奥様の名前はライカ。
 だんな様の名前は恭也。
 ちっとも普通じゃない出会いをした二人は、まったく普通じゃない恋愛をして、横恋慕に狂った幾人もの狂戦士バーサーカー達との数限りない死闘の末に結婚をしました。
 でも、ただひとつ――というか、一番違っていたのは――

 だんな様は最強の非能力者で、奥様は能力者ブレイカーだったのです。

 

 


 

番外編
「奥様はマジョ?」
〜もしくは「あるバカップルの日常」〜

 


 

 

 ミッドチルダ郊外の住宅街――知り合いが皆、かつて住んでいた彼の家を意識した間取りに思わず苦笑するような、そのくらいにはかつての家にそっくりな和風の一軒家。
 それが――高町恭也とライカ・G・K・高町の住まいだった。
 

「ライカ」
「…………ん……」
 結婚前から家事全般を切り盛りしていたライカの朝は早い――だが、恭也の朝はそれに輪をかけて早い。結果、恭也がライカを起こす側となるのがいつものパターンだ。
 そして、そんな彼に対するライカの反応は――
「……うみゅう……
 もう少し……もう少しだけ……」
 これである。モゾモゾと布団にもぐり込むその仕草すらかわいく見えてしまうのは惚れた弱みか。
「今日の朝食はお前が作ると言っていなかったか?」
「きょーやのおみそしるがたべたーい……」
 布団のぬくもりにくるまれた、幸せのあまり漢字が一切使われていない声が即答する。自分の料理をほめられるのは悪い気分ではないが――
「えへへ……きょーやのたいおん、きょーやのにおい……♪」
 寝ぼけたライカはこういった――かつて自分が支えたリーダー顔負けの――恥ずかしいセリフを平然と吐いてくれるから対応に困る。それに、今彼女を幸せ気分にしているのが自分ではなくその残滓を残しただけの布団だというのも何だかシャクだ。
 だから――少しばかりイジワルしてやることにする。
「…………そうだな。
 お前は少し休んだ方がいいだろう。何しろ――」

「夕べは激しかったからな」

「――――――っ!?」
 布団の中のライカが一瞬にして覚醒したのが気配でわかった。盛り上がった布団の隙間から蒸気が噴き出したような気さえしてくる。
「まぁ、あれだけ動けば疲れも相当なものだろう。出勤ギリギリまで――」
「ち、ちょっ、恭也!?」
 平然と告げる恭也の言葉に、ライカはあわてて飛び起きた。
「は、『激しかった』って、そんな平然と言うこと!?
 そりゃ、夕べはスゴかったなー、とは思うけど……
「気にするようなものでもないだろう。
 あれで疲れても誰も責められはしない――“鍛錬のメニューを増やしたばかりなのだから”」
「………………
 …………
 ……
 …………は?」
 告げられた言葉に、ライカは思わず間の抜けた声を上げていた。
「き、恭也!?
 『激しかった』って……夕べの鍛錬の話!?」
「ん? あぁ。
 最近はこっちも油断できなくなってきたからな。ついつい熱が入ってしまった」
 我に返り、声を上げるライカに答え、恭也はニヤリ、と笑みを浮かべ、
「なんだ、ライカが考えていたのは違ったのか?
 夕べは他に何かあったか?」
 絶対に確信犯だ――意地の悪い笑みを浮かべる恭也の言葉に、そう確信したライカは顔をますます赤くし、プルプルと肩を震わせて――
「恭、也、の……!
 ……バカァァァァァッ!」
 咆哮と共に必殺技カイザースパルタンが炸裂し――
 

 実にいつも通りの一日が幕を開けた。

 

「…………また恭也さんですか?」
「わかる?」
「わかりやすすぎるほどに」
 いつものように出勤、オフィスに向かう途上の廊下で顔を合わせるなりこのやり取り――聞き返すライカの言葉に、シャマルは苦笑まじりにそう答えた。
「『好きな子ほどいぢめたい』を地で行ってますからね、恭也さんは」
「あーゆーところはガキなのよねー、恭也も。
 まったく、振り回されるこっちの身にもなってもらいたいわよ」
 シャマルに答え、ライカは深くため息をつき――
「でも、好きなんですよねー、そんな恭也さんが」
「う゛っ……」
 続いたシャマルの言葉に、ライカは思わず顔をしかめた――言い返せなさ過ぎる自分をこれでもかというくらいに実感したからだ。
「そ、そりゃ、あーゆーお子様なトコも恭也の魅力のひとつだし、あたし自身も楽しんでいるワケで……」
「フフフ、ごちそうさまです」
 口を尖らせて身をすくませ、人差し指をツンツンとつつき合わせながらつぶやくライカに、シャマルは優しく微笑みながらそう答える。
「けど、毎日のようにそんなにのろけられると、つくづく思い知らされますね。
 二人の間に、入り込むような余地なんかないって」
「ホントにそう思ってるの?
 あの“婚姻の乱”の時、裏で最後まで画策していた人が」

 うめき、ライカが指摘するのは自分達が結婚を決めた時の、反対派による一斉蜂起のことである。
 それぞれに想いを寄せる者、二人の行く末を心配するが故に認められない者、先を越されて焦る者――二人の結婚に反対する者達の未曾有の大暴走により、最後は管理局全体を巻き込み、しばしその機能を停止させるほどの騒ぎにまで発展したのだ。
 目の前のシャマルとて例外ではない。実戦闘力で劣る彼女はその知略を駆使し、権謀術数によるライバルのつぶし合いを目論んだのだ。
 だが、同じことを考えた他の策士組と互いに足を引っ張り合う形となり戦略は破綻。さらには予想だにしなかった“ラスボス”の乱入により、彼女らの野望は水泡に帰したのだった。

 その時のことを思い出し、口を尖らせるライカだったが、そんなライカに対してシャマルは笑いながら告げた。
「あの大乱に加わったからこそ、思い知らされたんですよ。
 あの“二人ラスボス”を相手に勝利を収めた二人を、止められるなんて思いませんよ」
「あー、まぁ、ね……」
 シャマルの言葉に、ライカも彼女の言いたいことを察して苦笑する。
「確かに、あたし達もよく勝てたもんだわ。
 2対2とはいえ――よりにもよって、ジュンイチと士郎さんをまとめて相手したワケだし」
「あの二人が参戦するとは、多分誰も思ってなかったでしょうからねぇ……むしろ、面白がって安全圏から観戦してそうなものだと思ってましたし」
 思えば、あの時自分達の希望の糸を完全に断ち切ってくれた、完全に焼き払ってくれたのがあの二人の参戦だった――ライカに同意し、シャマルは思わずため息をつく。
「まさか、あの二人の身内びいきが同性にまで発動するなんて、あたしだって思ってなかったわよ。
 『恭也(さん)を堕落させるような女との交際を認めるワケにはいかない。付き合いたければオレ達を倒してからにしろ』とか言いながら、二人してあたしを集中砲火してくるんだもん。
 あの時ほどあたしが“光”のブレイカーだったことに感謝したことはなかったわ――ジーナみたいな“地”属性だったら『“神速”発動の士郎さんとフェザーファンネル完全包囲による波状攻撃』なんて避け切れなかったわよ」
 肩をすくめるライカだったが――まぁ、“ひとり息子”と“尊敬する師”、形は違えど恭也を心から心配する二人の気持ちはわからないでもない。
 何しろ――他ならぬ自分自身が『本当に自分は恭也にふさわしいのか』と悩んだクチなのだから。
 だからこそ、自分は二人の挑戦を真っ向から乗り越え、今でも更なる高みを目指し続けている。
 いつでも恭也のとなりに立ち、彼を支えてあげられるように――
 

「おーい、生きてっか?」
「は、はぁ〜い……」
 尋ねるその言葉には、幾分間の抜けた声が返ってきた――ため息をつき、ジュンイチは自分にブッ飛ばされ、仰向けに地面に転がるスバルへと視線を戻した。
「あと5秒で起き上がらねぇと――いろいろやるぞ」
「は、はいっ!」
 サラリと告げられたその言葉に、スバルはあわてて立ち上がり、“気をつけ”の姿勢でジュンイチと正対する――以前このパターンで起きられなかったエリオが関節技のフルコースを食らったホントにいろいろされたあの恐怖は未だに忘れられない。
 あの後、エリオが“こっち側”に帰ってくるまで1時間以上かかったんだよなぁ――そんなことを考えていたスバルは、ジュンイチの手の中の油性マジックに気づいた。
 なんとなく――尋ねる。
「えっと……ちなみに、5秒で起きられなかったら何されてたんですか? あたし」
「はっはっはっ。倒れた相手に油性ペンとなれば――日本の古き良き伝統“額に肉”に決まってんだろ」
 すぐに背後から「ボクの時と扱いが違うーっ!」と抗議の声が上がるが――振り向くことすらせずに手の中の油性マジックを投げつけて黙らせる。
 額に一撃を受けたエリオが力なく大地に崩れ落ち、キャロがあわててそんな彼に駆け寄り、ティアナが思わずため息をつく――その一連の動きを気配で読み取るが、かまわずスバルに対して告げる。
「で、評定だが――まだチーム戦のクセが抜けきってない。ティアの援護がある、エリオと組んで前線に立ってることを前提とした動きがまだ所々に出てきてる。
 戦闘技術的には単独でも十分いけるレベルに達してるんだが、少しばかり後ろからの援護を意識しすぎてる感じがするかな? 動きを見てると。
 援護があるにしても、する人によってやり方はまったく違う――お前、オレがティアと同じ援護の仕方をする、なんてカケラも思っちゃいないだろ?」
 その場の全員(気絶している1名を除く)がコクコクとうなずく中、ジュンイチは続けた。
「要は発想の転換だよ。援護ってのは『あって当たり前』なんじゃない、『なくて当たり前』と思わなきゃダメだ。
 だからこそ、援護してもらえる、ってことはすごくありがたいことなんだ――援護してくれる相手への感謝を忘れないためにも、そこは間違えちゃいけない」
 そう告げると――ジュンイチは笑顔で一同を見回し、告げた。
「けど、それ以外はかなりのレベルに達してる。オレとしては今すぐにでもAAA-くらいまではランクアップさせてやりたいくらいさ。
 断言したっていい――あの時はまだヒヨッコだったお前らだが、もしあの時今のレベルに達していたら――きっとオレ達は“婚姻の乱”に勝利していたはずだ」
「って、またその話ですか?」
「仕方ないだろ、実際お前らが間に合わなかったのが悔やまれるんだから」
 苦笑するティアナに答え、ジュンイチは「むーっ」と口を尖らせてみせる。
「ライカなんか恭也さんの相手にはぜんぜん足りないぜ。
 ユーノあたりが一番適任だよ――教え上手なアイツはライカの相方にゃピッタリだ」
「ユーノさんはなのはさんが……」
「兄貴分として認めません」
 キャロのつぶやきは一言で斬り捨てる。
「恭也さんも恭也さんだぜ。
 いろんな人に言い寄られても、気にするそぶりなんかぜんぜん見せなかったのにさ。
 あの人の姿を見る度に思ったもんさ――」
 言って、ジュンイチは力強く拳を握り締め――断言した。
 

「あの人にだけは出遅れまいと」
「悪かったな」

 

 答えると同時に蹴りを一発。いつの間にか背後に忍び寄っていた恭也に蹴り飛ばされ、ジュンイチは顔面から地面に突っ込んでいた。
「き、恭也さん!?
 いつの間に!?」
「『きっとオレ達は“婚姻の乱”に勝利していた』の辺りからか」
 あわてて身を起こし、声を上げるジュンイチに恭也はため息をつきながらそう答える。
 だが、そのため息が呆れなどから来たものではないことは明白で――
「そうかそうか。ライカはオレの妻には役不足か……」
 静かに告げる恭也だが――その目はまったく笑っていない。
「つまりお前は、ライカをその程度にしか見ていないワケだ……」
 言葉が紡がれると共に、その周囲の空気がものすごい勢いで冷たくなっていき――
「――――――っ!」
 一瞬の刹那――自分を狙った小太刀の一撃を、ジュンイチは右手に出現させた苦無で受け止めていた。
 さらに一撃、もう一撃――これで最後とばかりに放たれた一撃には左手にも苦無を取り出して対応、十字受けで受け止める。
「ほぉ……よく止めたな」
「命賭けてますんで。
 何しろ、いきなり無言で“薙旋”撃ってくるような人と現在進行形で対面してますから」
 そのままギリギリと刃を拮抗させ――告げる恭也にジュンイチが答え、二人は弾かれるかのように間合いを取る。
「悪いけど、前言を撤回するつもりはないっスよ。
 実際、アイツじゃ恭也さんの内助の功にはなれねぇと思うし」
「そんなことはないぞ。
 料理ではこちらが教わることも多いし、服だっていつもアイツが『似合うものを』と選んでくれている――ちゃんとオレの好みに合わせて黒系統の色合いを選んでくれるしな。
 出動した時もオレの動きをよく理解して援護してくれるし……ライカ以上の相手などいはしない」
「あーそー、のろけてくれてありがとう。
 じゃあ言わせてもらいますけど……」
 恭也の言葉に苦笑し――ジュンイチは拳を握り締めて咆哮した。
 

「恭也さんが始末書の提出(再提出含む)喰らって、手伝いを申し出たアイツが一度でも役に立ったことがありましたか!?」

 

 

 

本日の“大”戦結果
 高町恭也○――×柾木ジュンイチ
 敗因:余計な一言
 物的被害:訓練場半壊
 人的被害:医務室送り/人員×4、使役竜×1

 

 

 

「あ、ライカさん」
「ん……?
 あぁ、なのはじゃない」
 唐突に声をかけられ、振り向いたライカは、そこにいた義妹いもうとの姿に顔をほころばせた。
「どうしたのよ?
 今日はスバル達の訓練はないの? 恭也が『顔出す』とか今朝言ってたけど」
「えっと……ジュンイチさんが連れてっちゃいまして……」
「…………信じましょうか、恭也を」
「……はい…………」
 それだけで二人には十分すぎた。
「ジュンイチさんも、指導者として申し分ない能力を持ってるんですけどね……」
「戦術面の指導の嗜好に問題がありすぎるのよね。けっこうえげつない手も、むしろ嬉々として教えるし。
 アイツ、エリオに“七年殺し”とか教えてないでしょうね?」
「この前、お兄ちゃんが全力で止めてくれました」
「すでに手遅れだったか……
 まったく、よくもまぁアイツの指導を受けて、あんた達がまともに育ったもんだわ」
 ライカの言葉に思わず苦笑し――なのはは不安げに彼女に尋ねた。
「ところで……何かあったんですか?
 医務室でシャマルさんと話し込んでたみたいですけど」
「ん? あぁ、大したことじゃないわよ。
 ちょっと体調が微妙だったから診てもらって――後は冷やかしと独身者のひがみを聞かされてただけ」
「にゃはは……シャマルさんも焦ってるみたいですし、グチくらいは聞いてあげても……」
「相変わらず、それっぽい出会いは皆無みたいだしねぇ……」
 思わずライカは肩をすくめ――なのははもう一度ライカに尋ねた。
「けど……体調が悪かった、って、大丈夫なんですか?
 ムリはしないでくださいね」
「大丈夫よ。
 まったく、いつまで経っても心配性なんだから」
「心配しますよ。
 ライカさんは民間協力者とはいえ、大事な六課の仲間だし……何より、自分の義姉あねのことなんですから」
「ホントに大丈夫だって。
 診察、って言っても、ちょっと違和感があったから念のため、ってレベルだったし」
 不安げに自分を見上げる義妹の頭をなでてやり――ライカは小声で付け加えた。

「それに……“原因”も教えてもらえたし、ね」
 

「ライカ」
「ん………………?」
 その日も一日の業務が終わり、共に帰宅すべく駐車場で夫の退庁を待っていたライカは、突然の声に振り向き――
「ホレ」
「え………………?」
 その視界いっぱいに風呂敷包みが突き出された。面食らいながら受け取ると、包みの向こうには額に包帯を巻いたジュンイチの顔があった。
「また派手にやったみたいね」
「フォワード4人とチビ竜には悪いことしたよ。巻き込んじまった」
 ぜんぜん「悪い」と思っているようには見えない――サラッと答えるジュンイチに苦笑し、ライカは手の中の荷物に視線を落とした。
「で、コレは? ずいぶん重いけど」
「中見てみ」
 答えるジュンイチの言葉に、ライカは首をかしげながら風呂敷のすき間から中身を確認し――

 次の瞬間、芸術的なキレを見せたライカのハイキックが、ジュンイチの側頭部に叩き込まれていた。

「なぜ知ってる?」
 直撃を受け、ジュンイチの身体は非現実的な勢いで回転しながら駐車場の壁面に叩きつけられた。ズルズルと地面に崩れ落ちるジュンイチの胸倉をつかみ、ライカはドスの利いた声でそう尋ね る。
 だが、そんな彼女に対し、ジュンイチは蹴りが効いた様子もなく平然と答えた。
「はっはっはっ、バカだなぁ。
 師匠であるオレに対して、“あの人”に隠し事をする権利があるとでも思ってんのか?
 戦闘、料理、野戦医療――3ジャンルも教えてんだぞ。最近はボランティア用に手話までオレに教わってるし」
「おのれ、シャマルさんめ……
 副収入の栄養ドリンク流通ルート、はやてに密告してやろうかしら」
「それ、自分の首も一緒に絞めないか?
 お前だって顧客だろ。オレと違って」
「え!? あんたお世話になってないの!?
 なのはやフェイトやはやてを取っかえ引っかえしてるって聞いたけど!?」
「誰だ、そんな話流したの!?」

「忍さんよ!」
「信じるなよ、ンな与太話!」

 ライカの言葉に言い返し――ジュンイチはライカの手を振り解いて立ち上がり、
「だいたい、そーゆーコト言うか!?
 お前の様子がおかしかったから、気になってシャマルさんを問いただしたってのに!」
「え………………?」
 ムキになって告げるジュンイチの言葉に、ライカは思わず目を丸くした。
「何よ、気づいてたの……?」
「たりめーだ。
 何年同じチームブレイカーズでつるんでたと思ってんだ――いつものお前らと調子の 悪い時のお前らの見分けくらいつく」
 まさかジュンイチが自分の体調のことを気にかけていたとは――意外な事実に目を丸くするライカに、ジュンイチは肩をすくめてそう答える。
「けど、よくもまぁ“こんなの”大量に仕入れてきたわね、男のアンタが」
「母さんだよ。
 事情を知って、“経験者”の母さんなら何かアドバイスできるんじゃないか――って連絡してみたら、青木ちゃんパシらせて超特急便で送ってきやがった」
「巻き込まれた青木さんもかわいそうに……」
 ため息まじりに答えるジュンイチに、ライカは久しく会っていないかつての仲間に思わず同情し――
「ライカ。
 …………ん? ジュンイチも一緒だったか」
「うぃーっす」
 そこへライカの待ち人が現れた。先ほどの訓練場での一幕を引きずるような関係でもなく、声をかけてくる恭也の姿にジュンイチは軽く手を挙げて応えるが――
「………………」
 ライカはそんな恭也に応えることなく、プイと視線を背けてしまう。
 心なしかその頬は赤い。何かあったのかと首をかしげ――恭也はライカの手の中の、今しがたジュンイチから渡された例の荷物に気づいた。
「ライカ、それは……?」
「え? あ、これは、ジュンイチが……」
「ジュンイチが?」
 答えるライカの言葉に眉をひそめる恭也だが、そんな彼の肩をポンと叩き、ジュンイチは笑いながら告げた。
「すぐにわかるよ。恭也さんにも関係してることだから」
「オレにも……?
 どういうことだ?」
「そっから先はオレの言うこっちゃねぇよ。一番の当事者のライカから聞くんだね。
 ま、今この場で聞くのはお勧めしねーけど」
 言って、「なー?」と笑顔で話を振るジュンイチに、ライカはますます顔を赤くして――そんな二人の態度に、恭也はまったく話が見えず、ただ首を傾げるしかなかった。
 

「あー、恭也……?」
 夕食を終えた後のひと時――ライカがそう切り出すのは、すでに予想されていたことだった。恭也はつけていたテレビを消し、そのままライカと正対した。
「夕方のこと、か……?」
「う、うん……
 これ……」
 尋ねる恭也にうなずくと、ライカは少し恥ずかしげに夕方ジュンイチから渡された風呂敷包みを差し出した。
「開けてもいいのか?」
 真っ赤な顔でライカがうなずき、恭也は包みをほどき――“中身”を前にして目を丸くした。
 一瞬の思考停止の後、もう一度確認。そこに並ぶ――子育てのハウツー本やマタニティ用品の数々を前にようやく口を開いた。
「…………ライカ……
 ……これは、つまり……“そういうこと”と受け取っていいのか?」
「うん……
 おめでた、だって……」
「ちなみに……」
「1ヶ月。
 シャマルさん号泣してた。『ますます置いていかれた』って……」
 言って肩をすくめるライカだが――その一方で恭也は何やら難しそうな顔で考え込む。
「恭也……?」
「ん? あぁ、すまない。
 いくら女所帯で育ったと言っても、さすがにおめでたはあまり経験がなくてな……正直、何と言って祝福したらいいのか……」
「ハハハ、、桃子さんがなのはを身ごもった時と、クロノんトコと……それぐらいだものね。
 いいわよ。言葉にしなくても恭也が喜んでくれているのはわかるから」
「そうなのか?」
「もう10年の付き合いになるのよ。わかるわよ。
 ……って、昼間ジュンイチにも似たようなこと言われたんだけどね」
 恭也の言葉に笑みをこぼし――ライカは息をつき、
「けど……半分くらい、『ごめんなさい』な部分もあるのよね」
「ライカ……?」
「だって、恭也……今大変な時期でしょ?
 はやてから聞いたわよ。レティ提督から、六課の試験運用期間が終わったら嘱託から正局員にランクアップして、正式に管理局入りしないか、って誘われてるんでしょ?
 恭也の性格考えたら、こーなっちゃった以上、自分的に都合が悪くても『あたしとこの子のために』って引き受けちゃいそうだし……」
 言って、申し訳なさそうに恭也を見返すライカだったが、
「ライカ……」
 そんな彼女の頭を、恭也は優しくなでてやる。
「気にすることはない。
 別に子供のことがなくても――妻帯者がいつまでも嘱託の非常勤、というワケにもいかないと考えていたところだ」
「え…………?
 それじゃあ……」
「あぁ。
 すでに、引き受ける旨はレティ提督に伝えてある――言うまでもないが、当然その時点では子供のことは知らなかった」
 ライカに答え、恭也は笑みを浮かべ、
「オレの――御神の剣は守るためにある。
 そして、オレはお前を守るために剣を振るう。そのために必要なら、管理局入りをためらう理由はない」
「……そうよね。
 恭也はそういうヤツなのよね」
 その恭也の言葉に、ライカは自分の腹部を優しくなでた。
「あたし達の子だもん……絶対この子も入りたがるでしょうね、管理局」
「そうだな……」
 うなずく恭也に笑みを向け、ライカは立ち上がるとリビングから縁側に出た。
「この子が楽できるように……少しでも平和な世界にしてあげないとね……」
 

 それからさらに10数年が経過し――管理局内に“家族分隊”と揶揄される超エキスパート部隊が誕生するのだが――それはまた別の話である。


あとがき

 大暴走。

 以上、いろいろな意味で「やってしまった」な感のある時系列完全無視の『StrikerS』編妄想SSでした。
 モリビトの苦手な「甘々カップル」というシチュエーションに挑戦。苦手分野の克服を目指したはずが、いつもどおりの壊れギャグになってしまってる気が……(汗)
 ともあれ、「バカップルを描く」というテーマを掲げるにあたり、誰の新婚生活を書こうかと、いろんなカップリングを考えてみましたが――個人的に『なのブレ』本編で絡めてみたいカップリング、恭也×ライカでいくことに。
 タイトルと冒頭の口上が一番血迷いました。当初は単なる未来妄想SSになるはずだったのですが、仕事が休みなとある平日の午前中、宿舎内でのんびりこの話を書いていたところ、なんとなくチャンネルを合わせていたBS2で『奥様は魔女』の再放送が始まり――気づけばあんなタイトルと出だしに(笑)。 しかも割と気に入っていたりするからなおタチが悪かったり(爆)。


 

(初版:2007/08/28)