「せ、成功、した……」
自らの渡したベルトの力で、信長がその姿を変える――仮面の戦士へと変身した信長の姿に、ブレスは思わず声をもらした。
「な、何だ、お前……!?」
「んー……ギルティ、とかいうらしいぜ?」
一方、突然目の前で獲物に変身されたスパイダークライマーにとってはただ事ではない。うろたえる相手にそう答えながら、変身した信長は一歩を踏み出し――
「――――――っ!?」
突然、その動きが止まった。
〔……殺セ……!〕
不意に、頭の中に“声”が響いたからだ。
〔……奪エ……!〕
「な、何だ、これ……っ!?」
〔……壊セ……!〕
戸惑う信長だが、そんな彼にかまわず、頭の中の声は不穏な言葉をささやき続ける。
〔壊セ……奪エ……殺セ……!〕
そして、そのささやきの度、信長は自分の意識があいまいになっていくのを感じた。
まるで、意識が真っ黒な“ナニカ”に塗りつぶされていくような、そんな感覚――やがて、そんなことを考えることもできないほどにその意識は薄れていき――
「ガァァァァァッ!」
信長ではない、“ナニカ”がそこにいた。
断罪 二
「断罪者ギルティ」
「ガァァァァァッ!」
「――――っ!?」
動きを止めたと思ったら、突然の獣の如き咆哮――信長の身に何が起きたのか、ブレスにはすぐに察しがついた。
だが、信長はそんなブレスに気づくことなく、手近なところにあったベンチに拳を振り下ろした。力任せにベンチを粉砕すると、今度はその先、視界に入った外灯を殴り倒す。
「そんな……暴走……っ!?」
間違いない。彼は今、ギルティの“力”に……変身によって自らの身に宿った“モノ”に振り回されている。
そう。腰に着けたベルト状の装飾品、そしてそこに取りつけた別の装飾品。その中に収められた“モノ”のせいで、彼は今……狂っている。
だが、それはブレスにとっては起きてほしくはなかった、そして彼ならば起きることはないだろうと思っていた現象で……
「あの人でも、ダメなんですか……!?」
せっかく見つけた、希望を託せるかもしれないと思った人物――しかし、結果は見ての通りだ。
というか――
「オ゛ォォォォォッ!」
「く――――っ!」
現状、重要なのはそんな思考よりも身の安全だ。自分の方へと――別に自分を狙ってきたワケではなく、手当たり次第にものを破壊しながらこちらに――向かってきた信長の突進を、横っ飛びに回避する。
すぐに身を起こして、次が来るのに備えて――
「…………あ、あれ……?」
信長はその動きを止めていた――どうしたのかと様子を見ていると、突然糸が切れた人形のように信長のヒザが落ちる。
倒れる信長の腰から、まるで何かに弾かれるかのようにベルトが外れ、飛ばされる……カシャンッ、と乾いた音を立ててベルトが地面を転がる一方で、信長の変身が解除され、そのままその場に倒れ込んでしまった。
「ちょ、ちょっと!?
大丈夫ですか!? もしもし!?」
あわてて信長に駆け寄り、助け起こして――
「………………って……?」
そこでようやく、彼女は気づいた。
「スパイダー、クライマーは……?」
◇
「…………ん……」
まどろみの中、ゆっくりと意識が浮上してくる――徐々に思考が覚醒していく中、まことはうっすらと目を開けた。
「ここは……」
周囲を見回し、つぶやく――ところどころが破壊された公園の一角。空はすでに朝焼けが薄まりつつあり、チュンチュンとスズメの鳴き声が聞こえる。
どうして自分はこんなところで寝ていたのか、軽く小首をかしげながら記憶をたどり――
「…………そうだっ!
あの怪物はっ!?」
思い出した。自分が、クモを思わせる異形の怪物に襲われたことを。
夢――ではない。それは目の前の滅茶苦茶に破壊された公園の光景が雄弁に物語っている。
間違いない。アレは本当にあった出来事なのだ。
ということは――
「いけない――信長くん!」
共にいた信長はどうなったのか。そしてあの、襲われていたと思われる少女は。
あの怪物のことも放ってはおけないが、まずは確実に襲われたとわかっている二人の安否の確認だ――あわてて立ち上がり、まことは自分の車に向けて走り出した。
◇
「………………」
意識が戻り、目を開けて最初に見たものは木目調の天井――“ここ”がどこかはすぐにわかったが、自分がどうして“ここ”にいるのかがわからず、信長は眉をひそめた。
「オレの、部屋……?」
「はい、そうです」
返ってくるとは思っていなかった返事に、驚いてそちらを見る――布団に寝かされた自分のとなりに付き添うように、ブレスが正座していた。
「あのまま野ざらしにするワケにもいきませんでしたから……失礼とは思いましたけど、あなたの持ち物を見せてもらいました。
それで、免許証からここの住所を調べて……」
「…………フンッ」
ブレスの説明に、信長は鼻を鳴らしてそっぽを向く――と言っても、別に持ち物を漁られたことや勝手に自宅に上がりこまれたことに腹を立てているワケではない。
単純に、どう反応したらいいかわからず、反応に困っているだけ――助けられたのは間違いないようだし、礼を言わなければ、とも思うのだが、どう切り出したらいいか、彼の感覚では見当がつかないのだ。
そんな信長に対し、ブレスは次の言葉をつなげ辛くて視線を伏せる――彼女にしても、信長のそんな態度に心を痛めたワケではなかった。
彼女には、それよりももっと懸念すべきことがあったから――
「……あ、あのっ」
「ん?」
「えっと、その……
憶えて……ますか? あの、昨夜のことなんですけど……」
「……あんなモン、記憶力の半分死んでるオレだって忘れられるもんかよ。
怪物に襲われて、お前に言われて、オレが変身して……」
ブレスにそう答えて――信長の言葉がそこで途切れた。
数回に渡り、不思議そうに首をかしげた後、ブレスへと視線を戻し、
「……どうなったんだ?」
「やっぱり、“そこまで”しか記憶がないんですね……」
信長の問いは、ブレスにとっては予想の内だったようだ。息をつき、信長の前で居住まいを正し、
「すべて、お話します。
あなたの身に起きたこと……私のこと……
だから、どうか私に力を貸しt
ぽいっ。(←ブレスを玄関から放り出した音)
ぴしゃっ。(←玄関の扉を閉める音)
がちゃっ。(←玄関のカギをかけた音)
「………………え?」
◇
「あの、すいません! もしもーしっ!」
「帰れ」
扉の向こうから――すりガラスの戸のため、ノックするのは自重しているらしい――聞こえてくるブレスの声に、信長はぴしゃりと言い放った。
「お前、今『力を貸してくれ』って言いかけたろ。
悪いがそーゆーのはお断りだ。他をあたってくれ」
言って、信長は奥に引き上げようときびすを返し――
「そういうワケにはいかないんです!」
ブレスの声と共に、“その肩をつかんで引き止められた”。
「知るか。お前の都合なんて関係ねぇ」
そんなブレスの手を振り払おうとして――信長は気づいた。
(あれ……?
オレ、カギかけ忘れたか……?)
実際にはちゃんとカギはかけた――が、だとしたら自分の肩をつかんでいるこの手は何だというのか。
おかげでちゃんとカギをかけたのか否か、記憶があやふやになってしまった。確かめようと振り向いて――
「――なっ!?」
絶句した。
だがそれも仕方ない。何しろ――まるで扉から上半身が生えているかのように“扉をすり抜けて”ブレスがこちらに入ってきているのだから。
そう、すり抜けている――玄関のガラス戸の向こうに彼女の下半身のシルエットが見えているからそれは確かだろうが、ハッキリ言ってそこはどうでもいい。
「ぅおぉっ!?」
あわててブレスの手を振り払い、大きく後ずさりする――そんな信長をよそに、ブレスは「よいしょ」と改めて全身で家の中に入ってくる。
「お、お前、幽霊か何かか!?」
「失礼ですね。
私は元々この世界よりも高次の世界から来たんですから、“向こうの身体”に戻れば、地上の物質をすり抜けることくらいワケないんですよ」
信長の言葉は、おそらく今の光景を見た者なら誰もが思うであろうこと――対し、ブレスは幽霊呼ばわりに対し、むしろ「心外だ」とばかりに可愛らしく口を尖らせてみせる。
「『コウジの世界』……?
それに、『“地上”の物質』って……」
「はい」
自分の先のセリフからキーワードを拾う信長の言葉に、ブレスは微笑み、告げた。
「だって、私……」
「天界から来た、“天使”ですから♪」
ずべしっ。(←外に放り出されたブレスが顔面着地した音)
ぴしゃっ。(←玄関の扉を閉める音)
がちゃっ。(←玄関のカギをかけた音)
「ちょっ、またですか!?
しかもさっきより扱いがひどい!?」
「やかましいわっ!
壁抜けスキルなんて持った頭のイタイ人とお友達になりたいヤツなんて、今の日本にいると思うかっ!?」
すぐに先ほどと同じようにブレスが上半身だけ“抜けて”きて抗議の声を上げる――が、今度は信長もそんな彼女を待ちかまえていた。“抜けて”きた彼女の頭をぐわしとつかんで言い返す。
そのまま扉を開き(横方向にもすり抜けたのか、開く扉にブレスの身体が引っ張られることはなかった)、ブレスを改めて外に放り出し、
「いいか、何度すり抜けて入ってこようが同じだっ!
オレはお前なんかと関わるつもりなんかねぇっ! あきらめて帰れっ!」
強く言い放ち、ぴしゃりと扉を閉めて三度カギをかける――こちらの拒絶の意志が伝わったのか、もうブレスが扉をすり抜けて入ってくることはなかった。
「……好き勝手言いやがって……」
すりガラスの向こうのブレスの影が立ち上がり、とぼとぼとその場を後にする――しばらく監視し、戻ってこないのを確認し、信長は吐き捨てるようにうめいた。
「力を貸せとか、オレに言ったってムダなんだよ……
オレは、オレのためにしか動かねぇ……そう、決めたんだ」
改めて、吐き捨てるようにうめく。しかしそれは、まるで自分自身に言い聞かせているかのようでもあって――
ピンポーンッ。
玄関の呼び鈴が鳴った。
◇
「はぁ……」
所変わって、こちらは警察署――オフィスの自分のデスクに突っ伏して、まことはため息をついた。
「ずいぶんと疲れているようだな」
「そりゃ、疲れもするわよ……」
そんな彼女に声がかけられる――対し、まことは取りつくろうこともせず、不満もあらわにそう答えた。
「『クモの怪人なんているワケがない』とか、『夢でも見たんだろう』とか……
結局、誰も私の報告を信じちゃくれなかったわ」
「それはそうだろう。
今回のキミの報告は、生物学上の常識から大きく逸脱している。
破壊された公園という“物証”がなければ、私もキミの正気を疑っていたところだ」
「あー、はいはい。
まさか、“人工知能の”あなたにまで正気を疑われるとは思わなかったわよ、GP-01」
そう。彼女の話している相手は人間ではない。
六輪三対のタイヤを移動手段とする下半身に、初期の家庭用ゲーム機の周辺機器として話題をさらった某ロボットを思わせる上半身を持つ、人のヒザ丈ほどの大きさのロボット――机の上に佇むそのロボットの言葉に、まことは不満を返しながらにらみつけた。
“GP-01”――次世代の警察官のあり方を模索する中で浮かんだ“ロボット警官”というアイデア、その有用性を検証すべく、現在教育中の段階にある人工知能の一号モデルである。
「ふざけたアイデアだ」と言うことなかれ。何しろ個人同士の感情的対立が全国規模にまで広がり、国ひとつ傾けるほどの事態を招いた“奪われた三年間”を経験した後なのだ。感情に流されることなく、法に基づき裁定を下せる存在としてロボット警官のアイデアが挙がったのも、ある意味で仕方のないことだと言えないこともなかろう。
ただ一点――型式番号の『GP』が“Great Police=すごい警察”の略というのはいささか安直が過ぎないだろうか。それでいいのか警視庁。
「ハァ……
信長くんやあの女の子がどうなったか、早く確認したいのに……」
自分と共に怪人に襲われた二人がどうなったのか――そのことを確かめようとしたまことは、まず警察署に戻ってみることにした。
あの状況を、ただの人間にすぎない(とまことは思っている)二人が無事に切り抜けられたとは考えにくい。病院送りになったにせよ、抵抗むなしく殺害されてしまったにせよ、署に戻れば何かしら情報が入っているはず――そう考えてのことだったのだが、いざ戻ってみても二人に関する情報はなし。それどころか公園の破壊についての報告を求められ、怪人について信じようとしない上層部に対して何度も説明するハメになり……と、今の今までてんてこ舞いだったのだ。
「こんなことなら、最初から信長くんの家を見に行けばよかったわ……」
「しかし、それで彼が不在だった場合、そこで情報が途絶えることになる。
確実性を優先したのであれば、署に戻ってきたのは正しい選択だ」
ため息をつき、机に突っ伏すまことにそうGP-01が答えて――
「そして、だからこそ怪人の話が事実なのだと結論づけることができる」
「え………………?」
「キミは二人の安否を確かめる上で、迅速性から家須信長の家に向かうか確実性から署に戻るのかを天秤にかけ、署に戻ることを選んだ。
ここで重要なのは、その選択の是非ではなく、“自ら考えて判断を下した”ということだ――それはつまり、キミの頭脳が選択肢を挙げ、選べるレベルで働いているということを示している。
その一方で『怪人に襲われた』という常識を逸脱した報告――そんな報告をすれば正気を疑われるであろうリスクがあったはずなのに、キミはあえてそう報告した。
信じてもらえないであろう報告の内容でありながら、それでもその通りに報告することを意図的に選んだとするなら、“そう報告しなければならない”理由があったということだ。
たとえば……それが本当に、ウソ偽りのない事実であった場合、などだ」
「……プロファイリング能力は正しく成長しているようで何よりだわ」
警察官として必要とされるスキルが正しく成長しているのは喜ばしいことだ――そのスキルによって心中根こそぎさらけ出されるこちらはたまったものではないが。GP-01に件の報告をするに至った心理的背景を理路整然と暴き立てられ、まことは思わず苦笑する。
「まぁ、それでも状況は何ひとつ好転してないんだけどね。
結局上は誰も信じてくれなかった――あの怪人の対策は何もされないでしょうね」
こうしている間にも、あのクモ怪人はまた新たに殺人を犯しているかもしれないのだ。信長達の安否確認にも動かなければならないし、前途は多難だとため息をつくまことだったが、
「そうだろうか?」
「って、え……?」
突然疑問の声を発したGP-01の言葉に、まことは思わず玩具と見まごうばかりな見た目の相棒を見返した。
「果たして、本当に状況は何も好転していないのだろうか?
まったく糸口の見えなかった連続殺人事件の犯人が、今まで確認されたことのない、まったく未知の人型生命体だとわかった――それは紛れもない進展ではないのか?
警察上層部はその存在を信じていないと言うが、それは捜査の進捗とは別の問題と見ることができるはずだ。
なぜなら、信じられないと言うのなら、“信じられるようにすればいい”のだから」
「動かぬ証拠……ってヤツを突き出してやればいい、と?」
「そういうことだ。
たとえば……」
まことに答えて、GP-01は関節の数も可動範囲も最小限、ものをつかんで上下に振るくらいしかできない右手を軽く挙げ、
「“ご本人”を捕まえて、彼らの前に引きずり出してやる、とかな」
「……簡単に言ってくれるわね」
あの怪人の力を前に、『捕まえて突き出してやれ』とは、無理難題にも程がある。自分がやらないからと好き勝手言ってくれると、まことは軽く口を尖らせる。
が――
「でも……まぁ、そうよね。
相手の正体がわかったことで、するべきことも見えてきた……まったく、何も得られなかったワケじゃないわよね」
それでも、GP-01の言葉はまことを元気づけるには十分だったようだ。言って、まことは立ち上がってカバンを手に取り、
「じゃあ、さっそくあの怪人の足取りを追うところから始めましょうか。うまくすれば、本人じゃなくても上を納得させられるような物的証拠が見つかるかもしれないし。
……あ、その前に信長くん探さないと」
「そのことなんだが」
と、そんなまことにGP-01が口をはさんできた。
「つい数秒前のことだ――家須信長の無事は確認された」
「え、そうなの?」
「あぁ。
警察無線の内容によれば……」
「逮捕され、こちらに連行されてくる最中だそうだ」
「………………は?」
その言葉に、まことの目がテンになった。
「た、逮捕って、どうして!?
まさか、公園の件での器物損壊とか!?」
「違う」
まことの問いに、GP-01はキッパリと答えた。
「婦女暴行だ」
「…………えぇぇぇぇぇっ!?」
◇
「信長くんっ!」
署の正面口まで出てきてみれば、ちょうど目的の人物を乗せたパトカーが到着したところだった――同僚の刑事に連れられた、両手を手錠で拘束された信長の姿を見つけ、まことは声をかけながら駆けつけてきた。
「いったい何があったの!?
婦女暴行って、どういうこと!?」
「近所の家から通報があったんだよ」
まことの問いには、信長を連行してきた同僚が答えた。
「『コイツの家から女が出てきた。コイツに乱暴されたに違いない』ってな」
「って、そんな不確かな通報で……って、『女』……?」
思わず反論しかけたまことだったが、相手の言葉の中の『女』という単語にピンと来た――それは昨夜のあの少女のことだと。
「信長くん、それって……」
「あぁ、ゆうべのアイツだよ」
「そうか……無事だったのね」
行方がつかめるかどうか、一番気がかりだった少女の無事がわかりホッとする――が、目の前の信長はまさに今、少しも大丈夫ではないワケで。
「ハッ、『無事』なワケないだろ。コイツに乱暴されたんだからな」
「まだそうと決まったワケじゃないでしょう?
さっきの話だと、通報も『そうに違いない』っていう、仮定の話だったのよね?」
信長の連行をジャマされておもしろくないのか、連行してきた刑事が話しに割り込んできた。すかさず返すまことだったが、刑事はそんなまことをギロリとにらみつけ、
「やったに決まってるだろ。
コイツの家にわざわざ出向くような女がいるもんか。コイツが無理矢理連れ込んだに決まってる」
「信長くんはそれを認めたの?」
「自首してきたならともかく、だんまりを決め込んだ犯罪者が認めるワケがないだろ。
見てろ。すぐに取調室で“話す気にさせてやる”」
「自白の強要は人権侵害になるわよ」
「なるワケないだろ。
障害者なんて社会のゴミじゃないか。ゴミに人権なんてないだろ」
ダメだ。話にならない――同僚の言葉に、まことは心の底からため息をついた。
元々、昨今の警察は健常派が大きく幅を利かせており、障害者や障害派への風当たりが厳しいのが実情だ。
住民からの通報に対応しなければならないという職務上、どうしても健常派からの通報で障害派に対して厳しくならざるを得ないこともあるが、それ以上にその繰り返しから来る“慣れ”とストレスによるところが大きかった。
圧倒的大多数を占める健常派からの通報による連行と取り調べ――それらが常態化することで“健常派は被害者で障害派は加害者”という固定観念が現場に刷り込まれてきてしまっている上に、“奪われた三年間”以降一気に急増したそれらの事件によって多忙化した業務のストレスが“元凶”である障害派の人々へと向けられてしまっているのだ。
さらに、警察内のそういった空気を察して障害派からの助けを求める通報は鳴りを潜め、健常派からの通報ばかりがますます増えていく、結果取り締まられる障害派の人々の数が増え、結果障害派の犯罪率の数字ばかりが上がっていく一方という悪循環。
あくまでウワサであり、真偽のほどは定かではないが、警察学校への入学試験の面接において、志望動機を聞かれ「障害派をひとり残らず“駆除”するため」とまで言い切る者すら現れたという。
繰り返すが、真偽の程は確かではない――しかし、そんなウワサがまことしやかにささやかれるほど、警察内部では健常派の考え方が深く、深く浸透しつつあった。
まこと自身はあくまで中立を自負しているし、同僚を悪い目で見たくはないが、言動からして目の前の彼は明らかに健常派、それも相当に“過激”な部類に入るのだろう。
そんな人間に信長を任せておいたら、それこそ彼がどんな目にあわされるかわかったものではない。それだけは阻止しなければ――
「……あん? 何だ、紀律、その目は」
しかし、彼女が制止の声を上げるよりも早く、相手の刑事の方がまことに突っかかってきた。
「まさか、またこの“ゴミ”をどうにかしようとか思ってないよな?
わかってんのか? オレ達警察の仕事は、こういう社会のゴミを“掃除”することだろうが。
それをいつもいつも、ワケわかんねぇ理屈をこねてジャマしやがって……生意気なんだよ!
もはや警察の役目からして完全に見失っている刑事は、とうとうまことに対してもキレた。彼女を押しのけようと右“拳”を振り上げ――
――ぐいっ、と、唐突に彼の左手が引かれた。
その手に握るのは、手錠につながれたロープ――信長が、“自ら取調室に向けて”歩き出したのだ。
「オレを取り調べるんじゃなかったのかよ?
こっちはさっさと済ませて帰りたいんだ。早くしてくれ」
「って、何勝手に――こら! だから先に行くな! 取調室がどこか知ってんのか!?」
「月に5回は連れてこられる生活を何年続けてると思ってるんだ? そのくらいはさすがに憶えた」
「てめぇ……っ!」
サラリと答える信長に、刑事の声に明確な怒り――否、憎悪が宿る。
「今まで何度も言い逃れてきてるからって調子に乗りやがって……っ!
ゴミクズはゴミクズらしく、ゴミ箱の底でおとなしくしてやがれ!」
堂々と警察官にあるまじき暴言を吐きながら、刑事は信長に詰め寄り、右の拳を振り上げて――
轟音と共に、信長の視界からその姿が消えた。
直後、ものすごい音が響く――まことと二人でそちらを見れば、そこには壁に突っ込んだパトカーの姿。
パトカーと壁の間にはさまれた“ナニカ”から、真っ赤な液体が流れ落ち、床に広がる――その正体を悟った他の目撃者から悲鳴が挙がる。
要するに、玄関を突き破って飛び込んできたパトカーが、信長を殴ろうとした刑事を巻き込んで壁に突っ込んだのだが――信長が眉をひそめた理由はそこではなかった。
パトカーが『飛び込んできた』という表現は、別に比喩でも誇張でもない。言葉そのまま――本当に“飛び”込んで来たのだ。“無人のまま”、“空中を一直線に”。
こんな状況を作り出すことのできる存在――残念ながら、信長とまことには心当たりがあった。
そう――
「あいさつ代わりの一発だ。
気に入ってくれたかよ――マッポの皆さん?」
スパイダークライマーの仕業だ。
◇
「――――いた!」
信長に拒絶され、途方にくれながら街を歩くことしばし――ブレスがソレを見つけたのは本当に偶然だった。
“狩り”を終え、その場を後にするスパイダークライマーの姿――何度も見失いそうになりながらも、ブレスは彼を追って警察署の前までやってきた。
スパイダークライマーが自らの糸で停めてあったパトカーを捕まえると、ハンマー投げのように振り回し、警察署に投げ込む――玄関が突き破られ、悲鳴が上がる。
またその一撃によって、エントランスホームの様子が外からも丸見えになって――
「――って!?」
気づいて、ブレスは思わず声を上げた。
「ど、どうして――信長さんがあそこにいるんですかぁ!?」
◇
銃弾が次々にその身体を叩くが、何のダメージにもならない――かまうことなくスパイダークライマーは口から吐き放った糸で警官のひとりを絡めとった。
今までの殺人のようにしめつけ、ちぎるようなことはしない。外でパトカーに対してしたように、振り回して壁に叩きつけられる。
ひとたまりもなく砕け散る肉体だが、糸で絡め取られているため飛散はしない。ただ鮮血だけが辺りにぶちまけられる――しかし、その異様な光景はかえって周囲の人々の恐怖をかき立てていた。偶然居合わせた一般市民はもちろん、警官達すらもパニックに陥り、ロクな抵抗もできないままスパイダークライマーに“狩られて”いく。
「オラオラ、どうした!
人のことブッ殺しておいて、いざ自分達の番になったらざまぁねぇな!」
そんな警官達の様子に、スパイダークライマーはますます気を良くして殺害の手を広げていく――そしてまたしても新たな犠牲者が。別のひとりも巻き込んで、壁に叩きつけられ、二人ともがつぶれた肉塊となり果てる。
「くっ、このままじゃ……っ!」
まさに“殺りたい放題”というヤツだ。これでは犠牲者が増える一方だが、正直どうすることもできない――せめて自分達の身だけは守ろうと、まことは信長を連れてスパイダークライマーから見て死角となる階段の陰に身を潜めた。
「何考えてるのよ、アイツ……
まさか、警察署に直接乗り込んでくるなんて……っ!」
狙いが手当たり次第なあたり、少なくとも昨夜仕留め損なった自分達を追って……というワケではなさそうだが、だからこそその目的がわからない。
スパイダークライマーの行動の意味がわからず、戸惑うまことだったが――ふと、昨夜の遭遇の時にスパイダークライマーが言っていたことを思い出した。
『オレはてめぇらにブッ殺されたんでな!』
そして先の発言――
『人のことブッ殺しておいて、いざ自分達の番になったらざまぁねぇな!』
まさか――
(“自分を殺された”、その復讐……!?)
あの怪人は死者が蘇ったゾンビのようなものだと言うのか。そして彼(?)を殺したのが自分達警察だと言うのか。
後者はともかく(もちろん、後者も後者で十分に問題なのだが)、前者の仮説のあまりの荒唐無稽さに思わず自らの正気を疑うが――考えてみれば今の状況自体十分に非現実的なのだ。ひょっとしたら“そういうこと”もあり得るのかもしれない。
もっとも、それがわかったところで、目の前の状況を解決させることができるワケでもないのだが――そんなことをまことが考えていると、
「信長さん!」
「って、あなた……っ!?」
暴れ回るスパイダークライマーによる破壊と殺戮に紛れ、ここまでやってきたブレスが声をかけてきた。突然の登場に目を丸くするまことにかまわず、まことや信長の隠れる階段の陰にすべり込んでくる。
「よかった、無事だったのね……
でも、どうしてここへ?」
「それは、あのスp……怪人を追って……
それより、信長さん――」
まことに答え、次いで信長へと話を振ろうとして――ブレスは、そしてまことは気づいた。
「………………」
信長が、今にも見つかりそうなほどに身を乗り出し、スパイダークライマーを――より正確にはスパイダークライマーによって繰り広げられている虐殺の光景をにらみつけていることに。
すでにまことの持っていた予備のカギで手錠が外され、自由となっている両手を強く握りしめる。そんな彼の脳裏によぎるのはかつての、そして自分にとっては数少ない、ハッキリと憶えている記憶――
真っ赤に染まった視界の中、自分を見下ろし、携帯電話で写真に収めたりしながら談笑している男達。
こちらの胸倉をつかみ、怒鳴り散らしながら突き飛ばしてくるコック風の男。
病院のベッドに横たわる自分に対し、申し訳なさそうにしているまこと。
炎に包まれた建物の中、目の前の部屋に向けて懸命に手を伸ばすが、最後まで届くことのなかった“あの日”の光景。
そして、目の前に並ぶ多数の――
“いびつな形にふくらんだ死体袋”。
「………………っ」
「ち、ちょっと、信長くん!?」
気づけば、隠れている階段の陰から出ていこうとしていた――そんな信長に気づき、まことはあわてて彼を止めた。
「どうするつもり!?
まさか……」
「あの野郎……っ!
自分が強いからって、弱いヤツを好き勝手していいワケねぇだろうが……許せねぇっ! ブッ殺してやる!」
「いや、ムリだって、あんなの!」
答え、自分の手を振り払って出ていこうとする信長を、まことは改めて制止する。
「頭を冷やしなさい!
あんなの、人の手でどうにかできるものじゃないでしょう!」
「そんなの関係あるか!
ブッ殺すって言ったら……」
言いかけて――信長は動きを止めた。
すぐ脇――正面ホールの吹き抜け、二階の手すりに叩きつけられ、つぶれて貼りついた死体。そこから滴り落ちた血でできた血だまりを見て。
あそこは――否、“あの上”は……
半ば無意識に、署の案内図へと視線を向ける。
探すのは、見つけたのは――災害時用の備品保管庫。
「……信長くん?」
「………………おい」
声をかけるまことだったが、信長はかまうことなく、逆に彼女へと声をかけてきた。
「アイツの足を止めとけ。
この正面ホールからどこへも行かすな」
「え? ちょっと?」
「それから」
いきなりの指示に戸惑うまことにかまわず今度はブレスに声をかける。
「案内図見れば、給湯室くらいわかるだろ。
給湯室全部回って、液体洗剤をありったけ持ってこい。持ちきれなかったら台車でも何でも使え。4階で合流な」
そう言うと、近くに転がる警官の死体の手から拳銃を取り上げる。
弾切れだが、問題はない。“備品庫のカギを壊すだけなら”これだけで十分だ。
「急げよ!」
「あ、ちょっと!」
まことが制止の声を上げるが、信長はかまうことなく、脇の通路から奥へと駆けていってしまった。
◇
「お、お待たせしましたぁ……」
ブレスが目的の品を持って、4階の廊下で作業していた信長のもとへとやってきたのは、それから10分ほど経った後のことだった。そこでついに力尽き、液体洗剤が山積みになった台車を支えにへなへなと崩れ落ちる。
「……思ってたよりも早かったな」
「信長さんが急げって言ったんじゃないですかぁ……」
「あぁ、そうだったな。
じゃ、次は持ってきたの全部、そこの部屋の中にぶちまけろ。フタ開けて投げ込むだけで十分だろ」
「あぁ、もうこうなったらヤケですよっ!」
情け容赦なく次の仕事を振ってくる信長の言葉に、ブレスはその言葉通りヤケクソ気味に洗剤のボトルを信長に指示された部屋へと投げ込んでいく。
そして、最後のボトルを投げ込んだところで、ちょうど信長の方も終わったらしく、立ち上がって身体のこりをほぐすように伸びをする。
「じゃ、次が最後だ」
「まだあるんですか……」
「『最後だ』っつったろ。
それに今までに比べたら楽なもんさ――オレがアイツに“アイサツ”してる間に終わる簡単なお仕事ってヤツだ」
そう答えて――信長はブレスにその“仕事”の内容を伝えた。
◇
結果的に、まことが信長から頼まれた足止めは必要なかった。
「そうら、よっと!」
スパイダークライマーが、抵抗する警官をなぶり殺しにするのを楽しんでいたから――またひとり、スパイダークライマーに捕まり、力ずくで引き裂かれてその場に放り出される。
その残虐極まる殺し方に、警官たちは完全に及び腰で、スパイダークライマーはそういった特におびえている警官を面白がって殺しにかかっている。おかげで信長の望む通りにスパイダークライマーをこの正面玄関ホールに釘づけにできているが、そのために犠牲になった警官の人数を考えるとまったく喜べない。
「信長くん、まだなの……!?」
それどころか、このままではこの場の全員が皆殺しという事態も有り得る。一般市民の避難がなんとか――それでも多数が犠牲になったが――済んでいるのが不幸中の幸いと言えないこともないが、だからと言ってもう殺されても悔いはないかと聞かれればもちろんそんなことはないワケで。
どんなものかはわからないが、信長に策があるなら早くしてほしい――まことがそんな願いを抱いた、その時だった。
頭上で響く、ガシャーンッ!と何かが割れる音――次いで、降ってきたオフィスチェアが床に落下、大破する。
スパイダークライマーが見上げてみれば、頭上――4階の吹き抜け沿いの通路に信長の姿があった。
足元――手すりの下を守っていたガラスが割れている。先ほどの物音はあのガラスの割れた音だったようだ。
「てめぇ……ゆうべの!?」
「よう」
信長のことを思い出し、人間ならおそらく眉をひそめていたであろう、明らかに機嫌を損ねた声でうめくスパイダークライマーに、信長はあっさりと返す。
「またしょうこりもなくジャマしに来たのかよ……っ!
だが残念っ! せっかくの不意討ちも外れちまったな!」
あの程度じゃ大して痛くねぇがな、と付け加えながら、スパイダークライマーは信長の正面、その直下まで進み出てくる。
「待ってろ! 今殺しに行ってやr
「オレも、イス程度じゃ通じないと思ってたさ」
と、スパイダークライマーの言葉に、信長は自分の言葉を重ねてきた。
「だから――」
「“本命”はもっと徹底的にやらせてもらう」
「………………え?」
あっさりと――本当にあっさりと宣言され、信長が廊下の壁側、自分の死角に消えるのを思わず見送ってしまう。
そんなスパイダークライマーに向けて――
オフィスデスクが、遠慮なく突き落とされてきた。
「ぅおぉっ!?」
驚いて、それでもとっさに防御――否、迎撃か。力強く腕を振るい、自分めがけて落ちてきたデスクに一撃。粉砕とまではいかなかったが、軌道の逸れたデスクはスパイダークライマーのすぐ脇に落下する。
「こんなもんで――」
そして、すぐに信長の姿を探そうと頭上を見上げて――
(あぁ……そうだったな。
『徹底的にやる』って言ってたな)
思わず、そんなことを納得して――
続けて落下してきた大量のデスクが、スパイダークライマーへと降り注いだ。
信長は、デスクについてもひとつや二つ落としただけで済ませるつもりはなかった。備品保管庫から持ち出してきたロープで、同じ室内のデスクをイモヅル式に、落とせるだけ落としてしまおうと工作していたのだ。
別にひとつひとつを縛り上げてつなげる必要はない。一列に並べたデスクの先頭と最後尾を、間の机の脚に軽くロープを絡めていく形でつなげるだけで十分だ。
後は“足元さえ滑りやすくしておけば”、先頭のひとつを落とすだけでその重量が、落下の勢いが残りのすべてを持っていってくれる――そう。ブレスに持ってこさせた液体洗剤こそ、その『足元をすべりやすくする』ためのものだったのだ。
なお、信長は交通課の倉庫から拝借してきた、自動車事故現場用の長靴――オイル漏れ対策に滑りにくいものが用意してあるだろうと踏んでいたが見事正解だった――に履き替えているために足を滑らす心配はない。おかげで遠慮なく、力いっぱいデスクを突き落とすことができた。ミ○リ安全万歳。
その信長の狙い通り、デスクのすべてがスパイダークライマーへと落下。衝撃音が過ぎ去り、辺りは静寂に包まれる。
「…………やったの?」
大型猛獣ですら今のをくらえばタダでは済むまい。ヘタをすれば即死すら有り得るだろう。終わった――とまことが考えた、その時だった。
「…………っ、ぐ……っ!」
うめき声と共に、積み上がったデスクの山がバランスを崩し、崩れ落ちる――そして、その下から、スパイダークライマーがその姿を現した。
どう見ても怒っているとわかる、血走ったかのように真っ赤に染まった複眼で頭上を――そこにいる信長をにらみつける。
「よくもやってくれたな……っ!
今すぐブッ殺してやる! そこ動くなっ!」
言うなり、天井に向けて糸を飛ばすと、その糸を勢いよく引っ張りながら大ジャンプ。一気に信長が奥へ引っ込んだ4階へと跳び上がる。
信長の破った手すりのすき間から4階の廊下に降り立って――
「絶対そこから乗り込んでくると思ったよ」
結論から言えば、信長が奥に、スパイダークライマーの死角に引っ込んだのは、今回もまた逃げるためではなかった。
それどころか、“次の仕掛け”の準備を終えていた。あっさりとスパイダークライマーに告げて――
「仕切りがない分乗り込みやすいもんな、そこ」
その言葉と同時――スパイダークライマーへと底を向けた車載用ガスボンベ、そのバルブへと両手用ハンマーを振り下ろした。
バルブが壊され、ガスが噴き出す――それを推進力に飛び出したボンベは狙い通りスパイダークライマーを直撃。油断していたスパイダークライマーは洗剤まみれで滑りやすい床のせいもあって踏ん張ることもできず、そのまま吹っ飛ばされて廊下の突き当たりの小部屋へと叩き込まれた。
「この、ガキ……っ!」
それでも、スパイダークライマーは健在だ。自分にのしかかるボンベをどかし、信長をにらみつけて――
「……何か臭って、何か聞こえないか、そこ?」
「………………ナニ?」
信長に指摘されて――気づいた。
自分が叩き込まれた部屋が給湯室であることに――そして、シューシューという音と、“タマゴの腐ったかのような臭い”。
視線を信長へと戻して――信長の手の中の“火のついたオイルライター”を見て、イヤな予感は確信へと変わる。
「まっ、待て!」
あわてて制止の声を上げるが、信長はかまうことなくライターを投げつけて――
給湯室の中で、炎と衝撃の嵐が巻き起こった。
◇
「む……今度は何だ?」
一方、こちらは3階のオフィス――身体が身体ゆえにあまり動き回れないGP-01は、状況に対して完全に置いてきぼりをくらっていた。階下の騒ぎの正体もつかめない中、今度は頭上の4階で起きた爆発に、かろうじて角度のつけられる首をかしげた。
1階の防犯カメラは状況もつかめない内に(具体的には最初のパトカーの突入で屋内配線が断線してしまったのが原因で)回線が死んでしまい、何が起きているのかわからないままだが、こちらは警報システムが生きているはず――すぐにまことの席のパソコンに接続、システムにアクセスして……
「給湯室で、ガス爆発……?」
◇
GP-01の確認した通り、衝撃の正体はガス爆発――給湯室の中は、あらかじめ不完全燃焼状態にされたガスコンロによって可燃性ガスが満たされていた。信長の指示を受けたブレスが、事前に工作していたのだ。
そう。先ほど信長がブレスに伝えた“最後の仕事”の内容こそがこれ――すなわち、給湯室をガス漏れ状態にして、且つそのことを悟られないよう、ガス漏れ検知器を破壊しておくこと。
信長は最初から、この給湯室でのガス爆発攻撃を本命として狙っていたのだ。デスクの攻撃はここへスパイダークライマーを追い込むため、彼を挑発し、おびき寄せるためのものだったのだ――大量投下という派手で大がかりな手段をとったのも、ギリギリまで狙いに気づかせないよう、それが“本命”だと思い込ませるためだ。
「…………ふぅっ」
その信長は、爆風の直撃を避けるべくすぐ脇のオフィスへと退避していた。ひょこっと顔を出し、効果の程を確認する。
給湯室はその内部が完全に破壊し尽くされ、炎が燃え盛り続けている。衝撃で破壊されたのか、消火設備の類は動いていないようだ。
と――
「信長さんっ!」
炎に包まれた給湯室、その脇の角からブレスが姿を現した。どうやら、給湯室の工作を施した後はそちらに隠れていたらしい。
「何考えてるんですか!
クライマー相手に、こんな……」
「ハッ、別にいいだろ。
ここまでやれば、アイツだってくたばったろ――問題ないだろ?」
「そうじゃありません!」
あっさりと答える信長だが、ブレスも焦った様子でそう返してくる。
「クライマーを相手に、“こんな中途半端な”……っ!」
「…………何?」
「クライマーを甘く見すぎです!
彼らはこの程度じゃ倒せません! むしろ――」
ブレスがそこまで語った、その時だった。
炎に包まれた給湯室から衝撃音が響いた。驚いて見てみると、崩れ落ちていた天井の板が吹っ飛ばされ、宙を舞っていて――
「…………てめぇ……っ!」
「……むしろ、中途半端な攻撃で、余計に怒らせてしまっただけです」
ブレスの言う通り、見るからに怒り心頭といった様子のスパイダークライマーがそこにいた。
「もう許さねぇぞ……っ!
楽には殺さねぇ! ジワジワとなぶり殺しにしてやる!」
「上等だコラ。
今のだって、さすがにノーダメージってワケじゃねぇだろうが。傷つけられないワケじゃないってわかった以上、遠慮しねぇのはこっちの方だぜ!」
怒りのままに言い放つスパイダークライマーだったが、信長も決して気迫負けしていない。むしろ先制する勢いで一歩を踏み出して――
「待ってください!」
そんな信長の手を、ブレスがつかんで止めた。
「いくら傷ついているといっても、クライマーは生身で立ち向かってどうにかなる相手じゃないんですよ!」
「知るか、そんなの!
オレが殺すと言ったら――」
「だから、これを使ってください!」
言い返そうとした信長に対しさらに言葉を重ね、ブレスはそれを手渡した。
昨日信長を変身させた、ベルトと腕時計型ツールのセットである。
「これ、ゆうべの……」
「ゆうべはうまくいきませんでしたけど、今の信長さんなら……っ!」
つぶやく信長にそう告げて、ブレスが思い出すのは、この二つを託された時のこと――
◇
「ブレスよ。
面倒な役目を任せることになって、済まなかったな」
「いえ。
むしろ、このような重大な役目を任せていただいて、光栄なくらいです――メタトロン様」
先を行く上司、大天使メタトロンに付き従い、彼の後に控えて神殿の回廊を歩きながら、ブレスは彼の言葉にそう答えた。
「光栄、か……
だが、その分責任は重大だぞ――特に、お前に託すことになる“ギルティシステム”、その使用者は慎重に選ばなければならない。
なぜなら、アレは“正義感の強さでは決して使いこなせないものだから”だ」
「はい」
それは承知の上だ。この役目を任されることになってから、何度も説明を受けたことなのだから。
「残念ながら、今の地上は必ずしも正義がまかり通る世界ではない。
だからこそのギルティシステムだ。あの力を使いこなせるのは――」
◇
(……ゆうべ暴走したのは、決して信長さんが不適格者だったからじゃない……
ゆうべは、ただクライマーから生き残ろうとして変身しただけだったから……あの力を使うために、“最も必要な感情”が欠けていたから……
でも、今は……)
「信長さん、早k
今度こそは――そう信じ、変身を促そうとするブレスだったが、彼女が言い終えるよりも早く、彼女の手からギルティシステム一式が姿を消した。
「…………上等だ」
信長が取り上げたのだ。ベルトを――“ギルティドライバー”を腰に巻き、スパイダークライマーと対峙する。
「てめぇ、それは……!?」
「やっぱ、てめぇをぶち殺すにはコイツの力が必要らしいんでな」
《ルシフェル!》
腕時計型ツール“ギルティコマンダー”のフタを外し、コイン状の護符“デモンズタリスマン”をセット。ギルティコマンダーがタリスマンの内容を読み取り、コールする。
ギルティコマンダーの本体を手首に留めているベルトから外すと、それを持つ右手を後ろに引くように、上体を大きくひねる。
そして――叫ぶ。
「変身っ!」
自らの“身”を“変”える、その宣言を――右手のギルティコマンダーを、ギルティドライバーの中央のターンテーブル状の取りつけ部、“アルターテーブル”へと縦向きに、叩きつけるようにセットする。
《ルゥゥゥゥゥ、シッ! フェエェェェェェゥルッ!》
大音量のコールと共に、その身が変わる――アルターテーブルが回転、ギルティコマンダーが横向きにセットされ直し、そこから噴き出すように巻き起こった漆黒の渦が信長の身体を包み込む。
ほんのわずかの間を置いて、渦が内側から吹き飛んだ。昨夜変身したのと同じ姿となった信長がその姿を現す。
スパイダークライマーに向けて一歩を踏み出して――
〔……殺セ……!〕
またあの“声”がした。
〔壊セ……奪エ……殺セ……!〕
昨夜と同じだ。“声”は見る見るうちにその存在を強め、信長の意識を飲み込m
「………………うるせぇよ」
そんな“声”に、信長は吐き捨てるようにそう告げた。
「てめぇらの都合なんか知るか……」
こちらの意思を無視して自らの身体を動かそうとする“力”に逆らい、拳を握り締める。
「てめぇらがどこの誰かも、どうでもいい……っ!」
意識をぬりつぶそうとする“ナニカ”に対し、強烈な感情をもってその支配をはねのける。
「オレのジャマをするな……っ!」
その“感情”とは――
「オレに……」
スパイダークライマーに対する――
「アイツをぶち殺させろ!」
憎しみと、殺意。
◇
「……やった……っ!」
信長が“ナニカ”の支配を打ち破ったのは、傍から見ても明らかだった。昨夜のように暴走せず、スパイダークライマーを正面からにらみつけるその姿に、ブレスは変身の成功を確信してつぶやく。
「すごい……
力の一端しか発揮されていないとはいえ、“悪魔の”支配を、ただの人間が憎しみの心ではねのけた……!」
同時に、信長が“どういう感情によって”支配を打ち破ったのかも思い至っていた――そして思い出す。自らの主の言葉を。
ギルティの力を使いこなす上で必要とされるもの、それは……
(デモンズタリスマンに封印された悪魔からの干渉を打ち破れるだけの、強い意志……でも、正義の廃れた今の地上で、それを成せるほどの正義感を持つ者は見つからないかもしれない……
だからこそ、ギルティシステムはその“逆”を必要とした。つまり……)
「悪魔の支配を塗りつぶしてしまうほどの、悪意……
でも、正義を成すためには、その悪意はあくまでも悪に対して向けられなければならない……
結果論でもかまわない。“悪魔をねじ伏せるほどの悪意を、正義のために抱くことのできる人”……
悪意という“絶望”と、正義という“希望”を併せ持つ者。それが、ギルティシステムの適格者の条件……!」
◇
「…………さて」
変身を遂げた。障害も乗り越えた。後はただ戦うだけだ――改めて、信長は目の前の“獲物”へと向き直った。
ビクリと身をすくませ、警戒を強めるスパイダークライマーを右手で、親指を立てた状態で指さす、いわゆる指鉄砲の形で指し、
「覚悟を決めろ……」
言いながら、その右手の人さし指をたたみ、サムズアップの形に変えて――
「断罪の時間だ」
右手をひねって上下逆転。立てた親指を下に向けた右手を、真下に軽く下げる――俗に言うフ○ックサインというヤツだ。
「断罪だぁ……?
されてたまるか、ンなもんっ!」
一方、スパイダークライマーも決して気迫負けしていない。信長にそう言い返すと、猛然と襲いかかってくる。
信長に、“ギルティ”に対する恐怖を振り払うかのように、右の拳で殴りかかり――
「鈍ぇよ」
淡々とした一言と、ズンッ!という重い衝撃音――信長がスパイダークライマーの拳をあっさりと払いのけ、逆に自らの拳をスパイダークライマーの脇腹へと叩き込んだのだ。
「が……ぁ……っ!?」
打ち込まれた脇腹を押さえ、スパイダークライマーがよろめきながら後退。その横っ面に信長の右フックが叩き込まれ、もんどりうって転倒する。
そんなスパイダークライマーにヅカヅカと歩み寄り、信長はその顔面を狙って無造作に蹴りを放ち――止められた。
「調子に乗りやがって……へし折ってやる!」
スパイダークライマーに受け止められたのだ。そのまま蹴り足をつかまれ、スパイダークライマーが宣言通り足をへし折るべくその手に力を込めて――しかし、それは叶わなかった。
骨の砕ける音は信長の右足ではなく、スパイダークライマーの顔面から――スパイダークライマーの怪力を知るが故にその力を逆に利用。反対側の足で跳躍、つかまれた足を軸足に、逆にスパイダークライマーの顔面を蹴り飛ばしたのだ。
「誰がわざわざ折られるまで待ってやるかよ、バーカ」
淡々と言い放ち、信長はスパイダークライマーに向け、悠然と歩を進め――
「調子に乗るなって……言ったろうがっ!」
スパイダークライマーが突然起き上がり、信長に向けて糸を放った。それは狙い違わず信長を捕らえ、がんじがらめにしばり上げてしまう。
「油断したな!
だが、これでもうこっちのものだ! なぶり殺しにしてやるぜ!」
今度こそ信長の動きは封じた。自らの逆襲を確信し、スパイダークライマーは信長へと近づいて――
「…………なっ!?」
しかし、その確信はすぐに、またしても覆ることになる。
「何だ、こりゃ!?
オレの糸が……“凍りついてやがる”!?」
そう。スパイダークライマーの糸は、信長に巻きついてからのわずかな時間で完全に凍りついていた。直後、粉々に砕け散り、信長は何事もなかったかのようにその姿を現した。
「……もう終わりか?
なら……今度はこっちの番だ」
「ひっ…………!」
告げる宣言と共に、まとう殺気が一気にふくれ上がる――攻め手をことごとく破られ、ついにスパイダークライマーの態度に怯えの色が混じった。
迷うことなく逃げの一手を選択。天井に向けて糸を発射。その糸を強く引っ張り、天井まで跳び上がるとそのまま張りついてみせる。
いくら変身によって身体能力を高められていても、さすがにこの高さまで一足飛びに跳び上がるのはムリだろう。このまま逃げてしまおうとするスパイダークライマーだったが、
「…………バカが」
彼は、どこまでも不運であった。
「今のオレから……逃げられるとでも思ったのか?」
その言葉と同時、信長の背に変身の際に見せたあの翼が姿を現した。たった一度の羽ばたきで弾丸の如く加速。一気に飛び上がった信長が頭から突っ込み、背中に体当たりをくらったスパイダークライマーは天井を突き破って屋上へと放り出される。
さらに、信長が頭上で合わせた両手を思い切り叩きつけた。俗に“スレッジハンマー”とも呼ばれる両手での打撃で、スパイダークライマーを突き破ってきた穴へと、再び署内へと叩き落とす。
一気に吹き抜けの空間を貫いて、スパイダークライマーが一階の床へと叩きつけられる。それでもなんとか身を起こして頭上を見上げ――急降下してきた信長がその顔面を踏みつけるように蹴りを叩き込んだ。
衝撃で床が砕け、クレーターを穿つ――跳びのいた信長の前で立ち上がるスパイダークライマーだが、その姿はもはやボロボロで、足元もおぼつかない様子だ。
「てめぇはオレ達を殺すつもりでかかってきたんだ……
当然、返り討ちで自分が殺されるのも想定の内だよな?――“オレと違って頭はマトモだろう”し、そのくらいの可能性、考えてないワケがねぇよな、あぁ?」
もはや勝敗は明らか――しかし、信長はなおも容赦するつもりはなかった。“最後までヤる”ことを宣言しながら、腰のギルティドライバーからギルティコマンダーを取り外し、
「さぁ……“終わり”の時だ」
《ルシフェル!》
《ギィィィィィルティィッ! ブレェェェェェイクゥッ!》
バックル、すなわちドライバー本体の側面に備えられたコネクタに接続した。コマンダーの冷静なコールに続き、ドライバーによるテンションが振り切れたコールが響く。
同時――吹雪が巻き起こった。ギルティの力が凍気を生み出し、周囲で荒れ狂う中、信長は腰を落としてかまえる。
一呼吸おいて、スパイダークライマーに向けて跳躍。それを見て、スパイダークライマーも逃げ出そうとする――が、そこでようやく、自分の両足が動かないことに気づいた。
両足がギルティの凍気によって周囲の水分もろともに凍結し、地面に縫いとめられている――あまりの低温によって一瞬にして感覚が麻痺してしまう、それほどのレベルで瞬く間に凍りついたために、今の今まで気づくことができなかったのだ。
そして――
「コキュートス、ドロップ!」
それほどの凍気を両足の裏に全集中。信長が両足蹴りを叩き込む!
「ぐぁあぁぁぁぁぁっ!?」
衝撃で足元の氷が“両足ごと”砕け、スパイダークライマーが地面に叩きつけられ、弾んで――蹴りと共に叩き込まれた凍気が弾けた。
一瞬にして周囲の空気中の水分が凍結、局地的なダイヤモンドダストが視界をさえぎり――それが晴れた後には、スパイダークライマーを内部に取り込んだ巨大な氷塊が出来上がっていた。
一方、信長は背中の翼でバランスを保ち、危なげなく着地していた。おもむろに床の破片を手に取り、氷塊に向けて投げつける。
コツンッ、と音を立てて破片が氷塊に当たり――その衝撃だけで、氷塊はあっけなく砕け散った。内部のスパイダークライマーもろとも粉々になったその残骸を一瞥し、信長は静かに告げた。
「わかったかよ。
踏みにじられる者の気持ちってヤツが」
◇
「……や、やった……?」
眼下で、一階で信長がスパイダークライマーを凍結、粉砕する光景を見下ろし、ブレスがつぶやく――そんな彼女のつぶやきが届いたワケではないだろうが、信長は背中の翼を広げて飛翔。ブレスのいる4階まで上昇してきた。
「おい」
「は、はい……?」
廊下に舞い降り、声をかけてくる――どこか不機嫌そうに聞こえたその声に、ブレスは思わず居住まいを正した。
まずい――と頭の中で警報が鳴る。今回はそれが倒すべき悪であるスパイダークライマーに向けられたし、そもそもそれを悪に向けられる人間だと信長を評したからこそギルティシステムを託したのだが、それでもギルティシステムが“悪意によって制御されるシステム”である事実が変わるワケではない。何か気に入らないことがあれば、そのためにその力が振るわれる可能性はゼロではないのだ。
自分が何か気に障るようなことをしてしまったのか、それともまだ暴れ足りないとでもいうのか――そんなことを考え、緊張するブレスだったが、
「……これ、どうやって脱ぐんだ?」
「………………はい?」
信長の口から放たれたのは、そんなブレスのまったく予想だにしていなかった一言だった。
「……ベルトを外してください。
それだけで、変身は解けますから……」
どうやら、単に変身の解除の仕方がわからなかっただけらしい。若干拍子抜けなものを感じながらブレスが教え、信長は言われた通りベルトを外し、変身を解除する。
「……あ、あのっ」
素顔を外気にさらし、信長はようやく一息、といった様子で息をつく――そんな信長に、ブレスは改めて声をかける。
「改めて、名乗らせてください。
私はブレス……天使、ブレスです」
信長に対し、改めての自己紹介――対し、信長は黙って彼女に背を向けた。
やはり受け入れてはもらえないのか。今の戦いは、単に両者の利害の一致、それだけでしかなかったのか。あくまでもこちらを信用するような態度を見せない信長の後ろ姿に、ブレスの胸中を悲しいものがよぎり――
「――信長」
「…………え?」
聞こえてきた声に、ブレスは思わず顔を上げた。
「自分の聞き間違いでなければ、彼は今――
「…………信長。
オレは……家須、信長だ」
「………………はいっ!」
間違いない。彼は、ちゃんと自分に応えてくれた――こちらが聞こえていなかったとでも思ったのだろうか。改めて名乗る信長に、ブレスは笑顔でうなずいた。
そんなブレスに対し、信長はもう話は終わりだとばかりに歩き出す――ブレスも、置いていかれないよう、駆け出し、その背に追いつく。
「それじゃあ、帰りましょうか。
ギルティシステムやクライマーについても、ちゃんと説明したいですし」
ともあれ、クライマーを倒して一件落着。もうここに用はないと提案するブレスだったが、
「帰るんならひとりで帰れ」
あっさりと信長はブレスに対して言い放った。
「オレはこれから取調室だ」
「えぇっ!?
と、取調室って……どうして!? なんでそんなところへ!?」
「今朝お前を叩き出したのを、近所の人が変に勘ぐって通報しやがったんだよ。
きちんと取り調べを受けて、無実を証明して帰らないと、今度はどんな面倒を起こされるかわかったもんじゃねぇ」
「き、きちんと、って……」
それが当然とばかりに告げる信長の言葉に、ブレスはその場から見渡せる吹き抜けの下、一階の様子を見やった。
スパイダークライマーの大暴れによって、一階エントランスは完全に破壊しつくされている。床は一面血だまりと化し、生き残った警官達の苦悶の声に満ちている。見れば、まこともそんな苦しんでいる警官達の救護に奔走している。
その光景にブレスが思うのは、きっと(信長以外の)誰もが思うであろうこと――
「いや……これで取り調べって……ムリでしょ……」
まったくもってその通りであった。
次回予告
「こっちはお前の相手をしてる場合じゃないんだ。
わかったらとっとと消えろ」
「今……この地上において、各地の悪魔達が手を結びつつあります」
「ようこそ、喫茶『DB』へ!」
「もう少し言い方があると思いませんか?」
「思えねぇんだよ、残念ながらな」
断罪 三「悪魔の職探し」
「運が悪かったとあきらめな」
(初版:2015/06/28)
(第2版:2017/03/07)(次回予告を追加)