「……兄、さん……!?」



 …………え?



〔今、ティアナちゃん、『兄さん』って……〕



 良太郎にもそう聞こえた?

 と、いうことは……少し、ヤバイ感じだよね?



〔ウラタロス〕



 了解、と……男を釣るのは、正直趣味じゃないんだけどね。



「? キミは……」

「あ、あの……あたs」

「いや、すみません。いきなりでビックリしたでしょう?」



 局の人へと踏み出そうとしたティアナちゃんの言葉をさえぎって前に出る。



「実は彼女、今ホームシックになっちゃってまして」

「ちょっと、バカ亀、いきなり何を――」

「まぁ待て」



 口をはさみかけたティアナちゃんを、マスターコンボイが止めてくれる……うん、ナイスアシスト。



「それで……どうもあなたを見て、亡くなったお兄さんのことを思い出してしまったみたいなんですよ。
 写真を見せてもらったことがありますが、あなたは本当によく似ている」

「そうなのか?
 うん……それは悪いことをしちゃったかな?」



 ボクのウソに釣られて、彼の顔からこちらを怪しむような気配が消える。ティアナちゃんの前に進み出ると、その頭をなでてあげる。



「元気を出すんだ。
 キミがそんな顔をしていることを、きっと亡くなったお兄さんも望んでいない」

「――――っ。
 は、はい……」



 彼の言葉に、ティアナちゃんが息を呑んだのがわかった。

 けど……しょうがないよね、これは。



「それで、さっきの話だけど」

「怪物の話ですか?
 いえ、ボク達は見ていませんね。怪物どころか女神と言ってもいい、素敵な女性のエスコート中ですから」

「フッ、そうか。
 けど、その口、少しは慎んだ方がいいと思うぞ。口の軽い男は信用を失う」



 あらら、言われちゃったよ。



「とにかく、何かを目撃したら……」

「えぇ、ちゃんと通報しますよ」



 全部終わってからね。



「よろしくお願いします。
 ……じゃあ、キミも、元気でな」



 言って、局員の男はティアナちゃんの頭をもう一度なでてあげてから、街の雑踏の中へと消えていった。



「うまく釣れてくれたね」

〔ウラタロス……
 確かに何とかしてほしかったけど、あぁいうのは……〕



 良太郎……言いたい事はわかるから、そういう低い声出さないでくれるかな? 怒ってるのがわかるからボクだって怖いんだよ。

 だけど……ね。



「あぁ言っておけば、あの人もこっちを気遣って追求してこないでしょ?」

〔それは、そうだけど……〕



 さて、それよりも……だ。



「……ティア」

「お願い、スバル。今は話しかけないで。
 頭ン中、ゴチャゴチャしてんのよ……っ!」



 ……こんな状態のティアナちゃんを、放っておけないよね。

 良太郎。一度デンライナーに戻るけど、かまわないよね?



〔うん、そうだね。
 まずはティアナちゃんを落ち着かせないと……〕



 やれやれ、今回の釣りは、ちょっとややこしいことになりそうだよ。

 

 

 

 

 

――時の列車、デンライナー。次の停車駅は、過去か未来か――

 

 


 

第6話

シュート・ウィズ・ドラゴン

 


 

 

「はい、コーヒーどうぞ」

「ありがとう、ございます……」



 なんとかデンライナーまで戻ってきたけど……ティアナちゃん、沈んでる。

 でも……聞かなきゃダメだよね。



「スバルちゃん、ティアナちゃん。
 さっきの人って……知り合い?」

「あたしの……兄さんです」



 やっぱり……



「名前はティーダ・ランスター。
 首都航空隊の若手エース……でした



 ティアナちゃんが過去形で話したことで、予感は確信に変わった。



「……亡くなったんだね」

「はい……」



 ……そうか。だからなんだよね。

 もう亡くなっている……もう会えなかったはずの人と、会えちゃったんだ……



 だからウラタロスは、あの人に対して『ティアナちゃんのお兄さんは亡くなった』って言ったんだ。

 まだ生きてるこの時間のティーダさんに対して『あなたは亡くなった』ってウソをついた……それを聞いたティーダさんにティアナちゃんを気遣わせた。

 ティーダさんの口から『亡くなったお兄さん』と言わせることで……ティアナちゃんに現実を再認識させるために。



「……あのっ!」

「待て、スバル」



 ティアナちゃんのとなりで声を上げたスバルちゃんを、マスターコンボイが止めた。



「お前、何を考えてる?
 まさかとは思うが……ティーダ・ランスターを助けたいと言うんじゃないだろうな?」

「うん。そうだよ」



 迷いなく、スバルちゃんは言い切った。

 うん、そうだよね。スバルちゃん、優しい子だから……きっとそう言うだろうと思った。



 でも……ダメなんだ。



「まさか……マスターコンボイさん、止めるつもり?」

「……あぁ」

「そんな!
 だって、もうすぐティアのお兄さん、死んじゃうんだよ!? それがわかってるのに――」











「ティアナを消したいのか、お前はっ!」











 反論しかけたスバルちゃんを、マスターコンボイが一喝する――ボクらにとっても思いもよらない言葉で。



「……どういうこと? マスターコンボイさん」

「おそらく、ティーダ・ランスターを救って未来を変えることで……ティアナ・ランスターは、オレ達にとっての“今”から先の時間には存在できなくなる」



 ……えっと、それ、どういうこと?

 さすがにこれは、ボクにも意味がわからない。



 歴史が変わって、ティアナちゃんのあり方が変わるのはまだわかる。けど、ティアナちゃんが消える、って……



「……どういうことよ、それ……」

「簡単な話だ」



 わからないのはみんなも同じだ。代表して尋ねるかがみちゃんに、マスターコンボイは答えた。



「“父殺しのパラドックス”だ」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……と、いうことらしいの」



 話を締めくくるハナさんの言葉に、僕は思わず頭を抱えた。

 やれやれ、イマジンも厄介な時間に跳んでくれたもんだよ。



《えぇ、まったく。
 これから死ぬことになる家族を助けることもできないんですから》



 あの悪夢から立ち直ってみれば、フェイトはダウンしてるしリインと小夜さんはにらみ合い。さてどうしたものかと考えていたら、ハナさんの携帯に過去に跳んだみんなの状況が報告されてきた。

 良太郎さんからだ……というか、過去からもメールできるのか。スゴイなケータロス。



「……ヤスフミ」

「あー、わかってる。ちゃんと説明するから」



 フェイトもリインも視線が厳しい。まぁ、ティーダさんを助けるのを止められたって聞かされれば、そりゃね。

 しょうがない。話すか。



「まず……ティーダさんを助ければ、歴史は変わる」

「でも、それはいいことなんじゃないの?
 死んでしまうはずだった人を助けられるんだから……」



 ……やっぱり、フェイトはカン違いしてる。



「本当に、それでティーダさんが助かるならね」

「え…………?」

「うぅん、ティーダさんだけじゃない。
 今回の場合……たぶん、ティアナも消える」

「えぇっ!?」

「どういうことですか!?」







「“父殺しのパラドックス”だな」







 そう答えたのは、僕が目を回している間に来ていたイクトさんだった。



「父殺しの……」

「パラドックス……」

「ですか?」

「あぁ。
 古くから言われている、タイムパラドックスの理論のひとつだ」



 フェイト、リイン、そして小夜さんに答えて、イクトさんは話し始めた。



「たとえば、だ……ある男、仮にAとするが、そいつが過去に跳んで、母親が自分を身ごもる前に父親を殺害したとする。
 その場合――歴史はどう変化する?」

「そ、それは……Aさん、生まれないですよね?
 自分の父親が死んじゃうワケですから」

「ですです」

「そうだ。
 だがそうなると、今度はAの消滅によって“Aが過去に行って自分の父親を殺す”という流れも消えることになる」

『…………あ』



 みんなも気づいたみたいだ。



「結果、父親は死ぬことなくAが生まれ、過去に行って父親を殺す。
 その結果Aが生まれなくなり……という流れが繰り返される」

「無限ループ……」



 フェイトの言葉が一番的を射ていると思う。

 そう。その無限ループに捉われた結果、Aも父親もそこから先の時間には行けなくなってしまう。

 それが……“父殺しのパラドックス”。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「今回の件もそれと同じだ。
 ティアナ・ランスターは兄の死をきっかけに魔導師の道を志した。
 ティーダ・ランスターを救うということは、彼女からその“きっかけ”を奪うということだ。
 結果、ティアナ・ランスターは魔導師になることはなくなり……」

「あたし達はもちろん、良太郎さんに会うこともなくなる……
 それで、ティーダさんを助けることができるはずがない……」

「仮に、歴史通り魔導師となり、オレ達や野上良太郎達と出会っていたとしても、ティーダ・ランスターが生きている時間では、ヤツを助けるという話にはならないだろうな」



 つぶやくスバルちゃんにマスターコンボイが付け加える。

 その結果どうなるか……さっきの例と同じ無限ループだ。



「……でも、アニメとかマンガとかだと、そういうのなくて、もっとこう……」

「現実は、物語のように都合よくできているワケじゃない……そういうことだ」



 反論しようとしたかがみちゃんに、マスターコンボイは冷静にそう答えた。



「仮に、何かしらの理由で無限ループにならなかったとしても、少なくとも“ティーダ・ランスターの死”という、ティアナ・ランスターが魔導師を志した理由が消滅することは間違いないんだ。
 確実に……オレ達の知るティアナ・ランスターはいなくなる。
 それに……」



 そして、マスターコンボイはため息をついて……え? なんでそこでボクらを見るの?



「……まぁ、コイツらの前で話してもかまわんか。
 柊かがみ、貴様まさか忘れたワケではあるまい?
 ティーダ・ランスターは……地上本部の暗部に近づきすぎたことで消されたんだぞ」



 …………え?



「ここで助かったとしても、あの脳みそどもがあきらめるとは、オレにはとうてい思えない。
 必ず再度の暗殺計画が持ち上がる……そして、この時間に跳んだイマジンを片づけたら元の時間に帰るオレ達がそれを阻止することはできない」

「そ、それは……」

「最悪、その再度の暗殺によってティアナ・ランスターまでもが巻き添えで殺される、などという結末すらあり得る。
 ティーダ・ランスターがこの時間を生き延びることで、どんな変化が起きるかわからないということを、お前達は本当に理解しているのか?」



 反論できないでいるみんなに対して、マスターコンボイは改めてみんなに告げる。



「助けたいなら助けに行くんだな。
 だが……それが最終的にどんな結果につながっても、責任が持てるというのなら、な」

「………………っ」

「ティア!?」



 マスターコンボイの言葉に、ティアナちゃんは弾かれるように食堂を飛び出していく――スバルちゃんの上げた声にも振り向かずに。



「……少し、言いすぎなんじゃない?」

「それでアイツが消えずにすむなら、いくらでも嫌われてやる」



 冷たい視線を向けるあずささんだけど、それでもマスターコンボイはそう答えて座席に腰を下ろす。



「マスターコンボイさん……冷たいよ。
 ティアがどれだけお兄さんを好きか……マスターコンボイさんだって知ってるでしょ!?」



 スバルちゃんもだ。マスターコンボイに詰め寄って、強い口調で言う。



「それなのに、あんなひどい……」

「『ひどい』……?
 あぁ、確かにひどいな」



 続けるスバルちゃんに対して、マスターコンボイは息をついて、



「自分の兄さえ助かるなら、オレ達との“今まで”を捨ててもかまわないらしいからな、アイツは」

「…………え?」

「……さっきの話を聞いていなかったのか?
 ティーダ・ランスターの死がなくなれば、ティアナ・ランスターの“今”はない……ティーダ・ランスターを助ければ、アイツはオレ達と会えなくなる可能性が高い。
 そもそも、それだって“父殺しのパラドックス”が起きなかった場合の“IF”の話でしかない。仮説通りにパラドックスが起きれば、アイツは問答無用で消滅だ。
 お前は、それでもアイツがティーダ・ランスターを助けようとするのをよしとするのか?」

「そ、それは……」



 マスターコンボイの言葉に、スバルちゃんは口ごもって――



「……あんな、スバっち」



 口を開いたのは、今までみんなのやり取りを見守っていたいぶきちゃんだった。



「昨日……話したよな?
 地球で起きた、“龍神事件”」

「う、うん……」

「あの事件は、昔の術者が治水のために龍神様をムリヤリ封じたこと、そして、霞ノ杜神社の巫女さんが自分達のルールに則って小夜さんを妖怪として殺したことが重なって始まった。
 どっちも、正しいと思ったことをしただけやのに……それが事件の引き金になった。
 正しいと思ってやったことが、正しい結果につながるとは限らへんのよ。せやから、ウチらは自分のやることにちゃんと責任を持たなあかん。
 そして……どんな結果になっても受け止める、覚悟もな」

「………………」

「それがティアっちにあるなら止めへんよ。
 せやけど……」



 覚悟……か。

 確かに、ティアナちゃんはお兄さんを助けたい、ただそれだけ……



 それは間違っていない。間違っていないけど……







「ねぇ……良太郎」







 リュウタロス……?



「良太郎も……お姉ちゃんが死んじゃうのって……悲しいよね?」

「え…………?」



 意外な質問に、ちょっと詰まるけど……答える。



「うん……そうだね。
 ボクも、父さんと母さんが死んで……家族は姉さんだけだから。
 なのに、その上姉さんまでいなくなったら……そう考えると、すごく辛くて、すごく怖いよ」



 そして……ティアナちゃんはそれが現実になった。



「うん……
 ボクも……お姉ちゃんが消えるの、イヤだ……」



 リュウタロス、姉さんのこと大好きだもんね。







 ……あぁ、そうか。

 リュウタロスは……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「………………」



 デンライナーの客車、廊下の片すみに座り込んで、あたしはマスターコンボイに言われたことを思い返していた。

 今なら……あたしがいる6年前のこの時間でなら、兄さんを助けることができる。

 けど……そうしたら、あたしの“今”は変わる……



 理解はしてる……してるけど……



「こんなの……納得できるワケ、ないじゃない……っ!」



 みんなとの“今”を捨てて兄さんを助けるか。

 死ぬとわかっている兄さんを見殺しにして、みんなと一緒の“今”を取るか……











「……ティアナちゃん」











 …………?



 顔を上げると、良太郎さんの仲間のイマジン。紫色で、竜っぽい……



「あぁ……リョウタロスか」

「り、リュウタロスだよ、リュウタロス! 良太郎と混ざってるよっ!?」



 あー……ゴメン。なんか今、頭働いてないから……



「うん……
 そのくらい……お兄ちゃんのことが、好きなんだよね……」



 うつむいたまま……うなずく。



「ねぇ……ティアナちゃん」

「わかってるわよ」



 何を言いたいかは、だいたい想像がつく――だから、止める。



「兄さんを助ければ、あたしは消える……消えなくても、みんなとはお別れ。
 そんなことは、わかってんのよ……けどっ!」



 そんなつもりはないのに、つい声が荒くなる。



「兄さんが、これから死ぬっていうのに……それがわかってるのに、何もしないで見過ごせっていうの!?
 家族が死ぬのを、黙って見てろっての!?」

「うん……わかる。
 ヤだよね、そんなの」



 そう言うと、リュウタロスはあたしの手を取って――











「お兄ちゃんのところに行こう!」











 …………え?



「ボク、難しいことはよくわかんないけど……それでも、ティアナちゃんがお兄ちゃんに会いたいのはわかる!
 せっかく会えるんだから、会いに行こうよ!」

「え、あ、ちょっと!?
 アンタ、その格好で行くつもり!? あ〜〜っ!?」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「何だと!? リュウタのヤツが!?」

「嬢ちゃん連れて出てったっちゅうんかいっ!」

「う、うん……」



 声を上げるモモタロスとキンタロスに、うなずく――そう。「ティアナちゃんのところに行く」って言って食堂を出ていったリュウタロスは、なんとそのままティアナちゃんを連れてデンライナーを出ていっちゃった。

 気になって様子を見に行こうと食堂を出たら、食堂車の乗り入れ口が開いていて……外を見ると、ちょうどリュウタロスがティアナちゃんを連れて時の砂漠を出ていくところだった。



 ボクも甘かった……リュウタロスが姉さんのこと聞いた時に、リュウタロスがティアナちゃん達を自分と姉さんに重ねていたことは、わかっていたのに……



「と、とにかく追いかけへんと!」

「お、追いかける、って……いぶき、あの二人がどこ行ったかわかるの!?」

「そんなん決まってる! ティーダさんトコや!」



 うん……きっとそう。リュウタロスは、ティアナちゃんとティーダさんを会わせるつもりなんだ。

 でも、そんなことしたら……



 なんとなく、デカ長の方を見る……沈黙を守ってるのがすごく不気味だ。



 とにかく、リュウタロス達を探さないと……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……こっちも、収穫なしか……」



 一通り聞き込みをしてみたけど、怪物の行方について有力な情報はなし、か……

 けど、何かが暴れたらしい破壊の跡は確かにあった。怪物かどうかは抜きにしても、あの破壊を行った者は確実に存在している。



 ……まさか、またジュンイチが何かに巻き込まれて暴れたんじゃないだろうな?

 アイツなら十分にあり得るから心配だ。「事情聴取なんかめんどくさい」とか言って平気で雲隠れするからな、アイツ……







「あーっ! いたーっ!」







 …………ん?

 いきなりの声に振り向くと、そこには紫の……人型の、竜?



 まさか、コイツが通報にあった怪物か!?



「あーっ! 待って待って!
 ボクは敵じゃないよぉっ!」



 身がまえたオレに対して、怪人はあわてて両手を上げて抵抗の意思がないことを示す。

 そして、彼(?)の後ろから姿を現したのは……



「あ、あの……」



 キミは……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あかん……この辺にはおらん!」



 クラナガンに出てきて、リュウちゃん達探しとるけど……見つからへん。



「はよ見つけな……
 このままリュウちゃんがティアっちをお兄さんと合わせて、そのせいで時間が書き換えられたら……ティアっちだけやのうてリュウちゃんともお別れや!」

「う、うん!」



 ウチの言葉に良太郎さんがうなずく……さすが電王。状況よぅわかっとるわ。



「ち、ちょっと待って!
 いぶき、リュウタロスさんともお別れって、どういうこと!?」



 一方で状況について来れてへんのがスバっち。あと、かがみんも不思議そうに首をかしげてるし……しゃあない。ちょっと説明。



「キンちゃんが良太郎さんについてすぐの頃に、似たようなことがあったんよ」

「その時の事件で知り合った子に、過去でアドバイスを贈ったんだ。
 けど、そのために街を走った時に、障害物をかたっぱしから壊しちゃって……イマジンと同じように過去を書き換えた、って、オーナー……デカ長から乗車拒否を言い渡されるところだったんだ。
 その時はそのアドバイスでその子が救われたおかげで、結局は許してもらえたんだけど……もし、今回同じようなことになって、許してもらえなかったら……」



 そうなれば……乗車拒否ってことになったら、リュウちゃんはもうデンライナーには乗れへん。時の砂漠を、永久にさまようことになる。



「そんな……っ!?」

「そうならへんように、はようリュウちゃんとティアっちを見つけへんと……」



 うめくかがみんに答えて、また二人を探そうと走り出した、その時やった。



「うっ!?」



 良太郎さんの動きが止まる。髪に赤いメッシュが入って、瞳が赤く染まる……って、



「モモちゃん!?」

「くそっ、こんな時にっ!」



 声を上げるウチに答えることなく、モモちゃんが周囲を見回す……って、まさか!?



「イマジンだ……出やがった!」

「ウソでしょ!?
 よりによって、こんな時にっ!」



 あずささんが思わず声を上げる――ホンマ、『こんな時にっ!』や。リュウちゃん達も探さなあかんのに……



「みんなは行って!
 ティアちゃん達は、あたしが探すから!」



 あずささん!?



「あたしも行きます!
 ティアはあたしの親友だから!」



 スバっちも……わかった。頼むな!



「かがみん、ウチらはモモちゃんと一緒にイマジン叩くで!」

「えぇ!
 ……って、かがみん言うなーっ!」



 何を今さら。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 やれやれ、運がいいのか悪いのか……

 ジェットガンナーと二人でティアナ・ランスターとリュウタロスを探していたところ、ちょうど目の前にイマジン達が現れ、暴れ始めた。

 前回取り逃がした二体……カメレオンと、サソリだ。



「ちょうどいい。二対二か」

「だが、ランスター二等陸士達を探さなければ……」

「必要ない」



 ジェットガンナーのうめきに迷わず即答する。







 そうだ……必要ない。

 ヤツは必ず帰ってくる。

 今は悩んでいたとしても……必ず答えを見つけ出す。







 ならば、オレ達が今するべきことは……ヤツを、最高の状況で出迎えることだ。



「運がなかったな、貴様ら。
 ティアナ・ランスターへの手土産だ! 手加減抜きで、つぶさせてもらうぞ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……あそこだ!」



 オレ達が駆けつけた時には、イマジンはとっくに戦いを始めていやがった。

 一足先に、マスターコンボイのヤツと。



「はぁぁぁぁぁっ!」



 マスターコンボイが思いっきり突っ込んでいく――イマジンどもも迎撃しようとしやがるが、



「させないっ!」



 上空からジェット……なんたらが銃を撃つ。イマジンどもの足を止めて、そこをマスターコンボイにブッ飛ばされる。



〔モモタロス、ボク達も!〕

「っと、そうだったな。
 てめぇら、準備はいいな!?」

「うん!」

「何仕切ってんのよ!?」



 巫女ねーちゃん達も準備よし。んじゃ、変身してドハデに乱入するか!



「いくぜ、良太ろ――」





















「そこまでよ、イマジンッ!」





















 ――って、アイツら……



「ティアっち!?」

「リュウタロスもいる!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「…………あ、あの……その……」



 ど、どうしよう……

 リュウタロスに引っ張られて、ロクに頭の中もまとまらない内に兄さんの前に……



 どうしろってのよ? いったい、何を話せば……



「…………フッ」



 え……?

 兄さん、いきなり笑って、こっちに歩いてきて……



「……お前……」





















「ティアナだろう?」





















 …………え?







「……な、なんで……!?」

「わからないとでも思ったのか?
 オレはお前の兄さんなんだ」



 ウソ……それだけで、あたしだってわかったの……!?



「たったひとりの家族の顔を見間違えるもんか……たとえ、自分の知っているティアナよりも育っていたとしてもな。
 どうやってこの時代に来たのかは知らないけど……うん、大きくなったな」



 行って、兄さんがあたしの頭をなでてくれる……そうだ、言わなくちゃ……



「あ、あの、兄さん!
 実は――」

「ストップ」



 けど……あたしの言葉は、他ならぬ兄さんの手によって止められた。



「お前がティアナだってわかったら……未来のお前だって気づいたら、なんとなく、わかった。
 お前の時代では……死んでるんだな、オレは」

「…………っ」



 お見通しだった……何もかも。



「予感はあったんだ。
 今、ちょっと危険な事件を調べているからな……そうなるかもしれない、とは、思ってた」



 じゃあ……あたしが教えるまでもなく、この頃の兄さんは自分が殺されるかもしれないって……



「心残りは、残されるお前のことだったんだけど……元気に、美人に育ってくれたみたいで、安心した」



 でも……でも……っ!



「兄さんはそれでいいの!?
 志も果たせずに、局に殺されるのに!」

「……お前は、知ってるんだな。
 オレが、何を調べているのか……」



 兄さんの言葉に、うなずく。



「……兄さん。あたしも、局員になったよ……
 兄さんの調べてた事件にも、偶然だけど、関わって……みんなで、解決させた」

「……そうか」

「でも……あたし達の時間に、兄さんはいない……
 兄さんの無念を晴らしても、兄さんがいないんじゃ……っ!」

「……ティアナ」



 心の中をぶちまけるあたしに、兄さんは優しくそう口を開いた。







「安心した」







「え…………?」

「お前が……お前達が、事件を解決させてくれたって聞いて……」



 言って、兄さんはもう一度あたしの頭をなでてくれる。



「オレのできなかったことを、お前が受け継いで、果たしてくれる……こんなにうれしいことはないさ」

「でも……」

「ティアナ」



 反論しかけたあたしを、兄さんが止める。



「人は誰でも別れる時が来る。
 それが、オレ達の場合は少しだけ早い……それだけの話だ」

「でも……でも……っ!」

「オレはこの先死ぬんだろう……けど、オレの想いはお前が継いでくれる。
 それがわかったからこそ……オレは、残りの時間に全力を尽くせる」



 その言葉と共に……あたしの身体が引っ張られた。







 兄さんが……あたしを抱き寄せたんだ。







「オレの想い……オレの夢……
 お前に託すぞ、ティアナ……っ!」

「……うん……っ!」



 あたしがうなずくと、兄さんはあたしを放して、



「じゃあ、行くんだ。
 お前の仲間達と一緒に……お前の戦うべき戦場へ」



 言って、兄さんはあたしを回れ右させて……あ。



「行こう、ティア!」

「守らなきゃね……お兄さんの生きてる、この時間を」



 スバル……あずささん……



「……行くわよ、二人ともっ!」

『おぅっ!』

「……うー……怒られた……」



 大丈夫よ、リュウタロス。

 たぶん……あたしも後で怒られるから。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 そして……あたしはここへ帰ってきた。

 あたしが戦うべき戦場へ……兄さんの生きる時間を守って、あたし達の時間につなげるために。



「マスターコンボイ、ジェットガンナー。
 イマジン一匹、もらうわよ」

「……吹っ切れたようだな。
 いいだろう。一匹任せるぞ」



 言って、マスターコンボイはサソリのイマジンに向き直る……さぁ、いくわよ!



「……リュウタロス」

「うんっ!」



 あたしの言葉に、リュウタロスがうなずく。

 そうだ……スバルとモモタロスが“できた”んだ。あたしだって……



 次の瞬間、何かがあたしの中に飛び込んできたような衝撃があって、そして――







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ティア!?」



 それは一瞬の出来事だった。

 リュウタロスさんがティアの中に入って……ティアのオレンジの髪に紫色のメッシュが入った。それに瞳も紫色になる。これって……



「リュウタロスくんが……ティアちゃんについた!?」



 あず姉も驚いてる……やっぱりそうなんだ。

 前回の事件で、モモタロスさんがあたしについたのと同じように、リュウタロスさんも……



「モモタロス、パス!」

「……へっ、しょうがねぇな!」



 ティアを通じて呼びかけるリュウタロスさんの言葉に、モモタロスさんが変身に使うパスを投げ渡す。それを受け取って、ティアの身体を使ってるリュウタロスさんは腰にベルトを巻く。







「変身」







 そして、リュウタロスさんがベルトにパスをかざして――







《Gun Form》







 変身した。プラットフォームに変身して、その上から装着されたのは紫のアーマー。

 そして、顔には竜の頭を模したオブジェ――他のフォームと同じように、仮面へと組み変わって装着される。



 変身を完了したリュウタロスさんはイマジンを指さして、言い放つ。











「……お前達、倒すけどいいよね?」



 クルリとターンして、さらに続ける。



「答えは聞いてない!」











「なら聞くなぁっ!」







 言って、カメレオンのイマジンが姿を消す――見えない状態から攻撃するつもり!?

 けど――







「オラァッ!」







 良太郎さんの中に入っていたモモタロスさんが空中に体当たり――何かが地面に落ちたような音がすると、そこにカメレオンのイマジンが姿を現す。

 ……って、モモタロスさん、アイツの居場所がわかるの!?



「あぁ。コイツの臭いがプンプンしやがるからな!
 鼻たれ小僧! パス返せ!」

「はいはいっと!」



 デンガッシャーを組み合わせようとしていたリュウタロスさんが、モモタロスさんに言われてパスを投げ渡す――受け取って、モモタロスさんは腰にベルトを巻いて、







「変身!」



《Sword Form》



「俺、参上!」







 電王ソードフォームに変身。いつもの決めポーズ。







「くそっ!」

「何度やっても同じなんだよっ!」







 また姿を消すカメレオンのイマジンに対して、モモタロスさんもデンガッシャーを組み――







「がはぁっ!?」







 ――上がる前にカメレオンのイマジンが吹っ飛ばされた……んだと思う。見えないけど。

 やったのは……







「確かに、サーチでアンタ達を見つけるのは難しいけどね……ここにいるってわかってるなら、サーモグラフィーなり空気の流れを検知するなり、方法はいくらでもあるんだよ」







 あず姉だ。戦斧型のアームドデバイス、レッコウを手に、姿を現したカメレオンのイマジンをにらみつける。

 あっちはあの二人……あ、良太郎さんを入れたら三人か。あのメンバーに任せておけば大丈夫だよね。



 じゃあ、あたしはティアと……







「ほな行こか、リュウちゃん!」

「えー? ボクにやらせてよ! 答えは聞かないからね!」

「まぁまぁ、そう言わんと」







 ……って、あ、あれ? もういぶきが行っちゃった?



 えっと……もしかして、あたし今回、控え組?



「別に乱入していって、フクロにしてやってもいいと思うが? すでに二対一のハンディキャップマッチなんだからな」



 ま、マスターコンボイさん、それはヒドイよ!

 はさみ撃ちくらいならともかく、三人とか四人とか五人とかで悪いヤツらを袋叩きなんて!



「……お前、今全次元世界のスーパー戦隊ファンを敵に回したぞ」



 あ、あれー?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「と、いうワケで……いくで、リュウちゃん!」







 もう……ジャマしないでよ!

 いぶきちゃんと二人で左右に別れて跳ぶ――サソリのイマジンが突っ込んできたから。







「お前ら……めんどくせぇんだよっ!」







 サソリのイマジンはそのままボクの方に突っ込んでくるけど……フフンッ、だ。当たってあげないもんねっ!



 いつも踊ってるのと同じ感じで、ステップを踏む。それだけで、イマジンはボクの動きについて来れなくなる。



 それでそれで――







「バンバンッ!」



「ぐわぁっ!?」







 サソリのイマジンの攻撃をかわしながら、ついでにガンモードのデンガッシャーを撃つ。



 攻撃の当たったイマジンがよろめいて――







「リュウちゃん、ナイスや!」







 そこにはいぶきちゃんがいた。手にした剣でイマジンに思いっきり斬りつける。



 向こうにいぶきちゃんが回り込むのが見えたから、試しにイマジンがそっちにフラつくように撃ったんだけど……うん、思い通りに動いてくれるのっておもしろい。カメちゃんの気持ちが少しわかったかも。







「なんかこれ、おもしろいね!」



「せやろ?
 コレが連携戦の醍醐味や! コンビネーションがキレイに決まると、スカッとするやんっ!」



「うんうん! もっとやろう!」



「お前ら……遊んでんじゃねぇぞぉっ!」







 イマジンが斧を取り出して斬りかかってくるから、かわして……いぶきちゃんが斬りつける。イマジンがこっちにフラついてくるから……







「あっち行っちゃえ!」







 撃つ!







「がはっ!?」



「ボクね、今すっごく楽しいんだよ!
 だからね、ジャマするんなら……怒るよ、いい?」



「答えは、聞かへんけどなっ!」







 あーっ! いぶきちゃん、それボクのセリフーっ!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「オラぁっ!」



「どっせぇいっ!」







 俺が斬りつけて、フラついたイマジンをジュンイチの妹の……えっと、あずき、だったか。アイツが手にしたでっかい斧でブッ飛ばす。







「あずさですっ! 柾木あずさっ!」



「別にいいじゃねぇか、あずき女!」



「え、もしかしてあたしのあだ名それで定着っ!?」



「気にすんなって言ってんだろうが!」







 答えながら、立ち上がってきたイマジンをぶった斬る。







「くっ、くそっ!」







 お、イマジンのヤツ、また姿を消すつもりか!?







「させないよっ!
 みんな、目と耳ふさいでっ!」







 は!? あずき女!?







〔モモタロス、言われた通りに!〕



「お、おぅっ!」







 あずき女がイマジンに向けて何かを投げる。で、俺は良太郎に言われた通り目をつむって耳をふさいで――ぅおっ、まぶしいっ!?



 目ぇつむってたってのに、すげぇ光が発生したのがわかった。



 ついでにすっげぇ音も。ありゃ、まともにくらったらまぶしくて目は見えなくなるわやかましくて耳は聞こえねぇわ、だな。







〔す、スタングレネード……!?
 あずささん、またすごいのを……〕



「は? 何だよ、そのスタンなんちゃらってのは」



「スタングレネード。
 強烈な光と音で、相手の目と耳をマヒさせる制圧兵器のひとつだよ……ほら」







 言って、あずき女が指さした先では、







「ぅおぉぉぉぉぉっ!? 目が、目がぁぁぁぁぁっ!?」



「何だ、何も聞こえねぇし、何も見えねぇっ!?」







 まともにくらったらしい。イマジンどもがもがいていて――







「目と耳くらいで大げさやなっ!」



「見えない聞こえない話せないの三重苦を乗り越えたヘレン・ケラーを見習えいっ!」







 巫女ねーちゃんとあずき女が、イマジンどもをブッ飛ばす……ヘレン・ケラーって何だ、おい。







「リュウちゃん、とどめや!」



「モモちゃん、決めちゃえ!」







 って、いけねぇいけねぇっ!







「鼻タレ小僧! ビシッと決めるぞっ!」











《Full Charge》











 ベルトにパスをかざしてフルチャージ。でもって、パスを鼻たれ小僧に放る。







「最後いくよ」











《Full Charge》











「いいよね?」







 鼻たれ小僧もフルチャージ。かまえたアイツのデンガッシャーにエネルギーが集まっていく。



 もちろん俺も……ってワケで!







「いくぜ! 俺の必殺技!」



『まっ、待て!』







 イマジンどもが声を上げるが……残念だったなっ!







「答えは聞いてないっ!」



「パートU、ダァッシュッ!」







 鼻タレ小僧の撃った光弾と俺のデンガッシャーのオーラソードがそれぞれの相手のイマジンに命中。イマジンどもは、木っ端みじんに吹き飛んだ。







「……イエイっ!」



「はっ、ざっとこんなもんだぜ!」







 ガッツポーズを決めて、鼻たれ小僧が変身を解除。じゃ、俺も……











〔待って、モモタロス!〕











 良太郎……?



 どういうつもりは聞こうとしたけど、すぐに答えの方から現れやがった



 イマジンの残骸が寄り集まって、ギガンデスになりやがった! 今回はヘビみたいに細長いヤツ!







「まさか……ギガンデスハデス!?
 スバル、マスターコンボイ!」



「うん!」



「わかった!」







 あずき女の言葉に、犬っ子とマスターコンボイのヤツがうなずいて――











「待って!」











 それを止めたヤツがいた。







「あたしが行く!」



「ティア!?」



「兄さんの時間を、好きにさせるもんですかっ!」







 言って、ハナクソ女2号が前に出る。なら、オレ達もデンライナーで……







「待って待ってーっ!
 ボクが行くーっ!」







 ちょっ、鼻タレ小僧!? どわぁぁぁぁぁっ!?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『ゴッド――オン!』



 その瞬間――あたしの身体が光に包まれた。その姿を確認できないほど強く輝くその光は、やがてあたし自身の姿を形作り、そのままマスターコンボイと同等の大きさまで巨大化すると、その身体に重なり、溶け込んでいく。

 同時、マスターコンボイの意識が身体の奥底へともぐり込んだ。代わりに全身へ意思を伝えるのは、マスターコンボイの身体に溶け込み、一体化したあたしの意識だ。



〈Earth form!〉



 トランステクターのメインシステムが告げ、マスターメガトロンのボディカラーが変化する――グレーだった部分が、まるで染め上げられていくかのようにオレンジ色に変化していく。

 そして――マスターコンボイの手の中でオメガが変形を開始。両刃の刃、その峰を境に全体が二つに分離すると、刃と共に二つに分かれた握りが倒れてつば飾りと重なりグリップに変形。二丁拳銃“ツインガンモード”となる。

 大剣から銃へと姿を変えたオメガを両手にかまえ、ひとつとなったあたしとマスターコンボイ、二人が高らかに名乗りを挙げる。



《双つの絆をひとつに重ね!》

「信じる夢を貫き通す!」



「《マスターコンボイ――Stand by Ready!》」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「《マスター、コンボイ!》」



 あたしとマスターコンボイの叫びが響き、大きく跳躍したあたし達はさらに背中のバックパックのバーニアによる噴射でさらに高く跳び上がり、



「ジェットガンナー!」



 次いでジェットガンナーが叫び、ビークルモードへとトランスフォーム。そこから機首を後方にたたみ、機体下部の装甲を展開して合体ジョイントを露出させる。

 そして、両者が交錯し――







『《ゴッド、リンク》!』







 あたし達三人の叫びと共に、バックユニットとなったジェットガンナーがマスターコンボイの背中に合体する!

 最後にジェットガンナーの後部――ロボットモード時に両足となる二基のメインブースターが分離するとツインガンモードのオメガに合体し、ガンナーショットに変形。あたしがそれを 手にしてかまえ、あたし達は高らかに名乗りを上げる。











『《ガンナァァァァァッ、コンボイ!》』







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「いくわよ!」







 ゴッドオンから合体までを一気にこなし、ガンナーコンボイとなったあたし達はハデスとかいうギガンデスと対峙する。



 すぐにギガンデスハデスが火球を吐いてくるけど、横っ飛びにかわしてガンナーショットで反撃する。



 と、その時……すっごく聞き覚えのある汽笛が……って!?







「デンライナー!?」







 そう。戦場に乱入してきたのはデンライナーだ。でも、どうして……







〈ボクもやるけどいいよね?
 答えは聞かないけど!〉







 って、リュウタロス!?



 聞こえてきた声はあの子のもの。展開されたウィンドウに映ったのは、あたしがさっきまで変身していた、リュウタロスがついた状態の電王。



 まさか……このデンライナーの乱入ってアンタの仕業!?







〈いっくぞぉっ!〉







 そして――空中に、デンライナーと同じように新たなレールが走る。そのレール上に現れたのは、デンライナーと同じような二両編成の列車。



 それは連結を外して二つに分かれるとデンライナーの路線に自らのそれを合流。前後からはさみ込むようにデンライナーと連結する。



 と、本家デンライナーの先頭が開いて――中から飛び出してきたのは、バイクに乗った電王リュウタロス。そのまま新たに連結した車両の先頭部分まで走るとそこにあったくぼみに突っ込むようにバイクをはめ込み――えぇっ!?







 いきなり新たな先頭車両の大部分が起き上がった。そして姿を現すのは、機械仕掛けの龍の頭部。







 見れば、後ろに連結した部分からも尻尾のようなものが展開されている。間にはさまったデンライナーを胴体に見立てて、巨大な龍と化したそれがギガンデスハデスに向けて口からビームを吐き放つ。



 ビームの照射を受け、ギガンデスハデスがひるんで――もちろん、あたし達だっている。ガンナーショットの連射も浴びて、ギガンデスハデスが吹っ飛ぶ。







「ちょっと早いけど、決めちゃうよ! いいよね!?」



「答えは聞かないだろうけど、答えてあげるわ!
 もちろんOKに決まってるでしょ!」







 リュウタロスに答えて、あたしは――ううん、あたし達は叫ぶ。












『《フォースチップ、イグニッション!》』











 あたし、マスターコンボイ、そしてジェットガンナー。三人の叫びに呼応して、セイバートロン星のフォースチップが飛来した。それはあたし達の背中に配置されたジェットガンナーのチップスロットに飛び込み、あたし達に“力”を分けてくれる。







〈Full drive mode, set up!
 Charge up!
 Final break Stand by Ready!〉








 この機体からだのメインシステムが告げる中、あたしのかまえたガンナーショットにエネルギーが集中していく。



 そして、リュウタロスもデンガッシャーをかまえて、同時、デンライナーの龍も口の中のビーム砲にエネルギーをチャージして――











「一発――」

《必倒ぉっ!》







『《カタストロフ、シュート!》』



「いっけぇっ!」











 あたし達の放った魔力弾と、リュウタロスの放ったデンガッシャー、デンライナーのビームがギガンデスハデスを直撃する。



 それでもなんとか生きてる、思ったよりもしぶといギガンデスハデスだけど……もう終わりよ!



 すでにあたしは、リュウタロスの操るデンライナーの上に乗り、距離を詰めている――ダガーモードに切り替えたガンナーショットをかまえて。







 目標を間合いに捉え、あたし達はギガンデスハデスに向けて跳び――











『《カタストロフ、ファング!》』











 ギガンデスハデスに、ガンナーショットの光刃で連続斬りを叩き込む!



 そして、あたし達はデンライナーに拾ってもらって離脱して、











『《皆、中》』











 宣告と同時――ギガンデスハデスは大爆破を起こして、消滅した。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……そう、お兄さんは……」

「うん……助けられなかった……」



 現代に戻るデンライナーの食堂車。話を聞いてうなずくかがみちゃんに、ティアナちゃんは少し寂しそうにうなずいた。



「過去を変えるって……思い通りにいかないよね……」

「うん……そうだね。
 変えたくたって……簡単には、変わらない」



 つぶやくティアナちゃんに答える。



「でもね、ティアナちゃん。
 流れていった時間があるから、今があるんだ。
 辛かった時間も、悲しかった時間も……みんな同じくらい重要で、大切なんだ」

「そう、ですね……
 忘れてました……自分の“今”を否定するということは、今まで自分を支えてくれたみんなの想いやがんばりも、一緒に否定することなんだ、って……」



 そうだ……ティアナちゃんはお兄ちゃんだけに支えられて生きてきたワケじゃない。他にもたくさんの人に助けられて、ここにいる。

 お兄さんだけじゃない。そういう人達の想いも、大切にしなくちゃ……



「……けど、そうなると少しおかしないかな?」



 ……って、いぶきちゃん……?



「いや、せやから、ティアっちと会ったことで、お兄さん、自分が死ぬ運命やって気づいたんやろ?
 せやのに、その辺の時間が書き換わってへん……亡くなり方が変わる、くらいのことは、あってもえぇと思うんよ」



 そういえば……

 ティアナちゃんのお兄さんがどう亡くなったかは、今回あずささんが教えてくれた……けど、特異点のボクから見ても、その歴史が書き換わった憶えはない。



「それに、や……」



 付け加えて、いぶきちゃんが見ているのは、向こうでコーヒーを飲んでいる……



「デカ長が何も言わへんのも、気にならへん?
 いつもやったら、乗車拒否を発動する・しない、くらいのことをリュウちゃんやらかしたんに……」



 それはボクも気になってた。

 時間が書き換えられずに済んだから不問、ってことだとしても、一言注意があっても良さそうなものなのに……



「簡単な話だ」



 って、マスターコンボイ……?



「注意する必要すらないさ。
 何しろ……最初からすべて歴史どおりだったんだからな」

『えぇっ!?』 



 マスターコンボイの言葉に、ボクだけじゃなくて他のみんなも声を上げる。

 マスターコンボイ……それ、どういうこと?



「つまり……こういうことだ」



 言って、マスターコンボイはデカ長の前に出て、



「貴様……知っていたな?
 ティアナ・ランスターとリュウタロスの今回の行動が、歴史の筋書き通りのものだったことを」

「………………」

「ティアナ・ランスターが過去に行き、ティーダ・ランスターに正体がバレる……それが歴史の必然だったのなら、貴様が目くじらを立てないのも当然だ。
 何しろ、時間は正しく流れていたんだからな」

「え、えっと……?」

「要するに、ティアナ・ランスターが過去で……つまりさっきまでいた時間でティーダ・ランスターと出会うことは、正しい時の運行の中でも実際に起きていたことだったんだ。
 ティアナ・ランスターによって自分の運命を知らされた、その上でオレ達の知るティーダ・ランスターの死があったのだとすれば、今回の事件で歴史が変わらないのも当然だ」

「…………その通りです」



 マスターコンボイの説明に、ようやくデカ長が口を開いた。



「ティアナさんとティーダさんがあの時間において出会うのは、時の運行の中で正しく起きていたこと……
 たとえ我々と出会うことがなかったとしても、彼女は“古代遺物ロストロギア”なり他の何らかの要因なりで過去へ跳び、ティーダさんと出会い、そして……」











「彼の想いを、受け継いでいたことでしょう」











「………………っ」



 デカ長の言葉に、ティアちゃんが息を呑む。



 けど、それは辛いから、とか、悲しいから、とかじゃなくて……



「人の記憶、人の想いこそが時間を作ります。
 彼から受け継いだ想いと時間……大切にしてくださいね」



 言って、デカ長は食堂を出ていった……あの、ティアナちゃん……?



「……大丈夫です」



 ハッキリと答えが返ってきた。ティアナちゃんは目尻に浮かんでいた涙をぬぐって、



「これからも、よろしくお願いします。
 みんなの時間を……あたしと、兄さんの時間を、あたしも守りたいから……」

「……うん。
 こっちこそ、これからもよろしくね」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 兄さん……見ててね



 まだまだ兄さんには遠く及ばないあたしだけど……できる限りやってみる



 だって……兄さんとの時間と同じくらい



 守りたい想いと、時間があるから……







(第7話に続く)


次回、とコ電っ!

 

「別に気にしなくてもいいよ。単にバレンタインが近いだけだから」

 

〈イマジンじゃなくて……ネズミが出たの〉

 

「つかさ!? どうしたのよ!?」

 

「エリオ、何やってんの!?
 めんどくさいからやめてよね!」

 

第7話「アンハッピー・バレンタイン」

 

「それじゃあ、良太郎! 後よろしく!」

〔ウラタロス!?〕

あとがき

マスターコンボイ 「ティアナ・ランスターメインのエピソードの後編となる第6話をお送りした」
オメガ 《話にバトルにと、本当にもうミス・ティアナ一色でしたね》
マスターコンボイ 「前エピソードのスバルに続いて彼女もリュウタロスと共に変身、と……」
オメガ 《まぁ、言うまでもないことですけど、射撃型つながりの変身ですね》
マスターコンボイ 「となると、前回のスバルとモモタロスはどうなんだ?
 近接パワータイプなら、スバルはむしろキンタロスと組むことになりそうなものだが」
オメガ 《いえ、チーム内のメイン格つながりで》
マスターコンボイ 「あぁ、そっちか。
 ……だが、そうなるとキンタロスはエピソード上誰と組むことになるんだ?
 ウラタロスはだいたい想像がつくが……」
オメガ 《そう考えると、ミスタ・キンタロスはまさか……》
マスターコンボイ 「……またスゴイ組み合わせになりそうだな……」
オメガ 《それともここで意表をついた組み合わせを持ってくるのか……》
マスターコンボイ 「あの作者はたまにそういう博打を打ってくるから油断できんしな」
オメガ 《まぁ、当面彼らとつるむのはフォワード陣であって私達じゃありません。
 巻き込まれるワケじゃありませんし、安心して高みの見物としゃれ込もうじゃありませんか》
マスターコンボイ 「ヤツらとメインで絡まないのとオレ達が巻き込まれるか否かは別問題だと思うのだが……
 ……と、そんなことを話しているうちに、今回もお開きの時間だ。
 では、次回も楽しみにしているがいい」
オメガ 《次回もよろしくお願いいたします》

(おわり)


 

(初版:2011/11/05)