「やれやれ、ジュエルシードを追ってきてみれば……どこぞのザコが小競り合いかよ」
言って、リヴァイアサンは上空からジュンイチ達を見下ろしていた。
「……アイツらがクロノの言ってた『堕天使』か……!」
(しくった……! ジュエルシードの発動現場でそのままやり合えば、ヤツらも出てきてしかるべきだろうが……!
最後の『詰め』もまだだってのに……よりにもよって、一番最悪のタイミングかよ!)
胸中でうめき、ジュンイチはなんとか立ち上がってリヴァイアサンへとかまえる。
そう――『なんとか立ち上がることができた』。
力場どころか装重甲まで深刻な損傷を受け、その身体は今の一撃ですさまじいダメージを受けている。今立ち上がった際の身体のぎこちなさがそれを雄弁に物語っていた。
装重甲は彼の精霊力が続く限り修復することができる。少なくとも戦闘の継続は可能だが――しばらくは動きが鈍ることは避けられそうにない。
「まぁ、いいや。とっととてめぇら叩きつぶして、ジュエルシードを奪えばいいだけのことだしな」
言って、リヴァイアサンが狙いを定めたのは――
「――ちぃっ!」
その狙いに気づき、ジュンイチはとっさに地を蹴り――
「深淵なる暴風雨!」
なのはをかばって、リヴァイアサンの放った光弾の雨を浴びていた。
第4話
「決意の復活」
「ぐぁ………………っ!」
リヴァイアサンの“深淵なる暴風雨”を受け、ジュンイチは完全に装重甲を粉砕され、吹き飛ばされた。そのままなのは達の後方へと落下する。
「ジュンイチさん!」
自分をかばい攻撃を受けたジュンイチに、なのはが声を上げ――
「よそ見してる余裕があるのかよ!?」
瞬時に間合いを詰めたリヴァイアサンが、なのはを殴り飛ばす。
「なのは!
くっ――!」
うめいて、ユーノがフォトンランサーを放つが、元々攻撃に向かない彼の魔法はリヴァイアサンに傷ひとつつけられず、
「ジャマだぁっ!」
逆に、リヴァイアサンの光熱波を受けて吹き飛ばされる。
「さて、と……
ジュエルシードの手がかりをつかむにゃ、てめぇらの誰かから吐かせるのが一番手っ取り早いらしいな……」
言って、リヴァイアサンはなのはへと向き直り――
ドゴォッ!
その背中に、渦巻く炎が叩きつけられた。
そして、
「ざけんな、てめぇ……」
言って、装重甲を失ったジュンイチは身体中のあちこちから血を流しながらゆっくりと立ち上がった。
「『堕天使』だか何だか知らねぇが……ヨソモンが人の縄張りで、好き勝手してんじゃねぇよ!」
「言ってくれるなぁ、人間の分際で」
「何度でも言ってやるさ。人間の分際で」
リヴァイアサンに言い返し、ジュンイチは静かに構える。
「ぶっちゃけ言えば、こちとら人とも人外とも言えない中途半端な身の上だけどさぁ……
てめぇは、人としてブッ倒したくなった」
「ほざけぇっ!」
言い返し、リヴァイアサンが光熱波を放つが――ジュンイチはそれを紙一重でかわし、周囲に渦巻く余波でその身が傷つけられるのもかまわず(すでに傷だらけなのだ。今さらかまう理由もない)一気に間合いを詰める。
「雷光弾!」
速射の効く雷光弾でまず一撃。続けてその衝撃で姿勢の崩れたリヴァイアサンに向け、左手に蓄えていた炎を叩きつける。
さらに、そのままジュンイチは身を翻し、
「雷鳴斬!」
体さばきの過程で素早く抜き放った“紅夜叉丸”を爆天剣へと変化させ、その力で増幅した雷鳴斬を叩きつける!
だが――
「効かねぇな!」
ジュンイチのその連続攻撃も、リヴァイアサンには通じない。予想外なのか予想通りなのか――ダメージを与えられていないことに舌打ちするジュンイチを、無造作に殴り飛ばす!
「ジュンイチさん!」
(そんな……! 私達よりももっと強いジュンイチさんが……ぜんぜん歯が立たないなんて……!
このままじゃ、ジュンイチさんが……!)
声を上げ、なのはが立ち上がろうとするが、ダメージは大きく、まともに身体を動かすこともできない。
「どうした? 後悔してんのか?」
大地に倒されたまま動かないジュンイチに言い、リヴァイアサンが近づき――
「ずぇえりゃぁあっ!」
突如として跳ね起き、ジュンイチはリヴァイアサンへと不意打ちの蹴りを放つ。
しかし――リヴァイアサンはそれを読んでいた。あっさりと受け止めると、ジュンイチの足をつかんで上空へと投げ飛ばす。
「にゃろうっ!」
だが、ジュンイチも負けてはいない。リヴァイアサンに向けて放った炎でその視界を奪い、
「これなら、どうだぁっ!」
再びその拳に炎を宿し、今度こそリヴァイアサンの死角にすべり込む。
その炎の勢いは今までとは比べ物にならない。おそらく、これが彼の全力なのだろうが――
「遅ぇよ」
リヴァイアサンはあっさりとかわし、ジュンイチを蹴り飛ばす。
ジュンイチのスピードは明らかに先ほどのなのは達との戦いの時よりも低下している。リヴァイアサンの攻撃で受けたダメージのせいだろうか――
「ちっ、しぶといヤツだぜ……」
それでもなんとか空中で身をひねって着地するジュンイチを見て、リヴァイアサンは苛立たしげにうめき、
「こっちはもう、てめぇの相手にゃ飽き飽きしてるんだ!
もういい加減――死にやがれ!」
咆哮し――周囲に光球をばらまき、必殺の“深淵なる暴風雨”の体勢に入る!
「ジュンイチさん、逃げて!」
「く………………っ!」
なのはの言葉に、ジュンイチはとっさに離脱しようとする。が――足が動かない。
そして――
「喰らいな! これが真の――
深淵なる暴風雨!」
リヴァイアサンの咆哮と共に、光球が一斉にジュンイチへと襲いかかる!
だが――それは今までの“深淵なる暴風雨”とは違った。ジュンイチの周りを飛び回り、強力なエネルギーの渦を巻き起こす!
「あぁっ!」
その光景を、フェイトは木の陰から見つめていた。
思わず飛び出していきそうになるが――思いとどまる。
今の自分に何ができるだろうか――傷は癒えても体力は戻っていない。バリアジャケットの装着は可能だろうが、おそらくまともな戦闘はできはしない。
だが、ジュンイチもなのはも、先に互いが戦い合ったことで消耗している。しかも原因が自分にある――そのことがフェイトを迷わせていた。
ジュンイチやなのはを巻き込まないように身を隠したのに、それが結果として彼らを苦しめている――
「いったい……どうしたら……!」
「ハッ! そいつが“深淵なる暴風雨”の完成形だ!
エネルギーの渦にその身を削られて、消滅しちまえ!」
自身の勝利を確信し、リヴァイアサンが叫び――
――ドォンッ!
その背中に、エネルギー弾が叩きつけられる!
クロノである。
「ジュンイチさんは……殺させない……!」
「チッ、ザコが……!」
クロノの言葉にうめき、リヴァイアサンは彼へと振り向いた。
「だいたいさぁ、何なんだよ、お前。
さっきまで敵だったヤツを、どうしてかばうんだよ?」
「確かに、意見を違えて戦ったけど……目的は同じなんだ。
なのはも、ジュンイチさんも――フェイトのために戦ってる仲間なんだ!
仲間を助けるのは、当たり前だろ!」
「――――――っ!」
そのクロノの言葉に、フェイトは思わず息を呑んだ。
仲間を助けるのは当たり前――クロノの言葉が脳裏で何度も繰り返される。
思考に夢中で、フェイトは気づいていなかった。
バルディッシュに、“力”が戻りつつあることに――
「ざけんな!」
しかし、そのクロノの咆哮も、リヴァイアサンにとっては戯言でしかない。一瞬で間合いを詰めるとクロノを殴り倒す。
「クロノくん!」
それを見てなのはが声を上げると、
「あぁ、もう、めんどくせぇ。
生かしておいてジュエルシードの在り処を聞き出そうと思ったが――とっとと殺して終わりにしてやる!」
次々に入るジャマに嫌気が差したか、リヴァイアサンはそう言って手近なところにいたなのはへと向き直る。
そして、リヴァイアサンの掲げた右手にエネルギーの刃が生まれ、なのはへと狙いを定めた。
「そんじゃ、まずは――てめぇからだ!」
言うと同時、刃が振り下ろされた。
「――――――っ!」
確実に自分の命を絶つであろうその一撃を前に、なのはは思わず目を閉じる。
が――いつまで待ってもその攻撃が来ない。
疑問に思い、なのはは目を開け――そこに彼女がいた。
そして、彼女は――サイズフォームのバルディッシュでリヴァイアサンの斬撃を弾いたフェイトは、その決意を口に出して宣言した。
「なのはは――私が守る!」
「フェイトちゃん!?」
「ごめん、なのは。心配かけて……」
ずっとその身を案じていた、かけがえのない親友を前に思わず声を上げるなのはに、フェイトは振り向き笑顔で答える。
しかもその周囲には今までの彼女のそれをはるかに上回る魔力が渦巻いている。なのはを守る、という強い心が彼女の魔力を高めているのだ。
「よかった……!」
親友の復活を前に、なのはが目頭が熱くなるのを感じ――
「へっ、一度オレに負けてるクセにノコノコと。
いい度胸してるじゃねぇか」
言って、リヴァイアサンは改めてフェイトに向けてかまえ、その右手にエネルギーの渦を作り出す。
「二人まとめて、消し飛びやがれ!」
咆哮し、リヴァイアサンがそのエネルギーを解放、荒れ狂う光の渦がフェイトとなのはに襲いかかり――
ズドドドドッ!
なのは達の背後で未だ渦巻いていた“深淵なる暴風雨”のエネルギーの渦を貫き、内部から無数の炎弾が撃ち出される!
そして、それはなのは達をかわすように飛翔しリヴァイアサンの攻撃を粉砕、さらにリヴァイアサンに降り注ぎ、吹き飛ばす!
その攻撃の主――なのは達にとって、心当たりはひとりしかいなかった。
「――まさか!?」
驚いてなのはが振り向くその先で、ズタズタに引き裂かれた背後の光の渦は消滅していき、
「ったく……ようやくのお出ましか。
重役出勤、ごくろーさんっと」
言って、改めて装重甲を着装したジュンイチがその姿を現した。
「ジュンイチさん!
よかった……」
ジュンイチの健在な姿を見て、フェイトは思わず彼の元に駆け寄り――
「――だけど」
言うなり、ジュンイチはフェイトの脳天にゲンコツを落とした。
「痛っ!」
突然の一発に思わずゲンコツをもらった頭を抱えるフェイトに、ジュンイチは人差し指を突きつけて言い放つ。
「てんめぇ、ほぼ最初から見てて、なんで今頃になって決意固めてんだ!
おかげでこっちはなのは達を懇切丁寧にしばき倒すハメになって、すっかり悪役じゃねぇか!
その上リヴァイアサンの攻撃くらってアチコチ痛いしっ! あのバカが出てくる前に決意固めてくれればこんな目にあわなくてもすんだんだぞ、こっちわっ!」
「ご、ごめんなさい……」
ジュンイチの言葉(なんだか途中から八つ当たりになってきてる気もするが)にフェイトは思わず謝り――
「ち、ちょっと待って!」
ジュンイチの言葉からあることに気づき、なのはは状況も忘れて声を上げた。
「今、『ほぼ最初から』って言ってませんでした?」
「言ったぞ」
「じゃあ……フェイトちゃんはずっと見てて、ジュンイチさんはそれに気づいてて……
それって、もしかして……」
「うん。
リヴァイアサンが出てきた以外は全部計算ずく」
ものすごく平然とうなずいてみせる。
「いやな、お前らを止めるって目的も確かにあったけど、フェイトの方もどーせジュエルシードの波動に気づいてこっちに来てるだろうから、と思って、お前らを止めるついでに一芝居打ってみたワケよ。
ここでお前らが『説教』されてるのを見かねて飛び出してくれれば……とか思ってな。
ま、リヴァイアサンの登場は正直計算外だったけどな。おかげでいらんケガまでさせられちまった」
言って、ジュンイチはガクガクと笑うヒザを叩いて黙らせると改めてフェイトに向き直り、
「けど、その様子じゃ吹っ切れたみたいだな」
「はい……
私、ジュンイチさん達を巻き込みたくなくて、それで逃げちゃったけど……それじゃダメなんだって、わかったから……
だから、強くなります。みんなを、守れるように……」
ジュンイチの問いに、フェイトは決意の込められた瞳を向けて答える。
「そうか、それは何より。
けど――」
言って、ジュンイチはフェイトの頭を(今度は軽く)小突き、
「やる気のあるトコ悪いけど下がってろ。
ケガはともかく、体力はまだ回復してねぇんだからな」
「けど……」
「大丈夫。
確かに芝居とはいえしこたま殴られたからな、ここから挽回っつーのはひとりじゃキツいが――パートナーがいりゃ話は別だ」
フェイトに答え、ジュンイチはなのはに告げた。
「まともにもらったのはリヴァイアサンからの一撃だけ、しかもその攻撃からも時間経ってるし……もうそろそろダメージ抜けたろ?」
「え………………?」
ジュンイチの言葉に、なのはは疑問の声を上げ、試しに立ち上がろうとしてみる。
――すごくあっさり立てた。
「え? え??
だって、ジュンイチさんの攻撃もいっぱいもらったのに……?」
首をかしげるなのはに、ジュンイチはあきれて告げた。
「オレが当てた攻撃、全部バリアジャケット越しだったろーが」
「あ………………」
ようやく気づいた。
「やっと気づきやがったか。
貫通射撃系や斬撃系ならともかく、あのバカ堅いバリアジャケット越しに、打撃系や放出射撃系の攻撃で後々まで残るダメージなんか与えられるワケねぇだろ。
一応、それでも手加減したのは『急所を狙わない』ことくらいで出力自体は本気で叩き込んでたんだが……やっぱりっつーかなんつーか、一時的な痛みで動き封じる、ぐらいが限界だったよ。ちょっと屈辱かな」
そんななのはにため息混じりに告げて――ジュンイチは気を取り直してなのはに告げた。
「ともかくこれでお前も動けるワケだ。
っつーワケで――フェイトにしてくれたこと、万倍返しにしてやろうぜ!」
「はい!」
ジュンイチの言葉に、なのはは元気にうなずき――
「てめぇら、よくもやってくれ――」
「じゃかぁしいっ!」
「えぇいっ!」
復活したリヴァイアサンを、ジュンイチの光熱波となのはのディバインバスターがブッ飛ばす!
「さて、フォーメーションは簡単――オレが前衛、お前が後衛だ。
とはいえ、お前は単独での戦闘の方が経験多いみたいだし、こっちが合わせてやるから、好き勝手に攻撃叩き込んでやれ」
「はいっ!」
言って踏み出すジュンイチになのはがうなずき、二人はそれぞれの武器をかまえる。
「こ、このぉっ!」
うめいて、リヴァイアサンが煙の中から姿を現し――
「やっぱ目視でしか相手を探れんか」
そんなリヴァイアサンの顔面に、爆煙に紛れて接近していたジュンイチの靴底が叩きつけられた。
「こいつ、なめるなぁっ!」
そんなジュンイチの挑発的な態度に、リヴァイアサンは激昂して殴りかかるが、ジュンイチはそれを馬跳びの要領でかわし、
「いっけぇっ!」
なのはのディバインバスターがリヴァイアサンを直撃する。
「くそぉっ!」
だが、この程度で倒せるほどリヴァイアサンも甘くはない。体勢を立て直すべく後退し――しかし、それはジュンイチが許さなかった。
「逃がすかよ!」
――炎よ、我が意に従い鎖と変われ!
「炎鎖縛牢!」
かつてジュエルシードの思念体と戦った際にも使った簡易版の『炎鎖縛牢』でリヴァイアサンを狙う。
だが――それはあの時のものとは違った。ジュンイチの操作で螺旋状に回転しながら飛翔し、まるで炎の竜巻のようにリヴァイアサンの周囲を包み込む。
そして――
「なのは!」
「はいっ!」
再び、なのはのディバインバスターが動きを封じられたリヴァイアサンを炎の鎖もろとも吹っ飛ばす。
「えぇいっ! どいつもこいつも!」
いいようにあしらわれ、完全にリヴァイアサンは我を忘れていた。怒りのままに今度はなのはへと突っ込み――
「オレを忘れるなっつーの!」
ジュンイチはあっさりと追いつき、その顔面にボレーシュートばりに蹴りを入れる。
「ちぃっ!」
うめいて、リヴァイアサンは一旦間合いを取り――怒り狂った頭でも少しは知恵を使ったか、ジュンイチの立ち位置が自分となのはとの間に来るように移動する。
少なくとも、これで直線攻撃であるディバインバスターは使えない。仮に使っても、それは間違いなくジュンイチを直撃するだろう。
「どうだ!
これならあの小娘の攻撃は使えないだろ!」
なのはの攻撃はこれで封じた――そう確信し、勝ち誇るリヴァイアサンだったが――
「なのは、遠慮なくどうぞ」
「はい!
ディバイン、バスター!」
あっさりと告げるジュンイチの言葉に答え、なのははディバインバスターを――最初からジュンイチを狙って発射する!
対して、ジュンイチはゴッドウィングを広げてそのエネルギーを受け止め――そのエネルギーを誘導し、
「いくぜ、即興合体技!
名づけて――ディバイン、ライアット!」
ズドドドドッ!
「どわわわわっ!?」
ジュンイチはディバインバスターのエネルギーを散弾として発射、リヴァイアサンがあわてて逃げ惑う。
「ナイスアシスト、なのは♪」
「えへへ……だってジュンイチさん、さっきクロノくんの攻撃を絡め取って自分の攻撃に利用したでしょ? だからこういうこともできると思って――」
手放しで向けられたジュンイチの賛辞にそう答えかけ――なのはは気づいた。
(ひょっとして……さっきの戦いはこのために……?)
ジュンイチほどの実力であれば、自分達のスキをついて叩き伏せることは容易にできたはず。なのになぜあえて戦いを長引かせ、さらに大技をも連発したのか――
実力差を思い知らせるためかとも思っていたが、実際のところその答えは今の攻防だろう。やがて――ヘタをすればすぐに来るかもしれない(実際すぐに来た)共闘の時に備えて、自らの戦い方を自分との戦いという形で体験させ、身をもって理解させたのだろう。
「もう頭に来た!
てめぇらまとめて――消し飛ばしてやる!」
一方、余裕を取り戻したジュンイチ達に反して、雑魚と断定した相手にまともに逆襲されたリヴァイアサンは完全に逆上していた。そのまま上昇し、特大の光球をいくつも作り出す。
「くらいやがれ!
最大パワーの――“深淵なる暴風雨”だ!」
咆哮してリヴァイアサンが必殺技を放ち、光球は一斉にジュンイチ達へと襲いかかる。
が――ジュンイチは平然と告げた。
「じゃ、後はよろしく――フェイト♪」
「――――――っ!?」
ジュンイチの言葉に、リヴァイアサンはようやく気づいた。
先ほどジュンイチに『下がっていろ』と言われ、後退していたフェイトが――呪文の詠唱を終えていることに。
同時に気づいた。
ジュンイチは『下がっていろ』とは言ったが――『戦うな』とは一言も言っていなかったことに。
そして――
「フォトンランサー、ファランクスシフト!」
フェイトの放った無数の光球が、リヴァイアサンの“深淵なる暴風雨”を粉砕する!
「バカな!?
オレの全力の“深淵なる暴風雨”が!?」
完全に自分の技が破られたのを見て、リヴァイアサンが声を上げ――
「ま、当たり前だろうな」
言いながら――そんなリヴァイアサンの眼前に、爆天剣をかまえたジュンイチが肉迫し、
「今のフェイトとてめぇとじゃ――気合が違うんだよ!」
振り下ろした斬撃が、リヴァイアサンの右腕、ヒジから先を斬り落とす!
「ぐぁあぁぁぁぁぁっ!」
絶叫し、リヴァイアサンはそこから先を失った右ヒジを押さえて後退し、
「貴様、よくもオレの右腕を……!」
「ギャーギャー騒ぐな。
『芝居』のために手ェ抜いてたとはいえ、こちとらてめぇに殺されかけたんだ。それに比べりゃ遥かにマシだろうが」
うめくリヴァイアサンに向け、ジュンイチは爆天剣の切っ先を突きつけ、
「今回限りの大サービス。
逃げるなら追わない。どうする?」
「ぐっ……!」
ジュンイチの言葉に、リヴァイアサンはうめいて思考を巡らせる。
――選択権はなさそうだ。
「……この恨み……必ず晴らすからな! それまで待ってろ!」
「……微妙な具合にオリジナリティのある捨てゼリフだなぁ……」
言って飛び去っていくリヴァイアサンを見送り、ジュンイチは思わずそんな感想をもらしていた。
リヴァイアサンが去った後、ジュンイチはクロノとユーノを起こし、なのは達のケガを一通り手当てしてやった。
「これでよし、と……」
最後になのはの腕にできた擦り傷に絆創膏を貼ってやり、ジュンイチは息をついてそうつぶやいた。
「けど……すまなかったな。
フェイトをその気にさせるために、お前らまでダシにして……」
「いいですよ、怒ってませんから」
気まずそうに謝るジュンイチに答え、なのははフェイトへと視線を向ける。
「とはいえ、しばき倒しちまったのも事実だしなぁ……」
しかし、まだ納得がいかないのか、ジュンイチはそうつぶやいて考え込み――決めた。
「よし、じゃあこうしよう」
そう言うと、ジュンイチはなのはとフェイトの頭をポンポンと叩き、言った。
「お前らは、オレが死ぬまで守り抜く。これでどうだ?」
「え?」
「え?」
『……えぇっ!?』
突然放たれた、突拍子もないジュンイチの宣言に、なのはとフェイトはそろって声を上げた。
(『死ぬまで』っていうことは、つまり『一生守ってくれる』ってことで……)
(えっと、それって、『死ぬまでずっとそばにいてくれる』って意味だよね?)
((それって、つまり……))
「い、いきなりそんなコト言われても、そんな、えっと、歳の差もあるし……」
「あ、あー、えっと……いきなりで、その、心の準備が……」
ジュンイチの言葉の意味を必死になって頭の中で整理すると、なのはとフェイトは顔を真っ赤にして声を上げ――
「こっちも中途半端は嫌いなんでね、どーせこの戦い、最後まで関わるだろうからちょうどいい」
『…………え?』
続いて告げられたジュンイチの言葉に、二人の目がテンになった。
「それに、オレだってアイツらにケンカ売られたんだ。だったら買ってやらないワケにはいかんだろう。
どうせ止めたって勝手にちょっかい出させてもらう――っつーワケで文句は言わさん。最後まで喰らいついていくからな」
「あー、えーっと……」
「うーん……」
二人の戸惑いにまったく気づかず、平然と続けるジュンイチの言葉に、なのはとフェイトは顔を見合わせ――なのはが代表して尋ねた。
「えっと……ジュンイチさん?」
「ん?」
「それはつまり――『“堕天使との戦いが終わるまで”命を懸けて守ってくれる』って意味?」
「さっきからそー言ってるだろうが」
なんだかものすごく脱力した。
「はいはい、じゃ、カン違いの応酬はそこまでね」
そんな彼女達を見て、ほとんどが安堵で占められた苦笑と共に割って入ったのはクロノだ。
「おい、何だよ、カン違いって」
「気づいてない人は黙ってて」
「……何なんだよ? 一体……」
状況がまったく呑み込めず、尋ねるジュンイチにクロノはため息をついてそう答え――それでも気づかず首をかしげるジュンイチに、ユーノがその後ろで苦笑する。
「さて、フェイトも見つかったところだし、もうここは引き払おうか」
とにかく、気を取り直してクロノが提案すると――ジュンイチの表情が変わった。いきなり落ち着きがなくなり、なんだか気まずそうに視線を泳がせる。
「………………?
どうしたんですか?」
「あー、いや、えっと……」
気づき、尋ねるなのはの問いに、ジュンイチはしばし困っていたが、ため息混じりに答えた。
「『芝居』の結果フェイトは吹っ切れてくれたワケだが……『後のこと』を考えてなかった」
「後のこと……?」
そのジュンイチの予感は的中した。柾木家に戻ったジュンイチはブイリュウやあずさから『芝居』の是非について延々と説教されることになるのだが――それはまた別の話である。
(初版:2005/11/20)