「あずさ……?
どうしたんだよ? フェイトの(食事以外の)世話任せておいたろ?」
「()内はいらないから」
ジュンイチの言葉に思わずうめくが――あずさは告げた。
「フェイトちゃんがいないの!
家の中はもちろん、ご近所のどこにも!」
「えぇっ!?」
「どういうことだ!?」
「これ……」
声を上げるなのはとジュンイチに答え、あずさは1枚の紙を手渡した。
フェイトの書き置きである。
『やっぱり、ジュンイチさん達を巻き込めません。
ジュエルシードは、私の手で探します。
助けてくださって、本当にありがとうございました』
「……あのバカ……!」
うめいて、ジュンイチは書き置きを握りつぶすと空を見上げた。
「身体も回復してねぇってのに……ウチを出ていったって、何の解決にもならないだろうが……!」
第3話
「勇者との対決」
「フェイトちゃん、どこ行っちゃったんだろう……」
「この世界に行くあてなんかないだろうからなぁ……逆に見当がつけにくい」
とにかく柾木家に戻り、ジュンイチは地図とにらめっこしながらなのはに答えた。
「とりあえず情報網をめぐらせて目撃情報を洗ってもらってるけど、お前から聞いたフェイトの実力からすると……逃げ切られる可能性の方が高い。
正直――難しいな」
そう言うと、ジュンイチはなのはに告げた。
「だからって今から探しに出るとか言うなよ。
もう時間も遅い。今から探したって、夜の闇に紛れて見つかるもんか」
「……はい……」
なのはがうなずくのを見て、ジュンイチは胸中でつぶやいた。
(それに、今のフェイトを連れ戻したって……)
少なくとも行方をつかむことは必要だろうが――今は放っておくのが吉なのかもしれない。
今のフェイトは一連の事態で強く自責の念に駆られている。こちらを巻き込むことを恐れている以上、こちらとの接触は極力避けようとするだろう。追いかけたところで迂闊な接触では逃げられるだけだ。
なのは達はそうは思っていないだろうが……
ややこしい事態になりつつあることを感じ、ジュンイチは思わずため息をついた。
その頃、フェイトは夜の闇に紛れて、廃ビルの一室にその身を隠していた。
前世紀末のバブル崩壊のあおりを受けて工事のストップしたこのビルは、ボロボロの外観とは裏腹に内装はしっかりしている。身を隠すにはもってこいの場所だった。
「……ごめんなさい……」
自分を救ってくれた恩人のことを思い出し、思わずつぶやく。
一瞬戻ろうかとも思うが――すぐにその考えを振り払う。恩人をこれ以上巻き込むワケにはいかない。
おそらく、リヴァイアサンやベヒーモスもジュエルシードを狙ってこの世界に来ているはずだ。あの戦闘力を考えれば、いかにジュンイチでも勝てるかどうか――
いずれにせよ、この問題は自分がこの世界に持ち込んでしまったものだ。ならば――自分の手で決着をつけなければ。
「えぇっ!?」
ジュンイチから告げられ、なのはは思わず声を上げた。
「フェイトを追うな、って……どういうことですか!?」
「復唱が不足だな。
“今は”追うな、と言っているんだ」
聞き返すユーノに答え、ジュンイチは改めてなのはを見返す。
やはり、ここでフェイトを連れ戻すのはタイミング的にマズい――そう判断し、自重するよう告げたのだ。
「フェイトは、『敵』との戦いにオレを巻き込まないように、って身を隠したんだ。
出会ったばかりのオレに対してでさえこうなんだ。旧知の仲であるお前らが追ったりしたら――想像は難しくないだろう」
「け、けど……」
反論しかけたなのはだったが――ジュンイチの言っていることも理解できるため言いよどむ。
「今のフェイトは自責の念で頭ン中がパニくってる。今何言ったって聞きゃしないよ。
むやみやたらと追いかけ回すんじゃなくて、一度フェイトの頭が冷えるのを待つんだ。
もちろん、行方をつかむことは必要だから、居場所だけ見つけたら後は見守るだけに留める、それがベストだろう。少なくとも――フェイトの頭が冷えるまではな」
「けど……あの堕天使達もフェイトを追ってるんだ。
そんな悠長なことをしていたら、ヘタをすればフェイトがヤツらの集中攻撃を受けることも……」
「おい!」
めったなことを言うな――とクロノをいさめようとするジュンイチだったが、すでに遅かった。
「そんな……!」
最悪の事態を想像してしまったのか、なのはは真っ青になって震えている。
「な、なのは……?」
そんななのはに、ユーノが恐る恐る声をかけ――
「やっぱり、フェイトちゃんを探しに行ってきます!」
「おい、なのは!」
ジュンイチが声をかけるが、なのははそのままリビングを飛び出していってしまった。
「な、なのは!」
それを見て、クロノが舌打ちしながらなのはを追って飛び出していき、ユーノも追おうとするが――
「ユーノ」
そんなユーノを、ジュンイチが呼び止めた。
「フェイトの行方がわかり次第連絡する。
だが――先に言った通り、オレは『今の』フェイトを連れ戻すのは反対だ。
いざとなれば――力ずくでもお前らを止める。それだけは忘れるな」
「……はい……」
ジュンイチの言葉に、ユーノはうなずいてなのは達を追った。
東京中心部よりは早いが――府中の夜も首都圏の例にもれず遅い。
そんな府中の街並みの灯りを眼下に見下ろし、リヴァイアサンは静かに佇んでいた。
「さて……この次元世界に間違いはないんだが……
やはり、発動してくれなければ位置の特定は難しいか……」
しばし考え――決めた。
「あの小娘を探すのが一番手っ取り早いか……」
そして、リヴァイアサンはビーストモードへと変形すると上空へと飛び立った。
「フェイトちゃん、どこ行っちゃったんだろ……」
「ジュンイチさんの話じゃ、ケガは治ってるけど体力が戻ってない、って話だから……そう遠くには行けないはずだ」
夜の街をフェイトを探し、つぶやくなのはにクロノが答える。
「となると、この街で隠れられそうな場所をしらみつぶしに当たっていくしか……」
クロノがつぶやいた、その時、
「おい、そこのガキども」
突然声がかけられ、振り向いた先には――
「ガキが出歩いていい時間じゃないぞ。
緊急の用事じゃない限り、とっとと帰れ」
まるで親が子供をしかるように、橋本は両手を腰に当ててなのは達に告げた。
自分もまだ高校生という名の『ガキ』であることを棚に上げつつ――
なのは達に先走らないように言ったものの、フェイトの身を案じているのはジュンイチも同じだ。家の方をあずさやブイリュウに任せ、彼もまた夜の街に繰り出していた。
〈……了解。
つまりオレはその金髪の子を見つけたらそれとなくガードして、彼女を探してるツインテールの子達は足止めしておけ、と……〉
「そゆコト」
ビルの上でブレイカーブレスを使って通信しながら、ジュンイチは青木にそう答えた。
〈にしても、お前から人探しを頼まれるとはな。
人探しはお前の得意分野だろ〉
「手がいる時は素直に頼るさ」
〈お前はその『手がいる時』の基準が高すぎるんだよ〉
「そうか?」
〈そうだよ。
とにかく人探しの件は了解だ〉
「頼むよ」
そう言って通信を切ると、ジュンイチは着装し、探索型フェザーファンネル『フェザーサーチャー』を作り出して周囲にバラまく。
いつものそれと違い監視システムの一部として作り出されたフェザーファンネルは、ジュンイチの額のバイザーに捉えた映像を随時送ってきている。
「……なんとか、なのは達より先に見つけないと……」
つぶやき、さらに探索を続けるジュンイチだったが――
「――――――っ!?」
それを感じ取り、顔を上げた。
ここ数日立て続けに感じているこの感じは――
「ジュエルシードか!?」
「――ジュエルシード!」
発動したジュエルシード波動を感じ取ったのはジュンイチだけではなかった。同様に感じ取り、なのはが声を上げる。
となれば、フェイトもまたジュエルシードを封印しようと動き出すはずだ。
「急ごう!」
「うん!」
なのはの言葉にユーノが答え、3人もまた現場に向かうべく走り出す。
「あ、おい!」
それを見て橋本が声を上げるが、3人の耳にはすでに入らない。
「……何だってんだ……?」
だが――事態はある意味で最悪な方向に動いていた。
もっともジュエルシードを渡してはならない相手もまた、その波動を感じ取っていたからだ。
「――見つけたぜ!」
歓喜の声を上げ、リヴァイアサンもまた現場に向かう。
発動したジュエルシードを回収し――その回収に訪れるであろうフェイトから残りのジュエルシードの在り処を聞き出すために。
一番最初にジュエルシードの発動現場に到着したのはジュンイチだった。
「……アイツか……」
うめいて、着装すると同時に“紅夜叉丸”を爆天剣へと変化させ、ジュエルシードによって怪物へと変化したバラへとかまえた。
「ビオランテみたいだな……」
その異様を前に、つい彼らしい感想がもれる。
だが、油断ができない相手であることだけは間違いない。あの触手のようにうごめくトゲ付のツタもそうだが、植物の生命力は人間が思っているよりもずっと強い。それがジュエルシードで強化されているとすれば、生半可な攻撃ではすぐに再生するだろう。
それに、速攻で決めなければジュエルシードの波動を感じ取ったなのは達や、フェイトも来るだろう。まぁ、ジュエルシードを封印するためには彼女達の存在が不可欠なのだが――最悪の場合、クロノが
堕天使と呼んだ敵まで現れる可能性すらある。
「悪いが……とっとと焼かせてもらうぞ」
少なくとも、相手が植物であるのはありがたかった。自分のもっとも得意とする炎の攻撃で焼き払うべく、ジュンイチは右手に炎を生み出し、迷うことなく解放する。
だが、炎に巻かれてもバラ――ジュンイチの感想に従いビオランテと呼ぶことにしよう――は平然としている。元々バラが燃えにくい樹皮を持つこともあるのだが――
「燃えにくいからなー、生木って」
思わずごちて、次の手に出る。
「そんじゃ、お次は剪定といきますか!
ウィングブーメラン!」
咆哮すると背中の多目的変形ツール・ゴッドウィングを投げつけ、鋭利な刃となった翼は高速で回転しつつ飛翔、ツタをまとめて薙ぎ払う。
だが、ビオランテもすぐにツタを再生させ、ジュンイチに向けて襲いかかる。
「くそっ、予想通り厄介な再生力だな!」
うめいて、ジュンイチは間合いをとってゴッドウィングを回収し、
「これで、どうだ!」
すぐさまゴッドウィングをウィングディバイターへと変形させ拡散式にビームを放つが、やはり薙ぎ払われたツタはすぐに再生する。
しかも、ビオランテは新たなツタをも生み出し、その周囲はツタによる完全な防衛線が形成されてしまった。
「まるでギリシャ神話のヒドラだな……」
その光景を前に、ジュンイチは思わずつぶやき――
「………………ん?」
ふと、何かに気づいた。
(ヒドラ……?
確か、あのヒドラって最後は……)
「……試してみっか!」
決断し、ジュンイチは再びウィングブーメランを投げつけ、ビオランテの正面のツタを薙ぎ払う。
対して、ビオランテもツタを再生されるが――
「ヘラクレスのヒドラ退治って知ってっか?」
それを許すジュンイチではない。傷口を続けて放った炎で焼き、炭化した傷口が再生を阻む。
ギリシャ神話の英雄ヘラクレスは、無限に分裂再生する身体を持つヘビの怪物ヒドラを退治するために、頭をツブしたその傷口を焼いて塞ぎ、再生を阻んだ――ジュンイチはそれを再現したのだ。
再生が不可能だとわかり、ビオランテは新たなツタを伸ばそうとするが、
「遅い」
すでにジュンイチはビオランテの眼前へと滑り込んでいた。
そして――次の瞬間、ジュンイチの振るった爆天剣がビオランテの内部からジュエルシードを抉り出したのだった。
「うわぁ、ジュンイチさん、早ぁい……」
「バカ言え。お前らが遅いだけだ。
ま、徒歩だからしゃーないけどさ」
ようやく到着したなのはに答え、ジュンイチは他のものに取り憑かないように監視していたジュエルシードの前で立ち上がる。さすがにエネルギー渦巻くジュエルシードをもう一度手に取る気にはなれない。
「ほら、封印頼む」
「あ、はい」
ジュンイチに言われ、なのはは答えてレイジングハートを向け、ジュエルシードを回収する。
シリアルは――XXI。
「これでよし、と……
ジュンイチさん、フェイトちゃんは……?」
「こっちも探しちゃいるが、まだ見つかってない」
「そう、ですか……」
なのはがうつむくと、ジュンイチは彼女に告げた。
「見つかったら……すぐに駆けつけるつもりか?」
「えっと……」
その言葉に、なのははジュンイチを直視できずに視線をそらす。
だが、ジュンイチにはそんな彼女の態度だけで十分だった。
「やっぱり、追いかけるつもりだったか。
だったらなおさら、見つけてもお前らに教えるワケにはいかないな」
そう言うと、ジュンイチは息をつき、改めてなのはに告げた。
「ユーノに伝言を頼んだはずだ。
今のフェイトに接触すべきじゃないと――発見しても監視にとどめるべきだと。そして――ムリに接触しようとするなら、オレはお前を力ずくでも止めなけりゃならない、と」
そう告げるジュンイチは目は本気だ。もし『その時』になれば、躊躇なく自分達の敵に回るだろう。
「けど……フェイトちゃん、身体もまだ回復してなくて……そんな状態なのに、もし、敵が現れたら……」
「今ムリに追いかけたって、『こっちを巻き込まない』ってことに躍起になってるフェイトは全力で逃げ回るぞ。
そうなれば、回復はますます遠のく」
ジュンイチがなのはに答えると、
「だからって、放っておくワケにはいかない」
そう告げたのはクロノだった。
「あの堕天使達は、ジュエルシードの行方をつかむためにフェイトを狙うはずだ。一刻も早く保護しなきゃ……」
「保護したって、お前らにフェイトを堕天使から守りきれるのか?」
クロノの言葉に、ジュンイチはすぐさま聞き返す。
「少なくとも……フェイトの傷を見る限り、お前らだけじゃ手に負える相手じゃない。
アイツの“力”を感じ取った範囲からの推測になるが……少なくともフェイトは、能力面じゃオレにだって負けてない。そのフェイトがあそこまでやられたんだぞ。
自画自賛みたいで好かない言い方になるが……オレに匹敵するくらいの身体能力を持ち、しかも“力”を持つ能力者を最低ひとり追加。それが最低限のセーフティラインだろう」
「あなたなら堕天使に対抗できるとでも?」
「思っちゃいないが、少なくともお前らには負ける気がしない」
「それは、ボク達に貴方ほどの力がない、と?」
「フェイトとやり合ったこともあるんだろう? となれば“力”の強さはむしろお前らの方が上だろうが……戦いは力や技だけで決まるものじゃない」
ジュンイチがそう答え――
「なら――試してくださいよ!」
言うと同時、クロノはS2Uからスティンガーレイを撃ち放つ!
「クロノくん!?」
それを見て、なのはが思わず声を上げるが――
――パァンッ!
クロノのスティンガーレイは、ジュンイチの振るった手によって無造作に打ち落とされていた。
彼の手にピンポイントで展開された防壁によって弾かれたのだ。
「な………………っ!?」
「終わり?」
必殺技、というワケではないが――もっとも頼りにしている得意技をあっさりと防がれ、呆然とするクロノにジュンイチは平然と尋ねる。
「ま、まだまだぁっ!」
しかし、ここで引くワケにはいかない。クロノは上空に飛び立つとフォトンランサーを連射する。
対して、ジュンイチは――動かない。フォトンランサーはすべてジュンイチを直撃した。
「どうだ!」
効果のほどはまだ爆煙に紛れてわからない。ジュンイチの姿を探し、クロノが声を上げ――
「甘い」
爆煙の中からジュンイチが姿を現した。
しかも、クロノのフォトンランサーの何発かがジュンイチの周囲を高速で飛翔している。
「力場にはこういう使い方もある。
直接受けるだけが防御じゃないってことだ」
ジュンイチは直撃弾のみを自身の力場で受け流すと同時、それを絡め取って勢いを殺さぬように自分の周りを飛び回らせていたのだ。
その目的はもちろん――
「そら――返してやるぜ!」
ジュンイチが叫ぶと同時――ジュンイチはフォトンランサーの拘束を解除、解放されたフォトンランサーはまるで力場に投げ飛ばされたかのようにクロノへと襲いかかる!
「く……っ!」
とっさにそれをかわし、クロノは反撃すべくS2Uをかまえる――が、彼の視線の先にジュンイチの姿はなかった。同時――
「クロノ、後ろ!」
「――――――っ!?」
それに気づいたユーノの言葉に振り向き――そこに回り込んでいたジュンイチが、クロノを大地に叩き落す!
「ドサクサ紛れに相手の背後をとるなんて、戦法の中じゃ基本中の基本だ――それすら予測できないクセしてオレと対等にやり合えると思うな。
それでも、これ以上ダダをこねるなら……しばらくオレんちのベッドに入院だ」
そう言うと、ジュンイチは気を失ったクロノに向けて炎を生み出し――
「――――――!?」
とっさに横から自分を狙う閃光に向けてその炎を放ち、閃光を相殺する。
「……お前も、か……」
そして、ジュンイチはレイジングハートをかまえるなのはへと視線を向けた。
「ごめんなさい、ジュンイチさん……
ジュンイチさんの言うことも正しいと思うけど……やっぱりフェイトちゃんを放っておけない!
今、フェイトちゃんはひとりぼっちなんだよ! だからそばにいてあげたい!
そのために、ジュンイチさんと戦わなきゃいけないのなら……」
言って、なのははジュンイチを正面から見据え、告げた。
「ジュンイチさんに――勝ちます」
まだ、少し走っただけで息が切れる――ジュンイチの手当てによって傷はほぼ完治しているが、彼の言葉通り体力や魔力の回復にはまだしばらくの時間が必要なようだ。
ようやく現場にたどり着き、フェイトは木に寄りかかって呼吸を整える。
すでにジュエルシードの波動は消えている。ジュンイチが鎮めてくれたのだろうか――
そう思って周囲を見回し――フェイトは発見した。
上空で対峙する、ジュンイチとなのはの姿を。
「オレに勝つ、か……」
つぶやき、ジュンイチはゆっくりとなのはへと向き直った。
「そこまでの決意なら――見せてみろ。
お前がフェイトのためにその後を追いたいように、オレもフェイトのためにお前らを追わせるワケにはいかないんだ」
言いながら周囲の気配を探り、状況を確かめる。
――問題は、ない。
「そんじゃ……先手はもらうぜ!」
確認が終わると次の行動は早かった。炎として燃焼させることもせず、右手に収束させた精霊力を光熱波として解き放つ。
対して、なのははそれをかわしてレイジングハートをシューティングモードへと変形。ジュンイチへと狙いを定める。
戦闘経験も、技も――彼の言葉を借りるなら魔力以外はジュンイチに圧倒的に分がある。生半可な小細工は通じないだろう。ならば――正面から、全力でぶつかるまでだ。
「ディバイン、バスター!」
機動性を損なわないギリギリのレベルにまで魔力を高め、特大のディバインバスターを放つ。
だが、ジュンイチもそんな大火力をわざわざ受け止めてやるつもりはないしその必要もない。素早くかわして周囲に精霊力を放出、フェザーファンネルへと作り変える。
フェイトの話だと、敵のひとりは多数の光球を遠隔操作して攻撃してきたという。ならば、この攻撃に対抗できなければその敵に勝つことはできない。
「こいつを――止めてみな!」
咆哮し、ジュンイチはフェザーファンネルを放ち、一斉になのはへの攻撃を指示する。
「わ、わわ、ぅわぁっ!?」
自分の死角を的確に狙い、攻撃してくるフェザーファンネルから、なのはは必死に逃げまどい――
「オレを忘れちゃいませんか?」
そんななのはに、ジュンイチが肉迫する!
とっさになのははレイジングハートをかまえ、そこにジュンイチの振り下ろした爆天剣が叩きつけられる。
口では何と言っても、結局ジュンイチはなのは達の身も案じている――爆天剣の持つ変形能力の応用で刃をつぶし、斬撃力を排しているのがその証拠だ。
だが、そのことになのはが気づく余裕などない。ジュンイチは力任せに爆天剣を振り抜き、勢いに負けたなのはが吹き飛ばされる。
なんとか体勢を立て直し、すでに先の場所から姿を消したジュンイチを探し――
「――なのは、下っ!」
ユーノの叫びに、ジュンイチが真下から爆天剣で炎を放ったのに気づき、素早く離脱してやり過ごす。
が――ジュンイチはすでに左手に次の炎を生み出していた。すぐさま放たれた第二撃をプロテクションで防ぎ――
「もらいっ!」
防御のために動きを止めたことで、再びジュンイチの接近を許していた。プロテクションの反対側に回り込んだジュンイチの蹴りを受け、上空に跳ね飛ばされる。
だが――大振りに蹴ったおかげでジュンイチにスキが生まれた。なんとか体勢を立て直し、なのははジュンイチへとレイジングハートを向け、
「ディバイン、バスター!」
なのはの放った一撃は回避も許さずジュンイチを直撃。とっさに力場を強化して受け止めたジュンイチだったが、その勢いに押されて大地に叩きつけられる。
「ごめんなさい!」
これで決める。いや、ここで決められなければ勝ち目はない――そう決断し、なのははレイジングハートをかまえ、その先端にエネルギー球を形成し始める。
「く……っ!」
今までの攻撃とは何かが違う――半ば直感でそれを感じ取り、ジュンイチは力場を多重に展開して防御体勢に入る。
ジュンイチの力場はエネルギー攻撃に対する耐性が強い。光線系が多いなのはの魔法なら、これでほとんどが防げるはずだ。
そして――
「スターライト、ブレイカー!」
ジュンイチの予想は的中した。なのはは叫ぶと同時にエネルギー球にディバインバスターを撃ち込み――そのエネルギーはディバインバスターのエネルギー流に乗って一斉にジュンイチへと襲いかかる!
これぞなのはの誇る、ディバインバスターの持つ最強のバリエーション・パターン――だが、防御を固めていたジュンイチには通じない。防壁は何枚か突破されたがすべてを撃ち抜くには至らず、やがて閃光は消滅する。
すかさず防壁を解き、反撃しようとするジュンイチだが――
「――――――げっ!?」
こちらの反撃を受けることすら覚悟の上だったのか――すでに次弾のチャージに入っているなのはに気づいて思わず声を上げる。
しかも――
(さっきの技か――?)
「ちょっと待て!
いくらなんでもチャージ早すぎやしませんか!?」
自分の多重防壁を深々とえぐるほどの火力を立て続けに生み出すなのはに、ジュンイチは思わず驚きの声を上げる。
マスター・ランクの中でも突出した出力を誇るジュンイチだが、あの威力を立て続けに撃つなどありえない――できない話ではないが、それは訓練などでの話だ。戦闘中にはどう考えても不可能だ。
となれば他にカラクリが――そう考えた時、ジュンイチは気づいた。
周囲に漂っていた戦闘による“力”の残留が急速に薄まっている。これは――
(魔力を――再利用してやがる!?)
ジュンイチの読みは当たっていた。戦闘において放出され、拡散した魔力をかき集め、収束させて放つ、それがなのはの切り札『スターライトブレイカー』の正体だ。
しかも――なのはの集めている魔力には彼女の魔力独特の桜色だけでなく、わずかに真紅の輝きも混じっている。
それに気づき、ジュンイチは自分の背筋が凍りつくのを感じた。
あれは自分の“力”だ――精霊力は術者自身を練成器として『気』と『霊力』、そして『魔力』を掛け合わせて作り出す。当然放ち、拡散した後にはそれぞれのエネルギーに戻る。なのははそれすらも利用したのだ。
ジュンイチは知らないことだが――なのははかつて、フェイトとの決戦の際にこの技を使用した時にも同じ手法でフェイトの魔力を再利用している。つまり戦いが激しくなり、お互いが強力な魔力を放てば放つほど、なのはのスターライトブレイカーは威力を増すのだ。
「後で覚えてろよ、この魔力ドロボーが!」
だが――今はグチるよりも対応が先だ。ジュンイチは悪態をつきながら再び先のそれと同じ防壁を展開する。
「連撃とは考えたが――残念だったな! 同じ攻撃じゃ通じないぜ!」
告げるジュンイチだったが――
「同じかどうかは――受けて確かめて!
スターライト、ブレイカー!」
答えて、なのはが放ったスターライトブレイカーがジュンイチへと襲いかかり――それはいとも簡単に防壁を突き破り、ジュンイチを大爆発の中に叩き込む!
今放ったのはスターライトブレイカーの強化バリエーション『スターライトブレイカー+』。チャージ時間を延長することで威力を強化し、同時に結界の完全破壊能力まで付加されている。
さっきと同じ、通常のスターライトブレイカーだと思っていたジュンイチは悠々と防御し、結果なのはに『+』を撃つだけのチャージ時間を与えてしまった――見事になのはのワナにはまってしまったのだ。
(これで、決まってくれれば……!)
息を切らせ、胸中でつぶやくなのはだったが――
「やってくれるじゃねぇか。
オレを出し抜くなんてライカでもそうそうできねぇんだ。自慢していいぞ」
“装重甲”をボロボロにされはしたが、それでも無事なジュンイチが爆煙の中から姿を現した。
「けど、残念♪ 今の技、あくまで撃ち抜けるのは『結界系の防御のみ』らしいな――物質化してる“装重甲”まで破れなかったのがその証明だ」
そう告げる間にも、ジュンイチの“装重甲”は彼の精霊力の補充を受けて修復されていく。
「力場の防壁を破っても今度は“装重甲”――この多重防御を破らない限り、オレは倒せないぞ」
「だ――だからって、あきらめてなんかいられない!」
ジュンイチに言い返し、なのはは再びスターライトブレイカーのチャージに入る。
すでに単発の直撃では通じないことが証明されている。が――小手先の攻撃がすべて通じなかった今、なのはにはこの切り札に頼る他はなかった。
無論、『保険』はかけておくが――
「させるか!」
対して、ジュンイチもあんな強力な攻撃を何度も受けてやる気にはなれない。防げはしても傷みが皆無なワケではないのだ。戦士だって痛いのはイヤに決まってる。
すぐになのはのチャージを妨害すべく爆天剣を振る――おうとした瞬間、その手に何かが絡みついた。
見ると、彼の右手だけでなく、四肢すべてに魔法陣をかたどったエネルギー塊がからみつき、彼の動きを封じている。
なのはの『保険』だ。
「拘束術だと――!? あれだけの魔力を行使しつつ!?」
つぶやき――気づいた。
(そうか――発動遅延か!)
相手の動きを封じ、確実にスターライトブレイカーをチャージするための拘束術だ。発動を遅延させたのは、チャージと拘束術を並行することで発生するチャージへの支障を避ける意味合いがあった。
まだ荒削りで付け入るスキなどいくらでも見つかるが――それでも予想外に高いなのはの素養に、さすがのジュンイチも驚きの声を上げる。が、すぐに冷静さを取り戻し、自身の“力”で拘束術に干渉、その拘束を破ろうとする。
だが、なのはの方が速かった。レイジングハートの先端に 巨大なエネルギー球を作り出し、
「スターライト、ブレイカー!」
なのはの放ったスターライトブレイカーが三度ジュンイチへと襲いかかる!
だが――ジュンイチもついになのはの拘束術を打ち破り、
「ゼロブラック――Fire!」
素早くゼロブラックで対抗、放たれたエネルギーがなのはのスターライト・ブレイカーのエネルギーと激突する!
しばし両者のエネルギーは拮抗、周囲に弾かれたエネルギーをまき散らし――ジュンイチの口元に笑みが浮かんだ。
「――――――っ!?
なのは、ダメだ、逃げて!」
「え――――――?」
その笑みの意味に気づき、叫ぶユーノになのはが声を上げ――
「――弾けろ!」
ジュンイチが叫んだ瞬間――ゼロブラックのエネルギーが炸裂した。
それはスターライト・ブレイカーのエネルギーを誘爆させ、さらに周囲にまき散らされたエネルギーにも引火。一帯に大爆発を巻き起こす!
なのはは周辺の魔力をかき集めることでスターライトブレイカーを放った。それと同じように、ジュンイチは周辺にばらまかれ、拡散する前の魔力を大爆発の起爆剤として利用したのだ。
「きゃあっ!」
爆風は基本的に横と上方に広がる。上空にいたなのはは大爆発の爆風をまともに受けて吹き飛ばされ――
「龍翼の轟炎!」
そんななのはに向けて、ジュンイチの放った炎の龍がなのはへと襲いかかる!
「なのは、避けて!」
「う、うん!」
ユーノに答え、なんとかその一撃をかわすなのはだったが――
「――――――っ!?」
半ば直感に従って背後へと振り向き――そこには、ゴッドウィングを炎で包んだジュンイチの姿があった。
「お前にさっきの技があるように――オレにもあるんだよ、ギガフレアのバリエーションが!
號拳龍炎!」
咆哮と共に右拳に収束させたギガフレアの炎を叩き込まれ、バリアジャケット越しにも強烈な衝撃がなのはを襲う。
完全に衝撃に負け、なのはは大地に向けて落下し――
「仕上げっ!」
ジュンイチは再び“號拳龍炎”の体勢に入り――右拳に収束した炎が螺旋状に回転を始める。
そして、ジュンイチは落下するなのはへと追いつき、
「螺旋龍炎!」
渦巻くその炎を、拳に乗せてなのはに叩きつけた。
「これでわかっただろう。お前達の実力が」
追い詰めた場面は多々あったものの、そのすべてが巻き返され、終わってみればジュンイチの圧勝――完全に打ちのめされ、大地に倒れるなのはに上空のジュンイチが言う。
「フェイトのダメージはそんなものじゃなかった。今お前らが受けた以上の攻撃を受けたんだ。
オレ、人によく『負けず嫌いだ』って言われる。たまに自分でもそうだと思う時がある……けど、そんなオレでさえ、フェイトをあんな目にあわせたほどのヤツ相手に、素直に勝てるなんて思えない――お前らが飛び込もうとしていたのは、そういうレベルの戦いなんだ」
言って、ジュンイチは着地し、
「今お前らが参戦したところで、フェイトを守り抜くことなんかできやしない。それどころか、自分を守ることすら危ういんだ。
そんな程度の力で、『フェイトを守る』とかほざくんじゃねぇ!」
「……それでも……!」
言い放つジュンイチの言葉に、なのははレイジングハートを支えに立ち上がる。
「それでも……私はフェイトちゃんを探したい……!
フェイトちゃんの、そばにいてあげたい……!」
「……あー、もう!」
あくまで譲らないなのはに、ジュンイチは困ったように頭をガジガジとかき、
「しゃーねぇ。
あきらめてくれれば、とも思ってたけど――そこまで言うなら、当初の予定通りオレんちに入院だ!」
言って、ジュンイチが右手に炎を生み出して――
ドォンッ!
「――――――っ!?」
突然光熱波の直撃による爆発が彼を襲い、吹き飛ばされたジュンイチが大地に叩きつけられる!
「なんだ……!?」
うめいて、ジュンイチが振り向くと――
「やれやれ、ジュエルシードを追ってきてみれば……どこぞのザコが小競り合いかよ」
言って、リヴァイアサンは上空からジュンイチ達を見下ろしていた。
「……アイツらがクロノの言ってた堕天使か……!」
(しくった……! ジュエルシードの発動現場でそのままやり合えば、ヤツらも出てきてしかるべきだろうが……!
最後の『詰め』もまだだってのに……よりにもよって、一番最悪のタイミングかよ!)
胸中でうめき、ジュンイチはなんとか立ち上がってリヴァイアサンへとかまえる。
そう――『なんとか立ち上がることができた』。
力場どころか“装重甲”まで深刻な損傷を受け、その身体は今の一撃ですさまじいダメージを受けている。今立ち上がった際の身体のぎこちなさがそれを雄弁に物語っていた。
“装重甲”は彼の精霊力が続く限り修復することができる。少なくとも戦闘の継続は可能だが――しばらくは動きが鈍ることは避けられそうにない。
「まぁ、いいや。とっととてめぇら叩きつぶして、ジュエルシードを奪えばいいだけのことだしな」
言って、リヴァイアサンが狙いを定めたのは――
「――ちぃっ!」
その狙いに気づき、ジュンイチはとっさに地を蹴り――
「深淵なる暴風雨!」
なのはをかばって、リヴァイアサンの放った光弾の雨を浴びていた。
(初版:2005/10/16)