「……シグナム達は、大丈夫そやね」
「元々ブレードが斬り込んでいたからな……陣形が崩れていたところへのダメ押しだ。当然と言えば当然だな」
シグナム達の様子は、中継基地を通じてはやて達もモニターしていた。つぶやくはやての言葉にビッグコンボイもまたそう同意する。
《ブレードさん、相変わらず楽しそうです》
《リイン、知り合い?》
《シャマルの彼氏さんです。
“擬装の一族事件”以来のお付き合いですー♪》
尋ねるプリムラにリインが答えると、フェイトは映像の中のブレードの戦いぶりを観察し、
「すごいね、この人……
太刀筋はムチャクチャだけど……反応がそれを補ってものすごく速い」
「これ、絶対正規の訓練とか指導とか受けてないね……純粋に経験だけで磨き上げた剣だよ」
つぶやくフェイトにジャックプライムが答えると、
「けど……」
ふと、なのはが口を開いた。
「これだけ未確認があちこちに展開してるってことは……もしかして、アリシアちゃんのところにも……」
アリシアもまた自分達と同様に襲撃を受けているのでは――思わず不安を口にするなのはだったが、
「心配あらへんよ」
そう答えたのははやてだった。
「ブレードさんがあそこにおるっちゅうことは、3ヶ所目に行ったっていう“地上部隊の助っ人さん”は――」
「間違いなく、“あの人”やから」
「…………やりすぎたかな?」
目の前の光景を見渡し、はやてが“あの人”と呼んだその青年は――“炎”の精霊の魂と“力”を受け継ぐ“精霊転生能力者”、柾木ジュンイチはポツリとそうつぶやいた。
「いや……やりすぎでしょ……」
となりでつぶやくのはフェイトそっくりの、ただし少しばかり幼い感じのする少女――アリシア・T・高町。だが、その表情もまた複雑なものだ。
「うーん……」
そんなアリシアの微妙な回答に思わずうめき、ジュンイチは眼下の“それ”を見下ろす。
大地を大きく穿ったクレーターだ。
大きさはシグナム達の向かった現場のものとほぼ同じ。しかし、決定的に違うのは――
クレーター内のほぼ全域が、真っ黒に焼け焦げていること、そして――
それが、“ジュンイチの手によって”作り出されたものだ、ということだった。
前奏3
サード・ストライク
〜想いの拳は業火の如く〜
「相変わらず、初めて来る世界だと加減ができないよねー……」
「仕方ねぇだろ。
大気中の“力”の濃度は、世界によって違うんだ――慣れるまではどうしても加減が利かなくなる」
「だからって、開き直ってわざとプラス方向に間違うのはどうかと思うけど」
言って、アリシアは自分の抱えていたケースへと視線を落とし、
「まぁ、“レリック”はこうして無事だったからいいけどさ……」
「当然だろ。
今日の仕事はその“レリック”の回収だ――その“レリック”を巻き込むようなヘマはしねぇよ」
「その代わりに丘ひとつ巻き込んで盆地に変えちゃったワケ?」
思わずうめくアリシアだったが、ジュンイチはどこ吹く風といった様子でまるで気にしていない。
「だいたい、AMF持ってる相手をムリヤリ吹き飛ばすかなぁ?
あの状況は、影響範囲外から効果攻撃を狙うなり接近戦を仕掛けるなり、方法を変えて挑むトコロでしょ? いつものジュンイチさんなら」
「いつもならな」
アリシアの言葉に答え、ジュンイチはクレーターへと視線を戻す。
「お前だって気づいてたんだろ?
確かに高レベルのAMFだったけど……その精度に対して、フィールドの安定性に揺らぎがあったことに」
「うん……
まだ完全じゃないね、あのAMF……」
つぶやくように答えるアリシアにうなずき、ジュンイチは続ける。
「あの安定性を見る限り、“あちらさん”もまだ完全に技術のフィードバックができてないみたいだな。
おそらく、現行レベルで現場に出した場合どこまで運用できるか――実動データをとるために送り込んできたんだろう。
まさかオレ達と当たることになるとは思ってなかったんだろうが……“レリック”回収の片手間ってのは、ずいぶんとナメられた話だ。
向こうがそう来るならこっちもこっちだ――ちょうどいいから、こっちも試させてもらったワケだ。
砲撃でAMFを――巻き込んで、爆風で吹き飛ばすようなことをしなくても、直撃によって破るのは果たして可能か、ってね」
「で……手応えは?」
「いきなり最大出力っつーのは、正直やりすぎたと思うけど……砲撃そのもので十分に撃ち抜けるな」
あっさりと答えると、ジュンイチは軽く肩をすくめてみせた。
「思ってた通りだ。
いくら“力”を問答無用で分解できるといっても、AMF自体もエネルギーフィールドである以上、単位空間あたりに展開できるエネルギー量には限界がある。
すなわち、その“単位空間あたりのエネルギー量”が“AMFの効果によって打ち消せるエネルギーの絶対量”と正比例するワケで……
……ついて来てる? 話に」
「失礼な。
つまり、ある一定の空間の中じゃ、AMFといえど打ち消せる“力”の量には限界がある……ってことでしょ?」
「正解♪」
ミッドチルダ・サイバトロンの最長老アルファートリンの命と知識を受け継いだ自分を何だと思っているのか――口を尖らせるアリシアに笑顔でうなずき、ジュンイチは続ける。
「いくらAMFが強力な“力”の分解効果を持っていようが、打ち消せるエネルギー量には限界がある。
つまり、その限界を超えるエネルギー量で、一気に砲撃を叩きこんでやれば……」
「AMFがあろうがなかろうが、おかまいなしにブッ飛ばせる……ってワケ?
まぁ、理屈ではそうなんだけどね……」
言いたいことはわかる。わかるのだが――ため息をつき、アリシアはジュンイチに告げた。
「生身でそれができる人がどれだけいるの?
トランスフォーマーのみんなだって、そこまでの出力を出そうと思ったらイグニッションは必須だよ――シラフでそんなことができるのは、魔導師だとSランク以上、ブレイカーだってマスター・ランク……しかもジュンイチさんみたいな砲撃型じゃないと」
「いいんだよ、オレができれば。
他のヤツらにまで『やれ』なんて言うつもりはねぇし」
そんなアリシアの言葉に対しても、ジュンイチはあっさりとそんなことをほざいてくれる。
「それより、さっさと移動するぞ。
ここに居座って、また襲撃を受けるのはノーサンキューだ」
「そうだね」
ともかく、ここにこれ以上留まる理由はない――ジュンイチの提案にうなずき、アリシアは彼と共に地を蹴った。
「柾木やT・高町……アリシアとの連絡はついたのか?」
「いえ……兄様とも、お姉様とも、まだ……」
なにやら事態が動いたらしい――教会の騎士からの報告を受け、通信を終えたカリムにイクトが尋ねるが、そんな彼にカリムはそう答えて息をつく。
「ですが、お二人の反応のキャッチには成功したようです。
機械兵器群と接触、交戦――撃破後、合流ポイントへの移動を開始したそうです」
「…………そうか……
……教会が自分達を捕捉してることを見越して定期連絡をサボッているな? アイツら……」
カリムの言葉につぶやくと、イクトは腕組みして思考をめぐらせる。
(そういえば……今回の件は柾木の持ち込んできた情報から端を発していたな……)
そう――今回のこの任務は、そもそもジュンイチがカリムの元に“古代遺物”の情報を持ってきたことから始まっていた。
アリシアの研究室に『古代遺跡の発掘現場で複数の“古代遺物”が見つかった』との知らせが入った。迅速に回収するためにも、それぞれの現場に同時に人を送るのが望ましい――そんなジュンイチの提案にカリムが同意する形で、知らない仲でもなかったアースラの面々を通じてはやてに協力を依頼。その流れで、はやてが嘱託でありながら本局のエースとして名高いなのは達を引っ張り出してきたのだ。
普通に考えれば何の不思議もない展開だが――今になって考えてみると引っかかることがある。
(『迅速に回収したい』というヤツの言い分……今になって考えれば、襲撃をすでに予見していた上での判断だったとも――『襲撃される前に回収したい』という意味だったとも考えられないか?
だが、そう考えるとさらにおかしい。襲撃があるとわかっているのなら、そもそもヤツが自ら身内を巻き込むような行動をとるとは思えない……
となると……なぜ柾木はグラシアに話を持ってきた?
そんな話を聞けば、グラシアが協力を申し出ないはずがないことはわかりきっているだろうに……)
もし、襲撃を予見していたとすれば、このような行動をとった理由として考えられる可能性は二つ。
身内を――はやて達を巻き込んででも、言葉通り『迅速に回収する』必要があったのか。
それとも――
(今回の敵と、八神達を接触させたかった……?
だが、何のために……? それに、そうだとすれば、ヤツがすでに襲撃者の正体を知っていなければ話のつじつまが合わない……)
「……オレの気の回しすぎか……?」
「…………?
騎士イクト、どうなさいましたか?」
「いや、なんでもない」
思わずもらしたつぶやきを聞きつけ、尋ねるシャッハに答えると、イクトは気を取り直してカリムに尋ねた。
「それで……柾木もアリシアと共にいるのか?」
「はい。
お姉様とご一緒に、合流ポイントに向かっています」
「そうか……」
「兄様は、お姉様やはやてとは顔見知りですが、お姉様の家族であるエースのお二人とは会ったことがないそうですし……
これを機会に、会ってみたいと思っているんじゃないでしょうか……?」
そうつぶやくカリムだったが――
「いや、それはないな」
対し、イクトはキッパリとそれを否定した。
「おそらく、あとしばらくアリシアを護衛した上で、先行して引き上げる――そんな腹づもりなんだろう」
「そうなんですか?」
「『おそらく』と言ったぞ」
カリムの問いに、イクトはそう即答する。
「だが……フェイト・T・高町はともかく、高町なのはの前にあの男が自ら姿を現すことは当面あるまい。
もし、現状でそんなことがあるとすれば……高町なのはが危機に陥り、しかも自分以外にそんな彼女を救える者がいない、そんな状況にまで追い込まれた時ぐらいだろうな」
「………………?
なぜですか?」
「さぁな」
聞き返すシャッハに対し、イクトはあっさりと答えた。
「オレにも、ハッキリしたことはわからない。
ただひとつ言えるのは、柾木が――」
「会ったこともないはずの高町なのはに対して、なぜか負い目を感じているということだ」
「……ねぇ、ジュンイチさん」
「ん?」
合流ポイントへの移動中、アリシアは不意にジュンイチへと声をかけた。
「スバルちゃん達、元気にしてる?」
「まぁな。
みんな元気にやってるよ――ちょうど来週、“向こう”に帰って遊ぶ約束だってしてるしな」
「そっか……
ここのところ会えてなかったからね――ちょっと気になってたの」
ジュンイチの言葉に安堵し、アリシアは微笑みながらそうつぶやく。
「連絡はとってなかったのか?」
「とってたけど……あの子達、本質的には“イイ子”じゃない?
辛いことがあっても、『心配させたくない』って心の内に隠しちゃう……そういうのって、通信越しじゃやっぱりわからないから……」
「そうか?
オレは通信越しでもわかるぞ。ガンガンツッコミ入れてるぞ」
「みんながみんな、ジュンイチさんみたいな野性のカンを持ってるワケじゃないんだからさ」
「野性か? オレは」
「野性でしょ」
「うーん……」
思わず考え込むジュンイチの姿に苦笑し――アリシアは不意に視線を落とし、
「少なくとも……あたしはムリ。
だから、できるだけ顔を見せてあげたいんだけど……」
「仕方ないだろ。
クラナガン大学、考古学研究室の若きホープ――お前のウワサは、地上部隊にまで届いてんだぜ」
アリシアに答えると、ジュンイチは正面に視線を戻し、
「お前にはお前の“道”がある。
アイツらにばっかりかまけてられないだろ」
そうアリシアに告げるジュンイチだったが――
「スバルちゃん達だけじゃないよ……」
「ジュンイチさんのコトだって、心配なんだよ……」
「………………」
答えるアリシアの言葉に、ジュンイチは思わず黙り込んだ。
「“あんなこと”になって……『心配するな』って言う方がムリだよ……」
つぶやくアリシアの脳裏によみがえるのは“あの日”の光景――
大声で泣きじゃくるスバル――
そんなスバルを抱きしめ、懸命に涙をこらえ――それでも涙を止められないギンガ――
沈痛な面持ちで、目の前に並ぶ棺を静かに見つめるゲンヤ――
そして、別の場所で――
病院のベッドで、全身に包帯を巻かれ――意識もないままに横たわるジュンイチ――
「クイントさん達が“あんなこと”になって、ジュンイチさん達も……
『心配するな』なんて言われたって……」
そう告げるアリシアの言葉に、ジュンイチは答えない。
「一年経って、ようやくみんなの気持ちが落ち着いてきたと思ったら、今度は“擬装の一族事件”……
あの時だって、ジュンイチさんは……」
「…………お前が気に病むところじゃねぇよ」
ようやく口を開き――ジュンイチはアリシアにそう答えた。
「そりゃ、確かに引きずってないって言えばウソになる。
いつまでも引きずっていられないってわかってても……どうしようもない。
“擬装の一族事件”はともかく……」
「“4年前の事件”は、まだ終わってないんだからな……」
「“アイツらを”追い続ける限り、あの事件はずっとついて回る。
『復讐だ』って言われても、オレには反論できねぇ――思惑はどうあれ、やってること自体はまさにそうだからな」
言って、ジュンイチはため息をつき、
「ま、心配すんな。
オレだって、復讐に狂う気はさらさらねぇよ
……狂いたくも、ないしな……」
「…………うん……」
ジュンイチの言葉に、まだ納得のしかねる部分はあるものの、アリシアは複雑な表情でうなずいて――
「――――――っ!?」
ジュンイチが何かに気づいた。突然停止し、地上へと視線を向ける。
「どうしたの? ジュンイt――」
尋ねかけ――アリシアも気づいた。
「…………ジュンイチさん……」
「あぁ。
追撃が来やがった」
表情を引き締め、つぶやくアリシアに答えると、ジュンイチは“紅夜叉丸”を爆天剣へと“再構成”し、
「アリシア。
ここはオレが引き受ける――合流ポイントに向かえ」
「ひとりで大丈夫?」
「問題ねぇよ」
聞き返すアリシアだが、ジュンイチは静かにそう答える。
「どっちにしろ、合流ポイントの手前でオサラバするつもりだったからな――それが早まっただけだよ」
告げるジュンイチの言葉に、アリシアは息をつき――
「…………やっぱり……まだ、なのは達に紹介させてくれないんだ、ジュンイチさんのこと」
「………………あぁ」
しばらくの沈黙の後、ジュンイチはうなずいた。
「まだ気にしてるの?
気にすることなんかないよ――“アレ”は、どう考えたってジュンイチさんが悪いワケじゃないじゃない。
ジュンイチさんが、ひとりで勝手に責任感じて、しょい込んでるだけじゃない」
「わかってるよ、ンなもん」
なんとかフォローを試みるアリシアだったが、対するジュンイチはあっさりとそう答える。
「オレだって、頭じゃわかってんだよ。
けど……頭で納得できても、心で納得できないことってのもあんだよ」
吐き捨てるように――どこか苦しげにそう告げると、ジュンイチはゴッドウィングを広げ、“敵”群の気配のする方角へと飛び去っていってしまった。
「…………まったく、ひとりでなんでも抱え込んじゃうのは相変わらず、か……
“家族に紹介”イベント、また起こしそこなっちゃった」
そんなジュンイチの姿を見送り、アリシアはため息まじりに肩をすくめた。
「“二人だけの秘密”ってのは、個人的に萌えるシチュだけど……こういう“重い”秘密は、正直かんべんしてほしいんだけどね……」
「ったく、アリシアもしつこいっつーの……」
“敵”の追撃部隊はやはりアリシアを狙っている――その進路上に先回りし、ジュンイチは森の中でひとりつぶやいた。
「仲間の家族だぞ――会ってみたくないワケねぇだろうが……」
アリシアとは共にいくつもの事件に対してきた“戦友”同士だ。その家族ともなれば、それなりに興味はわく――しかもその中に管理局内でその名を知られたエースがいるともなればなおさらだ。
だが――
「それでも……しょうがねぇじゃねぇか。
オレ自身が、アイツに会う資格を自覚できねぇんだから」
つぶやき、ジュンイチは静かに、深く息を吐いて“力”を高めていく。
「オレは……大事なものを守ることが、できなかったんだからな……」
その脳裏に、“あの時”のことが鮮明に思い出される――
泣きじゃくるスバルの泣き顔が頭から離れない。
悲しみに沈みながら、それでも自分の無事を喜んでくれるギンガの顔を忘れることができない。
「お前達だけでも生きていてくれてよかった」――そう言ってくれるゲンヤの優しさが、あの時はたまらなく辛かった。
きれいな墓石に刻まれたその名を前にする度、胸が締めつけられた。
そして――
傷つき、血の海に沈む“彼女”の姿を思い出す度、心が停まるかのような錯覚に襲われた。
失う辛さは知っていた。
奪ってしまった後悔も知っていた。
だが――知らなかった。
守りきれなかった無念さを――自分はあの時、心の底から思い知らされた。
あんな想いは、もう二度とごめんだ。
そして――
(もう二度と……誰にもあんな想いはさせねぇ)
だから――
「まずは……“ケジメ”をつけるところから始めないとな」
言って、ジュンイチは森の中から姿を現した襲撃者達へと向き直り――
「………………はい?」
止まった。
目の前に現れたのは、あちこちで現れた機械兵器。
ただし――
「…………なぜデカイ?」
そう。その機械兵器は見た目のデザインはそのままに――およそ3倍ほどの大きさにスケールアップしていた。
これはまさか――
「…………トランスフォーマーのサイズに合わせた、とかか?」
思わずつぶやくジュンイチだが――もしそうだとすれば、実に不合理な選択だと言える。
対TF戦を想定するなら、スケールアップするだけで済ませる必要もあるまい。どうせ大きくするなら、他にも装備を追加した方がいいに決まっている。
テストタイプにしたってお粗末過ぎる巨大な機械兵器を前に、ジュンイチは思わずため息をつき――
「――――――っ!?」
気づいた。気配を察知し、振り向いたジュンイチの周りに、同様の大型機動兵器群が次々に姿を現したのだ。
その数、合計4体。
「なるほど……そういうことか」
そして――その光景を前に、ジュンイチは悟った。
目の前の対TF型(?)がなぜ“ただ大きくしただけ”ですまされているのか――
(単純なスケールアップとそれに伴う出力アップだけに改良点を留めることで開発コストを抑えて、さらに量産も容易にした、か……
対TF戦でも、AMFを主軸においた物量作戦っつー基本は変えないつもりだな……)
「なるほど、コイツらを駒程度にしか考えてないからこそできる開発方式か……
大方、ここにはトランスフォーマーの参戦を見越して投入してきたんだろうけど……見事に大ハズレってワケか」
大体の状況を察し、ジュンイチは思わずため息をつき――
「…………ま、いっか♪」
しかし、ジュンイチはあっさりと納得した。
「どっちみち、てめぇらをこの先に行かせるつもりはねぇからな。
それに――」
相手が対TF戦を想定していようが関係ない。そう告げながら爆天剣を肩に担ぎ、ジュンイチは――
「帰すつもりもねぇ。
1体残らず、ここで叩きつぶしてやるよ」
機械兵器群をにらみつけ、淡々と死刑を宣告した。
その言葉を理解したワケではないだろうが――機械兵器群が一斉に動いた。その巨体から触手に伸ばし、全方位からジュンイチを狙い――
「おせぇ」
次の瞬間、ジュンイチは爆天剣の一振りですべての触手を薙ぎ払っていた。
「ひとつ言い忘れてたけどさ――」
そして――機械兵器群に静かに告げる。
「通すつもりはない。逃がすつもりもない。
そして――」
「手加減してやるつもりもない」
次の瞬間――ジュンイチは爆天剣を投げ飛ばした。正面の大型機械兵器をいともたやすく貫通する。
機械兵器を貫いたことで失速し、後方の木に突き刺さった爆天剣を取りに行くこともせず、ジュンイチは残り3体の機械兵器を見渡す。
「運がなかったな、てめぇら。
こちとら、ちょっとイヤなコト思い出しちまった後でな……すこぶる機嫌が悪いんだ」
言いながら、ジュンイチは息をつき――
「させてもらうぜ――八つ当たり」
その瞬間――動いた。素早く後方に跳躍。包囲陣形から飛び出し、
「ちょうどいい機会だからな……
前々からリクエストのあったネタ技――試させてもらうぜ!」
着地と同時に再度突撃。もっとも近くにいた機械兵器へと正面から襲いかかり――
「衝撃のぉっ! ファーストブリットぉっ!」
放たれたのは“龍翼の轟炎”――放たれた高密度の炎の塊が、竜を形作って機械兵器へと襲いかかった、AMFによって即座に分解され始めるが、消滅しきるよりも速く機械兵器の装甲を打ち貫く!
「撃滅のぉっ!」
続けて、ジュンイチは2体目の懐へと飛び込んで――
「セカンドブリットぉっ!」
拳にまとった高密度の炎――“號拳龍炎”が2体目へと叩き込まれた。装甲を打ち貫き、内部から焼き尽くす。
そして――
「抹殺のぉっ! ラストブリットぉっ!」
トドメの3発目、“螺旋龍炎”が最後の1体を粉みじんに粉砕した。
「……“ギガフレア三連”、シェルブリットばぁじょん」
ジュンイチが駆け抜け、機械兵器群はそのすべてが爆発――飛び散る残骸の中、ジュンイチは静かに告げた。
炎を収束し、叩きつけるギガフレア系の技は、高密度であるがゆえにAMFの影響下であろうがものともしない――文句なしの圧勝だが、
「…………うーん……」
当のジュンイチは浮かない顔で頭をかいた。
「確かにノリ的にはなかなかイケてるネタ技だけどさ……」
ため息まじりに――つぶやく。
「リクエストした張本人がいないと、披露した意味がねぇよなぁ……」
〈こちらアリシア! もう合流地点に到着するよ!
同行のおにーさんはジャマ者退治! 片付けたらそのまま直帰すると思うから、転送回収はいらないと思うよ〉
「了解。なのはちゃん達にも伝えるね。
それに……ジュンイチくんには、後で『ご苦労様』って伝えておくね」
一方、アースラ――中継基地を通じて通信してくるアリシアに答えると、エイミィは別のウィンドウに視線を移した。
シグナム達の交戦の様子だ――すでに大勢は決着がついているが、撃ちもらしてなのは達の方に向かわせるワケにはいかない。現在は逃げ回る機械兵器に対する掃討戦に移行している。
「やっぱり、シグナム達はすごいね。
未確認が相手でもモノともしないで秒殺だもんね。
……まぁ、ブレードさんの場合、未確認な方がむしろ活き活きとしてくるんだけど……」
つぶやき――エイミィはさっきからとなりの夫が静かにしているのに気づいた。
「………………?
どうしたの? クロノくん、難しい顔して」
「あぁ……
これからのことを考えていた」
「『これからのこと』……?」
「アリシアちゃん、先に合流地点に到着するって」
「そうか……
ずいぶんと早いじゃねぇか」
エイミィから連絡を受け、なのは達に伝えるはやての言葉に、なのはを車体の上に乗せているインチプレッシャーは感心してつぶやいた。
「護衛を努めたあの小僧はどうした?」
「なんや、向こうにも機械兵器の増援が出たらしくて……迎撃に向かったって。
終わったらそのまま帰るつもりらしいけど……」
尋ねるビッグコンボイにはやてが答えると、フェイトがそんなはやてに尋ねた。
「はやて。
特別捜査官としてはどう見る? 今回のこと」
「うーん……
あのサイズのAMF発生兵器が多数存在してる、ゆうんが一番怖いな。
今回、この世界に出現してるんが全部であって欲しいけど、そうでないなら規模の大きな事件に発展する可能性もある。
特に量産が可能だったりするとなー」
つぶやくはやてだが――彼女は知らない。
彼女の示唆した“量産の可能性”――まさにその“量産”を前提とした、しかもより大型の対TF型が、ジュンイチの前にその姿を現したことを。
だが、そのことをはやてが知るのはまだ先の話で――
「なのはちゃんとフェイトちゃんはどないやろ?」
「私は、あの未確認が“古代遺物”を狙うように設定されてるのが気になるよ」
逆に尋ねるはやてにはなのはが答えた。
「猟犬がいる、ってことは、その後ろに狩人がいる、ってことだもんね」
「“古代遺物”を狙う犯罪者、か……」
「そう」
なのはとはやての言葉にうなずき、フェイトは渋い顔で正面へと視線を戻し、
「技術者型の広域犯罪者は、一番厄介だから……」
「そういった事件になると、管理局でも対応できる部隊はどれくらいあるか……
人や機材がそろったとして、動き出せるまでどれくらいかかるのか……
そんな状況を想像すると苦い顔にもなるさ」
ちょうどアースラで交わされていたその会話も、なのは達のやり取りにつながるものだった――そう言って、クロノは息をつき、
「実際――“擬装の一族”達の一件の時も、そのあたりの問題から先手を打たれ、余裕を失ったことが、こちらから殲滅以外の選択肢を奪ってしまったワケだしな。
その結果……ジュンイチさんにも辛い役目を背負わせてしまったし……」
「なるほど。
指揮官の頭の痛いとこだね」
「はやても指揮官研修の最中だからな。
これからは一緒に頭を悩ませることになる」
エイミィに答えるクロノの前で、画面にはシグナム達と交戦していた機械兵器が完全に撃墜され、なのは達が合流のため接近している様子が映し出されている。
「まぁ、今回の事件資料と残骸サンプルはその手の準備の貴重な交渉材料でしょ?
事件がどう転ぶかわかんないのなんていつものことだし」
「それはそうなんだがな……」
エイミィの言いたいことはわかるが、そう簡単に問題が解決するワケでもない。思わず渋い顔をするクロノだったが――
「なんとかなるよ」
しかし、そんなクロノにエイミィは笑顔で答えた。
「“プレシア・テスタロッサ事件”も“GBH戦役”も、その後のいろいろな事件も事故も、みんな何とかしてきてるんだもの」
そう告げるエイミィの表情には、恐れも不安も宿ってはいなかった。
「今日はきっちり任務を済ませて、予定通りに同窓会!
ジュンイチくんが来てくれないのは寂しいけど……笑顔で迎えてあげようよ」
「………………そうだな」
エイミィの言葉にうなずき、クロノは軽く肩をすくめてみせたのだった。
(初版:2008/03/08)