“それ”が彼方から飛来したのは、本当に突然のことだった。
 一見しただけでは、“それ”が何なのかは判別できない。先端は鋭く細長く、その後方は一回り太くて、いくつもの細長いパーツが束ねられたかのような形をしている。“握りが細かく作りこまれた千枚通し”にも見えれば、“花弁が閉じられた金属製の造花”にも見える。
 そんな形状の“それ”がいくつも、その日の世界の空を駆け抜ける――しかし、その“飛んでいく先”にはある共通点があった。



 そのすべてが、“強き戦士達”の元へと飛翔していたのだ。



   ◇



「はぁぁぁぁぁっ!」
 “それ”が飛来し、地面に突き刺さった“目的地”――その内のいくつかは、今まさに戦いの真っ最中であった。
 ここもそのひとつ――全身を覆う、真っ赤なスーツに身を包んだ青年が、中華風の戦闘服に身を包んだ何人もの戦士達を力ずくで蹴散らしていく。
 彼だけではない。同様の、青一色のスーツをまとう青年、黄色のスーツをまとう少女もまた、中華風の戦士達を華麗な技で、素早い技で打ち倒していく。
 と――
「まったく、いつもいつも、しつこくジャマしてくれるわね」
 そう告げて現れたのは、緑色のチャイナドレス姿の女性だった。三色のスーツの青年達と対峙し、不機嫌そうに言い放つ。
「当たり前よ!
 自分達が強くなるためだけに、他の人達を苦しめるなんて許せない!」
「獣の力は、いいことのためだけに使うべきなんだ!」
「フンッ、バカなことを」
 黄色のスーツの少女、青色のスーツの青年の言葉を、チャイナドレスの女性は鼻で笑い飛ばす。
「愚かで弱い人間達を痛めつけて、何が悪いの?
 悲鳴と絶望こそが、“臨獣拳”にとって最高のエネルギーなのよ」
 言って、女性がその姿を変える――カメレオンを思わせる怪人へと変貌を遂げるが、赤色のスーツの青年は臆することなく対峙し、言い放つ。
「そんなことさせてたまるか!
 お前達なんか、オレ達が“激獣拳”でブッ飛ばしてやる!」



 獣を心に感じ、獣の力を手にする拳法、“獣拳”。
 獣拳に、相対する二つの流派あり。
 ひとつ。正義の獣拳、激獣拳ビーストアーツ。
 ひとつ、邪悪な獣拳、臨獣拳アクガタ。
 闘う宿命の拳士達は日々、高みを目指して学び、変わる!




   ◇



 “それ”が飛来した別の場所でも、戦いは繰り広げられていた。
 一方はきらびやかで、それでも動きやすさを損なっていない装束に身を包んだ五人の少女。
 もう一方は、人の身の丈の二倍、いや三倍はあろうかという仮面をつけた怪物と、それを従える屈強な怪人。
「まったく、いつもいつもしつこいわね!」
「がんばる方向、間違ってると思いますよ!」
 少女達に向け、怪物は流体状の身体の一部を伸ばして攻撃してくる――散開してそれをかわし、赤い髪の少女と金髪の少女が苦言を呈する。
「いくら攻めてきても、“ドリームコレット”は渡さないわ!」
「いい加減、あきらめて手を引いたらどう!?」
「冗談じゃないよ!」
 そして、緑の髪の少女、青い髪の少女が次々に告げる――対し、怪人も負けじと言い返してくる。
「前にも言ったろう! ウチの上司が、その“ドリームコレット”をご所望でね!
 渡さないと言うなら、力ずくでも渡してもらうぞ、プリキュア!」
「誰が渡すものですか!」
 怪人の言葉に、再び一ヶ所に集結した五人の少女、その中央に立つ、桃色の髪の少女が言い放つ。
「ドリームコレットは、ココ達の故郷をよみがえらせるために必要なんだから!
 あなた達ナイトメアになんて、絶対渡さない!」



 この世が闇に覆われんとする時、必ず現れるという伝説の戦士、プリキュア。
 どんな願いも叶うという神秘の宝“ドリームコレット”を巡り、その力を悪用しようとする悪の組織“ナイトメア”と日々闘い続けているのである。




   ◇



「いくぜいくぜいくぜぇっ!」
 そしてまた別の場所で――勢いよく吼えながら、赤いプロテクター付きのスーツに身を包んだ青年が、剣を振りかざしてモグラの怪人に斬りかかる。
〔モモタロス! 突っ込みすぎだよ! 油断しないで!〕
「わかってらぁ!」
 と、そんな彼から、明らかに別人のそれとわかる声がする――その声に答えながら、彼はさらにモグラの怪人へと斬りつける。
「けどよぉ! “鬼退治”からこっち、イマジン退治なんて久しぶりじゃねぇか!
 そりゃ、テンションも上がるってもんよ!」
 言いながらも、斬撃の嵐は止まらない。そんな彼の背後に、別のモグラ怪人が現れて――
「はぁっ!」
 その個体は、乱入してきた青色のカメの怪人によって蹴り倒されていた。
「はい、先輩、油断大敵♪」
「誰が油断してたって!?
 カッコよく振り向きざまにぶった斬ってやるつもりだったんだよ! それをジャマしやがって!」
「おやおや、それはごめんね……っと!」
 軽口を叩き合いながらも、戦うその動きのキレが鈍ることはない――それぞれの獲物のモグラ怪人を、二人は完全に圧倒している。
 そして――
「ふんっ! とぉりゃあっ!」
「イエイイエイッ!」
 黄色のクマの怪人がモグラ怪人を張り手でブッ飛ばし、紫の竜の怪人が軽快なダンスのような動きでモグラ怪人達を翻弄する。
「フンッ、大したことないなぁ!
 もう少し骨のあるヤツはおらんのか!?」
「お前達、倒すけどいいよね! 答えは聞いてない!」
 互いに背中を預け合うとクマ怪人が斧を、竜の怪人が大型の銃をかまえ、それぞれ目の前のモグラ怪人達を薙ぎ払う!



 時の運行を守る仮面ライダー、電王。
 力を貸してくれる怪人、イマジン達と共に、時の運行を乱そうとする悪のイマジン達を相手に日々戦い続けている――




 そして――そんな彼らの元にも、例の飛翔物は飛来していた。



「いくぜ!」

《Full Charge》

 赤いプロテクターの戦士――仮面ライダー電王・ソードフォーム。その身に宿る鬼のイマジン、モモタロスが、腰の変身ベルト、デンオウベルトに変身のキーアイテム、ライダーパスをかざす。
 大技を放つためのエネルギーチャージのためだ。ベルトからの発声に伴い、手にした剣、デンガッシャーにエネルギーが流れ込んでいく。
「俺の必殺技……パートU!」
 モモタロスの宣言と同時、デンガッシャーの刃の部分が撃ち出される――モモタロスの振るう本体の動きに同調、振り回されるように飛翔する刃が、モグラのイマジン、モールイマジン達を蹴散らしていく。
「はぁぁぁぁぁっ!」
「とぉりゃあっ!」
「えぇいっ!」
 さらに、カメのイマジン、ウラタロスの蹴りが、クマのイマジン、キンタロスの斧が、竜のイマジン、リュウタロスの銃撃が、それぞれに相手をしていたモールイマジンをまとめて撃破する。
 もう、健在なモールイマジン達は残っていない――モールイマジン側の全滅、電王側の大勝利である。
「へっ! ま、ざっとこんなもんだな!」
 絵に描いたような大勝利に、モモタロスは上機嫌でデンオウベルトを外した。とたん、スーツが崩れ落ちるように消滅し、中から前髪に赤いメッシュの入った強気そうな少年が姿を現した。
 と、さらにその少年の身体から赤い光のようなものが飛び出すと、実体化して二本角の赤鬼となる。
 彼こそモモタロスの本来の姿。そして――
「ふぅ……みんな、お疲れさま」
 モモタロスが離れたとたんに様子が一変、疲れた様子で息をつく、どこか頼りなさそうにも見える少年こそ、仮面ライダー電王、野上良太郎その人である。
「へっ、俺達にかかればざっとこんなもんよ」
「カイの一味や、この間戦ったオニ一族に比べれば軽い軽い」
 労う良太郎に対し、モモタロスとウラタロスが答える。そして、戦いも終わったことだし、さぁ、帰ろう……というところで、
「…………あれ?」
「ん? どーした、リュウタ?」
 リュウタロスが何かに気づいた。そんな彼の姿に、キンタロスもリュウタロスの見つけたそれを見る。
 例の飛翔物だ。いつの間に飛んできたのか、アスファルトの地面にしっかりと突き刺さっている。
「何だ、こりゃ……?」
「え…………?」
 同じく物体を見るモモタロスの後ろから、良太郎ものぞき込んできて――物体の中央あたりにカメラのレンズらしいものがあるのに気づいた。
「……ボクらを、見てる……?」
 カメラの意味するところに思い至り、良太郎がつぶやき――物体が“開いた”。
 金属の花のつぼみにも見える――その連想は間違いではなかった。今まさに、そのつぼみが花開いたのだ。
 そして、その開いた花から光が放たれて――



 良太郎達は、その場から姿を消した。



   ◇



「コワイナー!」
 咆哮し、流体状の怪物、コワイナーが身体の一部を延ばして攻撃してくるが、
「プリキュア、ミントプロテクション!」
 緑色のプリキュア、キュアミントがバリアを張ってその攻撃をしのぎ、
「プリキュア、ルージュファイヤー!」
「プリキュア、レモネードフラッシュ!」
「プリキュア、アクアトルネード!」
 赤いプリキュア、キュアルージュ、黄色のプリキュア、キュアレモネード、青いプリキュア、キュアアクアの攻撃がコワイナーへと降り注ぐ。
 集中攻撃を受け、コワイナーがたまらずひるんで――
「プリキュア、ドリームアタック!」
 リーダーによるとどめの一撃。ピンクのプリキュア、キュアドリームの放った光の蝶がコワイナーを直撃、本体である仮面を粉砕する。
「くっ、プリキュアめ、またしても……っ!」
 主力であるコワイナーを撃破され、歯噛みするのはナイトメアの幹部ブンビーだ。
 これ以上戦うのは不利と考え、いつものように撤退しようとして――



 彼やプリキュア達もまた光に包まれ、姿を消した。



   ◇



「ハァァァァァッ!」
「ヤァァァァァッ!」
 裂帛の気合と共に、青いスーツのゲキブルー、黄色いスーツのゲキイエローが突撃、連続攻撃を繰り出す――それを、カメレオンの怪女、臨獣カメレオン拳のメレはひとつひとつていねいにさばいていく。
 と、そのメレの姿が消えた。相手の姿を見失い、戸惑うゲキブルーとゲキイエローを不可視の一撃が襲い、吹っ飛ばす。
 これが臨獣カメレオン拳――メレは、カメレオンの保護色のように自分の体表の色を周囲に合わせて変化、姿を消すことができるのだ。
 もっとも――
「でやぁぁぁぁぁっ!」
「きゃあっ!」
 野生のカンを持つこの男には通じなかった。赤いスーツのゲキレッドの体当たりを受け、吹っ飛ばされたメレは保護色も解け、地面を転がる。
「くっ、やってくれるじゃない!」
「お前ら臨獣拳ゾワゾワなんかに、負けてたまるか!」
 うめき、立ち上がるメレにゲキレッドが言い返し――



 彼らを、光が包み込んだ。



   ◇



「…………ん……」
 最初に目を覚ましたのは、キュアドリーム“だった”少女だった。
 そう。『だった』。彼女――キュアドリームこと夢原のぞみはプリキュアへの“変身”も解け、仲間である友人達と共にそこに倒れていた。
「ここは……?」
 周りを見渡すが、見覚えのない場所だ。風景から山、ないし高台の中腹らしいということはわかるが――それだけだ。
 山頂の方には高さ何十メートルもありそうな巨大な阿修羅観音像がそびえ立っているが、あんなものは見たことがない。ここがどこかを特定する材料にはなりそうにはなかった。
「そうだ、みんなは!?」
 と、そこで友人達のことを思い出した。もう一度周りを見回して、ひとりも欠けていないことに安堵して――
「――って、あぁっ!」
「……くっ……」
 ブンビーもまた、非戦闘態――サラリーマン風の男の姿で、少し離れたところに倒れていた。のぞみの上げた声にわずかに反応を見せる。
 倒れているのは彼らだけではない。良太郎達に激獣拳の三人、さらにメレもまた変身が解けた状態で倒れている。
「……イテテ……いったい何だったんだ……?」
 と、ゲキレッドだった青年が目を覚ました。頭を振りながら身を起こして――
『あ』
 ふとのぞみと目が合った。
「誰だ? お前」
「え? あ、えっと……
 あの、夢原、のぞみ……です……」
「のぞみか。
 オレはジャン。漢堂ジャン! 虎の子だ!」
「と、虎……?」
 ゲキレッド――ジャンの自己紹介にはものすごく気になる部分があった。首をかしげ、のぞみは思わず聞き返す。
「……う、う〜ん……」
「あ、大丈夫ですか!?」
 と、続いて良太郎が目を覚ました。額を抑えながら身を起こす彼の姿に、のぞみがあわてて駆け寄る。
「え、えっと……キミは……?」
「あ、私は、夢原のぞみです」
「ボクは……野上良太郎」
 すでに一度ジャンに名乗っているためか、今回はすんなり名乗る――のぞみの自己紹介に、良太郎もまた自分の名前を名乗る。
 と、そんな彼らのやり取りがある種の目覚ましになったか、他のみんなも次々に目を覚ます。
「りんちゃん! うらら! こまちさん! かれんさん!」
「レツ! ラン! 大丈夫か!?」
「くぅ〜……何だったんだよ、今のは……?
 おい、良太郎、大丈夫か?」
 のぞみが、ジャンが、そしてイマジン達の中で最初に起き上がったモモタロスが、それぞれの仲間を助け起こす――その一方で、メレやブンビーもそれぞれ起き上がり、状況を確認しようと周りを見回している。
「ジャン、ここは……?」
「んー……わかんね!」
「のぞみ……いったい何があったのよ……?
 それに、あの人達って……?」
「わかんない。
 気がついたら、あの人達と一緒に、ここに……」
 尋ねるのはゲキブルーこと深見レツ、キュアルージュこと夏木りん――対し、ジャンやのぞみがまだ何もわかっていないことを伝えると、
「み、みんな!」
「ちょっと、あれ見て!」
 自分達のいる足場の端から周囲を見回し、声を上げたのはゲキイエロー、宇崎ランとキュアアクア、水無月かれんだ。
 その呼びかけに、一同は敵味方関係なく二人のもとへと集まって――
「あぁっ! あそこにもたくさんいますよ!」
「あの人達も、私達と同じように……?」
 すぐ下の足場にも、何人もの男達が倒れている――すでに目覚めている何人かが自分達と同じように状況を測りかねているのを見て、キュアレモネードこと春日野うらら、キュアミントこと秋元こまちがつぶやくが、
「そうじゃなくて、もっと先!」
「もっと、先……?」
 かれんの言葉に、良太郎は彼女の指し示す先へと視線を向けて――今度こそ絶句した。
 海に面した港町。
 中華風の街並みと、近代的な、それでいて独特のデザインの高層ビル群が同居した特徴的な風景。
 間違いない。何度もテレビで見たことがある。
 信じられないが、そうとしか考えられない。呆然と、良太郎はつぶやいた。
「ここって、まさか……」



「……香港……!?」

 

 


 

『仮面ライダーディケイドDouble』番外編
(兼『とある魔導師と守護者と時の電車と仮面の戦士達』前日譚)

電王×ゲキレンジャー×プリキュア5
ニチアサヒーロー戦記2007

エピソード・ゲキレンジャー
「デンデン! キュアキュア!
奇跡の香港大決戦!」

 


 

 

「そんな、ここが香港って……」
「ボク達は、一瞬で日本から香港へ飛ばされてきたっていうのか……!?」
 夢でも幻でもない。目の前に広がる光景が大掛かりなハリボテでもない限り、日本にいたはずの自分達は今香港にいることになる――信じられない、しかし否定のしようもない現在の状況に、こまちやレツが呆然とつぶやき、
「……おい、そこのちっこいの。
 本棚がどうしたって?」
「本棚じゃなくて香港ですよ……って、ひゃあっ!?」
 首をかしげるモモタロスに声をかけられたうららが、モモタロスの怪人然とした容姿に驚き、悲鳴を上げる。
 そうなると、他のみんなも当然モモタロス以下イマジン達に気づくワケで――
「あ、赤鬼!?
 アンタまさか、ナイトメアの!?」
「臨獣拳か!?」
「はぁ? なんだよ、そのナンタコスとかリンゴアメとか?
 俺はモモタロスってんだよ! ンなうまそうな名前じゃねぇ!」
「先輩先輩。ナイトメアに、臨獣拳ね――それがどういうものかは、わからないけどね」
 モモタロスを自分達の敵とカン違い、警戒するりんやランに言い返すモモタロスだが、そんな彼に身内ウラタロスからもツッコミが飛ぶ。
 そして、ウラタロスは今にも食ってかからんばかりにケンカ腰のモモタロスに代わってりん達の前に進み出て、
「ごめんね、キミ達。
 驚かせるつもりはなかったんだけど、先輩ってあんなだから。
 けど、安心して。こんな見た目のボクらだけど、別に悪者ってワケじゃないから」
「せやな。
 むしろオレらは、悪いイマジンを退治して回ってる側やしな」
「だよねー♪」
 ウラタロスのていねいな弁明にキンタロスやリュウタロスも同意するが、それでもりん達の疑いの目は晴れない。
 まぁ、所詮自らもイマジンであるウラタロス達の言葉では自己弁護の域を出ない。疑いが晴れないのもやむなし、なのだが――
「うーん、イマイチ信用されてないみたいだね。
 よし、それじゃあ、せっかく香港に来てるみたいだし、飲茶でも楽しみながらゆっくりお互いのことを――」
「結局お前はナンパがしてぇだけじゃねぇか! このスケベガメ!」
 ウラタロスがモモタロスに張り倒された。
「え、えっと……大丈夫だよ。
 みんな、見た目はあんなだけど、いいイマジンだから」
「そもそも、その『イマジン』っていうのが、よくわからないんだけど……」
 ケンカを始めるモモタロスやウラタロスの姿にあわててフォローを入れる良太郎だが、イマジン自体を知らないかれんは訝しげな視線を返すばかりだ。
 どう見ても年上のはずの良太郎が自分の視線に萎縮いしゅくしているのを見て、思わずため息をもらすかれんだったが、
(でも……ウソをつくような人には、見えないのよね……)
 不思議と、それだけは確信できた。
 確かに、五つも年下のかれんに気迫負けしている時点で、彼に“頼りがい”など期待できそうにない。
 しかし――そんな彼でも、なぜか疑う気にはなれなかった。
 彼は信じられる。なぜかそう確信できる――自分でもよくわからない、しかし否定の余地のない安心感を彼から感じる。
 だから――かれんは良太郎を信じることにした。
「……わかりました。
 彼らのこと、信じてみます」
「ありがとう。
 そういえば、自己紹介がまだだったね。ボクは野上良太郎、よろしく」
「水無月かれんです。
 でも……良太郎さん。状況はまだ、何ひとつ解決してませんよ」
「うん……そうだね」
 応える良太郎にうなずき、かれんは真剣な表情で、
「日本にいたはずの私達が、気がついたら香港に……
 ……パスポートなんか持ってきてないわ。これじゃあ密入国じゃない」
「って、今ツッコむところじゃないでしょ、かれんさん!」
 すかさずりんがツッコんだ。となりでこまちもうんうんとうなずいて、
「そうよ、かれん。
 こんなところじゃ、羊かんなんて売ってないだろうし……今日のお茶のお菓子、どうしようかしら……」
「こまちさんも、そうじゃないですからっ!」
「香港か……
 カレー、どんな味付けなんでしょうね?」
「おいしいもの、いっぱいあるんだよね! 食べに行ってみようか!」
「うららものぞみも違ぁぁぁぁぁうっ!
 問題は、どうして私達がここに集められたか、でしょう!?」
「あぁ、そうだな。
 こんなことをしそうなのは……」
 ボケ倒す身内に一通りツッコミを入れたりんにうなずき、レツがにらみつけたのはメレだ。同様に、気を取り直したのぞみ達もまたブンビーをにらみつける。
「ナイトメア! あなた達の仕業ね!」
「はぁ!?
 バカも休み休み言いたまえよ! 海外出張なんて経費のかかるマネを、上が許してくれるはずがないだろう!」
「ならお前か、メレ!」
「何言ってるのよ!?
 あんた達がやったんじゃないの!?」
 のぞみやレツの言葉に、ブンビーやメレがそれぞれ言い返し――



「激獣拳のバカどもに、こんな大それたマネができるワケがない」



 そう答えたのは、その場にいる誰でもなかった。
 と、その場を一陣の風が吹き抜ける――舞い上がる砂塵の中、一同の前に進み出てきたのは、漆黒のマントをまとった屈強な青年だった。
理央りお様♪」
「理央!?
 まさか、あなたも飛ばされてきたの!?」
 青年の登場に、メレの表情がほころび、ランの表情が強張る――その様子に、のぞみ達や良太郎達は青年がメレ側の人間で、ジャン達とは敵対しているのだと把握していた。
「理央ぉっ!」
 と、そんな周りにかまわず動いた者がひとり――咆哮し、ジャンが一直線に理央と呼ばれた青年へと突っ込んでいく。
 対し、理央もそんなジャンを迎え撃とうと拳を放ち――



「――――へ?」



 二人の間に、突然ひとりの女性が現れた。
 そう――今まさに拳を交えようとしていた、二人の間に。
『――――っ!?』
 しかし、放った拳は急には止められない。気づいたもののどうすることもできないジャンや理央の拳が前後から迫り――
「ぅひゃあっ!?」
 とっさに女性が動いた。放った蹴りでジャンの拳を払いつつ、同時に手にしたヌンチャクで理央の拳を絡め取る。
「えぇっ!?」
「――――っ」
 自分達の拳をあっさりと止められ、ジャンと理央が目を見張る――そんな前後の二人を交互に見て、女性は流暢な中国語で、
「獣の如き闘気と身のこなし……獣拳ね?」
「な、何だ、お前!
 ちゃんとわかる言葉でしゃべれ!」
「あぁ、日本人なんだ」
 今度はあっさりと日本語でリアクションが返ってきた。
「私はラオファン。ヌンチャク使いよ」
「オレはジャン! 虎の子だ!」
 名乗る女性、ラオファンに対し、ジャンは先ほどのぞみに名乗った時と同じ言い回しで名乗る。
 そんなジャンにうなずくと、ラオファンが次に話題にしたのは先ほどの拳の応酬についてで――
「でも、あなた達も飛ばされてきたのよね?
 そんな状況でも手合わせ? 同じ獣拳使いみたいだけど」
「フンッ、臨獣拳を激獣拳なんかと一緒にするな」
「そうだそうだ!
 激獣拳は臨獣拳みたいな悪い拳法じゃないぞ!」
「でも、どっちも獣の力で戦うんでしょう? 同じよ」
『違う!』
 意図せずして声をハモらせてしまい、ジャンと理央は顔を見合わせ、同時にフンとそっぽを向く。
「アハハ、息ピッタリ」
「仲いいんだね、二人とも」
 そんな二人の様子にのぞみと良太郎がそうもらして――理央にギロリとにらまれた。
 と、その時――



「ようこそ、香港へ」



 またしても、この場の誰でもない、第三者の声――今度は女性の声だ。
「ここは偉大なるヤン様の庭。
 そして私は、秘書のミランダと言います」
 そう名乗り、現れたのは白銀のチャイナドレスに身を包んだひとりの女性――その手には、みんなをこの場に転送した例の金属花が一輪握られている。
「偉大なる……ヤン?」
「香港……ヤン……
 ……まさか、最近大規模に海外進出を進めている香港メディア王の、あのヤン!?」
 聞き覚えのない名前に首をかしげる良太郎に対し、かれんは件の人物に心当たりがあったようだ、
「みなさんは、ヤン様によって選ばれ、この地に集められたのです。
 世界最強の武術かを決めるべくヤン様が企画された異種武術大会、“乾坤一擲けんこんいってき武術会”の選手として」
「ち、ちょっと待ってください!」
 こちらの困惑にかまわず説明を始めたミランダの言葉に、のぞみがあわてて待ったをかけた。
「そんな大会に、どうして私達が!?
 私達、みんなただの女子中学生で……」
「いえ、あなた方も、立派にこの大会への出場資格をお持ちです。
 ……伝説の戦士、プリキュアであるあなた方も……ね」
『――――――っ!?』
 ミランダの言葉に、のぞみ達の間に緊張が走った。
「……なるほど。
 ボクらのことは調査済みみたいだね――こんな美しいお姉さんに知られているとは、光栄だね」
 一方で納得しつつもナンパに走るのはウラタロス――しかし、ミランダは伸ばしたウラタロスの手をあっさりかわし、
「優勝者には、最大の賛辞と最高の名誉、そして莫大な賞金が与えられます」
 そのミランダの言葉に、突然背後から歓声が上がる――見れば、先ほど下の足場にいた男達がいつの間にか上がってきていた。ミランダに気づき、彼女の話を聞くために上がってきたのだろうが、こうして近くで見ると皆体格のいい、格闘技経験者ばかりであるとわかる。
「なんか、うさん臭いな……どうする?」
「みんな殺気がみなぎってるわ……やるしかなさそうよ」
「かれん……」
「確かに、『出ない』なんて軽々しく言える空気じゃないわね……」
 周囲の熱狂ぶりに対し、あまりにもうさん臭いこの状況にレツやラン、こまちやかれんはどうしたものかとため息をもらす。
「ま、いいんじゃない?
 出場するしかないとしても、勝ち抜かなきゃならない理由があるワケでもなし。
 出るだけ出て、適当に負けてさっさと帰りましょ――変身してればそうそうケガもしないだろうし」
 一方で、疑念を通り越して全否定なことを言い出したのはりんだ。わざと負けてしまえばいいだろうと提案して――
「なお、一回戦を勝ち抜いた勝者の皆さんには、ささやかながら晩餐会の支度を整えておりますので、そちらへの移動をご案内します」
「全力で勝ち上がるよ、うらら!
 香港の珍味が私達を待ってるんだから! 絶対勝つこと! けって〜いっ!」
「はい、のぞみさん!
 きっとおいしいものがいっぱいですよ!」
「っしゃあ! やってやろうじゃねぇか!
 おいっ! プリン山盛り用意しとけよ!」
「オレ達激獣拳のすごさ、見せつけてやるぜ!」
『えいっ、えいっ、おーっ!』
「って、話聞きなさいよ、アンタ達!」
 ミランダの言葉に食いしん坊達のやる気に火がついた。あっという間に意気投合したのぞみ、うらら、モモタロス、ジャンの四人にりんが全力でツッコミを入れるが、
「まったく、あの子達は……
 こんな怪しい大会、出る意味なんかないでしょうに……」
「おやおや、プリキュアともあろう者が怖じ気づいた? 伝説の戦士とやらも大したことないねー。
 その点私は違うよ。優勝して賞金を手に入れれば、我がナイトメアの懐事情も潤うというものだ。
 臆病者はほっといて、サクッと優勝させてもらおうかな? ハーッハッハッハッ!」
「なんですってぇっ!?
 上等よ! やってやろうじゃない! 矢でも鉄砲でも武術の達人でも持ってきなさいっての!」
 そのりんは負けん気に火がついた。バカにしてくるブンビーに、売り言葉に買い言葉とばかりに参戦表明してしまう。
「理央様、どうしますか?」
「この程度で乾きは癒せんが……まぁ、退屈しのぎくらいにはなるだろう」
 一方で、理央とメレも参加することに決めたようだ。特に反対する者もいなくなり、ミランダはうなずき、宣言した。
「それでは、乾坤一擲武術会、開始!」



   ◇



 こうして、なし崩しに参加させられた武術会は開始された。
 しかし、ジャン達やモモタロス達はもちろん、のぞみ達も変身さえしてしまえば相応の実力の持ち主だ。一般の武術家が太刀打ちできるはずもなく、またトーナメントの組み合わせも運良くばらけたため、つぶし合いになることもなく次々に、危なげなく勝ち進んでいく。
 晩餐会に釣られたのぞみキュアドリームうららキュアレモネード、さらにブンビーの挑発に乗ってしまったりんキュアルージュまでもがやる気まんまんで勝ち進んでしまったため、自分達だけ八百長で負けて帰るワケにもいかない、とこまちキュアミントかれんキュアアクアも一回戦を突破。しかし――
「ぅわぁぁぁぁぁっ!?」
 唯一、良太郎だけはそうもいかなかった。対戦相手のプロレスラーに追いかけられ、必死になって逃げ回る。
 変身までして勝ち上がったのぞみ達と違い、最後まで乗り気になれなかった良太郎は変身もせずに試合に臨んでいた。電王に変身さえしてしまえば、イマジンの力を借りていない基本フォーム、プラットフォームでも十分に勝ち上がれる力を発揮できるが、今となってはそんな余裕もない。
「ひゃあっ!?」
 しかし、逃げ回るのにも限界が来た。足をとられて、その場に倒れ込んだ良太郎にプロレスラーが襲いかかる。
「あぁっ! 危ない!」
「良太郎さん!」
 その光景に、観戦していたレツやのぞみが思わず声を上げ――
「ひぃっ!」
「ぬがっ!?」
 再び逃げ出そうと起き上がった良太郎の頭がプロレスラーのアゴを打ち上げた。
 良太郎の頭突き(?)は絶妙なカウンターとなってプロレスラーの脳を揺らす――意識を失い、プロレスラーはその場に崩れ落ちた。
「ホッ、良かった……」
「運に助けられたわね、彼」
 良太郎の勝利に安堵するかれんのとなりでランがつぶやくが、
「『運に助けられた』?
 何言ってんだ、お前」
 ランのつぶやきを聞きとがめ、モモタロスは眉をひそめた。
「逆だよ、逆。
 良太郎は『運に助けられた』んじゃねぇ。『運に見捨てられた』んだよ」
『え…………?』
「良太郎のヤツぁな、こーゆーの好きじゃねぇんだよ。俺と違って、殴り合いとか死ぬほど似合わねぇヤツだからな。
 そんなヤツが、こんな大会で勝ち上がりたいなんて思ってるワケねぇだろ」
「えっと、それって……」
「まさか、“運が悪いから”、勝ち上がって“しまった”ってことですか!?」
 モモタロスの言葉にうららやこまちが冷や汗混じりに聞き返して――試合場の方で歓声が上がった。
 見ると、理央の蹴りを受けた巨漢が大きな放物線を描いて吹っ飛んでいくところだった。
「……強いですね、あの人」
「理央だけじゃない。メレや、さっきキミ達とにらみ合っていた男……ブンビーだったか。彼もすでに一回戦突破を決めている。
 アイツらが負けるはずがないと思っていたが、やはり勝ち上がってきたか……」
 緊張の面持ちでつぶやくりんにレツが答えると、
「あ、ラオファンだ! おーいっ!」
 そんな緊張とは無縁なジャンの声が上がる――試合場でラオファンの試合が始まったからだ。
 相手は良太郎の相手と同様プロレスター。ヌンチャクでけん制するものの、つかまれたら終わりであろうことは想像に難くない。プレッシャーをかけられ、ジリジリと後退していくが、
「ちぃっ!」
「はっ!」
 焦れてつかみかかってきたプロレスラーの腕をかわして、ラオファンは試合場を囲む旗のひとつ、その旗棒の上へと跳び上がる。
 なかなかの身のこなしに、一同の間から感嘆の声が上が――ったのも束の間、
「わっ、わわわっ、ひゃあっ!?」
 バランスを崩して、地面に転落しそうになる。なんとかバランスを保って地面に降り立つが、
「って、えぇっ!?」
 今の落下の際、身に着けていたポーチの肩紐が旗棒に引っかかってしまった。これでは満足に動き回れない。
 当然、対戦相手がそんな好機を見逃すはずもない。身動きのままならなくなったラオファンに襲いかかる。
 対し、ラオファンは旗棒を盾にプロレスラーの腕をかわし、
「えいっ!」



 かきーんっ。(←比喩的表現)



『イヤァァァァァッ!』
 男性陣の叫びで、何が起きたかは推して知るべし。
「ふぅっ」
 うずくまるプロレスラーの頭にヌンチャクで一撃。せめてもの情け、気絶して痛みを忘れろとばかりに意識を失わせ、なんとか一回戦突破を決めたラオファンが息をつく。
「やったな、ラオファン!」
 そんなラオファンをたたえ、ジャンが駆けてくる。応えようと向き直るラオファンだったが、彼女は柱に引っかかったポーチのことを忘れていた。
「きゃあっ!?」
 おかげで、一歩踏み出したとたんに逆にポーチに引っぱられた。その拍子に彼女の手からヌンチャクが離れ、ジャンに向かって飛ぶ。
「あっ……」
 ヌンチャクがジャンの顔面に命中する光景を思い浮かべ、良太郎が思わず息を呑み――
「ほっ、よっ、はぁっ!」
 予想に反し、ジャンはヌンチャクをあっさりキャッチ。それどころか見事に取り回してみせる。
「わぁ、上手……」
「ヌンチャクは、元々ジャンの持ち武器だもの。あのくらいはね」
 歓声を上げるうららにランが答える中、ジャンはラオファンにヌンチャクを返す。
「すごいすごい! ジャンさんすごい!
 私なんて、あんなの絶対ムリですよ!」
「へっ、あのくらい俺だって」
「へへんっ、すごいだろ!」
 興奮するのぞみや対抗意識を燃やすモモタロスに対し、ジャンは誇らしげに胸を張り、
「でも、お前らだってすごかったぞ! ニキニキだ!」
「に、ニキニキ? 何だ、そりゃ?」
「えっと……ニコニコ、とか、そーゆーのですか?」
「おぅっ!」
 首をかしげるモモタロスやのぞみにジャンが答えると、

《勝者の皆様、一回戦突破、おめでとうございます》

 突然のラオファンによるアナウンスが一同に告げた。

《晩餐会の支度が整いました。
 ヤン様のお屋敷へとご案内します》
「待ってました!
 よぅし、食べるぞぉっ! けって〜いっ!」
 ミランダの言葉にのぞみが大はしゃぎ。一回戦を勝ち抜いた面々がゾロゾロと移動していく――と、モモタロスは地面に何か落ちているのに気づいた。
「何だ、こりゃ……?」
 つぶやき、それを拾って――モモタロスは眉をひそめた。



   ◇



「うん、うまい!」
 目の前に並ぶのは豪華な中華料理の数々――肉まんのひとつを頬張り、ジャンはその美味しさに舌鼓を打った。
 彼らがいるのはヤンの屋敷の一角だという大広間。きらびやかな衣装に身を包んだ踊り子達が舞い踊る中の晩餐会だが、ぶっちゃけ“色気より食い気”のジャン達にとっては踊り子などどうでもいいことのようだ。
「ラオファン、のぞみ、モモタロス! これうまいぞ!」
「え? どれどれ?」
「ホントだ、いけるな」
「おいしー♪」
 ジャンの言葉にラオファンが、モモタロスが、のぞみが続く――そんな彼らの姿に、レツやりんは思わず頭を抱えていた。
「アイツら、すっかり仲良くなっちゃって……」
「うさん臭い状況はまるで変わらないってのに、警戒する気まるでゼロね。
 この料理に毒でも入ってたら……とか考えないのかしら」
「ど、毒!?」
「大丈夫ですよ、良太郎さん。
 のぞみ達の平気な様子から考えて、その可能性はたぶんありませんから」
 りんの言葉にギョッとする良太郎にはかれんが答える。
 相変わらずどうにも気が弱いというか頼りないところしか見せない良太郎に、「この人はこの状況を切り抜けられるんだろうか」と不安になるかれんだったが――
「……良太郎のことが心配っちゅう顔やな」
 そんな彼女の心中を見透かした者がいた――鳥一匹まるごと焼いた香草焼きをたいらげていたキンタロスだ。
「心配せんでえぇ。
 良太郎は強い――ただ、その強さがオレらみたいに目に見える形やないっちゅうだけの話や」
「………………?」
「ま、その内わかるやろ。
 オレらの考えてるように、この大会がきな臭い方向に向かってるとしたら……な」
 むしろきな臭い方向に向かっていると確信している――それについてはキンタロスと同意見のかれんだったが、かと言って、良太郎の強さについてはやはり同意しかねるものがある。
 そんなかれんの姿に肩をすくめると、キンタロスは気を取り直してとなりで珍しくおとなしくしている仲間に声をかけた。
「しかし……お前が女の子がいっぱいおる中でナンパせぇへんっちゅうのは珍しいなぁ」
「あ、そういえばそうだね!
 カメちゃん、どうしたの? お腹でも痛いの?」
「そんな、先輩じゃあるまいし」
 キンタロスの指摘に便乗してくるリュウタロスの言葉に、ウラタロスは笑いながら答える。
「ただ、ボクにだって好みってものがあるからね。
 正直タイプじゃないんだよねー、彼女達みたいな“人形”は」
『………………?』



「そういえば……ジャンさん達の使う獣拳って何なんですか?」
 次々に料理を味わいながらも、親睦を深めることも忘れないのはある意味彼女の美徳と言えるだろう――口に含んでいた点心を飲み込むと、のぞみはジャンにそう尋ねる。
「あぁ、獣拳っていうのは、獣の力で戦うすっげぇ拳法なんだ!」
「それは、昼間ラオファンさんも言ってましたけど……他には?」
「んー、他かぁ……
 ……そうだ! こんなのが使えるんだ!」
 のぞみに答え、ジャンは彼女の前で拳を握りしめ――その拳の周りに、揺らめくオーラのようなものが立ち上り始めた。
「わぁ……」
 興味を引かれ、のぞみはそのオーラに向けて自分の手をかざしてみる。
「……あったかい……
 何なんですか? これ」
「これが激気げきだ。
 オレ達はこれを使って、いろんな技を使えるんだ!」
「へぇ……それじゃあ……」
 つぶやき、のぞみは視線を動かし――ブンビーととなり合って座り、「はい、あーん♪」と料理を差し出してくるメレを無視している理央を見た。
「あの、理央さんも……?」
「アイツは違う!
 理央が使ってるのは臨気りんきっていう悪い力だ! 激気とはぜんぜん違う!」
 相変わらず理央に対しては対抗意識むき出しだ。そういえば昼間も顔を見るなり飛びかかっていったっけ――とのぞみが思い出していると、
「皆様、お食事中失礼します」
 言って、ミランダがその場に姿を現した。
「これより、本大会を主催いたしますヤンから、皆様にごあいさつ申し上げます」
 ミランダの言葉を合図に、踊り子達が踊りながら広間の正面に集結する――再び彼女達が輪を広げると、そこにはひとりの老人が姿を現していた。
(あの男が、ヤン……!)
(私達を、ここに集めた人物……)
(なるほど。釣り針のエサだけ掠め取っていくような、食わせ者の目をしてるね)
 現れた老人の姿に、レツの、かれんの、ウラタロスの視線が鋭くなる――が、
「ん。うまい!」
「ですねー♪
 ラオファンさん、これもおいしいですよ!」
 食いしん坊組は黒幕の登場にもおかまいなしだった。ジャンに同意したのぞみが点心のひとつをラオファンに薦めようとするが、
「って、ラオファンさん……?」
 となりの席にラオファンの姿はなく――背後で、扉の閉じるかすかな音が聞こえた。
『………………?』
 少なくとも、ラオファンが突然中座したのは間違いない。顔を見合わせ、ジャンとのぞみはラオファンの後を追って会場を出ていく――そんな彼女達にかまわず、ヤンは会場を見回し、
「まずは、一回戦突破おめでとう、と言っておきましょう。
 武に、闘いに生きる者が永らく追い求めてきた答え――“最強の武術は何か”、その答えが、間もなく示されようとしております!」
 そこまで述べて――ヤンの演説は止まった。否、止められた。
 すぐ脇の皿に盛りつけられたリンゴの山――そこに突き刺さったナイフによって。
「……それがお前の本音か?」
「獣の血がうずいて仕方がないようですな――“黒獅子”理央」
「おっと、私も忘れてもらっちゃ困るね」
 立ち上がる理央に返すヤンの目の前で、件のリンゴの山が吹き飛ばされた。己の拳から放った衝撃波でそれを成したのは、理央のとなりで立ち上がったブンビーだ。
「仕事柄、“同業者”には鼻が利く方でね。
 何を企んでいるのか、何なら言い当ててみせようか?」
 そのブンビーの言葉に――ヤンは不敵な、そして邪悪な笑みを浮かべた。



   ◇



 一方、その頃屋敷の地下にはラオファンの姿があった。
 周囲は地上の邸宅とはまるで無縁にも思える、大がかりな機械類がズラリと並んでいる。この場への入り口には“自家発電室”とあったが、ここまで大規模ではそれも怪しいものだ。もしこれが本当にすべて発電施設なのだとしたら、一都市とまではいかずとも町内のひとつや二つはまかなえるほどの発電能力があることになってしまう。
 しかし、ラオファンはそんな異様な光景の中にあってもまるで動じていなかった。
 なぜなら、彼女には確信があったから。
 すなわち――“それだけの電力を必要とするもの”がここにある、という確信が。
 機械の間に身を潜め、ラオファンは慎重に周囲の様子をうかがい――
「おーい、ラオファン!」
「ラオファンさーん!」
「――――――っ!?」
 いきなりかけられた声は、そんな彼女を驚かせるには十分すぎた。後を追ってきたジャンとのぞみの声に思わず立ち上がり――ごちんっ!とすごい音を立てて頭上のパイプに頭をぶつけていた。
「アイヤ〜っ、いったぁ……っ!」
「だ、大丈夫か!?」
「ラオファンさん!?」
 頭を抱えてうずくまるラオファンの姿に、あわてて駆け寄るジャンとのぞみだったが、
「止まって!」
 そんな二人を、ラオファンは“ヌンチャクを握った手で”制止した。
「あなた達、どうしてここに!?」
「どうして、って……ラオファンさんが出ていくのが見えたから、それで、気になって……」
「そう……
 なら、すぐに引き返しなさい。ここから先は遊びで首を突っ込んでいい世界じゃばらっ!?」
 のぞみの答えに、警告しながら立ち上がるラオファンだったが、再びパイプに頭をぶつけ、その拍子にポシェットも落として中身をぶちまけてしまう。
「あぁっ! やっちゃった!」
「あ〜ぁ、何やってんだ」
「手伝いますよ」
 あわててポシェットの中身を拾い集めるラオファンをジャンとのぞみも手伝ってやる。
 おかげですぐにすべてが拾い集められたが――
「……あれ?」
 そこでラオファンはふと気づいた。その事実を正しく認識するのに伴って、表情がそれまでとは別の理由で強張っていく。
「ない……ない!?」
「ラオファン?」
「え、ウソ!? どこかで落としちゃった!?」
 首をかしげるのぞみや声をかけるジャンにかまっている余裕もない。ラオファンは大あわてでポシェットの中に残っていた私物も放り出して何かを探し始める。
 と――その際新たにぶちまけられた物のひとつを見て、のぞみは目を見張った。
(手錠……!?)
 普通に生活する上ではまるで縁のない代物だ。こんな物を持ち歩くような人間がいるとしたら、のぞみには想像もできないようなアブナイ趣味の持ち主か、もしくは――



「そらよ」



 そんなのぞみの思考を中断したのは、新たに聞こえた第三者の声――同時、ラオファンの私物の山にそれが放られる。
 身分証明書だ――開かれた状態で投げ出された身分証ケース、そのカバーに描かれたマークに、のぞみは見覚えがあった。
 つい先日、みんなでレンタルして見た映画の中に登場したものだからだ――“香港の警察のシンボルマーク”。日本の警察でいうところの、桜の大紋というヤツだ。
「試合場に落としてたぜ。
 なんでまたポリ公が、身分隠してこんな大会に出てんだよ?」
「ポリ公……? おまわりさん?」
 言いながら現れたのはモモタロスだ、彼の言葉に、ジャンも身分証の持つ意味に思い至った。のぞみと二人で顔を見合わせ――
『うっそだぁ』
「本当よ!
 悪かったわね! ちっとも捜査官に見えなくて!」
 明らかに信じていない二人に言い返して、ラオファンは荷物をまとめ終えて立ち上がり、
「それよりも、聞いて。
 あなた達、こんなところにいちゃいけない――すぐに仲間のところに帰って、そして、すぐに屋敷を離れて」
『え…………?』
「あのヤンって男、実はとんでもない悪いヤツなの」



   ◇



「この大会は、差し詰め我々を集めるためのただの口実。
 本当の狙いは別にある」
「本当の、狙い……?」
 思わず聞き返す良太郎にうなずくと、ブンビーはヤンをにらみつけ、
「決まってるじゃないか。
 この手の悪者が企むことといったらただひとつ――」
「そう。
 拳法による、世界征服だ」
 思いの外あっさりと、ヤンはブンビーの言葉を肯定した。
「はぁ? 何言ってんのよ?
 この近代兵器全盛の時代に、素手での世界征服なんてできるワケがないでしょ」
 そんなブンビーとヤンのやり取りに現実的な反論を返すりんだったが、ブンビーはその言葉にため息をつき、
「やれやれ、夢のない子供はこれだから困る。
 我々がドリームコレットを巡って争う間柄だということを忘れたのかね? それと同じことさ」
「つまり……世界を征服できるっていう、何か具体的な根拠がある……!?」
 ブンビーの言葉にこまちがつぶやき――余裕を崩さないヤンの態度が、彼女の結論を言外に肯定していた。



   ◇



『世界征服?』
「えぇ」
 一方、地下でもジャン達がラオファンの口からヤンの野望を知らされていた。
「そんなことができるんですか?」
「そのための力を、ヤンは今まさに手に入れようとしている……」
 思わず聞き返すのぞみに、ラオファンはそう答えた。
「ヤンだって、単純に拳法だけで世界を征服できるなんて思ってない。
 だから、使い手の身体を機械化して、その力を何十倍、ううん、何百倍にも高めることを思いついた……
 そうして強化された機械の拳法家の力は、たったひとりでも一軍に匹敵する――すでに、世界各地の紛争地域で試験モデルが絶大な戦果を挙げているわ」
 真剣な表情で語るラオファンの言葉に、モモタロスの脳裏をふと“ある可能性”がよぎった。
「……おい。
 まさか……“それが原因で”、アイツぁ俺達の存在に気づいたんじゃねぇか?」
「モモタロスさん……?」
「どうしたんだ?」
「いるんだよ。
 俺の知ってるヤツに、そーゆートコにフラッと現れて大暴れして帰っていきそうなヤツが」
 のぞみやジャンに答えて、モモタロスはラオファンに視線を戻して、
「……えぇ、そうよ。
 そのテストモデルは、戦場で仮面ライダーと戦って、敗れているわ。
 何でも、“通りすがりの仮面ライダー”を名乗っていたとか」
「やっぱりアイツかぁぁぁぁぁっ!」
 ラオファンの言葉に頭を抱えた。
「そのこともあって、ヤンは機械人の技術にさらに磨きをかけたわ。
 仮面ライダーやスーパー戦隊、プリキュアにも負けない機械武術を目指して。
 そして完成した究極の機械拳法。それが……」



銘功夫メカンフー



   ◇



「銘功夫?
 ハンッ、そんなものが臨獣拳にかなうワケがないじゃない。バカなジジイ」
「フッ、それはどうかな?」
 ヤンの口から知らされた“銘功夫”の名――それを一笑に付すメレだったが、対するヤンもまた余裕の笑みをたたえたままだ。
「臨獣拳も激獣拳も、己を磨き、高みを目指すことを至高としているが、私に言わせればそんなものはムダな手間以外の何物でもない。
 仮面ライダーやプリキュアも同じだ。わざわざ適格者を見つけてこなければならないなどムダもいいところだ。
 銘功夫の前には、獣拳もプリキュアも仮面ライダーも、皆子供の遊びにすぎん」
 ヤンのその言葉に、コケにされた一同の間に苛立ちの色がよぎり――



 メレが、ミランダに顔面をつかまれ、後頭部から床に叩きつけられていた。



『え………………!?』
 あまりのスピードにまったく反応ができなかった――我関せず、といった様子の理央とブンビーを除く一同の間に緊張が走る。
 中でもメレの動揺は大きかった。組み伏せられた本人ということもあるが――
「バカな……!?
 ただの人間に、こんな力が……!?」
 ミランダの人間離れした怪力を、今まさに味わっているからだ。マウントポジションのように自分をまたいでいるミランダに向けて足を振り上げるが、ミランダはそれをかわしてメレから離れ、ヤンの傍らに降り立つ。
「『ただの人間』……?
 どうやら、ヤン様の話をまだ理解されていないようですね」
 そして、メレにそう言い放ちながら、改めて一同と対峙し、
「ヤン様はおっしゃったはずです。
 銘功夫が、“どういう”武術か」
 その言葉が、合図となった。
 周囲に控えていた踊り子達が衣装をひるがえす――次の瞬間、機械の素顔をさらけ出し、踊り子達は一斉に襲いかかってくる。
「こいつら、みんな機械仕掛けだったのか!」
「サイボーグ――ううん、アンドロイドってヤツ!?」
「なるほど、カメの字が興味持たへんはずや!」
 突然の襲撃をキンタロスと共に冷静にさばくと、レツとランは顔を見合わせ、
『ビースト、オン!』
 宣言と共に、手につけたグローブ状の変身アイテム“ゲキチェンジャー”を握り込む――それに伴い、二人の激気が物質化、スーツとなって装着され、ゲキブルー、ゲキイエローへと変身する。
 一方、りん達も腕に着けた腕時計型の変身アイテム“ピンキーキャッチュ”をかまえ、
『プリキュア、メタモルフォーゼ!』
 光が放たれ、変身――戦うための装束に身を包み、髪型までもが変化。キュアルージュ、キュアレモネード、キュアミント、キュアアクアへとなり、
「いくよ、良太郎!」
「う、うん!
 変身!」

《Rod Form》

 あわてる良太郎にはウラタロスが憑依。電王ロッドフォームへと変身して機械人達を迎え撃つ。
 キンタロスやリュウタロス、そして怪人態へと変身したメレとブンビーもそれぞれに応戦。乱戦となるその場を見渡すと、ヤンはクルリときびすを返して、
「フンッ、せいぜいあがくがいい。
 そして、銘功夫の力を思い知りながら、“我が力となる”がいい」
「――――っ! 待て!」
「逃がさないよ!」
 この場を去ろうとするヤンを追おうとするゲキブルーと電王ウラタロスだったが、
「って、ぅわっ!?」
「ぐっ!?」
 突如乱入してた陰に襲われ、あわてて後退する。
 乱入してきたのは二人の男――黒のスーツにサングラス。いかにも「私はボディガードです」といった風貌だ。
 一方、メレもまた、ミランダの乱入を受けていた。飛び込んできた彼女の打撃を受け止め、押し返す。
「フンッ、最初は私からってこと?
 そんなにご主人様をコケにされたのが頭にきたのかしら?」
「えぇ。
 まずは、生意気言ったあなたから……」
 言って――ミランダのかまえた右手が、一同を香港に転送した機械花と同じ形に変化した。







「むぅんっ!」
「フンッ」
 敵は数に任せて手当たり次第。悠然とかまえていた彼も例外ではなかった――暴れ回るブンビーの傍らで、理央もまた機械人達を蹴散らしていた。
 その力はまさに圧倒的。変身も必要とせず、機械人達を次々に、皆一撃で屠っていく。
 と――



「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」



 よく知る声による悲鳴が上がったのは、そんな時だった。
 見ると、いったい何が起きたのか、メレが人の姿に戻りながらその場に崩れ落ちるところだった。
「メレさんが!?」
「一体、何が……!?」
 思わず声を上げるキュアレモネードとゲキイエローだったが、右手を機械化したミランダは今度はそんな二人へと狙いを定めたようだ。
「レモネード!」
「ラン!」
 とっさにフォローに動こうとするキュアルージュとゲキブルーだが、二人の前には先ほどレツやウラタロスの行く手を阻んだ黒服二人が立ちふさがる。
「『何をしたのか』……そう問いたげですね。
 大丈夫――すぐにわかります」
 そして、ミランダが言い放ち――彼女と黒服達は全身を機械化した。



   ◇



「……あった」
 乱戦となった晩餐会場とは対照的に、地下では静かに事態が動いていた。地下空間の一角にあったとある部屋――その中央に据えられた端末を見て、ラオファンは確信と共につぶやいた。
「何なんだ? このヘンテコな機械は」
「武術家達の持つ、闘うための“力”を集める装置――そのコントロールシステムよ」
「闘うための、“力”……?」
 モモタロスの問いに答えるラオファンの言葉にジャンが首をかしげ――ふとのぞみは気づいた。
「まさか、私達プリキュアの“力”も……?
 ひょっとして、私達が集められたのって!?」
「えぇ。
 プリキュア、スーパー戦隊、仮面ライダー……時の最前線に立って戦うあなた達の持つエネルギーが狙いだったの。
 ヤツはこれに集めたエネルギーを、自分の身体にチャージするつもりなのよ」
 ラオファンが答えた、その時だった。



「その通り」



 そう告げる声が、一同の間に割って入ってきたのは。
「だが、ムダな知識だな――貴様らの命は、ここで終わるのだからな!」
 身がまえる間もなかった。飛び込んできたヤンが、その老体からは想像もつかない身のこなしをもって、その場の四人を次々に当て身で吹っ飛ばす!
「どわぁっ!?
 やってくれんじゃねぇか、このジジイ!」
「あなた達は逃げて!」
 すぐに持ち直し、反撃に出ようとするモモタロスだったが、そんな彼をラオファンが止める。
「犯罪者を逮捕するのは、警察官の私の役目だから!」
「何だ、それ!
 オレも悪いヤツら倒したい! だから戦う!」
「そうですよ!
 大丈夫! 私だってプリキュアなんだから!」
「俺達が狙いだっていうなら、ここでブッ飛ばしてやるぜ!」
 引き下がるよう促すラオファンだったが、それで素直に下がる面々ではない。正義感の強いジャンやのぞみ、ケンカ上等なモモタロスがそれぞれに答える。
 そして、のぞみが自らのピンキーキャッチュをかまえ、
「プリキュア、メタモルf
「させるか!」
「って、わぁっ!?」
 変身しようとしたところでヤンが突っ込んできた。変身を中断され、のぞみはモモタロスやジャンと共にあわててその場を離れる。
「って、お前、変身できなきゃホントに何もできねぇのかよ!?
 もういいから、お前はヌンチャク姉ちゃん守ってろ!」
 そんなのぞみに告げ、モモタロスはジャンと共に再びヤンと対峙する。
「いくぜ、トラ小僧!」
「あぁ!」
 そして、二人はヤンに向けて突っ込んで――



   ◇



「ぅわぁっ!?」
 両手にかまえたゲキトンファーで打ちかかるゲキブルーだったが、ミランダはあっさり防ぐと飛び込んできた彼の着地際、足を払って転ばせ、
「きゃあっ!?」
「ぅわぁぁぁぁぁっ!?」
 ボディガードの男達が変身した機械人に、キュアレモネードとリュウタロスが投げ飛ばされる。
「こんのぉっ!」
「よくもやってくれたわね!」
「泣けるで!」
 ロングバトンモードのゲキトンファーをかまえたゲキイエローが、さらにキュアルージュが、キンタロスが吼え、残りの面々が一斉にミランダ達へと殺到するが、
「フンッ、その程度ですか?」
 ミランダはキュアミント、キュアルージュ、キュアアクアの連続攻撃を余裕でさばき、他の二人の機械人もその頑強なボディでゲキイエローやキンタロス、ウラタロスの攻撃を難なく耐えてしまう。
 そして――
「銘功夫、シーアネモネ拳! 花弁ミサイル!」
「銘功夫、デイティサイダー拳! 水斬鎌みずぎりがま!」
「銘功夫、フライトラップ拳! 蝿取つぶし!」
 ミランダが腕の機械花の花弁を射出。腕の鎌を振るったゲンゴロウ型の機械人と共にプリキュアの三人とゲキイエローを弾き飛ばし、ハエトリソウ型の機械人がウラタロスを捕まえ、キンタロスに投げつける。
 倒れる一同に向け、ミランダが腕の機械花を向け――花開いたその中央、レンズのようなパーツが輝き、ゲキイエロー、ゲキブルーの激気、さらにはプリキュアの力、キンタロスやウラタロスからもエネルギーを奪い取り、吸収していく!
「ウソ……!?
 激気が、吸い取られた……!?」
「私達、プリキュアの力まで……!?」
「さっきメレさんがやられたのも、これだったってワケか……っ!」
「いかがですか?
 これぞ銘功夫、超吸気」
 変身が解け、倒れ込むランやこまち、良太郎の中から弾き出されたウラタロスがそれぞれにうめく中、ミランダが余裕のかまえで言い放ち――
「…………っ、く……っ!」
「……あら?」
 みんなの変身が解けた中、かろうじて変身を保っているキュアアクアがヨロヨロと立ち上がるのに気づいた。
「さすがにこの人数を一度に吸うのはムリがありましたか……
 まぁ、いいでしょう。改めてあなたの力、いただきます。
 ……銘功夫、超吸気!」
 立っているのも精一杯といったようすのキュアアクアに向け、ミランダが技を放ち――
「ぅわぁぁぁぁぁっ!?」
 上がった悲鳴は――キュアアクアの声ではなかった。
「り……良太郎さん!?」
 かろうじてプラットフォームとしての変身を維持していた良太郎が、盾となって超吸気を受けたのだ。
 今度こそ変身が解け、崩れ落ちる良太郎を受け止めようと、キュアアクアは思わず踏み出して――
「かれんちゃん!」
「――――っ!」
 本名で自分を呼ぶ良太郎の声に我に返った。彼の意図を読み取り、
「プリキュア、アクアトルネード!」
 油断していたミランダに向けて必殺技を放った。巻き起こった水流を、ミランダはとっさに防御して耐えしのぐ。
「く…………っ! 悪あがきを!
 今度こそ、すべての気を吸い取ってあげましょう!」
 しかし、力を吸収された状態では決定打にはならなかった。力を使い果たし、変身が解けてその場にへたり込むかれんに対し、ミランダが腕の機械花を開き――



 ミランダの両横を、他の二体の機械人が吹っ飛ばされていった。



 壁に叩きつけられ、機械人達が床に倒れる――振り向くミランダの視線の先で、理央と怪人態のブンビーが悠然と佇んでいた。
「……そういえば、あなた達もいましたね」
 つぶやくミランダに対し、理央はマントを脱ぎ捨てて、
「……臨気、凱装」
 宣言と共に臨気を物質化、鎧として身にまとい、“黒獅子”へと変身する。
「いいでしょう。
 先にあなた達の力から奪ってあげましょう」
「…………フッ」
 対し、ミランダは二人へと狙いを移し――そんな彼女を、ブンビーは鼻で笑い飛ばした。
「余裕ですね。
 この私に勝てるとでも思っているのですか?」
「んー、少し違うな。
 『私が勝てる』んじゃない。『お前が勝てない』んだ」
「くだらない、言葉遊びですね!」
 ミランダがブンビーに言い返し――先ほど吹っ飛ばした二人の機械人が復活、理央とブンビーに襲いかかる!



   ◇



「やぁぁぁぁぁっ!」
「オラぁっ!」
 咆哮し、ジャンとモモタロスが同時に仕掛けるがヤンはそれを余裕で受け流し、
「ぅわぁっ!?」
「のわぁっ!?」
 同時に二人の姿勢を崩し、掌底で吹っ飛ばす!
「くそっ、まだまだ!」
「やってくれるじゃねぇか!」
 それでもすぐに立ち上がり、地を蹴るジャンとモモタロスだったが、やはり二人の拳は受け流され、ヤンを捉えることができない。
「フンッ、その程度か。
 ならばこちらからいくぞ!」
 そして、今度はヤンの方から攻めに転じた。積極的に攻めてくるヤンの掌打に、ジャンもモモタロスも攻撃に出る余裕を奪われ、防戦一方になってしまう。
「どうした!
 守ってばかりでは私には勝てんぞ!」
 そんな二人に、ヤンは防御をこじ開けるべくより強い打撃を繰り出し――
「えぇいっ!」
「ぬっ!?」
 その後頭部に、何かが命中した。
 のぞみの投げつけた、ラオファンのヌンチャクである。
「小娘が!」
 圧倒的優勢の最中に水を差してくれたのぞみの介入に、ヤンの意識が彼女へと向いて――
「“今です、ジャンさん!”」
「――――っ!?」
 のぞみの言葉にヤンが気づく――が、少し遅かった。
「このぉっ!」
 のぞみがヌンチャクを投げたのは攻撃ではなく、そう見せかけた“パス”のため――ヌンチャクを受け取ったジャンがヤンの右手を絡め取り、
「動きが止まりゃあ、こっちのもんよ!」
 もう一方、左手にはモモタロスが組みついた。
『ネェイッ!』
 そして、二人がヤンの両手を背中側にしめ上げ、
「ホゥッ!」
 そこにラオファンが飛び込んだ。取り出した手錠を、ヤンの両手にしっかりとはめる。
「やったぁっ!」
 ヤンの両手は手錠でつながれ、もうろくな抵抗はできないだろう――思わずのぞみが歓声を上げると、
「――――そうか!」
 何に気づいたのか、ジャンが突然声を上げた。
「ネイネイで、ホウホウだ!」
「ね、ネイネイ?」
「ホウホウ……?」
 いきなり飛び出した“ジャン語”に、モモタロスやラオファンが首をかしげるが、
「……それって、今の、ジャンさん達のかけ声……?」
 その“ジャン語”の出所に気づいたのはのぞみだった。
「ジャンさんとモモタロスの『ネイ』とラオファンさんの『ホウ』……
 一緒に力を合わせる、ってことですか?」
「あー……うん! そんな感じだ!
 オレ達、ネイネイでホウホウで勝ったんだ!」
 のぞみに答え、ジャンが改めてうなずいて――
「……フフフ……フハハハハッ!」
 突然、ヤンが笑い声を上げた。



   ◇



「…………ば、バカな……!?」
 目の前の光景は、とうてい信じられるものではなかった。呆然とミランダがつぶやいて――
『弱すぎる』
 ほぼ瞬殺に近い勢いでゲンゴロウ型とハエトリソウ型、二人の機械人をスクラップに変えた理央とブンビーが、声をそろえて言い放つ。
「やれやれ、機械仕掛けというからどれほどのものかと思えば、大したことないねぇ。
 安物のパーツでも使っていたのかな? いかんよ、かけるべきところにはちゃんと金かけないと」
「所詮は機械頼み。臨獣拳の敵ではない」
「く……っ!
 銘功夫、花弁ミサイル!」
 余裕の二人に対し、ミランダは右腕の機械花の花弁を撃ち出すが、
「その技はすでに見せてもらった!」
「そういう技があるとわかっていれば、対処もできるってものだよ!」
 二人には通じない。そのことごとくが叩き落される。
「まだまだ!
 私の花は、もう一輪!」
 だが、ミランダもあきらめてはいない。左腕の機械花からも花弁ミサイルを放とうとかまえ――
「ぐあぁっ!?」
 突然、その左手の機械花が爆発した。さらにその衝撃が呼び水となったか、右の機械花も爆発し、全身にも亀裂が走る。
「い、いったい、何が……!?」
「言っただろう。『お前“が”勝てない』と」
 突然の身体の破壊に驚くミランダに対し、ブンビーは余裕の態度でそう答えた。
「忘れたのかい?
 キミは一撃だけ、プリキュアの攻撃をまともにくらっているだろう」
「――――――っ!?
 さっきの!?」
 ブンビーの言葉に、ミランダは思わず声を上げた。
 彼が言っているのは、おそらくキュアアクアから受けたアクアトルネードだろう。あの一撃だけで、ここまでのダメージを受けていたというのか……
「弱っていたとはいえ、伝説の戦士プリキュアの攻撃だよ?
 我々ナイトメアを幾度となく退けてきたその威力――ガードしようが命中は命中。真っ向から受けてタダですむはずがないだろうが」
「お、おのれ……っ!」
 ブンビーの言葉に、ミランダがうめく。最後のあがきとばかりにかまえ、飛びかかり――
「リンギ、剛勇吼波ごうゆうこうは!」
 理央によるとどめの一撃。彼の放った臨気が獅子を形作るとミランダへと襲いかかり、打ち据え、ブッ飛ばす!
「ぐ……ぁ……っ!
 ……ぅあぁぁぁぁぁっ!」
 全身から火花を散らしながら、断末魔の悲鳴――爆発を起こし、ミランダの身体が四散。破片を周囲にまき散らす。
「…………フンッ」
 そんなミランダを一瞥し、理央がメレの方へと向き直った、その時だった。

 ピ――ッ!

「――――――っ!?」
「何だと!?」
 電子音と共に、床に転がるミランダの頭が動いた。頭部の機械花を開き、理央やブンビーからも“力”を吸い取ってしまう!
「そんな……!?」
「理央様!」
 その光景に良太郎やメレが声を上げ――ミランダは取り込んだエネルギーをいずこかへと放出し始めた。
 まるで、“手に入れたエネルギーをどこかに送り届けるように”――



   ◇



「フフフ……フハハハハッ!」
 ミランダがエネルギーを送ったのは彼の元――高笑いを上げるヤンや、彼を警戒するジャン、モモタロス、のぞみ、ラオファンの目の前で、部屋の中央の端末にメッセージが表示される。
 曰く――“蓄積完了”。
 と、突然端末から多数のコードが飛び出してきた。荒れ狂うそれはジャン達を弾き飛ばすと、次々にヤンの身体へと突き刺さっていく。
 ドクンッ。ドクンッ……と、まるで心臓というポンプによって血液が送り込まれていくが如く、ヤンの身体にエネルギーが流し込まれていく――それに伴い、ヤンの腕が、身体が、足が、見る見るうちに機械化していく。
 頭部まで機械化し、全身が機械の身体となり、ヤンは両手の手錠を引きちぎって改めてジャン達と対峙した。
「そ、そんな……!?
 せっかく捕まえたのに!?」
「フフフ……武術家達の最高の“気”を吸収して、ついに私は最強の身体を手に入れた!」
 機械人と化したヤンの姿に思わず後ずさりするのぞみのつぶやきに気を良くしたのか、ヤンは勝ち誇ったかのように言い放つ。
「もう恐れるものは何もない!
 見よ! 銘功夫、アントライオン拳――砂楼閣さろんかく!」
 そして、ヤンがかまえ、技を放つ――とたん、彼の足元の地面が突然砂のように変わり、渦を巻き始める!
 アントライオン――すなわちアリジゴク。ヤンは、アリジゴクをモチーフにした技を使う銘功夫拳士だったのだ。
「きゃあっ!」
「ラオファン!」
 そんなヤンの技に、ラオファンが捕まった。とっさに伸ばしたジャンの手も届かず、砂の渦に飲まれたラオファンはその中心にいるヤンの元まで押し流れていく。
 そして、ヤンが流されてきたラオファンに一撃。吹っ飛ばされたラオファンは、部屋の壁に叩きつけられてしまう。
「ラオファンさん!」
 あわてて駆け寄り、のぞみがラオファンの容態を確認する――息があるのに気づいて安堵する一方で、ジャンは技を解き、流れの止んだ流砂の中から出てくるヤンをにらみつけた。
「……オレ、怒った。
 もう許さねぇ!」
「おぅよ! いくぜ!」
 咆哮し、モモタロスと二人でヤンに立ち向かう――しかし、生身ですら翻弄された相手だ。二人だけではヤンには通じず、その攻撃はあっけなく受け流されてしまう。
「貴様らの攻撃もムダが多すぎる!」
 言い放ち、ヤンはジャン達の後ろに回り込む――あわてて振り向く二人の首を捕まえ、
「ムダのないこの私の身体に、力を託せ!」
 そのまま部屋の壁へと投げつけた。モモタロスが、ジャンが立て続けに叩きつけられ、二人はその衝撃で崩れた壁の下に埋もれてしまう。
「見るがいい!
 ワシの放つ光は、闇をも吹き飛ばす!」
 そう言い放つヤンの言葉と共に、目の前に外の映像が投影される――のぞみがこの地に転送されてきた際に見たあの阿修羅像から光が放たれ、百万ドルの夜景とも言われる香港の夜の街をまるで昼間のように照らし出したのだ。
 だが、映像が街の様子に切り替わり――のぞみは息を呑んだ。
 街の人々が苦しんでいる。まさか――
「……あなた、街の人達からも気を吸い取って!?」
 振り向き、問い詰め――ようとしたが、すでにそこにヤンの姿はない。
「いない……!?
 まさか、外に向かったんじゃ!?」



   ◇



「いいぞ……どんどん気が入ってくる!」
 香港の空を照らし出したことからもわかるように、ヤンのエネルギー吸収システムの本体は件の阿修羅像だった。阿修羅像に集められ、自らの身体に流されてくるエネルギーの強さに、ヤンは満足げにうなずいた。
「このシステムさえあれば、誰が相手だろうが負けはしない! 何しろ、相手は気を吸われ、その分私が強くなるのだからな!
 世界中の人間の気を吸い尽くして、私は最強の存在となるのだ!」
 誰に言うでもなく、高笑いと共にヤンが言い放ち――
「待ちなさい!」
「………………ん?」
 鋭い声に呼び止められ、振り向く――そこには、自分を強くにらみつけるのぞみの姿があった。
「なんだ、貴様か。
 地下で何もできなかった貴様が、今さらどうするつもりだ?」
「もちろん――あなたを止めるのよ!」
 言って、のぞみがピンキーキャッチュをかまえて――



「ちょおっと待ったぁっ!」



 放たれた声が、両者の間に割って入った。



   ◇



 そこは“いつ”でもない、あらゆる時間につながる世界――
 一粒一粒が時間でできているという時の砂漠の中を、一台の列車が走っていた。
 白いボディに黒のアクセントが映える、時の列車、デンライナーである。



「じゃあ、良太郎達は香港に?」
「そのようですねぇ。
 あの不思議な現象の真っ只中にいるようです」
 年端も行かない少女――ハナの問いに答え、紳士風のいでたちをしたデンライナーのオーナーはモニターに映し出された香港の様子へと視線を移した。
「イマジンが関係しているワケではないでしょうが……少なくとも、良太郎くん達が関わっていることは、間違いなさそうです」
「良太郎、またトラブルに巻き込まれたんだ……なんて運が悪いの……!?」
 オーナーの言葉にハナがうめくが、
「果たして……それはどうでしょうか……?」
 対し、オーナーは彼女の言葉に首をかしげた。
「たとえ運が悪くなくても、私は彼はあの場に現れたと思いますがね……」
「それは……そうですけど……」
 オーナーの言いたいことはなんとなくわかった。ため息をつき、ハナはモニターを見た。
「お人よしの良太郎が、あんなところに駆けつけないはずがないですよね……」



   ◇



 一方、日本では――
〈夜の空が昼間のように明るくなり、人々が次々に倒れています。
 香港を襲ったこの怪現象、いったい何が起きているのでしょうか……?〉
「ココ……
 いったいどうなってるココ……?」
「まさか、のぞみ達が消えたことと関係してるナツか……?」
 住宅街の一角、“ナッツハウス”と看板の掲げられたその店の奥では、二体の小動物がテレビを見ながら、人の言葉で会話していた。
 のぞみ達プリキュアのことを知っている――それもそのはず、二人こそのぞみ達をプリキュアとして見出した張本人。異世界パルミア王国の住人、ココとナッツなのだ。
「でも、のぞみ達が関係してるとしたら……」
「ココ」
 しかし、二人に悲嘆の色は見えない――ナッツのそのつぶやきに、ココはうなずいた。
「のぞみ達なら、きっとなんとかしてくれるココ……!」



   ◇



 東京にある、一大スポーツ用品メーカー“スクラッチ”。
 スポーツに携わる者なら知らない者はいないというほどの有名メーカーで、アスリートの育成にも力を注いでいる……しかし、その商品開発にも、アスリートの育成プログラムにも、激獣拳の修行によって培われたノウハウが反映されていることを知る者は関係者くらいのものだろう。
「世界の気が乱れておる……
 とてつもない禍々しい気が、世界を覆い尽くそうとしておる」
 その“関係者”の筆頭――過去に使ったある技の副作用によってネコの獣人にその姿を変えてしまっているマスター・シャーフーは、香港の異変を感じ取ってそうつぶやいた。
「マスター・シャーフー……」
「だが、案ずるな」
 そんな彼に声をかけるのは、彼ら激獣拳のマスター達とスクラッチのパイプ役、真咲美希――彼女の言葉に、シャーフーは落ち着いた様子でそう答えた。
「あの三人の気はあの異変の只中にある……ワシらは、あの三人を信じておればよい。
 そう……激獣拳の真髄をな」



   ◇



「オレ達も戦うぞ、のぞみ!」
「お前だけカッコつけようなんざ、虫がよすぎるんだよ!」
 ヤンと対峙したのぞみにそう言って、彼らは一同の先頭に立ってその場に姿を現した。
「混ぜてもらうぜ、そのケンカ!」
「まだ、オレ達は負けちゃいないぞ!」
「モモタロス……ジャンさんも!?」
 そう。モモタロスとジャンだ――レツやラン、りん達や良太郎とイマジン達と共に、のぞみの周りに駆けつける。
「貴様ら……ミランダに気を吸い取られたはずでは!?」
「バカにするんじゃないわよ!
 ちょっと力を吸い取られたくらいで、へたばってたまるもんですか!」
「力があるとかないとか……そんなの関係ない。
 ボク達ができることをやるだけなんだ。ボクが電王になった時みたいに……っ!」
 一方、彼らのエネルギーを吸い取ったヤンは、一同の復活に驚きを隠せない――戸惑うヤンに対し、りんや良太郎が言い返す。
 そして、のぞみも含めた一同がそれぞれの仲間達で集まり直し、
「ウラタロス、キンタロス、リュウタロス、これ」
 言って、良太郎が取り出したのは三つのライダーパスだ。
「なんだ、良太郎、予備のパス持ってたんじゃねぇか!」
「うん……昼間のイマジンとの戦いの時、オーナーが『今回は敵の数が多いから念のために』って」
 良太郎がモモタロスに答えて、ウラタロス達がそれぞれにパスを受け取る。
「よぅし、いくぜ!
 オレ達、ネイネイでホウホウなんだ!」
「あぁ!
 全員まとめて、最初から最後までクライマックスだぜ!」
「みんな! 変身するよ!」
 ジャンが、モモタロスが、のぞみが音頭を取り、一同がかまえて――



   ◇



「モモタロス、みんな、いくよ」
「おうよ!」
 音頭を取る良太郎に答えて、モモタロスが光の玉に変化、良太郎について身体の主導権を受け取り、
「よっく見とけ!
 俺様達のカッコイイ変身を!」
 言って、ライダーパスをかまえる良太郎モモタロスの腰にデンオウベルトが出現。同じようにパスをかまえたウラタロス達の腰にも同様のベルトが出現する。
 そして、モモタロスが赤の、ウラタロスが青の、キンタロスが黄色の、リュウタロスが紫のボタンを押し込み、
『変身!』
 全員、ベルトのバックルにパスをかざす――瞬間、四人同時にプラットフォームへと変身。その上にそれぞれのアーマーが装着されていく。
 アーマーの装着が完了すると、今度はイマジン達自身が変化した電仮面が装着される――それぞれ桃、カメ、斧、竜のオブジェとして顔面に配置され、仮面へと組み変わって固定される。
 それぞれが変身を終え、モモタロスを筆頭にそれぞれがヤンに向けて決めゼリフを言い放つ。

「俺、参上!」
「お前、ボクに釣られてみる?」
「オレの強さにお前が泣いた!」
「お前、倒すけどいいよね? 答えは聞いてない!」




   ◇



『プリキュア、メタモルフォーゼ!』
 叫んで、のぞみ達五人は左手のピンキーキャッチュで大きく円を描く――と、ピンキーキャッチュのカバーが開き、放たれた光がその軌道上にふりまかれると、それぞれの身体を包みこんでいく。
 その光に触れ、五人の姿が変わっていく――服がプリキュアとしての戦装束に変わり、髪の色やヘアスタイルも変化していく。
 力を解放し終えたピンキーキャッチュのカバーが閉じられ、五人が名乗りを上げる。

「大いなる、希望の力!
 キュアドリーム!」

「情熱の、赤い炎!
 キュアルージュ!」

「はじけるレモンの香り!
 キュアレモネード!」

「安らぎの、緑の大地!
 キュアミント!」

「知性の青き泉!
 キュアアクア!」


『希望の力と未来の光!
 華麗に羽ばたく五つの心!
 
Yes! プリキュア5!』




   ◇



たぎれ! 獣の力!
 ビースト、オン!』

 三人同時に宣言し、その手を合わせる――右手のゲキチェンジャーで左拳のそれを握り込み、ゲキチェンジャーを通じて巻き起こった激気がジャン、レツ、ランの全身を包み込む。
 それは赤、青、黄、三人のシンボルカラーに染め上げられたスーツに変化。最後に頭全体を覆うフルフェイスのマスクが作り出される。
 変身が完了し、ジャン達はそれぞれにヤンに対して名乗りを上げる。

「身体にみなぎる、無限の力!
 “アンブレイカブル・ボディ”――ゲキレッド!」

「日々これ精進! 心を磨く!
 “オネスト・ハート”――ゲキイエロー!」

「技が彩る大輪の花!
 “ファンタスティック・テクニック”――ゲキブルー!」


『燃え立つ激気は正義の証!
 
獣拳戦隊、ゲキレンジャー!』




   ◇



「……って、なんかオレ達、一番名乗りが寂しくねぇか?」
「ま、気にすることないでしょ、先輩。
 要するに、どれだけカッコよく名乗れたか、なんだから……あぁ、ボクがカッコイイのは、生まれつきってことで」
 全員が景気よく名乗りを上げたところで、ツッコまなくていいところにツッコむのはモモタロスだ。苦笑し、ウラタロスは腰に下げた電王の共通装備、デンガッシャーを手に取った。四つあるパーツを手際よく連結させ、自分の愛用するロッドモードへと組み上げる。
 同様に、キンタロスもアックスモードへ、リュウタロスもガンモードへと組み上げる。最後にモモタロスが自分のデンガッシャーをソードモードに組み上げ、ヤンと対峙する戦士達の中に合流する。
「香港の人達、苦しんでる!
 一気にいこうぜ、みんな!」
『おぅっ!』
 そして、ジャンの言葉に全員でヤンに向けて走り出す――プリキュアと電王組に包囲を任せ、先陣を切ってゲキレンジャーの三人がヤンへと仕掛ける。
 突きが、蹴りが、次々にヤンに向けて放たれる――しかし、ヤンには届かない。
 銘功夫の力――ではない。純粋に戦闘技術の賜物だ。三人の攻撃をさばくと、ヤンは腕の一振りで逆に三人を吹っ飛ばす。
 だが、吹っ飛ぶゲキレンジャーに代わり、今度は電王の四人が一斉に仕掛ける。より人数の増えた攻撃に、ヤンも今度は後退しながらの対応を余儀なくされる。
「く……っ! なめるな!」
 モモタロスとキンタロスの斬撃に、ウラタロスの突きに、リュウタロスが至近距離からの銃撃の中に織り交ぜてくる蹴りに、それぞれカウンターを見舞う――が、地面を転がる電王達の脇を駆け抜け、プリキュアの五人がヤンの懐へと飛び込む。
 五人が次々に繰り出す拳や蹴りの前に、さすがのヤンも今までのようにカウンターというワケにはいかない――が、
「ムダだと言うのが……わからんか!」
 それでも反撃の手段は残されていた。全身から衝撃波を放ち、プリキュアの五人を吹っ飛ばし――
「大技に出るのを……っ!」
「待ってたぜ!」
 そこに飛び込んだのはゲキレッドとモモタロス――彼らは闇雲に数に任せて攻めていたのではない。徐々に手数を増やすこちらの攻撃に対しヤンが強引な反撃に出て、大きなスキを作るのを誘っていたのだ。
「ゲキヌンチャク!」
「そら、よっ!」
 ゲキレッドの繰り出したヌンチャクがヤンの全身を打ち据え、さらにモモタロスがソードモードのデンガッシャーでヤンへと斬りつける。そして――
「たぁぁぁぁぁっ! やぁっ!」
 飛び込んできたキュアドリームの拳がヤンの身体を痛打。たまらずヤンが後退する。
「ゲキハンマー!」
 が――逃がさない。ゲキイエローの投げつけた鎖つき鉄球、ゲキハンマーがヤンの片腕に絡みつき、
「ゲキファン!」
 ゲキブルーの放つ、扇型武器、ゲキファンでの連続攻撃がヤンに襲いかかる。
 片腕ではさすがにさばききれず、ヤンが攻撃を喰らって吹っ飛ばされ――
「そいつを、待っとったで!」

《Full Charge》

 その先にはキンタロスが待っていた。フルチャージからのデンガッシャーの一撃。必殺技、ダイナミックチョップの変形バージョンが、ヤンの身体を打ち返す!
「く…………っ!
 調子に、乗るなぁっ!」
 だが、ヤンもやられてばかりではない。全身からミサイルを放ち、一同に向けて攻撃を仕掛けるが、
「させない!
 プリキュア、ミントプロテクション!」
 その前にはキュアミントが立ちふさがった。彼女の防壁が、ヤンのミサイルをことごとく防いでみせる。
「なら、これでどうだ!
 銘功夫、砂楼閣!」
 起死回生のミサイル攻撃を防がれ、ヤンは地下で見せた必殺技に打って出た。地面を流砂の渦に変え、それを広げて一同を飲み込もうとするが、
「厄介だね……少し、止まっててくれるかな!?」

《Full Charge》

 ウラタロスがロッドモードのデンガッシャーにフルチャージし、投げつける――狙い違わず命中したそれは、六角形のエネルギープレートとなり、ヤンの身体をはさみ込んで動きを封じる。ウラタロスのフルチャージ技、ソリッドアタックである。
「大きいの行くよ……いいよね!」
「ま、待て!」
「答えは聞いてない!」

《Full Charge》

 そして、制止するヤンにかまわず、今度はリュウタロスがフルチャージ。放たれた巨大なエネルギー光弾ワイルドショットがヤンを直撃、巻き起こった爆発がヤンを流砂の中から叩き出し、
「プリキュア、ルージュファイヤー!」
「ゲキワザ、転転弾!」
「プリキュア、レモネードフラッシュ!」
「ゲキワザ、瞬瞬弾!」
 キュアルージュ、ゲキブルー、キュアレモネード、ゲキイエローの同時攻撃が追い討ちをかける。
「くっ、くそぉっ!」
 さすがにこれはたまらないと、ついにヤンが逃げの一手に出た。こちらに背を向け、跳躍。離脱を図るが、
「逃がすものですか!
 プリキュア、アクアトルネード!」
 キュアアクアがそれを阻んだ。放った水流がヤンの背中を打ち据え、叩き落とし、
「良太郎さん、今です!」
〔うん!
 モモタロス!〕
「わかってる……よっ!」
 キャアアクアの声に良太郎が答え、ヤンの落下先にモモタロスがすべり込んだ。ソードモードのデンガッシャーを真上に突き上げ、落ちてきたヤンの腹に思い切り突き立てる!
「おらよっ!」
「ぐわぁっ!」
 モモタロスがデンガッシャーを振り回し、ヤンが地面に放り出される――転がるヤンを前に、モモタロスの両隣にゲキレッドが、キュアドリームが並び立つ。
「さて、そろそろ決めるか!
 見せてやるぜ、俺の必殺技……っ!」

《Full Charge》

 宣言し、デンオウベルトにパスをかざす――フルチャージされたデンガッシャーの刃が撃ち出され、モモタロスの操作によって飛翔する。
 モモタロスに操られ、刃はヤンを右から、左から切りつけると一気に上昇。そして――
「パート、U!」
 モモタロスがデンガッシャーを振り下ろした。真上から急降下してきた刃が、ヤンの脳天に叩きつけられる!
 刃に弾き飛ばされ、大地を転がるヤンの前に、今度はキュアドリームが立ちふさがり、
「今度は私よ!
 夢見る乙女の底力、受けてみなさい!
 プリキュア、ドリームアタック!」
 彼女の生み出した光の蝶を、掌で打ち出し、叩きつける――吹っ飛ばされ、ヤンはゲキレッドの前へと叩き出される。
「これでとどめだ!
 ゲキセイバー!」
 咆哮し、ゲキレッドは二振りの刃、ゲキセイバーを取り出し、ヤンに対して連続斬りをお見舞いし、
「双剣合体!」
 咆哮し、刃を重ね合わせて一振りの太刀へと作り変える。
「ゲキセイバー、水流波!」
 二刀流から一刀流へとスタイルを変え、ゲキレッドが斬りつける。それに伴い、ゲキセイバーから巻き起こった水流がヤンの動きを封じ込め、
「ゲキセイバー、波波斬なみなみざん!」
 フィニッシュの一撃。その水流をゲキセイバーに集め、高密度の水の刃に変えたゲキレッドが、ヤンの身体を深々と斬り裂く!
「ぐおぉっ!?
 バカな……この私が、この私が、こんなところで……っ!」
 ゲキレッドの一撃によるダメージは大きく、ヤンが大きく後ずさり。その身体の各所で、みんなから打ち込まれた必殺技の余韻がくすぶっており――
「バカなぁぁぁぁぁっ!」
 それらが一気に炸裂。ヤンを飲み込む大爆発を巻き起こした。
「やったぁっ!」
「ま、ざっとこんなもんよ!
 もっとも、俺ひとりでも十分だったけどなっ!」
 文句なしの大勝利に、喜ぶキュアドリームとモモタロスがハイタッチを交わす――が、
「――待って!」
 爆発の跡を確認したキュアアクアが声を上げた。
「ヤンが……いない!」
「えぇっ!?」
 キュアアクアの言葉に、ゲキイエローがよく見てみれば、確かに爆発の跡、その中心からヤンの姿が消えている――爆散したとも考えたが、それにしては破片がヤンのボディの末端部分のものばかりで、本体の残骸はひとつもない。
 つまり――
「まさか……逃げられた!?」
 ゲキブルーがその可能性を口にした、その時だった。

「フフフ……フハハハハッ!
 これで勝ったと思うなよ!」


 どこからともなくヤンの高笑いが聞こえてくる――同時、地響きを立てて彼らのいる山の山頂、ヤンの闘気吸収システムの要であったあの阿修羅像が震え始める。
 と、その外殻が、まるで内側から破られるかのように崩れ落ちていく――そして姿を現したのは、カモフラージュであった阿修羅像と同じく三対六本の腕を持つ、亜人型の機動兵器だった。
「そ、そんなのアリかぁ!?」
「究極の仕掛けは、最後の最後に待っているのだ!
 見よ! これこそが科学の粋を集めた、銘観音メカンノンだ!」
 思わず声を上げるゲキレッドに対し、銘観音のコックピットで勝ち誇るヤンだったが――
「うっわー、なんて不恰好……」
「色も金ピカ。悪趣味ですねー」
「科学の粋を集めるなら、美学の粋も集めてほしかったわ……」
「やかましいわっ!」
 さすがは今時の女子中学生と言うべきか、プリキュア達からはデザインについてダメ出しの嵐。キュアルージュ、キュアレモネード、キュアアクアに言いたい放題言われてしまう。
「フンッ、だが、そこで何を言おうが、貴様らにこの銘観音は止められまい!
 この私が、全世界に君臨する! 何もかも、この私の前にひれ伏すのだ!」
 だが、すぐに自分の絶対的優位を思い出して余裕を取り戻した。もはや彼女達にかまうつもりもないのか、銘観音は一足飛びに香港の街へと跳び、市街地のド真ん中で暴れ始める。
「ど、どうしよう……!
 いくら私達でも、あんな大きなの……」
「悔しいけど、アイツの言う通り、私達じゃどうしようもないわ……!」
 自分達の攻撃も、あの巨体が相手では通じるかどうか――声を上げるキュアドリームに、キュアアクアは悔しげに自らの拳を握りしめ――
「大丈夫だ!
 ここはオレ達に任せろ!」
 言って、一同の前に進み出たのはゲキレッドだ。ゲキイエロー、ゲキブルーも彼の後に続く。
「いくぞ、レツ、ラン!」
「あぁ!」
「うん!」



   ◇



『ゲキワザ、来来獣!』
 咆哮し、三人が激気を解放――解き放たれた激気は上空で収束し、巨大な獣の姿で実体化する!
「ゲキタイガー!」
「ゲキジャガー!」
「ゲキチーター!」
 それぞれの獣の名を名乗り、ゲキレッド達がその中に取り込まれる――三体の獣、ゲキビーストは一斉に香港の街へと走り、
『ゲキワザ、獣拳合体!』
 三人の宣言を合図に、ゲキビースト達が上空へと跳び上がる。
 そして、ゲキチーターとゲキジャガーが四肢を折りたたみ、それぞれの頭部をつま先とした両足に変形。次いでゲキタイガーも後ろ足をたたむとその身体を起こし、後ろ足を大腿部、前足を両腕とした人型の上半身へと変形する。
 ゲキジャガーとゲキチーターが両足に合体、ひとつとなったゲキビーストの巨人が大地に降り立つと、ゲキタイガーの口が開き、その中から人型の顔が現れる。
 その体内では、コックピットにあたる空間にゲキレッド達三人が集結していた。一糸乱れぬ三人の動きに合わせて、巨人はかまえ、名乗りを上げる。
『ゲキトージャ、Burning up!』



   ◇



「でやぁぁぁぁぁっ!」
 合体を完了し、ゲキトージャが銘観音へと跳ぶ――その顔面に跳び蹴りを叩き込むと、改めて銘観音と対峙する。
「すごいすごい!
 何ナニ? 何なの、アレ!?」
「あれも、激獣拳の力のひとつなの……!?」
「泣けるでっ!」
 まさか、自分達の力を物質化して巨大ロボを作り出してしまうとは――その光景に圧倒され、興奮気味のリュウタロスをよそにキュアミントやキンタロスが声を上げ――

「カッコいい――っ!」

 そんな彼らの耳に、聞き慣れない声が聞こえてきた。

「百万ドルの夜景に映えるあの雄姿! ゲキトージャ対銘観音、歴史的な一線がこの香港を舞台に、ついに、ついに始まろうとしております!」

 そんな、まるで格闘技中継の実況のノリでまくし立てているのは、プリキュア達もよく知る生き物。ただし自分達の知るそれよりもはるかに大きなもので――
「でっかい……」
「ハエ……?」
「あぁ、これは失礼。
 わたくし、激獣フライ拳のバエといいます、はい」
 その姿を発見し、つぶやくキュアルージュやウラタロスに、頭上を飛び回っていた掌ほどの大きさもあるハエはそう答える――よく見ると、完全なハエの姿ではなく、ちゃんと人型をしているのがわかる。
「激獣フライ拳……ハエの激獣拳?」
「はい、その通り!
 昔いろいろあってこんな姿になってしまい、闘うことができなくなりまして……以来、巨大戦を追いかけて幾星霜! こうして実況をもって若き激獣拳の拳士達の戦いを構成に語り継ぐことに情熱を注ぶっ!?」
 ハエという見た目に若干引き気味ながらも、気になるフレーズに問い返すキュアアクアに対して答え――しかし、バエは最後まで告げることはできなかった。
 いきなり背後からの一撃で地面に叩き落とされたからだ。その犯人は――
「まったく、いつもいつも実況実況ってやかましいわね」
「って、メレさん!?」
 そう、メレだ――見れば、ヤンの屋敷に残っていたはずの理央の姿もある。
「どうしますか、理央様?
 ほっといて帰ります?」
 一同にかまわずメレが理央に問うのは、香港の市街を舞台に始まったゲキトージャと銘観音の戦いについてだ。対し、理央は答えることなくただ戦いを見つめて――

「さぁ、両者激突!」

「あ、復活した」
「タフなヤツだなー」
 ゲキトージャと銘観音がぶつかり合ったとたんにバエが立ち直った。ウラタロスやモモタロスがつぶやく中、巨大戦の実況に熱中している。

「銘観音はなんと腕が六本もあります!
 果たしてゲキトージャはこのハンデを克服して勝つことができるのか!?」


 バエの実況が続く中、ゲキトージャは銘観音へと向かっていく――上段の腕からの攻撃を受け止めるが、ガードの開いた腹に中段、下段の四本の腕で立て続けに打撃を叩き込まれてしまう。
 そして、崩れ落ちたところに改めて上段の腕を叩きつけられる――たまらずひざまずいたゲキトージャの後ろに回り込み、銘観音はその六本の腕でゲキトージャを捕まえる!

「おぉっと! やっぱり腕の数が物を言う! ゲキトージャが捕まってしまいましたぁっ!
 これはピンチ! ゲキトージャ、持ち上げられて――」


「くらえ!
 銘観めかん落とし!」

「出たぁっ!
 大技、銘観落とし! これは効いたぁっ!」


 銘観音に投げ落とされて、ゲキトージャがビルのひとつに叩きつけられる――崩落するビルのガレキに埋もれたゲキトージャはなんとか立ち上がろうとするが、その背中を銘観音が踏みつける!

「ゲキトージャ、ダウン!
 ダメージでかい! しかも踏みつけられ、ゲキトージャ起き上がれませ
ぶっ!?」

「ちょっと、あんた!」
 実況を続けるバエの身体を捕まえると、キュアルージュはその顔を至近距離からにらみつけ、
「あんたも激獣拳の拳士なんでしょ!?
 アイツらみたいにゲキビースト……だっけ? そういうの呼んで戦いなさいよ!」
「さ、さっきも言ったじゃないですか!
 この身体になってしまった時に、闘う力はなくなってしまったんですよぉ!」
「あぁ、もうっ! 役に立たないわね!」
 バエの答えに、キュアルージュは苛立ちもあらわにバエを地面に叩きつける――「ぐえっ」とバエが地面にめり込むのにかまわず、メレや理央へと向き直り、
「あんた達はどうなのよ?
 あのままゲキトージャがやられるのを黙って見てるつもり!?」
 しかし、キュアルージュの言葉に理央が答える様子はない。
 と――
「私からも……お願い」
 そう言って姿を現したのは――ヤンの屋敷で休ませていたはずのラオファンだった。
「あの人達に、力を貸してあげて……同じ獣拳同士でしょ?」
「バカじゃないの。
 一緒にしないでって言ったでしょ。あんな情けないヤツら、助ける気なんて……」
 ラオファンの言葉にメレが答えかけた、その時だった。
「究極の科学が生み出した銘観音は、あらゆる生物の動きを超えた、超機械生命体なのだ!」
 勝ち誇り、高笑いするヤンの声が聞こえてきたのは。
 そして――
「獣拳ごときが、勝てるワケがなかろう!」
「………………っ」
「あ、怒った」
 ヤンの言葉に、表情こそ変わらないものの、理央のまとう空気が一変する――リュウタロスの言葉が、もっとも状況を端的に言い表していた。
「いくぞ、メレ」
「理央様!?」
 言って、理央がマントを脱ぎ捨てる――メレが驚くが、かまわず戦場に向けて一歩を踏み出し、黒獅子へと変身する。
 ゲキトージャを痛めつける銘観音をにらみつけ――告げる。
「獣拳をバカにしたヤツに、真の力を見せてやる」



   ◇



「フンッ、そろそろ終わりにしてやるか」
 さんざん踏みつけた末、ゲキトージャの身体を蹴り転がし、ヤンは銘観音のコックピットで勝ち誇る。
「くっ、このままじゃ……」
「やられる……っ!」
「くっ、そぉ……!」
 ゲキトージャの中でゲキイエローが、ゲキブルーが、ゲキレッドがうめく――しかし、ダメージが大きく、ゲキトージャはすぐには立て直せそうにない。
「地獄へ落ちろ!」
 そんなゲキトージャに向け、銘観音はヤンの操作で三対の腕、そこに備えられた鎌を合わせる。
「銘観音、銘観めかん斬り!」
 そして、必殺の一撃がゲキトージャに向けて振り下ろされ――



『リンギ、召来獣!』



 咆哮が響いた。
「なんだ!?――ぐわっ!?」
 その声に驚き、動きを止めた銘観音を、エネルギー弾の弾幕が襲う――吹っ飛ばされ、大地に叩きつけられた銘観音の前に現れたのは――
「リンライオン!」
「リンカメレオン!」
 理央の駆るリンライオンに、メレの駆るリンカメレオン。
 ゲキビーストの臨獣拳版、その名もリンビーストである。
「いくぞ、ゲキレンジャー!」
「ボヤボヤしてると、ブッ飛ばすよ!」
「理央……メレ……!
 ……よぅし!」
 リンビーストの中にいる理央とメレの言葉に、ゲキレッドが奮起。ゲキブルーやゲキイエローも続き、ゲキトージャはしっかりと大地を踏みしめ、立ち上がる!



   ◇



「理央さん、メレさん……!」
 ゲキトージャの危機を、その攻撃によって救った――「どうでもいい」と言い捨てながらもライバルを見捨てなかった理央達の姿に、キュアドリームが感極まってその名をつぶやく。
「くっそぉ! オレ達もデンライナーがあればあんなヤツ!」
 一方、戦いに加われず苛立ちの声を上げるのはモモタロスだ。焦れったそうに拳を打ち合わせ――
「…………そうでもないみたいだよ、先輩」
 つぶやいたのはウラタロスだ。と――夜空に突如、電車の警笛のような電子音が響いた。
「な、何!?」
「あぁっ! あれ!」
 突然の異変に驚くキュアルージュに対し、気づいたキュアレモネードが上空を指さす――見ると、上空に光の渦のようなものが生まれている。
 そこから空中にレールが敷かれると、飛び出してきたのは真っ白な列車――時の列車、デンライナーだ。
 それは一気に高度を下げ、モモタロス達の前に停車して――
「みんな! ようやく見つけた!」
「あーっ! ハナちゃん!」
 扉が開き、顔を出したのはハナだ。彼女を指さし、リュウタロスが声を上げる。
「よくわかんないけど、戦ってるのよね!?
 早くデンライナーで!」
「ありがてぇ!
 よぅし、いくぜ、てめぇら!」
 ハナの言葉にモモタロスが答え、さらにデンライナーが現れたのと同じように、空中から三つの列車が姿を現す。
 デンライナーのバリエーション、イスルギにレッコウ、イカヅチだ。デンライナーにモモタロスが乗り込み、同じようにイスルギにはウラタロスが、レッコウにはキンタロスが、イカヅチにはリュウタロスが乗り込む。
「てめぇら! 連結は今回なしだ!
 徹底的に、あのヤローをボコボコにしてやろうぜ!」
 そして、モモタロスのの音頭と共に各車両が走り出す――それぞれに銘観音の周りを飛び回り、それぞれの武器で攻撃を開始する!



   ◇



「な、何、アレ……!?」
「電車が……空を飛んで、戦ってる……!?」
 デンライナーが弾幕を張り、イスルギがカメ型のレドームから、イカヅチが竜型に変形したその口からビームを放ち、レッコウが展開した多数の腕で殴りつける――銘観音の周りを飛び回り、攻撃を仕掛ける四台の時の列車の応援に、ゲキイエローやゲキブルーがつぶやくと、
「何してやがる、お前ら!」
 そんな彼らに、デンライナーの操縦席のモモタロスが声を上げる。
 そのモモタロスは、デンライナーの操縦席に据えられたバイク、デンバードの車上――デンバードをコントロールデバイスとすることで、デンライナーはバイクで走り回るように空中を疾駆し、攻撃を仕掛けることができるのだ。
「さっさとしねぇと、オレ達がオイシイところを全部かっさらっちまうぞ!」
「へっ、そうはさせるか!
 オレ達だって、まだまだこれからなんだ!」
 モモタロスの叱咤にゲキレッドが答え、ゲキトージャが走り出す――銘観音に組みつき、捕まえようとした六本の腕を力ずくで振り払うとそのボディに拳を叩き込む!



   ◇



「よし、そこだ! いっけぇっ!」
「みんな、がんばってくださぁいっ!」
 理央やメレに続き、モモタロス達も参戦――しかし、やはり巨大戦の戦力のない彼女達は見ていることしかできない。せめてこのくらいはと、キュアルージュやキュアミントが声を上げる。
「私達も、あんな力があれば……っ!」
 しかし、やはり何もできないというのは心苦しいものだ。自分達の無力をかみしめ、キュアドリームがつぶやき――







「そうでも、ないんじゃないかな?」







 そんな一言が、彼女に向けて放たれた。
「え…………?」
 振り向くと、そこにはひとりの少年が立っていた。
 自分達より少し年上、くらいだろうか。漆黒の武道着を身にまとい、黒髪に隠れて目立たないが、同じく黒いバンダナを額に巻いている――少なくとも、キュアドリームには見覚えのない顔だ。
「そうでもない、って……どういうことですか?」
「簡単な話さ」
 だが今は少年の言ったことが気になった。尋ねるキュアドリームに、少年はそう答えた。
「お前らの力、ゲキレンジャーの激気、理央達の臨気、そして電王のチャクラに、イマジン達の存在エネルギー……それらすべてが、等しくヤツらの吸収の餌食になった。
 それはつまり、お前らの使うエネルギーがすべて、本質的には同じものであることを示してる……ま、当然だわな。同じ人間の持ってるエネルギーなんだし」
「え? でも、私達、ジャンさん達みたいには……」
「それも当然だ。
 何しろ、使い方がぜんぜん違うんだからな」
 聞き返すキュアドリームに、少年はあっさりと答える。
「本質的には同じ力なのに、どうして彼らにできることが自分達にできないのか……それは引き出し方も、使い方も違うからだ。
 けど、それは逆の見方をすれば、“アイツらと同じ引き出し方、使い方をすれば、同じことができる”ってことでもある。
 そして――」
 言って、少年はキュアドリームを正面から見返し、
「キュアドリーム。
 お前は一度、ゲキレッドが激気を発現するのを間近で見ているはずだ」
「え…………あ」
 言われて――気づく。
 晩餐会の会場で、ジャンから激獣拳について教えてもらった時のことだと。
「もうそこまで言えば、自分がどうすべきかはわかるな?
 あとは、お前次第だ」
「あ、待って!」
 言って、きびすを返す少年に、キュアドリームはあわてて声をかけた。
「あなた、一体……!?」
「『何者か』……ってか?
 別に、何者もクソもねぇよ」
 笑いながら、少年はそう答える。
「オレはオレ。それ以上でもそれ以下でもねぇよ。
 ま……縁があったらその内また会うこともあるだろうけどな」
 軽い口調でそう答えると、少年の周囲の空間が揺らめく。陽炎かはたまたオーロラか。そんな波打つ空間の中に、少年は姿を消していき――



「……ーム……ドリーム!」
「………………っ」
 呼びかけられた声に我に返る――気がつくと、キュアルージュの顔がすぐ目の前にあって少々驚く。
「る、ルージュ!?」
「『ルージュ!?』じゃないわよ!?
 こんな大変な時に、何ボサッとしてるのよ!?」
 見ると、デンライナーやリンビースト達が周りを駆け回る中、ゲキトージャと銘観音が激突している――意識が目の前の光景から逸れていたのは、ほんの一分足らずといったわずかな時間のようだ。
「今のは……?」
 あの少年とのやり取りは夢か幻か――だが、確かな確信はあった。自分の右手を見つめ、そこにプリキュアとしての自分の力を集めてみる。
(ジャンさんが、やってたみたいに……)
 あの時感じた、暖かい感覚を思い出す。あの感覚を、自身の右手に宿すように――

 ――ポゥ……

 力の集まる感覚と共に、右手に暖かさが宿る――かつてジャンが見せたように、キュアドリームの手に揺らめくオーラが発現していた。
「で、できたーっ!」
「って、ドリーム、それ……!?」
「まさか、ジャンさん達と同じ……!?」
「ドリームが、激気を……
 ……ううん、違う。これ、いつもドリームアタックとして使ってる、ドリームの力……プリキュアの力を、激気と同じように引き出したの……!?」
 思った通りに力を“引き出す”ことができたキュアドリームの姿に、キュアルージュやキュアレモネード、キュアアクアが声を上げる――しかし、キュアドリームにとってそこはいい。
 まだあの感覚を覚えている内に、することがあるからだ。
(そうだ……
 あの子は、ただジャンさん達の激気をプリキュアの力で再現するためだけに、私にアドバイスしてくれたんじゃない……
 きっと、こう言ってるんだ……ジャンさん達の“アレ”を、私にマネしろって!)
 模倣の基本は形から。先ほど見たばかりの、ゲキレッド達が見せたかまえをマネする。
 あの時、彼らがどう力を高め、放ったのか――思い出し、イメージし、なぞっていく。
 そして――叫ぶ。







「ゲキワザ――来来獣!」







 解放された力が、キュアドリームの頭上に集まっていく――線を描き、満たされ、具現化し、それは姿を現した。
 白銀に輝く、巨大な鳥だ。急降下してキュアドリームをその内部へと迎え入れ、戦場へと向かう。
「いっけぇっ!」
 そして、そのままの勢いで体当たり。跳躍し、ゲキトージャに襲いかかろうとしていた銘観音を吹っ飛ばすとゲキトージャの前に滞空する。
「ジャンさん、大丈夫!?」
「のぞみか!?」
 本名で自分を呼ぶキュアドリームに対し、ゲキレッドもまた本名で返す――彼女の参戦にも驚いたが、何よりも驚いたのは、彼女を乗せた白銀の鳥の存在だ。
「キュアドリームが、ゲキビーストを……!?」
「プリキュアの力で、呼び出したの……!?」
 予想外の援軍に、ゲキブルーやゲキイエローが思わず声を上げるが、
「いや……ゲキビーストじゃない」
 そうつぶやいたのは、リンライオンに乗る理央だった。
「お前達ゲキレンジャーが激気で呼び出せばゲキビースト。
 オレ達臨獣拳が臨気で呼び出せばリンビースト。
 その流れで考えれば、ヤツがプリキュアの力で呼び出したのなら……」
「…………そう、だね……」
 理央の言葉に、キュアドリームは口元に笑みを浮かべ、
「この子はプリキュアの力で呼び出した……そう、キュアビースト!
 鳥の……ハヤブサのキュアビースト!
 いくよ……キュアファルコン!」
 その言葉に、キュアドリームを乗せたキュアファルコンが翼を広げる――羽ばたきと共に放った羽状の光弾が銘観音へと降り注ぐ!
「やるじゃねぇか! 夢娘!」
「夢娘って私のことですか!?」
 モモタロスにツッコみながらも動きは止めない――デンライナーとキュアファルコンが、息の合ったコンビネーションで銘観音を翻弄する。
「今だ、虎小僧!
 激獣拳と臨獣拳、本家獣拳の力を見せてやれ!」
「ネイネイで、ホウホウだよ、ジャンさん!」
「モモタロス、のぞみ……」
 銘観音も反撃しようと六本の腕を振り回すが、デンライナーもキュアファルコンもその攻撃を巧みにかわす――モモタロスとキュアドリームの言葉に、ゲキレッドは意を決し、理央やメレへと呼びかける。
「いくぞ、理央、メレ!」
「フッ、わかっている!」
「その気になるのが遅いのよ!」
 理央とメレがそれぞれにそう答え、リンライオンとリンカメレオンがゲキトージャに向けて走る!



   ◇



『呉越同舟、獣拳合体!』
 ゲキレンジャーが、そして二人の臨獣拳士が吼え、リンライオンとリンカメレオンが跳ぶ――と、リンライオンの身体が頭部と前半身、後半身、背中から尻尾にかけての四つのパーツに分離する。
 それぞれのパーツはゲキトージャの周囲を飛翔。前半身と後半身がゲキトージャの両肩に、頭部がゲキトージャの胸に合体する。
 リンカメレオンはゲキトージャの左腕にしがみつくように合体。最後にリンライオンの背中から尻尾にかけての部分、刃状だった尾がまっすぐに正されてできた剣を右手でつかむ。
「呉越同舟、獣拳合体……!?」
「敵対する両者が手を取り合うこと……って意味よ」
 ゲキビーストで構成されたゲキトージャにリンビーストであるリンライオンとリンカメレオンが合体――つぶやくキュアレモネードにはキュアミントが答える。
「対立する激獣拳と臨獣拳が手を取り合った、まさに呉越同舟の獣拳合体。
 そう、アレは……」
 キュアアクアがつぶやくように告げ、ゲキトージャの内部空間に理央とメレを招き入れたゲキレッド達が、五人で名乗りを上げる。



『ゲキリントージャ、Burning up!』



   ◇



「何だと!?
 敵同士が結びついたというのか!?」
 激獣拳と臨獣拳が手を取り合い、誕生した新たな獣拳巨人ゲキリントージャ――その威容を前にして、ヤンが銘観音の中で声を上げる。
「オレ達、ネイネイでホウホウだ!
 いくぜ、みんな!」
『おぅ!』
 ゲキレッドの言葉に答えるのは獣拳の拳士だけではない――モモタロスやキュアドリーム、ウラタロス達も答え、一斉に銘観音へと襲いかかる!
『激臨剣!』
 ゲキリントージャが手にした剣で斬りかかる。受け止め、反撃しようとする銘観音だが、そこにデンライナー、イスルギ、イカヅチの一斉射撃が降り注ぎ、ひるんだところをキュアファルコンとレッコウが体当たりで吹っ飛ばす。

「これは夢でしょうか! いえ、夢ではありません!
 香港の夜に実現した、ゲキ、リン、デン、キュア、四つの力の華麗なる共演!
 ゲキリントージャ、吼える! 激臨剣がうなる! キュアファルコンがきらめく! そしてデンライナーが撃ちまくるぅっ!」


「くぅっ! この程度で!」
 ゲキリントージャにキュアファルコン、四台の時の列車の総攻撃を受けながら、それでも銘観音は立ち上がる。ヤンの操縦でゲキリントージャに向けて走るが、
「ったく、しつこいね!
 リンギ、玩茨がんじ固め!」
 メレがその動きを封じ込める。ゲキリントージャの左腕、リンカメレオンの口から放たれた舌が銘観音の全身を縛り上げ、
「リンギ、獅子吼ししこう!」
 理央がそこに仕掛ける。リンライオンの口から放つ臨気の砲弾が、銘観音を直撃する!

「決まったぁっ! 臨獣拳コンビのコンビネーションプレイ!」

「よぅし、私も!
 いっけぇっ! キュアファルコン! プリキュア・弾弾羽だんだんば!」
「オレ達も続くぜ!
 てめぇらも撃ちまくれ!」
「先輩ばっかり仕切らないでよね!」
「フンッ、オレ達の強さは、泣けるで!」
「みんなでブッ飛ばすけどいいよね! 答えは聞いてない!」
 そこへ飛び込むのがキュアドリームとモモタロスだ。ウラタロス達も後に続き、それぞれの飛び道具で銘観音へと撃ちまくる。

「キュアファルコンやデンライナーも負けてない! 一斉射撃が銘観音に降り注ぐぅっ!」

「お、おのれぇっ!
 こうなったら、全世界の人間どもの気を吸って、ひとひねりで片づけてやる!」
 完全に劣勢となり、ヤンは最後の手段に打って出た。より高い位置から、より広範囲の人間達の気を吸収するため、高層ビルの屋上を目指してその外壁を登り始める。

「おっと、銘観音、何をするつもりだ!?
 ビルを上り始めた! まだまだパワーアップするつもりだ!」


「逃がさないんだから!
 ジャンさん、キュアファルコンの上に!」
「あぁ!」
 対し、ゲキリントージャもその後を追う。キュアドリームに答えるとキュアファルコンの背に飛び乗り、、銘観音の後を追う。

「ゲキリントージャもキュアファルコンと共に香港の空へ! デンライナーも上空に先回りだ!
 獣拳の誇りをかけて、そして正義のために、仮面ライダー、プリキュアと力を合わせて、銘功夫を打ち砕け!」


「最後に残るのは強き者!
 それは銘功夫だ!」
「勝手に言ってろ!
 他のヤツの力を奪って、他のヤツの力で強くなったような気になってる馬鹿野郎どもが、俺達に勝てるワケがねぇだろ!」
 吼えるヤンにモモタロスが言い返す――ビルの屋上に上がった銘観音とキュアファルコンに乗って上昇してきたゲキリントージャ、そして周囲を飛び回るデンライナーがにらみ合う。
「これで終わりだ!
 銘観、烈風斬!」
 ゲキリントージャを叩き落すべく、銘観音が跳ぶ。三対六本の腕、その刃を一斉に振り回してゲキリントージャを狙い――
「むぅっ!?」
 突然、その腕の回転が止まった。
「な、何だ、どうした!?」



「やれやれ、獣拳の拳士達もプリキュアどもも、仮面ライダーどももみんな頭が悪いねぇ」
 手にしたコードの束を適当にもてあそびながら、ブンビーは火花を散らす目の前の機械の塊を見つめた。
「デカブツを叩くには内側からと相場が決まっているだろうに。
 中でコードを二、三本引きちぎってやれば、こんな機械人形、その内ガタが来て終わりになるに決まってるだろう。もっと頭使いたまえよ」
 そう。彼がいるのは銘観音の内部――内側から駆動システムを破壊し、動きを止めたブンビーはこれで自分の役目は終わりだとばかりに、空間を転移して離脱していった。



「お、おのれぇっ!」
 ヤンの乗るコックピットの中はたちまちレッドアラートで埋め尽くされた。ブンビーによって内部から破壊され、動きを止めた銘観音は跳び上がった惰性のままゲキリントージャに向けて跳んで、いや、飛んでいく。
「今だ!」
 そんな絶好のスキを見逃す手はない。ゲキレッドが吼え、ゲキリントージャも銘観音に向かって飛び、
「お先に失礼します、ジャンさん!」
 キュアファルコンの飛行スピードの方が上だった。あっさりと自分の背から跳んだゲキリントージャを追い抜いて銘観音に迫り、
「プリキュア、ファルコンバースト!」
 全身をプリキュアの力で多い、突撃――体当たりで銘観音をブッ飛ばす!
「モモタロス!」
「おぅよ!
 何でもいい! ぶちかませ!」
 さらに、モモタロス達時の列車が続く。一斉射撃で銘観音の六本の腕を撃ち砕き、そこへゲキリントージャが襲いかかる!
 そして――

『ゲキリントージャ、奥義!』



『激激臨臨斬!』



 激臨剣をまっすぐにかまえ、上半身を回転させる。自身を刃の竜巻と化し、ゲキリントージャが銘観音のすぐとなりを駆け抜け――その一瞬で、銘観音を細切れに斬り刻む!
 銘観音は斬り刻まれた破片すべてが大爆発――大地に降り立ち、一同が勝ち鬨の声を上げる。

『ゲキリントージャ!』
「キュアファルコン!」
『デンライナー!』




『Win!』



   ◇



「すごかったわね……ゲキリントージャ。
 まさかあそこまでできるなんて」
「根源を同じくする獣拳同士……だから奇跡も起きたんだ」
 戦いが終わり、再び全員が生身で顔を合わせる――ゲキリントージャの戦いぶりを思い出し、つぶやくランにレツが答える。
「すごかったな、のぞみ!
 いきなり来来獣やっちまうなんて! お前獣拳の才能あるぞ!」
「そ、そう、ですか……?」
「うんうん! ニキニキだ!
 お前もオレ達と獣拳やろうぜ!」
 一方、ジャンはキュアドリームが出現させたキュアファルコンの方に興味津々。興奮気味にのぞみを激獣拳に勧誘するが、
「あー、ダメダメ。やめといた方がいいですよ、ジャンさん。
 この子、プリキュアに変身しないと昔っからそーゆーのダメダメですから」
「あー、りんちゃんひどーいっ!」
 そこにダメ出ししたのはりんだ。幼馴染ならではのコメントに、のぞみは思わずぷうと頬をふくらませる。
「そんなこと言って、りんちゃん、自分がキュアビースト出せなかったからってうらやましいんでしょ!」
「な、何言ってんのよ!?
 アレは出せなかったんじゃなくて、あんたが出したのに驚いて、参加しそびれたんであって……」
「ふふーん? じゃあ、やってみたら出せるんだね?
 ジャンさんジャンさん! りんちゃんこんなこと言ってますけど、お試しコースとか大丈夫ですか!?」
「ち、ちょっと、のぞみ!?
 何いきなり人を巻き込んでくれちゃってんのよ!?」
「あぁ……また始まった……」
「アハハ……にぎやかでいいじゃない」
 のぞみとりん、幼馴染ならではの“仲良くケンカしな”状態に突入する二人に思わず頭を抱えるかれんだが、そんな彼女に良太郎が笑いながら答えて――

「ボクもやるやる! 獣拳やりたい!
 ボクもぶわーっ!ってゲキビースト出したい!」
「はっ、お前がやったってお前のデンライナーと似たり寄ったりのヤツが出てくるだけだろ。
 それよりオレ様だよ、オレ様! きっとすっげぇのが出てくるぜ!」
「先輩がやったって、先輩と同じようなバカ面の赤鬼が出てくるだけなんじゃないの?」
「ンだと、このクソガメ!」
「やっぱここは、真の強さを知っとるオレやろ!
 オレの強さは、泣けるで!」
「クマ公! てめぇはどーせ修行途中でも冬眠しちまうのがオチだろうがよ!」

「…………良太郎さんの方も、大変そうですね」
「……アハハ……」
 良太郎の笑顔は変わらない――が、その頬を流れる一筋の汗を、かれんは見逃さなかった。
「よぅし! だったらみんなで獣拳やろうぜ!
 オレ達ネイネイでホウホウだもんな! な、理央?」
 一方で、盛り上がるテンションそのままに理央に話を振るジャンだったが、当の理央はそんなジャンに、一同に背を向け、
「カン違いするな。
 オレは、臨獣拳のために戦っただけだ」
「そうよ。
 今度会った時は、ギッタンギッタンのメッタメタにしてやるんだからね!
 ……理央様、待ってくださぁい♪」
 言って、去っていく理央を追って、メレも捨てゼリフを残して去っていく――あっという間に、二人は香港の夜の闇の中に消えていった。
「うーっ! アイツらやっぱり、ゾワゾワだ!」
 あっさりと自分達の“敵”に戻ってしまった理央とメレに対し、むくれるジャンであったが、
「大丈夫ですよ、ジャンさん!」
 そんなジャンに、のぞみは力いっぱい断言した。
「理央さんもメレさんも……ジャンさん達とは道は違うけど、獣拳が大好きだっていうのは同じじゃないですか。
 だから……きっと大丈夫! いつか、また一緒に戦える時が来ますよ!」
「のぞみ……あぁ、そうだな!」
 のぞみの言葉に一縷の希望を見出したか、ジャンは彼女の言葉に気を取り直し、いつもの明るい笑顔でうなずいてみせるのであった。



   ◇



「……はぁっ、はぁっ……!」
 香港の裏路地を、彼はヨロヨロと歩いていた。
「おのれ……この私が……っ!」
 ボロボロになったヤンだ。目立たないよう人の姿に戻る余力もなく、機械人としての姿のまま路地を進む。
「このままにしておくものか……
 一度身を隠して、また武術家どもの気を十分に吸い取ったら、今度こそアイツらを……」



「そいつぁ困るな」



「………………っ!?」
 いきなりかけられた声に身がまえる――行く手の暗闇の中から、その声の主はゆっくりと姿を現した。
「やれやれ、しぶといヤツだぜ。
 あそこまで細切れにされた機体から、よくもまぁ脱出できたもんだ」
 それは、キュアドリームにキュアビーストのことをアドバイスした少年であった。
「しかしまぁ……あそこまでとはオレも思ってなかったんだけどな。
 特にキュアファルコンだ。能力の行使においてもっとも重要なのは使い手のイメージング……キュアドリームは、“夢”をその名に冠するだけあって、プリキュア5の中でもっともその能力に恵まれてる。
 アイツなら、ゲキレンジャーの真似事のひとつくらいは踏んだが、予想以上の出来だったよ」
「き、貴様、一体……!?」
「何、簡単さ。
 お前らが狙った内の一グループ……電王達に、ちょいと借りがあってね」
 うめくヤンに答えて、少年は一歩踏み出した。
「アイツらには、オニ一族との戦いで命どころか存在自体が消えかけたのを助けてもらった借りがある。
 その借りを返すいい機会だと思って、わざわざ“この世界に”“戻ってきて”まで介入させてもらったのさ。
 けど……いや、だからこそ、か。
 お前をここで逃がして、余計な禍根を残すワケにはいかないんだよ」
 言って、少年は“それ”を腰に押し当てた。
 “それ”から伸びたベルトが腰に巻かれる――続いて、懐からカードを取り出し、
「ここまでだ。
 滅んでもらうぜ――銘功夫」

《KAMEN-RIDE!》







《“DECADE”!》



   ◇



「本当に、乗せていってもらっていいんですか?」
「うん。オーナーも、時間を移動するワケじゃないなら、送っていくくらいはかまわないって」
 先日、自分達が飛ばされてきたあの岩山――停車するデンライナーの前で、良太郎はかれんの問いにそう答えた。
 事件も無事解決し、後は帰るだけ――しかし、ヤン一味によって強制的に転送されてきた自分達はパスポートを持たないまま国境を越えた不法渡航者だ。どうやって帰ろうかと悩んでいたゲキレンジャーとプリキュア5の面々に、良太郎が自分達のデンライナーで送っていくことを申し出たのだ。
「ボクらも助けてもらったお礼がしたいし、このくらいは……ね」
「ありがとうございます、良太郎さん」
 笑顔で告げる良太郎に、かれんもまた笑みを返す――その一方で、他の面々はラオファンと別れのあいさつの真っ最中だ。
「ドウジェ、みんな」
「ドウジェ……って、何だ?」
「中国語で『いろいろありがとう』って意味ですよ」
「そっか。
 じゃあオレも。ドウジェドウジェ」
 ラオファンの中国語のあいつがわからず、首をかしげるモモタロスにはこまちが答える――納得して、ジャンがラオファンのあいさつを真似る。
「いつか日本にも遊びに来てよね。
 ボクが案内してあげるからさ」
「カメの字はただナンパしたいだけやろが。
 けど、まぁ……遊びに来たなら、歓迎したるわ」
「うんうん! また一緒に遊ぼうねーっ!」
「私達それぞれ、住んでる街がバラバラだから、みんなのところを回るだけでもけっこうな観光になると思いますよ」
「ボク達も、また香港に来ますから」
「当然、今回みたいな事件じゃなくて、ちゃんと羽を伸ばしに、ね」
「うん……その内遊びに行くね。
 もちろん、またみんなが遊びに来てくれるのも大歓迎よ」
 日本へ誘うウラタロスやキンタロス、リュウタロスにうらら、そしてまた来ることを約束するレツやりんにラオファンが笑顔で答える。
「それじゃあ……またね、みんな」
「うん!
 ラオファンも、元気で!」
 そして、ランとラオファンが握手を交わして――







「あぁぁぁぁぁっ!」







 素っ頓狂な声が上がったのは、まさにその時だった。
「な、何!?
 どうしたの、のぞみ!?」
「りんちゃん……どうしよう!
 大事なこと忘れてた!」
 そう。のぞみだ――驚くりんに対し、のぞみは焦りもあらわにそう答える。
「大事なことって!?」
「まさか、まだ敵が残ってたんか!?」
 ただならぬその様子に、ランやキンタロスが緊張して――
「私達……」











「香港の街に食べ歩きに行くの忘れてた!」











『……だぁぁぁぁぁっ!』
 全力でボケてくれたのぞみの言葉に、全員がズッコケた。
「そ、そういえば……ここが香港だってわかった直後に、そんなこと言ってたね……」
「アンタ……まだあきらめてなかったワケ……?」
「だってだって、香港だよ、香港!
 ラオファンさんとも友達になれたし、これから先来ることが増えるかもだけど、それだっていつも来れるワケじゃないんだよ!
 本場の香港料理、食べられる時に食べに行かないと!」
 身を起こし、うめく良太郎やりんに、のぞみは拳をグッと握って力説する。
「じゃあじゃあ、私は香港のカレーが食べたいです!」
「香港のお茶菓子ってどんなのがあるのかしら……?」
「おい、香港ってプリンあるのかよ!?」
「オレは、うまいものならなんでもいいぞーっ!」
 そうなってくると次々に便乗を始めるのがこの面々だ。うららにこまち、モモタロスやジャンまでもが好き勝手なことを言い出した。
「まったく、この子達は……」
「ハハハ、お互い苦労するね……」
「えぇ、本当に……」
 盛り上がる一同を前に、こめかみを押さえるかれんに良太郎やランが苦笑する――そんな彼らを尻目に、のぞみは拳を高々と突き上げた。
「それじゃあ! 帰る前に、みんなで香港食べ歩き! けって〜いっ!」
『お――――っ!』









 

仮面ライダー電王。
獣拳戦隊ゲキレンジャー。
プリキュア5。



彼らの出会いの物語は、こうして幕を閉じた。



しかし、彼らの物語はこれで終わりではない。

そして、この先の物語は彼らだけの物語でもない。



この先、彼らは再び集まり、さらに新たな仲間とも出会うことになるのだが――







それはまた、次の機会に――
 

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Next episode of......“Pricure 5”


 

(初版:2012/08/09)