GGG本部基地の下層部――その一画に用意されたスペースで、氷竜と炎竜はクロノの指示を今か今かと待ち構えていた。
「これより、『左右合体シンメトリカルドッキング』のシミュレーション訓練を行う。
 二人とも、準備はいいか?」
「もちろんです」
「今日こそは成功させてみせます」
 二人の答えにうなずき、クロノはリンディへと視線を向ける。
「長官、準備完了です」
「そう。じゃあ始めましょうか」
 リンディの言葉と共に、シミュレーションが開始された。
「ノエルさん?」
「氷竜、炎竜、シンパレート・セット」
 リンディに答えるノエルの眼前には氷竜と炎竜、二人のシンパレート値を示すデータが表示されている。
 現在の二人のシンパレート値は100パーセント。
「『左右合体シンメトリカルドッキング』、承認!」
 その言葉を合図に、氷竜と炎竜は大きく跳躍し、
『シンメトリカル・ドッキング!』
 そう叫ぶと同時、それぞれの機体が変形を始める。
 が――
「98、95、82……ダメです。シンパレート数値上がりません」
 ノエルが報告するのに併せるかのように、両者のタイミングが徐々にずれ始める。
 結局、合体体勢に入る頃には完全にタイミングを外していた。ジョイントがかみ合わず、互いの身体を弾き飛ばしてしまう。
「ドッキング失敗」
「損傷確認中……誘爆の可能性はありません」
 報告するノエルのとなりで、忍も二人のダメージを確認し、問題ないことを報告する。
「……仕方ないわね。
 今日のシミュレーションはこれで終了にしましょう」
 芳しくない結果にため息をつき、リンディは一同にそう告げる。
「二人とも大丈夫か?」
「え、えぇ……」
「何とか……」
 二人の身を気遣い、尋ねるクロノに、ロボットモードへと戻った氷竜、炎竜はそう答えながらスキャンセンサーの詰まった頭部を軽く叩き、調子を確かめる。
「くっそぉ、今日こそはうまくいくと思ったんだけどな」
「何にしろ、私と炎竜のシンパレートが上がらなければ合体は無理だ」
「はいはい。
 とりあえずもう一度機体の確認。今日はなのは達が来るから、1時間後に“ビッグオーダールーム”に集合だ」
『了解』
 クロノの言葉にうなずき、二人は顔を見合わせるとその場を後にした。
「……システムチェンジできるようになったと言っても、なかなかうまくいかないものね……」
「でも、彼らなら大丈夫ですよ」
 つぶやくリンディだが、クロノはその不安を打ち消すように告げる。
 だが――すぐに表情を引き締め、告げる。
「まぁ、楽観論はさておき、どちらにしても合体できてもらわないと困りますしね。
 二人がシンメトリカルドッキングを果たした姿、『超竜神』――その姿でなければイレイザーヘッドは使うことはできないんですから……」
「そうね……」
 つぶやき、二人は天井に吊るされたそれへと視線を向けるのだった。

 

 


 

第5話
「その名は超竜神さんなの」

 


 

 

「こんにちはー♪」
 元気にあいさつするなのはを先頭に、アリサ、すずか、そして晶とレンがエレベータから姿を現した。
 レイジングハートを持つなのはに加え、先の戦いにおける氷竜達への激励が認められたアリサやすずか、そして未だ実績こそないものの事情を知っている晶達も特別隊員として迎えられることとなり、本日はその顔見せと今後の方針を話し合う予定になっていたのだ。
「ようこそ、みなさん」
「あの……よろしくお願いします」
 いつもと変わらず笑顔で出迎えるリンディに、アリサが代表して一礼する。
「はい。礼儀正しくて大変よろしい。
 うちの問題児さんにも、見習ってもらいたいものよね……」
「問題児さん……?」
「誰のこと……?」
 リンディの言葉に、なのはとユーノは思わず首をかしげた。
 何度かこのGGG本部に顔を出しているが、特に礼儀に関して対比されるような人はいないと思えるが……
 そんな二人の問いには、エイミィが答えた。
「バックアップ部隊にいるのよ、その『問題児さん』は。
 腕はいいんだけど、ちょっといろいろ、ね……」
「はぁ……そうなんですか……」
 その言葉に正直リアクションに困り、すずかがそううなずくと、
「みなさん、リフトサークルに入ってください」
 そんな一同にノエルが声をかけ、なのは達はリンディに促されてデスクサークルへと向かう。
 一同が『リフトサークル』とやらの内側に入ったのを確認すると、忍はレバーを引き――サークル内のフロアが下降を開始した。
 GGG総司令室メインオーダールームは、そのさらに地下に位置する作戦司令室ビッグオーダールームにリフトダウンする事で直通移動することが可能なのだ。
 だいたい50メートルほど沈んだだろうか――ふいになのは達の視界が開けた。
 ビッグオーダールームに到着したのだ。
 普通の人間用のそれと比べて10倍以上の大きさのデスクに座っているのは氷竜と炎竜。そしてそのデスクの中央にクロノが控えている。
「こんにちな、なのはさん、それにアリサさん、すずかさんも」
「ゥオッス! 晶、蓮飛レンフェイ!」
「こ、こんにちは……」
 あいさつする氷竜と炎竜に、若干気圧されながらもすずかが代表して答える。
 身近なところに自動人形のノエル達がいるが、やはり氷竜達のような大型サイズの、しかも明らかにそうだとわかるロボットからあいさつされるのには、まだ慣れが必要なようだった。

 海鳴から離れた、とある海岸線で、その老人が埠頭に座っていた。
 老人の目の前には座礁したタンカーが1隻。
「オレの船が座礁するなんてよ……」
 老人の手もとにはウィスキーのボトルがあった。
 ウィスキーをそのまま飲んでいるらしい――しかもどうやらかなりの酒量のようだ。
 それほどまでに飲まずにはいられない、そんな理由が彼にはあった。
「だいたい、オートメーションだかなんだか知らねえが、コンピューターなんぞに舵取りさせるからこんな事になるんだ……
 昔は良かったよな。オレと船はいつも一心同体だった。それがある日……」
 ずっと舵を取ってきた自分の船――だが、会社の意向で半ばムリヤリにオートメーション化されられたとたんにこの座礁事故。
 会社はまるで当然のように老人を解雇した。
 そのことを思い出し、老人は苛立ちのままにボトルをあおるが、中からは何も流れてこない。
「なんだよ、空かよ!」
 無造作に空のボトルを後ろに投げ捨て――投げ捨てられたボトルは誰かの足元まで転がって止まった。
 そう――止まった。
 転がる途中の動きそのままで。
 そのまま、転がったボトルは再び踊るように転がり始め、そのまま宙に浮かび上がると老人の手に収まった。
「ほう、あなたが舵を取っていたらあの船は座礁させたりしませんでしたか」
「あん?」
 突然の声に振り向くとそこには水兵のようなセーラー服を来た男がいた。
 人間体となったペンチノンである。

「それでは、これよりジュエルシードを集めようと破壊活動を繰り返す謎の集団、『ゾンダー』への対策会議を始めます」
 メンバーもそろったところで、リンディはそう切り出した。
 『ゾンダー』というのは、咆哮からとって名づけられたEIナンバーの通称である。
「まずは敵ゾンダーについての復習ね」
 エイミィが言うと同時、モニターにCGで描かれた4人の人間が映し出される。
 機界四天王の人間体である。
「ゾンダーの素体となった人達の証言を元に、映像化したものです」
「この4人が人間をゾンダーにするきっかけを作っている『ゾンダリアン』であると推測されます」
「ゾンダリアン?」
 聞きなれない言葉につぶやくアリサ。しかし、すぐにゾンダーから派生させた言葉なのだろうと見当をつける。
 と、モニターが切り替わった後にはCGで描かれたひとつの物体が映し出された。
 その物体の中央には何やら文字のような模様が刻まれている。
 文字は――“Z”。
「この結晶体――名づけて『ゾンダーメタル』を人間の身体に融合させる事で、対象のゾンダー化を行っているようです」
 エイミィが言うと、ノエルがそれを引き継いで話を進める。
「今までゾンダー化した人々には共通点があります。
 内容は人それぞれですが、必ず何らかの形で潜在意識に強い憎しみや悲しみを抱いているのです。
 ジュエルシードの探索と並行して行われているゾンダーロボの破壊活動も、おそらくはこういった負の感情をベースとした行動原理に基づいていると思われます」
「憎しみや悲しみ……負の感情?」
 そう言われて、晶は今までの人達の行動――もちろん事後に聞かされた範囲内のことではあるが――を思い返してみた。

 EI−02になった小宝山金蔵は都庁勤務の出入り業者で、事業に失敗し一家離散。行動原理は『都庁の破壊』。
 EI−03になったボンバー死神は最強のレスラーを目指し、自分より強い者の存在を否定。行動原理はただひたすらに周りのビルを破壊していたことからおそらくは『力の誇示』。
 EI−04となった山野口という男は人生に疲れ、現状からの解放を望んでいた。行動原理は列車に融合してただ走り回っていたことから『自由気ままな行動』――

 以降のゾンダーの行動を考えても、確かに今までのゾンダーにはそういった感情に基づく行動が見られる。
 続いて、今度はジュエルシードを取り込んだゾンダーの核を元の人間に戻すなのはの姿が映し出された。
「なのはちゃんのレイジングハートには、ゾンダーロボの核にされてしまった人を元に戻せる魔法が確認されています。
 通常、この魔法はジュエルシードの封印と同時に発動するケースが多いワケですが、この力については封印と区別して“浄解”と名づける事にしました」
「じょう……かい……?」
 つぶやくように繰り返すユーノに、リンディは静かにうなずき、
「現段階では、機動部隊、及びなのはさんかクロノの搭乗したガオガイガー、それらによる直接攻撃でゾンダーを沈黙させ、最後になのはさんが核に接触し、浄解を行う以外にゾンダーロボに対する対処法はないわ」
 リンディの結論と同時にモニターは暗転する。
「えっと……」
 突然手を挙げ、なのはが口を開いたのはそんな時だった。
「わたし……ジュエルシードだけじゃなくて、ゾンダーさんのことも感じ取れるみたいなんです。なんとなく、ぐらいなんですけど……
 だから、ゾンダーさんがロボットになる前に見つけて、その浄解っていうのをしちゃう、っていうのは……ダメなんですか?」
「機動性の問題を考えると難しいんだ。
 間に合えばそれでいいけど、ヘタをすれば、ロボット化したゾンダーと生身で対峙することにもなりかねない」
 なのはにそう答えるのはクロノである。
「今のところ、浄解の魔法を使えるのはキミだけだ。キミにあまり大きなリスクを背負わせるワケにはいかない」
「でも……」
 クロノの言葉に、なのははクロノを正面から見返した。
 思わず赤面し、視線をそらしかけるクロノだが、なのはの眼に込められた強い意志を感じ、思いとどまる。
「わたし、街があんなになっちゃうの……見てられないんです。
 ディバイディングドライバーがあっても、それでもやっぱり被害は出ちゃうし……」
「それは……確かに、ね……」
 なのはの言葉に、リンディは息をつき、
「確かに、先のEI-06との戦闘では、私達みんなが油断していたために多大な犠牲が出てしまったものね……」
「しかし長官。なのははあくまで『善意の民間協力者』です。
 彼女にあまり負担を強いるのは……」
「クロノの言うことももっとも。
 だからこそ、難しいのよね」
「ですねぇ……」
 クロノの言葉にリンディが言うと、それに忍が相槌を打ち、
「諜報部もなのはちゃん達の護衛につきっきりなくらいですから、ねぇ……」
「ご、護衛ですか!?」
 忍の言葉に、レンは思わず声を上げた。
 忍は明らかに『なのはちゃん“達”』と言っていた。つまりは複数形――なのはだけではなく、自分達にも護衛がついていると思っていいだろう。
 まさか、自分達がそんな大層な立場になっているとは、正直考えていなかった。
「元気を出せ、みんな!」
 言って――突然、炎竜がデスクを叩き、その振動が伝わったリフトサークルでなのはは思わずふらついてしりもちをつく。
 が、炎竜はかまわない。興奮気味になのは達へと告げる。
「キミ達の勇気にボクのAIも震えたぞ!
 クロノ隊長、危険を恐れていては何も出来ません。ここはひとつ、なのはの提案を試してみてもいいんじゃありませんか?」
「いや、それは違うぞ。炎竜」
 だが、それに反論したのは氷竜である。
「何が違う、氷竜!」
「私の計算では、なのはさんの提案には大きなリスクが伴う事は確実だ」
「リスクを恐れて平和を守れるものか!
 確率なんて気迫で補えば良い!」
「……どっかで聞いたようなセリフですね……」
 炎竜の反論につぶやき、忍が視線を向けた先で――リンディはそ知らぬ顔で緑茶をすする。
 だが、そんな彼女達など無視して氷竜と炎竜の論争はヒートアップの一途を辿っていく。
「ロボットのクセに非論理的な発想だな――AIが欠陥品なのではないか?」
「完全同型のAIで、ボクだけが欠陥品なワケがない!
 氷竜こそ単純計算しかできないなら、ソフトの書き換えを行うべきだな」
「失敬な奴だ。
 どうやら余計な追加装備のおかげで熱暴走しかかっているようだな」
「そっちこそ、フリーズシステムでAIが凍っちまっているんじゃないのか?」
 なんだか、もう口論というよりも口ゲンカの域である。
「やれやれ……これじゃまたシンパレートが下がるわね」
「ロボットのくせにケンカするなんてなぁ……」
「かなり人間臭いAIですよね」
「私やファリンにも一応、AIと同種の人工知能が搭載されているのですが……」
 あきれる忍、クロノ、エイミィの言葉に、横からノエルのツッコミが入る。
「でも同じAIに同じソフトをドライブしているんでしょう?
 なのにこんなにも意見が食い違うなんて……」
 すずかがつぶやき――そのとなりでなのははふと気づいた。
 アリサやすずかユーノとも視線を交わし、ゆっくりと振り向いた先で――
「えーっと、なのちゃん達……」
「そろいもそろって、いったい何が言いたいんかな?」
 注目を受けた晶とレンは少し不満げに尋ねる。
 と――突然なのははそれを感じ取った。
 ジュエルシードの気配ではない。これは――
「クロノくん!」
「ゾンダーか!?」

「ぅわぁ……」
 ステルスガオーを装着したガイガーで出動、出現したゾンダーロボを前にしたなのはのもらした感想がそれだった。
 臨海工業地帯に出現したEI-07――それはまさに『天を突く』という形容がピッタリなほどに巨大なものだった。
〈推定300mはあるわね……
 タンカーがベースみたいだけど、よくもまぁ……〉
 GGG基地でもこの様子はモニターしていたらしい。通信ウィンドウの向こうでエイミィはあきれてつぶやき――ふと何かに気づいて分析を進める。
 そしてもたらされた情報は、なのは達にとって衝撃的なものだった。
〈た、大変!
 あのゾンダーロボ、内部にタップリとガソリンを溜め込んでる!〉
「あ、あの中全部に!?」
 驚き、聞き返すクロノにエイミィは沈痛な面持ちでうなずく。
「もし、それを爆発させちゃったら……どうなるの?」
 なのはが尋ねると、それに答えたのはノエルだった。
〈計算上では……半径20km圏内は完全に壊滅します〉
「よ、よかったぁ……事前に気づいて……」
「なのは、合体したらすぐにディバイディングドライバーを」
「うん!」
 クロノの言葉になのはがうなずくと、そこへ忍が声をかけてきた。
〈二人とも気をつけてね!
 今から、氷竜と炎竜を射出するわ!〉

 その頃、出動した三段飛行甲板空母では氷竜、及び炎竜の出撃準備が整えられていた。
 前回のように地上から駆けつけるならともかく、飛行能力を持たない二人は三段飛行甲板空母に搭載された特殊射出システム『ミラーカタパルト』から直接現地に射出される以外、空中から駆けつける方法はないのだ。
「氷竜、スタンバイ」
 忍の指示に従って所定位置に立つ氷竜。
「ミラーコーティングスタート」
 次いで、氷竜の機体とカタパルト内が特殊粒子『ミラー粒子』でコーティングされる。
 このミラー粒子は氷竜に付着したものとカタパルト内に付着したものとで磁石のように互いに反発し合う性質がある。それによって対象を射出する高速リニアカタパルト、それがミラーカタパルトなのである。
 そして――カタパルト内を氷竜が走り射出されると、続いて炎竜もカタパルトから射出された。

 その頃、すでに現地では交戦が始まっていた。EI-07はガイガーに向けてガソリンを吐きつける。
 クロノの操作でガイガーは何とかそれを避けるが、地面に降り注いだガソリンは化学反応を起こしたかのように爆発する。
 ほんの一部でこの威力なのだ。全部が爆発した時の被害はとてつもないだろう。
 そして、それこそがペンチノンの狙いだった――今回はジュエルシードの探索よりもガオガイガー打倒に作戦を絞ってきたのだ。
「攻撃すればたちまち辺りは火の海。手も出せまい。
 今度こそ我らの目的も達成されようぞ。ウィィィィィッ!」

 数秒の飛翔の後、氷竜が現場に到着する。
「………………っ!」
 正確に着地ポイントを算出し、氷竜は周りへの被害を抑えて見事に着地する。
 一方、数秒遅れてやってきた炎竜は――
「うぉわぁぁぁぁぁっ!?」
 着地ポイントを見つけることが出来ず、しかもバランスを取れず墜落。盛大に土煙を巻き上げる。
 付近の建造物への被害がなかったのは不幸中の幸いであろう。
「大丈夫か、炎竜」
「ああ、何とか無事だ」
 氷竜に答え、炎竜は立ち上がり、
「よし。これより消火活動に入る」
「了解!」
 言って、ふたりはEI-07をなのは達に任せて消火活動に入る。
 別に彼女達をほったらかしにしているワケではない。彼らは元々人命救助を目的に作られた機体であり、ガオガイガーが戦闘を、彼らがレスキューを担当する現在の分担が本来あるべき姿なのである。
 ともあれ、氷竜は胸のダイヤルを回し、胸部装甲カバーを開き、
「チェストスリラー!」
 胸から冷気を放ち、周辺の火災を消していく。
 氷竜の胸に装備された『チェストスリラー』はダイヤルで出力を調整し、冷気を放つ事が出来る。それによって消火活動を行い、時には敵を氷づけにする強力な冷気まで出すことが可能となっている。
 炎竜にも同じように『チェストウォーマー』という武器が搭載されているが、彼はレスキューの他消火に特化した氷竜を敵の攻撃から守る護衛としての装備も多い。その一環としてこちらは胸から炎を放つ攻撃専用の武器となっている。
《ゾンダァァァァァッ!》
 しかし、黙って消火活動させるほど、EI-07は優しくない。
 氷竜に向けてガソリンを吐き出す――が、炎竜の持つシールドでその爆発のエネルギーは防がれた。
 いや、『防いだ』というよりは、『吸収された』という方が適切だろうか。エネルギーは炎竜のシールドへと吸い込まれるように消えていく。
 炎竜の持つ、敵のエネルギー攻撃を吸収、プロテクトシェードのように撃ち返す『ミラーシールド』である。
 そう――“撃ち返すのだ”
〈だ、ダメだよ、炎竜!〉
「おっと、そうだった!」
 あわてて止めたのは忍に同行して三段飛行甲板空母に搭乗していたすずかだった。彼女の言葉に炎竜はあわてて狙いを修正、撃ち返されたエネルギーはEI-07の触手のひとつを薙ぎ払うのみに留まる。
 とたん――アリサからの猛烈な説教が襲いかかる。
〈なにやってんのよ、このバカ!
 アイツにうかつに攻撃したら大爆発だって、言われたばっかりでしょうが!〉

「わ、悪かったって……」
 その剣幕にタジタジになりながら答え、炎竜はガイガーを見上げ、氷竜と共に告げる。
「クロノ隊長、なのは!」
「ここは私達に任せて!」
『ファイナルフュージョンを!』
「わかった!」
「はい!」
《ゾンダァァァァァッ!》
 うなずくクロノとなのはに向け、そうはさせじ接近するEI-07――しかし、その足元に炎竜のメルティングガン、そして背中のラダーを兼ねる炎熱ビーム砲メルティングライフルによる攻撃が降り注ぎ、足場を崩されたEI-07はその動きを止められてしまう。
 そんな炎竜と背中を合わせながら、氷竜もフリージングガンと背中のクレーンを兼ねる凍結ビーム砲フリージングライフルの凍結機能を駆使して消火活動していく。
 その息はピッタリと合っている――いつの間にか、先の二人のケンカは消滅していた。

 そしてそれはGGG基地のコンソールにも、二人のシンパレートが少しずつ上昇する形で現れていた。
「氷竜、炎竜のシンパレートが上がっています」
「やれやれ、単純な子達ね……」
「人間より人間らしいかもしれないですね、あの二人は」
 ノエルの言葉にリンディとエイミィがつぶやき――エイミィのコンソールにその信号が届いた。
「長官、ガイガーからファイナルフュージョン要請シグナルです!」
「わかったわ。
 ファイナルフュージョン、承認!」
「了解です。
 ファイナルフュージョン、プログラム起動……どうぞ」
 リンディの言葉に、ノエルはコンソールを操作。ファイナルフュージョン・プログラムを立ち上げるとエイミィに合図を送る。
「OK!」
 そして、エイミィは答えて拳を振り上げ、
「ファイナルフュージョン、プログラム――ドラァイブ!」
 渾身の力で拳を振り下ろし、プログラムのドライブボタンを保護ガラスごと叩き押す!

「ファイナル、フュー、ジョォォォォォンッ!」
 なのはが叫び、ガイガーはその身を翻して高速回転。腰から電磁竜巻『EMトルネード』を噴出してバリアを作る。
 その中にガオーマシンが次々に飛び込んでくるとガイガーの周囲を飛び回り、それぞれが合体のための変形を開始する。
 まず、ドリルガオーのドリルが機体上部に30度ほどの角度まで起き上がり、姿を見せた内部スペースへと下半身を180度回転させたガイガーの両足が差し込まれて固定、左右に別れて両足に変形する。
 続いて、背中に腕が折りたたまれ、腕のあったスペースにライナーガオーが突入して固定される。
 ステルスガオーは背中にドッキングし、胸のライオンの補強パーツを脇の下をくぐらせて固定、ボディ周りの合体が完了する。
 キュイィィィィィィンッ!
 耳障りな音を立て、ステルスガオーのバーニアがスライドし、ライナーガオーから出てきた後腕部とドッキング。拳が回転しながら出てきて前腕部に。
 最後に、頭部にフェイスガードが合体し、額の結晶体『Gストーン』とカメラアイが輝く。
 システムが起動し、合体を遂げたなのはが咆哮した。
「ガオ、ガイ、ガァァァァァッ!」

「なのは、まずはアイツを!」
「バックしてもらえばいいんだよね!?」
 ユーノの指示に的確に意図を読み取り、なのははレイジングハートをかまえ、
「クロノくん、狙いはお願い!
 ブロウクン、マグナァム!」
 彼女の操作とクロノの照準で、ガオガイガーは地面に突き刺すようにブロウクンマグナムを打ち放つ。
 放たれたブロウクンマグナムは地面の中をEI-07に向かっていき、EI-07の足元を叩き割って出現する。
 その一撃は炎竜の攻撃でもろくなっていたEI-07の足元を完全に崩壊させた。バランスを崩し、EI-07は海に落下する。
「今だ、なのは!」
「うん!
 レイジングハート!」
〈All right.
 Dividing-Driver, Set up!〉

 クロノに言われ、なのはとレイジングハートはガオガイガーの左腕にディバイディングドライバーを作り出す。
 そして――
「ディバイディング、ドライ、バァァァァァッ!」
 クロノが咆哮し、ディバイディングドライバーの先端を海に叩きつける。
 その輝きは海面を疾走し――海水を押しのけ、戦闘フィールドを作り出す。
 そして、ディバイディングドライバーを外し、戦闘態勢に入るガオガイガー。が――
「………………あれ?」
 対するEI-07は一向に起き上がる気配はない。というか――
「もしかして……」
「起き上がれない?」
 巨体に加え長身、しかもその巨体に明らかに不釣合いな細い触手――確かに一度転ぶと起き上がるにはずいぶんと難渋しそうな身体ではある。
 EI-02のように部品を組み替えればいいものを、どうやらこのEI-07はそこまで頭も回らないらしい。
「えーっと……やっつけちゃう?」
「そう、しようか……」
 ユーノの言葉にクロノがうなずき、なんだか毒気の抜かれたままなのははレイジングハートをかざした。

「ヘル、アンドぉ……ヘブン!」
 なのはの叫びに従い、ガオガイガーは両腕を左右に広げ――その右手にブロウクンマグナムの攻撃エネルギー、左手にプロテクトシェードの防御エネルギーが収束していく。
 それに伴い、G-Sライドも出力を上げていき、ガオガイガーの全身がGストーンの放つ緑色の輝きに包まれる。
「ゲル、ギル、ガン、ゴォ、グフォ……」
 なのはが呪文を唱え、ガオガイガーは両手を合わせ――相反するエネルギーの反発で新たな、そして莫大なエネルギーが発生、それはEMトルネードとなってEI-07の動きを封じ込める。
 が――そんな中、氷竜は気づいた。
「――いかん!」
〈どうしたんだ、氷竜!?〉
 晶の問いに、氷竜は答えた。
「私の計算ではこのままヘル・アンド・ヘブンで敵の核を抉り出した場合、ヘル・アンド・ヘブンのエネルギーを使い果たしたガオガイガーは一時的に防御力を失う。
 そうなれば……!」
 その言葉に、レンは予想される事態に気づいた。
〈なのちゃん達は、アイツの爆発をまともに喰らってまう!〉
「そうか……!
 爆発による市街地への被害はディバイディングフィールドで防ぐ事が出来るが……」
 炎竜も事態を冷静に見極めた。
「ガオガイガーを守るものは、何もない……!」

 もちろん、なのは達もその可能性には気づいていた。
「だからって、このままほっとけないよ!
 できるだけのことは、やらないと!」
「あぁ!
 ガオガイガーの装甲はなんとかもつはず――後はボク達だ!
 ユーノ、ヘル・アンド・ヘブンはなのはに任せて、ボク達で防御結界を!」
「どれだけ耐えられるかわからないけど……やらないよりはマシ、だしね!」
 口々に言って、なのは達はそれぞれの役目を果たし、ガオガイガーは背中のステルスガオーからのバーニア噴射と両足のキャタピラによるローラーダッシュで突撃する。
〈氷竜、なのちゃん達を助けるんや!〉
〈炎竜、頼む!〉
「言われるまでも――」
「ねぇんだよ!」
 レンと晶に答え、氷竜と炎竜はガオガイガーの元へと走る。
〈なのは! ユーノ!〉
〈なのはちゃん、クロノくん!〉
 アリサとすずかの叫びも交錯する。
 そして――氷竜と炎竜が咆哮した。
「ボク達には!」
「私達には!」
『仲間を見捨てるようなプログラムはありません!』
 その瞬間、二人の心は完全に一致した。
 当然、シンパレート数値は――
「シンパレートが!?」
「氷竜! 炎竜!」
「シンパレート100!」
 それぞれの声がメインオーダールームに響く。
「シンメトリカルドッキング承認!」
 だが、これを喜んでいるヒマはない――すかさずリンディが承認を降す!

『シンメトリカル・ドッキング!』
 咆哮し、氷竜、炎竜は同時に変形を始める。
 背中のラダー、クレーンを分離させると上半身がビークルモードへと変形し、両足もまたビークルモードの運転席へと変形、それがさらに車体下方に倒れ込むように変形する。
 互いに変形を完了し――二人は向かい合うように合体、ひとつのボディとなると氷竜から射出された合体時の頭部が合体する。
 そしてラダーとクレーンはそれぞれの腰に合体、それぞれのガンが運転席部から姿を現した後腕部に合体、拳が現れ両腕となる。
 合体時は合体前と上下逆になる。反転した状態の身をひねって着地すると胸部に炎竜のミラーシールドが合体、胸部装甲となる。
 すべてのシステムが問題なく起動し――彼は自らの名を高らかに名乗った。
「超ぅ竜ぅ神――っ!」

 ヘル・アンド・ヘブンがEI-07をとらえ、核を抉り出す間もなく大爆発が巻き起こる。
 だが――それはフィールドを覆い尽くすことはなかった。突然不自然に渦を巻くと吸い寄せられるように天へと立ち上り、上空へと四散していった。
「ど、どうなったの……?」
「なのちゃん達は、無事なんか……?」
 状況が飲み込めず、アリサとレンがつぶやくと、
「……成功、みたいね……」
 つぶやいた忍の視線の先に、それは姿を現した。
 使い切り、基部のみが残ったイレイザーヘッドを天に向けてかまえる超竜神と、ゾンダー核を抱えたガオガイガーが。

 イレイザーヘッドはGGGがゾンダーロボの大爆発から街を守るために開発していたハイパーツールのひとつであり、巨大な拡散面積と質量を持つ分子を超振動。爆発や電磁波のエネルギーを吸収し大気圏の彼方に吹き飛ばしてしまうものである。
 しかし、そのすさまじい超振動のため、このハイパワーツールは超竜神のパワーがなければ使用することはできない。クロノ達が彼らの合体を心待ちにしていたのはこのためだったのだ。
「超竜神……合体できたのか……?」
「超、竜神……?」
 呆然とつぶやくクロノのとなりでなのはも首をかしげ――気づいた。
「もしかして……氷竜さんと、炎竜さん……?」
「氷竜、炎竜が合体したハイパワーロボット、超竜神――呼び捨てでかまいませんよ、なのは殿」
 呼び方が氷竜の『さん』付けでも炎竜の呼び捨てでもない――どうやら合体すると二人のAIは統合され、独自の思考シークエンスが形成されるようだ。
「よくやってくれた、超竜神」
「隊長、命令を破ってすみません」
「いや、おかげで助かったよ。
 やっぱり、キミのAIは世界最高だぜ」
 謝罪する超竜神にクロノが答えると、そんな彼の頬に突然魔力の塊がぶつけられた。
 放ったのは――
「なのは……?」
「えっと、レイジングハートが勝手に……」
 なのはが答え、二人が見下ろしたレイジングハートはなおも魔力の塊を作り、クロノにぶつける。
 怒りというより子供の抗議のような感じだ。意味するのはおそらく――
「超竜神より下に見られて、怒ってる――?」
「わ、悪かったよ。お前も十分すごいから」
 謝罪するクロノの言葉に、レイジングハートはようやく抗議の攻撃をやめる。
 だが――それで終わりではなかった。
〈クロノ様〉
 突然通信がつながり、展開されたウィンドウ内にノエルが姿を現した。
〈戻られたら私のところまで。
 少しお話がありますので〉
「え、えっと……」
 次々に上がる怒りの声に、クロノは戸惑い――ユーノはため息混じりに告げた。
「……人工知能のみんなを、まとめて敵に回したね」
「ギャレオンが怒ってないのがせめてもの救い、か……」

 次の瞬間、クロノがギャレオンから放り出されたことだけは、一応付け加えておくことにしよう。


 

(初版:2005/12/25)