「んー……」



 あー、いきなり変なうなり声でのスタートでゴメンナサイ。柾木ジュンイチです。

 いや、だってうなりたくもなるもの。手元の“資料”の内容見ていたら……ね。



「ジュンイチさん!」

「……フェイトか」



 って、この気分の乗らない時に、また対応のめんどくさい子が……



「あぁ、来てくれたんですね!」



 ………………はい?



「こんなところで会えるなんて!
 あぁ、きっとこれは運命ですね!」

「………………」



 いつからこの子は運命肯定論者になったんだろう。

 そーゆーのを愛と勇気と露出趣味でブッタ斬ってこそのコイツだろうに……“運命フェイト”だけに。



「名前にかけなくてもいいですよっ!
 あと、『露出趣味』って何ですか!?」

「真ソニック」

「公式の私のバカーっ!」



 今さら言っても手遅れだと思うけどな。

 それにどーせ、『THE MOVIE 2nd』じゃお前の初脱ぎが全国のスクリーンで、しかもHD高画質で上映されることになるんだし。

 安心しろ。きっと『1st』のなのはのスターライトブレイカーみたく過剰表現バリバリの誇大表現バージョンだろうさ。思う存分その珠のお肌を衆目にさらして悦に浸って恭文とイクトに泣かれるがいいさ。



「悦になんて浸りませんしヤスフミとイクトさんを泣かせるつもりもありません!
 ジュンイチさん、私をストリッパーか何かとカン違いしてませんか!?」

「え…………!?」

「なんでそこでショック受けるんですか!?」



 ……まぁ、これ以上からかうと本気で恭文に斬られてイクトに焼かれるので、フェイトで遊ぶのはこのくらいにしておくとして。



「ん」

「…………って、え?」



 オレのボケにコイツが狼狽ろうばいしている間に取り分けておいた紙面を渡す。



「お前の目的はソイツ……万蟲姫の家族の資料だろう?
 アイツの本名を知ったオレが速攻見つけ出すだろうと踏んだその読みは悪くねぇが、交渉の仕方を誤ったな。
 変にゴマをすろうとするから遊ばれるんだ。素直に言えばオレだって素直に渡すのに……隠す理由がない限り」

「その“隠す理由”の有無が問題なんじゃないですか!」

「いらんのか?」

「いただきますっ!」



 ぷんすか、なんて擬音が見えそうな感じで、オレの手から資料を奪い取る。



「やっぱり見つけてたんですね……
 ……やっぱり、万蟲姫のことを“知らなかった”のはそれなりにプライド傷ついたと見えますね」

「まぁ……な」



 で……だ。



「それよりも……お前のことだから、アイツを捨てたバカ親どもを叱り飛ばしに行くつもりだろ?」

「当たり前です!
 いくら異能者だふつうじゃないからって、あんないい子を……」



 ……お前から、瘴魔の一員である万蟲姫を『いい子』と評する言葉が出たのは、喜ばしいことなんだろうけど……ね。



「やめとけ。
 もう、両親のどっちもオレらの文句を聞ける状態じゃねぇよ」

「どういう意味ですか?
 ……ハッ!? まさかすでにジュンイチさんが病院送りに!? それで面会謝絶とか!?」

「……お前はオレを何だと思ってるんだ?」

「えっと……ブーメラン?」



 ……たぶん『鉄砲玉』って言いたかったんだろうな。けど生還してくるから、戻ってくる=ブーメラン。誰がうまいこと言えと。



「とにかく資料ソイツを見てみろ。そーすりゃわかる」

「………………?」



 オレの言葉に、フェイトは首をかしげながら資料に目を通して……



「…………っ!
 ジュンイチさん……これ……!」

「あぁ」



 フェイトの言葉に、簡潔にうなずく。



「両親共に……事故死だ」



 そう……『もう文句を聞ける状態じゃない』ってのはそういうことだ。

 だってもう、この世にはいないんだから。



「しかも……だ。
 その事故の日付を見てみろ」

「日付……?」



 そして、オレの指摘に事故の日付を見たフェイトがまたまた顔色を変える。



「……彼女がジュンイチさんの家を出た、三日後……!?」

「日付的にはな。
 正確には二日後の夜、日付が変わった後の出来事だ」



 うめくフェイトに対してそう補足する。



「時間的に考えて、オレんちを出た後は一旦自分達のアジトに戻って荷物の整理……これで一日つぶしたと仮定すると、アイツが実の両親のもとに戻ったのはおそらく二日後……
 つまり……アイツが帰ったその日の晩に両親が死んだ……その可能性が高い」

「どういうことですか……?」

「オレが知るか」



 尋ねるフェイトを一蹴する――うん、知らん。



「そんなの知りたきゃ自分で聞け――」







「ちょうど、六課に向かって来てるところだ」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「と、いうワケで……思いっきり、踊るよー!」

「うんっ!」



 ……早朝の隊舎の中庭で、すっごく元気なのは、すっかり仲良くなったリュウタと僕。

 ネガタロスが出てきて、バカ姫一派が再始動して……まぁ、気合いを入れ直そうってことになったんだけど、だからってガチガチになっていてもしょうがない。

 と、いうワケで、僕らはもっと親睦を深めようってことで、リュウタからダンスを教えてもらうことになった。

 というか……さっきからずっと気になってたんだけど。



「んー? 恭文、どうしたの?」

「いや、えっと……どうして良太郎さんについてるのさ?」



 そう、リュウタは良太郎さんについていた。

 紫のメッシュと瞳ににウェーブかかった髪。それに……帽子。いつも通りのR良太郎さん。

 けど、ここは六課隊舎。外と違って本来の姿を隠す必要もないのに……えっと、必要あるのかな。これ。



「うーん……よくわかんない」

「わからずやってるのっ!?」



 まぁ……これもこれでリュウタらしいか。







「ごめーん、お待たせー!」

「お待たせしましたー!」







 と、声のした方を向くと……なのはとヴィヴィオがやってきた。

 なお、ヴィヴィオは運動着姿……そう、ヴィヴィオも今回のレッスンの受講者。なのはは……うん、ムリか。



「ほっといてっ!」

「お、ヴィヴィオおはよー」

《昨日はよく眠れましたか?》

「うん、バッチリっ!」

「って、聞いてよーっ!」



 はいはい。見学者は黙ってようねー。



「というワケで、さっそく始めちゃ――」

「ダメっ!」



 と、いきなりなのはがリュウタを止める。というか……どうして教導官モード?



「え、どうしてっ!?」

「まずはしっかり準備運動っ!
 ヴィヴィオもだけど、たぶん、恭文くんやリュウタロスさんもまだだよね?」

「あ、そうだね」

「うん、大事だよね」



 というワケで、まずは準備運動に入ることになった。

 なお……



「えー、いいじゃんそんなの。ボク、そういうのh」

「リュウタロスさん、ちゃんと……やりましょうね?」

「……はい」



 ……魔王パワー、恐るべし。



「だから、魔王じゃないもんっ!」



 それはともかく、十数分後……みんなで念入りに準備運動をしてから、改めてレッスンスタート。



 …………って……



「……えー、そういうワケで、みんながんばろうね〜」

《またテンション下がりましたね》

「……リュウタ、どうしてちょっと投げやりなの。先生なんだから、もっとしっかりとして」

「だって……」

「なのはママ?」

「わ、私のせいなのっ!?」



 どうやら、なのはに怒られて、ちょっとご機嫌斜めみたい。



 うーん、しょうがないなぁ……あ、そうだ。



 ふと思いついて、取り出したのはお久しぶりの……



「あー、あのベルトだー!」



 ヴィヴィオが表情を明るくして、僕の手に持つ物に熱い視線を送る……すっかり気に入られちゃったみたいだね。

 そう、サウンドベルトだ。最近使ってなかったけど……うん。使う使わない以前に、みんながメイン張ってばかりで僕はそれほど目立ってなかったしね。



「ね、リュウタ。
 いいもの見せてあげるからさ、機嫌直してよ」

「……え?」



 言いながら、ベルトを腰に巻く。そして、続けて左手から赤い携帯を取り出して……



「えっと……07……04……22っと」

《それで、リュウタさんのボタンですよ》

「わかってますって」



 そして、携帯のボタンをひとつ押す。



《Ryuu》



 そのまま携帯をベルトに装着する。携帯のエンターボタンを押してから、右手に持ったパスをベルトのバックルにセタッチ。



《The music today is "Climax Jump HIPHOP ver."》



 それを合図に、音楽が流れ始める……リュウタお気に入りのダンスナンバー。



「ぅわぁ、何ソレ!? おもしろい!」

「サウンドベルトっていうんですよ」

「欲しい欲しい! ボクもそれ欲しいな!」

「じゃあ、これ作ってくれた友達に頼んでみますよ。もうひとつ作ってくれないかって」

「ホントに!?」

「えぇ。
 一から作るだろうから時間もかかるでしょうけど……もうチケットもありますし、完成が事件解決に間に合わなくても、改めて持っていきますよ!」

「うんうん! 約束だからね!」



「ねーねー! 早く踊ろうよー!」



 リュウタと話してると、しびれを切らしたヴィヴィオから催促。それじゃあ……



「改めて、いっくよーっ!」

「うんっ!」

「はーい!」











「恭文!」











 ……来たよ。平和を壊すおジャマ虫。



「フンッ、おジャマ虫とはごあいさつだの」



 うっさい。味方してくれるつもりもないクセにフラフラやってくるようなヤツなんて、おジャマ虫で十分だ。



「で、何? またウチでバカやらかしに来たの?」

「まるでわらわがいつも何か騒ぎを起こしているような口ぶりだの……
 しかし残念であったな! 今回はわらわの方が“起こされた”側じゃ!」



 いや、それもそれで堂々と言えることじゃ……



「それって……」







「キミに新しくついたイマジンのこと?」







 ……って、え?

 リュウタの言葉に改めて見ると、万蟲姫の身体から白い砂が……これって!?



「新しい、イマジン……!?」

「もう、そう言ってるじゃない」



 驚くなのはにリュウタが口をとがらせる。

 ……そっか。モモタロスさんみたいに遠くのイマジンを察知することこそできないけど、目の前にいる相手にイマジンがついてるかどうか見抜く目は、リュウタの方がよほど鋭いんだっけ。


「で……ホントなの?」

「うむ。またつかれてしまっての。
 しかも……」



 その時だった。

 万蟲姫の身体が震えて、白い砂の塊が飛び出してきたのは。

 これが、万蟲姫に新しくとりついたイマジン……って……



「ハッ! うっとーしいんだよっ!
 離れろ、ガキが!」

「ぅわ〜んっ!」



 形作られた砂人形は、メープルみたく子供っぽい犬型イマジンと……その犬(子犬?)イマジンをいぢめるネコ型イマジン。



 ……って、いやいや、構図も構図でたいがいだけど……







『…………二体!?』

 

 

 

 

 

――時の列車、デンライナー。次の停車駅は、過去か未来か――

 

 


 

第19話

瘴魔わんにゃん物語

 


 

 

「じゃあ……今朝、六課に遊びに来ようと思って出かけたら、いきなり……?」

「うむっ!」



 とりあえずオフィスに案内。なのはが万蟲姫から話を聞いてみることに。



「それで、まぁ……ここにはイマジンの専門家もいるからの、“恭文と遊びに”から“こやつらについての相談”へと目的を変えてやってきた、というワケじゃ」

「ウチに来ることは変わらないじゃんか」



 サラリと万蟲姫にツッコんでため息――コイツ、本気で前回こっちとの共闘拒んだ自覚ないなぁ。



「えっと……おじゃまします……」

「聞いたよー! 新しいイマジンがついたんだって?」

「ん? お前ら……」



 そこへやってきたのは、108から書類を届けに来てくれたギンガさんとそれについてきたホクト。侑斗さんがそんな二人に気づいて――



「今度はどんな芸人さんが来たの?」

「……悪かった……
 今までのこっちサイドのイマジン達はそろいもそろってイロモノで、ほんっとーに悪かった……っ!」



 あ、泣いた。ホクトの無邪気な質問にさめざめと泣いた。



 それはそうと、問題のイマジン二体は――







「なんでてめぇみたいにナヨナヨしたガキと――ぶっ!?」

「そっちがボクの後から入ってきたんじゃないかぁ――ふぎゃんっ!?」

「やかましい」







 騒ぎ出すたび、マスターコンボイに砂人形な身体を粉砕されてる。

 なんか、話聞いてると子犬イマジンの後、乱入してくるような感じでネコ型イマジンが入ってきたっぽいけど……



「えっと……アイツらから話は?」

「まだ何も聞いておらぬな。
 ヘタに説明を求めたら、それを契約と受け取られるかもしれぬであろう?」



 あぁ、なるほど。



「代わりにホーネットに聞いてもらう……とかあったんじゃ……?」

「そう思って、一応連絡も入れたのじゃが……あいにくとホットケーキ作りを学んでもらおうとお料理教室に行かせておっての」



 尋ねるスバルに万蟲姫が答える――ホーネットもかわいそうに。



 ちなみに、メープルが何やってるかというと……







「もーっ! 二人ともケンカはダメだよーっ!」

「うっせぇぞ、ガキが!」

「びえぇ〜んっ!」







 ……と、こんな調子で役に立たない。完全体のクセに未契約体に負けてんじゃないよ。



 しょうがないなぁ、もう……



「おい、そこのバカネコ」

「はっ!? 誰がバカネコだ!?
 実体持ってるからってチョーシこいてんじゃねぇぞ、このチb



 瞬間、ネコ型イマジンの首から上――と、その上にプカプカ浮いてた下半身が砕け散る。もちろん、僕が蹴り砕いた。



「……誰が、よく『目に入れても痛くないほどカワイイ』って言うけどホントに入れても痛くないくらいの砂粒マイクロドチビだって?」



「……誰もそこまで言ってねぇだろ……」



 言って、オフィスの壁に叩きつけられた砂の塊が再びネコ型イマジンになる。

 ……よしよし、とりあえず子犬のイマジンからは引き離せたな。計 画 通 り。



「よく言うわよ。
 キレて蹴っての、結果オーライのクセに」



 ……引き離せたんだよ、ティアナ!



「じゃあ……聞かせてもらおうか。
 何を考えて、あのバカ姫についたのか」

「何を、って……
 ネガタロスって怖いヤツが幅を利かせてるから、さっさと誰かと契約して過去にでも逃げようと思って……
 それで、契約者を探してたらこの子が……」



 尋ねる僕に、子犬なイマジンが答える……ふむ。まだ子供の万蟲姫からなら、簡単な願いしか出てこないだろうと踏んだ……ってところかな?



「で、そっちのネコも理由は同じか?」

「ハッ、ネガショッカーなんか関係ねぇよ。
 さっさと契約すませて、好き勝手させてもらおうかと思ってたのに、このガキが目ぇつけた契約者候補に先に入りやがってよ。
 次を探すのもめんどくせぇから、オレも入って追い出してやろうかと思ったんだよ。悪いかコラ」



 ……ふむ。

 とりあえず、話を聞いた限りでは、どっちもネガタロスとは無関係の野良イマジンっぽいけど……



「えっと……ココアちゃん」



 マスターコンボイと顔を見合わせる僕らをよそに、万蟲姫に話しかけるのは良太郎さん。



「身体の方は大丈夫?
 僕も、イマジンが四人ついてるけど、最初の方、大変だったから……」

「ぜんぜんへっちゃらなのじゃ!
 わらわは瘴魔の姫! ひとりや二人や三人、背負えずしてどうするっ!」



 答えて、万蟲姫が「えっえん」と胸を張る――えっと、良太郎さん。



「お前……ガキに体力負けしてどうするんだよ?」

「あ、あはは……」



 モモタロスさんが僕らの考えていたことを代弁してくれた。苦笑する良太郎さんだけど……うん、フォロー不能。



 まぁ、万蟲姫が元気なのは、それはそれでよしとして……問題は新たについた二人のイマジンだ。

 知識的なところはともかく、対処については僕の一存でどうこうできる話じゃない。みんなはもちろん、特に裏技の専門家の話を聞いてみたいところなんだけど……



「ジュンイチさんはまたどっか行方不明?」

「あ、うん……」



 尋ねた相手は横馬だ。少しばかり考えた後、答える。



「局のネットワークにイマジンの情報がないか調べてたのは、見かけたんだけど……その後はさっぱり」

「情報集めてて……その後いなくなったの?」



 まさか、イマジン関係で何か見つけた? でも、それなら誰かに言ってくと思うんだけど……



「未確定情報だから……とか?
 ジュンイチさん、自分はともかく人を未確定情報で動かす、とかやりたがらないでしょ?」



 確かに、そういう時はまず自分が動いて確かめるのがジュンイチさんだ。

 それに、今となっては変な事件が起きたらイマジンの仕業、と決めつけることもできなくなってきた。別のヤツらの可能性だってある――そういう意味でも、自分の目で確認しておきたかったのかもしれないね。



「別の……?」

「ほら、こないだの事件で、グロンギが出てきたでしょ?」



 ボクの指摘に、ようやくなのはは気づいたみたいだ。「あっ」といった顔で僕を見返してくる。

 そう――



「グロンギ、オルフェノク、アンデッド、魔化魍まかもう……イマジン以外にも、これだけの種族が確認されてる。
 そいつらの起こした事件か、それとも……」











「別の種族が、新たに事件を起してるのか」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「…………あー、うん」



 正直に言おう。



「困った……」



 さすがに、コイツぁオレでも厄介と認めざるを得ないな。

 オレがいるのは、とあるマンションの一室。けど、そこはまさに「異様」としか言いようのないありさまだった。



 何しろ、鏡にガラス、金属面――何かを映しうるあらゆるものが、古新聞や広告で目張りされ、見えないようにされているんだから。



 そして……オレにはこの部屋の住人がこんな奇行に走った原因に心当たりがある……つか、イヤな予感しかしねぇよヲイ。



 けど、確かめてみないことには始まらない――現場を指揮していたゲンヤのオッサンに尋ねる。



「えっと……通報者は『鏡の中に化け物がいる』って言ってたんだよな?」

「あぁ」



 ビンゴ。



「『金属音のような甲高い音がする』とも言ってたんだよね?」

「あぁ」



 ……ビンゴ。



「で、局員が駆けつけてみれば部屋はもぬけの殻、と……」

「あぁ。
 部屋の鍵はかかっていたが、特に出かけたような様子もない。いったいどういうことなんだか……」



 ……ビンゴすぎるんだよチクショウっ!

 かんっぺきにミラーモンスターの仕業じゃねぇかっ!



 あー、くそっ、ネガタロスもやってくれるぜ。残虐度ナンバー1のグロンギの次は、対処のしづらさナンバー1のミラーモンスターかよ。



「おい……まさかガチだってのか? その通報」

「そのまさか」



 うめくゲンヤのオッサンにそう答える。



 しっかし……どうしたもんかねぇ、コレ。

 ミラーモンスターってのはその名の通り鏡の中にひそむ存在だ。鏡の中にいる限り、こっちからは手出しできない。

 オレ達が対処するには、こっちからミラーワールドに出向いて倒すか、獲物である人間を襲うためにこっちの世界に出てきたところを叩くしかない。

 だけど、オレ達にミラーワールドに入る手段はない……つまり対応は後者、“出てきたところを叩く”に限定されるワケだけど……



「問題は、どうやってミラーモンスターを出し抜くか、だな……」



 とりあえず……オッサン。



「ん? 何だ?」

「通報があったのってここの住人だけか?」

「いや……他にも何件か」

「よし、じゃあそっちの人達のところへ……」

「全員、行方不明だ」

「ダメじゃんっ!」



 あー、くそっ、ミラーモンスターに狙われている人の護衛につけば、ミラーモンスターを待ち伏せできたんだけど……



「良太郎達に頼んで、『龍騎』の世界のライダーとか呼び寄せられれば、それが最善なんだけどなぁ……
 “ライダー大戦”を通じて知り合ってるそうだから可能なはず……」



 こうなったら専門家に任せてのんびり高見の見物としゃれ込みたい……んだけど、デカ長が許してくれるワケないよね。うん、わかってた。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……姫は大丈夫だろうか……?」



 姫が六課に到着したと思われる時間から、ざっと二時間、といったところか……今のところ、動きは見られないようだが……

 やはり、オレも合流した方が……



「……い、いや、オレまで厄介になってどうする。
 オレ達はあくまで、本来敵同士の間柄。せめてオレくらいはけじめをハッキリつけなければ……」







「そんなもの、今さらな気はしますけどね」







 かけられた声がオレに答える……ん?



「フェイト・T・高町……?」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「万蟲姫が、イマジンの件で相談に来てるって聞いて、もしかしたらと思いましたけど……やっぱり、彼女を心配して様子を見にきていたんですね」



 ここは六課隊舎から見て海をはさんだ反対側の船着場。

 肉眼での目視は難しいけど、双眼鏡や望遠魔法なら簡単に隊舎の様子をうかがえる、そんな場所……外回りからの帰りに隊舎の様子を聞いて、ホーネットが来てるとしたらここだと期待して来てみたけれど……うん、いてくれてよかった。



「『よかった』……?
 姫と違って、オレは六課の人間からは歓迎されていないと思っていたが」

「そこについては微妙なところですけど……
 でも、私としては本当に『よかった』んです。
 少し……聞きたいことがありましたから」

「何……?」



 ホーネットが警戒を強めたのがわかった……でも、聞く。



「彼女の……万蟲姫のご両親のことで」

「――――――っ」



 ぴたり、と。

 見た目にもわかるほどハッキリと、ホーネットは動きを止めた――やっぱり。



「……知ってるんですね。
 彼女のご両親の……事故死のことを」

「あぁ」

「二人は、万蟲姫が家に戻ったと思われるその日、その晩に亡くなっている。
 そして、二人と万蟲姫の間にかつてあったこと……それを知るあなたが、今のように様子をうかがっていたことは容易に想像がつきます」

「何が言いたい?」

「かつて殺そうとしたくらい、彼女のご両親は彼女の異能を危険視していた……いえ、敵視していたと言っていい。
 そんな二人が、家に戻った万蟲姫に何もしなかったとは考えづらい。何かしらの……敵対行動に出た可能性は、捨て切れません。
 その敵対行動から彼女を守るために……」











「あなたが、殺したんですか……!?」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「…………む?」



 今後の対応を考えるにしても、まずはケンカする二人……というか、子犬イマジンをいじめるネコイマジンを止めないことには落ちついて話もできない。

 そんなワケで、ネコイマジンを中心にドタバタしていた僕らだけど、不意にバカ姫が顔を上げた。

 えっと……どうしたの?



「いや……恭文は聞こえなかったかえ?
 何か、金属音のような音が……耳鳴りかの?」



 耳鳴りのような、金属音……?



「それに、さっきから誰かがこっちを見ておるような……」



 見られてる……?

 なんとなくイヤな予感。周囲を軽く見回してみる。

 ……どこにも、おかしなところは……いや、待て。



 今、スバルのデスクの写真立て(みんなの集合写真入り)に何か映り込んだような……

 その“何か”を追って壁にかけられていた身だしなみチェック用の鏡に視線は移って――って!?







「みんな、危ない!」







 僕が声を上げるのと、ほとんど同時だった。

 僕が視線を向けた鏡から――額から頭上に向けて二本の大きな角を生やした馬面の怪人が飛び出してきたのは。

 僕が対応するには位置関係が悪すぎた。できたはせいぜい飛針を投げつけることぐらい――けど、その飛針もあっさり弾かれて、怪人は突然のことに驚いているみんなの間を駆け抜ける。

 狙いは――



(バカ姫!?)



 次の飛針を振りかぶる――けど、相手もすでに手にした二又の槍をかまえてる。

 槍が、万蟲姫に向けて突き下ろされて――











「アイギス!」











 弾かれた。

 金属同士がぶつかり合う音と共に、怪人のかまえた槍が。

 そして――







「ふぅ……間一髪、セーフ……」

「こなた!?」







 そう、こなただ。万蟲姫をかばって、僕のところまで後退してくる。



「よくわかったね」

「当然だよ。
 私だって『龍騎』は見てたんだからね」



 なるほど、僕とほとんど変わらない連想で気づいた、と。



 会話はひとまずそこまで。僕もアルトアイゼンをセットアップ。アイギスを片手にかまえたこなたと共に襲撃者をにらみつける。



 ――ミラーモンスターの、ギガゼール。“ガゼール=ガゼル”の名を冠してるクセにレイヨウ型というなかなかアレなあんちくしょうだ。



「やれやれ、ミラーワールドから六課に侵入とは、やってくれるね」



 ミラーモンスターは、僕らのいる世界とは合わせ鏡になった世界“ミラーワールド”の住人。

 そこには僕らはおろか人っ子ひとりいない――なるほど。向こうからならコイツらが群れで押し寄せてきたって阻む者は誰もいない。『龍騎』の世界のライダー以外は。







 ………………ん?











 ……“群れで押し寄せて”!?











 その事実に気づいて、自分の背筋が凍りつくのをハッキリと自覚した。

 そうだ……コイツは同種や亜種のメガゼールと群れを成して行動する習性がある! コイツ一体だけとは限らない!



 すぐに周囲に視線を走らせて――







「――ヴィヴィオ、後ろ!」







 なのはによって僕らの後ろに逃がされたヴィヴィオの背後に、ギガゼールの色違い――亜種であるメガゼールが現れたところだった。

 すでに振り上げられている槍がヴィヴィオを狙って――











「ヴィヴィオちゃんを守るのじゃ!」











 叫んだのは万蟲姫。そして――







 “三つの拳が”メガゼールに向けて振り下ろされた。







「大丈夫、ヴィヴィオちゃん!?」



 その内のひとつはメープルとして、残りは――







「待ってたぜ――願いを言うのをな!」



「契約しちゃえば、こんなヤツ!」







 ネコイマジンと、子犬イマジン――今の万蟲姫の発言を契約に実体化したのか!



 不意討ちに近い形で三発も同時にもらって、メガゼールがたまらずふらついて――







「もうてめぇは用済みだ!」







 ネコイマジンの跳び回し蹴りが、メガゼールの頭の角を蹴り折った。



 宙を舞う角のカケラをネコイマジンが空中でキャッチして――







「くたばれ――三下!」







 自分が落下する勢いも加えて、メガゼールの脳天にその角を突き立てた。



 文章での表現の難しい、文章とも声とも似つかぬ断末魔と共にメガゼールが爆散――ギガゼールは!?







「あぁっ! こら待て!」







 子犬イマジンが追いかけていたギガゼールは、オフィス一角に置いてあった姿見からミラーワールドへ――逃げられたか。



「間違いなく、ネガタロスの仕業だよね、これ……」

「自分に逆らった万蟲姫や、私達を狙ってきた……?」

「まさか、こないな方法で攻めてくるやなんてな……」

「けど、有効ではあるよ。
 考えてみれば、ミラーモンスターってこういう奇襲とか暗殺とかにピッタリなワケだし」



 こなたやティアナ、いぶきに返しながら、向き直るのはネコイマジンの方。



「一応……お礼は言っておくよ。
 ありがと、ヴィヴィオを守ってくれて」

「ハッ、気にすんな。
 あんなもんはついでだ、ついで」



 本当にどうでもいいように、ネコイマジンが答える……で、だ。



「それで、聞きたいんだけどさ……アレってどういう意味?」

「『アレ』ってドレだよ?」

「ほら、アレだよ、アレ。
 メガゼールに言ってた……」







「『もう用済み』って一言だよ」







「意味合いとしては『おかげで契約できた。ありがとう』ってトコだろうけどさ……言い回しが気になるんだよね。
 まるで、自分が契約できたことで“アイツの役目が果たされた”みたいじゃないのさ」

「あぁ、確かに、言われてみればそう受け取れるようなこと言ってるなぁ、オレ」

「え? 何ナニ? どういうこと?」



 僕の言葉に応えるネコイマジンに、子犬イマジンが首をかしげて――











「そいつぁ……こういうことだよ!」











 殴り飛ばされた。



 子犬イマジンが、ネコイマジンに……さっきまでいじめられていた時とは比べものにらならない本気度で。



「やれやれ、あんな一言だけで怪しまれちまうとは思わなかったぜ。
 いいカンしてるじゃねぇか、お前」

「そいつぁ……どーもっ!」



 言いながら斬りかかる――けど、かわされた。



「なるほど。
 つまり貴様……最初からネガショッカーとグルだったということか。
 さっきのミラーモンスターとやらは、お前への契約を万蟲姫に強要するための発破か」

「そういうこった。
 とっさの願いほど、その場で叶えやすいからなぁ。おかげでさっさと契約を果たせたぜ」



 イクトさんに答えて、ネコイマジンは万蟲姫へと向き直り、



「こんな敵陣のド真ん中で契約するハメになっちまったのと、あの犬ヤローがオレより先についちまったのが、誤算といえば誤算だったが……とにかく、契約完了。
 あとは……お前を殺すだけだ!」

「ココアちゃんから離れろ!」

「ジャマだ!」



 ネコイマジンに飛びかかるメープルだけど、裏拳一発で一蹴。殴られたのに『一“蹴”』とはこれいかに……って、ボケてる場合じゃなくて!


「てめぇ、何考えてやがる!」

「契約を果たしたからって、その子とつながったままその子を殺しちゃったら、キミも一緒にオダブツなんだよ?」

「あぁ、わかってるさ」



 立ちふさがるモモタロスさんとウラタロスさんだけど、ネコイマジンは光球化して二人やキンタロスさん、リュウタをすり抜け、



「だからやるのは……ここじゃねぇ!」



 言って、二つに“割れた”万蟲姫の中に飛び込んでいった――過去に、跳ばれた。



「――そうか!
 クソッ、やられた!」



 って、マスターコンボイ……?



「完全に出し抜かれた……っ!
 アイツ、最初から過去で万蟲姫を殺すつもりだったんだ!」

「どういうこと?
 なんでわざわざ、過去で……?」

「バカ、決まってるじゃない。
 アイツが万蟲姫を殺すためには実体化……契約する必要がある。
 けど、契約して、実体化しただけじゃ、あの子とつながったまま……ウラタロスの言ってた通りなら、そのまま万蟲姫を殺したら自分もオダブツよ。
 だから過去に跳んで、つながりを切ってから殺すつもりなのよ」



 首をかしげるつかさにかがみが答えるけど、



「ただ襲うだけなら、わざわざ万蟲姫本人につく必要はない――別のヤツと契約、実体化して襲ってくるだけで十分だ」



 そう異を唱えたのはマスターコンボイだった……うん、確かにその通りだ。

 つまり、今回万蟲姫を狙う上で、ネガタロスはさらにもう一工夫してる……?



「ヤツが過去に跳んだ、その意味を考えればわかる。
 今の万蟲姫達は、ネガショッカーに宣戦布告した……当然、ヤツらと敵対し、その襲撃を警戒している。
 だが……“過去の、敵対する前のコイツは?”」



 …………あぁっ!



「それこそがヤツらの計画。
 過去の、ネガショッカーとの対立関係にない状態のヤツらなら、敵の攻撃など警戒していないから、現代で襲うよりもよほど襲いやすい。抹殺も容易な上、敵対される歴史そのものがなかったことになる」



 そうか、だから万蟲姫に直接ついたのか。

 過去で速やかに万蟲姫を襲うなら、彼女の過去へ跳ぶのが一番手っ取り早いもの。



 なるほど……いろいろ考えてくれたじゃないのさ。

 けど……



「ま、オレ達のやることはいつも通りってことだよな」



 うん、モモタロスさんの言う通りだ。すなわち――







「イマジンに過去に跳ばれて意識のない万蟲姫にトドメを刺すのか?」



『違う』







 サラリとボケたピータロスに全員でツッコむ。



「わかっている、冗談だ」

「普段冗談言わねぇヤツが言うと冗談に聞こえねぇんだよ!」

「そうか。以後気をつけよう」



 あっさりとモモタロスさんに答えると、ピータロスは良太郎さんから空のチケットを受け取って意識のない万蟲姫の額にあてる。

 すぐにあのネコイマジンの姿と日付が浮かぶ――って、



「この日付……ジュンイチさんの大暴走事件のすぐ後だ。
 えっと、この日って確か……」











「彼女が……ジュンイチさんの家から実家に帰った日だよ」











「フェイト……?」

「ホーネット……貴様も一緒か」



 マスターコンボイと二人で名を呼ぶ……また珍しい組み合わせで。



「イマジンの能力について――時間跳躍については聞いた。
 ……やはり、この日付だったか」



 …………? 『やはり』……?



「今の姫に強くつながる過去があるとしたら、この日だと思っていた――そういうことだ」



 あっさりとホーネットはそう言うけど、えっと……フェイト、どういうこと?



「私にもさっぱり……ホーネット、教えてくれないから……」

「行けばわかる」



 フェイトに答えてホーネットはそれっきり口を閉ざして――







「わたしも行く!」







 って、メープル……?



「このままじゃ、過去でココアちゃんが殺されちゃうんでしょ!?
 だったらわたしも!」

「そうは言うけど……」



 メープルの言葉に、思わずモモタロスさんと顔を見合わせる。



 非常に言いづらいんだけど、えっと……







「貴様のようなザコがついて来てもジャマなだけだ。
 どの道万蟲姫も連れていくつもりはない。現代に残ってろ」



「ザ――――ッ!?」







 キッパリ言い切ってくれた勇者はマスターコンボイ。思わず絶句するメープルだけど、



「そ、そんなことないもん! ココアちゃんのためならがんばれるもんっ!
 もういいよ! 連れてってくれないなら自分で行くから!」



 ――って、過去へ跳ぶつもり!?



「ま、待ちなさいよ!
 アンタ達って、契約者が強くつながった時間にしか跳べないんでしょ!?
 同じ時間につながってでもいない限り、アンタが過去に跳んだって――」

「大丈夫!
 “わたしも、同じ時間につながってるから!”」



 ティアナの言葉に答えると、メープルは子犬イマジンの首根っこをつかんで、



「ほら、行くよ!
 キミもどーせ同じ時間につながってるんでしょ!?」

「い、いや、確かにそうだけどぉぉぉぉぉっ!?」



 子犬イマジンの悲鳴を残して、メープル……と彼女に引きずられた子犬イマジンは再び“割れた”万蟲姫の中へ――えっと、どういうこと?



 ネコイマジンにあの二人……三人のイマジンが、まったく同じ時間につながってるって……



 万蟲姫のつながった“過去”って、そんなに強烈なの……?



「言ったはずだ。『行けばわかる』と。
 ただ……」



 そう僕に答えて――ホーネットは僕らを見回して、



「ひとつだけ、約束しろ。
 向こうで見聞きしたことを……絶対に、姫にはもらさないと」



 え? え? ナニ? この警戒ぶり。



 いったい、この日に万蟲姫に何が……?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……そうか。
 わかった。オレにかまわずイマジンを追ってくれ。
 オレはオレで、ちょっと別件を追ってる」



 ゲイルにまたがり、街中を疾走しながら、オレは恭文にそう答える。



 ……とはいえ、ミラーモンスター相手じゃ、今の状態でできることなんてないんだけどさ。

 せいぜい、いつミラーモンスター関係の通報があってもすぐに駆けつけられるよう、こうしてパトロールっぽく走り回ってるくらい……ん?



 今、ミラーに何か……って!?



「ぅおっと!?」



 とっに身をそらして、バック転の要領でゲイルから跳び下りる――ミラーから飛び出してきた、オレののど笛を狙った爪をかわしながら。

 乗り手を失っても姿勢安定用のジャイロと制御AIを持つゲイルは転倒せず、そのまま安全に停止。そしてオレの目の前に降り立ったのは――



「……ガルド、サンダー……っ!?」



 ミラーモンスター、ガルドサンダー。



 コイツが巷のミラーモンスター事件の犯人なのか、それともネガタロスがオレにぶつけてきた刺客か、そこはわからないけど……いずれにせよ、狙いはオレってことか。



「やれやれ。人気者は辛いねぇ」



 苦笑しながら、オレはガルドサンダーに向けてかまえて――







「――――――っ!?」







 気づき、サイドステップ――直後、オレのいた場所に一撃が加えられた。



 不意討ちの犯人は……



「ジャッカルロード……アンノウンまで出てきやがったか……」



 あー、少なくともコイツは刺客で確定だわ。

 異能が当たり前のようにゴロゴロしてるこのミッドじゃ、超能力者だけを狙っていたアンノウンなんて「誰を狙ったらえぇんじゃーっ!?」状態だろうし。



 と、さらに現れる刺客さん達……おいおい、カッシスワームにライオンファンガイアかよ。



 現れた四体の怪人は、オレをグルリと包囲する……やる気マンマンってワケだ。



 けど……



「おいおい……コイツは何の冗談だ?」



 ネガタロスは、ひとつ大きなミスを犯した。



「よりによって、オレにこの四体をぶつけてくるなんてな」



 ヤツのミス、それは――











「オレのお気に入り怪人詰め合わせなんて……テンション上がってしょうがねぇや!」







 刺客の……人選ミスだ。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「本当によかった……
 あれから、あなたを捨ててしまったことを後悔して、ずっと探していたのよ」

「とにかく、無事で何よりだ」

「うむっ!」



 父様と母様の言葉に、わらわはうれしくて元気にうなずく――だって、戻ってきたわらわを二人とも暖かく出迎えてくれたのじゃから。

 かつて殺されそうになったことがあるだけに少し不安だったのじゃが……うむ、戻ってきてよかったの。



「ごちそういっぱい作ったから、今日はたっぷり食べて、ゆっくり休みなさい」

「うむ!」



 父様に答えて、わらわは母様の作ってくれた料理に手をつける。

 うむ、ホットケーキもよいが、やはり母様の作ってくれた料理は格別じゃの。



 おかげでついつい食べ過ぎてしまって……ふわぁ、眠くなってきたの。



「疲れが出たんだろう。
 気にする事はない。ゆっくり休みなさい」

「うむ……そうさせて……もらうのじゃ……」



 ベッドまで行く気にもなれなかった。わらわはテーブルに身を預けて……



「……喜べ、ココア」



 そんな、父様の声を聞いた気がした。



「何しろ……」











「初めてお前が、私達の役に立てるんだ」







(第20話に続く)


次回、とコ電っ!

 

「こんなの……万蟲姫がかわいそうすぎるじゃないですか!」

 

〈FINAL VENT〉

「飛翔斬!」

 

「柾木ジュンイチのもとに身を寄せて、わらわは知った……
 家族とは、血のつながりだけではないと」

 

「変身!」

〈Sting Form〉

 

第20話「さぁ、貫くよ!」

 

「あなたは、泣いたっていいのよ」

あとがき

マスターコンボイ 「……またしても万蟲姫一派のバカの人口比率が上がりそうな第19話だ」
オメガ 《というか……まともな人材いましたっけ? あそこ……》
マスターコンボイ 「あのホーネットですら、万蟲姫が絡むとバカ化するからなぁ……」
オメガ 《でしょう?
 それでいてメープルと今回の子犬イマジンですよ?》
マスターコンボイ 「それでいて組織として破たんした様子もないのだから、またすごい話だな……」
オメガ 《全員バカだから、それはそれで方向性が一致している、ということでしょうかね?》
マスターコンボイ 「またコメントに困る事情だな……」
オメガ 《とはいえ、そんな彼女達もネコ型イマジンのせいでシリアスムードですが》
マスターコンボイ 「鍵は万蟲姫の過去に、か……さて、どんな展開になるのやら。
 ……と、そんなことを話しているうちに、今回もお開きの時間だ。
 では、次回も楽しみにしているがいい」
オメガ 《次回もよろしくお願いいたします》

(おわり)


 

(初版:2012/02/21)