「ヘル、アンドぉ……ヘブン!」
なのはの叫びに従い、ガオガイガーは両腕を左右に広げ――その右手にブロウクンマグナムの攻撃エネルギー、左手にプロテクトシェードの防御エネルギーが収束していく。
それに伴い、G-Sライドも出力を上げていき、ガオガイガーの全身がGストーンの放つ緑色の輝きに包まれる。
「ゲル、ギル、ガン、ゴォ、グフォ……」
なのはが呪文を唱え、ガオガイガーは両手を合わせ――相反するエネルギーの反発で新たな、そして莫大なエネルギーが発生、それはEMトルネードとなってEI-05の動きを封じ込める。
「いっけぇぇぇぇぇっ!」
なのはの咆哮と同時、ガオガイガーは背中のステルスガオーからのバーニア噴射と両足のキャタピラによるローラーダッシュで突撃、EI-05の胸部――中枢核に諸手突きの要領で合わせた両手を叩き込んだ。
とたん、ガオガイガーの手の中で荒れ狂っていたエネルギーが解放、攻撃エネルギーがEI-05の機体を内部からズタズタに引き裂くと同時、防御エネルギーが中枢核を捕獲する。
そして、ガオガイガーはそのまま中枢核を抉り出し――
――ドガオォォォォォンッ!
残されたEI-05の残骸が大爆発を起こした。
「お疲れ、なのは。
後は封印だね」
「うん」
ユーノに答え、なのははガオガイガーから降りてレイジングハートをかざす。
「リリカル、マジカル!
ジュエルシード、シリアルXX、封印!」
第4話
「新たな仲間なお友達なの」
ユーノとの出会い、そしてEI-02との遭遇から早2週間――すでにGGGの手には5つのジュエルシードが回収されていた。
EIナンバーもなのはによって05が撃破。まだまだ不備はあるものの、GGGの体制もなんとか様になってきていた。
とはいえ、魔法のことを除けばなのはもごく普通の小学生なので――
「ふえぇ〜〜……」
自室でベッドに倒れ込み、なのはは疲れを吐き出すかのように大きく息をついた。
「大丈夫? なのは」
「さすがに、ちょっと疲れたかも……」
尋ねるユーノになのはが答えると、念輪による通信をつなげていたクロノが告げた。
《まぁ、このところハズレも含めて連日の出動だったから、仕方がないかな、さすがに。
幸い、今日はジュエルシードもEIナンバーも出現の兆候はないし、ゆっくり休むといい》
「え? で、でも……」
「クロノの言う通りだよ、なのは」
なのはの反論をさえぎったのはユーノである。
「この短期間にもう5つも集めたんだよ。上出来だよ。
今日は休息日。ジュエルシード探しもEIナンバー退治もお休みってコトで」
《それに、今日は約束もあるんだろう?》
「う、うん……」
二人の言葉になのはがうなずくと、
「なのはー」
階下から父・士郎が呼んでいるのが聞こえた。
「そろそろ行くぞー」
「はーい!」
同時刻、GGGでは――
「それじゃあ、もう1回だ」
「おう!」
「了解です」
そう告げるクロノに答えたのは、人ではなかった。
彼らの前に止まる消防車と青いクレーン車である。
より正確に言うなら、その内部に搭載された人工知能――GBR-2“氷竜”とGBR-3“炎竜”、それが彼らの名だった。
そして、彼らは忍の指導の下、自身の動力システム「G-Sライド」の出力を上げていく。
が――
「……ダメです。
G-Sライド、『システムチェンジ』可能域まで出力が上がりません」
「そう……
じゃあ、今日はもうここまでにしておきましょうか」
「すみません……」
「いいわよ。焦って回路を焼き切られるよりマシだもの」
氷竜に答え、忍は息をつき、告げた。
「とはいえ、こうもスランプが続くと、AIのアンタ達でも気は滅入るか……
許可とってあげるから、ちょっと外出でもしようか?」
今日は士郎がコーチ兼オーナーを務めるサッカークラブ『翠屋JFC』の試合の日。そこで、なのは達はみんなで試合を応援しようということにしていたのだ。
《これって……この世界のスポーツだよね?》
《うん。そうだよ。
『サッカー』っていうの》
第三者もいるため念話で語りかけるユーノに、なのはは笑顔でうなずく。
そして、なのはがレイジングハートの協力で構築した念話のネットワークでアリサが説明する。
《ボールを足で蹴って、相手のゴールに入れたら1点。
手を使っていいのは、ゴールの前にいるひとりだけ》
《へぇ……面白そうだね》
《そうそう。
すずかなんかすっごく上手なんだよ》
《そ、そんなことないよ、アリサちゃん……》
心の中の会話のため、どちらかと言えば本音が出がちな念話でも、すずかはやっぱり控えめだった。
《それを言うなら、晶さんの方が……》
《せやけどな、すずかちゃん。
このおサル、こないだリフティング失敗して洗濯物の中にボール突っ込ませよったんやで》
《こら、それを言うなっ!》
一方、レンと晶もいつも通りだ。
そんな一同の会話を楽しく聞きながら、なのははユーノに尋ねた。
《ユーノ君の世界には、こういうスポーツとかってないの?》
《あるよ。
といっても、ボクは研究とか発掘ばっかりで、あんまりやってなかったけど……》
《アハハ、わたしと一緒だ。
スポーツはちょっと苦手》
そんなことを話している間にも試合は進み、終わってみれば2-0で翠屋JFCの勝利となった。
この日本は島国でありながら交通は海路よりも陸路に依存し、そのほとんどの都市が道路によってつながった国である。
そしてそれはここ、海鳴市においても例外ではなく、近隣の大都市へと続く大型道路も確かに存在している。
その道路を見下ろせる電柱の上に、人間体となったプリマーダの姿があった。
「フフフ……今日も人間どもの車が行ったり来たり……いいわぁ……」
どうやら彼女は車やそれがもたらすものに格別の愛着があるらしい。さすが車輪を身体のパーツに組み込んだ機械人間ならではというべきか――うっとりとつぶやくと、プリマーダはふと眼下を見下ろし、告げた。
「だから――思う存分走り回ってもいいのよ」
試合の後は士郎がフンパツし、翠屋にてみんなで昼食である。
「え? じゃあ、今日はジュエルシード探しはお休み?」
「うん……さすがに連日じゃ疲れちゃうから、ってユーノくんとクロノくんに言われて……」
聞き返すアリサに答え、なのははチラリとユーノに視線を向ける。
一方、アリサはすずかと顔を見合わせる――が、アリサたちから見ても最近のなのははがんばりすぎだった。休ませてあげたいというユーノ達の配慮には賛成だった。
「だったらさ、ギャレオン洗ってあげようか?
すずかの家ならみんな関係者なんだし、呼び出したって問題ないでしょ?」
「えっと……そこまで飛んでくるので十分問題になると思うんだけど……」
笑顔で提案するアリサに、なのはは苦笑まじりにつぶやき――
――――――
「え――――――?」
ふと気配を感じて顔を上げた。
だが、周囲を見回してもそれらしい兆候はない。
「……今のは……?」
「なのはちゃん……?」
「うん……
なんだか今、ヘンな感じ……みたいなものが……」
声をかけるすずかになのはが答えるが、
「気のせいなんじゃないの?」
そう言い切るのはアリサだった。
と言っても、考えなしに言っているワケではなかった。
「何かあったんなら、ベイタワー基地からクロノくんとかエイミィさんとかが知らせてくれるわよ」
つまり、彼らも異常を感知していない以上、少なくとも当面は大丈夫だということだ。
「だから大丈夫よ。
せっかく今日はお休みって決めたんだから、ゆっくりしなさいよ」
「う、うん……」
アリサの言葉にうなずくなのはだったが――
「気のせい……だよね……」
胸騒ぎは収まらなかった。もう一度周りを見回すが――試合でキーパーをやっていた少年がマネージャーの少女と連れ立って帰っていくのが見えただけだった。
思えば、この時に気づくべきだったのかもしれない。
少年のポケットから、わずかに魔力が放たれていることに――
「ふえぇ〜〜……」
アリサ達と別れ、家に戻ったなのはだが、やはり疲れているのかそのままベッドに倒れ込んでしまった。
「なのは、寝るならせめて着替えてから……」
「うん……わかってる……」
諌めるユーノに答えると、なのはは気だるそうにムクリと身を起こし、着替えようと服を脱ぎ始める。
「わわわわわっ!?」
一方、それにあわてたのがユーノだ。一応『オトコノコ』である以上、いきなり目の前で着替え始められても困る。あわててなのはに背を向ける。
が、なのははそんなユーノに気づきもしないでパジャマを着込み、
「ユーノくんも、少し休んでおいた方がいいよー……」
そう告げるなり、なのははベッドに倒れ込み――寝息を立て始めるのに1分もかからなかった。
(……やっぱり、慣れないまま魔法を使うのはかなりの負担なんだな……)
「ボクさえ、早く回復できれば……」
つぶやくユーノだったが――こればかりは彼にもどうしようもないことだった。
「平和ねぇ……」
「平和ですねぇ……」
GGG本部基地、そのメインオーダールームで、リンディとエイミィはまったりとそんな会話を交わしていた。
「こちらの監視システムにも異常なし。なのはちゃんからの感知の連絡もなし。
これなら、今日は何事もなくすごせそうですね」
そう告げるエイミィの言葉にはリンディも同意見だった。なのはは魔導師として確かな“力”を持っている。その感覚は確かなものだろう。
ヘタをすれば監視システムよりも頼りにできるかもしれない――そんな思いが彼女達の中にはあった。
なのは達はGGGを、GGGはなのは達を――
互いが、互いに依存していた。
互いが、互いを偶像視していた。
と――監視システムが何かを捕らえた。警告音と共にモニターに情報が表示される。
「どうしたの?」
「幹線道路で事故のようですね。
なのはちゃんからの連絡もないし、ただの交通事故だと思いますけど……」
リンディに答え、エイミィはモニターを切り替え――目を見開いた。
「今日の試合、カッコよかったね」
「オレだけじゃないさ。
他のみんなだって、すごくがんばってた」
マネージャーの少女の言葉に、キーパーの少年は少し照れながらもそう答えた。
顔はそっぽを向いている――が、少年の視線は少女から離れることはない。
(大丈夫――きっと喜んでくれる)
心の中で自分自身を励ますと、少年は赤信号で立ち止まったタイミングを見計らって少女に声をかけた。
「あ、あのさ……」
「ん?」
「これ……」
言って、少年が差し出したのは、8面体状の青い結晶体だった。
「ただの石だとは思うんだけど……きれいだったから」
「これ……私に?」
少女の問いに、少年は顔を真っ赤にしたまま、無言でうなずく。
「……ありがとう」
そんな少年に微笑み、少女は結晶体へと手を伸ばし――光が放たれた。
結晶体はジュエルシードだったのだ。
「――――――っ!?」
その気配を感じ取り、なのははベッドの上で飛び起きた。
ジュエルシードの発動、そして――
「EIナンバーも!?」
EI-06は車をベースにした、下半身を巨大なロードローラーとして形成した半人型タイプだった。幹線道路を自動車を踏みつぶしながら突き進む。
「マズいな……!
アイツ、踏みつぶした車も取り込んで、ますます巨大化しています!」
いつ早く現場に到着し、クロノはGGGのリンディの元へと報告する。
「しかも、逃げ遅れた市民も多い!
たとえファイナルフュージョンしても、このまま戦うのは不可能だ!」
一方、ジュエルシードの発動は周囲の樹木を巨大化させた。一気に成長させ、市の中心部を瞬く間に飲み込んでしまった。
そして――
「いたた……何なのよ、コレ……」
「大丈夫? アリサちゃん」
被害を受けた区画には、なのはと別れた後買い物に訪れていたアリサとすずかの姿があった。
「EIナンバーとジュエルシード、市の中心部と幹線道路……
こうも現場が離れられると、同時に対応するのは難しいわね……」
メインオーダールームで現状を前にして、リンディはめくようにつぶやいた。
と、
〈リンディさん!〉
そこへ、レイジングハートを通じてなのはから通信が入った。
〈今、ジュエルシードの方に向かってます!
EIナンバーの方はどうなってますか!?〉
なのはの問いにリンディが視線を向けるのと、エイミィが焦りの声を上げたのはほぼ同時だった。
「大変です!
EI-06、市街中心部へと移動を開始しました!」
それはつまり――
「狙いは、ジュエルシードと思われます!」
〈なのはさん、ギャレオンはクロノの方へ向かわせ、EI-06の足止めを任せます!
そちらは逃げ遅れた市民の救出、可能ならばジュエルシードの封印を!〉
「はい!」
リンディに答え、なのははビルの屋上へと飛び出し――目の前の光景に愕然とした。
巨大化した木々がビルを薙ぎ倒し、逃げ遅れた人々が幹に巻き込まれている。
「そんな……!
どうして、こんな……!」
「たぶん、人間が発動させちゃったんだ」
つぶやくなのはに答えるのはユーノだ。
「人の思いによる発動は、どんな発動パターンよりも強い力を発揮するから……」
その言葉に、なのはは気づいた。
翠屋で感じた気配――もし、あの時いた誰かがジュエルシードを持っていたのだとしたら――
「えっと……これって、やっぱり……」
「ジュエルシードのせい、だよね……」
巨木に荒らされた街を見回し、アリサはすずかのつぶやきにそう答えた。
「やっぱり、さっきなのはちゃんが感じたのって……」
「だよね、やっぱり……
気のせいじゃなかったんだ……」
すずかの言葉に、アリサは思わず視線を伏せた。
「わたしが、あの時なのはを止めちゃったから……こんなことに……!」
だが、そんな感傷にひたっている場合ではなかった。急成長した樹木によって近辺のビルは痛めつけられ、いつ崩壊してもおかしくない状態にある。
「とにかく、今は避難よ。
ここにいたら、なのはのジャマになっちゃう!」
「うん!」
アリサの言葉にすずかがうなずく。
が――すでに遅かった。二人の頭上に傾いていたビルが崩れ、ガレキが二人へと降りそそぐ!
『きゃあぁぁぁぁぁっ!』
彼女達の足では逃げることなどできない。絶対的な『死』を前にアリサとすずかが悲鳴を上げ――
しかし、ガレキは彼女達をとらえなかった。彼女達をそれ、すぐとなりに落下したのだ。
「――――――あれ?」
自分を襲うはずのガレキを前に、アリサが思わず声を上げると、
「アリサちゃん、あれ……」
すずかが見上げた先には、彼女達の真上にクレーンが伸びている。あれがガレキをそらしてくれたのだろうか――?
と――
「すずか!?
それに、アリサちゃんも!?」
クレーン車――氷竜の前で声を上げたのは忍だった。
「ここから先へは、行かせない!」
幹線道路から市の中心部へと向かうEI-06の前には、クロノのフュージョンしたガイガーが立ちふさがった。そのままEI-06へと突進。その巨体を受け止めるが、
《ゾンダァァァァァッ!》
EI-06も負けてはいない。タイヤの基部に新たなアームを生み出し、クロノを殴り倒す!
「クソッ、こんな武器まであるのか……!」
うめいて、クロノが間合いを取って立ち上がると、
〈クロノくん!〉
そこへエイミィから通信が入った。
〈今忍さんから連絡が入って、氷竜と炎竜が市民の救助活動を開始したって!〉
「忍さん達が!?」
〈出先で巻き込まれたらしいわね、どうも。
とにかく、救助が済むまでもうしばらくがんばって!〉
「了解!」
「わたしが、あの時ちゃんと確かめていたら……
こうなる前に、止められたかもしれないのに……!」
目の前で街を飲み込んでいく樹海を前に、なのはは思わずレイジングハートを握りしめた。
だが――今は悔やんでいる時ではない。この事態を収拾すべき時だ。
「ユーノくん……
こういう時は、どうしたらいいの?」
「えっと……基本は今までと同じ。中枢であるジュエルシードを鎮めて、封印すればいい。
けど、これだけ広範囲に発動されると、どうやって探せばいいか……!」
なのはの問いにユーノが答えると、
「大丈夫」
いって、なのははレイジングハートをかまえる。
「そうだよね……レイジングハート」
〈All right〉
なのはの言葉に答え、レイジングハートは彼女に呪文を『教える』。
それに従い、なのはは静かに、だがハッキリと教わった呪文を唱える。
「リリカル、マジカル!
探して、災厄の根源を!」
その呪文に従い、レイジングハートは探索端末“サーチャー”を生成、樹海の各所へと飛ばしていく。
“サーチャー”のとらえた映像は、なのはの脳裏に随時送られてくる。その中からなのははジュエルシードの姿を探し――
「――見つけた!」
異変の中心部――最も大きな大樹の中心に、ジュエルシードとそれを発動させてしまった少年と少女の姿がある。
が――ジュエルシードを目指して飛ぼうとしたなのはの足元が揺れた。
「な、何!?」
思わず声を上げ――なのははようやく気づいた。
EI-06に殴り飛ばされたガイガーが近くのビルに叩きつけられている。戦っているうちに徐々にこちらへと近づいていたらしい。
「クロノくん!? ギャレオン!?」
「大変だ! 向こうも苦戦してる!」
驚くなのはの肩の上でユーノが声を上げた、その時――
〈Go,Master〉
「え――――――?」
自分の行動を促したレイジングハートの言葉に、なのはは思わず疑問の声を上げ――すぐに決断した。
「うん!」
どちらに向かうべきか――聞き返す必要はなかった。
「やってくれるな、まったく……!」
クロノがうめき、ガイガーはビルの中からゆっくりとその身を起こす。
と――
「クロノくん!」
声を上げ、なのはがその眼前に舞い降りた。
「なのは!?
ジュエルシードは!?」
「まだだけど、こっちがここまで近づいてきちゃ、封印どころの騒ぎじゃないよ!
まずはジュエルシードを奪われる前にコイツをやっつけて、すぐにジュエルシードを封印! それでいいでしょ!?」
クロノに答えると、なのははガイガーへと乗り込み、
「リンディさん! ファイナルフュージョンの承認を!
ディバイディングドライバーでフィールドを作らなきゃ――」
しかし、それはEI-06が許さなかった。ガイガーをアームで捕獲し、握りつぶしにかかる。
「冗談じゃない!
こっちはスクラップじゃないってのに!」
うめいて、クロノは必死に抵抗するが、現状を耐えるので精一杯だった。
「ウフフフフ……あの黒いロボットも、合体できなければどうしようもないでしょう」
苦戦するガイガーを電柱の上から見物し、プリマーダは余裕の笑みを浮かべてつぶやいた。
ここでガイガーを倒してしまえばジャマをするものはいない。悠々とジュエルシードを回収し、ついでに『自分達の目的』を果たせばいい。自分はよほど運に恵まれているらしい。
「さぁ、一思いにやっておしまいなさい。
私のカワイイ、プリティホイラーちゃん」
確かに運には恵まれたらしい。だが――少なくとも、彼女はネーミングセンスには恵まれていなかったらしい。
「クッ、このままじゃ……!」
うめいて、なんとか脱出しようとするクロノだったが、EI-06のパワーはすさまじく、いくらもがいてもビクともしない。
(何か手はあるはずだ、何か……!)
自分はともかく、なのはまで危険にさらすワケにはいかない――状況を打開する術を探し、クロノは周囲を見回し――
「――――――っ!?」
視界のすみに現れたものに気づいた。
レスキュー活動を終えた氷竜と炎竜である。
「いっけぇっ!
システムチェンジできなくても、やりようなんていくらでもあるんだから!」
突撃していく氷竜と炎竜をアリサやすずかと共に見送り、忍が声援を送る。
その声援が効いたのかはわからない。が――彼らの体当たりを受けたEI-06は思わずひるみ、わずかながら後退する。
「やったぁ!」
「あと一息!
そのままなのは達を助けて!」
勢いづく氷竜と炎竜を見て、アリサとすずかが声を上げるが、
《ゾンダァァァァァッ!》
EI-06はさらに体当たりをしかけた氷竜達に向けて両腕からエネルギー波動を放射、その進撃を阻むどころかその機体を引き裂きにかかる!
「氷竜! 炎竜!」
思わず声を上げる忍だが、ここからでは彼女にもどうすることもできない。
「くっ……! システムチェンジできなければ、やはりどうしようも……!」
「何か、出力を上げる方法を教えてくれ!」
一方、どうすることもできないのは当人達も同じだった。EI-06のエネルギー波にさらされた状態で、氷竜と炎竜は思わず弱音を吐き――
「何弱気になってんのよ!」
そんな二人を一喝したのはアリサだった。
「アンタ達、“力”があるんでしょ!? だったら根性入れて向かっていきなさいよ!
あたしと違って……向かっていけるんだから!」
そう告げるアリサの目には涙が浮かんでいた。
なのはが異常を感じた時にきちんと確認しておけば防げたかもしれない事態――それを『気のせい』と断定してしまい阻んだのは自分だ。
原因の一端を担いながら、どうすることもできない――そんな無力感が今のアリサを支配していた。
だからこそ――告げる。
「アンタ達……それでもGGGの勇者なの!?」
「そうだ……我々はGGG機動部隊の一員――勇者だ!」
「この程度のことで、くじけていられるか!」
アリサの言葉は、確かに氷竜と炎竜へと届いていた。奮起する彼らの身体に“力”がみなぎる。
自分達の『中心』――G-Sライドに力がみなぎる。
「いくぞ、炎竜!」
「あぁ、氷竜!」
みなぎる“力”の導くままに、叫ぶ。
『システム、チェエェンジ!』
瞬間、姿が変わった。
クレーン車から、消防車から――ロボットへと。
これぞ、彼らの真の姿――今、その名が高らかに名乗られた。
「氷竜!」
「炎竜!」
「フリージングガン!」
咆哮と同時、氷竜が手にした冷凍銃“フリージングガン”から冷凍ビームを発射、EI-06の足を止め、
「メルティングガン!」
炎竜が同型の熱線銃“メルティングガン”から放ったビームでアームを破壊、ガイガーが脱出に成功する。
「クロノ隊長、なのは隊員!
ここは我々が抑えます!」
「早く、ファイナルフュージョンを!」
「う、うん!」
突然自分に加勢した2体のロボットを前に、戸惑いながらもなのははうなずいた。
「リンディさん!」
なのはの言葉にうなずき、リンディは迷うことなく、高らかに宣言した。
「ファイナルフュージョン、承認!」
「了解です。
ファイナルフュージョン、プログラム起動……どうぞ」
リンディの言葉に、ノエルはコンソールを操作。ファイナルフュージョン・プログラムを立ち上げるとエイミィに合図を送る。
「OK!」
そして、エイミィは答えて拳を振り上げ、
「ファイナルフュージョン、プログラム――ドラァイブ!」
渾身の力で拳を振り下ろし、プログラムのドライブボタンを保護ガラスごと叩き押す!
「ファイナル、フュー、ジョォォォォォンッ!」
なのはが叫び、ガイガーはその身を翻して高速回転。腰から電磁竜巻『EMトルネード』を噴出してバリアを作る。
その中にガオーマシンが次々に飛び込んでくるとガイガーの周囲を飛び回り、それぞれが合体のための変形を開始する。
まず、ドリルガオーのドリルが機体上部に30度ほどの角度まで起き上がり、姿を見せた内部スペースへと下半身を180度回転させたガイガーの両足が差し込まれて固定、左右に別れて両足に変形する。
続いて、背中に腕が折りたたまれ、腕のあったスペースにライナーガオーが突入して固定される。
ステルスガオーは背中にドッキングし、胸のライオンの補強パーツを脇の下をくぐらせて固定、ボディ周りの合体が完了する。
キュイィィィィィィンッ!
耳障りな音を立て、ステルスガオーのバーニアがスライドし、ライナーガオーから出てきた後腕部とドッキング。拳が回転しながら出てきて前腕部に。
最後に、頭部にフェイスガードが合体し、額の結晶体『Gストーン』とカメラアイが輝く。
システムが起動し、合体を遂げたなのはが咆哮した。
「ガオ、ガイ、ガァァァァァッ!」
「なのは、ディバイディングドライバーを!」
「うん!
レイジングハート!」
〈All right.
Dividing-Driver, Set up!〉
なのはの言葉に、レイジングハートは答えてディバイディングドライバーを形成する。
そして、ガオガイガーはなのはの操作でディバイディングドライバーを装着した。
「よぅし! いくぞ!
戦闘フィールド、形成――」
「待って!」
言いかけたクロノを、なのははなぜか制止した。
「え――――――?」
クロノが疑問の声を上げるが、なのははかまわずに移動、EI-06を中心にその身を配置した。
EI-06と、ジュエルシードを直線で結ぶように。
「どうするんだ? なのは」
「こう、するの!」
クロノに答えると、なのははディバイディングドライバーに左腕のプロテクトエネルギーを込め――突然それを外し、右腕に付け替えた。
「そうか――攻撃に使うつもりか!」
「そういうこと!」
そう。被害がここまで拡大し、しかもEI-06に捕獲されていた間のタイムロスがある以上、もはや悠長に敵を倒してから封印、などということをやっている場合ではない。
EI-06と大樹を、飛び道具系の攻撃で一気に倒す――それがなのはの判断だった。
そのなのはの意思に従い、レイジングハートもまた形を変える。
通常のデバイスモードから、射撃に即した姿――シューティングモードへと。
「――いくよ!」
告げると同時、なのははガオガイガーの右腕を腰だめにかまえ――右腕が高速で回転を始める。
〈Dividing――〉
「マグナァム!」
咆哮と共になのははレイジングハートを振るい、撃ち出された右腕はディバイディングドライバーを装着したまま飛翔――EI-06の額のコアを撃ち抜くとそのまま街を駆け抜け、そのまま大樹を直撃、いともたやすく貫通する。
だが、EI-06のコアはもちろん、ジュエルシードも少年や少女も無傷。力場に包まれたままディバイディングドライバーの先端に留められている――最初に左腕に装着、チャージしたプロテクトエネルギーはこのためのものだったのだ。
後は――
「氷竜、炎竜!」
「了解です!」
「おうよ!」
間髪入れずに放たれたクロノの指示は氷竜達には的確に伝わった。彼らは背中のクレーンや梯子を伸ばすと、EI-06の残骸を彼自身が刻んだ道に沿って押し返していく。
そして、EI-06をそのまま海へと突き落とし――巨大な火柱が上がったのは、それからすぐのことだった。
「街の人達に、迷惑かけちゃったね……」
ジュエルシードを封印し、EI-06のコアを元の人間に戻し――彼女達を送ろうとしたクロノの気遣いを断っての帰り道、なのはは静かにそうつぶやいた。
「そんなことないよ。
なのはは、ちゃんとやってくれてるよ」
肩の上で言うユーノだったが、それでもなのはの表情は晴れない。
だが、無理もない。魔法少女になって、魔法勇者王ガオガイガーの乗り手となって、初めての失敗――それがよりにもよって、こんな大規模な被害をもたらしてしまったのだから。
だから――なのはは静かに夕暮れの空を見上げ、決意した。
『自分なりの精一杯』ではなく、『本当の全力』で――
『ユーノくんやGGGのみんなのお手伝い』ではなく『自分の意思』で――
ジュエルシード集めをしようと。EIナンバーからみんなを守っていこう、と――
――もう、絶対に……こんなことには、ならないように――
(初版:2005/12/04)