「霞ノ杜神社の退魔巫女、雷道なずなよ。
 これからしばらくの間、お世話になるわね」



 ネガタロスとの初戦を無事に切り抜け、みんなで隊舎に帰還。

 そうなるとその後は当然、なずなとかギンガさん達が連れてきた侑斗さんとデネブさんとか……今回新しく合流した面々の紹介タイムだ。居並ぶみんなを前に、なずなが名乗る。



「ジュンイチさん達とは……やっぱり、大賀の龍神事件で?」

「よかった。ある程度は聞いてるみたいね。説明の手間が省けるわ。
 えぇ、そうよ。元々はあたしといぶき、それともうひとり……それぞれが所属する三つの神社、その三社合同の仕事だったんだけど、よせばいいのに首突っ込んできてね」



 尋ねる横馬になずなが答える……ほうほう、そういうコト言いますか。



「よく言うよ。
 『自分ひとりで大丈夫』なんて大口叩いた挙げ句河童の物量攻撃に押しつぶされかけて、ジンに“お姫様だっこで”助けられたクセしてさ」

「べっ、別にジャマしたとか迷惑だったとか言ってないでしょ!?」



 おーおー、真っ赤になっちゃってまぁ。



 けど、なずな。本当に大変なのはここからだよ。

 そう僕が内心ほくそ笑んだ瞬間、なずなの足元で鋭い音が響く。

 ムチが床を叩いた音だ。出所は――



「ふーん……ダーリンにお姫様だっこねぇ……」



 そーら、レヴィアタンがお怒りだー。嫉妬に狂ったソイツの相手でせいぜい苦労するがいいさ。



「あー、その……ひとついい?」

「何よ? えっと……スバル、だっけ?」

「あ、うん……
 えっと、大賀ってトコでの事件については、恭文達からある程度は聞いてるんだけど、霞ノ杜神社って、確か……」



 なずなに問いかける形でスバルが視線を向けるのは、いぶきのとなりでぷかぷか浮かんでいるチビ小夜さん――あ、なずながロコツに渋い顔した。まぁ、しょうがない話ではあるけど。



「……んー、まぁ、そういうこと。
 小夜さんを殺して、龍神との契約を許して……あの事件の遠因を作っちゃったのはウチの先輩達よ。
 それについては、明らかにウチが悪いのよね。ある意味ウチも加害者だわ」

「おやおや、身内に対して手厳しい」

「この一件に限れば、アタシの意見も共存派寄りだもの。
 アタシだってあの事件で学んだのよ。ただ倒せば、ただ討てばそれでいいってワケじゃないってことをね」



 ジュンイチさんに答えると、なずなはふと何かを思い出したみたいに顔を上げた。で、小夜さんに視線を戻して、



「あぁ、そうそう。小夜さんにちょっと用があったのよ。
 こっちに来ててくれて助かったわ」

「私に……ですか?
 何ですか? なっちゃん」

「……改めて言うけど、『なっちゃん』はやめてもらえない?」

「個人的にはとてもかわいらしいと思うので却下です。
 まさか、そういうご用件だったんですか?」

「何で思い出したように呼び方に抗議するためだけに別の世界まで出向いてこなくちゃいけないのよ!?」

「変わってますねぇ、なずなさん」

「ち、が、う、か、らっ!」



 小夜さんに対して力いっぱい言い返すと、なずなは軽くせき払いして、



「実はあの龍神事件の後、霞ノ杜神社では首謀者とされる“龍宮小夜”の、氷室山事件以降の足取りを追ってるんです」

荒魂あらみたまの方の私の……ですか?」



 なずなの言葉に、小夜さんが首をかしげる。



 けど……まぁ、とりあえず、霞ノ杜が何考えてるのかは想像がつくね。

 氷室山で殺され、龍神と契約した“龍宮小夜”……小夜さんの荒魂は、龍神の完全復活の方法を探しながら、“常世とこよへの妖怪達の避難と隔離”という自分の目的のために全国各地の妖怪達と接触していたはずだ。



 そう――“妖怪と接触していた”んだ。妖怪殲滅せんめつ派の霞ノ杜神社が、この事実を黙って放置するはずがない。



「……なるほど。
 “龍宮小夜”の足取りを追えば、必然的に妖怪の居場所に突き当たる。
 彼女の接触した妖怪を、片っ端から狩り尽くすつもりか」

「イクトさんの言う通りよ。
 それで……今回のイマジン事件でアタシが派遣された先にも、立ち寄った痕跡が見つかっていて、アタシに調査の指示が出ていたんです」

「あぁ、なるほど。
 そういうことでしたら、確かに本人に聞いてみるのが一番ですねぇ」

「はい。
 なので、後でいろいろと話を聞かせてもらいたいんですけど」

「はいはい、おっけ〜ですよ〜」

「じゃあ、後でお願いしますね」



 なずなの言葉に、小夜さんはあっさりうなずく――あれ、なずな、しきりにキョロキョロし始めて、どうしたのさ?



「いや……そういえば、ジンの姿を見ないなー、と思って……」



 ……ほほぉ。



「……ほほぉ」

「って、な、何よ、恭文もジュンイチもその意味ありげな笑いは!?
 あ、アタシはただ、知った顔がないなーって」



 うんうん。そういうコトにしといてあげる。

 けどね……



「フフフ……やっぱり見逃してはおけない存在みたいね。
 ダーリンにひっつく悪い虫は、早い内につぶしておかないとねー……」




 あっちで軽くバーサークしかかってるお姉さんの相手はよろしくね。骨くらいは拾ってあげるから。

 

 

 

 

 

――時の列車、デンライナー。次の停車駅は、過去か未来か――

 

 


 

第17話

わらわは帰ってきた!

 


 

 

「……ディエンドが?」

「あぁ」



 なずなちゃんの後は侑斗とデネブのことを知らない人達に説明。

 ……例によってデネブが侑斗を友達に“推薦”して侑斗に怒られてたけど。

 で……今はデネブの配ったデネブキャンディがなかなかみんなに好評で……というところで、侑斗から耳打ちされた事実。



 そっか……ディエンドも……あの人も来てるのか。



「あぁ。あの分だと、たぶん……」

「うん……
 ディケイドも来てる……クレアちゃん達が見たって」

「やっぱりか……
 ディケイドも、ディエンドも……となると……」

「うん……
 覚悟だけは、しておいた方がいいかも……」



 ちょうど、敵の後ろにネガタロスがいるってわかって、気合を入れ直したところだしね。

 もし、ボクらの考えている通りなら、これから戦いはさらに激しく、厳しいものになる。



 ボクらにとっても……







 ネガタロス達にとっても。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 敵の正体がネガタロス達だとわかって、さぁ、気合を入れていこう! と心機一転。

 ヤツらの送り込んでくるであろうイマジン達に備えて、僕らは……











『……ヒマだ』



 ヒマを持て余していた。











「クソッ、イマジンの臭いなんざまったくしねぇ。
 静かなもんだぜ」



 ものすごく不満そうなのは、もちろん良太郎さんについたモモタロスさん。



 あの戦いから早数日が経過。現在、僕らは街に出てネガタロス一派についての聞き込みをしていたんだけど……うん、見事なまでに収穫ナシ。



「そう言うな。
 平和なことはいいことだ」

「へっ、退屈なだけじゃねぇか。
 オレはな、ネガタロスやアイツの手下どもを相手に大暴れしてぇんだよ!」



 口をはさむピータロスだけど、モモタロスさんがそんな理屈で止まるワケがない。



 ちなみに、ピータロスは今現在イクトさんについてます……うん、試してみたらつけたの。で、居心地がいいらしくて居座ってる。

 その時のことを簡単に回想してみると……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「そういえばさぁ」

『………………?』



 朝一番、朝食の席でふと口を開いたのはウラタロスさんだった。



「思えば、ミッドに来てから、ボクら良太郎以外の人にもポンポンついてるワケじゃない?」

「あー、ついてるなぁ。
 オレはギンガの嬢ちゃんについたし」

「ボク、ティアについたーっ!」

「うん。そのリュウタとティアナちゃんだよ。
 あと、ボクとエリオくん……同じガンナー同士、長物使い同士、相性がよかったと思わない?」



 そういえば……



「何が言いたいんだよ、カメ公」

「つまり、ボクらは人につく上で良太郎にこだわる必要はなくなったってこと。
 良太郎についた状態じゃできなかったことも、それができる人につくことでできるようになる……」

「なるほど。
 良太郎を手伝うにしても、その手伝う内容に合った人間につけば、今まで以上に良太郎の力になれる、っちゅうワケか。
 確かに、良太郎もつようなった。もうひとりでも十分戦っていける……ついて、中から手を貸す以外にも、他のヤツについて外から力貸すこともできるようになったんやなぁ」



 モモタロスさんに答えるウラタロスさんの言葉に、キンタロスさんが納得してる……んだけど、



「………………本音は?」

「いや、せっかくいろんな人につけるようになったんだし、いろいろ試してみるのもおもしろそうだなー、と」



 尋ねるジュンイチさんに、ウラタロスさんは悪びれることもなくそう答える――うん、そんなことだろうとは思ってたけどね。



「……ふむ。
 ウラタロスに乗っかるワケではないが、確かに相性のいい相手を何人か見つけておけば、いざ良太郎殿につけない状況になった時も挽回は可能となるか……
 動機はどうあれ、有意義な提案ではあるな」



 けど、意外な方向からウラタロスさんにフォローを入れるのはピータロスだ。



「では、さっそく試してみるか。
 ……とうっ!」



 言うなり、ピータロスは光球に変化、飛んでった先には――



「どわぁっ!?」



 仕事中だったか、書類をとじたファイルを持ったイクトさん。ピータロスに“入られて”一瞬ビクリと身体を震わせて――



「……なるほど。
 確かに、いぶき殿の身体についた時よりなじみがいい」

〔って、何だ、どうした!?
 貴様、ピータロスか!? 何のマネだ!?〕



 イクトさんはあわててるみたいだけど、ピータロスはどこか満足げ……まぁ、ノリも似てるし、確かに相性はいいっちゃあいいのかも。



《となると、ノリの近い者同士でついてみるのがいいのかもしれませんね》

「ってことは、オレは……」

「モモタロスさん、僕といってみます!?」



 アルトの言葉に考え込むモモタロスさんへとすかさず立候補。

 ……いや、だって、正直モモタロスさんにつかれたスバルがうらやましかったりしたし……



「よぅし、そんじゃ、やってみるか!」

「はいっ!」



 ノリ気になってくれたモモタロスさんにうなずいて――







「ぅわぁぁぁぁぁっ!?」







 上がった悲鳴は――ウラタロスさん!?

 見ると、光球からイマジンの姿に戻ったウラタロスさんが地面に倒れるところだった……って、何事っ!?



「な、何なのさ、ジュンイチ……
 今の、一体……?」



 って、ジュンイチさん……?

 ウラタロスさんの声に顔を上げると、話を振られたジュンイチさんも困ったように頬をかくのみ……ねぇ、マジで何があったの?



「何もカニもないよ……
 彼のフラグ体質にあやかってみようと思って、ついてみたんだけど……そしたら、まるで身体をゴリゴリ削られるような激痛が……」



 激痛? ――つか、“身体を削られるような”?

 ジュンイチさんへと視線を向ける――えっと、説明できる?



「んー、侵入者排除プログラムが働いたんだよ」



 侵入者……排除?



「オレも、伊達や酔狂で生物兵器やってるワケじゃねぇってことだよ。
 兵器であるから、当然攻撃に対する防御はしてる。そしてそれには……オレの兵器としてのシステム部分、つまりオツムの中への侵入や干渉に対するガードも含まれる。
 ヴェートルでオレに親和力が効かなかった時、説明したと思うんだけど?」



 そういえば、そんな話をしたようなしなかったような……



「それが、オレについたウラタロスに対して働いたんだ。
 オレの意志とは無関係にオレの身体を動かそうとした信号を攻撃、そのアクセス元も含めて排除しようとした――それが、ウラタロスに対して激痛となって現れたんだろうな」



 人間もトランスフォーマーも関係ない。その身体を動かしているのは、結局のところ信号だ。

 つまり、それを操ることのできる憑依状態のイマジンは言わば信号の塊ってことだ。だから、ジュンイチさんの防御システムに消されかかった……



「そういうことだな。
 いやー、つくづく人間やめてるね、オレの身体」



 苦笑して、ジュンイチさんが肩をすくめる――やば。この人が自嘲モードに入る流れだ、コレ。



「ま、まぁ、ジュンイチさんにはつかない方が安全だってことだよね、要するに。
 けど、それ以外はけっこういけるみたいですね」



 とりあえずフォローを入れつつ話題転換。ポンと手を叩いてみんなに言って――







「そういえば……」







 ……リュウタ?



「トランスフォーマーはどうなのかな?」

「いや、つけるんじゃない?
 だって、ネガタロス達は擬似とはいえトランスフォーマーのボディと同じ作りのトランステクターにつけたワケだし」

「うん。そうだと思うけど……」







「人間になってる時は?」







 ウラタロスさんに言って、リュウタが見た先にいたのは――言うまでもなくマスターコンボイ。



「お、オレか!?」



 そういえば……そうだね。人間の身体だけどトランスフォーマー。トランスフォーマーだけど人間の身体……



「……確かめてみる価値は、ありそうだね」

「や、恭文!?」



 面白半ぶ……ゲフンゲフン。技術的興味からリュウタに乗っかった僕のつぶやきに、マスターコンボイはなぜか後ずさり。そのままきびすを返して逃げ出そうとするけど、



「ジュンイチさん」

「おぅ」



 以心伝心。パチンと指を鳴らす僕に応えたジュンイチさんがマスターコンボイをあっさり捕獲。



「ち、ちょっと待て!
 恭文、何のつもりだ!?」

「ん? もちろん、リュウタに試してもらうの。
 リュウタだって、試してみたいから言い出したんでしょ?」

「うん! やるやるーっ!」

「ま、待て! 落ち着け!」



 うん、往生際が悪いかな。



 おもしろそうなんだし……もとい、ジュンイチさんの機嫌を直してとばっちりを避けるため……じゃなくて、リュウタのアイデアをムダにしないために、協力してもらおうか。



「本音ダダもれだろうがぁぁぁぁぁっ!」



 えぇい、しぶといっ!

 もういいや。いっちゃえ、リュウタ!



「うん!
 いくよ――答えは聞いてないっ!」

「あぁぁぁぁぁっ!」



 ばしーんっ。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 はい。回想終了。

 そんなワケで現在、イクトさんにはピータロスが、そして――



「イェイイェイッ! おもしろーいっ!」



 マスターコンボイにはリュウタがついてます。



〔まったく、人の身体ではしゃぎおって……〕

「ねぇねぇ、ロボットモードになってもいい? トランスフォームしていい? 答えは聞い――」

〔さすがにそれは聞いてもらうぞ。ダメだ〕

「えーっ!?」

「ダメだよ、リュウタロス。
 こんな道の真ん中でそんなことしたら、いろんな人の迷惑になっちゃうから」

「……はぁい……」



 良太郎さんになだめられて、ひとまずリュウタは折れてくれた。

 それはそうと、ネガタロス関係で聞き込みに出てきたはずなのに……



「出てきませんね、イマジンの目撃情報」

《私達に対して宣戦布告していった以上、戦力を小出しにしたとしてももっと積極的に動いてくると思ってたんですけどね》



 なのに、イマジンを見たとか、何かやらかしたって話はさっぱり。

 あれからもう、次の行動を起こすには十分過ぎるくらいの時間が経ってるはずなのに、何の動きも見えてこない。



〔ヤツは『前回のてつは踏まん』とも言っていた。
 正面きってオレ達と事をかまえるより、万全の状態を整え、奇襲をかけることにしたんじゃないのか? かつての地上本部攻防戦で、各勢力がそうしてきたように〕

「んー、それはないんじゃないかな」



 リュウタにつかれたまま、支配力を弱めてもらって口をはさんでくるマスターコンボイの問いにそう答える。



「だって、そんな用意周到なの、ちっとも“悪の組織”らしくないもの。
 綿密なようでいて、結局のところ力押しとか能力任せ……“悪の組織”の作戦っていうのはそういうものだよ。
 あれだけ――病的って言ってもいいくらい“悪の組織”にこだわりのあるネガタロスだもの。“悪の組織”らしさを損なうような手口の変え方は、たぶんしてこない」

「だから、序盤の定番、“正義の味方との対面”を果たした今、次の手口は“作戦に応じて怪人派遣”のパターンがしばらく続くと思うんだけど……」



 ジュンイチさんと顔を見合わせて意見を交わす。

 うん、世はまさに平和そのもの……ネガタロス達がいなければ完璧、ってくらいに。

 ネガタロス達が何かしかけてくるはず。しかけてくるはず……そう考えると、この平和も不気味に思えてきちゃうもんだから、ホント迷惑な話だ。



 早いところヤツらをブッ飛ばして、正真正銘の平和を満喫したいもんだねー……











〈ヤスフミ〉











 って、フェイト……?



〈ヤスフミ……確か、イマジンの犯行パターンの中に、“特定の条件の人ばかりを襲う”っていうのがあったよね?〉



 ………………



「まさか、そのパターンで何かあった?」

〈うん。あった。
 今現場に向かってる〉

「わかった。
 じゃあ、僕も……」

〈うん。でも……〉



 ………………? いきなり表情暗くして……どうしたの?



〈良太郎さん達、一緒なんだよね?
 なら……来る前に血とかスプラッタ映画とか平気か、聞いておいた方がいいと思う〉



 ………………はい?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「…………ぅわぁ」



 はい。久々登場。フェイトのお姉ちゃんにして機動六課・情報分析分隊“ゴッドアイズ”の美少女分隊長、アリシアちゃんだよー♪



 いやー、ホントに久々だよ。話の中で名前すら挙がらない日々がどれだけ続いたやら。



 そんな日々にあばよ涙、夜露死苦ヨロシク・勇気な出番だってのに……







「なんでその現場がこんなに血みどろなの!?」







 うん。本気でこう叫びたくなったの。



 だって……うん。ありえない。それもかなりシリアス方向に。

 事件の現場になったナイトクラブは一面血の海。そこら中に人“だったモノ”がバラバラになって、床を満たす血の池にプカプカ浮かんでる。



 文句なしに“よい子に見せちゃいけない光景”ワースト1。フォワード陣の子達には見せられないわ。戦場帰りの兵隊さんに見せてもトラウマ刻みそうだもの。



 そんな凄惨せいさんな光景があたしの目の前に広がってるワケだけど……







「ぅわー、こらハデやなぁ」

「切断に使われたのは刃物じゃないわね。
 鋭利な爪、もしくは牙……あと……引きちぎってる……?」







 えっと……いぶきもなずなも、よくそんな平気な顔でその血の海を歩けるね?



「あー、まぁ、ウチらは職業柄……な」

「新米とはいえ、研修で現場検証には何度も立ち会ってるもの。
 妖怪が殺しの方向性で暴れた跡なんて、コレと大差ないわよ?」



 ……そーですか。



「アリシアちゃん」



 あぁ、あずさ――どうしたの?



「他の現場の写真、届いたよ」



 言って、あずさはプリントアウトしたそれを差し出してくる――さすがに、ウィンドウ表示でこの場にこれ以上スプラッタなものを展示する根性はないらしい。今さらって気もするんだけど。



 ――そう。“他の現場”。このスプラッタ劇場は、ここだけのものじゃない。

 昨夜一晩で、ここを含めて三軒のナイトクラブが血の海に沈んでる。

 被害者数――不明。だって五体満足な遺体なんてひとつもないんだもの。



「ここと同様に、吐き気を催してトイレに駆け込む鑑識さんが続出。かわいそうに、当分お肉食べられないだろうね」



 なるほど。そうして本職の鑑識さんが次々にダウンしちゃったから、鑑識もできる“ゴッドアイズウチ”に話が回ってきた……と。

 まぁ、魔法犯罪全盛のミッドじゃこんな血みどろ殺人が起きることなんてほとんどないから、鑑識さん達の免疫のなさもわからないでもないけど……



「いいじゃない。
 食費が浮いてけっこうなことだわ」



 とはいえ、一応プロなんだからそんな簡単にリタイアしないでほしい。軽くイヤミを飛ばしながら、状況を確認する。



 現場は三つともナイトクラブ。

 事件が起きた時、三ヶ所ともライブ中だった。

 三ヶ所とも、獣が飛び込んで大暴れしたみたいなスプラッタ状態の血の池地獄。

 そして――三ヶ所の現場は、事件発生の時系列順に並べられる。



 どう考えても、同一犯による連続犯行。そしてこの、ミッドの犯罪者らしからぬ手口……



「……イマジン、なのかもしれないけど……」

「けど、イマジンの犯行にしては、血生臭すぎるんだよねー」



 そう……あずさのその指摘が、あたしの中でも引っかかってる。

 イマジンだって、契約次第で人を殺す。けど、殺すにしたって、こんな血みどろな殺し方はしない。

 そう考えると、イマジンの仕業とも言い切れない。だとするとどこの誰が……?



 もう一度考えてみる。現場の共通項、手口の残虐性、連続性……



 つか、こんな血の海を一晩で三つって、どういう神経だろ。ここまでくると、もう楽しんでるとしか思えな――











 ――――待て。







 ……“楽しむ”











 その瞬間、欠落していたパズルのピースがストンとはまったような気がした。



 共通性、残虐性、連続性、そして――











 “娯楽性”。











「…………あずさ」



 確信と共に、あたしは告げた。







「これ……イマジンの手口じゃない」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「…………ところで」

「あぁ」



 聞き込みのために歩いて出てきてたので、フェイトが向かったって言う現場に向かうためビークルモードのマスターコンボイに乗っていく――その案に反対する人はいなかった。

 そんなワケで、現在マスターコンボイが安全にロボットモードに戻れるような広い場所を求めて移動中。

 どこかに手ごろにすいてる駐車場とかないかなー、とか思いながら、となりのモモタロスさんに声をかける。で、すぐに返事。



「さっきからプンプン匂ってやがる。
 アイツ……イマジンだ」

「しかもこれ……間違いなく、僕らの後をつけてきてますよね?」



 そう。さっきから、ずっと僕らの後をついてくる気配がひとつ。



 ――つか、振り向く度にあわてて物陰に隠れる、尾行のヘタすぎる黄色い怪人がひとり。



 モモタロスさんの証言で、イマジンだって確認はとれたけど……何アレ。

 ネガタロス達が差し向けてきたにしては、バカっぷりのベクトルが違う気がするし……



「野良イマジンか?
 でも、だとしたらオレ達に何の用だ?」



 ジュンイチさんも首をかしげる。野良イマジンだとしたら、用があるのは電王である良太郎さんの可能性が高いけど……



「つか……あのヘタすぎる尾行、なんとかならへんのか?
 オレぁもうツッコみたくてツッコみたくてしゃあないんやけど」

「ぅわお、キンちゃんってば関西人♪
 けど……まぁ、このままフェイトちゃん達のところへご案内……ってのはナシだね」



 キンタロスさんに答えるウラタロスさんの提案には全面同意。

 ちょうどいい感じに、人通りも途絶えてきたので――



「さっきからついてきてるイマジンさん。
 いい加減、出てきたらどう?」

「――――っ!?
 よ、よく見破ったね! このボクの完璧な尾行をっ!」



 ……もしもーし。マヂでツッコんでもいいかな!?



 ともあれ、僕に声をかけられて、問題のイマジンは物陰から出てきた。



 黄色の身体に黒いしま模様の昆虫系イマジン……ハチだね、アレ。

 しかも手足のモコモコを見る限り、ミツバチなんだろうけど……問題はその体格。

 全体的にスリム、且つ、出てるところは出ていて、引っ込んでるところは引っ込んでる、メリハリのある体格は……



「女……!?」



 モモタロスさんが思わずうめく――そう。現れたイマジンはどう見ても女性型。そういえば声も女の子っぽかったけど……つか、すごいアニメ声だった。



《女性型、ですか……
 それでボクっ子とは、クレアさんとキャラがかぶってしまっているじゃないですか》



 待て待て、アルト。ツッコむところはそこじゃない。



「そうだぞ、アルトアイゼン。
 現状、男女問わず大量発生してるツンデレキャラの群れに比べればこのくらい」



 ジュンイチさんもそういう問題じゃないから。

 問題は、コイツが何のために僕らの後をつけてたのか、ってコトでしょ。



 まぁ、電王である良太郎さんはそれだけでイマジンにとって天敵みたいなものだし、ジャマに思って……ってこともありえない話じゃ……







「蒼凪恭文……だね?」







 って、狙いは僕!?



「おいおい、契約者は恭文に恨みのあるヤツか?
 勘弁してくれよ。心あたりなんて多すぎて特定できないんだから」



 ジュンイチさんに言われたくない……って、何先行して前に出てるのさ?



「もちろん、アイツの相手をするに決まってるだろ。
 とはいえ、気が進まないよなー。イマジンとはいえ女の子。オレ、女の子の顔は殴らないことにしてるんだよね」

「フフンッ、余裕だね。
 けど、ジャマはさせないよ――ボクの契約者が、恭文くんに会いたがってるんだからっ!」







 ――って、え? 『会い』……何だって?







 問いただすヒマもなかった。ミツバチのイマジンは背中の羽根で羽ばたいて飛翔。一気にこっちに突っ込んできて――











 ドゴンッ!という轟音と共に、上半身が埋まっていた。



 ジュンイチさんの――





















 カカト落としを脳天にもらって。





















「――って、ちょっと待てぇぇぇぇぇっ!」



 何遠慮なくクリティカルヒットかましてる!? 女の子は殴らないとか言ってなかった!?







「顔面でもなければ殴ってもいないだろ?」







 なんかトンチみたいな答えキタ――――ッ!?



 つか、それにしたってコレはちょっとオーバーキルが過ぎないかな!?



「いや……コレについてはオレも驚いてる。
 思いの外キレイに“入りすぎて”」



 …………はい?



「いや、お前だって、かわすか防ぐか……相手のそういうリアクション考慮して、“それでも入れられる”ように攻撃打つだろ?
 オレもその前提で打ったんだけど……コイツ、かわしも防ぎもせず、何もしないままくらいやがった」



 ……えっと……つまり、ジュンイチさんの一撃に一切反応できなかった、ってことで……



「……コイツ……ムチャクチャ弱い?」

「………………たぶん」



 ジュンイチさんが答えると、



「――――ぶはっ!?」



 あ、イマジン、上半身自力で引き抜いた。弱いけどタフだな、コイツ。



「やれやれ……くたばってなかったようで安心したぞ。
 けどもうやめとけ。勝ち目ないのは今のでわかったろ」



 告げるジュンイチさんに対して、イマジンはプルプルと肩を震わせて……って!?





















「……びえぇぇぇぇぇんっ!」





















 泣き出したぁぁぁぁぁっ!?







「え!? ちょっ!? 待っ!? ぅえぇぇぇぇぇっ!?」 



 これにはさすがのジュンイチさんも大あわて。戸惑う僕らにかまわず、イマジンはこちらに背を向けて、



「お前なんか、契約者のお付きの人にやっつけられちゃえばいいんだぁぁぁぁぁっ!」



 なんか他力本願なことを言い残して、イマジンは泣きながら逃げていった……飛ぶのも忘れて、走って。



「…………えっと……」

『泣〜かした、泣〜かした。
 せ〜んせいに、言ってやろ』


「え゛、悪いのオレ!?」



 リアクションに困っていたところにモモタロスさん達にはやし立てられて、ジュンイチさんが戸惑いの声を上げる……この場合先生って誰だろ?



「って、それどころじゃないよ!
 イマジン、逃げちゃったよ!?」



 そんな僕らに対して、モモタロスさんと主導権を交代した良太郎さんが言うけれど……



「あー、大丈夫」

「恭文くん……?」







 昆虫ベース。

 契約者は僕に会いたい。

 (アイツの口ぶりからして)たぶんすっごく強い契約者のお付きの人。

 バカ。







 ……うん、たぶん間違いない。







「後ろにいるのが誰なのか、だいたい想像ついたから」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ぅわぁぁぁぁぁんっ! いぢめられたぁぁぁぁぁっ!」



 う〜む、見事に返り討ちにされて帰ってきたのぉ。

 しかしさすがは柾木ジュンイチ。こやつ相手に容赦なしとは、相変わらずの悪鬼羅刹ぶりだの。



「おー、よしよし、怖かったのー。
 しかしもう安心じゃ。わらわがついておるからの」

「ぐすっ……うん」



 く〜〜っ! カワイイヤツめ! 母性本能刺激されまくりじゃ!



「お、お待たせいたしました……」



 おぉ、店員が注文の品を持ってきてくれたか……何やら頬が引きつっておるが、気にする事はないぞ。こやつはこんなナリでもいいヤツじゃからな。



「さて……ではっそくいただくとするかの。
 ぷっくりころころ、ホットケーキ〜♪」











「やかましい」











 ちょっ――!?



 瞬間――炎が荒れ狂った。視界いっぱいに真っ赤な炎があふれ、わらわ達を押し流す――かに見えたが、



「はぁっ!」



 そこはわらわの人徳。頼れる側近がわらわ達に迫る炎を防いでくれる。



「大丈夫ですか? 姫」

「うむ!」











「……大丈夫じゃないんだけどね、こっちは」











 こっ、この声は!?



「何しろこっちは、そっちのバカにいきなり襲われたんだからさ」



 やはり……恭文!?



「さて、どういうことか、キッチリ説明してもらうよ――」











万蟲姫まむしひめ







(第18話に続く)


次回、とコ電っ!

 

「なんで瘴魔に戻ってるんだよ、お前?」

 

「ゲームだっていうのか!? コレが!?」

 

「お前ら……まさか大ショッカーの!?」

 

「フンッ、結論など、とうに出ておるわ!」

 

第18話「バカとゲームと勝ち名乗り」

 

「わらわ達瘴魔は、人類の敵……っ!」

あとがき

マスターコンボイ 『バカ再臨』。
   この一言ですべてが片づきそうな第17話だ」
オメガ 《ホントにこれで片づきそうですよねー。
 なんか不穏な敵が出てきてるのが完全に霞んでしまってるじゃないですか。》
マスターコンボイ 「まぁ、そっちについては正体に気づいた読者が大半だろうからなおさらだろうな」
オメガ 《ともあれ、そんな感じで帰ってきました、万蟲姫。
 しかも新たなバカをひっさげて》
マスターコンボイ 「ラストの描写だとホーネットもいるようだが……必然的にヤツの負担が増えていくことになるのは必至だな」
オメガ 《あ、そこはいいんですよ。
 読者がこの作品に求めているのは女の子キャラへの萌えとバトルの燃えと男性陣の不幸ですから》
マスターコンボイ 「最後のひとつが余計じゃないか!?
 それだとオレも期待されてることにならないか!?」
オメガ 《え? されてないと思ってたんですか?》
マスターコンボイ 「大きなお世話だっ!
 ……と、そんなことを話しているうちに、今回もお開きの時間だ。
 では、次回も楽しみにしているがいい」
オメガ 《次回もよろしくお願いいたします》

(おわり)


 

(初版:2012/01/29)