「……始まりましたね」
ここは六課のデバイスルーム……いくつものウィンドウに、各地の戦いの様子が映し出されてます。
そのひとつ……恭文さん達の戦いの現場の様子を映し出したウィンドウを見て、思わず声がもれました。
別の映像では良太郎さん達もネガタロスを相手に戦闘開始。それに各“降魔点”に向かったスバルさん達も。というか……
「ネガタロスも本気みたいですね……」
“降魔点”に配置されていたネガショッカーの怪人達……その顔ぶれを見ただけでも、ネガタロスの本気ぶりは明らかでした。
「リイン曹長、そんなにあっちは出し惜しみなしで来てるんですか?」
「はいです」
どのくらいかというと……シャーリーからの質問にも、迷うことなくうなずけるくらいに。
リインも、恭文さんと一緒にいろいろ映像ディスク見てました。良太郎さん達が来てからも、スバル達が『ネガショッカー対策のために』って映像ディスクを見始めたのに付き合って何度も復習してました。
だから、相手の配置してきた怪人達についても誰が誰だか、ちゃんとわかります。
そして……だからこそ、ネガタロスがどれだけ強力な怪人達を配置してきたのか、その危険度までバッチリわかっちゃいました。
「スバルのところにはダグバと同じン種のグロンギ。こなたさんのところにはジョーカー。クイントさんのところにはエルロード、しかもそれが三体同時投入……
どの“降魔点”にも、今までの平成ライダーに登場してきた最強怪人や最終怪人ばかりを投入してます。
明らかに、私達が“降魔点”の破壊に戦力を割くことを見越して、確実につぶしに来てるです」
最初から数で負けている私達には、“降魔点”の破壊にそれほど人数を割けず、スバル達にそれぞれ単独突入してもらうしかなかったですけど……正直、相手が悪すぎです。
恭文さんが“そんな”戦いばかりを強いられてきたのを教訓に、ジュンイチさんを中心に格上相手の戦いをみっちり教え込んでますから、スバル達にも勝ち目がないワケじゃありませんけど……だからと言って楽観視などもってのほか、なくらいの戦力差です。
恭文さんとマスターコンボイも、予想通りのところに配置されていたローズイマジンを相手に戦いを始めてますけど……相手もただものじゃなさそうです。
本当なら、リインもすぐに出らればよかったんですが……というか、リインはダメダメです。
恭文さんのこと……大好きな人のこと……ちゃんと守れてないです。“JS事件”の時も、今も。
やっぱり、アルトアイゼンみたいに側にいないと、守れないのでしょうか。なら、私は……
……いえ、そこは後ですよね。私は何ですか? “祝福の風”であり、“古き鉄”……恭文さんの一部、リインフォースUです。
迷っちゃいけませんっ! 私は今やるべき事を、しっかりとやっていくだけなんですからっ!
「…………シャーリー、リュウタロスさん、急ぎましょう」
「はい。あともう少しですしね」
「うん、ボクもがんばるっ!」
本当に……あとちょっとです。だから、がんばります。そして、アルトアイゼンと……恭文さんと一緒に戦うです。
恭文さん、アルトアイゼン。待っててくださいです。
恭文さんとアルトアイゼンとリイン、そしてマスターコンボイの新しい力……七つの剣と天秤の盾、もうすぐ打ち上がりますから。
――時の列車、デンライナー。次の停車駅は、過去か未来か――
第28話
オレはオレだ!
「けっ、何が『本物の“悪”』だ。
悪は悪でも、小悪党だろうがよ、てめぇは」
変身を遂げ、モモタロスの『俺、参上!』のように決めゼリフを放ったネガタロス――ヤツにそう返しつつ、モモタロスは腰のデンガッシャーを取り外し、組み立て始める。
「小悪党かどうかは、すぐにわかるさ」
同様にネガタロスもだ。自分のデンガッシャーを組み始める――モモタロスと同じ組み方だ。ソードモードにするつもりか。
本当ならジャマしてやりたいところだが……難しいな。
まるでこちらを牽制するように、死神イマジンが前回の戦いでも使っていた“原作”のそれよりも大型の大鎌をかまえてにらみを利かせている……バルディッシュのサイズフォームを想起させるその刃の大きさに、正直イラッとくる。
「侑斗!」
と、こちらも戦闘準備か。桜井侑斗の変身したゼロノス――“まるで赤錆のような色のゼロノス”に向け、デネブが駆けてくる。
「オレも戦うぞ!」
そして、告げると同時、デネブがその姿を変える――光に包まれ、ゼロノスの手に収まったその姿は、さながら小ぶりのガトリングガン。
なお、ベガフォーム同様、あの姿になってもデネブ本来の顔は健在だ。
なるほど、あれがあの色のゼロノス――ゼロノス・ゼロフォーム用の武装、デネビックバスターか。
「最初に言っておく!
今日のオレは、かーなーりっ! やる気だっ!」
《ついでに言っておくっ!
オレもかーなーりっ! やる気だっ!》
「……いいだろう。
今日、ゼロノスが死ぬ」
そんな、戦闘準備を整えたゼロノスとデネブに告げ、死神イマジンが彼らの前に進み出てくる。
「こっちは“やる気”。そっちは“殺る気”……ってか?
一応忠告しておくけどな……同じこと言ったお前の同種、結局オレ達や野上達にやられてるんだぜ?」
「同じと思うな」
「それはこっちのセリフだぜ。
今度は、オレ達だけで片づけてやる!」
返してくる死神イマジンに告げると、ゼロノス組はヤツと共にこの場を離れる――場所を変えて戦うつもりか。
「よっしゃ、そんじゃ、オレ達もいくぜ!」
「おぅ」
となれば、次はオレ達だ。モモタロスに答え、オレもネガタロスに向けて一歩を踏み出し――
「――――――っ!?
待て、下がれっ!」
「ぐぇっ!?」
とっさにモモタロスの、電王ソードフォームの襟首をつかみ、後方に跳ぶ――つぶれた悲鳴が聞こえたが、いかんせん緊急回避だ。文句を言うな。
だが、その甲斐あって相手の攻撃は無事回避。一瞬前までオレ達のいたところに、“突然炎が巻き起こる!”
オレや柾木のような、放った炎を叩きつける炎撃じゃない。これは――
「“念動発火能力”……っ!」
こんな攻撃をしてくるライダー怪人と言えば……っ!
心当たりはあった――柾木秘蔵の関連書籍を読破しておいて正解だったな。
そんなオレの仕入れたにわか知識からの予測は見事的中――オレが脳内で挙げた最有力候補ご本人が、オレやモモタロスの前に立ちふさがる。
『クウガ』の最後の敵にして、グロンギの最強怪人――ン・ダグバ・ゼバ。
「チッ、無視できるレベルの相手じゃない、か……
野上、モモタロス……悪いがネガタロスはお前らだけで叩いてくれ」
「ケッ、バカ言うな。オレ達だけで十分だっつーの」
頼もしい返事と共に、モモタロスは改めてネガタロスに向かう――さて。
「アイゼンアンカー、ウラタロス。
すまんが、オレ達がそれぞれの相手を片づけるまで、お前達だけで雑魚の掃除を頼む」
「やれやれ、ボクらはあぶれ組ってワケ?
こんな釣り甲斐のない連中を押しつけられてもねぇ」
「めんどくさいことこの上ないよね。
さっさと片づけて、合流してきてくださいよね」
「わかっている」
二人にそう返すと、オレは改めてダグバと対峙する。
「さて、待たせたな。
こっちの役割分担は完了だ――そろそろ始めようか」
「そう……キミがボクの相手なんだ」
オレの宣戦布告に対し、ダグバはどこか楽しそうに答える……口調もそうだが、資料の記述の通り子供っぽい性格のようだな。まるでリュウタロスのようだ。
もっとも……凶悪さはリュウタロスの比ではないが。
「じゃあ……がんばってね。
ボクを、楽しませてくれるくらいに!」
告げると同時、ダグバがオレに向けて手をかざす。同時、巻き起こった炎がオレを包み込み――
「安心しろ」
“かまわず放ったオレの炎が、ダグバの全身に叩きつけられた”。
オレの炎を受けた衝撃でダグバが吹っ飛び、ヤツの干渉が断たれた炎が消える――その中から姿を現したオレの服には、焦げ目ひとつついていない。
まぁ、当然だ。ヤツの力による発火と同時、“それ以上の熱量を持つオレの炎で相殺してやった”のだから。
対し、ダグバもすぐに身を起こす――あいさつ代わりの一撃とはいえ、ほぼノーダメージか。ボス級怪人の肩書は伊達ではないということか。
まぁ、それはともかく――
「貴様の期待には、そえられそうだぞ?」
先ほどの一言、その続きを告げながら、ダグバに向けて一歩を踏み出す。
「どうして、誰よりも叩きのめしてやりたいネガタロスよりも貴様の相手を優先したか、教えてやろう。
他のヤツと違って、オレには貴様の炎を防ぐ手立てがあるからだ」
そう。まさに今やってみせた通りに――だ。
超能力によるものであろうが炎は炎。熱量の塊である点は自然界の炎と変わらない。そしてわずかながら描写されていた原作での発火シーンを見る限り、ヤツの炎は自然界の炎が発揮し得る温度域を超えるほどの熱量は持っていない。
なら、それ以上の熱量をもってあたれば防ぐこと、耐えることは可能なのではないか?――この場で即興で考えた対抗策だったが、どうやら図に当たっていたようだ。
「オレを殺したければその拳をもってかかってこい。
“炎”の瘴魔神将、“炎滅のイクト”――その名にかけて、全力を持って貴様を倒す!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「このぉっ!」
相手の目の前でほとんど直角にターン。こっちの姿を見失っているスキに再度突撃して、斬りかかる――けど、一瞬間に合わなかった。ギリギリで感づかれて、その手に握る、メチャクチャに枝分かれした剣に受け止められる。
奇襲は失敗。なので仕切り直そうと後退――しようとするけど、
「逃がさねぇよっ!」
相手も追ってきた。
ただし相対速度はほぼ同じ。両者の距離は変わらず――
《Hound Shooter》
「――――――っ!?」
響いた声に気づいたローズイマジンが立ち止まって、その眼前を紫色の魔力弾が駆け抜ける――援護ありがと、マスターコンボイ。
「礼なら後だ……見ろ」
言われるけど、見るまでもない。
直後に響いた甲高い音が、マスターコンボイの魔力弾が一発残らず打ち砕かれたことを報せてくれたから。
僕の後退速度と同じぐらいのスピードなら、ガチの速さはこっちが上……簡単にいくかと思ってたけど、どうやらそう簡単な話じゃなかったみたいだ。
実際、さっきの不意打ちにも反応されたし、当てるつもりだったはずのマスターコンボイの援護射撃にも気づかれた。
こいつ……速さはそれほどでもないクセして、反応はむしろ僕らより速い……?
《そのようですね。
まぁ……正直『だからどうした』って話なんですけど》
だね。
アルトの言葉に全面同意。なので――迷うことなく突撃。
当然、相手も反応。手にした剣を横薙ぎに一閃、僕に向けてカウンターを狙う――なので、急停止してやりすごす。
もちろん、ただかわしただけじゃない。立ち止まった、相手の一撃をやりすごしたその間に、反撃の準備は万端っ!
放つ魔法は――
「クレイモア!」
切り札のひとつ、クレイモア――もちろん非殺傷バージョンなんかじゃない。設定オフった、思いっきり殺傷力バツグンのヤツ。
相手の剣の間合いのギリギリ外側、至近距離からぶちかました魔力製ベアリング弾の嵐は全弾命中。相手の姿が一時的に爆煙の中に消える。
少なくとも無事では済んでいないはず。倒せていれば上等。でなくてもかなりのダメージを叩き込めたはず………………なっ!?
「……それで終わりか?」
結論から言えば……甘かった。
相手のダメージはほぼ皆無……しっかりと防がれた。
けど、僕が驚いた理由はそこじゃない。
ヤツが……ローズイマジンが、僕のクレイモアを“どうやって防いだのか”だ。
一言で言えばシールド。目の前に展開したそれで、僕のクレイモアを防いだんだ。
ただ、問題はそのシールドが“何なのか”。
“桃色に輝く、円形の魔法陣型のシールド”。これは……
「なのはの……ラウンドシールド!?」
「うろたえるな、恭文!」
マスターコンボイ!?
「サリエル・エグザの言っていた可能性を思い出せ!
ヤツが奪った連中の時間を“見る”ことができたとしたら……その仮定が事実だったなら、なのはのラウンドシールドを知っていてもおかしくない!」
あ、そっか。
「そんなこけおどしの猿真似で、オレ達を動揺させられると思うな!」
言いながら、僕に代わってマスターコンボイが突っ込む。一気に懐に飛び込んで、オメガを一閃。
けど、アイツの展開したラウンドシールドに防がれる――猿真似だったとしても、防御力はそれなりってことか……
「フッ……
本当に、猿真似だと思うのかよ?」
「何だt
マスターコンボイの反論は最後まで続かなかった。
なぜなら、僕の目の前で――
“一瞬で背後に回り込んだローズイマジンにブッ飛ばされたから”。
そして――僕は見逃さなかった。
アイツが高速移動を見せた後、一瞬だけアイツのいた場所で弾けた――“電気変換された、金色の魔力の残滓を”。
つまりあれは――フェイトのソニックムーブ!?
なのはのラウンドシールドだけじゃない。フェイトのソニックムーブまでアイツは再現してみせた。
けど……それだけなら、さっきマスターコンボイが言ったように『ただの猿真似』で片づけられただろう。
問題なのは……ラウンドシールドとソニックムーブの残滓で、“魔力光の色が違ったこと”。
どちらも、なのはの、フェイトの色、そのままだった。まさか……
「お前……っ!」
「あぁ、そうさ」
イヤな予感が胸の中でふくれ上がる。うめく僕にローズイマジンが答えて――消えた! またソニックムーブか!
「――そっち!」
けど、使えると知っていれば話は別。アイツの動きを捉えて、振り向いて――
「オレがただ、時間を奪えるだけだとでも思っていたのか?」
そこに、“桃色に輝く魔力砲のチャージを終えた”ローズイマジンがいた。
つか、マズイ。アレは――
「ディバインバスター!?」
瞬間――魔力が荒れ狂った。解き放たれた魔力の渦が僕とマスターコンボイを飲み込む!
とっさに展開したシールドもあっけなく崩壊、全身に直撃を受けた痛みを感じながら、一瞬自分の位置がわからなくなる。
目に映る世界がものすごい勢いで流れていくのを見て、吹っ飛ばされているのだけはなんとか理解できて――衝撃。数回繰り返された後ゴロゴロと転がる。あー、何度かバウンドしたのか。
《マスター!?》
「大丈夫……なんとかね」
アルトに答えて、身を起こす――けど、マズイ。
悔しいことにあの横馬には何度も煮え湯を飲まされてる。模擬戦やって、あの凶悪な砲撃で撃墜されたことも一度や二度じゃない――その経験が教えてくれる。
猿真似なんてものじゃない。今の砲撃の痛みは――“なのはのディバインバスターそのものだったと”。
そして、それは残念ながら、撃たれる前に感じた“イヤな予感”が当たっていたことの、何よりの証明。
つまり――
「お前……フェイトやなのはの時間を!?」
「あぁ、そうさ」
あっさりと、ローズイマジンが答える。
「オレは奪ったヤツの時間を自分の時間に“重ねて”、自分の時間として使うことができる。
で……今お前らが味わった通り、今はあの娘っ子二人の時間を“重ねさせて”もらってるっつーワケだ」
「何だと……!?」
《マジかよ……!?》
「別に、そんなヤバイ話じゃねぇだろ。
お前らのよく知ってる相手の時間だぜ? アイツらを相手にしてるようなものだと思えばいいだけの話だぜ?」
驚いてるマスターコンボイやオメガにローズイマジンが答えてるけど……冗談じゃない。
アイツ、わかって言ってやがる……アイツの言う通りの簡単な話なんかじゃないって。
フェイトとなのはは二人。それをアイツはひとりでこなしてる……この違いは大きい。それもとんでもなく。
つまり……
フェイトばりのスピードで飛び回る相手が、なのはばりの砲撃ぶちかましてくるってことでしょうがっ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「やぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
気合一発、全力で突撃っ!
マッハキャリバーがうなりを上げて、あたしは一気に距離を詰める――相手の迎撃はなし。難なく飛び込んで拳を繰り出す。
けど――ダメ。ファングもガミオも、あっさりとかわしてあたしの頭上に跳ぶ。
そう。“飛ぶ”じゃなくて“跳ぶ”――周りの廃ビルを利用して、三角跳びの要領で上空に逃れたんだ。
さっきからこの繰り返し。あたしの拳は一発も当たらない――だけど、何度も繰り返されればこっちだって慣れてくるんだからっ!
「逃がさないよ!」
《Wing Road》
あたしに代わってマッハキャリバーがウィングロードを展開。その上を走って、上空に逃げたガミオを追いかける!
当然、ただ跳んだだけのガミオよりもあたしの方が断然速い。一気に追いついて、リボルバーナックルで一げk――って、えぇっ!?
消えた!? ウソ、どこn
「きゃあっ!?」
瞬間、背中に衝撃と激痛――勢いよく近くの廃ビルの中に叩き込まれた。
後ろから、殴られた……!? けど、どうやって回り込んだの!?
「わかってねぇな!」
――――――っ!?
聞こえた声に、とっさに跳ぶ――次の瞬間天井が崩れて、一瞬前まであたしのいた場所がガレキに押しつぶされる。
そして――
「ガミオの旦那はガチで狼のグロンギなんだぜ」
そう言いながら、天井の穴から降りてきたのはファングだ。
「狼は主に山野で狩りをする――高低差のある場での動きってモンはオレやてめぇ以上にわかってんだよ!
わかるか!? 空間を活かした立体的陸戦じゃ、てめぇに勝ち目はねぇんだよ!」
つまり……今の攻防、あたしは“純粋に体術で上回られた”……!?
映像ディスクで見た限り、仮面ライダーの怪人って能力頼み、力押しの印象が強かったけど……さすがはボス怪人。そんな単純にはいかないってことか。
…………けどっ!
「それならっ!」
だからってあきらめるつもりなんかない。ウィングロードでビルの中から飛び出すと、再び目の前に環状魔法陣を展開。スフィアを生み出して――
「これなら、どうだぁぁぁぁぁっ!」
ファングや、彼と合流したガミオに向けてもう一発、ディバインバスターをお見舞いする――ただし、今度は直接は狙わない。わざと狙いをしぼらず、広範囲に魔力の渦をぶちまける。
ディバインバスター、広域バージョン! これで、ひとまず足を止める!
荒れ狂う魔力が、二人を飲み込んで――
「だから、わかってねぇって言ってんだろ!」
ウソ!? かまわず突破してきた!?
驚きながらも身体は動く。とっさにガードを固めて――その上から叩きつけられたファングの蹴りが、あたしを思いっきり後退させる。
「く…………っ!」
すごい威力だ。受けた両腕がしびれてる……っ!
一瞬シールドで受けた方が良かったかも、って後悔するけど……こんな威力じゃ、きっとシールド張っても蹴り割られてた。むしろ魔力の無駄遣いにならなくてよかったかも。
それよりも……今のディバインバスターを突破してくるなんて……
「残念だったな、あてが外れてよぉ。
オレはオオカミウオをベースにした瘴魔獣将だぜ」
対して、ファングの方はそれほどダメージを受けた様子はない。余裕の態度でそんなことを言ってくる。
「オオカミウオってなぁ、一応名前に“オオカミ”ってついてるが、実際にはそれほど獰猛な魚じゃねぇ。
けどな、その分類は硬骨魚網に属する――硬い骨格に支えられたその歯で、貝を殻ごとバリバリ食っちまうし、下手すりゃ人間の指だって食いちぎれるんだ。
その頑丈さが反映されたこのオレ様の防御力をもってすれば、拡散モードで威力の散ったてめぇの主砲なんざヘでもねぇんだよ!」
そして、ファングがもう一度突っ込んでくる――もちろんガミオも。
だけど……あたしだって負けられるワケないっ!
あなた達を倒して、“降魔点”をぶっ壊して……お兄ちゃん達を絶対助けるんだっ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「くらえ!」
言いながら、ケンザンが身体を丸めて……ぅわ、転がってきた!?
しかも、全身のトゲを逆立たせて。地面に刺さっても何のその……というか、地面をえぐりながらこっちに向かって突っ込んでくる。
けど……
「だから、そんなの当たらなきゃどうってことないんだって……ヴァ!」
日下部さんのマネをしながら、アイギスを一閃。
ただし、攻撃のためじゃない。軌道をそらせるための一撃だ。狙い通り、転がってきたケンザンはコースを変えて――
「ぶぎゃっ!?」
よし、ジョーカーにストラーイクっ!
ケンザンはジョーカーを轢きつぶして、そのまま駆け抜けていった。ジョーカーは……
「く……っ、そ、が……っ!」
あ、生きてた。まぁ、アンデッドだしね。
……もっとも、アンデッドなおかげで仕留めるのは絶望的なんだけど。
パスボルやケンザンも普通に強いし。今のところは何とかなってるけど、元々数からして不利なんだ。
時間をかけたら絶対にマズイ。速攻で叩くべきなんだけど……っ!
「オラぁっ!」
そんな余裕ないしっ! 身体を風船みたいにふくらませて、ボディプレスをしかけてきたパスボルの巨体を回避して――
「そこだっ!」
パスボルはオトリ。私の回避先に回り込んでいたジョーカーの爪、あちらさんの本命の一撃を、身を沈めてかわす。
「逃がしゃしねぇぜっ!」
でぇっ!? またケンザンの回転攻撃キタ――ッ!
――なんて驚いてみせたけど、実際には対応できるんだけどね。あっさりと回避っ!
ケンザンは私の後ろに駆け抜けていった。今の内にジョーカーに一撃入れて、眠ってもらうっ!
狙いをジョーカーにしぼって、地を蹴って――
「きゃあっ!?」
“背後から、全身を引っかかれた”。
「わぁぁぁぁぁっ!」
強烈な衝撃が、私を大地に叩きつける――ゴロゴロと転がって、ようやく停止。
うー、後ろ半身全体がズキズキする……たぶん、ケンザンの体当たりなんだろうけど、かわしたばかりの攻撃が後ろからくるなんて……
Uターンしたにしては返ってくるのが速すぎる。まるで“何かに跳ね返されてきたみたいに”……
「………………あぁっ!」
気づいた。ガバッ!と身体を起こして振り向いてみれば、推理通り背後――ケンザンが最初転がっていった先には、さっきボディプレスを外したパスボルがいた。
つまりケンザンはふくらんだままのパスボルの身体をトランポリン代わりにして、自分の体当たりを跳ね返させた――けど、あの場にパスボルがいたのは私へのボディプレスを外したから。
パスボルがボディプレスをかわされたを見て思いついたとっさの連携か、それとも最初から狙って私を誘導していたのか……どっちにしても、能力頼みのバカじゃない。頭の方もそうとう回る相手だってことだ。
うー、ますますヤバイよ、これ……今みたいな連携を、しかも狙ってかましてこられるんじゃ、この先どんな変幻自在な攻め方をされるかわかったものじゃない。
となると……
「とりあえず……真っ先に叩かなきゃいけない相手は決まったかな?」
とりあえず倒しても死なないジョーカーは論外。一撃入れて気絶しててもらおうかと思ったけど、この際後回しだ。
それよりも連携の要、パスボルを急いで叩かないと絶対にマズイ……振り回されて、手に負えなくなるその前に。
とはいえ、どうするか……アイギスの斬れ味、けっこう自慢なんだけど、それでもアイツの柔らかい身体を斬ることはできなかった。
あぁいう相手を倒すには……
「……やっぱり、これだよね」
つぶやきながら、アイギスを水平にかまえて、その切っ先をパスボルに向ける――そう、刺突だ。
『るろ剣』の参號夷腕坊しかり、『YAIBA』のゴールドさんしかり……この手の相手を倒すための常套手段。ありきたりだけど、これで……っ!
「…………いくよっ! マグナムキャリバー!」
《Absorb Grip.》
叫ぶと同時に、マグナムキャリバーが大地をしっかりと踏みしめる――タイヤがうなりを上げて、一気に加速した私はパスボルに向けてツッコんで……じゃない、突っ込んでいく。
「へっ、オレの身体をぶち抜こうってか!?
上等だ! やれるものならやってみろ!」
「それじゃ……お言葉に甘えてっ!」
そんな私の狙いに気づいて、プライドが刺激されたらしい――受けて立ってくれるらしいパスボルに応えて、私は一直線に突撃。そして――
「とぉりゃあぁぁぁぁぁっ!」
地を蹴った。突撃の勢いそのままに、パスボルの腹に飛び込む!
刃を突き立てて、そのまま全身がパスボルの腹に飲み込まれるみたいに突っ込む――距離にして数メートルは突っ込んだと思うけど、それでもパスボルの身体は貫けない。伸びに伸びて、私を包み込むような感じで後ろに向けて突出してる。
この勢いでもダメか……このままじゃすぐに失速して、正反対の方向にブッ飛ばされる。
そう……“このままじゃ”。
「ブレイズ、ロォォォォォドッ!」
だからこうする――ブレイズロードを“座標を固定せずに”展開っ!
空中に固定されず、ただ生み出されただけのブレイズロードは、マグナムキャリバーのタイヤに“送り出されて”後方へ流されていく。
その先端はあっという間にパスボルの身体から飛び出して、向かいのビルの外壁に激突して停止。となれば当然――
――――ぐんっ!
こうなる。ビルに突き刺さって止まってもなお生み出されて、伸び続けているブレイズロードは、私の身体を支えるつっかえ棒……ううん、むしろ私を前方に押し出す押し棒となって、私を、私が支えるアイギスの刃をさらにパスボルの身体に押し込んでいく!
「ぐ……ぉおっ!?」
当然、パスボルの身体はますます後ろに伸びていく。よせばいいのに意地を張ってその場に留まり続けているパスボルの声にうめきが混じってきたのが、ヤツのお腹を通じて伝わってくる。
あと……少しっ!
「いぃぃぃっ、けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
気合一発。ブレイズロードを支えに、私がさらに踏み込んで――
アイギスの切っ先に感じていた手応えがなくなった。
ばづんっ!と何かが破れるような音と同時に、私の突進を止めていた抵抗が消えた。同時に視界が開けて、私達の戦っていた廃棄都市の光景が見える。
つまり――
「ぐわぁぁぁぁぁっ!?」
ぶち抜いたんだ――パスボルの、風船のような、ゴムのような身体を。
けど、私にはパスボルがどうなったか、確認する余裕はない――だって、勢い余ってぶっ飛んでる真っ最中だし。
パスボルの身体っていう抵抗がなくなって、一気に飛び出した私は失速しきれず前方のビルのショーウィンドウに突っ込んだ。店内に置き去りにされていたマネキンを薙ぎ倒して奥の壁に激突、ようやく止まった。
……つか、いったぁいっ! 痛いよホント! バリアジャケットなかったら全身粉砕骨折間違いなしだよっ!
「いたた……」
《痛がるのは後にして、相手の確認を》
「わかってるよぉ。
けど、少しはムチャしたマスターを労わってくれてもいいじゃない」
《何言ってるんですか。
基本ギャグキャラ体質のあなたがあの程度でケガするはずないじゃないですか》
「……鉄壁にして不本意極まる信頼をアリガトウ」
そっか……私ギャグキャラ体質なのか……
マグナムキャリバーの毒舌にため息をつきながら、店の外へ。私がぶち抜いたパスボルの様子を確認する。
……私がぶち抜く、もっと言うと突撃かますまで立っていたその場に留まったままだ。私にぶち抜かれた身体の大穴をささらしたまま、じっとその場に立ち尽くしている。
大穴の断面からはバチバチと火花が散ってる。やっぱり前の瘴魔獣将と同じで戦闘機人ベースか――なんて納得してると、パスボルの身体が前のめりに倒れて――爆発。
これでひとり撃破。あと……二人っ!
「さぁ……次はそっちの二人の番だよ!」
言って、アイギスの切っ先をジョーカーやケンザンに向ける……んだけど……
…………笑ってる?
仲間がやられたっていうのに、アイツら、ぜんぜん動揺してる様子が見られない。それどころか、余裕の笑顔まで見せてくれている。
「……へぇ、悪役らしく、薄情なところを見せてくれるね。
仲間がやられたっていうのにその態度? 特にケンザン。パスボルは双子の兄弟なんじゃなかったっけ?」
「フンッ、笑いたくもなるさ」
声をかける私に答えて、ジョーカーはニヤリと笑って――
「こうも“作戦通りに事が運んでしまうと”な」
……“作戦通り”?
つまり、アイツらにとって、パスボルがやられるのは作戦の内……何かの目的で、捨て駒にした?
もちろん、それが単なるハッタリの可能性もある。けど、それを確かめる方法はないし、本当だとしたら、その目的はいったい……?
なんか、うかつに飛び込むのは危ないっぽい。アイギスの切っ先を相手に向けて牽制したまま、注意深くあちらさんの様子をうかがって……
視界がかたむいた。
「………………っ!?」
理由は簡単。“私がふらついた”んだ――とっさに踏んばって、とりあえず転倒はしないで済んだ。
けど、どうしていきなり……?
「……フンッ。
どうやら、“効いてきた”みたいだな」
「ケンザン……私に何したの!?」
「オレ達じゃないさ。
やったのはパスボルであり……お前だ、泉こなた」
え………………?
パスボルはわかるとして……私が?
「わからないか?
パスボルのベースになったフグの持つ特性は、威嚇のために膨らむ身体と、もうひとつ――」
………………っ!
「フグ毒……っ!」
「そういうことだ」
やられた……っ! アイツらが言ってた通り、アイツら、最初からこれを狙ってたんだ……っ!
私にパスボルを真っ先に叩かせることで、パスボルの体内のフグ毒の成分を周りにばらまいたんだ――そして、私はそれに気づかず、フグ毒をまともに浴びてしまった……っ!
けど、そんな毒物、バリアジャケットの魔力障壁で防げそうなものなのに……っ!
《マスター、大気中の毒物の検出に成功しました。
魔力粒子よりもさらに小さい微細なものです。これなら魔力障壁の魔力流の隙間を抜けてマスターに達するのは不可能ではありません。
また、これほど小さな物質では通常のサーチでも捉えられません。明らかに対魔導師戦を意識した毒です。
毒の構造も未知のもので現状での即時解毒は困難。すぐに解析にかかります》
「お願い」
「『解析』か……
そんな余裕があればいいがなっ!」
――――来たっ!
突っ込んでくるジョーカーに向けてアイギスをかまえ――ようとするけど両腕がうまく動かせない。防御が間に合わなくて、まともにお腹に蹴りをもらう。
強烈な衝撃に今朝の朝ごはんをリバースしそうになる――直後、背中への衝撃で自分が吹っ飛ばされてたんだと、後ろのビルの壁に叩きつけられたんだとわかった。
……起き上がれない。全身がしびれたように動かない。そーいや、テトロドトキシンって神経毒だったっけ……っ!
倒れたままの私に向かって、ジョーカーやケンザンが悠々と歩いてくる……
えっと……これ、もしかして詰んだ?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
く………………っ!
次々に自分を狙う相手の爪をかわして、後退する――もちろん、ストラーダを振るっての牽制も忘れない。
さっきからこの繰り返し。ボクの槍は、まだ一度も相手を捉えられていない。
というのも――
「防衛線が……厚い……っ!」
そう。原因は目の前を阻んでる、“大量のモンスターによる”防衛線。
モンスターの身体は青くて細長い金属質。翼は昆虫独特の透明な四枚羽根……要するに昆虫型。
ハイドラグーン。『仮面ライダー龍騎』終盤で大量発生した、現実世界でも長時間活動できる群体型ミラーモンスター……だったっけ。それが群れを成して、ボクの行く手を阻んでる。
そして――
「どうしました、エリオ・モンディアル?
まだ一度たりとも、あなたの槍はこの私を、その間合いにすら捉えておりませんが」
その分厚い防衛線の向こうには瘴魔獣将。まるで法衣のようなローブの上から、あちこちに楕円形のシールドプレートを取りつけたデザインのプロテクターを装着したそのいでたちは積極的に動き回るタイプには見えない。
たぶん、キャロと同じようなフルバック……後方支援型の瘴魔獣将なんだと思う。
「その程度とは拍子抜けですね。
この私――“マンボウ”のファミリアを、ただの一歩すら動かすことができないとは」
「こんなたくさんのミラーモンスターに自分を守らせておいて、よく言いますね」
余裕の態度の瘴魔獣将――ファミリアに軽口を返す……ぅわ、鼻で笑われた。
「それは当然ですよ。
私は、他の瘴魔獣将と比べて直接の戦闘能力については少々劣っていますから。そこを補うための戦力を用意するのは妥当な選択でしょう?」
言って、ファミリアは周りを飛び回るそれ……ハイドラグーンじゃない。小さなマンボウのような“空飛ぶ魚”を見回した。
どうも、アレがハイドラグーン達に指示を下してる、指揮中継端末のようなものらしい。
「私は指揮管制型の瘴魔獣将――眷属たる我が使い魔を媒介に、集団を指揮することに長けているのですよ。
ルールに守られたフェアなスポーツではないのです。自分の武器を最大限に発揮して相手を叩くことに、いったい何の不条理がありますか?」
「別にないですし、言ってることだってもっともなんですけど……それで苦労してる身としては、文句のひとつも言いたいんですよっ!」
言いながら、突撃――立ちふさがるハイドラグーンを一体、ストラーダの一突きで粉砕する。
と、視界に別のハイドラグーン。バックステップでその突撃をかわして、狙いを外したハイドラグーンは歩道沿いの消火栓を薙ぎ倒して墜落する。
消火栓はまだ機能が生きていたらしい。水が勢いよく噴き出して降り注ぐ――そんな中、ボクは改めてファミリアに向けてストラーダをかまえて……
「私の勝ちですね」
………………え?
いきなり、ファミリアの口から勝利宣言……えっと、どうして……?
「お忘れですか?
このハイドラグーン達はミラーモンスターです。そして――」
「ミラーモンスターは、“景色が映り込むものであれば、何であろうとミラーワールドとのゲートに利用できるということを”」
――――――っ!?
言われて――気づく。
ボクの足元にある――“たくさんの水たまりに”。
「しまっ――」
その一言を最後まで言い切る前に――
衝撃と共に、ボクは宙を舞っていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「フリード!」
「ガァッ!」
わたしの声に短く答えて、動く――わたしを乗せた、召喚状態のフリードが急上昇。そして――ブラストレイ!
狙い通り、全弾命中。標的が爆発の中に消えて――
「――――――っ!
危ない、逃げてっ!」
間一髪。わたしの声にフリードが身体をひるがえして、煙の中から撃ち出された、魔力やスパークとは違うエネルギーの弾丸をかわす。
同時に、その射撃で標的を包み込んでいた煙が吹き散らされる――そして姿を現した、全身真っ白な怪人はまったくの無傷。
みんなで見た“原作”の通りだ……アークオルフェノク。『仮面ライダー555』に登場した怪人種族、オルフェノクの“王”。
“原作”では仮面ライダーの人達の総攻撃にもビクともしなかった。あの防御力は、決して話の上での演出なんかじゃなかったらしい。
話の中じゃオルフェノクを不死にしたり捕食したりと生殺与奪の権利を完全に握ってたけど、それ以外には特に特別な能力は登場していなかった。おかげで『対同族に特化した能力の持ち主』みたいな印象があったんだけど……それを抜きにしても、やっぱり最後の敵だけあって、強い……っ!
それに――
《Caution!》
――――――またっ!?
ケリュケイオンが警告してくれる。回避は間に合わない――展開したシールドで、後ろから飛来した弾丸を防ぐ。
そう――“真っ向からにらみ合ってるアークオルフェノクとは別方向から”。さっきから、アークオルフェノクとは別に、わたし達を狙ってきている狙撃手がいる。
ずっとサーチをかけてるけど、射撃のエネルギーを感知できるだけで、相手の姿は影も形も捉えられない。姿が見えないだけじゃない、ケリュケイオンのサーチまでごまかせるくらいの高度なステルスを施しているみたいだ。
目に見える位置から撃ってくるアークオルフェノクの光弾はフリードに回避を任せて、わたしは見えない狙撃手からの狙撃をシールドで防ぐ。またまた飛んできた光弾に向けてシールドを展開して――
光弾が“曲がった”。
「え――――――?」
誘導弾――っ!?
いきなり軌道を変えられて、光弾を見失った。どこに――
「きゃあっ!?」
突然の衝撃――次に状況を認識した時には、わたしはフリードの背中から空中に放り出されていた。
「オォォォォォッ!」
もちろん、フリードがすぐに対応してくれた。落ちていくわたしに追いついて、その背中で受け止めてくれる。
落下感がなくなって、ようやく今の衝撃……被弾の痛みが具体的になってきた。左手が痛みでしびれてる。バリアジャケットの魔力障壁のおかげで直撃こそしてないけど、それでもかなりの衝撃だったみたいだ。
腕全体がしびれていて、しばらく動かせそうにない。これじゃ左側の防御が――
「――――フリード!」
イヤな予感がして、フリードに警戒してもらおうと声を上げる――けど、遅かった。
相手もそれは承知の上――というか、最初から狙ってたんだと思う。見えない相手からの狙撃が、今までとは一転してたくさん飛んできた。そのすべてがさっきみたいに軌道を変えて、わたし達の左側から一斉に襲いかかってくる!
とっさに右手でシールドを展開。左側からの攻撃を受け止めて――
「きゃあっ!」
「ガァッ!?」
今度は右側から――狙撃じゃない。アークオルフェノク! 挟み撃ちにされた!
両側から攻められたら、右手一本でしか防御できない今のわたしじゃ対処できない。召喚状態のフリードの大きな身体じゃかわしきれない――右側にもらった攻撃で防御を崩されて、一気に攻め込まれた。
立て続けの攻撃がわたし達を捉える――もうどっちからの攻撃かもわからない。衝撃で直撃したとわかるだけ。
さらにそこに落下感までプラス――フリードが墜落してるんだとわかるけど、どうしようもない。
「きゃあぁぁぁぁぁっ!」
そして――大きな衝撃。フリードの背中から放り出されて、地面を転がる。
「いたた……っ!
フリード、大丈夫!?」
「グルゥ……ッ!」
わたしの問いかけに、フリードの力強いうなり声が応えてくれる……よかった、大丈夫みたいだ。
『…………よくしのぐじゃないか』
………………っ!
それは、この戦いが始まったから初めての、言葉による相手からの呼びかけ――念話じゃない。周り全体に響いてる。
アークオルフェノクからの発言でもなさそう。たぶん、狙撃手の声……っ!
『だが……ムダだ。お前はもう、逃げられはしない。
このオレ……“テッポウウオ”のスナイプ様からはな!』
あぁ……納得。元々水鉄砲で獲物を獲るテッポウウオがベースだから、狙撃タイプなんだ……
思わず場違いにそんなことを考えて……今の言葉が戦闘再開の合図だったんだろう。スナイプからの攻撃だと思う、たくさんの光弾がわたし達に向けて飛んできて――
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「あらよっと!」
はーい。こちらホクト。現在“降魔点”のひとつで戦ってまーす♪
……なんてふざける場合じゃない。ものすごい速さでこっちを狙ってくる、槍の連続攻撃をパパから教わったステップでよけていく。
「よく逃げるじゃないかっ!
だがな――この“ミノカサゴ”のピアスの槍から、いつまで逃げられる!?」
「ずっと逃げるに決まってるよっ!」
攻撃してくる相手――ピアスっていうらしい。その人に言い返して、後ろに跳んで距離を取る。
さっきから一方的に攻められっぱなしだ。こういう時は一度離れて……ぅわ、追いかけてきた! 離れられない!
「仕切り直しなど許すものかっ!」
「許してよっ!」
ピアスに言い返して、相手の槍をわたしのデバイス、大鎌のニーズヘグUで弾く。
けど、またすぐに次の攻撃が飛んできて、わたしもそれをまた弾く――ぅわーんっ! さっきからずっとこんなだよっ!
一応、攻められっぱなしな理由はわかってる……振り回して攻撃するわたしのにーくんよりも、引いて、突き出すだけの向こうの槍の方が連続攻撃のスピードが速いんだ。
向こうもそれをわかってるのか、攻めの手を緩めるつもりはないみたいだし……
「…………だったらっ!」
両手に着けてるリボルバーナックル、そのナックルスピナーがぎゅんぎゅん回転。そしてわたしは――“にーくんを放した”。
「何っ!?」
まさかにーくんを放すなんて思ってなかったんだと思う。ピアスの動きが一瞬だけ止まって――その一瞬で、わたしは思いっきりピアスを殴り飛ばす!
「にーくんっ!」
《All right.》
わたしの呼びかけににーくんが応えて――“戻ってきた”。
わたしをサポートするために作られたにーくんは、元々飛行魔法の応用である程度は自分で動けるように作られている。
普段は攻撃の加速や、わたしが気づかなかった攻撃を防ぐために勝手に動く時とかに使われるんだけど……その機能を使って、自分をプロペラみたいに回転させて飛んできたんだ。
そんなにーくんをキャッチして、プロペラ回転の勢いを殺さないように振り回す。そのまま、ピアスに突っ込んで一げk
「きゃあっ!?」
いきなり、ブッ飛ばされた――気がついた時には、地面に激突して、ゴロゴロと転がってた。
「な、何……っ!?」
あちこち痛くて、うまく動けない――とりあえず顔だけ上げて周りを見るけど、ピアスはわたしの一撃で落とした槍を拾いに行ってる最中だ。
あの様子じゃ、たぶん今のはピアスの攻撃じゃない。じゃあ、ピアス以外にも敵がいる……?
そう思って……気づいた。
何か……いる。
位置はわからない。わからないけど……何かがいる。それだけはわかった。
気配の位置がメチャクチャだ。右にいたかと思ったら左、今度は正面……まるで高速であちこち走り回ってるみたいだ。
…………ん?
……“高速で走り回ってる”?
まさか……
「クロック、アップ……?」
「ほぉ……知ってるのか、オレ達の能力を」
思わずつぶやいた声に答えが返ってきた――そしたら、目の前にそいつがいきなり現れた。
見覚えがある……『カブト』は全部見てたから、そこに出てきたヤツだと思う。えっと……
…………えっと……
……えっと……
「………………なんとかワーム!」
「それだと全部のワームが当てはまるよなっ!?」
ワームの人から怒られた。
《マスター、あれはグリラスワームです。
TVシリーズの最後に出てきた、最強のワームです》
ありがと、にーくん。
とりあえず、なんとか立てたから、にーくんをかまえて、パパから教わった悪口でもひとつ。
「でも、ずいぶん出てくるのが遅かったね。
おねしょしたお布団でも隠してたのかな?」
《そんな、昨日のマスターじゃあるまいし。
しかも結局バレて母上様に怒られましたし》
「わーんっ! にーくん、バラしちゃだめーっ!」
「……やれやれ、見た目通りのガキというワケか」
ほら! にーくんのせいでピアスにもバカにされちゃったしっ!
「だが、実力はあなどれん。
ここからは貴様がガキだということは忘れて、我ら二人で、本気でやらせてもらうぞ」
「負けないんだからっ!
勝つのはわたしだよ、ピアス! それに……えっと……グラスワーム!……あれ、グリスワームだったかな?」
「“グリラス”ワームだ。
断じて芝でもなければ対磨耗油でもない」
……丁寧に教えてもらっちゃった。
「と、とにかくっ! 戦いはこれからだよっ!」
なんかこのまま話し続けてるとどんどんバカだと思われていっちゃうそうだから、そこまでにして突っ込む。
わたしはバカなんかじゃないもんっ! お前達をやっつけて、そのことをしょーめいしてやるんだからっ!
「さて……できるかな?」
そんなふうに答えて、グリラスワームが消えて――
「ふぎゃっ!?」
いきなり頭の後ろに痛みが――
「ごふっ!?」
今度はお腹!?
すぐに次。右手、左足、背中――身体のあちこちに、ほとんど同時と言ってもいい勢いで痛みが走る。
たぶん、グ……リラスワームの攻撃だと思うけど……何されてるのか、ぜんぜんわかんない。
これが、クロックアップ……速すぎるっ! どこにいるかもぜんぜんわかんないよっ!
何もできないまま、背中にもらって、ふらついて――
「そらよ――オレもいるんだぜ!」
そんなわたしに、今度は槍をかまえたピアスが突っ込んできて――
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「くっ……ウィングロード!」
《Wing Road.》
私の叫びにブリッツキャリバーが呼応して、蒼色の帯状魔法陣が空を走る――その上を一気に駆け上がり、振り下ろされた刃をかわす。
そのまま、一撃をかわした相手に向けて蹴りを――
「させるかっ!」
瞬間、衝撃と共に吹っ飛ばされる――すぐに体勢を立て直して、ウィングロードの上に着地。
けど、そこに銀色の刃が飛び込んできた。リボルバーナックルでさばいて、受け流す。
刃の主に蹴りを入れて、その反動で距離を取る。そこで一度仕切り直し……に見せかけて、再度突撃!
完全に虚を突いた。これなら――
「甘いんだよ!」
「――――くっ!」
またしても横槍が入った。空を飛び……いや、滑空して飛び込んできたもうひとりの体当たりを身を沈めてかわすと、その間に立て直した標的からも槍が繰り出されてくる。
奇襲失敗は明らかだ。この場に留まる理由はない――槍をバックステップでかわして、その着地際を狙ってきたもうひとりの足払いも直前のステップでバック転に切り替えてやり過ごす。
無事相手の間合いから脱出。距離を取ると今度こそ仕切り直し。
……というか……まずい。
こっちの攻め手が、ことごとくしのがれてる……やっぱり二対一じゃ思うように攻められない。しかも相手の一方がこっちの攻撃つぶしに専念しているような状態じゃなおさらだ。
ウィングロードも使って立体的に攻めてるのに、しっかり対応されてる……まぁ、空中戦については向こうの方が能力が特化してるんだし、納得できる部分はあるんだけど。
「やるじゃないか、ギンガ・ナカジマ。
この“トビウオ”のグライドを相手に、空中でそこまで戦えれば上出来だ」
「それは、どうも……っ!」
そう――攻撃つぶしを担当してる、相手の瘴魔獣将がトビウオベースなんだ。滑空による一時的なものとはいえ空を飛ぶ能力を持つトビウオの能力が反映されているだけあって、鎧の背中に備わったトビウオのヒレ状の翼による空戦機動はなかなかあなどれない。
そんなふうにグライドの能力を改めて分析しながら、もうひとりに視線を向ける。
全身に銀色の鎧をまとった、身の丈ほどの槍を手にした武人風の怪人――データによると『仮面ライダー響鬼』の劇場版に登場した、ヒトツミっていう怪人らしい。
実際立ち合った感想としては……エリオくんには悪いけど、槍の腕前は彼より上だ。テクニックだけなら、サリエルさんとも互角に戦えるくらいのレベルだと感じた。
それと……まだ使ってきてないけど、“原作”では幻覚や毒霧も使っていたらしい。そっちも気をつけておかないと……とはいえ、
「……いきますっ!」
使われる前に叩いてしまえば関係ない。地を蹴って、ヒトツミに向けて突っ込む。
当然、グライドもこちらの突撃をつぶそうと側面から私を狙ってくるけど――
「ブリッツキャリバー!」
《All right.》
ここでブリッツキャリバーが加速。タイミングをずらしてグライドの体当たりをかわすと、そのままヒトツミに向けて思い切り左拳を繰り出して――
背中に、焼けつくような痛みが走った。
「あぅ……っ!?」
突然の激痛に、姿勢が崩れる――直後、また衝撃を受けて吹っ飛ばされた。
吹っ飛ばされながら、ヒトツミが槍を振り抜いた姿を見る――二度目の衝撃は彼の仕業らしい。だとしたら、一度目の背中への攻撃は……!?
地面に突っ込んで、衝撃で一瞬思考が止まる。さらに地面を転がって、ようやく吹っ飛ばされた私の身体も動きを止めた。
衝撃から解放されたことで、背中の痛みが具体的に感じられてくる――打撃じゃない。この焼けるような痛み、その発生源が細く、一直線に走っている感じは……斬撃だ。
正面にいたヒトツミや、体当たりをかわされたばかりのグライドじゃない……新手……?
そう思って見回してみると……いた。ヒトツミやグライドに合流する、赤い鎧の怪人が。
その手には、新鮮な血のしたたる剣が一振り……誰の血かなんて、考えるまでもない。
アイツに関するデータは……あった。
火焔大将……ヒトツミと同じ、『響鬼』の映画に出てきたヤツだ。
三対一。しかも背中には不意打ちによる重傷……状況は最悪だ。
普通なら一度退いて立て直すべきところなんだろうけど……
《マスター》
「……退かないよ」
《わかっています》
そんなつもりはない。即答する私の言葉は予想の範囲内だったのか、ブリッツキャリバーが応急処置用の簡易治癒魔法で痛みを抑えてくれる……ありがとう。
そうだ……退くつもりなんかない。
コイツらのせいで、ジュンイチさん達が……そして、コイツらを何とかしないと、なぎくん達がジュンイチさんを助ける手助けにはならないんだ。
だから……退けない。退けるワケがない。
「……いくよ、ブリッツキャリバー!」
《All right.》
ブリッツキャリバーの答え同時、地を蹴る……絶対に、勝つんだ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ぬがっ!?」
………………よし。
あたしの放った魔力弾は、狙い通りガラ空きのアイツの後頭部にヒット。
「くそっ、後ろか!」
けど、相手もさるもの。すぐに後ろに向けて反撃。振るった剣から放たれた瘴魔力による衝撃波が、行く手のガレキを薙ぎ払って――“幻の”あたしを吹き飛ばした。
当のあたしはまったくの別方向に退避済み。というワケで――
「がふっ!?」
もう一発。今度は地面スレスレに低空飛行させていた一発をアイツの足元で急上昇。真下からアゴを“撃ち”上げてやる。
「ぐ……っ、またハズレかよっ!?
どこに逃げやがった!? この“カジキマグロ”のバラクーダ様に恐れをなしやがって!」
なんか向こうはわめいてるけど……誰がアンタにあわせて戦ってやるかっての!
とりあえずは順調。細かい一発を確実に当てていって、アイツを撹乱、さらに怒らせて冷静な判断を奪う。
アイツみたいにバカみたいな挑発なんていらない。あぁいう短絡なヤツは、自分の思い通りにいかないとすぐにイライラして勝手にキレてくれる。
このまま怒らせていけば、いずれ決定的なスキを見せるだろう。その時を逃さず……ん?
何……? あの、バラクーダのそばに飛んできた小さいヤツは……あ、バラクーダがこっち見て――
「……“そこか”」
――――――っ!?
忍ばせていたサーチャーが拾った声に、アイツの言葉に背筋が凍る――とっさにその場を離れたあたしの背後で、アイツの放った衝撃波が荒れ狂う。
明らかに、さっきまであたしがいた場所を狙ってた……見つかった!? けど、なんで……!?
いや、考えるのは後だ。もう一度身を隠して、アイツを狙う。
攻撃が当たったか確認するつもりなんだろう。アイツが衝撃波で薙ぎ払われた跡地に向かう。その姿を後ろから狙い撃ちに――
「……そっちか!」
――って、また見つかった!?
またしても、アイツの衝撃波があたしを狙う――今度は回避が遅れた。なんと直撃は避けたけど、少しばかり巻き込まれて地面を転がる。
間違いない。まぐれなんかじゃない――アイツはいきなり、正確にあたしの位置を捉え始めた。
けど、どうして……――――っ!?
「そこっ!」
不意に背後で何かが動いたのを感じた。誘導弾で狙撃――回避して、逃げ出そうとしたソイツの後を追って、叩き落とす。
一発で仕留めた。地面にボトリと落下したのは……
「コウモリ……?」
そう。地球にも普通にいる、コウモリだ……まったく、驚かせてくれて……
――――――っ!?
瞬間、背筋に悪寒が走る――とっさに跳んだ直後、一瞬前まであたしがいた場所を“拳が撃ち抜いた”。
跳びのいたその勢いのまま、さらに距離を取る――振り向いて、相手の姿を確認。
少なくとも瘴魔獣や瘴魔獣将のような感じじゃない。たぶんライダー関係の怪人――まるで血を頭からかぶったみたいな、おぞましい赤色が印象的。そして“コウモリの翼の”装飾で全身各所を飾ってる。
そう。コウモリの怪人……だとしたら、さっきのコウモリはコイツが……!?
「追い詰めたぜ、小娘が」
――って、バラクーダまで!?
「てめぇも不幸だな。
よりにもよって、コウモリの能力を持つファンガイアのキング――バットファンガイアの旦那と当たっちまうなんてな」
「コウモリは超音波によるレーダー器官を持っている。
たとえ幻術で姿をくらませても、そこに物理的に存在している以上、コウモリ達はお前の居場所を探り出す。
オレが出てきた以上、貴様のチャチな幻術はもはや通用しないってことだ」
「言ってくれるじゃない……っ!
幻術を封じた程度で、あたしを倒せると思わないでよ」
わざわざ新手を紹介してくれるバラクーダや余裕の態度で能力をバラしてくるバッドファンガイアに答えて、仕掛けるスキを探る。
そう。幻術だけがあたしの武器じゃない。この程度で……
「そうは言うが、貴様こそ……」
「オレのコウモリが、探知しかできないとでも思っていないか?」
その言葉に――ようやく気づいた。
いつの間にか、コウモリの数が異様に増えていることに。
そのどれもが、血走った目をあたしに向けている。まさか……
「さぁ……コウモリ達よ!
その小娘の血、一滴残らず吸い尽くしてやれ!」
やっぱり……吸血コウモリ!?
バッドファンガイアの言葉と同時、コウモリ達が一斉にあたしに向けて殺到して――
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「……まだやるか?」
尋ねるが――柾木あずさからの回答はない。
オレの一撃によってビルの壁に背中から叩きつけられ、崩れ落ちたその姿勢のまま、苦しげに肩を上下させている。
ヤツらの防護服、バリアジャケットはあちこちがズタズタに引き裂かれている。鎧のデバイスも身に着けていない状態で、オレの爪や杖を何度もその身に受けたのだから、当たり前ではあるのだが。
当然、その下の身体はもはやボロボロだ。もう動けない、か……?
……いや、動いた。口の中に溜まっていたらしい血を吐き出すと、口元の血をぬぐいながら、戦斧――確かレッコウといったか。それを手にして立ち上がる。
レッコウを杖にせず、自分の足で立ち上がるか……まだ余力はあるようだな。
だが……
「――――――せいっ!」
「ぬるいっ!」
それでオレと戦えるかどうかは別問題だ。横薙ぎに振るわれた柾木あずさの刃を我が戦杖で受け止め、受け流す。
「何度やっても、オレには勝てん!」
そして、攻撃をさばかれ、スキだらけになった柾木あずさの腹を蹴り飛ばす――吹っ飛ばされ、彼女の身体が近くのガレキの山に突っ込んだ。
「よく持ちこたえたものだ。
だが……もう限界が近いようだな」
そう。本当にコイツはよく持ちこたえた。
ライオンをモチーフにし、その獰猛さを体現しているこのオレを相手に、ライダーでもない、他の六課フォワードのように才能に恵まれたワケでもないその身で、ここまで戦ったのだから。
機動性を重視し、使うデバイスはレッコウのみ――その判断も悪くはなかった。
しかし、それでもオレには勝てなかった。彼女の力では、オレに対して善戦するのが精一杯だった。
そして――それも、もう終わる。
「貴様への敬意を表し、苦しませるようなことはしない。
一瞬で……終わらせてやる」
彼女の胸倉をつかみ上げ、告げる。彼女に向けて、杖をかまえて――
「…………“ありがとう”」
「……何?」
今、コイツは何と言った……?
『ありがとう』……? この状況で、礼を言うようなことなど――
「ぐぅっ!?」
瞬間――彼女をつかんでいた左腕に痛みが走った。
彼女の魔法だ。電撃でオレの腕を弾き、その手から逃れると距離を取る。
だが――レッコウはかまえない。どこかスッキリしたような物腰で、前髪をかき上げながらオレに向けて告げてくる。
「おかげさまで……目が覚めたよ」
「何……?」
「今まではさ……ちょっと前のめりになりすぎてたみたい。
初めて会えた、『負けたくない』って思える相手……それに、お兄ちゃん達のこと……いろいろ重なって、気持ちばっかり先走ってた。
けど、あなたにやられたおかげで、それもどうにかなった。
血を流してくれたおかげで、頭に上ってた血が少しばかり抜けた。しこたまぶん殴ってくれたおかげで、喝を入れてもらえた。
おかげさまで……ここからは、ちょっとは“らしく”戦えそうかな?」
フンッ、オレに叩きのめされて、根性が叩き直されたというワケか。
だが、その代償は大きかったな。そんなボロボロにされた後では、今さら冷静になったところで……
「だからさ。
『一瞬で』だなんて……そんなもったいないこと言わないでよ。
こっちはようやく……“あなたの動きに慣れてきたっていうのに”」
――――――ピシッ。
――――――っ!?
柾木あずさの言葉と同時――耳障りな音がした。
発生源は、オレの鎧――その右肩。見れば、右肩の鎧にハッキリと亀裂が走っている。
亀裂はより深いラインが一直線に走り、そこから広がる感じ……考えるまでもない。刃による斬撃跡だ。そしておそらく――レッコウによる一撃の跡。
こいつ……先ほどオレの手から逃れた際に、オレに認識できないほどの速度で、一撃を見舞っていたというのか……!?
「レオイマジン……あなたは確かに強いよ。純粋な身体能力で言えば、うちのエース達にも負けないくらい。
けど、それでもやっぱり、なのはちゃん達や、仮面ライダーのみんなには遠く及ばない――それを今から証明してあげる!」
言いながら、柾木あずさが鎧型のデバイスを、さらに腕に装着する弓型、背中に装着する翼型のデバイスを起動させる。
柾木あずさの持つ残り三つのデバイス――先ほどから使っているレッコウを加えたデバイス群の総動員だ。
打撃力特化の戦斧――アームドデバイス、“白虎のレッコウ”。
防御力特化の鎧――パワードデバイス、“玄武のイスルギ”。
火力特化の腕装弓――インテリジェントデバイス、“青龍のイカヅチ”。
そして背中の翼――前述の三つのデバイス達のシステムを統合、それぞれの力を増幅までした上で制御するブーストデバイス、“朱雀のゴウカ”。
電王のデンライナーにその名をあやかり、さらに四聖獣をも象徴とした、柾木あずさの四基のデバイス――統合型デバイスシステム“四神”の、真の姿のお披露目というワケか。
「ここからが本番よ。
人間なめんじゃないわよ……レオイマジン!」
上等だ……その力、見せてもらおうか!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「そぉらよっ!」
余裕綽々って感じで正直ムカつく掛け声と共に、砲撃が飛んでくる――もちろん、僕らは左右に散ってかわす。
「行って!」
「応っ!」
《Accel Dash.
Double.》
すかさず反撃。僕が魔力弾で援護して、マスターコンボイがアクセルダッシュ(二倍)で加速、突撃――
「効かねぇなっ!」
……ダメだ。展開されたシールドに阻まれて、マスターコンボイの刃は届かない――小柄な体格でウェイトに難のあるヒューマンフォームとはいえ、傍目に見ても間違いなく全力だったはずの、マスターコンボイの斬撃でも、だ。
お返しとばかりに、マスターコンボイに向けて金色に輝く魔力刃が振り下ろされる。とっさにバックステップでかわすマスターコンボイだけど――
「のろいぜっ!」
「どっちがっ!」
野郎、桃色の魔力弾の嵐で追撃を狙ってやがった――なので、僕が斬り込んでそれを阻止。
僕の斬撃も防がれたけど、とりあえず反撃の流れは断ち切った。このまま攻め込――――――っ!
《マスター!》
アルトの言葉よりも一瞬早く背筋が凍りつく――直感に逆らうことなく後退。直後、僕のいた場所に真上からの魔力弾の雨が降り注ぐ。
同時、視界のすみでローズイマジンの姿がかき消えて――そっち!
気配は右に。高速移動に入ったローズイマジンに向けてアルトを水平に振る――ぬがっ!?
「恭文っ!?」
左のこめかみに衝撃――マスターコンボイの声がやけにクリアに聞こえる中、蹴りの勢いで一回転した僕の身体が地面に叩きつけられる。
野郎……僕の斬撃を身体をひねってかわして、しかもその動きから連動してこめかみに蹴り入れてきやがった……っ!
ソニックムーブの超加速の中でできる動きじゃない。なのはのフラッシュムーブか……っ!
初速、加速度、最高速度、どれもが一級品だけど、逆にそのスピードが災いして動きがどうしても直線的になるソニックムーブと違って、フラッシュムーブには速度で劣る代わりになめらかな機動や発動中の体さばきの自由度が高いという利点がある。元々素早く飛び回るのが苦手だった初心者時代のなのはをフォローするために編み出された魔法だから、当然と言えば当然だ。
二人とやり合う時は、フェイトがソニックムーブだけ、なのはがフラッシュムーブだけだったから、まだ割り切って戦えたけど……ひとりの相手がその二つを使い分けてくるのがここまでやりにくいなんて思わなかったぞ、くそ……っ!
まぁ……攻略法がないワケじゃないんだけど。
「それなら……逃げ場もないほど薙ぎ払ってやる!
フルパワーのぉっ!」
《Energy Vortex.》
そう。逃げられるなら、逃げられないほど広範囲に攻撃をぶちまければいい。僕と同じ結論に達したらしいマスターコンボイが、ローズイマジンに向けて魔力の渦をぶちかます!
そしてさらに――
「クレイモア!」
僕もだ。荒れ狂うマスターコンボイの魔力の渦越しに、クレイモアをお見舞いする。
さて、当てることはできたとは思うけど……
「…………ムダだって言ってんのが、わかんねぇかな?」
くそっ、ダメか……防がれた。
ヤツの展開したラウンドシールドに、僕らの攻撃はしっかりと防がれていた。ちょっぴり煤けているから、完全に通らなかったワケではないみたいだけど、ダメージを与えるには至っていない。
……そう。ダメージを与えられていない。
“今の攻撃では”。
「今度はこっちの番だじゃぎゃっ!?」
直後、僕らに向けて反撃に転じようとしたローズイマジンの声が悲鳴に変わる――“上空から降ってきたガレキの雨の下敷きになって”。
「カモフラージュ、感謝するぞ、恭文。
おかげで気づかれずに仕掛けられた」
「いやいや、気にしなくていいよ」
礼を言ってくるマスターコンボイにそう答える――そう。あのガレキの雨はマスターコンボイの仕業だ。
そしてガレキを舞い上げたのはさっきのエナジーボルテクス。あれは“逃げ場のないほどの広域攻撃”を狙ったものじゃない。そう見せかけて、ガレキを吹き飛ばし、上空に舞い上げて、アイツに向けて降らせてやるために放ったものだったんだ。
で、僕がダメ押しで撃ったクレイモアは、そんなマスターコンボイの狙いを隠すためのもの。エナジーボルテクスを撃った“表向きの狙い”に同調することで、ガレキによる攻撃という本来の攻撃を隠すカモフラージュの役割を担ったんだ。
ともあれ、これでアイツはガレキの下敷き。効いた・効いてないは別に、すぐには動けない。なので――
「さて、それじゃ……」
「本命、いくかっ!」
本命というかダメ押しと言うか……このままフルパワーで砲撃叩き込んで、完璧に仕留めるっ!
本音を言えばこの手でガッツリぶった斬って終わりたかったけど、そんな贅沢を言える相手じゃない。ジガンでカートリッジをロード。同じくカートリッジをロードしたマスターコンボイと二人で砲撃体勢に入って――
ブッ飛ばされた。
そう。『ブッ飛ば“した”』じゃない。『ブッ飛ば“された”』――突然背後に殺気の塊が出現。反応するよりも早く、それぞれに一撃をもらった僕らは宙を舞っていた。
強烈な衝撃で受け身もできないまま、まともに地面に叩きつけられる。衝撃で一瞬だけ意識が飛ぶけど、何とか気絶だけは免れたらしい。
ともかく、すぐに今の一撃の主を確認する。つい数秒前まで僕らのいた場所へと視線を向けて――
………………なっ!?
その姿に、思わず言葉を失う……どころじゃない。冗談抜きで一瞬思考が停止した。
そのくらい……予想外の、驚くべき相手がそこにいた。
……いや、『予想外』じゃないか。ネガショッカーが“どういう組織か”を考えれば、ヤツらがいる可能性は十分にあった。ただ、僕らがそこまで予想できていなかった、それだけの話だ。
…………まぁ、どっちにしても、とんでもなく厄介な相手であることは間違いないんだけど。
新手は二人。一方は全身銀色。そしてもう一方は全身金色。
銀色の方は真紅の細剣を手にして、金色の方はゴツイ大剣を振るって、身に着けているマントをひるがえす。
……つか、銀色の方の見た目がどう見ても仮面ライダーだよ、仮面ライダー。
というワケで、もう誰が乱入してきたか、懸命な読者の皆様はわかったと思う。
そう……
シャドームーンに、ジャーク将軍!
「まさか、アイツらまでネガショッカーに加わっていたなんて……っ!」
「ヤバイ相手なのか?」
《少なくとも……ここでの参戦に『最悪』とコメントできるくらいには》
聞き返してくるマスターコンボイにアルトが答える――そう。『最悪』だ。
ファンとして、ひとりの魔導師として言うなら、対決できることはこの上なく光栄なことではあるけど……この状況で敵として出てこられると、ぶっちゃけ脅威以外の何物でもない。
こっちは一秒でも早くそこのムカつくバラ野郎をぶった斬ってやりたいっつーのに……なんでよりによって、こんなタイミングで出てきてくれるかなっ!?
「別に、貴様らの都合に合わせてやる理由はあるまい」
「我々は我々の、ネガショッカーのために戦い、勝利する。それだけの話だ」
「そいつぁごもっとも」
それぞれに答えてくるシャドームーンとジャーク将軍に答えて、立ち上がる――そうだ。アイツらと同じだ。僕らだってやることは変わらない。
こいつらをブッ飛ばして……フェイト達を助ける。ついでにネガタロスもブッ飛ばして、ネガショッカーも叩きつぶす。
「…………だな。
相手が増えようが強かろうが関係ない。まとめてブッ飛ばすだけだ」
僕に同意して、マスターコンボイも立ち上がる……さて、それじゃあ新手の乱入の衝撃も収まったところで、
「いくよ、マスターコンボイ!」
「おぅよっ!」
マスターコンボイと二人で地を蹴り、突撃――悪いね、シャドームーンにジャーク将軍。
恨みはないけど、ネガショッカーに加わったのが運の尽き。思いっきり……ブッ飛ばさせてもらうよっ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
…………っ、く……っ!
震えるヒザに喝を入れて、立ち上がる……立ち上がって、今まさに戦っている相手をにらみつける。
そう……ン・ガミオ・ゼダと、瘴魔獣将・“オオカミウオ”のファングの二人を。
「へっ、手こずらせやがって……」
「よくがんばったが……ここまでだ」
「まだ……だ……っ!」
もう向こうは完全に勝ち戦ムードだ……まぁ、それだけあたしが一方的にやられてるからなんだけど。
けど、アイツらがそうやってうぬぼれたくなるのもわかるくらい、実際アイツらは強かった。
二人がかりとはいえ、完全にあたしが負けてる……お兄ちゃんから複数の相手と戦う時のノウハウだってきっちり教わってたのに、そういう工夫を全部力押しでぶち破られた。
つまり……あたしの工夫を全部ムリヤリひっくり返せるぐらいの力の差があるってことだ。
………………だからって、負けるつもりなんかさらさらないけど。
この程度のピンチなんて、なんでもない……何しろ、今の状況なんかとは比べ物にならないくらいに絶望的なところまで追い込まれたことだってあるんだから。
あの“JS事件”の、地上本部攻防戦の時――同時に襲われた六課隊舎を守るために戻ったあたし達は、スカリエッティ達の最強トランステクター、マグマトロンへとゴッドオンしたディードにさんざんに打ちのめされた。
マスターコンボイさんは機能停止、あたしも両足をマッハキャリバーごと踏みつぶされて、根性なんかじゃどうしようもない、物理的な意味での戦闘不能にまで追い込まれた。
あの時に比べたら……この程度のピンチはかわいいものだ。
だから……
「この程度で、あたしが降参するなんて思わないでよ……っ!
そっちだって、あたしを仕留めきれてないの、忘れないでよ……っ!」
「あん……?」
あたしの言葉に、ファングはキョトンとして……
「あははははっ!」
いきなり大爆笑。何がそんなにおかしいの……?
「いやいや、まさかお前が“そう”思ってるなんて思わなくてな。
悪いな……今まで“手抜きしちまってた”せいで、余計な希望を持たせちまったみたいだ」
「え………………?」
『手抜き』……? 今、ファングは……『手抜き』って言った?
まさか……今の今まで、本気で戦ってなかったの……?
「いや、オレ達は本気だったんだけどよ……」
「“オレ達は”」
――――――っ!
ファングの言葉と同時――現れた。
姿は見えない。けど――周囲に散らばって、こっちを完全に包囲している気配の群れ。これって……
「ガミオの旦那は狼のグロンギだ。
そしてオレも、名前だけとはいえ一応“オオカミ”を冠してる」
そう、ファングが改めて告げて――
「狼ってのは……」
「群れで借りをする生き物だろう?」
ウルフオルフェノク、ウルフアンデッド、ウルフイマジン……狼系の怪人達が、一斉にその姿を現した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
くっ…………ぁあっ!
かわしきれなかった。ローズイマジンの砲撃を、とっさのシールドで受け止める――けど、そのまま押し流されて、地面に叩き込まれる。
マスターコンボイも苦戦中。まるで嵐のように立て続けに斬撃を繰り出すけど、ジャーク将軍には片っ端からかわされ、しのがれ……あ、カウンターもらった。
ジャーク将軍から一撃をもらって、マスターコンボイが僕のところまで転がってくる。そして――
《マスター、きます!》
――――――っ!
アルトの言葉にシールド展開。僕らを狙ったシャドームーンの雷撃を防ぐ。
つか……くそっ、また押し返されたか……
さっきから似たような流れの繰り返しだ。何度も積極的に攻めに転じてるのに、その都度押し返されてる。
ローズイマジンだけでも厄介なのに、その上シャドームーン達にまで参戦されて、完全に流れを持ってかれてる。クライシス帝国の二枚看板は伊達じゃないってことか……
「オレ達を前に考え事たぁ……」
――――――っ! 上っ!
「余裕だなっ!」
シールドを消して、アルトを一閃。頭上から飛び込んできたローズイマジンのザンバーを受け止め――否、打ち返す。
《Struggle Bind.》
そこから素早くバインド。間髪入れないこっちの反撃に驚いたシャドームーンやジャーク将軍も一瞬動きを止めて――バインドに捕まったローズイマジンを連中のところまで蹴り飛ばす。
《Bind Cage.》
さらにマスターコンボイによるダメ押しバインド。バインドの鎖がローズイマジンだけじゃない、シャドームーンやジャーク将軍も含めた三人の周囲を駆け巡り、檻となって閉じ込める。
そして――
《Energy Vortex.》
《Icicle Cannon.》
合流したマスターコンボイと二人で、同時砲撃っ!
防御魔法を使えるローズイマジンは僕のバインドで拘束済み。直撃は避けられなかったはず……
《マスターっ!》
アルトがそう言った瞬間、背筋を走ったのは凍りつくような寒気。それと同時に、後ろに殺気。
振り返ると、振り上げるように下から迫る金色の刃が視界に入った。そして……右の脇腹から左上へと斬り上げられて、吹き飛ばされた。
「恭文!?」
マスターコンボイの悲鳴が聞こえて――衝撃。地面に落下、叩きつけられたんだと数瞬の間をおいて理解する。
「ぐわっ!?」
あ、マスターコンボイもだ――ジャーク将軍にブッ飛ばされて、僕のすぐそばに落下、地面に叩きつけられる。
つか、僕に一撃入れた金色の刃……考えるまでもなくザンバー、ローズイマジンの仕業だ。多重バインドをかまされたあの状況で僕らのダブル砲撃を耐えるとか、どんだけデタラメなのさ……!?
「安心しろ。無事じゃないからよぉ。
お前らの砲撃がお前らのバインドをぶち砕いた瞬間、“攻撃をくらいながら”離脱したってだけさ」
……ご説明、どーも。
けど……マヂめにヤバイ。あの連携でも仕留めきれないとか……
「フンッ、万策尽きたか?」
「尽きてなくてもそろそろ終わらせようぜ、めんどくせぇ」
「奇遇だね。
僕も似たようなこと考えてたよ」
シャドームーンの問いかけに乗っかってきたローズイマジンに答えて、立ち上がる。
少なくとも、絶望的な差じゃない。ひっくり返せる自信はある……だけど、それは“今この時の時点では”という条件付きだ。
逆転する自信があると言っても、基本戦力において向こうが上という事実は変わらない。時間をかければ、先にボロが出るのは間違いなくこっちだ。
そうなる前に、一気に決めなくちゃ……短期決戦というのは望むところだ。
立ち上がって、アルトをかまえる――マスターコンボイもだ。
向こうもかまえて、にらみ合うこと数秒――
「…………フンッ」
……って、あれ? ジャーク将軍……いきなりかまえを解いて……
「読めているぞ、お前らの考え。
これ以上消耗する前に、一気に逆転決着を狙うつもりだろう?」
………………っ!
「読まれたのが意外か?
だがな、お前達はここでオレ達に勝利したとしても、その後ネガタロス様との戦いも控えている。そのくらいは我々にもわかる――ここで消耗するワケにはいかないのは戦略的にも道理。読めないはずがないだろう」
動揺が顔に出たらしい。僕に対して、ジャーク将軍は余裕綽々といった感じで答える。
そして……
「だから……こちらとしては、それに“付き合わない”のが戦略的に正解だ」
その言葉と同時に……出てきた。
ジャーク将軍達の古巣、クライシス帝国の戦闘員達がわらわらと出てきて、僕らを包囲する。
さらにモールイマジンやサナギワームも混じって……あ、サイコローグ見っけ。
「ちょっ、やっちゃん!?
なんかいろいろ出てきたんやけど!?」
「何よ、こいつら!?」
いぶきやなずなの方にも出たらしい――ザコどもの人垣に隠れて見えないけど。
そんな大量のザコ達をいきなり投入してきた、その狙いは明白だ。
「貴様……っ!」
「そいつらの相手でもしているがいい。弱ったところを相手してやる」
すなわち、こっちに対しての消耗戦――気づいたマスターコンボイにジャーク将軍が答える。
僕も文句を言ってやりたいけど――それは中断。
理由は簡単。ジャーク将軍の言葉と同時に、ザコ軍団が一斉に襲いかかってきたからっ!
「あー、もうっ、またヤな手に出てくれたもんだねっ!」
とはいえ、完全に包囲された状況じゃ先にコイツらをブッ飛ばすしかない。アルトをかまえて迎え討――
「……それをさらに読まれているとは、考えないのかね?」
その言葉と同時――“炎の嵐が巻き起こった”。
僕らの周囲で燃え上がり、僕らを包み込むように渦を巻いたそれはザコ軍団の初撃を防ぐどころか焼き尽くした。直後、外側に向けて弾けて、連中を一気に吹き飛ばす!
…………って、ちょっと待って。
今聞こえた声、すごく聞き覚えがあるんですけど。
それに、炎の制御。このコントロールの細かさは……
「いやー、やっぱ“滅び”に瀕してない世界はいいもんだね。
おかげでオレの“炎”も絶好調♪」
………………っ!
また、この声……
「久々だな、シャドームーン……いや、人間態の月影って呼ぼうか?
ジャーク将軍も相変わらずいい感じに卑怯だね。変わってなくて安心したよ」
言いながら、悠々と僕らの間に割って入ってくるその声の主は――
「しっかし、こっちもこっちで、さすがはこの時間のオレが友達と見込んだ子だ。
シャドームーン達を相手に、ずいぶんとハデにやってるじゃないのさ」
「ジュンイチ……さん……!?」
そう。
現れたのは、本来ならここにいるはずのない――ジュンイチさんだった。
元に、戻っ……いや、違う。
戻ったにしては、“戻り具合が半端だ”……目の前のジュンイチさんは僕らの知ってる“26歳のジュンイチさん”よりも明らかに年下……スバル達と同じぐらい、15、6歳くらいに見える。
そして、今の発言……
《マスター。
今……“あのジュンイチさん”、何て言いました?
ちょっと、疑問の答えになりそうで、それでいてにわかには受け入れがたい事実が告げられたような気がするんですけど》
「うん…………」
アルトも聞き逃してなかったか。
そう……“あのジュンイチさん”は確かに言っていた。
『さすがは“この時間のオレ”が〜……』って。
つまり……“あのジュンイチさん”は……
「別の時間軸の、ジュンイチさん!?」
「大正解♪」
あっさりと答えて、こちらに向けて振り向いてくる――その笑顔は、少し若いけど確かに僕らの知っているジュンイチさんそのものだった。
「にしても、本当に大したもんだわ、お前ら。
あのジャーク将軍と月影を相手に、オマケまでいる状態でここまで戦えるなんて、すげぇことだぞ」
《月影……あのシャドームーンのことですか?》
「あぁ。
アイツは、かつてRXと戦ったシャドームーンじゃない。
かつての大ショッカー、そこの幹部だった月影の変身した別個体、二代目シャドームーン……強さも悪知恵も、ついでに悪党っぷりも初代とは段違いの相手さ」
「まぢですか……」
僕らの知ってるシャドームーンよりもさらに強いって……そんな化け物と僕らは今の今までドンパチやってたのか。
つか、これを部下にするネガタロスって……いや、今はいい。
「……久しぶりだな」
と、そんな僕らのやり取りに割って入ってくるのはシャドームーンだ。僕ら……というよりジュンイチさんを見て、
「こっちに来ているのは電王だけかと思っていたが……まさか、貴様まで来ているとは思わなかったぞ」
「まぁね。
お前らがおとなしくこいつらにブッ飛ばされてくれていれば……というか、そもそもネガタロスのところで復活しないでくれていれば、こんなことしなくてもよかったんだけど」
詳しく知っていただけあって、やっぱり既知の間柄だったらしい。ジュンイチさんもあっさりとそう返す。
「貴様がいるということは……仲間達も一緒か」
「まぁね。
今頃はそれぞれに参戦してることだろうさ」
……“仲間”……?
「いやー、苦労したぜ。アイツらを“本人同士でかち合わないように”配置するのはよォ。
リアルタイムで“こっちのアイツら”の居場所をサーチして、アイツらに指示出して……
けど、そのおかげで……」
「“降魔点”の方は、なんとかなりそうだ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「…………っ、く……っ!」
一斉に襲いかかってきたコウモリ達をかわして、反撃――散開してかわされるけど、誘導弾だ。追尾して何匹か撃ち落とす。
そのまま連射。コウモリ達を操っているバットファンガイアを狙うけど、さすがに高望みだったか、あたしの魔力弾はひとつ残らず叩き壊された。
「っらぁっ!」
――バラクーダっ!
頭上から飛び込んできたバラクーダの斬撃を、バックステップでかわす――同時、脇腹に鋭い痛み。
バラクーダの一撃で砕けたガレキ、その中に紛れていたガラスの破片が掠めたらしい……って、ちょっとヤバイかも。
単なるガラス片でコレって……バリアジャケットの、防御に回せる魔力がほとんどなくなってるってことじゃない。
それはつまり、ガス欠が近いってこと……向こうの攻撃はしのがなきゃならないわ、あのコウモリどもの対処のせいでムダ撃ちさせられてるわ、だもの。そりゃ消耗も早いか。
こりゃ、これ以上時間かけられないわね……かと言って力押しで倒せる相手でもない。どうする……?
「どうしたよ、嬢ちゃん?
口数が少なくなったな……いよいよあきらめたか!?」
「誰がっ!」
言うと同時、突っ込んでくるバラクーダに言い返す――って、コウモリに退路を断たれた!? ここはしっかり防ぐっ!
クロスミラージュをダガーモードに切り替えて、バラクーダの斬撃を弾き、受け流す。
そのまま、アイツのこめかみに向けて一撃――
「おぉぉぉぉぉっ!」
――って、バッドファンガイアも来てた!? つか、バラクーダの攻撃はオトリ!?
今の今までバラクーダを狙っていたあたしには対応できない。自分に迫るバッドファンガイアの拳を、ただ見ていることしかできなくて――
「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ぐはぁっ!?」
吹っ飛んだ。
ただし……“あたしが”じゃない。“バットファンガイアが”だ。
「何だ――ぐえっ!?」
次いで、振り向いたバラクーダの頭が打ち上がる――位置関係的に、たぶんアゴにヒザ蹴り、でしょうね。
そんな、一撃もらってひるんでるバラクーダを改めて蹴り飛ばして、あたしの窮地を救ってくれたのは――
「大丈夫、ティア!?」
「スバル!?」
そう、スバルだ――別の“降魔点”に向かったはずのスバルがそこにいた。
自分の担当を片づけて駆けつけてきたにしては早すぎる――まさか、放り出してきた!?
「アンタ、自分の持ち場はどうしたのよ!?」
「だいじょーぶっ!
そっちは、“こっちの時間のあたし”がちゃんとやってるはずだからっ!」
……って、“こっちの時間の”……?
それって、まさか……
「まぁ、その辺の説明は後。
今はコイツを倒さないと」
「…………そうね」
そうだ。今は目の前の相手に集中しないと……スバルの言葉に同意して、バラクーダとバッドファンガイアをにらみつける。
「……っていうか、そんな大口叩くくらいだし、打つ手のひとつくらいあるんでしょうね?」
「通用するかは、わかんないけど」
「あるならいいわ。無策で出てこられるよりずっといい」
「さすがティア。話がわかるね。
それじゃあ……」
言って、スバルは“それ”を腰に巻いた。
ベルトだ。ただ、バックル部分は不自然に一部分だけが突出したような作りになってる。
まるで、“バックルの一部分のパーツが欠落しているみたいな”……
「……いくよっ!」
スバルが次に取り出したのはナックル状の何かのツールだ。たとえるなら、“メーター部分の欠落した握力計”か、“殴る部分が異様に分厚いメリケンサック”か……そんな感じの、ベルトのそれに通じるようなデザインの装飾が施されたもの。
……まさか、それをベルトに!?
《レ・ディ・ー》
あたしの疑問に答えることなく、スバルがそのツールの、ナックル部分を反対の手で押し込んだ。ツールからの発声がシステムの起動を告げる中、それを掲げて――
「変身!」
掛け声一発。予想通りツールをベルトのバックルの欠落部分に真上からはめ込んで――
《イ・ク・サ、フィ・ス・ト・オ・ン!》
瞬間――スバルが“変わった”。
あたしのよく知るバリアジャケット姿から、白銀のカラーリングのまぶしい“仮面ライダーに”。
………………って、あぁっ!
「その姿……前にクウガを逃がした仮面ライダー!
あれ、アンタだったの!? どういうつもりよ!?」
「ちょっ、待っ、ティア! 敵! 敵!」
……くっ、ごまかしたわね。
まぁいいわ。『後で説明する』的な言質はとってるし、後でしっかり聞かせてもらうわよ。
未来の執務官の尋問テクニック、じっくり味わってもらうわよ。フフフ……
「……こっちのティアが黒い……」
うっさいっ!
「ま、いいや。
あたしが戦ってる内に、ティアは魔力回復しといて……ガス欠寸前でしょ?」
「……わかったわよ」
まだいろいろ聞きたいことはあるけど、とりあえずこの場の戦いはスバルに任せるしかない。素直にスバルに譲って、あたしは回復に専念させてもらうわ。
「なら、ここは任せるわよ、スバル」
「任されました♪」
たぶん、仮面の下はあたしもよく知ってる笑顔なんだろうな……とにかく、あたしに答えるとスバルはバットファンガイアやバラクーダへと向き直る。
「じゃあ、いくよっ!
仮面ライダーイクサ……その命、神に還そうかっ!」
スバル……その名乗り、たぶん本家のマネなんだろうけど、
「えー?」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「そらそらそらっ!」
ぅわわわっ! 来た!
ピアスの槍から、“力”の弾丸が撃ち出されてくる――バックステップでかわしていくけど、
「こっちだ!」
別の声と同時に、吹っ飛ばされる――ワーム!?(←名前で呼ぶのあきらめました)
吹っ飛ばされて、地面を転がる――だけどっ!
「にーくんっ!」
《All right.》
にーくんの単独飛行魔法を利用、引っぱってもらうことで受け身を省いて空中に逃げる。
ピアスもワームも空は飛べないみたい。一旦空に逃げて体勢を立て直s
「逃がすかっ!」
って、目の前!?
向こうの手が届かないところまで逃げる、その前にワームに追いつかれた。思いっきり地面に向けて叩き落とされる。
「悪あがきなんかさせるか!」
「このまま、一気につぶす!」
ピアスとワームが挟み撃ちな感じで突っ込んでくる。逃げようとするけど――あぁ、ダメだこれ、逃げられないや。
足がしびれて逃げるどころか立つのもムリ。どうすることもできなくて――
相手が消えた。
…………ううん、違う。
わたしがあそこから動いたんだ――“誰かに抱えられて、運ばれて”。
えっと……もしかして、誰か助けてくれた?
「キミ……大丈夫?」
……って、この声……
顔を上げて、助けてくれた“誰かさん”を確認して――
「よかった……大丈夫みたいね」
ギンガ……お姉ちゃん……?
「すぐ手当てしてあげたいところだけど……ちょっと待っててね。
先に、アイツらをなんとかするから」
言って、ギンガお姉ちゃんはわたしを地面に下ろして、ピアスやワームの方を見る。
それから、“腰にベルトを巻いて”……って、ちょっと待って!
そのベルトって、『カブト』の……
「来なさい! ガタックゼクター!」
って、ギンガお姉ちゃんが叫んで……それが飛んできた。
青色の、クワガタムシの形をしたメカ――ガタックゼクター。
それをかまえて、ギンガお姉ちゃんが叫ぶ――
「変身!」
《HEN-SHIN!》
言いながら、クワガタムシを腰のベルトにセットする――そしたら、ベルトから出てきたたくさんの六角形のパネルみたいなものがギンガお姉ちゃんを包んでいく。
と、今度は、それがまるではがれ落ちるみたいに消えていく。そして中から現れたのは、青色の重そうな鎧を着けたギンガお姉ちゃん。
そう。あの姿は――
仮面ライダーガタック、マスクドフォーム!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
くぅ…………っ!
頬を、脇腹を刃がかすめる――そのまま身を翻して、私を狙った剣を、槍をかわす。
追撃を警戒して、一度仕切り直そうと距離を取って――
「させるかよ!」
グライド!?
バックステップの瞬間、滑空するグライドが突っ込んできた。全身を弾丸と化した体当たりをまともにくらって、背後に転がるガレキに背中を叩きつけ――痛っ!
同時、背中により激しく走る痛み――背中の傷に響いたか……っ!
「覚悟っ!」
そんな私のスキを見逃してくれるような相手じゃない。ヒトツミの槍が、動きの鈍った私を狙って一直線に迫ってくる。
逃げるのはムリだ――迎撃するしかないっ!
ヒトツミを迎え撃とうと、拳を握りしめて――
「ちょおっと待ったぁっ!」
――――――っ!?
響いた声はグライドのものでもヒトツミのものでも、火焔大将のものでもなかった――まったくの第三者の声に、ヒトツミは突撃を強制中断。強靭な足でムリヤリブレーキをかけると、バックステップで私から距離を取る。
というか、今の声……
「もうお前らの好き勝手にはさせないぜ!
ここからは、あたしが相手だ!」
「ノーヴェ!?」
そう。その声はマックスフリゲートに残してきたはずのノーヴェだ――オフロード車をベースにしたカスタムバイクに乗って、私達の間に割って入ってくる。
「ノーヴェ……なんで来たの!?
あなたは更生プログラムの最中なのよ!? なのに……」
「あぁ、心配いらないぜ」
声を上げる私に対して、ノーヴェはあっさりと答えて――
「“あたしの時間じゃ、とっくに終わってる”」
「………………え?」
その言葉に、思わず動きを止める。
『あたしの時間』……わざわざそんな言い方をするってことは……
「そんなワケだからさ、気にしなくていいよ。
でもって……さっき言った通り、ここからはあたしが引き受けてやる!」
思わず考え込んでいた私だけど、ノーヴェのその言葉に現実に戻ってくる――そんな私の前で、ノーヴェは自分の腰に両手を添えた。
と、彼女の腰にベルトが現れる――まるで、服とかも透過して“体内から現れたみたいに”。
そして、右腕を腰だめにかまえ、左手を右前方に突き出す――左手を水平に動かし、言葉を放つ。
「変身!」
宣言と同時、左手を右手に添え、かまえる――その動きに連動するように、ノーヴェの姿が変わる。
まるで炎のような真紅の体躯が印象的な、金色の角を持った――
「仮面……ライダー……?」
「そういうこと」
私に答えると、ノーヴェはグライド達へと向き直って、
「ノーヴェ・ナカジマ……仮面ライダークウガ!
諸事情で出てこれない“こっちの時間のあたし”の代わりに、てめぇらまとめてブッ飛ばしてやるぜ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「が……はぁっ……!」
お腹にいいのをもらって、吹っ飛ばされる――けど、私にはそれに耐えることも、受け身を取ることもできない。
さっきくらった神経毒が、ますますひどくなってるからだ。指一本動かせないまま、頭から地面に突っ込む――「車田落ちだーっ!」なんてネタに走る余裕もない。だって口もしびれてしゃべれないし。
「パスボルの毒が効きすぎたみたいだな。
まったく、人間というのはつくづく不便なものだな」
そりゃ、あんたはアンデッドなんだからハナから毒なんて効かないでしょ……私の胸倉をつかんで持ち上げたジョーカーに心の中でツッコむ。
「とはいえ……殺せるような毒でも、ずっと続くような毒でもない。
復活されると面倒だ。今のうち……殺されてもらうぞ」
あ、時間経てば復活できるんだ、この毒……まぁ、その前に向こうは殺す気満々みたいだけど。
本当にどうすることもできない私に向けて、ジョーカーが爪をかまえて――
弾かれた。
突然飛んできた“オレンジ色の魔力弾”によって――私の胸倉をつかんでいた、ジョーカーの腕が。
当然、私は放されて、空中に放り出される――けど、そんな私の身体が何かに受け止められて、そのまま、アイツらから距離を取られる。
相変わらず姿は見えなくて、きっとジョーカー達の目からは私の身体が宙に浮いてるように見えてるんだろう。
だけど……オレンジ色の魔力弾。そして、私を抱きかかえた今もなお姿を消したままの“魔法による光学迷彩”。情報は十分だ。
ほんのちょっとだけ、口元のしびれが取れてきた……なんとかお礼の言葉を口にする。
「あり……がと。て…………ティア……にゃん……」
「お礼を言うには早すぎない?
あと、『ティアにゃん』って何よ?」
そう言って、姿を現したのは予想通り――別の“降魔点”で戦っていたはずのティアにゃんだ。
もう自分のところを片づけて、手伝いに……いや、違うな。
だって……今ティアにゃんは言ったもの。
『「ティアにゃん」って何よ?』……って。
いつもならむしろそう呼ばれたことに腹を立てるところなのに、怒るどころかその呼ばれ方に疑問符を返してきた。
つまり……“この”ティアにゃんはそう呼ばれたことがない。
そこから導き出される結論は……
「……なる、ほど……
“別の時間”の……ティアにゃんか……」
「すぐわかってくれてありがたいわ。説明の手間が省けるもの。
あと、その『ティアにゃん』はやめて」
あはは……時間は違っても、やっぱりティアにゃんはティアにゃんだ。
「ま、とにかく……アンタは毒が抜けるまでじっとしてなさい。
その間は……あたしがアイツらの相手を引き受けるから」
あ、そろそろ戦闘再開の空気か。私を地面に寝かせると、ティアにゃんは改めてケンザンやジョーカーに向き直る。
そして、やたらゴツイ、ボックス状のバックルを腰に押し当てる――前面のパネル、その側面に備えられたスリットにカードを一枚差し込むと、バックルの側面からトランプのカードがつながったかのようなデザインのベルトが伸びてティアにゃんの腰に巻かれて、バックルを腰に固定する。
あぁ……あれ、よく知ってるわ。
あれは……
「変身!」
《Turn up》
告げると同時、ティアにゃんが左手でバックル横のレバーを引く。
その操作と連動して、バックル前面のプレートが反転。トランプのダイヤをあしらったレリーフが姿を現す――と、そこから板状に凝縮されたエネルギー体が発生。そのサイズを拡大すると、人ひとりが通り抜けられそうな大きさのスクリーンとなる。
ティアにゃんが駆け出して、そのスクリーンを抜ける――その一瞬で、ティアにゃんの身体に触れたスクリーンのエネルギーが物質化。ティアにゃんは赤を基本カラーとした仮面の戦士へとその姿を変えていた。
うん、そうだよね。ティアにゃんってガンナーだもんね。“その系統”で銃って言ったらソレだもんね。
そんなワケで……
「さぁ……いくわよっ!」
やったんなさいっ! ティアにゃん改め……仮面ライダーギャレン!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「グゥウゥ……」
「フリード!」
がんばってくれたけど、もう限界だった――わたしの楯になってくれたフリードが、力尽きてその場に倒れ込む。
「フリード! しっかりして、フリード!」
呼びかけるけど、弱々しいうなり声が帰ってくるだけ。
いけない。かなり危険な状態だ。すぐに召喚状態を解除して休ませないと――
「…………ここまでのようだな」
――――っ!?
今までのエコーのかかった声じゃない。ハッキリとした肉声――同時、後頭部に硬い、細い筒っぽいものが押し当てられた。
これ……ひょっとしなくても、銃口?
「残念だったな、お嬢ちゃん。
けど、オレから言わせればよくがんばった方だぜ――ご褒美に、直接撃って殺してやるよ」
後ろにいるおかげで姿までは確認できないけど……間違いない、きっとこの人がスナイプだ。
これがなぎさんだったら、わざわざ攻撃できる位置に来てくれたスナイパーさんに一撃入れるところなんだろうけど……正直わたしじゃ難しい。
それに、仮にここでスナイプに一撃入れられたとしてもアークオルフェノクだっている。そっちにも対応しなきゃならない……なので、なんとか不意打ちを狙ってみる。
スナイプの射撃を防ぐため、防御魔法を準備……けど、まだ発動はしない。
ギリギリで射撃を防いで、スナイプやアークオルフェノクが驚いたところに逆転を狙う……正直、かなりの博打だ。
まるでなぎさんみたいだ……なぎさんみたいに、うまくやれればいいけど……
「それじゃ……あばよ」
あぁ……ドラマとかだとここで引き金に指をかけてるところだな……頭の後ろでチャキリと音がしたのを聞きながら、どこか現実逃避気味にそんなことを考えて――
「たぁぁぁぁぁっ!」
――――――っ!?
聞こえた声に驚くのと同時に、わたしの後頭部に押しつけられていた金属の感触が消える――そして、後ろで聞こえた、ブンッ!っていう、何かを振り下ろす風切り音。
それよりも、今の声って……
「キャロ、大丈夫!?」
「エリオくん!?」
そう。エリオくんだ。驚くわたしにかまわずに、今度は倒れたフリードの具合を診てくれる。
「……うん、大丈夫だ。
取り返しのつかなくなる前に来れてよかった」
安心した様子でエリオくんがつぶやく……けど、どうしてエリオくんがここに……?
「それはもちろん……アイツらを倒すためだよ」
答えて、エリオくんがスナイプやアークオルフェノクをにらみつけて……って……
エリオくん……その、懐から取り出した黒いケースって、もしかして……
「……いくよっ!」
そんなわたしの疑問に答えず、エリオくんが動く――近くのビルに駆け寄ると、そこに残ってたガラス、その中に映る自分に向けて黒いケースをかざす。
そしたら、ガラスの中のエリオくんの腰にベルトが現れて――ベルトの像だけが飛び出してきた。反転して、現実のエリオくんの腰にも同じものが巻かれる。
やっぱり、アレは……『龍騎』に出てきたカードデッキ!? なんでエリオくんが持ってるの!?
「その話は後で。
今は……アイツらを倒すのが先だからっ!」
言って、エリオくんは大きく身体をひねってかまえて、
「変身!」
叫んで――ベルトの側面からスライドさせるようにカードデッキを差し込んだ。同時に、エリオくんの周りに現れたいくつもの虚像がエリオくん自身に重なって、その姿を変える。
真っ黒なスーツの上に、エリオくんらしい“騎士”を思わせるプロテクターを装着した……仮面ライダーだ。
「エリオ・モンディアル――仮面ライダーナイト!
ここから先は、ボクが相手だ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「……なかなか、手こずらせてくれましたね」
ファミリアの声が、どこか遠く聞こえる……あぁ、意識がハッキリしない。けっこうイイのをもらっちゃったみたいだ。
結局、あそこから一気に崩された……周りのガラスだけじゃない、足元にも“出入り口”を作られて、あまりにも難易度の高い“もぐら叩き”を強いられたボクは、どうすることもできずに一方的にやられた。
「ですが、それももうおしまいです。
さぁ……お前達、トドメを刺してあげなさい!」
ファミリアの言葉に、ハイドラグーン達が一斉に動き出す……あぁ、仕留めに来るつもりだ。
反撃しなきゃ……頭ではそう思うけど、身体がついてこない。ストラーダを握る腕は、いくら力を入れてもビクともしない。
そんな、どうすることもできないボクに向けて、ハイドラグーン達が突っ込んできた。先頭の一体がボクにかみつくつもりなのかその口を開けて――
“突き”落とされた。
そう、突き落とされた――飛び込んできた何かが全身でハイドラグーンに向けて体当たり。そのまま地面へと突き飛ばすように叩き落としたんだ。
地面に思い切り叩きつけられて、動きを止めたハイドラグーンには目もくれず、体当たりをお見舞いしたソイツはボクの方へと這うようにやってくる。
そして、鎌首をもたげてハイドラグーン達を威嚇するのは――
「…………コブラ……?」
コブラ……もっと言うなら、“コブラ型のモンスター”だ。
見覚えがある……ハイドラグーン達と同じ、『龍騎』に登場したモンスター。
確か名前は……
「ベノスネーカー、だよ」
そうそう、ベノスネーカー……って、この声……!?
「キャロ……!?」
意外な声に、思わず顔を上げる――そこにいたのは、確かにキャロだった。フリードもいる。
「それに……ベノスネーカーだけじゃないよ」
どうしてキャロがここにいるのか――聞きたいボクだけど、キャロにとってはそこはどうでもいいみたいだ。説明してくれることもなく続けると、すぐそばの水溜りからまた何かが出てくる。
人型の、サイがベースになったモンスターと、こちらはモチーフそのままな見た目のエイ型モンスター。確か……メタルゲラスに、エビルダイバー。
ベノスネーカーを含めて、新しく現れた三体のモンスター達は、みんなハイドラグーン達を威嚇するようににらみつけてる。まるでボクを……ううん、“キャロを守ろうとしているみたいに”。
だんだんと頭の回転が戻ってきて……あ。
キャロの握ってるそれ……手の平サイズの、真っ黒なカードケース。
まさか、それって……
「うん。そうだよ。
まぁ、見てて、エリオくん」
ボクに答えて、キャロが水溜りにそれをかざす――すると、水溜りに映るキャロの腰にベルトが重なった。
そして、現実のキャロの腰に水溜りから飛び出してきたベルトの像が重なって、実体化する。まるで像のそれが現実のキャロに複写されるみたいに……
ベルトを身に着けると、キャロは改めてハイドラグーンを、そしてファミリアへと向き直った。手にしたそれを……カードケースを手にポーズを決めて、
「……変身っ!」
腰のベルト、ぽっかりと中央部が足りていないそこにカードケースをセットした。同時、キャロの周りに現れたいくつもの虚像がキャロに重なって、その姿を変える。
ベノスネーカーのデザインがそのまま取り込まれたみたいな姿。
手にしている、コブラの頭を模した杖……杖型の召喚器、ベノバイザー。
あの姿は……あの仮面ライダーは……
「仮面ライダー……王蛇……!?」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ぐ……ぁ……っ!」
お腹にイイのをもらって、吹っ飛ばされる――地面を何度もバウンドして、ゴロゴロと転がって、ようやく止まる。
マズイ……もう、ほとんど身体が動かない……っ!
瘴魔獣将にエルロードが三体……ハッキリ言って、戦力に差がありすぎた。むしろここまでがんばった自分をほめてあげたいくらいだけど……
「もはや限界のようだな。
いいかげん、あきらめて楽になれ」
「冗談じゃ……ないわよ……っ!」
だからって、あきらめるワケにはいかない――シザーに答えて、痛む身体に鞭打って立ち上がる。
だって、負けられないもの……何しろ、この戦いにかかっているのはクラナガンの、ミッドの平和だけじゃない。
ジュンイチくんの……そして、なのはちゃんやフェイトちゃんの時間もかかってるんだから。
だから……止まらない。止まれるワケがない。
「そうか……
ならば仕方ない……死ね」
そんな私にシザーが告げて――それを合図に、三体のエルロードが動いた。
地のエルの拳が私をガードの上から吹っ飛ばして――真上に打ち上げられた。水のエルが放った水流による一撃だと、一瞬遅れて理解する。
そして――打ち上げられた先、上空には風のエル。
胸の前に合わせたその手の中に空気の塊が生まれるのが見えた。それは一気にサイズを増して、私に向けて解き放たれて――
弾かれた。
突然私の周りに“青色の炎が”巻き起こった――それが防壁となって、風のエルの暴風攻撃を防いだんだ。
というか……“青い炎”って……
「クイント・ナカジマ……だな?」
その声と同時――自由落下し始めていた私の身体が、誰かに抱きとめられた。
そのまま、声の主は私を支えて地面に降り立つ……って……
「貴様のことを頼まれた。
ここから先はオレに任せてもらおう」
「イクトくん!?」
そう。私を支えているのはイクトくん……でも、何かおかしい。
まず、私の知ってるイクトくんよりも確実に若い……それに、さっき私の名前を確認した。
私の知ってるイクトくんはとっくの昔に知り合いなんだ。今さら私のことを確認する必要もないはず。だとしたら……
「貴様……炎皇寺往人!?」
……とりあえず、イクトくんの参戦が向こうにとっても予想外だってことはわかった。驚いているシザーの声に反応するように、イクトくんは私を放すと彼の方へと向き直る。
「バカな……なぜ貴様が!?
貴様は確か、ザイン様の本隊との交戦中のはず……」
「……なるほど、貴様らにとって、あくまで“主人はネガタロスではなくザイン”ということか。
確認する手間が省けた。情報感謝するぞ」
一方のイクトくんはまともに相手をしてあげる必要はないみたいだ。むしろシザーの言葉から情報を拾って、不敵な笑みを浮かべている。
「まぁ、改めて貴様の問いに答えてやるとするなら……“こういうこと”だ」
……訂正。相手をしてあげるつもりはあったみたいだ。懐から取り出して、シザーに向けて突きつけたのは……銃? イクトくんが、銃!?
「き、貴様……っ!?」
「理解したようだな。
なら、遠慮なくいかせてもらうぞ」
そう告げると、イクトくんは手にした銃、その銃身を引き伸ばした。そして、銃と同じように懐から取り出した一枚のカードを銃の側面に差し込む。
《KAMEN-RIDE!》
「変身!」
《“DIEND”!》
銃が何かのコールを放つ中、宣言と同時に真上に向けて引き金を引く――と、放たれた銃弾が弾けて、飛び出してきたのは人の姿の虚像。
それらが次々にイクトくんの姿に重なって、実体化する――次いで、どこからともなく飛んできた四角形のプレートが、イクトくんの頭を覆った仮面に差し込まれるように一体化していく。
そして姿を現したのは、黒と青の二色に塗り分けられたスキンスーツに、四角いプレートが並べて配置されたような、奇妙なデザインのプロテクターをまとった仮面ライダー……って、仮面ライダー!?
「イクトくん……キミ、仮面ライダーだったの!?」
「“オレの時間”では……な。
貴様のよく知る、“この時間の”オレは、別に仮面ライダーでも何でもないようだがな」
驚く私に、イクトくんが答える……ってことは、やっぱりキミは良太郎くんと同じような、別の時間の存在? 別の時間に生きる、もうひとりのイクトくん?
「まぁ、そんなところだ。
じゃあ、クイント・ナカジマも理解してくれたところで……」
言って、イクトくんは改めてシザー達へと向き直って……
「仮面ライダーディエンド、炎皇寺往人!
通りすがりの仮面ライダーだ――覚えておけ!」
言い放つと同時に、引き金を引いた。放たれた銃弾が一斉にシザー達に向けて飛び――
当たらなかった。
銃弾はすべて、シザー達の周りを駆け抜けていった。威嚇射撃……?
「フンッ、脅しのつもりか?
そんなもので、オレ達がビビるとでも思っているのか?」
「大きな口を叩けるのも……今のうちだ!」
シザーに言い返して、イクトくんが再び銃撃……外れた。また威嚇……?
「脅しは効かんと何度言えば!」
「やかましいっ!」
幾分苛立ちが混じった様子で言い返して、三射目……外れ。また威嚇……じゃないわね。
ひょっとして……
「イクトくん……
やっぱり、キミ“も”射撃は下手?」
「う、うるさいっ!」
あー……図星なんだ。
「だったらっ!」
《ATTACK-RIDE!
“BLAST”!》
しびれを切らして、イクトくんが変身の時と同じように銃にカードを装填、引き金を引く。
放たれた銃弾はまたまたあさっての方向に飛んでいって――弧を描いてシザー達の元へと戻ってきて、全弾命中。あぁ、誘導弾か。
「これで文句はないだろ!」
「……それ、射撃下手を克服したことにはならないってわかってる?」
「………………」
あ、黙った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「なるほど。
仲間達は“降魔点”に向かわせたか……人数を考えるに、ディエンド達も向かわせたな?」
「そーゆーこと。
察しが良くて助かるよ」
いろいろと察したらしいシャドームーンの言葉に、ジュンイチさん(若)が答える……とりあえず、わかったことがひとつ。
「……“この”ジュンイチさんも、暗躍好きか……」
《ですね》
「あー……やっぱ“こっちの時間”のオレもそーゆー認識なワケね」
どうやら、ジュンイチさん(若)も自覚はあったらしい。軽くこっちを振り向いて苦笑い。
「まぁ、そのおかげでお前らの仲間な方のスバル達は助かるんだし、良しとしとこうか、うん」
そして、気を取り直したジュンイチさん(若)は改めてシャドームーンやジャーク将軍、そしてローズイマジンを見回す。
「他の戦場にも、こっちの時間の援軍が向かってきてるみたいだし、逆転は時間の問題ってところだろ。
そういうワケだから……ここもさっさと逆転しちゃおうか?」
「相変わらずふざけた態度だな。
しかも、それでいて決して油断できないからなおさらタチが悪い」
その言葉通り、ふざけたジュンイチさん(若)を前にしてもジャーク将軍の様子に油断はない――剣をかまえて、ジュンイチさん(若)の動きを警戒してる。
「おいおい……どういうことだよ?」
一方で、うめいているのはローズイマジン……あのジュンイチさん(若)のことを知らないみたいだ。
そういえば、シャドームーンはさっき「(ジュンイチさん(若)が)来てるとは思わなかった」的なことを言ってた。邪魔されないとタカを括って、教えてなかったのか……?
「オレは確かに、お前の……柾木ジュンイチの時間を奪った! その時間は今もオレの“中”にある!
なのに……なんでお前がここにいる!?
お前……何者だ!?」
「何者もクソもねぇよ……」
そうローズイマジンに答えると、ジュンイチさん(若)が腰にそれを着けた。
良太郎さん達のデンオウベルトみたいな、だけどデザインの趣が異なる、特徴的な分厚いバックルが目を引くベルトを。
その腰、片側にはまるでファイルかバインダーか、な感じの何かがぶら下がってる――その中から、ジュンイチさん(若)は一枚のカードを取り出した。
「オレはオレだ!」
《KAMEN-RIDE!》
そのカードを、ベルトのバックル、その上側に口を開けたスロットから装填。そして――
「変身!」
まるで両手を腰の前で交差させるように、バックルを両側から押し込んだ。その動きに連動してバックル中央部分、カードを装填した部分も90度回転。完全にセットされる。
《“DECADE”!》
カードを読み込んだのか、ベルトから音声がコールされる――同時、ジュンイチさん(若)の周囲にいくつもの、人の形をした何かの虚像が浮かび上がった。
数は九。一斉にジュンイチさんの身体に重なって、マゼンダと黒の二色に塗られた、プロテクター付きのスキンスーツとなって実体化する。
そして、どこからともなく飛んできた四角いプレートが、まるでマスクに差し込まれるかのように一体化。複眼が緑色に輝く。
間違いない……仮面ライダーだ。ただし、『僕らの知らない』がつくけど。
「その姿……仮面ライダーか!?」
「そゆこと。“ディケイド”っつーんだ。
まぁ、お前らは知らなくても当然だわ――世に出た順番的には、お前らの知ってる最新ライダー、『キバ』のさらに後になるからな」
マスターコンボイの上げた驚きの声に、“ディケイド”……仮面ライダーディケイドへと変身したジュンイチさん(若)が答える。
キバの次ってことは、10番目の平成ライダー、か……なるほど、『十年期』とはよく言ったもんだね。
よく見れば、マスクを飾るプレートも10枚だし、肩アーマーまで届く形でブレストプレートに描かれた“十”字の模様……『10』がデザインにしっかり盛り込まれてるってことか。
「……それじゃあ、始めようか」
そして、ジュンイチさん(若)がローズイマジン達へと向き直る――警戒する三人をびしっ!と指さして、告げる。
「っつーワケで――」
「誰にケンカを売ったか、教えてやるぜ!」
(第29話に続く)
次回、とコ電っ!
「さて……踏みつぶすか」 |
「変身!」 《ルゥゥゥゥゥ、シッ! フェエェェェェェゥルッ!》 |
「楽しいかよ? そんなよってたかって、女の子ひとりを袋叩きにしてさ」 |
「覚悟を決めろ……」 |
第29話「断罪の時間だ」
「悪を殺すのは……それ以上の、悪だ」 |
あとがき
マスターコンボイ | 「実に2ヵ月ぶりとなる最新話の掲載だな」 |
オメガ | 《まったく、最近ますます遅筆化に拍車がかかってませんか? あの作者》 |
マスターコンボイ | 「遅筆なだけじゃなくて、他の作品にもいろいろ手を出してるからなぁ……」 |
オメガ | 《まぁ、それはともかく、今回は危機からの援軍到着回。 というワケで、『ディケイドDouble』から向こうのミスタ・ジュンイチやミス・ノーヴェ達が参戦です》 |
マスターコンボイ | 「今までちょくちょく手を出してきたが、いよいよ最終決戦ということで本格的に首を突っ込んできたか……って、ん? …………おい、スバルのところだけまだ誰も行ってなくないか?」 |
オメガ | 《あ、気づきましたか? さすが相棒。 大丈夫。ミス・スバルのところにも次回ちゃんと到着しますから》 |
マスターコンボイ | 「ということは、予告に出てきているヤツが……」 |
オメガ | 《その可能性は大、ですね。 まぁ、予告の内容を見るに柾木家のお兄さんも次回参戦確定ですから、どちらが来るか、までは読めませんがね》 |
マスターコンボイ | 「展開的に、『ディケイドDouble』の柾木ジュンイチも暴れるだろうしな…… とりあえずシャドームーン達がその犠牲になるであろうことは容易に想像がつくが」 |
オメガ | 《というか……話の流れからして、すでに彼ら、最低でも一度は“向こう”のミスタ・ジュンイチとやりあってるんですよね、確実に。 つまりは次回彼と戦うのは二度目以上ということで……》 |
マスターコンボイ | 「それだけ再三振り回されるハメになっている、ということか…… ……なぜだろう。すさまじく彼らに同情を禁じ得ないんだが」 |
オメガ | 《まぁ、それは当然でしょう。 ミスタ・ジュンイチの“被害者”という括りで考えるなら、ボスだってれっきとした同類なんですから》 |
マスターコンボイ | 「『被害者』言うな。『同類』言うな。 |
……と、そんなことを話しているうちに、今回もお開きの時間だ。 では、次回も楽しみにしているがいい」 |
|
オメガ | 《次回もよろしくお願いいたします》 |
(おわり)
(初版:2013/08/27)