規の職員にそのテのことをこなせる人材はほとんど後方だな》
 そう前置きし――クロノは一同に告げた。
《だが――非正規職員となると話は別だ。
 今回動いてくれたのは、嘱託登録もしていない、完全な民間協力者だそうだが――実力の方は太鼓判を押されたよ》
「そうなんだ……
 正規部隊の人達が太鼓判を押されるくらいなんだから、信用してもいいんだろうけど……」
「一応、後で状況を確認してみるか」
 フェイトの言葉にビッグコンボイがつぶやくと、
《まぁ、戦力が戦力だし、油断しなきゃ大丈夫だよ》
 そんな彼らにエイミィが告げる。
《アリシアちゃん達の方もそうだけど、こっちだって天下の“トリプルブレイカーズ”やそのパートナーがせいぞろいして、もう1ヶ所にはシグナムとスターセイバー、ザフィーラとアトラスが向かってるワケだから》
「……むしろ過剰投入な気がするんですが」
《あはは……それは私達も思った》
 思わずつぶやくなのはにエイミィが答えると、
《だが、逆に言えばそれだけの価値が見込まれる“古代遺物ロストロギア”だ、ということだ》
 肩をすくめ、クロノがその言葉に付け加えた。
《キミ達の実力なら、多少の天変地異でもなんとかできるだろう?
 よろしく頼むぞ、みんな》
『了解!』
 クロノの言葉に一同がうなずき――そんななのは達の視界に、管理局の施設のシルエットが見えてきていた。
 

『トランスフォーム!』
 北部の定置観測基地に到着。なのは達を降ろすと、ジャックプライムとビッグコンボイはビークルモードからロボットモードへとトランスフォームする。
「さて、基地の人は、と……」
 つぶやく、なのはが周囲を見回すと、
「あ、来た来た」
 はやてが気づき、振り向いた先から、出迎えと思しき少年と少女がこちらに向けて駆けてくるのが見えた。
「遠路お疲れ様です。
 本局管理補佐官、グリフィス・ロウランです!」
「シャリオ・フィニーノ通信士です!」
「うん。こっちこそお待たせ」
 行って、元気に敬礼して名乗る二人――グリフィスとシャリオに対し、こちらもなのはが代表して答礼する。
「ご休憩の準備をしてありますので、こちらへどうぞ」
「あぁ、平気だよ。すぐに出るから」
 応接室へと案内へ案内しようとするグリフィスになのはが答えると、はやてがグリフィスに告げた。
「大丈夫。ジャックプライムとビッグコンボイに乗せてきてもらったから、そんなに疲れてへんし。
 それに、仮にここまで飛んできたとしたって、これくらいの行程じゃ疲れたりせぇへんよ。
 グリフィス君は知ってるやろ?」
「は、はい……
 存じ上げてはいるのですが……」
《…………?
 はやて、知り合い?》
 実体化したプリムラが首をかしげながら尋ねると、そんな彼女にはビッグコンボイが答えた。
「グリフィス・ロウラン……この名、聞き覚えのある部分があると思うんだが?」
「え………………?」
 ビッグコンボイの言葉に思わず考え込み――ジャックプライムは気づいた。
「……あぁぁぁぁぁっ!
 “ロウラン”って!」
「そう。
 グリフィスくんって、レティ提督の息子さんなんよ」
《あー! そういえば似てる似てる!》
 答えるはやての言葉に、プリムラは思わず声を上げ、グリフィスの周りを飛び回る。
「こら、プリムラ。戻っておいで」
《はーい♪》
 たしなめるなのはにプリムラが答えると、フェイトはシャリオへと向き直り、
「フィニーノ通信士とは、初めてだよね?」
「はい!
 でも、みなさんのことはすごーく知ってます!
 あの“GBH戦役”の英雄の皆さんとこうしてお会いできるなんて光栄です!」
「え、英雄なんて、そんな大したものじゃないと思うけど……」
 興奮気味のシャリオの言葉になのはが苦笑まじりにつぶやくと、グリフィスがシャリオを軽く小突き、たしなめる。
「シャリー、失礼だろう」
「あ、いけない、つい……」
《シャーリー、って呼んでるんですか?》
「あ、はい……
 子供の頃から、家が近所で……」
 気になったのか、プリムラに続いて実体化して尋ねるジンジャーの問いに、グリフィスは幾分恐縮気味にそう答える。
「幼馴染か……
 いいね、私達も幼馴染だよ」
「私となのはは、いろいろあって姉妹でもあるんだけどね」
 笑いながら付け足すフェイトにうなずき、なのはは改めてグリフィス達に告げた。
「幼馴染の友達って大切だよ。
 二人とも仲良くしなきゃダメだよ」
『はい!』
 

 所変わって、時空管理局、本局――
〈ユーノ、美由希さん。
 そっちのデータは?〉
「もう解析を進めてる」
「なのは達が戻る頃には出揃うよ」
 管理局データベース“無限書庫”司書長、ユーノ・スクライアと副司書長、高町美由希は、クロノからの通信にそう答えた。
 と――
「はいよ、ユーノ、美由希」
 両手に本を抱え、そんな二人の元へとやってきたのは、燃えるような赤い髪に獣の耳が特徴的な小さな女の子――
「あぁ、ありがとう、アルフ」
「助かっちゃった」
「このくらいなら軽い軽い♪
 フェイトの消耗を抑えてこんなに小さい身体になったけど、だからってパワーまでダウンしてるわけじゃないんだからさ」
 ユーノと美由希に答え、フェイトの使い魔アルフは二人に頼まれていた本をそれぞれ手渡していく。
 そして――
「ユーノ様、美由希様。
 頼まれていた区画の整理、終わりましたよ」
 スポーツカーからトランスフォームするブリット、小型4DWからトランスフォームするバンパー、二人のマイクロンと共に戻ってきたのは、ヘリコプターからトランスフォームするマイクロン、ホップだ。
「おや、クロノ様、お久しぶりです」
〈ホップも、それにブリットもバンパーも元気そうだな〉
 通信ウィンドウに気づき、一礼するホップにクロノが答えると、
〈私もいるよー♪〉
「これはこれは、エイミィ様も」
 通信に割り込んできたエイミィにも、ホップは笑顔で一礼し――
「その様子では、ヴィータ様共々“旦那様”と上手くやっておられるようで何よりです♪」
〈そういう小恥ずかしい気遣いはいらないっ!〉
 告げるホップのその言葉に、当の“旦那様クロノ”は顔を真っ赤にして声を上げる。
「いいじゃない。
 ホップは別にからかってるワケじゃなくて、本気でそう思ってるんだし」
〈悪意がないからこそ、余計に恥ずかしいんじゃないですか〉
 苦笑まじりにホップのフォローに回る美由希の言葉に、クロノは軽く咳払いしながらそう答える。
「けど、意外といえば意外だったよね。
 まさか、よりにもよってクロノがエイミィさんとヴィータ、両方と籍を入れるなんて」
〈まぁ、ミッドチルダは一応法律上は一夫多妻を認めてるからね。
 倫理上の問題とか、妻同士の仲とか、経済的なこととか……いろいろあって実行する人達がほとんどいなかっただけで〉
 エイミィがユーノに答えると、ホップがそんな二人に告げる
「いいじゃないですか。
 エイミィ様とヴィータ様の仲もおよろしいですし、どちらか一方を選んで遺恨を残す心配もないですし。
 それに……何より、クロノ様達が前例を作ってくださったおかげで――」

「恭也様もようやく踏ん切りをつけられたようですし」

『《………………》』
 瞬間、場の空気が沈黙し――
『《……えぇぇぇぇぇっ!?》』
 一瞬にして、その沈黙は驚きの絶叫へと変わった。
「何!? ホントなのか、美由希!?
 今朝もミッドのあいつらからメールをもらったけど、今までそんなこと一言も言ってないよ!」
「う、うん……」
 詰め寄るアルフにうなずくと、美由希はホップへと向き直り、
「けど、ホップはどうしてそのことを?
 私はシグナムさんから聞いてたけど……『騒ぎになるからまだ秘密にしててくれ』って、恭ちゃん、まだおとーさんにもおかーさんにも言ってないんだよ」
「先日、ミッドチルダの地上部隊にお遣いで出向いた際、厚生部で恭也様達を見かけまして。
 シグナム様と知佳様が、それはもう楽しそうに式場を選んでおられましたよ」
 本人達が目撃されていた。
 

〈皆さんの速度ならポイントまでは15分ほどです。
 “古代遺物ロストロギア”の受け取りと艦船への移動までをナビゲートします〉
「はい。
 よろしくね、シャーリー」
「グリフィスくんもね」
 観測基地を出発し、発掘現場への移動中――連絡してきたシャリオに、フェイトとなのはが答える。
 現場までは道が悪いということで、飛行しての移動だ。ジャックプライムもパワードデバイス“キングフォース”と合体、スーパーモード・キングコンボイとなってビッグコンボイと共について来ている。
 と――はやてが唐突につぶやいたのは、そんな時だった。
「しっかし、私達ももー6年か……」
「…………?
 どうした?」
「あ、いや……
 最初の頃と比べたら、みんな一緒の任務も減ったなー、って」
 ビッグコンボイの問いにはやてが答えると、今度はプリムラが彼女に尋ねた。
《そういえば、みんな今年で中学も卒業だよねー……
 はやては、このまま正式に局入りでしょ?》
「せやね。
 なのはちゃん達は進学やったね?」
「うーん……
 私達、局入りするには微妙な立場だしね……」
 先程のシャリオの興奮ぶりからもわかるとおり、“GBH戦役”における自分達の活躍は未だ伝説扱いだ。
 そしてそれを快く思わない者達も未だ健在なワケで――そんな者達からの干渉を避けようと考えるクロノの根回しによって、なのは達は現在も正式な局入りを渋られている状態だった。
 実際、はやてや守護騎士達の入局にも紆余曲折あった――保護観察を兼ねた嘱託勤務での実績がなければ、彼女もなのは達同様未だに局入りできないでいただろう。
「そういえば……はやて、ミッドに引っ越す、みたいなコト前に言ってたよね?
 いいトコ見つかった?」
「んー、まだ探しとるところやね」
 ふと思い出し、尋ねるキングコンボイに、はやては苦笑まじりにそう答えた。
ミッド首都クラナガンの南側にみんなで暮らせる家、となると、なかなかねぇ……」
「いざとなったら、マキシマスにでも住むか?」
「そんな手抜きは、家主として許さへんよ♪」
 からかうビッグコンボイにはやてが笑いながら答え――
〈あのー……〉
 そんな彼女達に、突然シャリオが通信してきた。
《どうしました?》
〈いえ――発掘地点と、通信がつながらなくて……〉
 ジンジャーに答えるシャリオの言葉に、なのは達はすぐに表情を引き締めた。
 発掘現場で何が起きたのかはわからない。だが、モノがモノなだけに、何かが起きたとなれば油断できない。
「キングコンボイ!」
「うん!
 キングジャイロ!」
 フェイトに答え、キングコンボイは左腕となっているキングフォースの1機、キングジャイロを射出、先行させて現場の様子を探る。
 そして、キングジャイロが送ってきた映像に映っているのは――
「機械兵器――!?」
「数もいる……
 分担して対応する――オレとキングコンボイが正面に出るぞ!」
 うめくキングコンボイに告げ、ビッグコンボイは一気に現場に向けて加速する。
「私達も行くよ!
 救助には私が行くから、フェイトちゃんは――」
「うん! 遊撃に回る!
 はやてとリインは上空から指揮をお願い!」
 なのはとフェイトも続いて加速、そしてはやてとリインも上空に回り込み、
「おし!
 やるよ、リイン!」
《はいです!
 ユニゾン、イン!》
 はやてに答え、リインが彼女に融合ユニゾン、戦闘態勢に入る。
 一方、プリムラは中継基地のシャリオ達に通信し、
《中継! こちら現場!
 発掘地点を襲う不審機械を発見! 強制停止を開始しちゃいます!》
〈は、はい!
 本部に中継します!〉
「お願いね!」
 シャリオの言葉にうなずき、なのはは一直線に現場に急行、そして――
〈Protection!〉
 レイジングハートがプロテクションを発動。発掘員を狙った機械兵器群の魔力弾を射線に割り込んで防御する。
 新たな存在の出現に、機械兵器群は今度は妨害者であるなのはへと狙いを向けるが――
「ファルコンランサー!」
《ファイア!》
 フェイトとジンジャーの攻撃が降り注いだ。雷光を伴った魔力弾の雨に、機械兵器群はいったん後退し――
「こっちは――」
「行き止まりだ!」
 その先にはキングコンボイとビッグコンボイが回り込んでいた。カリバーンとシュベルトハーケン、各々のデバイスを手に打ちかかる二人から、機械兵器群はクモの子を散らすかのように逃げていく。
 とりあえず急場はしのいだ――当面の安全を確保し、プリムラはなのはの身を離れ、発掘員の元へと飛ぶ。
《大丈夫ですか!?》
「は、はい……」
《よかった……
 あれは一体何なの?》
「わかりません……
 これを運び出していたら、急に現れて……」
《そうなんだ……
 私のデータにも、あの機械に該当するデータはないし……どこかの誰かが作った新作かな?》
 “古代遺物ロストロギア”の入った入れ物を見せ、答える発掘員の言葉にプリムラが首をかしげると、そこへシャリオから通信が入った。
〈こちら中継! やはり未確認!
 危険認定、並びに破壊停止許可が出ました!〉
「……だそうや。
 発掘員の救護は私が引き受ける! みんなは思いっきりやってえぇよ!」
『了解!』
 はやての言葉になのは達がうなずいた、その時――
〈Master!〉
「え………………?」
 レイジングハートが声を上げ、なのはが視線を向けたその先で、機械兵器群は一斉に何かのフィールドを展開する。
「フィールドエフェクト……!?
 レイジングハート、様子見でワンショット!」
〈Blitz shooter!〉
 なのはの言葉にレイジングハートが答え、桃色の魔力弾が機械兵器群へと放たれる――が、着弾するかと思われた瞬間、魔力弾の魔力結合がほどけ、消滅してしまった。
 あれは――
「無効化フィールド!?」
Seached jummer field.ジャマーフィールドを検知しました
アンチマギリンクフィールド……!?
 AAAランクの魔法防御を機械兵器が……!?」
 なのはとバルディッシュの言葉に、フェイトは思わず眉をひそめた。
 AMFは極めて高ランクの魔法防御だ。単なる機械でそれを可能にしているとは、あの機械兵器群は相当に高いレベルの技術で作られていると見ていいだろう。
 そんなものを、一体誰が、何の目的で――?
《はわわっ、AMFって言ったら、魔法が通用しないってコトですよ!?
 魔力結合が消されちゃったら、どんな攻撃も通らないですーっ!》
 一方、みんなの分析結果に大あわてのリインだったが、
「あはは……リインはやっぱりまだちっちゃいな」
 そんな彼女に、はやては思わず苦笑した。そして、はやてに代わってなのはがリインに説明する。
「覚えとこうね。
 戦いの場で、『これさえやっとけばとりあえず絶対無敵』って定石はそうそうないんだよ。
 どんな強い相手にも、どんな強力な攻撃や防御の手段にも、必ず“穴”はあって、崩し方もある。
 本当に“絶対無敵な最強の人”がいるとしたら――それはその“穴”を性格に見極められる人。相手の“穴”を的確に狙えて、自分の“穴”を確実に埋められる、そんな人のことを言うんじゃないかな?」
 言って、なのはは周りの面々を見回し、
「と、いうワケで、あのフィールドの攻略法を思いつく人ー?」
 すぐに返答は返ってきた。
《蹴る!》(プリムラ)
「斬る!」(キングコンボイ)
「実体弾でブッ飛ばす」(ビッグコンボイ)
「…………ね?
 パッと思いつくだけでも、これだけAMFの崩し方ってあるんだよ。
 あとは、その中から自分にできるものを選べばいいの。簡単でしょ?」
《なるほどです……》
 なのはの言葉にリインが納得した、その時――
「もうひとつあるぜ!」
 その場の面々のものではない、新たな声が彼女達に告げた。
「フォースチップ、イグニッション!」
 そして、声の主は真紅の――スピーディアのフォースチップをイグニッション。背中の4つのローラータイヤが基部ごと分離。その手の中に納まり、両端にハンマーを備えた武器となる。
 そのまま、彼はそのハンマーを振りかぶり――
「粉々に、ブッつぶーすっ!」
 言って――インチプレッシャーはダブルヘッドハンマーで間合いの中の機械兵器群をまとめて叩きつぶしてみせた。
「インチプレッシャー!?
 どうしてここに!?」
「配達のバイトだ。
 ここの発掘隊に、発掘品の梱包材の補充にな」
 驚くフェイトに答えると、インチプレッシャーは上空のなのはを見上げ、
「魔力が通らないなら魔力以外のものでブッ飛ばす。
 魔法でブッ飛ばす場合も発想は同じ。魔力弾や魔力砲撃じゃなくて、魔法で操った“魔力以外のもの”を叩きつけてやればいい――だろ?
 たとえば――」
 言って、インチプレッシャーはダブルヘッドハンマーを振り上げ――
「小石、とか!」
 ゴルフの要領でかっ飛ばした岩が、地面で未だもがいていた1機を直撃。完全に破壊する。
《ナイスコントロールです……》
「さすが、局OBのゲートボール大会をヴィータと二人で荒らし回った腕前は健在やね……」
 絶妙なコントロールで岩を叩き込んだインチプレッシャーの腕前にリインとはやてが感心していると、
「あぁっ! 逃げるよ!」
 難を逃れた何体かが逃走していくのに気づき、キングコンボイが声を上げる。
「敵の情報が欲しい。
 追うか?」
「あー、えぇよ。こっちで捕獲する」
 ビッグコンボイの問いにそう答えると、はやてはリインに告げる。
「リイン、頼んでえぇか?」
《はいです!
 発生効果による足止め、ないし捕獲となると……これですね!》
 言って、リインは魔法を発動。機械兵器群の周囲に凍気が渦巻き――
凍てつく足枷フリーレン・フェッセルン!》
 リインの言葉と共に、それは完全に凍結。見事ターゲットを氷の中に捕獲してみせた。

「これが問題の“古代遺物ロストロギア”ですね?」
「はい……」
 戦闘が終了し、ジャックプライムとキングフォース、ビッグコンボイは周囲の警戒。残りのメンバーは本来の任務である“古代遺物ロストロギア”の回収に取りかかった。問題の品を前に尋ねるフェイトに、発掘員がうなずく。
「中身は宝石のような結晶体で、“レリック”と呼ばれています」
《“レリック”……確認しました。
 確かに、回収を依頼された“古代遺物ロストロギア”です》
 発掘員の言葉にジンジャーがフェイトに報告すると、
「おーい、どけどけ、ガキども。
 梱包始めっぞ」
 そんな彼女達を押しのけ、インチプレッシャーは“レリック”の収められたケースを受け取ると持ってきた資材で手早く梱包していく。
「おい、八神んトコのチビスケ。
 封印処理頼まぁ」
《むーっ! チビスケって言わないでくださいですぅ!》
 インチプレッシャーの言葉に抗議の声を上げ、それでもリインは彼のもとへ向かい――
〈……し…………こちら……〉
 突然、そんな一同のもとに通信が入った。
 その声は――
 

〈こちらアースラ派遣隊。
 シグナムさんですか?〉
「その声……なのはか?」
 こちらの通信に対し、帰ってきたのは信頼の置ける友の声――ザフィーラと共に地上に降下し、シグナムは思わず声を上げた。
「そちらは無事か?」
〈機械兵器の襲撃があったんですが……
 ……『そちらは』ってことは、まさかそっちも?〉
「あぁ。問題発生だ。
 ただし……こちらは“襲撃”ではなかったがな」
 なのはに答えると、シグナムは息をつき、
「危険回避のためすでに無人だったのが不幸中の幸いだったが……発掘現場は跡形もない。
 先程、ヴィータとシャマル、ビクトリーレオとフォートレスも緊急で呼び出した」
 そして――シグナムに代わり、アトラスと共に後ろに控えていたスターセイバーが告げる。
「そっちも十分に気をつけろ。
 今回の任務――気楽にこなせるものではなさそうだ。あらゆる意味でな」
 そう告げる彼の視線の先では――

 

 

 直径1kmを超える、巨大なクレーターが口を開けていた。


 

(初版:2008/01/04)