平凡な小学3年生だったはずの私、高町なのはに訪れた小さな事件。
 受け取ったのは勇気の心。
 手にしたのは魔法の力。
 すべてが終わって戻ってきた日常。
 それでも、また新しい事件が始まる――だけど、つながった想いは、きっと何にも負けない力になる。
 そして――その想いが、新しい出会いを導いていく。

 魔法少女リリカルなのはVS勇者精霊伝ブレイカー、始まります。

 

 


 

プロローグ
「新たな物語の始まり」

 


 

 

 時空管理局本局で行われたフェイトとアルフの裁判はすでにすべての審議を終了し、大詰めを迎えようとしていた。
 クロノの奮闘によってフェイト達の無罪もほぼ確実視され、あとは判決を待つばかり。
 というワケで――判決が言い渡されるまで、フェイト達は本局に停泊しているアースラにその身柄を預けられていた。

「……ヒマねぇ……」
 大きく背伸びして、エイミィは心底退屈そうにそうつぶやいた。
 アースラのレストルーム、昼食時のことである。
「もう無罪もほぼ確定なんだから、さっさと判決下しちゃえばいいのに」
「そういうワケにもいかないだろ」
「もう、相変わらずカタイわねぇ、クロノは」
 たしなめるクロノだったが、エイミィはどこ吹く風でそう答える。
「フェイト、裁判が終わったらもう自由だけど、やっぱりすぐなのはのところに行くの?」
「うん、そのつもり……」
 尋ねるアルフにフェイトが答えると、となりで砂糖がしこたま入ったお茶をすすりつつリンディがつぶやいた。
「それならいっそ、フェイトちゃん達の身の振りはなのはちゃんの家にお任せしようかしら」
「いいんですか?」
「いいんじゃない?」
 尋ねるフェイトに答えるその言葉はエイミィ以上に投げやりだ。
 と、その時、突然艦内に――いや、本局全体に警報が鳴り響いた。
 同時、リンディの元にブリッジから通信が入る。
〈艦長! この本局に向けて何者かが接近中!
 データ照合該当なし! UNKNOWNです!
 数は2! 本局全域に警戒態勢!〉
「UNKNOWNですって……?
 本局の侵入者迎撃システムは?」
〈間もなく作動。映像回します!〉
 尋ねるリンディに答え、オペレータはリンディの目の前に映像を投影した。
 見ると、接近する2つの獣のような影に向け、本局施設に備え付けられた魔力砲が一斉に砲撃。放たれた魔力弾が影へと突っ込んでいく。
 それに対して、影のひとつが周囲に力場を展開し、次の瞬間――力場に激突した魔力弾がその進路を変え、逆に本局施設へと襲いかかり迎撃システムを薙ぎ払う!
 そして、影はゆっくりと本局施設に降り立つと、外装を力ずくで引きはがして内部へと侵入していく。
「な、何よ、アレ!?」
「プロテクションか……?
 だけど、あんな強力なもの、見たことがない……!」
 正体不明の存在が持つ驚異的な力を前に、エイミィとアルフが声を上げると、
「……どうやら、並の相手じゃなさそうね……」
 同じくその光景を前にして、リンディは表情を引き締め、静かに告げた。
「クロノ、迎撃に出て。
 並の武装局員じゃ、あの力には対抗しきれないわ」
「了解」
「それと……」
 クロノの返事を聞き、リンディは今度はフェイトとアルフへと向き直った。
「二人にも、迎撃に出てもらいたいのだけど。
 まだ判決待ちだけど、あなた達の人となりは私が保証できるし、私の権限の元に特別に許可します」

 ドガオォォォォォンッ!
 爆発が巻き起こり、その中から二つの影がその姿を現した。
 サイともバッファローとも似つかない異形の獣と、宙を泳ぐサメを思わせる海洋生物型の怪物である。
 そして、彼らがいるのは――時空管理局が回収したロスト・ロギアの保管されている保管庫だった。
「ここか?」
「そのようだな」
 2体の怪物が口々に言うと、
「そこまでだ!」
 クロノの宣告と同時――放たれたスティンガーレイを怪物達は素早く散開して回避する。
「何者かは知らないが、これ以上はやらせない!」
「チッ、武装局員か……
 どうする? ベヒーモス」
「やるしかあるまい。
 貴様はブツの回収でもしていろ」
 尋ねるサメ型に答え、ベヒーモスと呼ばれた獣型はクロノの前に立ちふさがり、
「残念だがこっちも仕事なんだ。
 悪いことは言わん、とっとと引っ込んでいろ!
 ベヒーモス、変身エヴォリューション!」
 そう告げた瞬間、ベヒーモスの顔面が“割れた”。
 いや――頭部が二つに分かれると左右に展開され、その内部から人型の両腕が現れたのだ。
 続いて両足が折りたたまれると後ろ半身の皮が開き、中におりたたまれていた両足がまっすぐに伸ばされる。
 そして、外皮が展開されて姿を現した身体の中から頭部が現れ、変身を完了したベヒーモスはクロノの前に着地した。

「さて、ブツはどこだ……?」
 宙を泳ぎ、サメ型は目的の品を探して保管庫の奥へと進んでいく。
 と――行く手にそれを発見した。
 “力”を封じる特別なケースに収められた21個の結晶体――ジュエルシードである。
「……見つけた!
 お宝、いただき!」
 それを見るなり、サメ型は急加速、一気にジュエルシードへと突っ込み――
「――――――っ!?」
 突然飛びのいたその眼前を雷光が駆け抜け、フェイトとアルフがサメ型の前に立ちふさがる。
「チッ、次から次に、面倒だな……
 まぁいい! ジャマするっていうなら遠慮はしないぜ!
 リヴァイアサン、変身エヴォリューション!」
 そう叫んだ瞬間、サメ型――リヴァイアサンの顔面がベヒーモスと同じように二つに割れて両腕に変形、後ろ半身が後方にスライド式に伸びると左右二つに割れ、尾びれが内側にたたまれるとヒザを基点にそれぞれが180度回転、両足へと変形する。
 そして、外皮が展開されて身体が現れ、その中から頭部がせり出し、変身を完了したリヴァイアサンがフェイト達へと魔力の光弾を放つ!
「フェイト!」
「わかってる!」
 アルフに答え、フェイトは彼女と左右に分かれて光弾を回避し、リヴァイアサンに向けてアルフがフォトンランサーを放つ。
「しゃらくせぇっ!」
 対して、リヴァイアサンはプロテクションを発動、展開されたバリアがアルフのフォトンランサーを受け止め――
 ドォンッ!
 爆音と共に、巻き起こった爆発がリヴァイアサンの視界を奪う。
 元々近接格闘に特化していたアルフは射撃が得意ではない。そのため、彼女の使うフォトンランサーはあくまでフェイトの援護用でしかなく、その『法式』は援護、かく乱のため、着弾時に爆裂するように調整されているのだ。
 そして――
 ――ザンッ!
 アルフのフォトンランサーは用途通りの役目を果たした。爆発にまぎれて接近したフェイトが、サイズフォームに変形したバルディッシュでリヴァイアサンのバリアを粉砕、その身体に一撃をあびせる!
(――浅い!)
 しかし、手ごたえはあったものの決定的なものではなかった。とっさに後退してダメージを抑えたリヴァイアサンに向けてフェイトは再び間合いを詰め――
「――フェイト、下がって!」
「え――――――?」
 突然声を上げたアルフにフェイトが反応するが、すでに遅かった。
 次の瞬間――フェイトの脇腹を“背後から”飛来した閃光が撃ち抜いていた。
「ぐ………………っ!」
「油断大敵だぜ、お嬢ちゃん」
 床に落下し、激痛にうめくフェイトに告げ、リヴァイアサンは光球を生み出して周囲にばらまいた。
 これが、フェイトの脇腹を撃ち抜いた攻撃の正体――維持、コントロールが可能な魔力光球である。
「悪いが仕事は他にもあってな、あまり時間はかけられないんだ。
 とっておきの技で、さっさと終わらせる――オレの必殺技を喰らえるんだ、光栄に思いな!」
「フェイト!」
 リヴァイアサンの言葉に、アルフがフェイトに向けて地を蹴る。
 が――間に合わなかった。
深淵なる暴風雨ディープ・ヴォーテックス!」
 咆哮と共にリヴァイアサンが両手を振るい――彼に操られた光球が一斉にフェイトに襲いかかり、その身体をバリアジャケットもろとも次々に撃ち貫く!
「フェイトぉ――ッ!」
 絶叫し、倒れたフェイトにアルフが駆け寄り、彼女を抱き上げる。
 息がある。バリアジャケットがかろうじて威力を殺してくれたのだろうか。
 といってもかなりの重傷だが、早急に手当てすればまだ助かる見込みは――
「チッ、しぶといヤツだぜ」
 しかし、それは向こうが許してはくれないようだ。フェイトが生きていると知ったリヴァイアサンは苛立たしげにうめくと再び周囲に光球をばらまく。
「くっ……!
 お前、よくもフェイトを!」
 うめいて、アルフは一直線にリヴァイアサンへと突っ込み――
「うっとうしいんだよ!」
 リヴァイアサンは平然とアルフを迎撃、振り下ろした拳の直撃を受けたアルフは床に叩きつけられると大きくバウンドし、フェイトのそばに落下した。
「人間のクセにオレの“深淵なる暴風雨ディープ・ヴォーテックス”に耐えやがるとはな……プライドが少しばかり傷ついたぞ。
 今度こそ、終わらせてやる!」
 叫んで、リヴァイアサンが二人に向けて“深淵なる暴風雨ディープ・ヴォーテックス”の体勢に入り――
「……ま、まだ……!」
 まだ戦いをあきらめず、フェイトはなんとか立ち上がると、リヴァイアサンに向けてバルディッシュをかまえる。
「しぶといんだよ、小娘が!」
 それを見て、リヴァイアサンが“深淵なる暴風雨ディープ・ヴォーテックス”を放ち――フェイトもそれに対抗して魔法を放った。
 その魔法は――
「サンダー、レイジ!」
 フェイトの非詠唱魔法の中でも最強の魔法が発動、広範囲に渡って放たれた強力な雷撃が、迫り来る光球とことごとくぶつかり合う。
 だが――フェイトの雷撃はそのほとんどが撃ち負け、残った光球が再びフェイトへと降り注いだ。

「……チッ、やりすぎたか……」
 自身の技の流れ弾を受け、本局の外部にまで通じる穴となった壁を見て、リヴァイアサンは息をついてつぶやいた。
 フェイトとアルフの姿はどこにもない。リヴァイアサンの“深淵なる暴風雨ディープ・ヴォーテックス”で吹き飛んだか――
「まぁいい、目的のブツを――」
 気を取り直し、ジュエルシードへと向き直るリヴァイアサンだったが――
「――――――何っ!?」
 ジュエルシードが、ケースごとなくなっているのに気づいた。
 そこに至って、リヴァイアサンは気づいた。
「――小娘どもか!」

(――どこかに……転移しなくちゃ……!)
 もうろうとする意識の中、時空間に放り出されたフェイトはジュエルシードのケースを抱えたまま漂っていた。
 先の技の激突に紛れて、アルフと共にジュエルシードを持って離脱したのはいいが、自身の負った傷も深い。今追撃されれば勝ち目はない。それにアルフともはぐれてしまった。
 だが、このジュエルシードだけはなんとしても守り抜かなければならない。自分の、母の、そして――なのはの想いの上にこうして集められた、このジュエルシードだけは――
 そして――フェイトの姿は時空間から消えた。


 

(初版:2005/07/24)