「なのは、準備できたかぁー?」
「うん、ちょっと待って!」
 階下から聞こえるジュンイチの声に答え、なのはは手早く荷物の入ったリュックサックを背負うと自室を後にした。
 そして、階段を下りてリビングに姿を現すと、ジュンイチが桃子から何やら受け取るところだった。
「それは?」
「あぁ、お前らの分の今日の弁当。
 どうせ、今日はオレ達の世界を見て回るんだろう? あんまりこっちと変わらんが、こっちの東京にも行ったことないって言うし――」
 尋ねるなのはに答えかけ――ジュンイチは異様に弁当の量が多いことに気づいた。
 確か見回るのはなのは達だけのはず、アイツらにこの量は……――そう考えていたジュンイチだったが、ふと気づいて尋ねる。
「……案内役、オレで確定っスか?」
「えぇ♪」
「満面の笑顔で即答っスか」
 自分の分の弁当だった。

 

 


 

第11話
血の雨降って地固まる?」

 


 

 

 フェイトが行くにしろなのはが行くにしろ、二つの世界の連携をとるためにも、一度ジュンイチの仲間達にも会っておいた方がいいだろう――という話がリンディから持ち上がり、それに桃子が同調。結果、なのは達はそろってジュンイチの世界に向かうことになった。
 そして、今日がその出発の日。元々身ひとつでこちらの世界に来ていたジュンイチとブイリュウはもちろん、フェイトやアルフもすでに準備を済ませている。
 『自分達も行きたい!』と立候補したアリサやすずかもすでに高町家に到着しており――
「ゴメン、お待たせ――ぅわわっ!」
 最後のひとりがやってきた。美由希が息を切らせてリビングに駆け込んできて――コケた。

「ったく、何で美由希ちゃんまで……」
「だって、ジュンイチくんトコの図書館ってすっごく大きいんでしょ?」
 アースラで転送準備ができるのを待ちながら、ため息をつくジュンイチに美由希は目を輝かせて答える。鼻に絆創膏がはってあるのはご愛嬌というヤツだ。
 そう――美由希が今回の府中行きへの同行を希望した理由はズバリ本。なのはからフェイトを探す道中で立ち寄った、ジュンイチの世界の府中市立図書館の巨大さを聞かされ、重度の活字中毒である彼女は熱烈に同行を希望したのだ。
「……ある意味、気持ちはわかるからあえて止めないけどさぁ……
 ってーかむしろ、向こうの二人にツッコミ入れたいし」
 なのはやフェイトと楽しそうに談笑しているアリサ達を見ながらうめいて、ジュンイチは自販機で買ったココアを飲み干す。
「やっぱ、デバイス与えたの失敗だったかなぁ……?」
「何言ってるの。
 本音じゃぜんぜんそんなこと思ってないクセに」
 ボヤくジュンイチの言葉に、美由希は意味ありげに笑いながらそう告げる。
「本当に失敗したと思ってるんなら、有無を言わさずデバイスを取り上げてるでしょ?」
 その言葉に、ジュンイチはしばし沈黙し――
「………………否定は、しないでおく」
 プイとそっぽを向いて答えるジュンイチに、彼の頭の上のフェイト(動物形態)は改めて笑みをもらし――エイミィが転送準備の完了を告げた。

「とりあえず、案内は荷物を置いてからだぞ」
「はーい」
 そう告げるジュンイチの言葉になのはが答え、彼女達にとっては二度目の訪問となる柾木家の門をくぐった。
 一方、初めてとなるアリサ達や美由希は柾木家があまりにも高町家と似通っていることに、思わず呆気に取られていた。
 門をくぐって目の前に自宅、脇に犬小屋を備えた庭があり、その向こう側に道場――厳密に言えば建物の間取りや細かい配置は違うが、基本的な構成は高町家と変わらない。
 なるほど、ジュンイチがすぐに高町家に適応したはずだ――思わず納得する。
「………………?
 どうした?」
「あ、ううん、何でもない」
 声をかけられ、我に返った美由希の答えに眉をひそめ、ジュンイチは首をかしげながら玄関を開け、
「ただいま――」
 玄関に一歩を踏み入れた瞬間――その表情が凍りついた。
 いろんな意味で――今一番いてほしくない連中の靴があった。
「………………ブイリュウ」
「ん?」
 こちらへと振り向くブイリュウの頭の上に、ジュンイチは自分の頭上のフェイトを降ろしてやり、
「すまんがオレは用事を思い出したので少々出かけてくる。
 “アイツら”への事情説明、頼――」
「逃げようったってそうはいかないよ」
 あっさりと見捨てられた。
「どうしたの?」
恐ろしいヤツが帰ってきてて、怖いヤツが来てる」
 尋ねるなのはに答えるその表情は文字通り恐怖に染まっている。
 あの堕天使に対しても臆することなく一歩も引かなかったジュンイチをここまで恐れさせるなんて、忍の『データ取り』以来だ。一体どんな相手なのか――なのは達がそんなことを考えていると、
「んー? 誰かいるのー?」
 部屋の奥の方から声が聞こえて――それを聞いたジュンイチが固まった。
 金縛りにあったように硬直するジュンイチを見て、なのは達が首をかしげ――
「どなたですかー、っと……」
「いいですよ、ライカさん、私が出ますから……」
 口々に言うと、二人の少女がリビングから姿を現した。
 ひとりはジーナ・ハイングラム。栗色の髪を肩で切りそろえ、背はジュンイチと比べて10cmばかり低い。歳相応のあどけなさが残るその表情には、深く澄みきった双眸とおだやかな顔立ちのせいか、どこか神秘的な色合いが宿っているようにも見える。男子はもちろんのこと、女子にとっても彼女に好意以外の感情を抱く者は少ないだろう。
 そしてもうひとりはライカ・グラン・光凰院。腰の下まで届く真紅の長髪をツインテールにまとめ、GパンにTシャツ、加えてGジャンというラフな服装にまとめている。どことなく勝気なその表情は、となりのジーナのおだやかな表情とは対称的だ。
 そして、二人の少女はジュンイチに気づいて顔を輝かせ――しかし、なのはや美由希を見た瞬間その笑顔が固まった。
「あ、なのはちゃん、いらっしゃーい」
 そんな彼らの脇から、子犬のヤマトを抱えたあずさが顔を出し――ジュンイチ達の様子を見て状況を悟った。ため息まじりになのは達に奥に上がるように促す。
「どうしたの?」
「すぐにわかるよ」
 尋ねるフェイトに、彼女が変身していることに少々驚きながらもあずさが答え、みんなが入ったのを確認するとリビングへの入り口を閉め――直後、
偉大なる怒りグランド・アングリー!」
「凰雅束弾! カイザー、スパルタン!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!」

 咆哮と悲鳴が交錯し――廊下で爆発が巻き起こった。

「じゃ、説明してもらいましょーか。向こうでの状況の流れを」
「そっちのお嬢さん達のこともね。なんか青木くんの説明よりも人数増えてるじゃない」
「………………はい」
 こちらを思い切りにらみつけ、告げるライカとジーナにジュンイチはすっかり萎縮して答えた。
 その姿は見るも無残にボロボロだ。二人の必殺技をモロに喰らったのだから仕方のない話ではあるが。
 ちなみにその場にはジーナ達のプラネル、ライオン型のライムや鳳凰型の鳳龍フォウロンの姿もあるが、どちらも今の二人に声をかけるのは自殺行為と判断して何も言わない。
「……ジュンイチさん、すっかり怖がってるね……」
「まぁ……普段はそうでもないけど、お兄ちゃんにとって『今の』ジーナお姉ちゃんとライカお姉ちゃんは恐怖の象徴だから……」
 ジュンイチのそんな様子を見て、耳打ちしてくるなのはにあずさは苦笑まじりにつぶやく。
 そうしている間にも、ジュンイチは二人に事情を説明していく。
 最初は怒り心頭だった二人だが、話が進むに連れて次第にその表情が深刻なものに変わっていく。もちろん、ジュンイチによって代役として投入されていた青木達からだいたいの事情は聞いているだろうが、事態はあの時点でのそれよりもさらに厄介なものとなっている、自然と深刻にならざるを得なかった。
「……とまぁ、そーゆーワケで、お前らにも顔合わせさせておこうってことで、コイツらを連れてきた、ってワケだ」
「二つの世界に散らばったジュエルシード、それにそれを狙う堕天使……」
「まぁ、そういうことならアンタは最後まで関わりたがるわね、性格上間違いなく」
 説明を締めくくるジュンイチの言葉に、ジーナとライカがつぶやく。
 そして、二人はなのは達へと向き直ると、さっきまでの怒りがウソのような笑顔を見せた。
「アンタ達も大変ね。
 こんなのが首突っ込んできたら、そっちも大変でしょ」
「けど、ジュンイチさんだけじゃなくて私達も手伝ってあげますから、もう安心ですよ。
 事は私達の世界にも関係してることですからね」
「晩飯、覚悟してろよお前ら」
 なのは達に告げたその言葉にジュンイチが冷静にツッコみ、ジーナとライカは思わず硬直する。二人の怒りが収まったことで両者の力関係が逆転。ジュンイチが優位に立ったようだ。
 そんな彼らのやり取りに、もう『台風』は去ったと判断したブイリュウは安堵のため息をつき――ふと気づいた。
 ジーナやライカが戻ってきているのに、この家に居候しているもう一組のブレイカー達がいない。
「そういえば……ファイやソニックは?」
「二人なら今朝戻ってきて、早々に遊びに出てったわよ。
 鈴香とガルダーは明日戻ってくるって。そうなるとアタシも水隠神社むこうに戻んなきゃ」
「そっか……まだ全員集合、ってワケにはいかないか」
 答えるライカの言葉に、ジュンイチは腕組みしてつぶやく。
「来る前にみんなの所在確認しておけばよかったかな……?」
「っていうか、戻ってくるならくるで事前に連絡しなかったお兄ちゃんが一番悪い」
 あずさの言葉にジュンイチが撃沈された。

「はんっ、ベヒーモスのヤツ、いい気味だぜ」
 アジトでなのはの世界の現状を知らされ、リヴァイアサンは笑い声を上げた。
「自信満々に挑んで連戦連敗かよ。
 まったく、やってらんねーぜ」
 そう言うと、リヴァイアサンは立ち上がり、
「所詮、戦いってのは相手が小細工する前にゴリ押しで決めちまえばいいんだよ」
 そう告げるリヴァイアサンの前で、ふたつの影が佇んでいた。

「はわぁ〜〜」
 まるでとなりの妹のような声を上げ、美由希は目の前にそびえ立つ府中市立図書館を見上げた。
 その目はすでに焦点が合っておらず、完全に夢見心地だ。そんな、事前にイメージしていたそのまますぎる光景を前に、ジュンイチは内心でため息をついた。
 恭也の言葉が今さらながらに思い出される。
「……恭也さんの言う通り、ホントに初日はここだけで終わるかもしれないな……」
 美由希を待ちながら図書館の一角で夕焼けを眺める自分達の姿を想像し、思わずため息がもれる。
「これが全部図書館なのかい?」
「あぁ。
 しかもここは紙の媒体を扱う『本館』でしかない。他にも『別館』だってあるし、電子書籍を扱う『デジタル館』に映像、オーディオ関係を扱う『メディア館』もある。
 どれもここほどじゃないけどなかなかにあなどれん規模だぞ」
 尋ねるアルフに答え、ジュンイチが視線を戻すと、そこに美由希の姿はない。
 すでに図書館に向けて全力疾走し――コケていた。
「……恭也さんの言ってたこと、こっちも当たりか……」
 つぶやき、ジュンイチはその一言を思い出した。すなわち――

 

『美由希のヤツ、そっちでも無生物相手に遅れを取るだろうから、その時のフォローも頼む』

 

 ともあれ、この府中に来たばかりの美由希を放って他を回るワケにはいかない――というか、置き去りにしようものなら案内役もいないままに別館を目指して移動しかねない。
 というワケで――ジュンイチ達はせめてもの退屈しのぎとばかりに雑誌コーナーに立ち寄ることにした。
 ここならば新聞もあるし、なのは達がこの世界の情報を仕入れる役にも立つだろう。
 残念ながら図書館はペット禁止のため、ユーノとフェイトは事前に人間の姿に戻っている。
「うーん、こうして見ると、こっちも向こうもそんなに変わらないんだね」
「あ、それはオレも思った。
 向こうはこっちよりも自然の中の“力”が薄いみたいだけど……あとは、オレ達みたいなブレイカーがそっちにいなくて、こっちはそっちみたいに魔法使いがいない。違いって言えばそれくらいかな?」
 街角情報誌に目を通しながらつぶやくなのはに、ジュンイチは後ろからのぞき込んでそう答える。
 すぐそばに迫ったジュンイチの顔を見て、初めてリヴァイアサンを撃退した後にぶちかましたジュンイチの『宣言』のことを思い出し、なのはは思わず顔を赤くする。
 しかし、ジュンイチにそんななのはの心情がわかるはずもない。平然と――いや、真剣に雑誌の記事に目を通している。
「………………?
 どうしたの? ジュンイチさん」
 街角情報誌に真剣に目を通すなんてジュンイチらしいとは思えない――眉をひそめ、なのはが尋ねると、ジュンイチは答えた。
「ここの広告見てみろ」
「広告?」
「中古DVDの商品リストにガンダムの最新作がある。しかも安い」
「………………」
 前言撤回。
 ものすごくジュンイチらしかった。
 そんなジュンイチの態度に、なのはは思わず苦笑し――
 ――――――――――
『―――――っ!?』
 それを感じ取り、一同の表情が引き締まった。
 ジュエルシードが発動したのだ。
「ジュンイチさん!」
「わかってる」
 なのはに答え、ジュンイチは立ち上がり、
「アリサとすずかは今回は留守番だ。こっちの体勢が整っていない以上安全は保障できない」
 その言葉にアリサ達がうなずいたのを確認すると、ジュンイチはフェイトへと向き直り、
「それから……フェイトもここに残ってろ」
「え? けど、私がいないとバルディッシュフォームには……」
「そんなこと言ったって、お前何かにつけてしゃしゃり出てくるから、未だに本調子に戻ってないじゃないか。
 それに……」
 フェイトに答え、ジュンイチはため息をついて告げた。
「美由希ちゃん、ひとりにしとけないだろ。
 っつーワケでフォローを頼む。見失うケースを考えると、こっちの方にも人数を割きたい」
「………………そうですね」
 すさまじい説得力だった。

「このっ、おとなしくしやがれ!」
 ジュエルシードの波動を感じ取ったのはなのは達だけではなかった。偶然近くにいたリヴァイアサンが真っ先に現場に駆けつけ、何に取り憑くでもなくエネルギーの渦をまき散らすジュエルシードを抑えようとしていた。
「くそっ、せめて何かに取り憑いてくれればやりやすいものを!」
 原住生物などに取り憑けば、より手ごわくなる反面取り憑いた媒体に則した特性を持つため、そのスキをつけばまだなんとかなる。そう言う意味では、思念体になるでもなくただエネルギーの嵐を巻き起こす今のような状態が一番タチが悪い。
 一向に抑えられないジュエルシードを前に、リヴァイアサンは思わず舌打ちし――
「――――――むっ?」
 視界のスミにその姿をとらえた。
 なのは達である。

「あれは――リヴァイアサン!?」
「幸い、まだジュエルシードは封印されていないらしいな。
 オレ達の世界こっちじゃ多少ハデにやっても問題ない! とっととボコって終わりにすっぜ!」
 リヴァイアサンを発見し、声を上げるなのはに答え、ジュンイチはリヴァイアサンに向けて炎を放つ。
 しかし、リヴァイアサンもそれをかわし、
「やっぱり出やがったな!
 さっさといくぜ!」
 叫ぶと同時に――リヴァイアサンの背後にゲートが出現、中からそれが出現した。
 リヴァイアサンと彼のゲートの力で巨大化した、ヤマアラシを思わせる巨大な怪物である。
「それならこっちも!
 ブイリュウ!」
「うん!」
 ジュンイチの言葉に、彼の背中につかまっていたブイリュウが答え、
「オープン、ザ、ゲート!」
 ブイリュウもまたゲートを展開、ゴッドドラゴンを呼び出す。
「リヴァイアサンはオレが引き受ける。
 お前らはジュエルシードを!」
 言って、ゴッドドラゴンに乗り込むジュンイチだったが――
「残念だが……お前の相手はオレ“だけじゃない”んだよ!」
 リヴァイアサンが言うと同時――ゴッドドラゴンに巨大な羽が降り注ぐ!
「ぅわっ!
 何だ!?」
「上から、だと――!?」
 突然の攻撃にブイリュウが声を上げ、ジュンイチが見上げた先には、新たな影が佇んでいた。
 ワシを巨大化させた怪物である。
「巨獣2体の挟み撃ち!
 さぁ、しのげるもんならしのいでみやがれ!」
 完全に裏をかいた――そう確信し、告げるリヴァイアサンだったが――ジュンイチのリアクションは違った。
「……『巨獣』か……
 『堕天獣』って呼ばないのな」
「そんなセンス悪い呼び名で呼べるか!」
 ジュンイチの言葉に思わず言い返し――リヴァイアサンは気づいた。
「……ずいぶんと余裕じゃねぇか」
「だってさ……
 挟み撃ちにはならないし」
「何――?」
 ジュンイチの言葉に、リヴァイアサンが眉をひそめ――次の瞬間、轟音と共に大ワシの姿がその場から消えた。
 高速で飛来した何かの体当たりを受け、弾き飛ばされたのだ。
「何だ!?」
 リヴァイアサンが驚きの声を上げ――ジュンイチのとなりにそれは舞い降りた。
 真紅に染め抜かれた鳳凰型のロボット――ライカの駆るカイザーフェニックスである。
「さすが高速型。お早いご到着で」
「ま、この手のお仕事はスピード勝負だからね」
 気軽に告げるジュンイチに、カイザーフェニックスのコックピットで鳳龍フォウロンをヒザの上に乗せたライカもまた軽口を返して笑みを浮かべる。
「で、ジーナは?」
「あぁ、ジーナなら……」
 尋ねるジュンイチにライカが答えると、
「ここにいますよ!」
 答えて、ライカの後ろのシートからジーナがライムと共に顔を出してきた。が――
「なんだ、ランドライガーで来なかったのか?」
「街中をランドライガーで駆け抜けろと言いますか貴方は」
 真顔で尋ねるジュンイチに、ジーナは見事なタイミングでツッコミを入れる。この辺りは付き合いの長いジーナならではだ。
「とにかく、メンツもそろったところで反撃開始といきますか!」
 気を取り直し、宣言するジュンイチだが――あわてたのが予想外の援軍を前にしたリヴァイアサンだ。
「ち、ちょっと待てソコ!
 『反撃』とか言われるほどこっちは攻めてないだろうが!」
「上のヤツが撃ってきた!」
「それだけだろ!」
「万倍返し!」
「ぅわぁ、暴君の理論だぁ……」
 余計なところにツッコミを入れるリヴァイアサンとキッパリと答えるジュンイチ、二人の会話に、なのはが思わず冷や汗混じりにうめく。
「くっそぉ! こーなったらやぶれかぶれだぁっ!」
 ともかく、ジュンイチがあんなメチャクチャな理屈を振りかざす以上、こちらに対して殺る気マンマンと思っていいだろう。反撃しなければ我が身が危ない――リヴァイアサンは巨大ヤマアラシの頭上に着地すると背中の針を発射、放たれた針が襲いかかるが、ゴッドドラゴンはジュンイチの操縦でそれをあっさりとかわし、
「エヴォリューション、ブレイク!
 以下略っ!」
 素早くゴッドブレイカーへと合身、戦闘態勢に入る。
「なのは達生身組はジュエルシードを、ライカはジーナと二人で上のヤツを頼む!」
「はい!」
「OK!」
 ジュンイチの指示になのはとライカが答え、それぞれの相手に向けてかまえる。
「さて、お嬢ちゃん達はちょっと離れてなさい。
 合身に巻き込まれても知らないわよ!」
 そう言ってなのは達を下がらせると、ライカはカイザーフェニックスを上昇させ、
「そんじゃ――いくわよ!」

「エヴォリューション、ブレイク!
 カイザー、ブレイカー!」
 ライカが叫び、カイザーフェニックスは急激に加速し、大空へと舞い上がる。
 そして、その両足の爪がスネの方へとたたまれると拳が飛び出し、大腿部のアーマーが起き上がり、人型の両腕へと変形する。
 続いて鳳凰の頭部が分離すると背中のメインバーニアが肩側へと起き上がり、そのままボディ前方へと展開。根元から180度回転した上でスライド式に伸びて大腿部が現れ、つま先が起き上がって人型の両足が完成する。
 背中のウィングの向きが根元から180度回転、バックパックとなると鳳凰の頭部が胸部に合体。その周囲の羽型の胸部装甲が広げられる。
 最後に人型の頭部が飛び出し、アンテナホーンが展開。額のくぼみに奥からBブレインがせり出してくる。
「カイザー、ユナイト!」
 ライカが叫び、その身体が粒子へと変わり、機体と融合、機体そのものとなる。
 システムが起動し口元をフェイスガードが覆い、左手に尾部がシールドとなって合体。カメラアイと額のBブレインが輝く。
「凰神合身! カイザー、ブレイカー!」

「なのは、ボク達も!」
「うん!」
 ユーノに答え、なのははレイジングハートをかまえ、ユーノやアルフと共にジュエルシードのエネルギー流を抑え込みにかかる。
 一方、ジュンイチはリヴァイアサンの巨大ヤマアラシと、ライカとジーナは大ワシとの交戦に入っていた。
「いい加減当たれよ、このヤロー!」
「何が悲しゅうて、わざわざ喰らってやらにゃならんのだ!」
 わめいて針による射撃を繰り返すリヴァイアサンに言い返し、ジュンイチは着地と同時に地を蹴り、次の瞬間、間合いの詰まったジュンイチの刃と巨大ヤマアラシの針がぶつかり合う。
 そして上空でも、ライカのカイザーブレイカーが大ワシの放つ羽をかわし、逆に全身の火器を次々に発射、両者は激しいドッグファイトへと突入する。
「いっけぇっ!」
 咆哮し、ライカはミサイルを斉射、大ワシもそれを迎撃し、爆発が巻き起こり――
「ライカさん、照準送ります!」
「了解っ!」
 ジーナのオペレートで大ワシを捕捉したライカが、カイザーショットで狙撃する!

「ったく、なんてエネルギー量だ!」
「ジュンイチさんの話だと、こっちは大気中に多量の魔力を内包してるらしいからね……たぶん、その力も取り込んでるんだ」
 一行に収まる気配のないジュエルシードのエネルギー流を前に、舌打ちするアルフにユーノが答える。
「だからって、このまま放っておけないよ!」
「あぁ。
 今はいいけど、もしこのまま何かに取り憑いたりしたら、それこそ手に負えなくなる!」
 なのはに答え、ユーノがジュエルシードへと放つ魔力を強めると――
 ――ズズゥンッ!
 地響きと共に、後退してきたジュンイチゴッドブレイカーが彼女達の近くに着地した。
「くらえ!」
 そんなジュンイチに狙いを定め、リヴァイアサンは狙いを向け――撃つ!
「ち、ちょっと待てコラ!」
「わわわわわっ!」
 それを見てあわてたのがジュンイチとブイリュウだ。これをかわせば攻撃は確実にジュエルシードを直撃する。もし、今のジュエルシードが余計な衝撃を受けたりしたら――
「ったく、手間のかかる!
 ゴッド、プロテクト!」
 うめいて、ジュンイチは両肩の発生器から防御フィールド『ゴッドプロテクト』を展開、それをかざした左手に収束させ、リヴァイアサンの放った針を受け止め、弾き返す。
「へぇ、防壁とはやるじゃねぇか!」
 しかし、跳ね返されたその針をリヴァイアサンはあっさりとかわし、再びジュンイチへと攻撃を始める。
「その防壁はいつまでもつ!? 10秒か!? 20秒か!?
 せいぜい後ろのジュエルシードを守ってくれよ!」
「にゃろー……!
 こっちに遠距離系の技が少ないからって図に乗りやがって……!」
「けど、確かにマズいよ、この状況は!」
 調子づいて攻撃をさらに強めるリヴァイアサンの言葉に、ジュンイチとブイリュウは思わず毒づいた。

「ジュンイチさんが!」
 当然、すぐそばで戦われているので状況は把握できた――ジュンイチとリヴァイアサンの戦いがリヴァイアサン有利に傾きつつあるのに気づき、なのはが声を上げると、
「なのは――行って!」
 そんななのはにユーノが告げる。
「こっちはボク達でなんとかするから!」
「け、けど……」
「行くんだよ、なのは!」
 反論しかけたなのはに、アルフが言う。
「このままじゃどっちもどうにもならないよ!
 当面なんとかなるこっちを持ちこたえさせて、敵を撃退してからジュンイチのパワーで一気に抑えた方がいい!」
「う、うん!
 じゃあ、二人とも、お願い!」
 アルフの言葉に答え、なのははジュンイチのもとへと飛翔する。
「ジュンイチさん!」
「なのは!?」
 なのはの接近に気づき、声を上げるジュンイチゴッドブレイカーの肩の上になのはは降り立ち、
「わたしも一緒に戦います!
 まずはこっちをなんとかしないと!」
「……ジュンイチ、なのはに協力してもらおう!
 ほら、『二兎追う者は一兎も得ず』っていうし、まずはジュエルシードかリヴァイアサンか、どっちかをなんとかしないと!」
「確かに、な……
 ま、オレとしちゃ二兎ともとっ捕まえるのが理想だけどな!」
 なのはとブイリュウの言葉に、ジュンイチは軽口付きで同意し、続いて放たれた針をバラバラに弾いて相手の視界を奪うと、コックピットハッチを開けてなのはを招き入れる。
「そんじゃ――いくか、なのは!」
「はい!」
 ジュンイチに答え、なのははレイジングハートをかまえ、精神を集中する。
(わたし達だけじゃ――連携するだけじゃダメ……本当に、力をひとつに合わせて、戦わなくちゃ……!
 ジュンイチさんの力に……なるんだ!)
「――いきます!」

「ゴッドブレイカー!」
 ジュンイチが叫び、ゴッドブレイカーが大空へと急上昇し――
「レイジング、ハート!!」
 叫んで、なのはがレイジングハートをかまえ――
『ブレイブ、リンク!』
 二人の叫びが交錯し、ゴッドブレイカーの額のBブレインとレイジングハートが光を放つ!
 あふれる光はゴッドブレイカーの全身を包み込み、機体の各部に追加装甲となって物質化される。
 さらに、射出されたゴッドセイバーが再構成リメイクによって変化。爆天剣となると刃が消失し、代わりにグリップ部分が伸びデバイスモードへと変形する。
 一方、なのははゴッドドラゴンのコックピットから“トレース・エリア”へと転送。足場として作り出された魔法陣の上に着地する。
 そして、白銀の鎧をまとったゴッドブレイカーの中で、ジュンイチとなのはが咆哮する。
『ゴッド、ブレイカー、レイジング!』

「はんっ! パワーアップしたって同じだろうが!」
 上空でブレイブ・リンクパワーアップしたジュンイチとなのはに言い放ち、リヴァイアサンの指示で巨大ヤマアラシが針を放つが、
「しゃらくせぇっ!」
 それをかわすとジュンイチは素早く巨大ヤマアラシの懐に飛び込み、
「いっけぇっ!
 レイジングキャノン!」
 なのはの“力”を受け、両肩の追加装甲に装備されたビーム砲『レイジングキャノン』が至近距離から巨大ヤマアラシを吹き飛ばす!
「こいつ!」
 うめいて、リヴァイアサンは一旦距離をとるべく後方へと跳躍するが、
「やれるな――なのは!」
「はい!」
 ジュンイチの言葉になのはが答え、二人はクラッシャーナックルの体勢に入る。
 が――その拳の周りに渦巻くエネルギーはジュンイチのものだけではない。なのはの魔力も付加されている。
『レイジング、ナックル!』
 二人の咆哮と共にゴッドブレイカーが拳を撃ち出し、リヴァイアサンはそれを回避するが、
「逃がさないよ!」
 なのはが叫ぶと同時――撃ち出された拳はその軌道を変え、気づいたリヴァイアサンの驚きによって動きの止まった巨大ヤマアラシをブッ飛ばす!
「なのは! 逃がさず落とすぞ!」
「はい!」
 ジュンイチの言葉になのはが答え、ゴッドブレイカーはデバイスモードの爆天剣をかまえ、
「ディバイン――」
「――シューター!」
 放たれた幾つもの光球が巨大ヤマアラシへと降り注ぐ!
「よぅし、なのは!」
「はい!」
 再びうなずき、なのははレイジングハートをかまえ、
「一気に――トドメを刺しちゃいます!」

「レイジングハート、お願い!」
〈All right.〉
 かまえ、叫ぶなのはの言葉に答え、レイジングハートがそのエネルギーを解放、そのエネルギーを供給を受けたゴッドブレイカーのパワーが一気に急上昇。全身があふれ出したエネルギーの渦に包まれる。
 一方、ジュンイチはデバイスモードの爆天剣を変形――デバイスモードの状態から刃が復活し槍形態“ランサーモード”が完成する。
 続いて、ジュンイチの操作でゴッドブレイカーは背中のゴッドウィングを展開。巨大ヤマアラシに向けて爆天剣をかまえると荒れ狂ったエネルギーがその刀身に集まり、まばゆい桜色の輝きに包まれる!
 そして、ゴッドブレイカーはジュンイチの動きに従い巨大ヤマアラシへと爆天剣をかまえ、
『スターライト、プロミネンス!』
 ジュンイチとなのはの咆哮が交錯、打ち出すように繰り出された刺突――それに伴って縦一文字に放たれたエネルギー刃が巨大ヤマアラシを真っ二つに両断する!
「くっそぉ、またこのオチかよ!」
 うめいて、リヴァイアサンが空間転移で脱出、ライカ達に抑えられていた大ワシが彼を回収、そのまま離脱していく。
 ゆっくりと刃を引き、ジュンイチ達は巨大ヤマアラシへと背を向け――巨大ヤマアラシが大破、焼滅した。
 そして、ジュンイチとなのはが勝ち鬨の声を上げる。
『爆裂、究極!
 ゴッド、ブレイカー!』

「……こんな感じでいいのか?」
「はい。
 出力よりもエネルギーの安定の方に気をつけて」
 ゴッドプロテクトの応用でジュエルシードのエネルギーを抑え込み、尋ねるジュンイチにユーノが答える。
「なのは、頼む」
「はーい」
 ジュンイチに答え、ゴッドブレイカーから降りたなのははレイジングハートをジュエルシードに向け、回収する。
「さて、帰ろうか」
 そう言うと、ジュンイチはなのは達をその手の上に乗せ、翼を広げ――
「ストップ」
 そんなジュンイチを、ライカが呼び止め、どこかドスの効いたその声に、ジュンイチは思わず硬直する。
「さっきのなのはちゃんとのパワーアップ、一体何かしら?」
「私達、聞いてませんでしたけど」
「そ、それは……」
 ジーナまでもが同じ様子で告げ、ジュンイチは思わず後ずさって言葉に詰まる。
「帰ってから……」
「ゆっくり説明してもらいますからね」
「………………はい」
 二人の言葉にまた新たな『台風』の到来を予感し、ジュンイチは――涙ながらにうなずくしかなかった。

 小1時間後――柾木家のリビングに赤い花が咲いた。


 

(初版:2006/04/30)