2年前――公式には記録されていない事件があった。
2年前――彼らは地球に降り立った。
2年前――それは各地に散らばった。
そして――現在。
第1話
「魔法勇者王誕生なの?」
ごく普通の住宅のごく普通の私室――
ごく普通の携帯がごく普通に着メロを流し――ごく普通に止められた。
そして、
「……ふわぁ〜あ……」
ベッドの上で身を起こし、彼女は大きくあくびした。
高町なのは――私立聖祥大付属小学校に通う、ごくごく普通の小学3年生である。
「おはよー」
「おはよう、なのは」
「お、ひとりで起きられたのか、偉いぞ、なのは」
着替えて1階のリビングに下りてきたなのはを迎えたのは、父・高町士郎と母・高町桃子である。
――片一方のリアクションが少々子ども扱いが過ぎる気もするがそれはさておき。
「あ、なのちゃん、おはよーさん」
「おはよう、なのちゃん」
一方、キッチンで手際よく朝食の支度をしながら声をかけてくるのは城島晶と鳳・蓮飛、通称レン。
二人とも幼い頃からこの高町家に出入りしていた幼馴染で、今ではすっかりこの家の住人となっていた。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんは?」
「んー、たぶん道場だな。
なのは、呼んできてくれるか?」
「はーい」
答える士郎に頼まれ、なのはは返事して家の裏手にある道場へと向かった。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん。
朝ごはんだよー」
「あぁ、もうそんな時間か」
道場をのぞき込むなりそう告げたなのはの言葉に、兄・高町恭也が反応した。
御神流剣術の師範代で、彼の妹でなのはの姉・高町美由希の師匠も彼が務めている。
「はい、タオル」
「ありがと、なのは」
なのはの投げ渡したタオルを受け取り、美由希は汗をふいて外していた眼鏡をかける。
そんな二人の妹を見て、恭也は息をつき、美由希に告げた。
「それじゃあ、今朝はここまでにしよう」
「はい。
じゃあ、続きは帰ってからね」
そう言うと、二人はなのはと共に母屋へと向かう。
「なのは、社会見学の準備できた?」
「うん!」
「どこに行くんだ?」
「埋立地のゴミ捨て場。環境問題の勉強だって」
「埋立地の……?
あー、確かレンと晶も同じところに行くって言ってたっけ。
最近、環境問題とかいろいろ話題になってるし……」
「そういえば、お前も別の日に行くんだったな」
思い出してつぶやく美由希の言葉に、恭也はそう言うと少し考え、なのはに告げた。
「お前のことだからたぶん大丈夫だろうが……十分に気をつけるんだぞ」
「はーい」
「特に、後日行く姉のために転びそうな場所をチェックしておくように」
「うぅ……ひどいよ恭ちゃん……」
「ぅわー、すっごいゴミ……」
海鳴港のすぐ近く――ゴミの島に上陸し、なのはが思わずもらした感想がそれだった。
だが確かに、彼女の周囲はすさまじいまでのゴミの山。どこからこれだけ集まってくるのかとある意味感心すら覚える。
「いくらリサイクルしても追いつかないほどに、世界中でゴミがあふれています。
限りある資源を今後どう利用していくか、このゴミの島を観察してよく考えてみてくださいね」
そんななのは達生徒一同に言うと、担任の先生は一同を解散させた。
「わぁ、これ、2003年型のプラズマテレビだよ。
まだ新しいのに、もったいない……」
捨てられたテレビを見て見事年式まで言い当てるのは、なのはの友人、月村すずかである。
「まったく、なんでこーも使えるものばっかりポンポンと捨てられるものよねぇ」
こうしてみるとまだ使えるものがあまりにも多い――そんな浪費社会の縮図を前にして、こちらもなのはの友人であるアリサ・バニングスがため息混じりにつぶやく。
「ぅわぁ、このMDデッキまだ使えるのに……」
足元に落ちていた、捨てられたMDデッキを見てなのはがつぶやくと、
「あ、なのちゃん……?」
「ここにおったんか」
言って顔を出すのは晶レンである。自分達と同じように解散になったのだろう。
「しっかしすごいゴミやなー、ホンマ」
「だよなぁ……しかもこの辺、使えそうなものばっかりだぜ」
「持って帰ったらあかんかな?」
「止めないけど運べるものにしておけよ」
などと会話を交わす晶とレンから視線を外し、なのはは改めてゴミの山を見回した。
「使えるのに捨てちゃうくらいなら、最初から買わなきゃいいのに……」
そうつぶやいた、その時――
――けて――
「……え?」
何か声を聞いたような気がして顔を上げた。
周囲を見回すが、自分に話しかけたらしき人物は誰も――
《――助けて!》
また聞こえた。声のような、声じゃないような――そんな不思議な感じのする声だ。
周囲を見回し、自分の感覚に導かれるままに歩を進め、なのははゴミの山の一角にできていたタイヤのトンネルらしき通路に入っていく。
「ちょっと、なのは?」
「危ないよ、なのはちゃん!」
「どないしたん?」
「なのちゃんが奥に入っちゃったらしいんだ!」
そんななのはに気づき、アリサとすずか、そして晶とレンもが後を追うと、
「……あ!」
それを発見し、なのはが声を上げた。
傷ついたフェレットである。
「大変だ、ケガしてる……」
つぶやき、なのはがフェレットを抱き上げた、次の瞬間――
――ヴォンッ。
音を立て、壁として積み上げられていたテレビが一斉に点灯し――振動が始まった。
《グルルルル……》
格納庫の中で、それは目覚め、低くうなり声をあげた。
ゆっくりと身体を起こし――自身の身体が鎖でしっかりと固定されているのに気づく。
だが――この程度ならば問題はない。
少し身体に力を入れて、鎖を引きちぎるとそれは咆哮した。
ライオン型のロボットである。
メカライオン起動の報は、すぐにその基地の司令室へともたらされた。
海鳴港の海中深くに建造された海底基地――組織の名はGusty Geoid Guard、通称『GGG』という。
「それで……ギャレオンは?」
「メインスクリーンに出します!」
駆けつけたGGG長官、リンディ・ハラオウンの問いにメインオペレータのエイミィ・リミエッタが答え、モニターに格納庫のハッチへと体当たりを繰り返しているメカライオン『ギャレオン』の姿が映し出された。
「インディングチェーンを引きちぎったの?
この2年間、まったく動かなかったのに……」
「外に出ようとしているようですが、一体どこに……?」
その様子を見て、整備オペレータ兼整備主任である月村忍とサブオペレータのノエル・K・エーアリヒカイトがつぶやくと、
〈ゴミの島だよ〉
そう答える声は通信によってもたらされた。
「クロノ?
どこにいるの? 緊急招集がかかってるのよ」
〈もうとっくに現場ですよ、長官。
映像送ります〉
尋ねるリンディにクロノと呼ばれた声の主が答え、メインモニターの映像がギャレオンのそれから切り替わる。
そこには、ゴミの島の上に出現した、巨大なロボットの姿があった。
「何アレ!?」
声を上げるエイミィの背後で、リンディはつぶやいた。
「2年間の沈黙が何を意味するかはわからないけど……ついに発動したようね。
どうやら、電気製品のクズで身体を作ってるみたいだけど、おそらくあれは……」
「では、ギャレオンはあれに反応して……」
「たぶんね」
ノエルの言葉にうなずくと、リンディは指示を出した。
「どちらにしても、それほど長くギャレオンを止めてはいらそうにないし……素直に発進させましょう」
「わかりました。
三段飛行甲板空母、分離発進!」
リンディの言葉に、忍は答えてコンソールを操作。それを受けて、基地の一角が分離した。
GGGの基地は中央ユニット『ヘキサゴン』を中心に6つのユニットが接続されている。そのひとつが、ギャレオンの格納されていた、そして今リンディによって発進を指示された移動母艦、三段飛行甲板空母である。
そして、分離した三段飛行甲板空母は海上へと浮上、上前部をスライド式に上昇させるとその奥に姿を現した第3ゲートを開放。内部に納められていたギャレオンは腰のバーニアを吹かし、大空へと飛び立った。
一方、ロボットが取り込んだのはゴミだけではなかった。
社会見学のためになのは達を運んできた船もまた、一緒に取り込まれていたのだ。
そして、その船の中に――なのは達の姿があった。
避難しようと船に乗り込んだまではよかったが、その船が取り込まれてしまったのだ。
しかも、その拍子に先生達も振り落とされてしまい、現在船の中にいるのはなのは、アリサ、すずか、晶、レン――そして、彼女達によって助けられたフェレットだけだった。
だが、そんな彼女達など意にも介さず、ロボットは悠然と海へと入り、市街地へとその進路を向けていた。
「サテライトビューの映像を見た限り、船ごと取り込まれているようです」
「子供が5人、か……厄介ね」
そんななのは達の様子はすでにGGGによって捉えられていた。映像を解析して報告するノエルに、リンディは思わずうめいた。
と、そんな彼女達の元へクロノからの通信が入る――彼からもロボットの映像を送り続けているため、相変わらずモニターにその姿は映らない。
〈こちらクロノ。
海に放り出された要救助者は全員救出完了。後は――〉
言いかけたクロノだったが、その声を強烈なジェットエンジンの音がさえぎった。
ロボットの出現にスクランブル発進した自衛隊機である。
「あ、あれ!」
「助けに来てくれたの!?」
自衛隊機の接近はなのは達も気づいた。晶とすずかが声を上げるが、
「そんなワケないでしょ!」
反対にそう答えたのはアリサだ。
「私達を助けるのに、どうして戦闘機で来るのよ!
きっと、私達のことなんか気づいてないのよ!」
「えぇっ!?
ほな、ウチらも一緒に攻撃されてまうってコトか!?」
アリサの言葉に声を上げるレンだったが、飛来した自衛隊機に向けてロボットは右腕をかざし――開いた内部から放たれた閃光が、自衛隊機を一撃の下に撃墜していた。
「な、何よ、アレ!?」
突然放たれたロボットのすさまじい攻撃を前に、エイミィが思わず声を上げる。
だが、となりの席の忍は落ち着いていた。冷静に敵の武装を解析する。
「おそらく、電子レンジをあの右腕に集めて、その電磁波を収束させて放ったのよ。
まさに家電を使って作った即席の荷電粒子砲――家電粒子砲とでも言えばいいかしら」
「って、シャレなんか言ってる場合じゃないですよ!」
解析を完了し、つぶやく忍にエイミィは思わずツッコんだ。
「や、やられちゃった……」
自衛隊機が撃墜されたのを見て、なのはが思わずつぶやく。と――
《ガオォォォォォンッ!》
突然、獣の咆哮が響いた。
なのは達が振り向いたその先で、高速で飛来したギャレオンがロボットへと襲いかかり――何かに激突、弾き返される!
ロボットの周囲に常時展開されているバリアにさえぎられたのだ。
しかし、なおもロボットへと飛びかかるギャレオンだったが、ロボットは左手を向けて――放たれた閃光がギャレオンを直撃する!
巻き起こった水蒸気が視界を覆い――それが晴れた時、氷漬けにされたギャレオンの姿があった。
右手に電子レンジを収束させた荷電粒子砲を装備していたように、ロボットの左手には冷蔵庫のフリーザーが収束され、冷凍砲としての能力が与えられていたのだ。
そして、氷漬けとなり飛行能力を失ったギャレオンは海中へと没していった。
一方、GGG基地でも問題が発生していた。
「――あぁっ!」
ロボットの映像を解析し、とらわれているなのはの姿を確認した忍が突然声を上げたのだ。
「ど、どうしたの? 忍さん」
「あのロボットに捕まってる子供のひとりは――私の妹です!
それに、一緒にいるのはなのはちゃん達……!」
忍が言っている『妹』とはすずかのことだ。てっきりクロノが救出した子供達の中にいるかと思っていたが――
「どうしよう……
すずか達がいたんじゃ、自衛隊も手出しできないし……」
「仮に手出しをしたとしても、自衛隊の火力ではあのバリアシステムは破れはしないと思われます」
つぶやく忍にノエルが答え――リンディは口を開いた。
「……クロノ、聞こえる?」
〈はい、長官〉
「貴方に、子供達の救出を任せます」
「そうくると思ってましたよ、長官」
そう告げるクロノは、ロボットを見下ろす形で“宙に浮いていた”。
「ただ、ボクだけじゃちょっとね……
『ガオーマシン』の使用許可は?」
〈もちろん許可します〉
「なら、かく乱に使わせてもらいますよ」
リンディの答えにうなずくと、クロノはその名を叫んだ。
「ドリルガオー!」
その瞬間、ロボットの足元――海底を砕いて飛び出してきたドリル戦車が、ロボットへと突っ込んでいく!
しかし、ロボットのバリアシステムの前にはやはり突破はできず、逆にロボットの腕によって振り払われる。
だが、クロノにとってはそれで十分だった。急降下すると懐から1枚のカードを取り出し――それが一振りの杖へと姿を変える。
クロノ愛用の武器、ストレージ・デバイス『S2U』である。
そして、クロノはS2Uの先端から放った“力”でバリアをかき分けて内部に突入すると、なのは達のいる船の船首部分へと降り立った。
「助けに来たよ!」
「き、キミは……?」
突然現れ、告げるクロノに、なのはは思わず聞き返す。
対して、クロノはそのなのはの姿に思わず動きを止めた。
動きを止めた理由はただひとつ。
カワイイ。
自分の好みに直球ストライク、クリティカルヒットだ。
そう――いわゆる『一目惚れ』というヤツである。
とにかく、クロノはなのはに一瞬心奪われて――
――ドガァッ!
そのスキをつかれ、奥から放たれたロボットの触手に弾き飛ばされ、外に放り出される!
そして、我に返ったクロノが再度救出に向かおうとするが、それよりも早くロボットはその身体を変形させた。
全身の家電の配置を変えると列車のような姿に変形、海沿いの線路の上に飛び乗ると一気に走り出した。
その向かう方角は――東である。
「やっぱり……もう間違いない」
そう言うと、リンディは顔を上げ、宣言した。
「現時刻を持ってあのロボットを『EI-02』と認定呼称!
そして――」
そう。彼女達はその存在の正体を知っていた。ロボットを作り出した元凶を――
「作戦内容に『ジュエルシード』の回収を追加!」
「どこに向かってるんだろう……」
「この方角だと……東の方ね」
わずかにできた隙間から見える光景から外の様子を把握し、つぶやくなのはにアリサが答える。
「東……?
東京の方に、ってこと?」
「このままだと、たぶん。
まぁ、通り過ぎるかもしれないけど……」
尋ねるすずかにアリサが答えると、
「……あ、動いた!」
意識を取り戻したか、わずかに動いたフェレットを見てなのはが声を上げる。
と、フェレットはなのはやのぞき込んできたアリサ、すずかを順に見回し、
「みなさんが……助けてくれたんですか?」
『え………………?』
突然言葉を発したフェレットに、なのは達は目を丸くして――
『しゃべったぁ!?』
絶叫した。
「ギャレオン、体内発熱による解凍率81.2%。起動可能です」
そう報告すると、忍はリンディへと向き直り、
「長官、妹を!」
「わかってるわ」
忍にそう答え、リンディはノエルへと向き直り、
「ノエルさん、フュージョンの成功率は?」
「シュミレーションでは99.9%。
と言っても、実戦の経験はありませんので、やってみなければわかりません」
その答えに、リンディはしばし考え――決断した。
「フュージョン承認!」
一直線に東京方面へとひた走るEI-02を、追いついてきたそれは視界にとらえていた。
500系新幹線型ガオーマシン、ライナーガオーである。
そして、そのコックピットにはクロノの姿があった。
「どうやら、スピードはこのライナーがオーの方が上らしいな!」
EI-02を確認し、クロノが言うと、そこへエイミィから通信が入った。
〈クロノ、フュージョン可能よ!〉
「了解!」
「ボクはユーノ・スクライア。
ある探し物のために、こことは違う世界からやって来ました」
自分を囲む形で座るなのは達に、フェレットはそう名乗った。
「探し物……?」
「はい。
だけど、この世界に来た時にトラブルが起きて、こっちに出現するタイミングにもズレが……」
聞き返す晶に答え、ユーノはそう言ってうなだれる。
「せめて、ギャレオンだけでもいてくれれば……」
「ギャレオン?」
つぶやくユーノになのはが尋ねると、
――ズズゥンッ!
突然振動が巻き起こった。
東京に到達すると、EI-02はロボット形態へと変形、都庁前にその姿を現した。
そして、都庁に向き直ると両手の砲を展開する。
「都庁を壊すつもりなんか!?」
それを見てレンが声を上げ――
《ガオォォォォォンッ!》
突然の咆哮に振り向き――見つけた。
ビルの上に佇むギャレオンと、その頭上に立つクロノの姿を。
「あのライオンだ!」
「生きてたんだ!」
ギャレオンの姿を確認し、すずかとアリサが声を上げると、なのはの腕の中でユーノが声を上げた。
「――ギャレオン!?」
「え――――――?」
「さて、いくか」
都庁へと狙いを定めるEI-02を前に、クロノはS2Uをかまえて告げる。
が――ギャレオンの反応はない。
「ギャレオン……?」
様子のおかしいギャレオンにクロノが疑問の声を上げ――
《ガオォォォォォンッ!》
咆哮すると、ギャレオンはクロノを振り落として地を蹴る!
「ぎ、ギャレオン!?」
しかし、ギャレオンはクロノの声に耳を貸さず、一直線にEI-02へと突っ込んでいく。
「――くそっ!
ステルスガオー!」
仕方なくクロノが叫ぶのと、ギャレオンの接近に気づいたEI-02が両手の砲を放ったのはほぼ同時だった。
放たれた閃光がギャレオンへと迫り――直前、飛来した何かがギャレオンをさらい、EI-02の閃光は宙を薙ぐ。
ステルス機型のガオーマシン、ステルスガオーがギャレオンへと合体、EI-02の攻撃の射線から逃がしたのだ。
再び狙いをつけ、閃光を放つEI-02。しかし、ギャレオンはステルスガオーから分離してその閃光をかわすと相手の懐に滑り込み、爪の一撃で露出していた船の船首部分を斬り落とす。
一瞬浮遊感がなのは達を襲うが――落下しかけた船首はギャレオンによって捕まえられていた。船首部分を咥えたギャレオンはそのまま上昇、都庁の上になのは達を下ろす。
「ありがとう、ギャレオン!」
なのはの腕の中で言うユーノの言葉に、ギャレオンはうなり声をもって応える。
そして、ユーノはなのは達へと向き直り、
「お礼はします。必ずします。
ボクひとりの力では、想いを遂げられないかもしれない……だから、迷惑だとわかってはいるんですが、資質のある人に協力してほしいんです。
キミの力……魔法の力で!」
「ま、魔法……?」
ユーノの言葉になのはがつぶやくと、
「――何やってるんだ、ギャレオン!」
言って、クロノがギャレオンのすぐそばに降り立つ。
「アイツがこの建物を狙ってる!
早くフュージョンするんだ!」
クロノがそう告げた、その時――地上でこの都庁を狙っていたはずのEI-02が背後に出現する!
「――――――っ!?」
とっさにS2Uをかまえ、防御結界『ラウンドシールド』を展開するクロノだったが、EI-02の巨体を相手に生身の防御など何の役にも立たない。EI-02の振るったケーブルの直撃を受けて弾き飛ばされる。
「ど、どうすればいいの……!?」
再びこちらへと向き直るEI-02を前になのはがつぶやくと、
「これを!」
言って、ユーノは首に着けられていた赤い宝石をなのはに渡した。
「それを手に、目を閉じて、心を澄ませて。
そして、ボクの言う通りにくり返して。
誰になるかはわからないけど……この中でもっとも素養のある人に、力を貸してくれるはずです!」
そう言うと、ユーノはなのは達に呪文を教え、一同は宝石を握るなのはの手へと各々の手を重ね、その呪文を復唱する。
「我、使命を受け給う者なり」
『我、使命を受け給う者なり……』
「契約の元、その力を解き放ち給え」
『契約の元、その力を解き放ち給え……』
「風は空に、星は天に」
『風は空に……星は天に……』
呪文を紡ぐたび、赤い宝石は徐々にその“力”を強めていき――それに従って、なのはの脳裏に次の呪文が浮かんでいく。
「なのは……?」
「なのちゃん……?」
自分達より復唱のタイミングが早まり始めたなのはに気づき、疑問の声を上げるアリサと晶だが、彼女達に先んじて、なのははユーノと共に呪文をつむぐ。
「そして、不屈の魂は――」
「そして、不屈の魂は――」
『この胸に!』
完全に両者の言葉が重なり――二人は叫んだ。
『この手に魔法を!
レイジングハート、力を!』
〈Stand by Ready, Set up!〉
二人の言葉を受け、宝石からシステム音声が発せられ――
――ドゴォッ!
宝石――レイジングハートを通じて、なのはの“力”が解放される!
「な、何!?」
渦巻く“力”の中でなのはが声を上げると、ユーノが彼女に告げる。
「落ち着いてイメージして!
キミの魔法を制御する、魔法の杖の姿を。キミの身を守る、強い衣服の姿を――そして、キミの力を司る、強い勇者の姿を!」
「そ、そんな急に言われても……
えっと……えっと……」
フェレットの言葉に、なのはは混乱する頭をフル回転してイメージを働かせ、
「……と、とりあえず――これで!」
その瞬間――なのはの姿が変わった。
服は学校の制服に装飾が加わったようなデザインのバリアジャケットへ、そしてその手の中には機械的にパーツを作り出し、結合。杖へと変形したレイジングハートが収まる。
「――いくよ、ギャレオン!」
「フュー、ジョォォォォォンッ!」
叫んで、ユーノを肩に乗せたなのはは大きく跳躍、それを追ったギャレオンが彼女を飲み込むようにその口の中に収めると、ギャレオンはそのまま変形を開始した。
ギャレオンの頭部が動き、人の姿をした顔が現れ、前足の爪が収納されて手首が現れ、腰が回転し、立ち上がる。
そして、額の結晶体が輝き、ギャレオンと一体になったなのはが名乗りを上げた。
「ガイ、ガー!」
インテリジェント・デバイスを持つ者はギャレオンとフュージョンすることにより、メカノイド・ガイガーに変形するのだ。
「まずは動こう! ここじゃ友達を巻き込む!」
「う、うん!」
ユーノの言葉になのはが答え、ガイガーは跳躍、上空のEI-02へとバリア越しに蹴りを入れて大地に叩き落す。
そして、着地と同時に地を蹴り、一気にEI-02との距離を詰める。
戦い方はギャレオンやレイジングハートが教えてくれる――やれる!
「ガイガークロー!」
〈Gaigar-Crow, Set up!〉
なのはの言葉にレイジングハートが答え、ガイガーは右手にギャレオンの爪を装着、レイジングハートを振るったなのはの動きに連動し、EI-02にその爪を叩きつける。
だが――通じない。EI-02のバリアに阻まれ、逆に殴り飛ばされる!
「ガイガーから、ファイナルフュージョン要請シグナルです!」
「ノエルさん!?」
エイミィからの報告にノエルへと視線を向けるリンディだったが、彼女の答えは芳しいものではなかった。
「ですが、クロノ様とのシミュレーションでも、ファイナルの成功率は限りなく0に近いのが現状です。
誰がフュージョンしているかはわかりませんが、今この状況下でファイナルフュージョンを承認するのは……」
だが――リンディはモニターの映像の中で戦うガイガーを見つめてつぶやいた。
「ギャレオンがクロノよりも優先してフュージョンの相手に選んだ人です。きっと……できます。
可能性なんてものは単なる目安。後は勇気で補えばいい!」
そして、リンディは宣言する。
「ファイナルフュージョン、承認!」
「了解です。
ファイナルフュージョン、プログラム起動……どうぞ」
リンディの言葉に、ノエルはコンソールを操作。ファイナルフュージョン・プログラムを立ち上げるとエイミィに合図を送る。
「OK!」
そして、エイミィは答えて拳を振り上げ、
「ファイナルフュージョン、プログラム――ドラァイブ!」
渾身の力で拳を振り下ろし、プログラムのドライブボタンを保護ガラスごと叩き押す!
「きゃあっ!」
EI-02の拳を受け、なのはが大地に叩きつけられる。
「こ、このままじゃ……!」
なんとか身を起こしてなのはがつぶやくと、
「ガイガー!」
そこへ、復活したクロノが飛来した。
「プログラムが転送されたはずだ!
早くファイナルフュージョンを!」
「ファイナル、フュージョン……?」
クロノの言葉につぶやくなのはだったが、今は1分、1秒でも時間が惜しかった。
「――よぅし!」
「ファイナル、フュー、ジョォォォォォンッ!」
なのはが叫び、ガイガーはその身を翻して高速回転。腰から電磁竜巻『EMトルネード』を噴出してバリアを作る。
その中にガオーマシンが次々に飛び込んでくるとガイガーの周囲を飛び回り、それぞれが合体のための変形を開始する。
まず、ドリルガオーのドリルが機体上部に30度ほどの角度まで起き上がり、姿を見せた内部スペースへと下半身を180度回転させたガイガーの両足が差し込まれて固定、左右に別れて両足に変形する。
続いて、背中に腕が折りたたまれ、腕のあったスペースにライナーガオーが突入して固定される。
ステルスガオーは背中にドッキングし、胸のライオンの補強パーツを脇の下をくぐらせて固定、ボディ周りの合体が完了する。
キュイィィィィィィンッ!
耳障りな音を立て、ステルスガオーのバーニアがスライドし、ライナーガオーから出てきた後腕部とドッキング。拳が回転しながら出てきて前腕部に。
最後に、頭部にフェイスガードが合体し、額の結晶体『Gストーン』とカメラアイが輝く。
システムが起動し、合体を遂げたなのはが咆哮した。
「ガオ、ガイ、ガァァァァァッ!」
ついに我々が待ち望んだ真の勇者が誕生した。
その名も、魔法勇者王――
ガオガイガー!
――ブォッ!
バリアとなっていたEMトルネードが吹き散らされ、ガオガイガーがその雄姿を現す。
目の前に現れた敵の新たな姿を前に、EI-02はしばし警戒し――攻撃に移った。両手の砲を向け、同時に撃ち放つ。
「きゃあっ!」
その攻撃を前に、なのはは思わず自らの盾にするようにレイジングハートを差し出す。
と、ガオガイガーが左手を突き出し――
〈Protect-Shead〉
レイジングハートが告げると同時――左手に発生したエネルギーの渦『プロテクトシェード』がEI-02の光線を受け止める。
しかも、ただ受け止めただけではない。受け止めたエネルギーを偏向し、五芒星の形にまとめ上げるとEI-02に向けて撃ち返す!
だが、EI-02には通じない。バリアシステムに阻まれてダメージにはならない。
「攻め続けて! 反撃を許したらダメだ!」
「は、はい!」
クロノの言葉に答え、なのはがレイジングハートをかざすと、ガオガイガーも同様に右手を頭上へかざし――その右腕が、側面の噴射口から噴出された推進ガスによって高速回転を始める。
そして、なのははレイジングハートをEI-02に向けてかまえ、狙いを定める。
〈Broken-Magnum〉
「いっけぇっ!」
レイジングハートが告げ、ガオガイガーはなのはの操作に従い、拳を放つように右腕を突き出し――轟音と共に右腕が撃ち出され、EI-02へと飛翔する。
当然、バリアシステムがその一撃を阻むが――放たれた拳『ブロウクンマグナム』はその回転によってバリアを少しずつえぐっていく。
そして、しまいにはバリアを完全にこじ開けEI-02を直撃、その頭部を粉々に粉砕する!
「やったぁ!」
勝った――そう確信し、なのはは思わず声を上げるが、EI-02は平然と身を起こし、身体の他の部分のパーツを寄せ集めて元通りに頭部を再生させてしまう。しかも、そのプロセスに10秒もかかっていない。
「き、効いてないの……?」
せっかくバリアを破っても今度は再生能力――敵の異常とも言える防御力を前になのはがつぶやくと、
「大丈夫!」
そんななのはに、ユーノが告げた。
「レイジングハートをかざして、意識を集中させて!
きっとレイジングハートが教えてくれる……キミの、最強の力を!」
「うん!」
その言葉に、なのははレイジングハートをまっすぐにかまえ――
「――いくよ!」
「ヘル、アンドぉ……ヘブン!」
なのはの叫びに従い、ガオガイガーは両腕を左右に広げ――その右手にブロウクンマグナムの攻撃エネルギー、左手にプロテクトシェードの防御エネルギーが収束していく。
それに伴い、ガオガイガーの動力源『G-Sライド』も出力を上げていき、ガオガイガーの全身がGストーンの放つ緑色の輝きに包まれる。
「ゲル、ギル、ガン、ゴォ、グフォ……」
レイジングハートに『教えられた』呪文をなのはが唱え、ガオガイガーは両手を合わせ――相反するエネルギーの反発で新たな、そして莫大なエネルギーが発生、それはEMトルネードとなってEI-02の動きを封じ込める。
「いっけぇぇぇぇぇっ!」
なのはの咆哮と同時、ガオガイガーは背中のステルスガオーからのバーニア噴射と両足のキャタピラによるローラーダッシュで突撃、EI-02の胸部――中枢核に諸手突きの要領で合わせた両手を叩き込んだ。
とたん、ガオガイガーの手の中で荒れ狂っていたエネルギーが解放、攻撃エネルギーがEI-02の機体を内部からズタズタに引き裂くと同時、防御エネルギーが中枢核を捕獲する。
そして、ガオガイガーはそのまま中枢核を抉り出し――
――ドガオォォォォォンッ!
残されたEI-02の残骸が大爆発を起こした。
爆発が過ぎ去り、そこにはガオガイガーの姿だけがあった。
「なのは、後はジュエルシードの封印を」
「封、印……?」
聞き返すなのはにユーノがうなずき、なのはは彼に促されガオガイガーの外に出る。
そして、ガオガイガーの左腕によじ登ると腕を伝って拳へと移動、しっかりと握られたその中枢核と向き合う。
「どうすればいいの?」
「レイジングハートをかまえて。
今の技と同じように、キミだけの呪文を教えてくれるはず……」
「う、うん……」
ユーノの言葉に、なのははレイジングハートをかまえ――呪文を唱えた。
「リリカル、マジカル!
ジュエルシード、シリアルXXI――封印!」
〈Sealing〉
なのはの呪文にレイジングハートが応え――放たれた波動が中枢核を包み込み、その力を鎮めていく。
そして中枢核は形を変え――それが収まった後には、青色に輝く8面体の結晶体と、ひとりの男の姿があった。
「こ、この人は……?」
「たぶん、ジュエルシードの“力”に取り込まれていたんだろうね」
つぶやくなのはにユーノが応えると、青い結晶体――ジュエルシードはレイジングハートの中枢部へと取り込まれていった。
「さぁ、みんなと合流して、引き上げよう。
この場にいて、この世界の警察の人達にいろいろと聞かれたくないし」
「え? け、けど……」
つぶやき、なのはは自身が降りたことで機能を停止しているガオガイガーへと向き直るが、
「大丈夫。きっとギャレオンを保護してくれていた人達が回収してくれるよ。
それに、キミがレイジングハートを持っている限り、ギャレオンはキミの呼びかけに応えてくれる」
「う、うん……」
そう答えると、なのははその場を離れるべく歩き出した。
(初版:2005/08/21)