「そんな……!?」

「なのはさん達が……」

「子供に……!?」



 知らされた驚きの事実に、正直驚きを隠せなかった……一緒にこっちに来た、みなみちゃんやゆたかちゃんも同じく、だ。

 あぁ、私達三人だけじゃなくて……



「柊……それ、マジかよ?」

「残念ながら本当よ。
 なのはさんにフェイトさん、そして……ジュンイチさん。
 三人とも、子供の姿になって……」

「私達のことも、全部忘れてしまっているみたいなんです……」

「そんな……」



 日下部先輩や峰岸先輩も一緒……柊先輩(かがみさんの方)や高良先輩の説明に驚いてる。



「今、シャマル先生やサリさんが本格的に診てくれてる。
 終わったら、詳しい話が聞けると思うけど……」



 今にも泣き出しそうな柊先輩(つかささんの方)の話を聞きながら、泉先輩の方をチラ見する。

 見た感じは、取り乱したりしてる様子はない……けど、きっとそれはガマンしてるだけだと思う。

 私達カイザーズの中じゃ、今回やられた三人……特にジュンイチさんと一番近いところにいるのは、間違いなく泉先輩なんだから……



「とにかく……今はシャマル先生達の診断が終わるのを待つしかないんだよね……?
 だったら、他のみんなのところに行こう? もっと詳しい話、聞きたいし……」



 峰岸先輩の提案に、反対の声はなかった。カイザーズ全員そろって、他のみんなが待機してるっていう、ミーティングルームに移動することに。

 うー、合流するのが遅れに遅れた結果、最悪のタイミングで合流することになっちゃったっすねー。



 これから、いったいどうなっちゃうんだろ……?

 

 

 

 

 

――時の列車、デンライナー。次の停車駅は、過去か未来か――

 

 


 

第27話

クラナガンまるごと超決戦

 


 

 

「……それでサリ、シャマルさん」



 ……怪物が各所で大暴れ。で、それとやり合ってるのがうちら機動六課メンバーってのも、もうバレてる。

 いや、ギリで電王が実在してるってのも、バレそうな感じ?

 まぁ、そこはいい。カリムを含めた後見人のみんなは、これから情報の秘匿やら何やらがいろいろ大変だろうけど、もともと後見人ってのはそういうのが仕事なんだから、そこはいい。

 むしろ、問題は……もっと別のところで、もっとシャレにならないレベルで起こってるんだし。



「ジュンイチ達は、どうなのさ」

「……アウトだ」



 そのサリの一言で、室内の空気が一気に重くなる。



「身体が縮んじまっただけじゃない。
 オレ達のことはもちろん、今までのこと……きれいサッパリ忘れてる」

「もっと言うと……身体が子供の頃に戻った、その“戻った”時点から先、現在までの記憶が一切ないの。
 アイツらの言った通り、子供の頃から先の時間が、根こそぎなくなってる感じだわ。
 若返ったとか、そんなんじゃない……正真正銘、“戻ってる”……」

「そっか……」



 六課隊舎の会議室で、前線メンバーにチーム・デンライナー。そして合流が遅れてたメンバーがそろったカイザーズも全員集合……いや、正確には“ほぼ全員”か。とにかく、若干名を除いて集まってる。

 で、サリとシャマルさんによる、ジュンイチ、なのはちゃん、フェイトちゃんの診断結果を聞いてるってワケさ。



「それで……シャマル、エグザ。
 三人は、具体的に何年分の時間を“奪われて”いるんだ?」

「それぞれまちまち……だな。
 今の三人の年齢を下から言うと、ジュンイチが四歳、フェイトちゃんは六歳……一番上がなのはちゃんで、八歳……つか、九歳直前ってところだ」



 イクトの質問にサリが答える……はて、どういうことだ?

 サリの答えから逆算すると、単純計算でジュンイチが22年、フェイトちゃんが13年、なのはちゃんが10年近くの時間を奪われてることになる。

 ジュンイチとなのはちゃんなんか二倍以上の差がある……なんでこうもバラバラなのさ?

 話にあった、バラのイマジンのツタに拘束されていた時間に比例してるとか……いや、それはないか。だとしたらフェイトちゃんよりも長く捕まってたなのはちゃんの方が奪われた時間が少ないことの説明がつかない。



「……ヒロリス・クロスフォード。その答えなら明白だ」



 マスターコンボイ……?



「シャマル。サリエル・エグザ。
 他の二人はともかく……なのはは“魔法のことは一切覚えていないんだな”?」

「………………あぁ」

「そうね……
 フェイトちゃんも魔法の存在は知っていても具体的な知識はまるでないし、ジュンイチさんも、ブレイカーのことはもちろん、実家の柾木流のことですら、存在を知ってるだけで修行した覚えはまったくないって……」



 …………なるほど、そういうことか。

 つまり、あの三人は魔法やら武術やら、戦闘技能に関わることに触れ始める前まで“戻されて”いる……その手のことを学び始めてから今までの間の時間、戦いに触れていた間の時間を奪われて、知識も経験もまったくない、まっさらな状態にされちゃったワケだ。



「……三人の現状はわかった。
 それで……シャマル。三人を元に戻すことは、やはり……?」

「えぇ……
 単に身体が若返ったワケじゃない。記憶どころか身体の成長も、何もかもが昔の状態に“戻されて”る……ジュンイチさんの身体の、強化改造の件も含めて。
 情けないけど、手の施しようが……」

「……そうか」



 冷静に……冷静を装って、シグナムさんが尋ねる……けど、シャマルさんの答えは絶望的。

 まぁ、ムリないよ。こんな症例、前例なんかあるワケがない。

 なら、どうする? ジュンイチもフェイトちゃんもなのはちゃんも、ずっとこのままにしておくワケにはいかないしさ。

 唯一、ジュンイチが今までの人生で地獄を見ることになった原因である“遺伝子強化人間マトリクス・ブースター”化がなかったことになっているのが救いと言えば救いだけど……それだって、こんな形で救われていいはずがない。



「で、でもっ! 大丈夫ですよっ!」



 その声は、スバルちゃんだった。必死で、自分やみんなを奮い立たせようとするような声。



「きっと、そのイマジンを倒せば、こう……パーっとお兄ちゃんもなのはさんもフェイトさんも元に」

「……いや、そのイマジンを倒しても、元に戻るかわかんないぞ」



 そう言って、スバルちゃんの言葉を否定したのは、ゼロノス……桜井侑斗だ。

 ……つか、勇気があんだかKYなんだか。このメンツ相手にこの状況でそんな発言、普通する?



「ゆ、侑斗……」

「待ってよ侑斗、さすがに今はその話は……」



 デネブと良太郎くんが何やら焦ってるけど、もう遅い。うちの前線メンバー、思いっきり敵に回してるよ。



「……どういうことですか?」

「そうならない可能性だってある……ってことだよ」



 案の定、少し視線がキツくなったスバルちゃんに答えると、侑斗はイクトの方を見て、



「連中、『三人の時間を“奪った”』としか言わなかったんだよな?」

「あぁ……そうだ」



 イクトの答えに、侑斗は渋い顔をして、続ける。



「その話の通りなら、オレ達が今この時点でハッキリわかっているのは、アイツが三人の時間を“奪った”ということ、それだけだ。
 『元に戻したかったら自分達と全力で戦え』っていうネガタロスの言葉にしたって、『元に戻してやる』と言われたワケでも、『イマジンを倒したら時間が戻る』と言われたワケでもないし、そもそも敵の言葉だ。信用なんてできるもんか。
 つまり、アイツらが三人の時間を“戻せる”のかどうか……そして、イマジンを倒した時、そいつの影響から外れた三人の時間が、ちゃんと三人に“戻る”のか……オレ達には何の確証もない。
 “戻せない”、“戻らない”可能性は……ゼロじゃない」

「それって……イマジンを倒しても、お兄ちゃん達はあのままかもしれないってことですか?」

「そうなるな」

「『そうなるな』って……どうしてそんなに落ち着いていられるんですかっ!?」

「ちょっ、待ちなさいよ、スバル!」



 スバルちゃんが侑斗に詰め寄ろうとする。なので当然……ティアナちゃん達は止める。

 まったく、侑斗も侑斗だ。これでも態度崩さないって……そうとうだね。



「あー、スバルちゃん、落ち着け」

「サリエルさんっ! でも……!」

「いいから落ち着け」



 静かに言い放ったサリの一言で、全員の動きが止まる。

 それから、咳払いをして、サリが言葉を続ける。



「侑斗はただ、『“悪い方の可能性”も考えておかなきゃダメだ』って話をしてるだけだ。
 確かに、侑斗の言う通り“戻せない”、“戻らない”可能性はゼロじゃない……けど、逆に考えれば、“戻せる”、“戻る”可能性だってゼロじゃない。
 何もハッキリしてない今この段階で、スバルちゃんがキレる必要ないぞ」

「………………っ……
 ……すみません……」



 サリの説明にようやく頭が冷えたのか、スバルちゃんは深く深呼吸して、席に戻る。

 でも、サリの話は続く――そう、“悪い方の可能性”はそれだけじゃなかったんだ。



「それに……“戻せる”としても、それはそれでヤバイことになるかもしれない」

「どういうことですか?」

「“戻せる”っていうことは、ヤツは時間を奪えるだけじゃない……その奪った時間に、ある程度干渉できるってことだ」



 なずなちゃんの問いに、サリが答える……あ、それって……



「待って、サリ。
 それ、つまり……アイツら、奪った三人の時間を“見る”こともできるってことになるんじゃ……?」



 あたしの質問に、サリはうなずく……その言葉に、全員が理解したらしい。表情が引きつるのがハッキリとわかった。



 アイツらは三人の、子供の頃から今までの時間を根こそぎ奪っていった……それはつまり、“うちらと関わってきた時間もすべて奪われた”ってことだ。

 その時間を“見る”ことができるとしたら……あの三人が覚えてる、経験してきた、こっちの手の内のすべてを見ることができるってことだ。

 つまり……アイツらが奪った時間を“見る”ことができると仮定した場合、こっち手の内はすべて知られることになると思っていい。

 六課の警備体制がどうなってるとか、戦力とか技とか、各自の今後の課題、転じて今現在のウィークポイントとか……そういうのも全部。



「とにかく、何にしてもそのイマジンは急いで倒さなきゃいけない。
 アイツらの時間が戻るかどうか……その辺を一刻も早くハッキリさせなくちゃならないんでな」

「サリ、どういうことよ」

「……“時間”を奪われて、今危機に陥ってるのは、あの三人だけじゃないってことだよ」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「アルフが!?」

「うん。
 サリエルさんがもしやと思うて、美由希さんに地球の方を確認してもらったんよ。
 そしたら……アルフさん、突然倒れて、今、そうとう危ないらしい」

「……具体的には?」

「いきなり前触れなく衰弱しきって、昏睡状態や」



 ジャックプライムの問いに、はやてが鎮痛な面持ちで答える……気持ちはわかる。状況は最悪に近いからな。



「でも、どうしてアルフが……
 時間を奪われたのはフェイトであって、アルフは関係…………あ」

「気づいたか。
 そう……テスタロッサが現在から魔法を覚える前までの時間を奪われたということは……」

「フェイトがアルフを使い魔にした、その辺の時間も、一緒に奪われてる……!?」



 察したジャックプライムの声が震えている……これが人間の姿ヒューマンフォームなら、顔面蒼白といったところだな。

 ジャックプライムの気づいた通りだ。テスタロッサが魔法に関わっていた時間のすべてを奪われたことで、今のテスタロッサの側にはアルフとのつながりが存在していない……何しろ、今のテスタロッサはアルフを使い魔にする前の状態なのだから。

 その結果、アルフへの魔力供給が断たれた。彼女が倒れたのはそのせいだ。



「それで、アルフは……」

「うん、ユーノくんが忙しいんにいろいろ動いてくれてな。今、なんとかもたせてるところや。
 ただ……」

「あくまで応急措置にすぎない……
 一刻も早く魔力供給を復活させなきゃ、アルフは……」

「そや」

「何にしても、三人の時間を奪っていったそのバラのイマジンを早く倒す……というのが、今のところできる最善だ。
 少なくとも、それでいろいろとハッキリする――テスタロッサが元に戻ればアルフへの魔力供給も復活するだろうし、戻らなかったとしても、『戻らない』とわかることで本格的に他の方法へ移行できる」



 つまり、バラのイマジンを倒してもテスタロッサが戻らないようなら、彼女とアルフの絆を無視してでも別口の魔力供給ラインを確保してアルフを生かす。そして、そのための準備を今から整えておかなければならないということだ。



 テスタロッサとアルフの気持ちを考えると少し冷たい計算のようだが、必要な前提だ。

 テスタロッサが元に戻る希望にすがり、イマジンを倒しても戻らなかった時にどうすることもできなくなるよりは、元に戻らない前提で準備を進めておき、テスタロッサが元に戻って準備がムダに終わる方がいいに決まっている。



 何にせよ、イマジンを倒すことでテスタロッサが元に戻るかどうか――そこをハッキリさせなければ始まらない。すべてはそこからだ。



「……ビッグコンボイ」

「ダメだ」



 そこまで話が進んだ以上、コイツが何を言いたいかは容易に想像がつく……だから、釘を刺しておく。



「『あのイマジンは自分がやる』と言うつもりだったんだろう?
 そんなこと、許可できるワケがない」

「なんでさ!?」

「そんなこと、わかりきっているだろう」



 そう――わかりきっている。答えは簡単だ。



「貴様だけを特別扱いできるワケがない。
 何しろ――」











「あのイマジンをぶちのめしたくてウズウズしているヤツなど、オレを含めて六課中にいるんだからな」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「しかし、別の時間のザインが、こちらのザインと一体化していたとはな……
 野上。桜井……貴様らから見て、“そちらのザイン”はどういうヤツだったんだ?」



 ザインの復活、その経緯をマスターコンボイから説明されて、因縁の深いイクトさんが渋い顔でうめく……で、良太郎さん達に尋ねる。

 けど……良太郎さんは首を左右に振った。



「すみません。ボクらは、アイツとは直接戦ってないんです」

「“ライダー大戦”で大ショッカーと戦った時は、お互いかなりの大所帯での乱戦だったからな。
 オレ達と顔を合わせる前に、他のライダーにノされて退場……そんなところだったんじゃないか?」

「そうか……
 まぁ、“こちらのザイン”と同じようなものと考えれば、だいたい想像はつくが……」

「逆に、聞かせてください。
 そのザインって、イクトさん達から見てどんなヤツだったんですか?」

「……率直に言えば、策略という概念をそのまま人間の姿に置き換えたような男だったな」

「どこが『率直に』だよ。ますますワケがわかんねーよ」



 良太郎さんへの答えにモモタロスが不満そうにツッコんでくるけど……まぁ、今のイクトさんの説明が一番的を射てる。

 つまり――



「根っからの策士、ということだ。
 ヤツにとって、重要なのは“自らの策によって瘴魔を勝利させること”……ただそれだけだ。そこに倫理も誇りも立ち入る余地はない。
 目的のために必要ならどんな外道もかまわず行う……作戦上優先順位こそ生じるが、仲間どころか、自分自身の命すら、策を成すための駒としか見ていない。
 そんなヤツだからこそ、“降魔陣”のような、町ひとつを丸ごと地獄に変えるような作戦も平気でできる……」

「“JS事件”の時の例をひとつ挙げてやろう。
 ヤツはオレ達機動六課を無力化するために、この星の全土を人質にとるようなマネに出た」

「この星全体を!?」



 マスターコンボイの補足に、良太郎さん達はみんなそろって目を丸くする……まぁ、当然よね。規模が規模だもの。



「衛星軌道上の廃棄ステーションと、その周囲のデブリ帯を掌握したんだ。
 そして、隕石の如くデブリを地上に落とすと世界規模で勧告し、中止と引き換えにオレ達機動六課を差し出すよう言ってきた。
 しかも、それすらヤツの策にとってはただのオトリ……その脅迫に抵抗しようとしたオレ達、そしてオレ達が瘴魔に差し出されることで連中の戦力が強化されることを危惧し、阻止に動いたディセプティコン以下他勢力……一同がそろったところにデブリの雨を降らせて、直下の地区一帯もろともにオレ達を一掃しようとした」

「む、ムチャクチャやるね、ソイツ……」

「……言っておくが、その策にはまだ続きがあるぞ」

「まだあるんかい!?」



 うめく青亀に答えたイクトさんにキンタロスが驚く……そう。まだ続きがあったんだ。



「さっき、デブリ帯と共に衛星軌道上のステーションも掌握したと言っただろう。
 デブリだけじゃない、そのステーションすらザインは落とした。
 柾木に、“本来切ってはいけない切り札”を切らせるために」



 そう……あの時、あたし達に小惑星くらいの大きさがある廃棄ステーションの落下を止める方法はなかった。

 そんな中……唯一、ジュンイチさんにはその方法があった。

 けど、それはあまりにも強大すぎる力で……



「条件こそ厳しいものがあるが、その条件さえ満たしてしまえば、たとえ小惑星規模の大きさの物体すら消し飛ばすことが可能となる、一個人が持つにはあまりにも大きすぎる力……その力を世界の目が集まる中で使わせた。
 その結果、その力に世界は恐怖し、管理局はその脅威の排除……すなわち、柾木の排斥に動くこととなった。
 オレ達の一掃を狙ったのはただの“ついで”。世界が脅しに屈してオレ達を差し出したなら、またはデブリの一斉落下でオレ達を一掃できればもうけもの……その程度。
 本命はあくまで柾木ひとり……あの男を排除するために、ザインは平気で世界を丸ごと巻き込んだ」

「そこまでやるんですか、その男は……」

「そこまでやるんだ、あの男はな。
 こんな言い方はアレだが、あの時に比べれば、今回のことなどまだかわいい方だとすら言えるだろう」



 デカ長に答えて、イクトさんはため息をつく……確かに、ジュンイチさんひとりのためにミッド地上が焦土にされかけたあの時に比べれば……



「おそらく、一応の盟主であるネガタロスに配慮したのだろう。
 今まで対峙した限りでの言動や蒼凪から借りた『クライマックス刑事デカ』の内容から考えるに、ネガタロスは確かに悪人ではあるが、その本質は侠人――本来の意味での“極道”に近い。
 民間人を狙いこそするが、それもあくまで作戦に必要な範囲内に限った話……標的だけを狙い、それ以外の者を巻き込むことを良しとしない、そんな“誇り高き悪”の矜持をネガタロスからは感じる」



 イクトさんの言葉に、思い出す。

 確かに、ネガタロスの言動からは“悪の組織らしさ”っていうものに対する異常なまでのこだわりを感じる……逆に言えば、同じ悪事であっても、無差別攻撃とかセコイ犯罪のような、悪の組織がやらないようなものについては見向きもしないところがある。

 “悪党”ではあっても“外道”ではない……目的のためなら外道な手段も辞さないザインとは対極のところにネガタロスはいる。



「お前達の話や今までに明らかになった様々な情報から時系列を整理すれば、ザインがネガタロスを盟主として迎え、大ショッカー残党がネガショッカーとして再編されてから、それほど時は経っていないと推測できる……となれば、ヤツの組織内での立場はまだ磐石とは言えないはずだ。
 ここでネガタロスの機嫌を損ね、組織内での立場を失うのはヤツにとって大きな痛手……故に無差別攻撃系の作戦は使えず、ネガタロスの好みである、オレ達やクラナガンに標的をしぼった策に出るしかなかったんだろう。
 すでに大量殺戮系に分類される“降魔陣”を使っている点については、『機動六課に本気を出させるため』とでも言い含めているのだろう。先日の集落でこちらの危機感をあおっておき、今回が本命……というワケだ」

「つまり……ネガショッカーの中での地位が万全になったら……」

「“降魔陣”がかわいく思えてくるようなとんでもない作戦も、平気で使ってくるようになる……」

「ううん。そうはならないよ」



 いぶきやなずな、そしてイクトさんにそう答えたのは……



「こなた……?」

「そうなる前に、私達で叩けばいい。
 ……あ、違うか」



 ……そう、ね。確かに違う。



「明日、あたし達が叩くから……よね?」

「そういうこと」

「いやいや、それだけじゃダメでしょ。
 アイツらを明日叩くのはもちろん賛成だよ。でも……その中でも特に、なのはさんやフェイトさんを襲ったイマジンが最優先。早々に釣り上げて倒さなきゃ。
 でなきゃ、危ないんだよね? その使い魔……の人が」

「……かなりな」



 サリエルさんの話だと、アルフさんは本当にヤバいらしい。解決策を考えようにも現状では情報が少なすぎてどうしたものかって状況だ。侑斗さんのあのKY発言の通り、三人の時間が戻らないとしても……最低限、問題のイマジンを倒すってのは絶対にやらなくちゃならない。

 けど……



「ま、そこはあたしらが思う限り心配はいらねーけどな」

「ですね。
 苦戦すらしないかも。ひょっとしたら……秒殺?」

「いやいや、瞬殺くらいいくんじゃない?」

「………………?
 ヴィータちゃんもティアナちゃんも……あずさちゃんも、ずいぶんと言い切るね?」

「また自信ありげだな、おい」



 青亀やモモタロスが不思議そうに首をかしげるけど……まぁ、当然だ。

 だって、アイツらは絶対に怒らせたらいけないヤツを……ううん、絶対に怒らせたらいけない“ヤツら”を、完全に怒らせたんだから。



「ヤツらは、我々を完全に怒らせました。
 特に、蒼凪に炎皇寺にマスターコンボイ……この三人です」



 シグナム副隊長の言葉に、全員の視線が今名前の挙がった三人のうちここにいる二人……つまりマスターコンボイとイクトさんに集まる。



「だな。
 アレは完全にキレてる――バカ弟子はもう連中を細切れにするまでは止まらねぇ。お前らだってそうだろう?」

「当然だ」

「このまま黙って引き下がるつもりなどかけらもない。
 全力をもって……叩き伏せてやる」



 ヴィータ副隊長にイクトさんが、それに続いてマスターコンボイが答える――そしてあたしも、全面的に同意だ

 ついでに言えば、怒っているのは名前の挙がった三人だけじゃない。三人は『特にキレているトップ3』というだけの話――正直あたしも、そうとう頭にきてる。

 他の子達も、今はなのはさん達があんなことになったショックの方が大きいだけで、それが落ち着けば次に来るのはきっと、アイツらへの怒りの爆発……そしてそれは六課だけじゃない。間違いなく、あたし達とつながりのあるコミュニティ全体に波及する。

 あたし達を本気にさせたくて、全力のあたし達を倒したくてやらかしたらしいけど……アイツらは、その方法を根本から間違ったんだ。

 これで連中の壊滅は決定的になった……正直同情したくなるくらい確実に、アイツらはあたし達に叩きつぶされることになるだろう。







 …………ううん、違う。



 叩きつぶす。

 あたし達が、明日……絶対に。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 …………やられた。



 フェイトの……そして、ジュンイチさんとなのはの時間が、ネガタロス達に奪われた。

 その結果、三人は僕らと……どころか、魔法に武道、ブレイカーの力……そんな、“戦う力”と出会う前まで戻された。“戦う力”を根こそぎ奪われた。

 そして何より……僕らと積み重ねてきた、いろいろなこと……そんな時間を、奪われた。

 もう、三人とも僕らのことを覚えていない……いや、知ってすらいない。



 そして、そんな三人を前にして、僕は……











「びえぇ〜〜〜んっ!」











 ………………耳をふさいでます。

 場所は医務室。シャマルさんとサリさんによる三人の診断が終わった後、アイナさんが部屋(なのはとフェイトの部屋を臨時で託児室的な感じにすることになった)を用意してくれるまで待機状態。

 ……なんだけど、約一名、豪快に大泣きしてくれてます。



 現在年齢四歳……一番年下にされてしまったジュンイチさんだ。



 ちなみに、次にフェイト、なのはの順に現在年齢が高くなってる……というか、サリさん達の質問になのはが答えているのを聞いてピンときた。

 なのはは八歳まで“戻って”る……もっと具体的には、九歳になる直前、学年的には小学校三年生に上がるか上がらないか、くらいのところ。

 そう……なのはが魔法と出会う、その少し前の時期だ。

 同じように、フェイトはミッド出身だけあって魔法の存在こそ知ってたけどまだ教わってないって話だし、ジュンイチさんもブレイカーとしての力が目覚めるどころか柾木流すら習う前の状態。

 三人とも、戦闘技能を学ぶ前の状態にまで“戻されて”いる……いや、戦闘技能を身に着け始めてから今までの時間を“奪われた”と言うべきかな。だから、奪われた時間の長さや現在の三人の年齢にばらつきが出てる。

 で、話を戻すと……四歳といえば地球で言えば幼稚園に通い始めたばかり、まだまだ親に甘えたい盛りの年頃だ。

 そんな時期にたったひとりで見知らぬ土地に、見知らぬ人達の真っ只中に放り込まれれば、不安で泣き出したくなるのもわからないでもない。







 ………………“現在のジュンイチさん”を知っている身としてはとてつもなく違和感がデカイんですけど。







「わぁ〜〜〜〜〜〜んっ!
 おと〜さぁんっ! おか〜さぁんっ!」



 何この泣き虫さん。これが22年も経つと“アレ”になるワケ?

 確かに、“このジュンイチさん”から見たところの“4年後”には性格一変させるほどの事件が待ってるワケだけど……正直、同一人物の子供の頃とは信じられない。



《マスター、私も同感です。奇跡を見ている気分ですよ。ぶっちゃけ、そっくりな別人の子供とすり替えられたと言われた方がまだ信じられますって。
 ですが……どうします?》

「うーん……」



 そう。一番の問題は“この状態をどうするか”――元に戻す云々じゃない。それ以前に、この大泣きしている泣き虫暴君をどうやってなだめるか、だ。

 もちろん今まで何もしていなかったワケじゃない。すでに僕らの考えた作戦はことごとく失敗してる。



 “お菓子作戦”……食い尽くされた上に食べ終わったら大泣き再開。

 “おもちゃ作戦”……渡したおもちゃが好みじゃなかったらしい。やっぱり提供元が女の子であるヴィヴィオでは趣味が合わなかったか。リュウタに頼めばよかったと今さらながら反省。

 ザフィーラさんに子犬フォームに変身してもらっての“わんこ作戦”……気づかれる前にかんしゃくに巻き込まれて、全身の毛をむしられた。ごめんなさい。



 けど……うん、マジメにどうしよう。

 この年頃の子供っていうのは、周りの感情に簡単に影響される。このままジュンイチさんが大泣きし続けたら、フェイトやなのはにまで波及しないとも限らない。







「うぅ……」







 って、言ってるそばからフェイトが涙ぐんできてるしっ!



「……もういっそ、意識飛ばすしかないかな……?」

《落ち着いてください、マスター。
 普段の26歳バージョンのジュンイチさんならともかく、四歳の子供にそれはアウトです。
 今のジュンイチさんは、何の能力もない、ただの小さな男の子でしかないんですから》



 だよね。わかってるよ。さすがにそこまではやらないから。

 けど、実際問題、そのくらいやらないとこのちび暴君は止まりそうにないんだけど……











「……大丈夫だよ」











 …………って、え……?

 最悪、幼児虐待的な手段で黙らせるしかないかもと覚悟を決めかけていた僕をよそに、大泣きするジュンイチさんの頭をなでてあげたのは……



「……なのは?」

「大丈夫だよ。
 キミは、ひとりぼっちじゃないから」



 そう。未来の魔王こと高町なのは(もーすぐ九歳)だ――そのなのはに頭をなでられて、ジュンイチさんもなのはに気づいて顔を上げる。



「でも……おとーさんも、おかーさんも……」

「大丈夫。きっとすぐ来てくれる。
 ……ですよね?」



 言って、こっちに話を振ってきたなのはにうなずく。

 実際、すでに連絡は入れてある。霞澄さんがこっちに向かってきてるはず……同様に、桃子さんやリニスさんも。



「それに……わたしもいるよ。
 お母さん達が来るまでは、わたしと一緒に遊ぼう。ね?」

「………………うん……」

「ほら、そっちの子も」

「わたしも……?」



 なのはが声をかけたのはジュンイチさんだけじゃなかった。ジュンイチさんの大泣きが伝染して泣きそうになってたフェイトもだ。呼ばれて、顔を上げたフェイトの頭も、なのはは優しくなでてあげる。



「ひとりより二人、二人より三人……みんなで遊んだ方が楽しいよ。
 だから……ね?」



 なのはに笑顔で誘われて、フェイトもうなずいた。フェイトの手を取って、なのはが泣き止んだジュンイチさんのところへフェイトを連れていく。

 とりあえず、後はなのはに任せておけばここは何とかなりそう……つか、大したもんだわ。

 なのはだっていきなりこんなところにひとりで放り出されて不安だろうに、それでもちゃんとジュンイチさんのフォローに回って……ホント、どうしてこんないい子が魔王になんてなっちゃったんだろ?



「じゃあ……まずはお名前教えて?」

「名前……?」

「ボクの……?」

「うん。
 知ってるかな? 名前で呼べば、誰でもすぐに友達になれるんだよ」



 ………………前言撤回。

 高町流コミュニケーション術、すでにこの頃から健在でしたか。



「私……なのは。
 高町、なのはだよ」

「高町……」

「なのは……?」

「そう。
 二人は、お名前何ていうの?」



 けど……まぁ、二人のことはホントになのはに任せておけば大丈夫そうだ。

 一番年上でちょっとお姉さんぶっているなのはにこの場は任せることにして、僕は医務室を後にした。





















 ……医務室を出て、ひとり……隊舎の廊下を歩く。

 そして、込み上げてくる。本当に……いろんなものが。



「……アルト」

《はい》

「負けたね」

《えぇ》



 もう、そこは変わらない。

 僕は負けた……守れなかった。

 フェイトだけじゃない。なのはも、ジュンイチさんも……



 大好きな人も、大切な友達も、守れなかった。



《……見せないでくださいよ》

「何をさ?」

《あなたがそんな顔をしていると、全員の士気に関わります。
 だから……絶対にスバルさん達には、見せないでください》



 ……どうやら僕は今、そうとうな顔をしているらしい。



「……誰がなんと言おうと、どう思おうと……いつものノリで、“らしく”いてください」



 声は後ろから、振り返ると……リインがいた。



「それが、恭文さんの強さですから。
 ……でも」

《私とリインさんの前では、それでいいですよ。今だけは……落ち込んだっていいです》

「……礼は言わないから」

「いりませんよ」



 ……うん、何にしても……だ。



 アイツら……







「……このままじゃすまさない。絶対に」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……と、いうワケだ」

〈…………マジっすか〉



 マジなんだよ、正直な話な。

 あの会議の後、オレとヒロは、イクトの旦那に頼まれてある人物に連絡をとっていた……無線すら扱いきれずに壊すとか、どんだけなんだよ、旦那の機械オンチはよ。

 で、通信の相手は……相棒であるデバイス、バルゴラを受け取りに大賀温泉まで出向いたっきりになっていたジン・フレイホーク。

 ……いや、別に何の連絡もなく帰ってこなくなってたワケじゃないぞ? 話に挙がらなかっただけで、ちゃんと許可をとって向こうに滞在していた。

 その理由は……



「それで……正直戦力はともかく頭数がほしい。
 貴様にも戻ってきてほしいんだが……そっちのゴタゴタは大丈夫か?」

〈あぁ。
 なんとか騒動そのものは片づいたし……それに便乗して調子づいてた妖怪達もおとなしくなった。
 もう大丈夫だって、みなせも太鼓判を押してくれてる〉



 …………とまぁ、そういうこと。

 何でも、“龍神事件”とは別口で、大賀温泉でまた妖怪騒ぎがあったらしい……で、偶然そんな時に大賀に出向いてしまったジンが、ものの見事に巻き込まれたんだ。

 ……なんか最近、やっさんの不幸体質が伝染してないか?



〈ホントにありそうだからそこにツッコまないでくれませんかね!
 ……で、とにかく……バルゴラも大丈夫だし、そっちに合流してもすぐ前線に出られます。
 ただ……〉



 ………………?

 『ただ』……何だよ?



〈もっかい確認しますよ。
 なのはさんと、フェイトさんと、ジュンイチさんの話……マジなんですよね?
 特に……ジュンイチさん〉

「本当だよ。
 つか……なんでジュンイチを強調すんのよ?」

〈いや……今、オレの後ろで話を聞いてた“三人”が極度の興奮状態に陥ってまして〉



 ヒロに答えたジンの言葉に、納得する……そーいや“あいつら”もそっちにいたんだっけか。

 そりゃ確かに、フェイトちゃんやなのはちゃんよりも『ジュンイチがやられた』って部分にキレるわな。ジュンイチのヤツに恩があるって話だし、そこを抜きにしても三人そろって懐いてるみたいだし。

 ……とか指摘するよりも早く、ジンの背後から問題の“三人”の声が聞こえてくる。



〈当然だ! 我が自慢の臣下を“そんな”にされて黙っていられるか!
 ネガショッカーとかいったか……この怒り、ぶつけずおくものか!
 もはや全滅では飽き足らんっ! 我が魔導の限りをもって殲滅せんめつしてくれるっ!〉

〈もちろんだよっ!
 絶対ジュンイチもフェイトも、ついでになのはも助けるよっ! 相手が白旗上げたって ブッ飛ばしてやるっ!〉

〈その意気です、二人とも。
 明日は私とあなた達とでトリプル全力全壊ブレイカーです。今回ばかりは止めませんから、もう跡形もなく消し去っていいですよ〉



〈……とまぁ、こんな感じで。
 連れて行かないとこの場で爆発しかねませんから、連れてきますけど……ネガショッカーもかわいそうに。明日コイツらにどんな目にあわされるか〉

「そう言う貴様も、笑顔に反して目がまったく笑っていないな」

〈イクトさんだって人のこと言えるような顔してないじゃないですか〉

「そうか?」

〈そうですよ〉



「〈フッフッフッ……〉」



 …………おいおい、こえーよコイツら。オレもそうとう頭に来てるけど、その怒りがすっ飛ぶくらいにこえーよ。ヒロもヒロで、オレのとなりで同じくらい怖い笑顔を浮かべてるし。

 頼むから、敵と一緒に市街地まで薙ぎ払うようなマネはしないでくれよ。今のお前らを見てるとやりそうな気がしてしょうがないんだ、オレは。



〈じゃあ、オレ達もすぐそっちに向かいます。
 ただ、開戦までに合流できるかは……〉

「それでもかまわん。
 むしろ、開戦後に来てくれる方がありがたい……遊撃班扱いにしておくから、お前達の判断で救援がりそうなところに乱入してくればいい」

〈わかりました――じゃ〉



 そして、ジンとの通信は終了。とりあえずジン達についてはこれでよし……と。



「“Bネット”の方は連絡しなくていいの?」

「霞澄女史に連絡が行った時点で話が回っているはずだ。任せておいて問題はあるまい。
 ブレードに至っては、ネガショッカーの話をするだけで乱入してくるだろうしな」



 いや、問題ありそうな気がしてしょうがないんだがな。お前らの怖い笑顔を見てると、ブレードの旦那以外にも同等クラスのデストロイヤーが乱入してきそうで怖いんだよオレは。







「そっちは、連絡がついたようだな」







 あ、シグナムさん。

 そう。明日の戦いが(勝ち負けとは別のところで)心配になってきたオレに声をかけてきたのはシグナムさん。

 で、ヴィータちゃんと……リュウタロスもいる。シグナムさん達に頼んで、呼んできてもらったんだ。



「来てくれたか、リュウタ」

「……何なの? ボクに頼みたいことって」



 ……声のトーンが低い。リュウタも今回のことにはそうとう頭にきてるな。

 まぁ……それも当然か。やっさんやジュンイチ経由で、なのはちゃんやフェイトちゃんともすっかり仲良くなってたし。そんな二人やジュンイチが“あんな”にされて、リュウタの性格上黙っていられるはずがない。



「アイツらぶちのめしたくてウズウズしてるところに悪いな。
 けど……頼むわリュウタ。やっさんやマスターコンボイの……オレ達のバカに、付き合ってくれないか?
 フェイトやなのはちゃん……そして、ジュンイチのヤツを助けるためには、リュウタの力が必要なんだわ」



 ホントのところを言うと、時間さえあればオレ達だけでも問題はなかった……そう。“時間さえあれば”。

 けど、この状況はその時間的余裕を根こそぎ吹き飛ばしてくれた。明日は間違いなく激戦になる……だからこそ、明日のやっさんやマスターコンボイには“アレ”が必要になるはずだ。



「……ボク、何をすればいいの?」

「それは今から説明する。
 けど、その前に……リュウタ、ありがとな」

「いいよ、お礼なんて。
 恭文もマスターコンボイも……みんなの友達だもん。フェイトお姉ちゃんも、なのはお姉ちゃんも……ジュンイチだって、そうでしょ? だったら、絶対助けなきゃっ!」

「あー、リュウタ。それはちょい違うぞ」



 となりで黙って話を聞いていたヴィータちゃんが、ひとつだけ訂正を入れた。



「アタシらだけの話じゃねぇよ。
 お前も、もうバカ弟子達と友達だろ? もちろん、アタシ達ともだ」

「……うんっ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「…………よし、と」



 うし、刀の手入れ完了。

 傍らに置いてあったサヤを手に取り、刀を納める――キンッ、と鳴った金属音が、いい感じに気持ちを引き締めてくれる。



「がんばりましょうね、いっちゃん」

「せやね」



 作業をずっと見てた小夜さんにうなずく――せや。明日の戦いは負けられへん。絶対に勝たんと。

 でないと、じゅんさんやフェイトさん、なのはさんの“時間”は取り戻せへん。

 …………ゆーくんは『取り戻せないかもしれない』的なこと言うとったけど、それはあくまで可能性の話。

 絶対に取り戻せる……ウチは、そう信じてる。



「そうね……
 なのはさんはともかく、フェイトさんやジュンイチには大賀での借りも返さなきゃならないし、絶対助けないとね」



 ウチと同じように武器の手入れ中……刃の手入れを済ませて、本体のチェックをしてるなっちゃんもやる気十分。

 というか……『なのはさんはともかく』って、ひょっとして、模擬戦で負けたん根に持ってる?



「そりゃ悔しいわよ。少しも近づけないまま弾幕と砲撃で黙らされたんだから……って、そこは今の状況とは関係ないわよっ!
 そうじゃなくて、なのはさんは“龍神事件”にはかかわってないでしょうが! ジュンイチ達と違ってあの人には借りを作った覚えはないのよっ!」











「……緊張感ないな、お前ら」











 あ、ぴーちゃん。



「…………今さら改名させろとは言わん。
 だがせめて、その『ぴーちゃん』はやめろ」

「言うだけムダよ、ピータロス。
 どれだけ言っても、コイツが呼び方改めたりするもんですか」



 むー、ぴーちゃんもなっちゃんも失礼やな。



「で? そう言うアンタはどうなのよ?
 まさか緊張でガチガチになってたりしないでしょうね?」

「フンッ、バカを言え。
 このオレが、あんな程度の低い連中と戦うのに緊張する必要があるはずがなかろう」



 なっちゃんの挑発にぴーちゃんも笑いながら受け流す……ぴーちゃんもいい感じにリラックスしとる。

 この分なら明日は大丈夫やろ……うん。絶対に勝つ。



 口実を見つけて、まーくん達に会いに来て……電王のみなさんと出会って、手伝うことにして……ぶっちゃけ言えば、ウチが今六課にいる理由はそれだけや。

 せやけど……それだけの理由でいただけのウチにとっても、ここはすごく居心地がよかった。

 そう……なくしたくない、守りたい。そう思えるくらいに、ウチはここが気に入った。

 この機動六課という場所も、まーくんとかやっちゃんとか、ここにいる人達みんなのことも。



 せやから……、守ってみせる。

 じゅんさん達の“時間”も、この機動六課という、まーくんやみんなの居場所も。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ぷっくりころころ、ホットケーキ〜♪」



 いくら決戦前でも、フェイト殿達が大変なことになっていても、六課の食堂は平常運転。そんな時でもお腹はすくんじゃから当然じゃの。

 しかし、おかげでわらわはおいしいホットケーキが食べられるのじゃから、実にありがたい話じゃ。



「ホントだよねー」

「ここのご飯、おいしいもんねー」

「みんな、食べたいものがあったら言いなさい。すぐ獲ってくるから……ネコイマジンが」

「オレかよっ!? そして『“獲”ってくる』のかよ!?」



 メープル達もそれぞれにご飯を楽しんでおる……ネコイマジンは微妙じゃが。



 ……あぁ、そうそう、ネコイマジンで思い出した。



「そういえばネコイマジン……お主、名前は決まったのかえ?」

「……考えてるどころじゃねぇだろ。
 ま、どうしても取り急ぎ決めろっつーなら、今夜一晩時間くれや。それで何とかなるだろ」



 うむ、そうしてくれ。

 じゃがの……わらわ達が考えてやると言うたのを拒否ったのじゃから、それ相応にカッコイイ名前でなければ納得せんからな?







「……やっぱりここにいたか」







 おぉ、ティアナではないか。お主も食事かえ?



「まぁね。クロスミラージュの手入れしてたらこんな時間になっちゃって。
 ……つか、ちょっと拍子抜けね」

「ん? 何がじゃ?」

「アンタのことだから、『アイツに申し訳ない』とか言って凹んでるかと思ってた」



 ティアナの言う『アイツ』――すぐに思い当たった。



「失礼じゃの。
 確かに、何もできなかったのじゃ。恭文に対して申し訳ないとは思うがの……凹むどころか、フェイト殿やジュンイチ達を“あんな”にしてくれたネガタロス達に対して怒り心頭じゃが?」

「……の割には、怒り狂ってるようにも見えないけど」

「ここで怒っても疲れるだけじゃからの。
 だったら、今はガマンするのじゃ……明日までしっかり溜め込んで、明日ネガタロス達に向けて大爆発じゃ」



 答えて、ホットケーキを一口。そして……フリーになったフォークでそちらを指す。



「そちらの二人も、爆発するのは明日の本番までお預けにしていると見たが?」

「ま、オレらはな」

「というか……キミ、ホントに10歳? ものすごく将来有望そうなんだけど」



 ふふんっ、そんなこと言うと調子に乗るぞ。よいのかえ?

 まぁ、それはともかく……わらわが話を振ったのはウラタロス殿とキンタロス殿。二人ともナオミ殿のコーヒーを手に夕食後のまったりタイムの真っ只中。



「ま、先輩ならともかく、ボクは怒り狂って八つ当たり、なんてガラじゃないしね。
 ほら、ボクってクールで知的なキャラだしさ」

「見苦しく怒り狂うのは、男のすることやない。
 本物の男っちゅうもんは、本当に怒らなあかん時、本当に怒らなあかん相手に怒るもんや」

「……だそうじゃぞ、ティアナ?」

「……クマはともかく自分で『クールで知的』とか言っちゃう亀にツッコめばいいのか二人の心情をズバリ言い当てたアンタにツッコめばいいのかどっちなのよ……」



 それはもちろんウラタロス殿で。



「迷わずボクに振ったね……
 ホント、いろいろと将来有望な子だね。どう? 今度改めてお茶でもしながらじっくり話さない?」

「って、アンタは10歳児をナンパしないっ!」



 ティアナが絶妙な感じにウラタロス殿を蹴り倒す――うむ。ティアナもいい感じにリラックスしておるの。これなら明日は大丈夫そうじゃ。



 見ておれよ、ネガタロス、そしてザイン……

 こう見えてもわらわ、ムチャクチャ怒っておるのじゃからな……明日はわらわのマジギレ本邦初公開、覚悟しておれよ?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 事あるごとに言っていることだが、いくらトランスフォーマーと言えどヒューマンフォームに変身すればその身体は人間のそれとさして変わらない……それは決して比喩ではない。身体機能、具体的には生体活動までもが限りなく人間のそれへと変換される。元々人間に“擬態”するために発展した技術なのだから、当然と言えば当然だ。

 今や再現できていないことと言えば生殖行動による“子作り”ぐらいのものだと聞いた――生殖行動と子作りを意図的に分けて解説された(さらに言えば生殖行為そのものについては『できない』と言われていない)点やそもそもその辺をわざわざオレを呼び止めて力説してきた点には多分にツッコみたいところだが、その話をしてきたのが柾木霞澄とメガーヌ・アルピーノとレヴィアタンいう時点でいろいろとあきらめた。

 あの六課コミュニティが誇るエロ三巨頭が全員そろって力説しているのだ。絶対確かめたぞアイツら。とりあえず犠牲者はジャックプライムと見た。南無。



 ……すまない、少し脱線した。

 つまり何が言いたいかというと――ヒューマンフォームとなったトランスフォーマーの身体は、身体の代謝においても人間の身体と変わりはない、ということだ。

 要するに、腹もすくし食事を摂ればクソもする……そして、汗もかくし、垢も身体にこびりつく。

 ロボットモードに戻れば変身に伴う身体の再構築の際にはがれ落ちる汚れだ。別に放置しても問題ないと言えばないのだが……ヒューマンフォームを維持し続けるつもりであれば、相応に洗浄の必要がある。

 と、いうワケで……オレは現在風呂にいる。

 エリオ・モンディアルも一緒だ――フェイト・T・高町があんなことになったショックがまだ抜けていないように見えたから、気分転換になればと思って連れてきた。

 ちなみに今いるのはサウナ――身体の汚れを落とすため、洗う前に汗をかいて汚れを浮かす。そのために、湯船を無視して真っ先にここへと直行。

 まぁ、いい感じに汗もかいてきた。そろそろ頃合かとエリオ・モンディアルを連れてサウナを出て……



「…………ん?
 なんだ、お前らもいたのかよ」

「モモタロス……?」



 意外な顔がそこにあった。



 ……いや、ちょっと待て。

 コイツがここにいるということは……



「風呂掃除か? 入浴時間はまだまだ先が長いが。
 というか今度は何をした?」

「どーして速攻で掃除当番に仕立て上げられてんだよ、オレはっ!? しかも罰掃除かよ!? 『また』って何だよ!?
 そうじゃなくて、オレも風呂に入りにきたに決まってるだろうが!」



 おや、そうなのか?



「それはすまなかったな。
 いつも通りの姿で入ってきていたから、入浴という可能性を頭から除外していた」

「あー、それはしかたねぇか。
 オレ達、別に服着ているワケじゃねぇしよ」



 ………………何?

 それはつまり……



「貴様……その普段の姿は全裸だというのか?
 さすが、イマジンはオレ達とは感性が違うな――常時ストリーキング全開とは恐れ入る」

「ちっがぁぁぁぁぁうっ!
 つか、それ言い出したらお前らのロボット状態だって同じだろうが!」

「なんと、言われてみればっ!?」



 これはうかつだった……今後、ロボットモード用の服の製作も検討しなければならんか……?











「…………モモタロスさん」











 ………………バカ話でエリオ・モンディアルの気を紛らわせようと思ったが、失敗だったようだ。



「フェイトさん……大丈夫なんですか?」

「バカ、当たり前だろ」

「……どうして、そんな簡単に言い切れるんですか」



 あっさりと答えたモモタロスの言葉を考えなしとでも受け止めたのか、エリオ・モンディアルの視線がキツくなった。



「簡単だよ」



 だが、モモタロスはそれでも落ち着いたものだ――そう。言い切れるだけのものを、こいつらはこいつらの戦いの中で経験している。



「こっちに来てからも何度だって言ってるだろ。
 人の記憶が、時間だってよ」

「でも……フェイトさん達は、その時間も、記憶も奪われて……」

「バカ。まだ残ってんだろ――ここにな」



 言って、モモタロスが指したのか――エリオ・モンディアルの胸だった。



「ここ……に……?」

「おぅ。
 確かに、誰にも覚えられてねぇ時間は、消えちまうしかねぇ……実際、そーゆーことが前にあった。
 けどな……オレ達は忘れてねぇ。金髪ねーちゃんのことも、ジュンイチのことも……砲撃ねーちゃんのことも」



 ………………コイツ、今、なのはのイメージ“砲撃”しか浮かばなかったな。否定できんが。



「大丈夫だ。
 アイツは確かに、ジュンイチ達の時間を持っていっちまった……アイツからは取り戻せねぇかもしれねぇ。
 けど、オレ達が覚えてる。オレ達の中に、アイツらとの時間が残ってんだ……だからよ」



 言って、モモタロスはエリオ・モンディアルの頭をなでてやる。



「あのクソッタレなイマジンさえブッ倒しちまえば、きっと何とかなる。
 だから、今はどっしりかまえてろ。明日、あのイマジン野郎を思いっきりブッ飛ばしてやるためにな」

「……はいっ!」



 ……どうやら、エリオ・モンディアルはもう大丈夫そうだな。



「すまんな。
 本当は兄代わりのオレがなんとかしてやるべきだったんだろうが……こういうのはどうも苦手でな」

「へっ、気にすんなよ。
 カタブツのてめぇにンな気の利いたことなんざ期待してねぇからよっ」



 ………………ほほぉ。



「オレがカタブツなら貴様はさしずめ軟体動物か? 赤鬼かと思っていたがまさかの赤タコか」

「おぅおぅ、言ってくれるじゃねぇか」

「ち、ちょっと、モモタロスさん、兄さんも……っ!
 こんな大変な時にケンカはやめてくださいよっ!」



 むぅ、エリオ・モンディアルがそう言うのなら……



「……いいだろう。この場はエリオ・モンディアルの顔を立てて退いてやる。
 明日ネガタロスどもを叩き伏せた後演習場に来いっ! そこで決着をつけてやるっ!」

「いいぜぇ、望むところだ!」

「いや、そういう問題じゃ……って、あれ?」



 なおもオレ達を止めかけたエリオ・モンディアルが止まる……やれやれ、気づくのが遅いな。



「何を呆けている?
 明日、オレもモモタロスも勝って凱旋するに決まっているんだ――帰って来れないかもしれない、なんて心配はする必要自体ない。戦いの後に約束を持ち越したところで何の問題もあるまい?」



 そう――明日はオレもモモタロスも、当然お前も生きて帰る。

 柾木ジュンイチや恭文などは『戦いの前に約束をするのは死亡フラグ』とか言い出しそうだが、そんなものは関係ない――というか、あんな雑魚どもを相手に殉職してこいとかどういう無茶振りだ。立たされるフラグの身にもなってみろ。

 オレ達の中の誰があのバラのイマジンを叩くことになるかはわからん。最有力候補は恭文だが、今八神はやて達が立てている作戦の内容次第では、ヤツでもない誰かになるかもしれない……だが、勝って帰ってくる、その結末だけは絶対に変わらん。

 絶対に勝って、帰ってきて……モモタロスと決着をつけて……







 あっさりやられて時間を奪われたバカ三名に、きっちり説教してやらねばならんからな。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「なのは!」

「おかーさんっ!」



 息を切らせて部屋に駆け込んできたのはなのはさんのお母さん、高町桃子さん――で、桃子さんの登場に、ちっちゃくなってるなのはさんの顔が輝いた。

 パタパタと駆けて、桃子さんの胸に飛び込む……ちっちゃくされた三人の中では一番年上で、しっかりしてなきゃと思ってたんだろうけど、やっぱり不安だったみたいだ。



「スバルさん」



 あ、キャロ。



「フェイトさん……大丈夫?」

「はい。
 リニスさんが来てくれて、安心したんだと思います……それで、さっき寝ちゃったところです」



 そっか……よかった。



「スバルさんこそ……ジュンイチさんの相手、大変じゃないですか?」

「ん。大丈夫。
 霞澄おばさん、すぐ戻ってくるって言ってたし……それに」

「……あぁ」



 ソファに座るあたしの手元を見て、キャロが納得する……今のキャロの話じゃないけど、フェイトさんと同じようにお母さんと合流できて安心したのか、お兄ちゃんはあたしのヒザ枕で夢の中。一番大泣きしてたもんね。疲れちゃったんだよ、きっと。



 で、霞澄おばさんはお兄ちゃんやフェイトさんが起きた時用に何か食べる物を作ってあげようってことで、リニスさんと二人でちょっと席を外してる。

 簡単なもので済ませるって言ってたし、料理しに向かった先が“向かった先”だ。すぐ戻ってくると思う……







「…………ただいまー……」







 あ、戻ってきた。

 ここはなのはさんとフェイトさん、そしてヴィヴィオ。三人の暮らす隊長格用の居室。トイレとかバスルームとかも、あたし達の部屋と違ってちゃんと完備されてる……幹部待遇ってすごいね。

 そして、そんな別室への扉のひとつ、“バスルールへの扉を開けて”、霞澄おばs



「………………スバル?」



 ……霞澄ちゃんが戻ってきた。

 そしてその後ろから続くのはリニスさん……料理しに行ってたせいか、使い魔の証、猫耳を隠してる帽子を被ったままだ。

 で、二人がどうしてバスルームから現れたかというと……



「ありがとうございます、デネブさん。
 ゼロライナーの厨房を貸してくれただけじゃなくて、料理も運んでもらっちゃって……」

「いえいえ。
 あ、リニスさん。これデネブキャンディです。フェイトさん達が起きたらどうぞ」



 …………とまぁ、こういうこと。

 わざわざ食堂の厨房に行ってたら往復だけで時間がかかっちゃう。その間にお兄ちゃんが起きちゃったらまたまた大泣きされかねない。そんなワケで、バスルームの扉からデネブさん経由で“時の砂漠”へ直行、ゼロライナーの厨房を借りてたんだ。

 そういう意味じゃ、デンライナーでも良かったんだけど……



「さすが、日頃から侑斗くんのために本格的に料理してるだけあるわ。
 キッチンも食材も万端で、いやー、デンライナーよりこっちあてにして正解だったわ」

「いえ。オレもしいたけ嫌いな子向けの料理のレシピ教えてもらったし……」



 …………さすが霞澄ちゃん。手伝ってくれたデネブさんへの報酬も抜かりないなぁ……ニーズ的な意味でも。



「あと……二人も侑斗をよろしくっ!
 侑斗も言葉にしないだけで、本当は二人とも友達になりたいと思っていr











「思ってねぇっ!」











 あ、侑斗さん。

 デネブさんを追いかけてきたのか、侑斗さん登場――バスルームの扉を開けて“時の砂漠”から飛び出してくるなり、デネブさんに向けてダイビングラリアット一発……あの、お兄ちゃん達寝てるんで、静かにしていただけると……



「う……わ、悪い……」

「そうだぞ、侑斗。
 今は大変な時なんだ。少し落ち着いてだな……」

「お前が言うな……っ!」



 デネブさんに向けてツッコんでる……けど、あたしの言うことをわかってくれたのか、デネブさんをにらみ返すその声は小声だ。



 ………………うん。



「それと……」

「あん?」

「さっきは、すみませんでした……
 お兄ちゃん達が戻らないかもしれないって話してた時、あたし、勝手にキレて、つかみかかりそうになって……
 いいことだけじゃない、悪いこともちゃんと想定しておかなきゃいけない……侑斗さんは、当たり前のことを言ってただけなのに……」

「わかればいいんだよ。
 今はとにかく、明日、アイツらをブッ飛ばすことだけを考えろ――余計なこと考えてる余裕、ハッキリ言ってねぇぞ?」

『はい』



 キャロと二人でうなずく――そうだ。まずはそこだ。

 今お兄ちゃん達が戻るかどうかを議論していても始まらない。すべては明日――そこで決まる。



 絶対に……助けるからね、お兄ちゃん。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「………………」



 いつもは朝が弱いあたしだけど、それはぶっちゃけ夜寝るのが遅いから。ちゃんと早めに寝れば、夜明け前に起きようが頭はスッキリだ。

 そんなワケで、まだ暗い自室でベッドから抜け出す――キャロちゃんはいない。ヴィヴィオと一緒にアイナさんのところにお泊りだ。キャロちゃんなりにヴィヴィオに気を遣ったんだろうね。

 今は静かな隊舎内だけど、状況が状況だ。みんなが起きてきたら一気にあわただしくなるはず……当然、こんな朝早くに起きたあたしものんびりしてるヒマはない。さっさと身支度を済ませて廊下に出る。



 いよいよ……今日だ。

 ネガタロスやザインが予告の通りに動くなら、今日アイツらはクラナガンへと侵攻する。

 そして……クラナガンで、“降魔陣”を発生させるつもりだ。

 もちろん、そんなことをさせるつもりは毛頭ない。元本家瘴魔軍ということで“降魔陣”について一番詳しいイクトさんを中心に、すでに反攻作戦は立案済み。

 まぁ、ザインだってあたし達が阻止に動くことぐらい読んでるだろうし……ここからはお互いの策の読み合いが戦いの行方を左右することになるのは想像に難くない。

 ……と言っても、その辺ははやてちゃん達ロングアーチの仕事になるんだろうけど。

 あたし達はあたし達で、自分達に割り当てられた役割をガッチリ果たす。

 あたしの場合はいつも通り“合流後の”現場でのスバル達の直接指揮。そして……その前に、レオイマジンの撃破。

 この間やり合って以来、現場でレオイマジンの姿は確認されていないらしい――けど、今回の戦いにはさすがに出てくると思う。

 お兄ちゃん達のこと、つまりバラのイマジン打倒については恭文くん達に任せておけば大丈夫だろうし……何より、前回倒しきれなくて、ちょっとプライド傷ついてるからね。あたしはアイツを狙わせてもらう。

 ちょっとだけワガママ言って、アイツが見つかったらあたしに優先して回してもらえることにしてもらったんだもん。絶対やっつけてやる。







「…………む? あずさか」







 あ、イクトさん。



「恭文くんかエリオくんの起床待ちですか?」

「………………悪かったな。引率なしで動けなくて」



 いえいえ。あたし達は気にしてませんよ……10年前から慣れてますし。



 それより……



「ホーネットから聞きましたよ。
 この間の集落でのこと」

「………………っ」



 気づいたみたいだ――あたしが“何を言いたいか”。



「“本気”、出したみたいですね」

「……バレているとは思っていたが、今このタイミングでつつくか」

「つつきますよー。大事な戦いの前だからこそ。
 イクトさんが“本気”になるのを嫌ってる気持ちは……まぁ、『わかる』なんて簡単に言える自信ないけど……それでも、嫌ってる“理由”の方は、理解してるつもりです。“効果が効果ですから”。
 けど……今回の戦い、イクトさんにとっても大事なものがかかってるんですから」



 そう……奪われた三人の時間。特にイクトさんにとっては、フェイトちゃんの時間が奪われたことは一番の大事だろう。



「別にテスタロッサだけが特別じゃない。
 高町や柾木の時間も等しく重要だ――必ず取り戻す」



 ……どっちにせよ全員助けるんだし、その中での好感度くらいは順位つけてもいいと思うけどなー。



 まぁ、それはともかく……だ。



「だからこそです。
 三人とも助けなきゃいけないんです……いくらイクトさんでも、力の出し惜しみなんて、やってる余裕はないですよ」

「……わかっている。
 いざという時は使うさ……“全力”でな」

「なら、いいですけど」



 とりあえず釘は刺した。後はイクトさん次第だろう。と、いうワケで――



「ほら、行きますよ」

「ん…………?」

「食堂でしょう? あたしが案内しますから行きますよ。
 戦いに備えて、ガッツリ燃料補給しておかないと!」



 言って、イクトさんの手をムリヤリ取って歩き出す。

 開戦まで、あと数時間――しっかり備えて、ガッツリつぶす。



 絶対に……あたし達は、負けない。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「………………よし」



 ブリッツキャリバーに異常なし……チェックを終えて、待機状態のそれを首から提げる。



「じゃあ……行ってきます」

「あぁ。
 こっちは任せておけ」



 返ってきたチンクの答えに、静かにうなずく。

 今回、ナンバーズのみんなはマックスフリゲートで待機――理由は、今のみんなの立場だ。

 いくら更生プログラムの受講が形だけのものでしかなくても、表向きそういうことになっている以上、連れ出すためには形だけでもいいから所定の手続きの上許可を取る必要がある。

 つまり、ナンバーズを連れ出せば『連れ出した』という記録が残る。けど、電王関係のことを公にできない以上、ほんのわずかな記録も残すワケにはいかない。そこから芋づる式に電王のことがバレないとも限らないから。

 だから、ナンバーズは今回動かせない。ここ、マックスフリゲートで戦いの推移を見守ることしかできない。

 こっちから割ける戦力は、プログラム受講者じゃなくて、且つ戦闘可能なコンディションの人……しかも、その中からさらにここの防衛要員にも人数を割く必要がある。連れ出せないのと同じ理由で、ここを襲われてもナンバーズのみんなに戦わせられないから。そしてザインがあっちにいる以上、そういう展開になる可能性はゼロじゃないから。

 そんな理由から、誰がネガタロス達と戦いに行くかで壮絶なジャンケン合戦を繰り広げた結果、前線には私とホクト。そして……母さん。この三人で向かうことになった。



「すまない。こんな大変な時に力になれなくて……」

「大丈夫。
 ジュンイチさん……そしてなのはさんやフェイトさん……三人は、絶対に助かるから」



 すでにネガタロス達への反撃のための作戦は練り上がっている――その中で、私は直接三人を助けられる位置にいない。

 けど、私達が役目を果たすことで、なぎくん達は安心して戦える……心置きなく、ジュンイチさん達を助けるために暴れられる。

 だから……私だって、思いっきり戦える。

 それがジュンイチさん達を助けるための方法だと信じて、全力で戦える。



「だが……ムリはするなよ」

「だから、心配ないってば。
 いくらやる気だからって、役目も忘れて突っ走ったりしないから」

「いや、お前の場合『忘れない』から不安なんだ。
 一度目的を定めたら、その目的のためだけに思いっきリ突っ走るからな……そういうところは、まさに柾木の妹で、スバル達の姉だと実感できる」



 …………そう見える?



「見える。
 もう一度念を押すが……本当に、ムリはするなよ。
 お前に何かあれば、せっかく元に戻っても柾木は凹むぞ」

「わかってる」



 気を取り直して、チンクに答える。



「ちゃんと無事に戻ってきて……決着、つけたいものね」

「決着……?」

「そう。
 なのはさんと、チンクと、ウェンディやすずかさん、リンディ提督……そして誰よりも、ジュンイチさんと」

「なるほど。“そういう意味”か」



 うん。“そういう意味”。



「…………言っておくが、負けるつもりはないからな?」

「私こそ。
 ……じゃあ、行ってきます」



 改めてあいさつ。そして歩き出す。



 目的地は、もちろん機動六課。そこに一度集まって、向かうことになる。

 そう……







 すべての決着をつける……その、戦いの地へ。








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「うにゅ……」



 お布団の中で、身体を反対側に向ける……お布団、ちょっと重い……



 …………あ……



「……おしっこ……」



 おしっこに行きたくなって、おかーさんの手とお布団の中から出て、ゆうべ教えてもらったおトイレでおしっこする。







 …………く〜〜……っ……







「…………おなかすいたな……」



 昨日、いろんな人が持ってきてくれたお菓子……全部食べちゃったっけ。

 おかーさんまだ寝てるし……











「………………ジュンイチさん?」











 ………………あ。

 声がして、そっちを向く……そこにいたのは、昨日も遊びに来てくれた……



「やすーみおにーちゃん……?」

「………………っ」

「………………?」

「あー、うん。何でもない。
 ホントに人間変われば変わるもんだなーって思っただけ」



 …………よくわかんない……



「それより……フェイトの様子見に来たんだけど」

「フェイトおねーちゃん?
 まだ寝てるよ? 起こす?」

「あぁ、そこまでしなくていいから」



 ぼくが言うと、やすーみおにーちゃん、お部屋に入ってきて……フェイトおねーちゃんをじっと見てる。



「…………やすーみおにーちゃん?」

「ん。もう大丈夫。
 やる気充電、完了だから」



 笑ってそう言うと、やすーみおにーちゃんは「ん〜」って背伸びする……やっぱりよくわかんない。



「気にしなくてもいいよ。“今日中にはまたわかるようになるから”。
 だから……」



 え? あれ? いきなりぼくの頭なでて……?



「僕らが戻ってくるまで、フェイトのこと、お願いね。
 ……あとついででいいからなのはのことも」

「ほえ?」

「一番年下かもしれないけど……三人の中で、男の子はジュンイチさんだけだからね。
 男の子は、女の子を守らなきゃいけないんだから……だよね?」

「………………うんっ!」

「うん、いい返事だ」



 答えたぼくにやすーみおにーちゃんが笑う……何だろ。

 なんか……すごく、がんばらなきゃって……思う。

 なのはおねーちゃんと、フェイトおねーちゃんを守らなきゃって、思ったら……すごく、がんばりたくなった……



「じゃ、僕は行くから」

「はーい」



 言って、やすーみおにーちゃんは出ていった。







「…………恭文くん、行った?」







 あ、おかーさん……起きてたの?



「当然。
 私が起きてるのがわかったら、気まずいだろうと思ったから寝たフリしてたの。
 ……ところで」



 ん?



「恭文くんのおかげかな?
 なんか……元気になったみたいね」

「うん!」



 おかーさんの言葉にうなずく。

 うん……よくわかんないけど、すごく元気。



 じっとしてられない……何かしたい。



 何だかよくわかんないけど……







 やらなきゃいけないことだけは、わかった気がするから……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……陽が昇ったか。

 いよいよだ……いよいよ、ここから始まる。

 オレ様の野望の第一歩が、今日、これから、再び始まるんだ。



 電王達に敗れ、傷を癒しながら、オレ様はずっと考えていた。

 実力では完全に勝っていた。それなのに……なぜ負けた?

 キバとかいうライダーの乱入があったからか?……違う。

 アレがなくても、おそらく電王はオレに勝っていた……では、それはなぜだ?



 答えが出ないまま、あのザインとかいうヤツと出会い、大ショッカーをネガショッカーとしてまとめ上げ、このミッドチルダにやってきて、再びヤツらとまみえて……それでも、答えは出なかった。

 そして今……答えの出ないまま、オレはヤツらとの決戦を兼ねた一大作戦を決行しようとしている。

 ……おい読者ども。“絶対に勝てる悪の組織”を目指していたオレにしては、ずいぶんと不確定要素の大きな戦いをしかけようとしている、とか思っただろ……あぁ、気にするな。オレも自分でそう思ってる。

 だがな……これもまた、オレが悪の組織のリーダーとしてステップアップするために必要だと思ったからだ。



 アイツらは……電王どもは勝算なんか考えねぇ。ただいつもの調子でぶつかってきて……オレから勝ちをもぎ取った。大ショッカーどもを蹴散らした。

 だから今回、オレも勝算なんか考えねぇ。

 アイツらと同じように、いつもの調子でぶつかってやる。こっちの戦力全部ぶつけて……アイツらがオレ達に見せた勝ちパターンを、今度はオレがやってやる。

 アイツらがどうしてオレに勝てたのか……その答えを、アイツらの戦いぶりの中から見つけるために。

 そして勝つ……アイツらの強さを知り、アイツらの強さを身につけて……オレは悪の組織のリーダーとして、さらなるステージに進むんだ。この世界を喰らうのはその後だ。



 柾木ジュンイチ、高町なのは、フェイト・T・高町……あの三人の時間がこっちの手の内にある以上、アイツらは死に物狂いでそれを取り戻しに来るだろう。

 オレ達を叩きつぶすために、本気で、投入できるであろう全戦力をもって挑んでくるはずだ。

 だが、それはこちらも同じ……それぞれの戦場に、最高の戦力を配置した。ザインのヤツにも、(外道に走らない範囲内で)最高の作戦を考えさせた。

 さぁ、電王。舞台は整えてやったぜ……







 貴様らの言うところの、クライマックスの始まりだ!





















 …………と思っていたんだがな。



「しまったな……
 四つの進軍ルートの、どれからオレが進軍するかくらいは教えおいてやるべきだったか。
 機動六課と鉢合わせしても、電王達がいなければ拍子抜けだ」



 そんなことをつぶやきながら、オレは部下を引き連れ進んでいく。

 現在位置はこの世界の連中が廃棄都市とか呼んでいる、首都クラナガンをグルリと囲んでいる、捨てられた都市区画。

 その南側の区画を進んでいる。このままこの世紀末感バリバリな街並みを抜け、そのまま首都の南側メインストリートに入り市街中心部を目指す……もっとも、確実にジャマは入るだろうが。







 ……どうでもいいが、呼び方、普通に『再開発地区』でいいと思うんだが。『“廃棄”都市』なんて呼び名では、再利用の意志がないように見えるじゃないか。

 よし、オレがクラナガンを制圧したら改名させよう。やはり呼び名というのはわかりやすく合理的でないとな。











「それで……“ネガショッカー”に“アクトロン”“ワルトロン”なワケ……?」

《わかりやすさを追求することに異論はありませんが、方向性がおかしいと言わざるを得ませんね》

「あのさ……お前らツッコむとこが違くないか? いや、解るけどよ」

「実際方向性がおかしいんだ。気にするな」











 ………………ほぅ。



「よかったじゃないか。
 ハズレを引かずにすんだな――電王にゼロノス、それに……蒼凪恭文とマスターコンボイだったか」



 そう。聞こえた声は正面から――そしてそこに、ヤツらはいた。



「まぁね。
 っつっても、お前がこっちから進軍するのはだいたい予想できてたからね――ハズレを引く心配はしてなかったよ」

「ふむ、そうなのか。
 一応、どういう流れでオレがこっちから進軍すると読んだのか、推理を聞いておこうか」

「簡単な話だ。
 “ここが南側だから”だ」



 答えたのは、チビな人間の姿に変身しているマスターコンボイ――ほぉ、いい読みだな。



「なぜ貴様が進軍時間を正午に指定したのか、そこが引っかかっていたんだ。
 なのは達の件でオレ達を絶望させるには一晩あれば十分だったはずだし、夜の内にしかけた方が、真っ向からオレ達とぶつかることになったとしても闇に乗じることができる分作戦の遂行上都合がいい。
 そして何より……そこからあまり時間をおきすぎると、オレ達にショックから立ち直り、戦いの準備をする時間を与えてしまうことになりかねない。戦略として常道をいくなら、お前らはあのまま間髪入れずに次の段階に進むのが正解だったはずだ。
 にもかかわらず、貴様らは一旦退き、翌日正午からの決戦などと指定してきて、オレ達に時間的猶予を与えた。
 合理的なザインがそんなことをするはずがない。間違いなく貴様の提案だ。だとしたらそこには必ず意味があると思った――そして、だから気づいた。
 正午と言えば、太陽がもっとも高く、“もっとも真南に近づく”時間だ。
 太陽の下を堂々と進軍したかったんだろう?――本来闇に潜んでいるべき悪の組織が、邪魔な正義の味方を蹴散らして隠れ潜む必要がなくなった、その証として。
 だから、貴様はもっとも陽が高く昇る正午前後の時間帯、この南側の進軍ルートを選んだ……訂正はあるか?」

「…………満点だ」



 世辞でも嫌味でもない。心からの称賛の拍手を送る。



「さて……それじゃあ、こちらの疑問も晴れたことだし」



 オレの言葉が、合図だった――オレの周囲の怪人達が殺気立ち、電王達もそれに応じてそれぞれにかまえる。

 ……おっと、その前につついておくか。



「これ以上ないほどにやる気になってくれたようだな。
 目論見通り本気になってくれてありがたい限りだが……しかし、また少人数で挑んできたな。
 ずいぶんと人数を余所に割いてきたじゃないか。オレがこの南ルートから進軍すると読んでいたなら、ここに主力をまとめてきそうなものだが」

「お前らが同時多方進軍&“降魔陣”なんてややこしい作戦立ててくれたせいじゃないのさ。
 おかげでこっちも役割分担決めるの大変だったんだからな」



 オレの指摘に蒼凪恭文が答える――なるほど。“やはり”オレ達の四方からの進軍も“降魔陣”も、全部まとめてつぶしに来たか。



「そういうこと。
 今頃、他の三方でもお前の部下どもは通せんぼくらってるはずだよ」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ヴィータさん!」

「来たっすよっ!」



 あぁ、そうだな。

 みなみやひよりの言葉に内心でうなずいて、やってくる怪人軍団をにらみつける。

 ここはクラナガン東側の廃棄都市区画――その中央メインストリート。

 そしてあたしらの役目は、こっちから侵攻してくるネガショッカーの迎撃だ。



 ちなみにメンツはこのあたし、鉄槌の騎士ヴィータにビクトリーレオ。

 でもって、さっき声をかけてきたひよりにみなみ。



「オレの強さは、泣けるでっ!」



 キンタロス。



「へっ、ようやく出番だな!」

《待ちくたびれちゃったよーっ!》



 ロードナックル兄弟。



「うーっ! なんでわらわ達がネガタロス達と戦える南組から外されるんじゃ!」

「しょうがないよ。最初から本命にぶつける前提の恭文やりょーたろーと違って、ボク達はクジ引きの結果なんだもん」

「け、けど、こっちもこっちで、なんか強そうなのがいっぱいいるよっ!」

「むしろ、恭文くん達にあらかた持っていかれそうな南より、こっちの方が貢献できると思うべきかしらね」



 ネガタロスがいるだろう南じゃなくこっちの守りに回されて、さっきから不満タラタラな万蟲姫とそれをなだめるメープル、サニーにミシオ……ここだって重要な守りの要なんだから文句言うな。

 そして……



「こうなったら、ここで思いっきり大暴れして、スッキリしてやるのじゃっ!
 お主にも期待しておるぞ――“ゴエモン”!」

「へぇへぇ」



 昨日こっちについたばっかりのネコイマジン――改め“ゴエモン”。

 “盗賊”から自分の変身したライダーを『シーフ』と名づけたように、この名前も大泥棒の石川五右衛門からとったらしい……そんなに好きか、泥棒猫呼ばわりが。



「リラックスしてんのはいいけど、アイツらの相手まで忘れんなよ。
 いくぜっ、てめぇらっ!」

『おぉーっ!』



 あたしの号令に全員が答えて、ネガショッカーの怪人軍団に向けて突撃。

 さぁ……ブッつぶしてやるぜ!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ネガショッカー所属と思われる巨大生物群を目視確認。
 やはり、ネガタロス以下最優先目標の姿はありません」

「やれやれ……やはりここはハズレか」

「ま、予想通りなワケだし、最初からあきらめてたけどねー」



 ジェットガンナーからの報告に、シグナルランサーと二人でため息――ハァイ、こちら西地区防衛線。指揮官のアリシアちゃんでーす♪



 にしても、『“巨大生物”群』ねぇ……ま、その辺も含めての『予想通り』なんだけどね。

 こっちのメインストリートはけっこう広いから、魔化魍なりギガンデスなりの大型戦力はここをメインに投入してくるだろう――っていうのは、私達隊長陣全員の共通見解だったから。

 なので、こっちの防衛戦力も指揮担当である私を除けば全員トランスフォーマー&ゴッドマスターばかりを配置してる。もうセリフのあったジェットガンナーとシグナルランサーに加えて――



「うぅっ、来るよ、お姉ちゃん……」

「ハッ、上等。
 ゴッドオンすれば体格差はほぼ埋まるわ。気にすることないわよ」

「そうですよ、つかささん。
 恭文さん達が心置きなく戦えるように、私達でここをしっかり抑えましょう」

「みーっ!」



 ビビるつかさに励ますかがみ、そんでもってかがみに同意するみゆき……カイザーズ、その中でもライナーズ古参の三人だ。

 さらに、最後にみゆきに続いた鳴き声はつかさの相方。アイツの使役する地竜――トリケラトプスっぽい見た目をした、金属質の身体を持った竜の子供、ヴェルファイア。通称“ヴェル”。

 そう、ヴェルまで出てきてる……ヴェルをかわいがってあまり戦わせたがらないつかさだけど、今回ばかりは話は別ってワケだ。



 そこまでの覚悟なんだから……つかさ! アイツらに、アンタの竜召喚を見せてあげなさい!



「は、はいっ!」



 ――雄雄しくそびえる黒き鋼鉄
   我が力となり大地を駆けよ!



「来よ、我が竜ヴェルファイア!
 竜魂召喚!」



 つかさの召喚魔法が発動。あたし達の腰ぐらいの背丈しかなかったヴェルの身体が巨大化。まさにキャロとフリードの竜召喚の如く、ヴェルの身体が大きく変化していく。

 バカなマッド科学者(スカリエッティに非ず)のせいでトランスフォーマーの生体金属細胞を埋め込まれた結果、生機融合体へと進化したヴェルの、戦うための姿――

 あちらさんに負けないくらいの体躯となったその姿はビースト系トランスフォーマーそのもの。さらにつかさが召喚した牽引式砲台がその後ろに連結されて戦闘準備完了。

 その名は――



「召喚――ワイルドファイア!」

「オォォォォォォォォォォンッ!」



 ヴェル本人に代わって名乗りを上げたつかさの言葉に、ヴェルが力強く咆哮する――さて、と。



「それじゃ、ヴェルの準備もできたことだし……あたし達もいくよ!」



 言って、あたしは愛槍ロンギヌスを手に、先陣を切って飛び出す――ジュンイチさんや我が愛しの妹達を“あんな”にしてくれた、その報いを思い知らせてあげるよっ!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 …………来たか。

 このままスルーされて終わるようなことがなくてホッとしたぞ。



「ホッとしているのはお前だけじゃないぞ、シグナム。
 私も、今回ばかりは黙って後輩に経験値を譲る気にはなれんからな」



 同意するスターセイバーにうなずき、北側の廃棄都市群のド真ん中を進軍してくるネガショッカーの怪人やギガンデス群をにらみつける。

 それにしても……



「よっしゃあっ! やったるぜぇっ!」

「だなだなっ!」

「へへっ、腕が鳴るぜっ!」

「みさちゃんならできるよ。がんばって!」



 ………………こいつらがそろっている時点で苦労する予感しかしないんだが。

 本当にクジ引きの結果なのか? 暴走コンビに日下部……なんで猪突猛進組のトップ3がここに集中しているんだ。そして峰岸はあおるな。



 残りのメンツがシャープエッジとピータロスというのがせめてもの救いだが……



「うちは見事にバカ枠と武人枠とで分かれてるでござるな……」

「巻き込まれた峰岸あやのも大変だな……」



 ……いや、一番大変なのはその両極端なメンツを指揮しなければならない私なんだが。周りにアイツらの面倒を押しつける気満々かっ!



 というか……



「一番槍はもらったんだなっ!」

「行くぜオラぁっ!」







 ちゅどーんっ。







『ふんぎゃあぁぁぁぁぁっ!』



 あー、くそっ、予想通り暴走コンビは真っ先に脱落してくれるしっ! いきなり頭数減ったじゃないかっ!



「こうなったら私達だけで蹴散らすぞ!
 峰岸! 日下部の手綱をしっかり握っておいてくれ! そいつにまで墜ちられたらそれこそ手がつけられなくなるっ!」

「任せてくだs

「さぁさぁ、かかってこいってヴァ!
 このあたしがみんなまとめてブッ飛ばしてやるぜぇっ!」

「って、みさちゃん、待ってぇっ!」



 …………本当に、どーして私はこの班の指揮官になってしまったんだろう……

 まさか、蒼凪の不幸がうつったとでもいうのか……?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「…………始まったみたいだね」



 アルトを通じて、全体の戦況はロングアーチから随時伝わってくる――そう。他三方の防衛線が戦闘を開始した報せが入ってきたんだ。

 現時点で、四方の防衛ラインでまだにらみ合いを続けているのは僕らのいるこの南側だけ……と、いうワケで、さっさと開戦といこうじゃないの。



 ちなみに、ここを任されたメンツは僕を始め、さっきからネガタロスと話しているメンツの他に……



「ふふんっ、ウチらも負けてられへんな。
 いくで、なっちゃん!」

「まったく、なんでこんな大一番までアンタとセットなのよ……」



 すでに殺る気満々のいぶきとなずな。それから……



「…………いた」



 ネガタロスの率いる集団の中に金色の獅子の姿を見つけ、ギンッ!とにらみつけるあずささん。

 …………以上。

 そう。これだけの人数だ。

 もちろん、まだ名前の挙がってないメンツもそれぞれの場所で、自分達の役目を果たすために動いてる……ただ、まだ出番には早いっていうだけの話だ。



「……ごめん、恭文くん」

「別にいいよ。
 心配しなくても、ジュンイチさん達は絶対助けるから」

「お願いね」

「その代わり……」

「わかってる。
 絶対……負けないから」



 言って、あずささんが前に出る――それに応じて、向こうからも金色の獅子が前に進み出てくる。



「……場所、変えるわよ」

「かまわん。
 勝負に水を差されたくないのはこちらも同じだ」



 互いに交わす言葉はわずか――でも、それだけで十分。互いの戦意を交換して、あずささんとレオイマジンは同時に駆け出した。僕らから離れて、廃棄都市群の中に消えていく。



「フンッ、いいな、あぁいうのも。
 組み合わせも悪くない。できれば貴様らなどとにらみ合っていないで観戦したかったぐらいだ」

「まったくもって同感だね。
 お互い、役目があるって辛いよねー」



 ネガタロスの軽口に付き合いながらも、打ち込むスキを探る……もちろん、向こうもこっちのスキを探ってる。



「だが、勝つのはオレ達だ。今度こそ……つぶす」

「上等だよ」



 答えて、アルトの峰で肩をトントンと叩く……つか、あくまで余裕の態度は崩さないつもりかコラ。

 ホントに上等だよ。その笑い、さっさと引っぺがしてやる。



「悪いがそうはいかないな。
 というか……貴様、ひとつ忘れているだろう?」

「何をさ?」



 聞き返す僕に、ネガタロスは答える。



「『何を』? そんなのは決まってる。
 この戦い……」







「本気を出したのは、お前らだけじゃないってことさ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――見つけた!」



 イクトさんの予想してくれた目標ポイントを視界に捉えて――予想通り、そこに目標があるのを確認する。

 あたし達フォワード陣人間メンバー+αは、“降魔陣”の発動阻止を担当することになった――要するに、発動を許したらちょっとやそっとじゃ止められないから、発動するその前に叩く、ってこと。



 イクトさんの話によると、“降魔陣”のような大規模な術を使うには術式の構築や発動後の制御のため、相応の術式陣が必要になるらしい。

 つまり、その術式陣さえ破壊してしまえば、“降魔陣”は発動できなくなる。

 ただ“降魔陣”の場合、あのザインが考案しただけあって一ヶ所つぶしたくらいじゃ止まらないらしい――瘴魔力の循環する道、その中枢点となるポイントを全部つぶさなきゃいけない。

 その数、全部で八ヶ所――陣の内側を走る八紡星、その八つの頂点。それを破壊する役目を任されたのがあたし達。今頃はティア達もそれぞれの担当するポイントに着いた頃だと思う。

 まぁ、ティア達なら心配いらないだろうから――あたしはあたしで、お仕事いきますっ!



 目標は目の前。瘴魔力が地面からあふれて作り出している渦そのもの。イクトさんが名づけて曰く、“降魔点”っ!



「いくよ、マッハキャリバー!」

《All right.》



 あたしの号令にマッハキャリバーが答える――姿勢制御を一任して、あたしは目の前に魔法陣を展開する。

 中央の魔力スフィアの周りを巡る環状魔法陣。放つ魔法はもちろん――











「ディバイン――バスタァァァァァッ!」











 なのはさんに憧れて、お兄ちゃんが形にしてくれて……本家の使い手のなのはさんがさらなる高みに持っていってくれた、あたしの主砲、あたし版ディバインバスター! この一撃での一発粉砕狙い!

 あたしが殴りつけたスフィアから巻き起こった魔力の渦が、一直線に降魔点に襲いかかって――











 ――パァンッ!











 ――――――えぇっ!?



 一瞬、何が起きたのかわからなかった。

 降魔点を直撃するかと思ったその瞬間、ディバインバスターの渦が突然弾けた。



 いったい、何が……!?











「やめておけ」











 ――――――っ!



「この降魔点に傷ひとつでもつけてみろ。貴様の命がいくつあっても償いきれんぞ」



 バスターを弾かれた衝撃で舞い上がった粉塵、その中からあたしの前に現れたのは――



「…………人、間……っ!?」



 てっきり、瘴魔獣かネガショッカーの怪人が現れるかと思ってた……だから、目の前に現れた相手に、ちょっと驚く。

 見た感じはほとんど人間――両手の鋭い爪とか明らかに人間やめてる牙むきだしの口とかがなきゃ、本当に人間に見える。

 魚をモチーフにしているのか、ウロコっぽい装飾だらけの鎧に身を包んでる。

 というか……



「あたしのディバインバスターを……」







「“片手で止めた”……!?」







 相手の右手から、プスプスと煙が上がっている。間違いなく、今のディバインバスターを防いだ跡……なんだけど、どう見ても“右手からしか煙が上がっていない”。

 言うまでもなく、なのはさんの本家バスターには遠く及ばないけど……それでも、そのなのはさんの直接の指導を受けて、あたしのバスターの威力だってそうとうなレベルに上がってるはず。

 それを、片手一本で止めてみせた……魔導師で言うなら、間違いなくオーバーSランクの芸当だ。



 ネガショッカーにそんなことができるヤツがいるとしたら、ライダー関係ならまず上級怪人だけど、今までの仮面ライダー作品で見た顔じゃない。

 あと考えられるのはザイン関係。だとしたら……



「マッハキャリバー。
 アイツの……“瘴魔力を”測定して」

《…………感あり。
 瘴魔力の出力を確認。出力レベル……“瘴魔獣将レベルに相当”》



 …………やっぱり。



 瘴魔獣将――“JS事件”の時、ザインが配下に引き連れていた、瘴魔の力を持つ強化人間。

 けど、あの時ザインに従っていた七人の瘴魔獣将は全員倒したはず……新しく生み出していた……?



「その通りだ――スバル・ナカジマ」



 ――――――っ!? あたしの名前を……!?

 ……あ、でもザインの部下なんだし、あたし達のデータは当然持ってるか。



「そういうことだ。
 我が名はザイン様が瘴魔獣将のひとり――“ウルフフィッシュ”のファング」



 ウルフフィッシュ……オオカミウオか……

 また強そうな魚がベースだね。だけど……



「名乗ってくれたところを悪いけど……あたし達も急いでるの。
 速攻であなたを倒して、その後ろの“降魔点”、壊させてもらうよ」

「できると思っているのか?」

「当然」



 迷うことなく即答する。

 もちろん、あたしのバスターを片手で止めるような相手に簡単に勝てるとは思わないけど……それでも、絶対に勝てない相手じゃない。

 増してや一対一だ。アイツさえ倒しちゃえば――



「そうか……
 ならばやってみろ。オレ達を倒して、あの“降魔点”を破壊してみせるがいい!」



 ――――『オレ“達”』!?



 気づくと同時に、伏せる――直後、あたしの頭の上を鋭い爪の一撃がかすめていった。あ、あっぶなーっ!?



「もうひとりいた……っ!?」



 すぐに起き上がって、もうひとりの相手からも距離を取る――こっちはすぐに怪人だってわかる見た目だ。

 肉食獣がベース……ネコ系か、犬系か……ちょっとそこまではわからないけど。



「狼だ」



 あ、教えてくれた……というか狼か。ファングの“オオカミウオ”に合わせた、ってところかな?



「そういうワケではないが……一応名乗っておくか。
 我はグロンギの長がひとり……」







「ン・ガミオ・ゼダ」







 ………………はい?



 今……何て名乗りました?

 『“ン”・ガミオ・ゼダ』? 『ン』って名乗った?



 ちょっとちょっと……それ、つまり“ン種”のグロンギってこと!? テレビの『クウガ』のラスボス、ダグバと同じランク!?

 ひょっとしなくても……グロンギの最強クラスきちゃった!? 『グロンギの“長”』とか言ってたし!



「我らが、ここの“降魔点”の守護者というワケだ。
 その我らを相手に大口を叩いたのだ――その自信、ハッタリかどうか見せてもらうぞっ!」

「………………っ!」



 ガミオと名乗ったグロンギの言葉に、とっさに意識を切り替える――そうだ。今は予想外の大物に気後れしてる場合じゃない。

 この場を任されたのはあたしなんだ……あたしがアイツらを倒して、ここの“降魔点”を破壊しなきゃいけないんだ。



 絶対負けない……相手がラスボス級だろうと、絶対勝つんだ!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「っ、とぉっ!?」







 真上に跳んで、振り下ろされた一撃をかわす――結果、地面に爪を突き立てた相手の真上にちょうど回り込んだ形になる。







「――――っ、せいっ!」







 そこから全身で振り回すように、アイギスで一撃――左手のシールドと一体化している刃が、相手の背中を斬り裂く。



 そう。確かに斬り裂いた――はずなんだけど。







「……そんなものか?」







 やっぱり……効いてないっ!

 まぁ、そうだよね。私達の攻撃が“アンデッドには”効かないっていうのは実証済みだしね。



 そう。アンデッド――破壊を担当することになった“降魔点”にたどりついたあたしの前に立ちふさがったのが、目の前のアンデッド。

 それも、ただのアンデッドじゃない。



 緑の筋組織に、黒くてゴツゴツした生体装甲。

 そして、頭から伸びる二本の触角に、仮面のように顔の上半分を守る緑色・半透明の保護膜……



「つか……まさかジョーカーが出てくるなんてね。
 “原作”じゃ味方だったから、まさか敵として出てくるとは思わなかったよ」



 軽口を叩く私だけど、相手は――“原作”では仮面ライダーのひとり、カリスの正体だったジョーカーアンデッドは特に挑発に乗ってくるような様子は見られない。

 というか……まぁ、正直言うと挑発に乗ってメチャクチャに攻めてこられても困るんだけど。

 だって……







「――――っ、らぁっ!」







 ――来たっ!

 咆哮はジョーカーとは反対側から――とっさに跳んで、背後から迫るもうひとりの攻撃をかわす。

 外見的にはかなり人間っぽさが残ってるけど、明らかに人間やめてる感じ――ライダーな怪人と人間の中間、とでも言えばいいかな。

 試しにサーチしてみたら瘴魔力反応アリ。間違いなく、瘴魔獣将だろうね。

 鎧は身に着けてなくて、ピッタリと身体に張りつくようなボディスーツ。全体にずんぐりむっくりした肥満体で、その全身から細長いトゲが生えてる。今はダラリと垂れ下がってるけど。

 考えるまでもなく……ベースはハリセンボンだね。



 けど……







「そんな針で、私を倒せるとか思わないでよ。
 まずはその針、全部そり落としてあげるよっ!」







 距離的にはジョーカーよりも瘴魔獣将の方が近い。軽口で挑発しながら、アイギスをかまえて突っ込む。

 対して、瘴魔獣将は私の斬撃をかわして周りを跳び回る――あー、もうっ! デブいクセしてすばしっこいっ!

 けど――







「跳び方、単調っ!」







 動きが単純なら先読みも簡単。相手の跳んだ先に先回りして、アイギスでホームラン狙い――って!?











 ぼよんっ。











 そんな、情けない音と共に――アイギスの刃が“めり込んだ”。

 ウソ!? 刃物が斬れずにめり込むだけとか、どんな軟体してるのさ!?

 驚いて、相手を見て――またまたビックリ。



 “針が――ない”!?



 瘴魔獣将の全身を覆っていたはずの無数の針がない。あんな無造作に垂らしてたあたり、収納できるとも思えないs――





















 考え事ができたのは、そこまでだった。

 だって――気がついた時には、地面に叩きこまれていたから。



 というか……いったぁいっ!

 受けた一撃のせいで全身が痛い。熱くはないから、ジョーカーの光弾攻撃とかじゃないみたいだけど……

 幸い動けなくなるほどのダメージじゃない。すぐに起き上がって、相手の姿を確認して……納得した。



「なるほど、そういうことか……」











「そっくりさんが、もうひとりいたってことか」











 そう。私が戸惑ったきっかけ……相手の身体から針が消えていた、その答えがコレ。

 ハリセンボンな相手とは別にもうひとり……そっくりで、針だけがきれいサッパリなくなってる、もうひとりの瘴魔獣将がそこにいた。



『我ら、ザイン様に仕える瘴魔獣将!』

フグバルーンフィッシュのパスボル!」

ハリセンボンニードルフィッシュのケンザン!」

『オレ達ゃ双子の兄弟よ!』



 ………………ベース生物違うのに『双子』って……あ、同時に生み出されたなら確かに双子か。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「はぁぁぁぁぁっ!」

「ふんっ!」







 新調したリボルバーナックルを握りしめ、繰り出した一撃が、受け止められる――その衝撃で、相手を中心に地面が陥没、クレーターを作り出す。

 そのくらいの一撃を叩き込んだのに、相手はしっかりと踏んばって耐えている……まったく、とんでもない硬さの甲羅だこと。

 まぁ、素体が素体じゃそれも当然か……ロブスタークロウフィッシュのシザー、だっけ?







「貴様こそやるじゃないか、クイント・ナカジマ。
 オレの甲羅に阻まれて、なおこれだけの衝撃を伴う一撃とは、こちらの予想以上だぞ」







 それは……どうもっ!

 押し返してきたシザーの腕を私も弾いて、お互いに距離を取る。



「世辞などではないぞ。実際に貴様は強い。
 他の降魔点を守る我が同胞達……当たった相手によっては十分に勝ちを狙えるレベルだった。
 だからこそ……」











「“我々”に当たってしまったのは、貴様にとって不幸だったな」











 …………『我々』!?

 相手はシザーだけじゃない――とっさに周囲を見回す私だけど、相手は思いのほかあっさりと、堂々と姿を現した。

 そう。現したんだけど……







 ………………ちょっと待って。







 これでも私は、ジュンイチくんの親のひとりを自負してる――で、ジュンイチくんがうちで仮面ライダーのディスクを見ていたところに何度も出くわしてるから、それなりに作品についての知識もある。



 けど、今はそのことをちょっと後悔。

 だって……わかってしまったから。



 現れたのが、“どれだけ危険な相手なのか”。







 ――“水”のエル。



 ――“地”のエル。



 ――“風”のエル。







 『アギト』の最強怪人、エルロード――しかも、それが三種総登場。

 挙句の果てに、三人ともが強化体……そう。『原作』では強化体の登場しなかった“風”のエルも、他の二体と同じように前垂れが装飾に追加されてる。エルロード強化体、共通の特徴だ。

 もしかして、これって……



「けっこう……ヤバイ?」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……フンッ、やはりか」



 ネガタロスの言葉に、僕らはすぐに“それ”に気づいた。

 すなわち、あちらさんが各“降魔点”に配置しているだろう防衛戦力……そこに、かなりの大物を配置しているってことに。

 なので、ジュンイチさん達ほどじゃないけどそれなりの感知スキルを持ってるマスターコンボイに探ってもらったら……その通りだったらしい。



「各“降魔点”の周囲にやたらとデカイ反応がゴロゴロしてる。
 すでにスバルや泉こなた、クイント・ナカジマが接敵……次に接敵しそうなのはエリオ・モンディアルか」



 まったく……やってくれるね。

 ネガタロスの性格的に正面突破にこだわるだろうから、そっちに戦力を優先して、“降魔点”の防衛にはそんなに強力な戦力は置かないだろうと踏んでたんだけど……ザインの仕業だな、間違いなく。



「ヤバそう?」

「『心配ない』と言いたいところだが……正直、五分五分といったところか」



 尋ねる僕に、マスターコンボイがそう答える。



「単純に戦力だけで比較するなら、完全にこちらが負けているが……それでも、アイツらがそう簡単にやられるものか。
 貴様ほどではないが、スバル達だって“JS事件”の頃から再三自分達より強い相手を相手にしてきている。その経験を活かすことができれば、勝負はわからん。そういう意味での『五分五分』だ。
 それに……」

「…………だね」



 マスターコンボイの言いたいことはわかる……なので、アルトをかまえて、ネガタロス達をにらみつける。



「アイツらを僕らが速攻で叩いちゃえば、それで終わり……だものね」

「へっ、確かに、そっちの方が手っ取り早いよな!」



 告げる僕の言葉にモモタロスさん(in良太郎さん)が答えて、僕らは改めて戦闘体制に移行。



「フンッ、それこそムリだろ。
 お前ら、オレ達がそう簡単にやられるとでも――」











「思ってるさ」











 ネガタロスの言葉に被せた時には、もうマスターコンボイがその眼前に飛び込んでた――こっそりアクセルダッシュ(四倍)を発動させていたんだ。

 そのまま、相手の反応も待たずにオメガを一閃して――





















 空を薙いだ。





















 刃がネガタロスを捉えた瞬間、風船が弾けるみたいにネガタロスの姿が消えた。

 超スピードでかわした――とかじゃない。

 これは……



「幻術か!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「えぇ、その通りですよ」



 あちらに向かわせたイマジンに撮らせている中継――映像の中で悔しがっているチビスケ達にザインのヤツが告げる。

 今、オレ達がどこにいるかと言うと――まぁ、一応首都にはちゃんと来ている。

 ヤツらの推理の通り、南側のルートから進軍した。

 ただし……ヤツらと接触する前に、転送によって一足飛びに新市街までショートカットさせてもらった、それだけの話――ちょうど今、転送を終えて新市街・南地区のメインストリートに降り立ったところだ。

 『卑怯』とか言うなよ? ちゃんと四つのルートのひとつから進軍したし、そもそも四つのルートから“どういうふうに”首都の中心まで進軍するかは言っていなかった。

 少なくとも宣言した内容には反していない。ウソを言ったことにはならないからな――まぁ、裏をかかれて悔しがっているヤツらの姿にちょっとだけ優越感に浸っているのも事実だが。



「悪の組織の人間の言うことを真に受ける方がバカなんだよ。
 あばよ、電王――オレ達はこのまま中央まで進ませてもらうぜ」



 ともあれ、今は自分達のすべきことをするだけだ。映像の中の電王達に言うと、首都中央に向かおうと歩き出して――





















〈…………そんなことだろうと思ってたよ〉





















 ………………何?

 映像の中のチビスケの声に、ふと足を止める――その拍子に、気づいた。



 ……人が、いない。



 時刻は正午。廃棄都市と違って人の生活する新市街だ。そこら中に人があふれていてしかるべきなのに……見事なまでに誰もいない。

 これはまさか……ひょっとしなくても、封鎖されている!?

 と、そんなオレ達の目の前に、突然光の塊が現れた。

 色は緑。その光が弾けると、中から姿を現したのは――



「なめたマネしてくれんじゃねぇか、えぇ、おい!」



 電王――赤鬼野郎のついた特異点。



「けど、残念。
 ボクらを釣り上げようなんて、ずいぶんと思い上がったもんだね」



 青亀野郎。



「こっちだって、お前らの言うこと全部を真に受けたりしねぇっつーの」

「その通り!」



 ゼロノスとその相方。



「めんどくさいんだからさ、変な小細工とかなしにしてくれる?」



 クレーン車から変形するトランスフォーマー。



「そちらにはザインがいるというのに、素直に進軍すると思えという方がムリな話だ」



 ザインの元同僚。確か名前は炎皇寺往人……おい、言われてんぞ、ザイン。



「そのようですね。
 なるほど……そちらも、私達の手を読んでいたというワケですか」

「ネガタロスはともかく、策士として“被害は最小限、効果は最大限”を地で行く貴様が、主の方針とはいえ真っ向勝負に素直に乗ってくるとは思えんからな。必ず、ネガタロスをうまく言いくるめてこちらの裏をかいてくると思っていた。
 手口についても、貴様が“水”属性、すなわち転送系のエキスパートであることを考えれば、だいたいの予想はつけられる――だからこちらも、あらかじめ遊撃隊を用意しておき、貴様らの転送反応をキャッチしたのにあわせてシャマルに転送してもらった、というワケだ」

「なるほど……
 しかし、今の私の主はネガタロス様……私の進言に耳を貸さず、そのまま真っ向勝負に踏み切っていたらどうするつもりだったんですか?」

「その時は遊撃部隊が奇襲部隊に変わるだけの話さ。
 だが……まぁ、その心配はしていなかったがな」



 こちらを見て、炎皇寺往人が告げる――その視線に込められているのは、敵に向けるものとは思えない強い信頼の色。



「ネガタロス――貴様のことだ。こっちがこうして対抗してくることを、むしろ期待していたんじゃないのか?
 ザインにあっさりだまされるような輩ならその程度。戦う価値もない相手としてそのままクラナガンを陥としてしまってもかまわない。
 だが、逆にザインの策を読んで対抗してくるようなら、それこそつぶしがいのある獲物だということ……どちらに転んでも、貴様にとって不都合なものはない。
 貴様はオレ達を試す意味で、自分の趣旨に反するザインの献策にあえて乗った……違うか?」

「否定はしねぇよ」



 こいつら、オレの気性まで読んでこうして対抗してきたってのか……おもしれぇ。

 ザインが策にこだわる気持ちが少しわかったような気がする。コソコソ頭使って戦うことの何がおもしろいんだと思っていたが……なかなかどうして、こういう読み合いもけっこう悪くねぇな。



「いいねぇ。それでこそ叩きがいがあるってもんだ。
 せいぜい楽しませてもらおうか、電王にゼロノス、そして機動六課!」

「上等だ、オラ!」

「楽しむ余裕なんかやるかよ。速攻でブッつぶしてやる!」



 オレの改めての宣戦布告に、電王とゼロノスが答える。二人して同時にベルトを腰に巻き、











『変身っ!』

《Sword Form》

《Change and Up》












 二人が、ライダーの姿へと変身する――だから、



「それなら、こっちも」



 言って……オレもまた、腰にベルトを巻く。

 すでに手にはライダーパス――かつてヤツらから奪い、そのままオレのものになっているそれを、ベルトにかざす。











「…………変身」

《Nega Form》












 瞬間、オレの全身をスーツが包む……電王の変身過程と同じく、一度プラットフォームに変身。

 なお、オレ様の自慢の角とかがどうスーツの中に収まっているのか、その辺の質問は一切受けつけん……というか、オレにもまったくわからん。どうなってるんだ、これ。

 そんなことを考えている間に、プラットフォームの上半身にプロテクターが装着される。赤鬼野郎の変身と同じアーマーの、色違い+模様入り。

 最後に、オレの一部が電仮面となってマスクに装着される――そして出来上がるのは、赤鬼野郎の変身した電王の色違い。もっとも、強さはこちらが別格だがな。



「さぁ……」







「本物の“悪”を、見せてやる」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……どうやら、向こうも始まったようだな」



 仕込みがバレたザインが幻術を解除したんだろう。マスターコンボイにつぶされたネガタロスの幻に続いてザインやデスイマジンの姿が消えた――そこから向こうが開戦したと読んだマスターコンボイがつぶやく。

 さて、残っているのはほとんどが雑魚か……それなりの数がいるけど、僕らならどうとでもできるね、こりゃ。



「いや……やっちゃん、簡単に言ってくれるけどなー」

「アイツらを、あたしといぶきだけで相手しろっての?」



 こっちも、マスターコンボイが幻術を解除して良太郎さん達の虚像が消滅。“本来の”ここの配置メンバーだけになる。

 つまり――僕とマスターコンボイ、いぶきになずなの四人。最初から、さっきレオイマジンと一緒にここから離れていったあずささんを含めた五人だけでここを守る算段だった。



 で、どーして今の発言、いぶき達が僕らをカウントから外したかっつーと……



「だから……さっさとアイツ、ぶっつぶして来てよね」

「負ける気はあらへんけど数の差が差やからね。進軍を優先されたら、広域攻撃のないウチらじゃけっこう取りこぼしてまうと思うからなー」

「わかってるよ」

「瞬殺して合流してやるから待っていろ」



 マスターコンボイと二人でいぶき達に答えて、“そいつ”の前に進み出る。

 そう。“ほぼ”雑魚だらけなこの場のネガショッカー側戦力、その唯一と言ってもいいくらいの例外――







 フェイト達の時間を奪った張本人、バラのイマジン――ローズイマジンの前に。







 やっぱり、ヤツは正規にここ配置だったか。

 フェイト達の時間を奪った以上、コイツが僕らの最優先ターゲットになることなんて、ザインどころかネガタロスにだってわかるはず。

 となると、ザインのことだ。絶対に自分やネガタロス達とは分けて配置する……自分達のショートカット作戦に気づかれたとしても、ネガタロスや自分に向ける戦力とローズイマジンに向ける戦力に分断できるから。

 そう読んで、僕だけはネガタロス達を無視してガチのこっち配置にしてもらったんだけど……正解だったね。



「さて、いぶきやなずなから頼られちゃったし……」

「速攻で叩いて、なのは達の時間を取り返すぞ!」

《手加減なしでブッつぶしてやろうぜ、ボス!》

《バシッと決めていきましょうっ!》







(第28話に続く)


次回、とコ電っ!

 

「オレがただ、時間を奪えるだけだとでも思っていたのか?」

 

「よくがんばったが……ここまでだ」

「まだ……だ……っ!」

 

「まさか、アイツらまでネガショッカーに加わっていたなんて……っ!」

「ヤバイ相手なのか?」

《少なくとも……ここでの参戦に『最悪』とコメントできるくらいには》

 

「お前……何者だ!?」

「何者もクソもねぇよ……」

 

第28話「オレはオレだ!」

 

「誰にケンカを売ったか、教えてやるぜ!」

あとがき

マスターコンボイ 「ネガショッカーとの最終決戦がついに開戦。あちこちで戦いが始まって、長丁場の予感をひしひしとさせてくれた第27話だ」
オメガ 《また長くなりそうですよねー、これ。
 しかも、まだ全部を描ききれたワケではありませんし……ミス・ティアナ達は次回に持ち越しですか》
マスターコンボイ 「ローズイマジンと戦うオレ達、ネガタロス達とぶつかる野上良太郎達と同じように、スバル達のところにもボス級怪人達がズラリ。
 四方の防衛線も数で攻められたら厳しいだろうし……どこも楽勝、とはいきそうにないな」
オメガ 《ですね。
 もう、どの現場も要救援レベルの苦戦は必至じゃないですか。予告のセリフ的に、どうやら我々の戦場にも敵の援軍が来そうなくらいですし》
マスターコンボイ 「逆に言えば、どこに救援が入ってもおかしくないということか……」
オメガ 《少なくとも、ミスタ・ジンとプラス3名は確定ですね。
 他には、ディケイド一行に……『ブレイカー』組からの参戦もミスタ・イクトがにおわせていて、えっと、えっと……》
マスターコンボイ 「前回のおまけで仮面ライダーであることが明かされた人間嫌いのあの男も、確実に関わってきそうな流れだな」
オメガ 《ホントにいろいろ出てきそうですね……》
マスターコンボイ 「 まぁ、そうやって援軍予備軍が多数控えていることや、前回ここで貴様が言っていた『反撃に向けて盛り上げるため』という話を考えれば、ここでの苦戦はむしろ必要なのかもしれんがな」
オメガ 《そうですね。
 ではボス。苦戦の象徴としてブッ飛ばされてください。具体的には『MS』68話の再現な感じで》
マスターコンボイ 「ほぼ死亡コースだよな、それ!? オレあの時機能停止まで逝ってるんだぞ!?
   ……と、そんなことを話しているうちに、今回もお開きの時間だ。
 では、次回も楽しみにしているがいい」
オメガ 《次回もよろしくお願いいたします》

(おわり)


 

(初版:2013/06/18)