右よーし。左よーし。

 ……うん、誰もいないね。



 誰もいないのを確認して、ろーかをこっそり歩いていく。

 ……ん? 『どうしてこっそり行くのか』って?

 だって……見つかったら、きっと「部屋にいなきゃダメ」って怒られちゃうから。



 でも……行かなきゃ。

 やすーみおにーちゃんに頼まれたんだもん……『フェイトお姉ちゃん達を頼む』って。

 だから……行く。



 フェイトお姉ちゃんやなのはお姉ちゃんのために……







 二人が退屈しないように、何かおもしろそうなことを見つけて帰るんだ!











「……なんか、派手に戦ってるみたいだな、みんな」











 あわわっ! 誰か来たっ!

 聞こえてきた声に、あわてて隠れる。

 見れば、制服を着た、ここで働くおにーちゃん達……おもしろそうなのを探してて、いつの間にかみんなが働いてるところに来ちゃってたみたいだ。



「苦戦してるみたいだけど……大丈夫なのか……?」

「そこは心配いらないんじゃないか?
 なんたって、勝たなきゃフェイト隊長達が……」

「あぁ……そうだな……」



 …………え……?

 フェイトおねーちゃんが……何……?

 まさか……やすーみおにーちゃん達が悪い人達をやっつけに行ったのって……



『僕らが戻ってくるまで、フェイトのこと、お願いね』



 やすーみおにーちゃん、言ってた……フェイトおねーちゃんのことを頼む、って……

 フェイトおねーちゃんのこと……頼まれたんだ……

 だったら……







 ぼくが……がんばらないと……っ!

 

 

 

 

 

――時の列車、デンライナー。次の停車駅は、過去か未来か――

 

 


 

第29話

断罪の時間だ

 


 

 

 ジュンイチさんが……仮面ライダーになった。



 戦う僕らの前にいきなり乱入してきたのは、僕らの知ってるあの人よりも若い、別の時間のジュンイチさん。

 そのジュンイチさんが、仮面ライダーに変身したんだ――その名も、仮面ライダーディケイド。

 見れば、シャドームーンやジャーク将軍なんかは明らかに警戒度を上げてきてる――僕とマスターコンボイの二人がかりでも攻め切れなかったあの二人ですら、今のジュンイチさん(若)は脅威だってことか。



 というか……



「………………ジュンイチさん」

「ん? どーしtどわぁぁぁぁぁっ!?」



 答えかけたジュンイチさん(若)の言葉は途中から悲鳴に化けた――まぁ、僕がアルトで斬りかかったからなんだけど。



「いきなり何すんの、お前!?」

「『何する』? それはこっちのセリフだよっ!」



 白刃取りでアルトを受け止めて、抗議してくるジュンイチさん(若)に言い返す。

 そう。『何をする』なんて、そんなのはこっちのセリフだ。

 ジュンイチさん(若)は、それだけのことをしたのだから。



 何しろ――



「ナニ僕を差し置いてちゃっかり仮面ライダーに変身してるのさ!?
 こっちは再三に渡ってスバル達にチャンスを持っていかれて、未だに電王に変身できてないってのにっ!」

「知るかぁぁぁぁぁっ!」



 あ、白刃取りのまま押し返してきた。このパワー、やっぱり若くてもジュンイチさんはジュンイチさんってことか。



「そんなこと言われたって、自分の意志でなったワケじゃねぇんだっ! どーしよーもあるかっ!
 自分達の意志でライダーになった翔太郎や弦太朗達と一緒にすんなーっ!」

「はぁ!? 誰ですかその二人っ! まさか僕らのまだ知らないライダーの二人ですか!?
 何ちゃっかり『この先の展開知ってるんだぞどーだうらやましーか』アピールしてるんですかっ!」

「そんなんじゃねぇっつーのっ!
 つかなんでそっちに食いつくんだよっ!? どう反論しても揚げ足取る気かテメェっ!?」

「当然だよっ! そのくらいやらないと気がすまないね、こっちわっ!
 『将来は仮面ライダーになりたい』という夢を持ちながら厳しい現実の前に枕を涙でぬらしてる全次元世界の子供達に今すぐ焼き土下座で誤れーっ!」

《マスター、落ち着いてください。『アヤマレ』の字が違います。
 あと、この人熱エネルギー使いなんですから焼き土下座したって冷やされて普通の土下座に終わりますよ?》

「そっちのデバイスもツッコむところはそこじゃねぇぇぇぇぇっ!」

「てめぇら、何ふざけてやがるっ!?」



 そんな僕らに、ローズイマジンが突っ込んでくる。僕らのやり取りを見て「ふざけてる」と思ったらしいけど――







「別に――ふざけてなどいないさ!」







 残念。ひとり忘れてたね――と、いうワケで、ローズイマジンの懐に飛び込んだマスターコンボイがオメガを一閃、ブッ飛ばす。

 その間に、ジュンイチさん(若)が白刃取りから脱出して(チッ)、改めてシャドームーンやジャーク将軍へと向き直る。



「部下への情報提供がなってないな。
 オレ相手に、ふざけた態度だからって突っ込んでくるのは死亡フラグだろうに。そのくらい教えておいてやっても、バチは当たらないと思うけど?」

「教えてどうなる?
 突っ込むのが危険だからと、貴様がふざけている間中ずっと見物していろとでも言うのか? それこそないだろう」

「だが……手はある。
 突っ込んでいっても返り討ちにあうというのなら……返り討ちにあわないだけの実力の持ち主が相手をすればいい」



 ジュンイチさん(若)に答えて、シャドームーンとジャーク将軍がそれぞれの得物をかまえて――って……



「……Yha-ha……」

「ジュンイチさん……?」



 対するジュンイチさん(若)は……笑っていた。

 仮面で表情は見えないけど、空気でわかる。僕らの知るジュンイチさんもよくやる、某アメフト漫画の悪魔の頭脳的なあの笑いだ――まさか、この流れ、最初から計算通り?

 最初からあの二人の相手をするつもりで……あの二人が自分に狙いをしぼるように……僕らとのやり取りを利用してローズイマジンを挑発して、展開や会話を誘導した……?



「ま、その辺は想像にお任せするよ。
 それよりも、だ……お前ら、今の内に少しでも休んどけ」

「なんだと……?
 ふざけるなよ。オレ達がもう限界だとでも言うつもりか?」

「そうは言わねぇけど、体力も魔力も、少しでも温存しとかなきゃならんのは確かでしょ?」



 反論したマスターコンボイに、ジュンイチさん(若)はあっさりと答えた。



「せっかくオレひとりに狙いが集中してるんだ。しばらくの間引きつけといてやる。
 その間に、お前らは魔力と体力の回復に専念して、次に備えとけ」



 言って、ジュンイチさん(若)は改めてシャドームーン達へと向き直る。



「まぁ、状況が状況だ。その意気込みはわからないでもないけどさ……もーちっと、周りのヤツらに見せ場を譲ってあげてもいいんじゃねぇの?
 “降魔点”の方にもオレの身内が参戦してるワケだし……」







「“こっちの時間”の援軍も、そろそろお出ましのようだぜ?」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ど……どーなっとんの、あれ……?」

「ジュンイチさんが出てきて……しかも、仮面ライダーに……?」



 ウチも、なっちゃんも、つぶやく声はかすれてる……けど、それもムリないわ、あんなん見てもうたら。

 バラのイマジンに子供の頃にまで“戻され”て、元に戻れるかどうかわからない、なんて状態になってたはずのじゅんさんが、いきなりウチらと同じくらいの年頃の姿で出てきたんやから。

 しかも、そこからいきなり仮面ライダーに変身……なんつー説明無視な展開。途中経過をすっ飛ばすにも程っちゅうもんがあるやろ。

 まーくん達は何か納得しとるみたいやけど、この距離じゃ会話なんて聞こえへんから、まーくんややっちゃんがどんな説明をされたんかもサッパリわからへん。



 もっとも……



「まぁ、詳しい話を聞くいうても……」

「こいつらをどうにかしないと、それもままならないんだけどね……っ!」



 そう。まずは目の前の怪人さん達を何とかせぇへんと、どういうことなのかを知ることもできへん。






「なっちゃん、援護よろしくっ!」

「えぇ!」







 数の上ではこっちが不利。下手に分断されたら一気に数で押しつぶされて終わる――迷わず連携を選択。なっちゃんも同意見なのか素直に応じてくれた。

 具体的にはウチが前衛で突っ込んで、なっちゃんが援護。刀を振るって斬り込んだウチに怪人さん達の意識が向いたところに、なっちゃんが呪符で遠距離攻撃。動揺が広がったところに槍をかまえて突き崩しにかかる。

 もちろんウチかて斬り込んだだけじゃ終わらへん。斬り込んだ先で大立ち回り。正面にいたカメレオンイマジンを叩き斬る。

 あちらさんもウチとなっちゃんの波状攻撃で、どっちに集中するワケにもいかずに動きが鈍い。立て直される前に、一気に数を減らす!

 怪人さん達の集団めがけて突撃。先頭にいたジャガーロードを斬り捨てる。

 アンノウンの超能力バリア? そんなん、剣に宿る霊力で一緒にぶった斬らせてもろた。元々妖怪相手に殺り合ってるんやもん。そのための武器がただの剣なワケないやん。

 さて、次はどいつを……







「いぶき!」







 聞こえた声に、すぐに意識をそちらに向ける――さっきウチからも一撃もらってたカメレオンイマジンが、なっちゃんの槍でブッ飛ばされてこっちに向けて飛んでくる。よしっ!







「はぁぁぁぁぁっ!」







 気合一閃。ウチの振るった刀は狙い違わずカメレオンイマジンの胴を薙ぐ――胴を境に上半身と下半身に分かれたカメレオンイマジンが地面に落下して、爆発。

 よっしゃ! このまま次も――











「グォオォォォォォッ!」











 ブッ飛……ばしたろう…………か……

 響いた獣の咆哮に、問題発生を悟る――あかん。やってもーた。

 考えナシにぶった斬った自分に対して頭ン中で文句を垂れ流しながら、振り向いて、対峙する――











 ウチに斬り捨てられたカメレオンイマジンが暴走した、ギガンデスヘルと。











「グォオォォォォォッ!」







 吼えながら襲いかかってくるギガンデスヘルが振り下ろした前足をかわす――砕かれたアスファルトが飛び散って、一瞬視界が悪くなる。まぁ、相手がデカすぎるおかげで、それで見失ったりはせぇへんけど。







「こん、のぉっ!」







 そして、振り下ろされた前足に反撃の一太刀……うん。斬れたね、一応は。

 けど、巨大なギガンデス相手じゃ大したダメージにはならへんかった。それどころか、ジャマだとばかりに振り上げられた前足に引っかけられて、軽く2メートルは吹っ飛ばされる。







「ったぁ……やってくれるやないの」







 まぁ、この体格差で真っ向からやり合って、簡単にダメージ与えられるとか思うんがそもそも間違ってるんやけど。気分はまさにリアルモンハンって感じ。

 さっさと獣帝神にゴッドオンしたいところやけど、あちらさんがそんなん許してくれるとも思えへんし……







「いぶき!
 こんのぉっ!」







 その一方で、ウチが危ないと踏んで、なっちゃんが助けに来てくれた……って、あかんっ!

 ウチが警告するよりも早く、なっちゃんがギガンデスヘルの前足に槍を突き立てて――







「……ウソ、抜けない!?」







 あぁ、予想通りの展開……ギガンデスヘルの筋肉に締められて、なっちゃんの槍が抜けへんようになってもうた。

 素直に槍を放せばよかったんやろうけど、それも一瞬遅かったっぽい。槍を放すよう忠告しようと口を開いた時には、ギガンデスヘルの振り上げられた前足、そこに突き立てられた槍に引っぱられたなっちゃんが宙を舞ってた。







「きゃあぁぁぁぁぁっ!?」







 ウチが助けに行くには遠すぎる。空中に放り出されたなっちゃんが、頭から地面に落下して――





















「…………間一髪、かな?」





















 結論。

 なっちゃんは地面に激突せぇへんかった。



 だって……そうなる前に、キャッチしてもらえたから。



 そう――











 「これぞヒーロー!」ってタイミングで飛び込んできてくれたジンくんに。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「大丈夫か? なずな」

「…………ジン……?」



 かけられた声に、地面との激突を覚悟して半ば手放していた意識が再始動する。

 そんなアタシの顔をのぞき込んでいるのは、アタシとは入れ違いに六課から離れていたジンで……というか、あれ? なんか近くない?

 普通に対面しているにしてはちょっと近い距離感に違和感を覚えて……気づいた。今のアタシの体勢に。

 抱きかかえられてるんだ。ジンに……その……いわゆる、“お姫様だっこ”って感じで。



 ……って、“お姫様だっこ”!?



「ぅひゃあっ!?」

「がふっ!?」



 一瞬、思考が飛んだ――そして気づいた時には、アタシのショートアッパーがジンのアゴを的確に打ち上げていた。

 で、そんなことになれば当然――



「っ、たぁっ!?」



 ジンに抱きかかえられていたアタシも地面に放り出されるワケで。おかげで思いっきり尻餅。うぅっ、地味に痛い……



「お、お前なぁ……再会するなり、ずいぶんじゃないか」

「ご、ごめん。つい……」



 さすがに今のはアタシが悪い。アゴを押さえて、苦情を申し立ててくるジンに謝る――本当にごめん。







 けど……うん、来てくれたんだ……

 何て言えばいいんだろう。たったそれだけのことなのに、ささくれ立っていた気持ちが落ち着いていくのがわかる。



「それでもって……ありがと」



 だから、お礼を言っておく――助けてくれたことのお礼に、この気持ちのお礼を隠して。







「グォオォォォォォッ!」







 ――って、ギガンデスのこと忘れてたっ!



「ジン! アイツ!」

「あぁ、わかってる――ギガンデスだろう?」



 いや、わかってるなら対応しなさいよっ! 生身じゃ生半可な反撃でどうにかなる相手じゃないわよ!?



「必要ないよ。
 だって――











「すぐ“つぶされる”から」











 その言葉と、同時だった。

 ギガンデスの巨体が、轟音と共に地面に叩きつけられたのは。

 ……いや、違う。あれは……“押しつぶされた”……?

 そう。まさにそんな感じ。見えない何かに押しつぶされるかのようだった。一瞬にして、ギガンデスの身体が地面と“何か”のサンドイッチになるように押しつぶされて、爆発と共に消滅する。

 今のは、いったい……?



「あの人だよ」

「え………………?」



 ジンに促されて、アイツの見た方向、上空を見上げて……って、えぇっ!?



「ジュンイチさんが……もうひとり!?」



 ちょっ、ウソでしょ!? つい今さっき、仮面ライダーに変身したジュンイチさんを見たばっかりなのよ!?

 そこに来てさらにもうひとりとか、どうなってるワケ!?



「いや、なずな、よく見て」

「え?」

「服装」



 ジンに言われて、ようやく気づいた……服の色が違う。

 ジュンイチさんの服装は基本的に黒の道着姿……だけど、あたし達の目の前にいる“もうひとりのジュンイチさん”の道着は――白。

 アンダーシャツも、アタシの知るジュンイチさんのそれが青色なのに対して赤色で……そう、ちょうどジュンイチさんの道着の色、その反転色がそのまま採用されている感じだ。



「まぁ、そりゃある意味当然だな……なんたって、“生まれからしてジュンイチさんと対なんだから”」



 え………………?

 『生まれからして』『ジュンイチさんと対』……そんな、ジュンイチさんのそっくりさん。

 それって、つまり……



「……双子……?」

「そういうこと」



 思考が声にもれ出たアタシに答えたのは、“もうひとりのジュンイチさん”本人だった。重力をまるで感じさせない浮遊感あふれる機動で、アタシ達の前に舞い降りてくる。



「お前が雷道なずなか。
 ウチの弟が、世話になったみたいだな」



 あぁ、じゃあやっぱり……



「そ。
 アイツの双子の兄キの、柾木鷲悟だ――よろしくな」



 そうあいさつすると、握手を求めてきた。とりあえず拒む理由はないので応じて、その手を握り返して――



「よっしゃあっ! 友達またひとり確保ぉっ!」



 え!? ちょっ!? 何よいきなりっ!?

 握手した瞬間テンション跳ね上がったんだけど!?



「あー、気にしなくていいよ。
 この人、いろいろあって“ぼっち歴”が長かったもんでさ――おかげで誰かと知り合い=友達になれるってことがうれしくてしょうがないんだと。
 まったく、ぼっちが解消されてもう10年以上になるってのに、未だにこれなんだもんなぁ……」



 何ソレ。



「ほほぉ、じゅんさんのおにーさんですか」



 あ、いぶき。



「ウチはいぶき。嵐山いぶきいいます。
 えっと、『鷲悟』やから……しゅーさんって呼んでえぇですか?」

「おー! いいともいいともっ!
 あだ名! いいじゃないか! なんか友達っぽいっ!」



 相変わらず初対面だってのに馴れ馴れしいいぶきだけど、鷲悟さんにとっては好感触っぽいわね。

 まぁ、人とのつながりに飢えてるっていうことなら、いぶきみたいな人懐っこいタイプは大歓迎か。



 けど……



「鷲悟さん。
 友達作りはそのくらいで」

「はいはい」



 そう。ジンの言う通り、そのくらいにしてもらわないと困る――だって、現在進行形でネガショッカーの怪人達がこっちを包囲し続けてるワケだし。



「そんじゃ、こっからはマジメに雑魚どもを踏みつぶしてやるとしましょうかね」



 言って、鷲悟さんが地面に右手を押し当てて――触れた場所、その周りのアスファルトが消滅した。

 ――いや、違う。“分解された”んだ。分解されたアスファルトが変質したと思われる光の粒子が、鷲悟さんの右手の周りで渦を巻いているのがわかる。

 そして、それは鷲悟さんの右手に集束、形を成していく――物質化して、出来上がったそれは一振りのでっかい槍……いや、げきだ。



「……重天戟じゅうてんげき



 おそらくその戟の銘だろう。名をつぶやきながら、鷲悟さんは戟を一振りして、



「さて……」











「踏みつぶすか」











 一言――たった一言。それだけで、鷲悟さんのまとう空気が一変したのがわかった。

 ジュンイチさんと同じだ――つい今の今までのほほんとしていたのが、一瞬で戦闘モードに思考を切り替えたんだ。本当、よくここまで落差の大きい意識の切り替えができるもんだわ。



「じゃあ、オレもいこうか。
 ……“バルゴラ”」

《了解だ》



 そして、アタシのとなりのジンが呼ぶ聞き慣れない名前……ちゃんと返事が返ってきた。

 出所は、いつの間にかジンの手の中に握られた黒い十字架型の装飾品……あぁ、なるほど。



「それが、大賀じゃ不在だったアンタのデバイスってワケね」

「あぁ。
 ようやくの……そして、パワーアップバージョンのお披露目だ!」



 言って、ジンが装飾品を頭上に放り投げる――そして、叫ぶ。











「セットアップ!」











 瞬間、ジンの姿が光に包まれて――弾ける。

 そして姿を現した時、ジンの身体を包んでいたのは、軍用の戦闘服――アーミールックっていうんだっけ? それをモチーフにしてるとすぐにわかるデザインの、黒い……いや、違うわね。ダークブルーか。とにかく、ほとんど黒に近いほどに濃い青色のコスチューム。

 一方で、上空に放り投げた装飾品は光を放ったまま滞空してる――ちょうど、その光が上下左右に、十字架状に放たれるような感じで。

 けど、その光もジンの変身と同時に弾け飛ぶ。そして現れたのは――



「…………箱?」



 思わず、そんなつぶやきがもれた。

 けど、それはしょうがない。実際そんな見た目なんだもの。

 箱と言っても別に四角じゃない。強いて言うなら厚みのない円柱。

 内側はくり抜かれていて、中心を貫くように一本の棒が通ってる……棒じゃないわね。あれが握りってことか。

 目の前に落ちて――否、降りてきたそれを、ジンが右手でつかむ。そこでようやく、握りが円柱状の外殻を貫いてるのに気づいた。

 確か、英語だかギリシャ語だかにそんな感じの記号がなかったっけ? えっと……



「『φファイ』だよ。
 デザインした上での元ネタ……そのモチーフのデザインにその字が採用されてた関係でね」



 あぁ、なるほど。



「けど、それのどこが武器よ?
 せいぜい、それ使ってぶん殴るくらいしか攻撃方法が思いつかないんだけど」

《冗談ではない。
 いくら以前の反省からより強固に作られていると言っても、だからと言って鈍器扱いは不本意極まる。最初から鈍器として作られているグラーフアイゼンと一緒にしないでくれ》



 あ、返事だけかと思ったらちゃんとこっちの会話に乗ってきた……って、あぁ、そういえばコイツもアルトアイゼン達と同じインテリジェントデバイスって言ってたっけ。それも“よくしゃべる部類”の。



《そういうことだ。
 バルゴラという――雷道なずなだったか。私の不在の間、私のマスターが世話になったようで、まずは礼を言わせてくれ》

「いや、それを言うなら、むしろアタシが助けられたくらいで……」

《それでも、だ。
 そして、これからも……どうか我がマスターを見捨てないで支えてくれると助かる》

「おいこら、バルゴラ。『見捨てる』って何だ、『見捨てる』って」



 バルゴラに好き放題言われて、ジンがこめかみを引きつらせてる……あぁ、コイツらも恭文&アルトアイゼンと似たような力関係なワケね。



《失礼な。私はただパートナーデバイスとしてしっかりマスターを導いているだけだ。アルトアイゼンのように自分のマスターを面白半分に振り回しているのとはワケが違う。
 とにかく、そういうワケだからこれからもマスターのことをよろしく頼む》

「えぇ、そのくらいなら別にいいわよ」

《そうか。
 いや、実に話が早い。さすがはマスターの彼女だ》







 ………………

 …………

 ……







 ………………って、ちょっと待ったぁぁぁぁぁっ!



「はぁっ!? 『彼女』!?
 誰が!? 誰の!?」

《何? 違うのか?
 アルトアイゼンから『大賀でマスターに彼女ができた』と聞いていたのだが》



 あ、あの性悪デバイスーっ! 今度あの本体の宝石に油性マジックで落書きしてやろうかしらっ!



「やめといた方がいいぞ。間違いなくその後10倍どころじゃない仕返しが待ってるから。
 それより……今はアイツらの方が先決だろう?」



 ……そうね。

 ジンの言葉に、意識を切り替える――そうだ。ジンと鷲悟さんの乱入で向こうも警戒を強めてるみたいで、戦いは仕切り直しの雰囲気。だけど、終わったワケじゃない。まだまだ暴れてやんなきゃね。



「そういうこと。
 と、いうワケで……ここからはオレ達のターンだ」



 言いながら、ジンが取り出したのは……カード?

 そう、カードだ――銀色の、金属製のカード。数は二枚。

 それを、バルゴラの側面に備えられたスリットに通す……あぁ、あのスリット、カードリーダーなのか。



《BLADE!》

《BUST!》




 読み込んだカードの内容だろう、バルゴラの声で、けどバルゴラのセリフとは思えない無感情な口調でコールされる――その声に伴って、バルゴラの前後にそれが作り出された。

 一方には巨大な刃、反対側には同じく巨大な刀の握り――それがバルゴラ本体をはさむように合体して、一振りの大剣を形作る。

 具体的にはバルゴラ本体が形作ってる『φ』の字、その上下の棒線が飛び出してる部分が各パーツの接合部分に差し込まれる感じ……あぁ、あの上下の棒はコネクタも兼ねてるんだ。







《COMBO――“ZANBER”!》







 ザンバー……斬馬刀ってワケね。改めてコールするバルゴラを軽く振るって、ジンはその切っ先をネガショッカーの怪人達に向ける。



「もう大賀で一暴れした後だけど……一応、ミッドチルダでは復帰第一戦になるんだ。
 せいぜいハデに暴れてやろうぜ、バルゴラ。いや――」











「バルゴラ・グローリー!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「でぇりゃあぁぁぁぁぁっ!」







 気合と共に振り抜いたグラーフアイゼンが、グロンギのサイ野郎をブッ飛ばして、







「オォォォォォッ!」







 こっちも気合は十分。ビーストモードのメカライオンに変形トランスフォームしたビクトリーレオが、カニのイマジン――クラストイマジンの暴走したギガンデスハデスにかみついて、振り回し、何度も地面に叩きつける。



 ……うん。ギガンデスがいる。ちなみにあたしが暴走させた。ゴメンナサイ。



 そして――







ひほひひよりひはひみなみ!」

「ものをかじったまま――」

「人の名前呼ばないでほしいっスね!」







 そんな、ブン回されるギガンデスハデスにはゴッドオンしたみなみとひよりが追い討ち。蹴りと拳のサンドイッチに、ギガンデスハデスが苦悶の声を上げる。







「おぉ、あの二人もやるやないか!」

「当然、だっ!」

《なんたって、ボクらと一緒に“JS事件”を戦い抜いた仲間なんだからっ!》







 そんな対巨大目標戦を繰り広げてる三人の姿に感嘆の声を上げるのはキンタロス。対してロードナックル兄弟は仲間がほめられてうれしそう……まぁ、あたしも悪い気はしねぇけどさ。







「これは、ボクらも負けてられないね!
 サニー、ミシオねーちゃん! ゴエモンにーちゃん! 気合入れていくよ!」

「うんっ!」

「というか……」

「とっくに、気合はフル充填だっつーのっ!」

《ゴーゴーなのじゃーっ!》







 そしてこいつらも、今回はちゃんと働いてる……メープルが万蟲姫について変身した仮面ライダースティングを筆頭に、サニー、ミシオ、そしてゴエモン……蝿蜘苑ようちえんのイマジンズもネガショッカーを相手に大立ち回り。



 メープルのセリフじゃねぇが、あたしらだって負けてらんねぇ。いくぜっ!

 元々入ってた気合をさらに入れる。ネガショッカーの怪人どもに向かって突げk――











『ぎゃあぁぁぁぁぁっ!?』











 ……あたしが突っ込む前に、前方で惨劇――やたらと派手な大規模爆撃がヤツらに向けて降り注いだんだ。

 エネルギーの雨が、“氷の砲弾が”、雨アラレと降り注いで、描かれるのは悲鳴が飛び交う阿鼻叫喚の地獄絵図……さすがにこれは同情する。そのくらいの爆撃。

 こんな容赦のない爆撃、ぶちかますのはジュンイチくらいか……いや、アイツぁガキの頃にまで“戻され”ちまったままのはず。

 それにアイツの攻撃なら、氷じゃなくて炎での攻撃でくるだろう。炎そのものじゃなく熱エネルギー、つまり温度を操るアイツなら氷での攻撃もできないワケじゃないけれど、そんな手間をかけるくらいなら素直に炎をブッ放した方がはるかに楽で早い。



 つまり、こんなアイツらしいえげつない爆撃はアイツの手によるものじゃなくて……だけど、



「あぁ、そうか……
 アイツの知り合いの“お前ら”なら、あり得る話か……“朱に交われば赤くなる。柾木ジュンイチに交われば黒くなる”……だっけか」

「アイツと一緒にしないでくれるか?」

「ただ最大規模でぶちかましただけで、えらい言われようだな」



 そうあたしに答えて、舞い降りてきたのは……付き合いは浅いけど、知らない顔じゃなかった。

 ひとりは、“ジュンイチ達のそれとよく似た”半全身鎧セミ・アーマータイプのプロテクターに身を包んだ男……だよな? なんか女でも通用しそうな顔してっけど。



「ほっとけ! れっきとした男だよオレわっ!」



 禁句だったらしい。モノローグに対して半泣きで抗議された。

 で、もうひとりが……“あたしらが出会った頃のはやてのそっくりさん”

 あぁ、そうだな……お前らも来る気マンマンだったっけか。



「ユニクロンをブッ飛ばした時以来だな。
 相変わらずオイシイところで出てくるよな――崇徳、ディアーチェ」



 そう。この二人だ――ジュンイチの地元でのかつての仲間、“影”のブレイカー、橋本崇徳と“闇の書”の遺したマテリアルズのひとり、“闇統べる王”ことロード・ディアーチェ。



「ヤミと呼べ、ヤミとっ!」



 ……はいはい。

 そーいやコイツ、そう呼ばないと怒るんだっけか……いや、コイツだけじゃなくてマテリアルズ全員か。



 最初こいつらは、プログラム起動時のトラブルのせいで記憶をなくして、自分の称号と役目くらいしか覚えてない状態で活動を開始していたらしい。

 で、そこをジュンイチにボコられて、その時にそれぞれの称号にちなんで名づけられた名前が……コイツの場合、ヤミ。“闇統べる王”だから、ヤミ。

 で、その一件を通じてジュンイチに助けられて、最終的にアイツに懐いたコイツらはその名前をいたく気に入ったみたいで、本来の名前を思い出した今でもジュンイチのつけてくれた名前にこだわってる。今みたいに本名で呼ばれたらノータイムで文句を垂れるくらいに。



「はいはい、わかったよ、ヤミ。
 ちゃんとそう呼んでやるから……」

「ならばよい。
 そしてそこから先は『皆まで言うな』というヤツだ」



 小生意気にもあたしのセリフに被せてくると、ヤミのヤツは自分のデバイス、エルシニアクロイツをかまえる。

 つか……はやてと同じ顔でそんなデカイ態度取られると余計ムカつくな。これが終わったらどっちが目上かきっちり教えてやる。今代での稼動歴的にはアタシの方が先輩なんだぞ?



「フンッ、上等だ。
 では、そのためにも……」

「あぁ。さっさとコイツらには退場してもらおうじゃねぇか」



 ヤミと並び立って、あたしもグラーフアイゼンをかまえる……ビクトリーレオ達に戦わせてばっかりじゃ悪いし、そろそろ戦線復帰しないとな。



「おいおい、オレも忘れるなよ」



 で、橋本も自分の得物である大鎌をかまえる……悪い。ガチでお前のこと忘れてた。



ミッドこっちじゃどんだけ扱い軽いんだよ、オレ!?」



 そんなの、いつもこういう大一番でしか出てこないからだろ。青木ですら前々作(『とまコン』)で何度か顔出してるってのに。



「へぇへぇ、そうですね。
 どーせ“JS事件”の時も最後のユニクロン戦でしか戦ってませんよーだ」



 ……拗ねるなよ。



「ま、その辺はここでの活躍で挽回してやるからいいんだけどさ」



 是非そうしてくれ。その方があたしも楽になるし。



「そんじゃ、ヤミちゃん、やりますかっ!」

「ふんっ、やらいでか!」



 気を取り直して、改めて橋本とヤミの参戦表明――もちろん、あたしだって二人に任せてのんびりするつもりなんてない。



「あたしもいくぜ!
 “鉄槌の騎士”ヴィータと“鉄の伯爵”グラーフアイゼン! いっくぜぇぇぇぇぇっ!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「いっ、けぇぇぇぇっ!」

《らけーてん、ばれっと!》







 あたしの掛け声と同時、ロンギヌスが十八番の発動――全身を一振りの突撃槍ランスと変えて、あたし達は目の前のギガンデスや魔化魍、巨大戦闘態持ちのオルフェノクがひしめく敵の真っ只中を駆け抜けていく。

 とはいえ、相手は巨大目標ばかり。あたし程度が全身でぶつかったって大したダメージにはなりゃしない――増してや通り抜けがけに引っかけた程度じゃなおさらだ。

 すぐに、敵は駆け抜けたあたし達に反撃しようとこっちへ振り向いて――悪いね、“それが狙いだよ”っ!







「ハウリング、パルサー!」

「レンジャー、ビッグバン!」

「スナイピング、ボルト!」







 ライナーズ古参三人娘の攻撃が降り注ぐ――あたしに向けて振り向いたせいでかがみ達に背を向けた形になった敵さん達は反応すら許されずに全弾きれいにくらってくれた。







「まだまだっ!」

「オォォォォォンッ!」







 さらにそこにシグナルランサーとヴェル改めワイルドファイアが突撃――華麗な槍裁きで立ち回るシグナルランサーとパワーに物を言わせて相手を吹っ飛ばすヴェル、二人してイイ感じに敵陣を引っ掻き回している。

 そんな中、敵集団から離れた個体を発見。たまらず距離を取りに来たか。

 けど――







「ジェットガンナー!」

〈了解〉







 通信越しの声があたしに答える――とっくに気づいてたか。

 同時、上空からの射撃が離れた個体、強力態のエレファントオルフェノクの足元を叩いて離脱の足を止める――上空でギガンデスヘブンやイッタンモメンとやり合っていたジェットガンナーのフォローだ。

 そして、足を止めたエレファントオルフェノクは背中からヴェルの体当たりを食らってブッ飛ばされる――あ、腰を押さえてのた打ち回ってる。腰骨でもずれたかな?



 ま、どうせブッ倒すヤツらだし、気にする必要もない。このまま蹴散らして――











「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!?」











 悲鳴が上がったのは、あたしが再度突撃をかけようとした、まさにその時だった。

 けど……その悲鳴はあたし達の誰が上げたものでもなかった。

 悲鳴の主は――敵側だ。たぶん……オルフェノクの誰か。

 というか……実際その悲鳴と共に一名、“あたし達の誰もいないはずのポイントで”豪快に宙を舞ってる。



 えっと……何? どしたの?

 確かめようと、サーチャーを飛ばして――なんか、今度は“青白い雷光がほとばしってる”んだけど。

 とにかく、サーチャーが現場の映像を拾ってきて――







〈オラオラ! どうしたどうした!
 次々かかって来いってんだ!〉

〈フフンッ、このボクに恐れをなしたかっ!
 ま、ボクが強いのはとーぜんだけどねっ!〉







 …………なんでアンタらがいるの。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――いたっ!」



 アリシアさんから指示を受けて、敵陣のド真ん中で大暴れしている“二人”との合流に動く――幸い、敵がみんな二人の参戦に気を取られていたおかげで、突破するのに大した苦労はいらなかった。

 とりあえず、必要はないと思ったけど……二人のうち一方に襲いかかろうとしていたギガンデスヘルの後頭部にライトショットのエネルギー弾を叩き込んでおく。



「お、かがみ、サンキュー! ナイスフォローだ!」

「フォローが必要だとは思えませんでしたけどね。
 あのままほっといても、しっかり気づいて対応できてたでしょ?――」











「青木さん」











「んー、かもしれないけどさ。
 それでも、楽させてくれたのは確かなワケだしな」



 そう答えて、豪快に笑うのは水隠……もとい、旧姓“青木”啓二さん……結婚して姓も変わってるんだけど、ブレイカーとして活動する際は旧姓の方で名乗ってるんだとか。



「あーっ! かがみ!
 久しぶりーっ! 元気してた?」



 で……こっちもこっちで相変わらずテンション高いわねー。



「あー、はいはい。元気元k」

「ホント大丈夫? また太ったりしてない?」

「やかましいわっ!」



 あー、もうっ! 相変わらず無駄に悪気なく心の傷をえぐってくれるわねっ!

 私がその辺気にしてることを知って以来、心配してくれてるのはわかるけど……いちいちストレートに聞いてくんじゃないわよっ! あと、質問の答えについてはノーコメントっ!



 ま、とにかく……



「誰から今回のことを聞いたのかは、とりあえず聞かないでおくわ。
 とりあえず……まぁ、来てくれて助かったわ、ライ」



 そう。もうひとりの参戦者、それは子供の頃のフェイトさんそっくりな、水色の髪の女の子……“雷刃の襲撃者”、レヴィ・ザ・スラッシャーことライ。



「ふふん、ボクが来たからには百人力だよっ!
 さー、どいつもこいつも、命が惜しかったらかかってこーいっ!」

「それ言うなら、『命が惜しくなかったら』じゃないか……?」



 私に答える形で、自信タップリに敵の怪物達へと宣戦布告するライに、青木さんが苦笑まじりにツッコんで……って!?



「青木さん!」

「後ろ後ろーっ!」



 ライと二人で声を上げる――青木さんの背後から、でっかい蟹の魔化魍まかもう、バケガニが迫ってきてたから。

 そのまま、バケガニが青木さんへと右手のハサミを振り下ろして――







「誰が、危ないって?」







 ウソ……生身のまま、“ただの打撃で”殴り飛ばした!?

 そう。攻撃が通ったのは、バケガニではなくて青木さんの方――バケガニのハサミをかわして、逆にカウンターのアッパーカット。しかも、その一撃でバケガニの巨体を豪快に宙に舞わせてみせたのだ。

 あのジュンイチさんですら、大技付きでないとブッ飛ばせそうにないくらいの重量差を、あんな簡単に……



「百獣憑依……灰色熊グリズリー、in右腕ライトアーム



 あ、能力発動済みでしたか。

 青木さんは動物にまつわる“獣”の属性を持つブレイカーで、その能力のひとつが“百獣憑依”――身体の任意の場所に、任意の動物の能力を反映させる能力。

 今のケースで言うと、グリズリーの豪腕を右手に宿した――もちろん、そうして生み出される剛力も、しっかりブレイカーの基本能力による身体能力強化で増幅される。

 そしてそのパワーをもって、思い切りバケガニをブッ飛ばしてくれたワケだ。

 さすが、ジュンイチさんの古株の仲間の中では接近戦最強とうたわれるだけのことはあるわね……



「よーし! ボクだって負けないぞぉーっ!」



 って、ライ!?



「ちょっ、待ちなさい、ライ!」



 私が止める声も届かない。青木さんの豪快な一発に触発されたのか、ライが上空から迫ってくるギガンデスヘブンに向かって飛んでいく。







「ぅりゃあぁぁぁぁぁっ!」







 そのまま手にしたバルディッシュのそっくりさんなデバイス、バルニフィカスが生み出す光刃で斬りかかって――











 ガキンッ。











「………………あり?」



 言わんこっちゃない……強化もしてない通常出力の魔力刃で、ギガンデスの生体装甲を抜けるワケないでしょ!

 しかも、ギガンデスヘブンだって斬りかかられて黙って帰すワケがない。咆哮と共にライから距離を取って、尻尾から撃ち出してくる無数の針型の弾丸で攻撃してくる!







「ひゃあぁぁぁぁぁっ!?」

「何しに出てきたのよ、あなたわぁーっ!」







 逃げ惑うライにプチ説教しながら、逃げてくる彼女とすれ違うようにギガンデスへブンの前に飛び出す。

 イグニッションしてる時間はない。代わりに距離を詰めて威力を補う!







「これでも、くらいなさいっ!」







 左のライトショットをギガンデスへブンの口(?)の中に突っ込んで零距離発射!

 さすがにこれにはたまらずギガンデスへブンの体勢が崩れて――







「フォースチップ、イグニッション!」







 今度こそイグニッション。体内に流れ込んでくるフォースチップのエネルギーを右のライトショットに集めて、











「ハウリング、パルサー!」











 必殺の砲撃で、ギガンデスへブンの身体を撃ち抜く!



「大丈夫、ライ?」

「ふ、ふんっ、だ! 別に助けてもらわなくても大丈夫だったんだからっ!」



 ウソつけ。



「これにこりて、ムリに一撃必殺を狙わないようにね。
 さぁ、気を取り直して、改めてアイツらを叩くわよっ!」

「うんっ!
 どいつもこいつもかかってこいっ! ボクらにかかれば一撃必殺だぁーっ!」



 ふ、不安だ……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「はぁぁぁぁぁっ!」

「おぉぉぉぉぉっ!」







 二人で咆哮、同時に踏み込む――私のレヴァンティンが目の前の怪人を、スターセイバーのスターブレードが陸戦型のギガンデスを叩き斬る。







「秘儀――荒波崩しっ!」

「消えてろ、雑魚がっ!」







 シャープエッジとピータロスもがんばっている。それぞれの相手を一撃のもとに叩き伏せて――







「オラオラぁっ! かかってこいってヴァ!」

「みさちゃん、前に出すぎだよーっ!」







 …………誰かあの猪を止めてくれ。



 えぇいっ、日下部め! 何度「突出するな」と連れ戻してもすぐに飛び出していくっ!

 「不用意な突出は分断を招くからやめろ」と何度言っても聞きやしない。まったく、アイツは……っ!



「もういっそ、好きにやらせてみるのも手かもしれんぞ?
 あぁいう手合いは下手に動きを制限する方がかえって力を削いでしまうことが多い――実際、柾木や蒼凪、泉がそうだろう」

「まぁ、確かにそうだが……」



 スターセイバーは好意的に受け止めているが、彼女達のことを任されている身としては、始終ハラハラし通しで精神衛生上非常に良くないんだが。



「……もういっそ、何もかも放り出して私自身が前線に飛び込んで大暴れしてやりたいんだが」



 思わず、そんな偽らざる本音が口をついて出てきて――











 斬り裂かれた。







 そして、撃ち抜かれた。











 突如、私達の目の前で、戦場が――“飛来した巨大な光刃と砲撃によって”蹴散らされたのだ。

 まともにくらった者達はもちろん、引っかけられた程度の怪人達もその衝撃だけで成す術なく吹っ飛ばされている――って!?







「日下部!?」







 そうだ――戦場のド真ん中をあんな一撃が駆け抜けたら、突出していた日下部は――







〈シグナムさん、峰岸です!
 みさちゃんなら無事です、安心してください!〉

〈きゅぅ〜……〉







 一瞬背筋が凍りついた私だったが、幸いにも直後に入った峰岸からの通信が日下部の無事を報せてくれた。

 目を回している辺り、少なくとも巻き込まれはしたようだが――まったく、アレに巻き込まれてその程度で済んだとは、運のいいヤツだ。



 しかし、あの一撃は……



 とりあえず、心当たりはある。あるのだが……







「……スターセイバー」

「何だ?」

「よその支援に行ってきていいか?」

「ダメだ」







 むぅ……



「貴様がいなくなったら、いったい誰が止めるんだ?――“アイツら”を」



 告げるスターセイバーの視線の先を見て――そこに予想通りの“二人”の姿を発見する。

 すなわち――











「足りねぇなぁ……あぁ、ぜんっぜん足りねぇよ!
 もっとつえぇヤツぁいねぇのか!? かかってきやがれ、オラぁっ!」

「すみません。こんな一発程度で私の気が晴れると思われるのは心外です。
 まだまだ撃ちますので……あきらめてください」











「戦闘狂のブレードは言わずもがな……普段は一番静かなクセにキレるとあの三人マテリアルズの中で一番手がつけられなくなるセイカまでいるんだぞ。
 とりあえず……オレには止められん。シグナムがなんとかしてくれ」



 ブレードに加えて、“星光の殲滅者”、シュテル・ザ・デストラクターことセイカまでここに乱入してくるか……

 まったく……まったく……っ!







「どうして、私のところにばかりこうも……暴走特急ばかり集まってくるんだぁぁぁぁぁっ!?」











「……類が友を呼んだんだろ」











 スターセイバー……何か言ったか?



「いや、何も」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「さて……そんじゃ、こっちもそろそろ戦闘再開といこうか」



 どうやら、他の戦場にも、僕らの時間からの援軍が続々到着してるらしい――つか、僕らのところにも鷲悟さんやジンがきた……よし、終わったら今のジンの“お姫様抱っこ”をからからってやる。

 ともあれ、そんな状況を把握すべく、敵味方そろってちょっと日和見状態だった僕らだけど、ディケイドなジュンイチさんの提案でいい感じにお互いの空気が引き締まる。



「フンッ、余裕だな、ディケイド。
 オレ達に先手を許すと、後々苦労するんじゃないか?」



 そう、『お互いの』だ。向こうも戦闘態勢に突入――シャドームーンが真っ赤な愛刀、シャドーサーベルをかまえて軽口を返すけど、その態度からは油断がみじんも感じられない。

 むしろ警戒感バリバリで、本人が言うところの『(ディケイドの)余裕』を怪しんでるのは明らかだ。



「おやおや、ずいぶんと警戒してくれちゃって。
 天下のクライシス帝国の二枚看板が、えらく臆病風に吹かれてるじゃないのさ」

「挑発には乗らんぞ、ディケイド。
 貴様はカードを使用してその力を引き出し、戦うタイプのライダーだ――そのシステム上、行動を起こす際には“カードを使用する”という余分なアクションが追加され、どうしても初動に遅れが生じることになる。
 逆に言えば、相手に先手を許せば、カードを使う余裕もなくなり不利になる――つまり先手を取るのが戦略上必須事項と言える。そんなお前が悠長にかまえている時点で、ワナの可能性を疑うのは当然の発想だ」

「ふむふむ……理想的な回答だね。これがテストなら満点を上げたいところだよ」



 長ゼリフで解説してくれたジャーク将軍の言葉に、ジュンイチさんは大して動揺する様子もなくそう答えて――



「まぁ、タネをバラしちまうと、別にワナとかそんな大仰なものじゃないんだけどね。
 単に……“もうカードの用意ができてるだけで”」



 ――――――っ!?



 ジュンイチさんの言葉に、シャドームーン達だけじゃない、僕らですらもようやく気づいた。

 腰のベルトが、カードを読み込ませる前の展開状態だ――しかも、そのスリットにはすでにカードが一枚半差しの状態。

 今のやり取りの間に、僕らにも気取らせずに準備してた!? さすが、別の時間の存在だろうとジュンイチさんはジュンイチさん。手癖が悪いのも共通かいっ!



「それ、ほめ言葉と受け取っておくよっ!」

「ちぃっ!」



 僕ら同様に気づいたシャドームーン達が動く――けど、もう遅い。







《ATTACK-RIDE!
 “BLAST”!》








 ジュンイチさんがカードを完全に差し込んで、読み込ませる――同時に腰のバインダー状のツールが銃に変形、それを手にとって銃撃っ!







「その程度っ!」







 とはいえ、そこはさすがシャドームーン。襲いかかる銃撃をものともしないで、ジュンイチさんへと襲いかかる――けど、







《ATTACK-RIDE!
 “ILLUSION”!》








 対して、ジュンイチさんが再びカードを使用――瞬間、ディケイドが分身した。

 数は三――散開して、突然の分身に驚いて攻撃の鈍ったシャドームーンの剣をかわす。

 なるほど……『龍騎』に出てきたトリックベントと同じ、分身系のカードか。







「さぁて、これで三対三だ」

「っつーワケだから、ジャーク将軍もそっちのザコイマジンも、まとめてかかってきな!」

「ま、オレ達が怖いっつーなら無理強いはしないけどな」

「なめおって……っ!」

「誰が、貴様らなんぞ怖がるかっ!」







 分身も含めた三体それぞれに言うジュンイチさんに言い返して、ジャーク将軍やローズイマジンも参加。シャドームーンと一緒になってジュンイチさんを狙って――







「ほっ!」







 シャドームーンが狙ったひとり目はサイドステップでその剣をかわして、







「あらよっとっ!」







 ジャーク将軍の横薙ぎの斬撃を、二人目のジュンイチさんはリンボーダンスもかくやというぐらいにのけぞってマトリックス避け。そして――











『どっせぇいっ!』











 三人目のところへ結集。三人がかりでローズイマジンをブッ飛ばした。







「な…………っ!?」

「貴様、最初からローズイマジンを集中攻撃するつもりで……!?」

「だから何だってのさ?」







 カードの効果時間切れか、分身が消滅して、ジュンイチさんは元通りひとりに――でもって、うめくシャドームーンやジャーク将軍に対していけしゃーしゃーとそう答えた。







「オレは『三対三』とは言ったけど、『一対一×3』だなんて言った覚えはねぇんだけどな?
 つか、集中攻撃で速攻仕留めて、敵の数を減らす……なんて、集団戦におけるまっとうな選択肢のひとつだろうが」

「あぁ……そうだな……っ!」







 あっさりと言ってのけるジュンイチさんに答えたのはしっかり生きてたローズイマジン……まぁ、あの程度で仕留められる程度の相手なら、とうに僕らに殺られてるところだけど。







「だけどな……それはてめぇにも言えることだろうが!」







 で、ローズイマジンの反撃――なのはのディバインバスターでジュンイチさんを狙う。

 もちろん、ジュンイチさんもあっさり回避――けど、そこにはシャドームーンとジャーク将軍が待ちかまえていた。ジャーク将軍の剣はなんとかかわしたものの、シャドームーンのライダーキックもどきをくらってブッ飛ばされる。







「貴様お得意のおふざけ展開には持ち込ませんぞ。
 このまま一気に叩いてくれる!」

「……そーやって決着急ぐのも、オレとの戦いにおける死亡フラグのひとつなんだけどねー。忘れちまったのかい?」







 シャドームーンに答えて、ジュンイチさんが立ち上がる――その手には、一枚のカード。







「まぁ、せっかくだ。
 お前らにとっても馴染みの深い、コイツで相手をしてやるぜ!」







 言って、ジュンイチさんが腰のベルトにカードを読み込ませて――











《KAMEN-RIDE!
 “RX”!》












 瞬間――その姿が変わった。

 ディケイドとしてのライダーの姿から――







 仮面ライダーBlack、RXへと。







 ――って、えぇぇぇぇぇっ!?







「《RXになった!?》」

「なれますよー、RXにっ!」







 驚く僕やアルトに律儀に答えると、ジュンイチさんはさらに斬りかかってきたシャドームーンの攻撃をバック転の要領で回避。そのままバック転の繰り返しで距離を離して、











《ATTACK-RIDE!
 “RIDLON”!》












 再びカードを使う――あ、ベルトの部分だけはディケイドのベルトのままなんだ。まぁ、ベルトまで変身しちゃうとその間カード使えないし、当然と言えば当然なんだけど。

 とにかく、ジュンイチさんがカードを使うのと同時、それを合図にしたかのように地面が揺れた。

 そして、何事かと確認する間もなく地面を砕いて現れたのは、真っ赤な、独特のデザインの車。

 ライダー史上全体から見ても極めてレアな四輪車装備――RXの専用車、ライドロン。つか、あのカードはライダーマシンも呼べるんかいっ!







「そーゆーことっ!
 いけぇっ、ライドロン!」







 ジュンイチさんの言葉に答えて、ライドロンがジュンイチさんを乗せることなく走り出す――あぁ、そういえば原作でも自立行動可能だったっけか。

 そのまま、ライドロンはシャドームーンやジャーク将軍、ローズイマジンへと突っ込んでいって――







「やったれ、ライドロンっ!
 本家RXも重宝した、必殺の……」











き逃げアターック!」











 いた。

 シャドームーンとジャーク将軍が回避して、ひとり残されたローズイマジンを――真っ向から。

 宙を舞ったローズイマジンが頭から“車田落ち”して――







「……うし、命中」

「ちょっと待てぇぇぇぇぇっ!」







 グッ、と拳を握りしめるジュンイチさんに、ローズイマジンががばっ!と身を起こして抗議の声を上げた。







「『き逃げアタック』って、仮にも正義の仮面ライダーがき逃げとかしていいと思ってんのか!?」

「何言ってんだ!
 ライドロンは戦闘用車両だぞ! 攻撃手段として体当たりかまして何が悪いっ!」

「だとしてもその技名はいろいろとアウトだろうがぁぁぁぁぁっ!」







 なんか論点がズレてるような気がするけど――そこはいい。ちょうどいいので、僕としてもふと気になった、割とどーでもいいことを質問してみる。







「あのー……」

「ん、何?」

「別にそのネーミングにどうこう言うつもりはないですけど……その手の体当たり攻撃って、みんなバイク系マシンでも普通にやってますよね?」

「チッチッチッ、甘いなー、恭文きゅん」







 右の人差し指を左右に振りながら、ジュンイチさんが答える……『きゅん』とか言うな。







「バイクでやったって、ただひっかけてるだけじゃんか。
 き逃げってのはな……四輪で殺ってこそ意義があるっ!」

「いや、なくていいんだよ、そんな意義」







 拳を握りしめて力説するジュンイチさんに、となりのマスターコンボイが冷静にツッコんだ――まぁ、良い子のみんなが将来マネしても困るしね。







「ま、それはともかく……お次はコイツだ!」







《ATTACK-RIDE!》







 ともあれ、これ以上き逃げアタックの話題を引きずるつもりはないらしい。言って、ジュンイチさんがまたもやカードをセットして、











《“RIVOLKAIN”!》











 読み込ませる――と、腰のベルトのバックルに剣の柄が“生えた”。それを引き抜くと、RXの必殺武器、剣状のスティック、リボルケインになる。

 ブォンッ、と音を立て、リボルケインの打突部が光に包まれ、光の剣と化す――さらに、さっき銃に変形していたブック型ツールが今度は剣に変形。リボルケインとの二刀流でローズイマジンに突撃。僕らの知る“こっち”のジュンイチさんに優るとも劣らない剣さばきで圧倒する。

 二刀流で立て続けに攻められたらいくら反応速度が速かろうと関係ない。僕らの攻撃には余裕で対応していたローズイマジンも、さすがにこれには防戦一方……







「――ぐおっ!?」







 ……訂正。防ぎきれなかった。怒涛の連続攻撃でガードを破られて一撃を許して、そこから一気に斬撃の嵐を叩き込まれる。







「ローズイマジン!」

「ちぃっ!」







 もちろん、シャドームーンやジャーク将軍だって黙ってない。ローズイマジンを援護しようとジュンイチさんに向かっていくけど、いち早く気づいていたジュンイチさんはムリに相手することなく後退。カードの効果切れなのか、その姿がRXから元のディケイドに戻る。







「フンッ、RXの物まねはおしまいか?」

「んー、別に、もっかいやってあげてもいいんだけどね」







 ……って、あの、ジュンイチさん……?

 シャドームーンに答えながらこっち見て……僕らが、何か……?







「いや、何……
 せっかくだし、お前らの知らないライダー達のお披露目でもしてやろうかと思ってね♪」







 言って、ジュンイチさんが新たにカードを取り出して、腰のベルトに装填。







「いくぜ! スーパーライダータイムだ!
 変身!」











《KAMEN-RIDE!
 “DOUBLE”!》












《“CYCLONE”! “JOKER”!》







 その瞬間、ジュンイチさんの姿が変わる――僕らの、見たこともない仮面ライダーへと。

 その印象を一言で言うなら――“半分こ”。

 正中線をぶった斬るように走るラインを境目に、左半身が黒、右半身が緑一色に染め抜かれている。

 最低限の装飾部分を除く、左右の半身のほぼ全体が単一色。もうこれでもかってぐらいに左右それぞれの色を強調したデザイン。まさしく……“Double”。







「仮面ライダー……ダブル。
 さぁ、お前の罪を数えろ」

「あぁ、数えてやろうじゃないか。
 ただし……貴様を倒した後でな!」







 左手で相手を指さして、決めゼリフ……そんなジュンイチさんに答えて、シャドームーンがサタンサーベルをかまえて襲いかかる。

 素早い突撃からの怒涛の斬撃の嵐――だけど、ジュンイチさんには当たらない。自分に迫る斬撃、その内フェイントを正確に見切って無視。残る直撃コースだけを的確にさばいていく……この人、16歳時点でもすでにここまでできたんかい。







「せいっ!」







 あ、カウンター入った。身をひるがえして斬撃をかわしながら、そのままの流れで裏拳。シャドームーンのこめかみを痛打する。

 たたらを踏んでよろめくシャドームーンに対して、ジュンイチさんはさらにカードをセット。







《FORM-RIDE!
 “DOUBLE”――“HEAT”“METAL”!》

《“HEAT”! “METAL”!》








 ベルトからの発声と共に、ジュンイチさんの変身したライダー、ダブルの色が変わる――黒かった左半身が銀色に、緑色だった右半身が赤色に……フォームチェンジだ。

 変わったのは色だけじゃない。背中にバトンくらいの長さの金属棒が現れてる――それを手に取ると、両端が伸びて一振りのロッドになる。







「そらよっ! 劇場版第一弾の再現だっ!」







 そして、ロッドを思いっきり一閃。まともにくらったシャドームーンが吹っ飛ばされて、その先の廃ビルに豪快に叩き込まれる!







「シャドームーン!
 おのれぇっ!」







 今度はジャーク将軍だ。斬りかかってきたその攻撃を、ジュンイチさんはロッドを使った棒高跳びの要領でかわして、







「次々いくぜっ!」











《KAMEN-RIDE!
 “OOO”!》












《タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ! タトバ・タ・ト・バ!》







 再び、ジュンイチさんがカードの力で姿を変える――って、また容姿の説明しづらい姿になったね。

 真っ先に印象に残るのが配色――左右が両極端なくらい単一色に塗られていたダブルと違って、ベルトが“オーズ”とコールしたそれは上下三段にプロテクターの配色が分かれてる。

 腰から下は緑。胸と、それから両腕は黄色。そして頭部、鳥の翼を思わせる仮面の装飾は赤色。

 胸にはトラの顔がデカデカと描かれて……あ、上下にも別のがある。さっきのベルトのコール音声を信じるなら……たぶん、赤いきつね緑のはやてたぬき……もとい、赤いタカと緑のバッタ。







「てめぇの相手は、仮面ライダーオーズでしてやらぁっ!」







 そして――両足が変化した。ヒザから下がまるでバッタの後ろ足のように変化すると、軽快にジャンプ。まるでトランポリンの上で飛び跳ねているみたいな動きで斬りかかってくるジャーク将軍の周りを飛び回って、翻弄する。

 その流れで後ろに回り込むと、両足を元の人間仕様に戻して着地。気づいて、振り向こうとするジャーク将軍に向けて両手で一撃!

 火花を散らしてジャーク将軍が吹っ飛ばされて――あ、いつの間にかジュンイチさんの両腕に鉤爪が装備されてる。今の一撃の火花の原因はアレか。

 地面を転がるジャーク将軍に向けて、ジュンイチさんが追い討ち狙いで駆け出して――







「調子に乗るなっ!」







 ――っ! ローズイマジン!

 フェイトのソニックムーブで回り込んで、エネルギーの塊で再現されたザンバーで一閃――だけど、







「そりゃ、乗るに決まってるでしょ」







 残念。ジュンイチさんはすでにアイツの頭上――さっきも見せたバッタの足による大ジャンプで、ローズイマジンの攻撃をかわしていたんだ。







「こうも簡単に、お前らをコケにできちゃうとさっ!」







 そのまま、ローズイマジンから距離を取って着地……って、あれ、何か持ってる……?

 いつの間にか手に持っていたそれを、ジュンイチさんは軽く指で弾いて、跳ね上がったそれを改めてキャッチ……コイン……いや、メダル……?







「もののついでだ。
 調子に乗るついで、メダル使いのオーズに変身したついでに……てめぇにゃこいつをくれてやるっ!」

「ざけんなっ!」







 ジュンイチさんに言い返して、ローズイマジンが目の前に桃色の魔力スフィアを生み出す――ディバインバスター!

 けど、対するジュンイチさんも落ち着いた様子でカードをベルトに読み込ませて……







《ASSIST-RIDE!
 “RALEGUN ”!》








 ……あの、ちょっと待って。

 今、『レールガン』って言わなかった?

 そんでもって、なんかジュンイチさんの……ディケイドの身体がバリバリと電気を帯びてきてるような……

 レールガン。電気。そして……手にしたメダル。

 まさか……まさかっ!?







「くたばれぇっ!」







 そんなジュンイチさんに向けて、ローズイマジンがディバインバスターをブッ放す――対するジュンイチさんは、冷静に目の前にメダルをかざした。

 指で弾いたメダルが真上に跳ね上がり、落ちてきて――







「てめぇがな」







 撃ち出された。

 メダルが跳ね上がり、落ちてくるまでの間に、ジュンイチさんの身体に帯びた電気の規模が一気にふくれ上がった。それがメダルを弾いた右手の先端に集まって、落ちてきたメダルを一直線に、真っ正面に弾き飛ばしたんだ。

 というか……まんま『とある』の超電磁砲レールガンじゃんっ! ライダー以外の技もOKとか、どんだけデタラメなのさ、ディケイドってのは!

 強烈に磁化され、衝撃波を巻き起こすほどの速度で弾き飛ばされたメダルはまるで砲弾……いや、弾丸か。とにかく、圧倒的な魔力量に物を言わせて押し流す、単なる魔力の渦にすぎないディバインバスターでどうにかできるシロモノじゃない。真っ正面からぶつかり合うと、一瞬にして吹き飛ばして、ローズイマジンを直撃、ブッ飛ばす!

 まともにくらって吹っ飛んだローズイマジンが、放物線を描いて地面に突っ込む……さすがにアレは効いたかな?







「いや……ダメだな」







 けど、僕の予感は他ならぬジュンイチさんが否定した――そして、その言葉を裏づけるように、ローズイマジンはすぐにまた立ち上がってくる。

 つか、アレをくらって立つとか、どういう…………あ、なるほど。

 ディバインバスターを相殺した時に、威力の大半が削られたんだ。たかが魔力の渦。されど魔力の渦……ってところか。







「そうそう、そうこなくっちゃね。
 まだまだ手持ちが残ってんのに、こんなに早く脱落されたんじゃ、こっちも不完全燃焼だっつーの」







 とはいえ、ジュンイチさんだって負けてない。言いながら、またまた新しいカードを取り出した。親指と中指でつまんだそれの縁を、間の人さし指でトントンと叩いてみせる。











《KAMEN-RIDE!
 “FORZE”!》












 そしてまたまたジュンイチさんが、ディケイドが姿を変える――今度は全身真っ白で、少しブカブカ……いや、宇宙服っぽい感じのスーツの、正面から見ると三角形っぽい見た目のマスクの仮面ライダーになる。







「宇宙、キタ――――ッ!」







 力を貯めるように身を縮めて、そしてそれを解放するように全身で大きく伸び。なんかノリの軽い決めゼリフだなぁ……って!?

 白くて、三角形のマスク……まさか前に報告にあった、“おにぎり頭の仮面ライダー”!? あれもジュンイチさんだったワケ!?







「そういうこと!
 仮面ライダーフォーゼ! タイマン張らせてもらうぜ!」

《ATTACK-RIDE!
 “ROCKET”!》

《ロケット・ON!》








 驚く僕らは完全に置いてきぼりで、またまたカードを――これだけコールを聞いていれば種類はわかる。アタックライド……攻撃用のカードだ。

 そのコールを受けて、真っ白なライダー、フォーゼ……でいいのかな? それに変身したジュンイチさんの腕になんかミサイルっぽいものが……いや、コールの通りならロケットか。オレンジ色のそれが装着される。







「ライダーロケットパァーンチっ!」







 ロケットの噴射、そして背中のバックパックっぽいものからの噴射でフォーゼが飛ぶ。ロケットの推進をそのままパンチの勢いに転化して、ローズイマジンに思い切り一撃を叩き込む!







《ATTACK-RIDE!
 “MAGIC HAND”!》

《マジックハンド・ON!》








 そしてまた別のアタックライド――今度は右腕に工場で見かけるロボットアームのようなものが装着された。それでローズイマジンをつかまえて、持ち上げて――







「ライダースイングバァーイ(攻撃)っ!」







 投げ飛ばした。

 ジャイアントスイングのようにグルグル大回転した上での投げ飛ばしでローズイマジンが吹っ飛ぶ様はまさにスイングバイ……『(攻撃)』って何だ。

 ぼてっ、と投げ飛ばされたローズイマジンがシャドームーンやジャーク将軍の目の前に落下。対するジュンイチさんはフォーゼへの変身が解けて、元のディケイドの姿に戻る。







「んじゃ、そろそろライダーオンパレードも締めといこうか!
 トリは魔法の世界に相応しく、こいつだっ!」











《KAMEN-RIDE!
 “WIZARD”!》












 そして、カードを使って、宣言通りならひとまず締めの変身。コートを着込んだようなスーツの、まるで宝石のようなデザインのマスクの仮面ライダーへと変身する。

 ウィザード……直訳すると「魔法使い(男性)」か。なるほど、魔法の世界ミッドチルダにはお似合いのライダーだわ。







《ATTACK-RIDE!
 “COPY”!》

《“コピー”、プリーズ!》








 そして、今までの流れと同じようにアタックライドを使って……ウソ、増えた!?

 まるでその姿が写し取られたみたいに、もうひとりジュンイチさんが出現。しかも――







《《ATTACK-RIDE!
 “COPY”!》》

《《“コピー”、プリーズ!》》








 その二人のジュンイチさんが、まったく同じ動作で同じカードを使用。それぞれがまた同じように分身する。

 まさか、アレ……まったく同じ動きをする分身を、倍々ゲームで増やしていけるの!?







「そしてフィニッシュは出欠……じゃない、出血特別大サービスだ!」

《FINAL-ATTACK-RIDE!》











《“SO《“SO《“SO《“SON-GOKU”!》











 ………………ちょっと待て。

 今、ものすごいコールを聞いた気がする……うん。さっきのレールガンのインパクトが吹っ飛ぶくらいの。

 『SON-GOKU』? それって……つか、それで“ファイナル”アタックライドって……まさかっ!?







「いくぜ。
 世の男の子達が憧れてやまない、夢の必殺技っ!」







 言って、四人のジュンイチさんがシャドームーン達に向けてかまえた。目の前で両手を、てのひらを連中の方に見せるようにして、手首の内側をぶつけ合わせるように、力強く……やっぱり“アレ”ですかいっ!







「か……」







 ジュンイチさんの声が、なんかエコーがかかって聞こえる――四人のジュンイチさんが同時にしゃべってるから、じゃない。声そのものにエコーがかかってる感じだ。







「め……」







 かまえた両手を腰だめに引く。両足を前後に大きく開いていることもあって、右半身を完全に後ろに引いた形だ。







「は……」







 両手の、てのひらの間に光が生まれる……魔力じゃない。ジュンイチさんの精霊力でもない。







「め……」







 前に修行で発現させたことがあるからわかる。あれは100%“気”オンリーのエネルギーだ。四人のジュンイチさん、それぞれの手の中で増幅されて、強い輝きを放って――











「波ァ――――――ッ!」











 解き放たれた。四つの青白い閃光がひとつにまとまって、シャドームーン達を直撃、押し流す!

 強烈な破壊の渦が廃棄都市を駆け抜け、そして……







「…………ま、オレの“気”のキャパシティじゃ、この程度の威力が限界なんだけどね」







 分身を解除、元のひとりに戻って……ついでにウィザードからディケイドにも戻ったジュンイチさんが言う……んだけど。

 あの、ジュンイチさん。それ……











 ×4とはいえ、ビル街薙ぎ倒して言うセリフじゃないと思います。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「…………っ、く……っ!」



 立ち上がろうと、両手に力を込める……けど、ダメだ。

 今のあたしには、ほとんど力が入らない……徹底的にブッ飛ばされて、地面に転がされて……ちょっと身じろぎするだけでも全身に激痛が走る。



「チッ、しぶといヤツだぜ……」

「そう言うな。
 これだけの戦力差……むしろここまでもちこたえたことは賞賛に値する」



 向こうじゃ、舌打ちするファングをガミオが注意してるのが聞こえる……敵にほめられても正直うれしくないし、何より今のあたしはそれどころじゃない。

 身動きすらままならないくらいのダメージに加えて、周りは狼系怪人のオンパレード……結局、あれから反撃どころじゃなく徹底的に袋叩きにされた。もう、殺されないように耐えるので精一杯、ってくらいに。



「まぁ、いいや。
 ここまで痛めつけてやったんだ。もう防ぐことなんてできねぇだろ……さっさと首を落として、終わりにしてやろうか」



 けど、耐えるのももう限界っぽい。動けないあたしに向けて、ファングがゆっくりと歩いてくる……あたしの命に、ピリオドを叩きつけるために。



「く…………っ!」



 なんとかしなきゃ……けど、ダメだ。いくら力を込めても、まともに動けない。ダメージがひどすぎて、物理的な意味で動けなくなってる。



 まだ、終われないのに……あきらめたくない、戦いたい……なのに、身体が動いてくれない……っ! こんな終わり方なんて……っ!



「残念だな……終わりだよ」



 とうとう、ファングがあたしの目の前までやってきた。右手を、手刀の形でゆっくりと振り上げて――





















「待ちなさぁいっ!」



「ぶげっ!?」





















 突然の悲鳴と同時、ファングがこっちに向けてよろめいて――あたしの身体に蹴つまずいて向こう側にすっ転んだ。

 ファングがどうなったのか、身動きできない――それこそ寝返りすらキツイあたしに確かめることはできない。けど……何が起きたかはわかった。

 ファングの後頭部に当たったらしい、少し縁が凹んだそれが目の前に落ちてきたからだ。

 未開封、中身満タンの缶コーヒー(350ml、スチール缶)……あぁ、確かにこれを、しかも缶の方も凹むくらいの勢いで投げつけられれば、そりゃいくら瘴魔獣将でも痛いよね。しかも縁の一番硬いところだし。

 そして、これがファングの後頭部に直撃したってことは、投げつけられたのはその背後、つまり今のあたしの視線の先から――と、いうワケで、投げつけてきたらしい人の姿も見える。

 長い金髪をポニーテールにまとめた、美人のお姉さん……服装は、空色のミニスカートに真っ白なシャツ、その上に春物の若草色のジャケットを羽織ってる。



 あと……うん。胸おっきい。八神部隊長とか絶対もみそう。あと、あたしもちょっともんでみたい。



 そんな美人の女の人が、こっちを……あたしの周りの怪人達をにらみつけてる。

 ただし……







「放せーっ! オレまで巻き込むなーっ!」







 何やらじたばたもがいてる男の人を引きずってなきゃ、それなりにカッコもついたと思うんだけど。

 どう見ても『嫌がってるのをムリヤリ連れてこられました』っていう感じだ。男の人はえり首をつかまれて、お尻をズルズルと引きずられて…………って、あれ?

 男の人に、見覚えがある。どこだっけ……?

 そんなに前じゃない。つい最近、ここ数日の間……あぁっ!

 思い出した! あの人、ひったくりを捕まえるのに協力してくれた、あの人間嫌いのお兄さん!

 それが、どうしてここに現れるのか……というか、それよりもむしろ……







「はーなーせーっ!
 オレは帰る! 帰るったら帰る!」

「だーかーらーっ! そんなワガママ言わないでくださいよ!」

「だいたい、なんでオレが異世界くんだりまで来て戦わなきゃいけないんだよ!?
 オレには関係ない話だろ!? どうなろうが知ったことじゃねぇよ!」

「そんなこと言わないで、ほら、もう現場なんですからっ!」







 いやいや、ちょっと! そんなトコで何ケンカしてるの!?

 助けてもらっておいて何だけど、ここは危ないんだから、早く逃げてーっ!







「わかりました! わかりましたから!
 それじゃあ、ここの人達をやっつけたら帰ってもいいですから!」

「…………本当か?」

「本当です」

「この場のヤツらだけだな?
 終わってから『「ここ」っていうのは戦場全体のことですよ』とか言い出さない?」

「………………」

「黙るなぁぁぁぁぁっ!」







「……何だ? 貴様ら」







 完全にあたし達をそっちのけで言い争う二人に、ガミオも呆れ顔……なんだよね? 顔が顔だからよくわかんないけど。

 まぁ、あたしもその気持ちはわかるけど……いきなり乱入しておいて、かと思えば自分達だけで勝手にケンカ始めてるんだから。

 突然のことに、あたしの周りの怪人のみなさんもポカンとしてる……って、ダメだよっ! あたしまで呆けてちゃ!







「だ、ダメだよ! こんなところに来ちゃ!
 危ないんだから、早く逃げて!」

「うるせぇっ!」

「がっ!?」







 一瞬視界に星が散る――誰かに顔面を蹴られたんだ。







「てめぇは余計なこと言わなくていいんだよっ!」

「おとなしくしてろ、このバカ女がっ!」

「心配すんな! あの二人をぶち殺したら、次はてめぇだっ!」







 それを合図に、他の怪人達もあたしを踏みつけてくる――身体中を踏みつけるように蹴られて、全身を激痛が襲う。

 もう、誰のセリフかも、誰の蹴りかもわからない。そんな暴力の嵐の真っ只中に放り込まれて――





















「おい」





















 その声だけが、イヤにハッキリ聞こえた。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 目の前で、“こっちの時間”のスバルがボコボコにされてる。

 文字通りのリンチだ。元々ボロボロにやられてたみたいで、反撃どころか防御もまともにできてない。



 ――そう。何の抵抗もできないスバルを、連中は一方的にボコってる。

 一方的に……何もできないヤツを……っ!







 だから――











「おい」











 気づけば、オレは自分を引きずってきた手を払って立ち上がって……ヤツらに声をかけていた。







「……おい」







 だけど……反応なし。







「…………おい」







 …………やっぱり反応なし。



 全員が全員――実際ボコってるヤツらはもちろん、傍観してるガミオも含めて、ついさっきまでアホなやり取りをしていたオレ達のことなんかもう眼中にないらしい。

 ………………上等だ。











「………………そこの犬コロども」

『誰が犬だっ!?』











 呼ぶついでに悪口を混ぜてみたら、ようやく食いついてきた――ピタリとスバルをボコるのを止めて、全員がこっちをにらみつけてくる。

 けど……知らない。知ったことじゃない。オレはオレで、言いたいことを言わせてもらう。聞きたいことを聞かせてもらう。



「楽しいかよ?
 そんなよってたかって、女の子ひとりを袋叩きにしてさ」

「あん?
 そんなの、楽しいに決まってるだろ!」

「大した力もねぇのに、一丁前に立ち向かってきたりしやがってな。
 オレ達に勝てるとでも思ったのかよ、コイツ」



 何人かの答えに、怪人どもの間で笑い声が上がる……なるほど。コイツら全員、同じ意見か。



「…………そうか」



 あぁ……本当に上等だ。



「……イカス答えをありがとう」



 決まりだ。



「おかげでハッキリわかったよ。
 お前ら全員……」



 コイツら全員……











「オレの、一番嫌いな人種だわ」



 皆殺みなごろす。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 全身くまなく蹴られて、踏みつけられて……おかげで、何て言ったのかはわからなかった。

 けど、あの男の人の言葉で、怪人達の意識はあの人の方に向いた。あたしを蹴るのをやめて、みんなあの人に向けて殺気立ってる。

 だけど……ダメだ。

 あの人がどういうつもりかはわからないけど……これだけの怪人を相手に、普通の人が太刀打ちできるワケがない。



「ダメ……っ!
 危ないよ……早く、逃げて……っ!」

「うるせぇな……っ!
 てめぇは黙ってろ!」



 なんとか、あの人を逃がさないと……そんな願いを込めた呼びかけは、怪人達に阻まれた。誰かがあたしを思い切り蹴飛ばして、吹っ飛ばす!

 自分の身体が放物線を描いて飛ばされるのが、なぜか他人事みたいに理解できて――







「危ないっ!」







 地面にぶつかりそうになったところを、誰かが受け止めてくれた。

 それでも支えきれずに、受け止めてくれた人もあたしと一緒にひっくり返る……あ、あの人をここまで連れてきた女の人だ。



「大丈夫ですk……」

「だ、大丈夫です……っつ……っ!」

「……ぜんぜん、大丈夫じゃないみたいですね。
 待ってください。今治療しますから」



 あたしだって局員なんだ。一般の人を不安にさせちゃいけない。痛みをこらえて離れようとするけど……ダメだった。痛みで動けないあたしに、女の人が手をかざして……あれ?

 痛みが……引いてく?

 けど、これ、魔力によるものじゃない……魔法じゃ、ない……?

 かと言って、この力、精霊力でもないみたいだし……



「そこはどうでもいいじゃないですか。
 それよりも、今は……」



 顔に出てたみたいだ。不思議がっていたあたしに答えると、女の人が男の人の方を見る……って、そうだ!

 このままじゃあの人が危ない。早く助けに入らないと……っ!



「大丈夫ですよ。
 “あぁ”なった信長さんは、絶対に負けませんから」



 けど、そんなあたしを女の人が止める……って、『ノブナガさん』? あの人のこと?



「はい。
 家須いえす信長のぶなが……それが、あの人の名前です。
 ……あぁ、私はブレスっていいます。よろしく」



 あ、こちらこそよろしく……じゃなくてっ!

 あの男の人――信長さんへと視線を戻す。

 ネガショッカーの怪人のみんな、信長さんに何言われたのか知らないけどすごく殺気立ってる……けど、信長さんも負けてない。一歩も気圧されずににらみ返してる。

 というか……何、あれ……

 さっきまで、あんなに戦うのをイヤがってたのに……?



「あぁ、気にしなくてもいいですよ。いつものことですから」



 いつものことなんだ……



「それに、戦力的な意味でも……あ。
 もう本当に心配いらないみたいですね」



 ブレスさんがそうつぶやく中、信長さんが腰に何かを巻きつける……って、ちょっと待って。

 この展開って……今から戦おうって時に、腰に巻きつけるものって、まさか……







「ライダーベルト!?」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 とりあえず、コイツらの皆殺しは決定――と、いうワケで、さっそく戦闘準備に入る。

 腰に巻くのは、バックルが少々ゴツくて、中央に縦に谷間の刻まれた大仰なベルト……“ギルティドライバー”

 そして、次は左手に着けた腕時計型のツール、“ギルティコマンダー”をかまえる――細長い本体部分は上部全体がカバーになってて、開くようになっている。

 それを開き、口を開けた中身にセットするのは、結晶でできた、厚めのコインのような護符――“デモンズタリスマン”







《ルシフェル!》







 タリスマンの“中身”を読み込んで、ギルティコマンダーがコールする――その本体部分を台座から外して、右後方へ、大きく身をよじるようにかまえる。



 そして――











「変身!」











 手にしたギルティコマンダーを、ギルティドライバーの中央、縦方向にくぼんだターンテーブル状のプレート――“アルターテーブル”に、叩きつけるようにセットする!











《ルゥゥゥゥゥ、シッ! フェエェェェェェゥルッ!》











 “祭壇”の名を冠したアルターテーブルにコマンダーをセットしたことで、ギルティドライバーから叫び声かというくらいの勢いでコール――あー、うるせー。相変わらずテンションたけー。

 そんなやかましいコールが響く中、コマンダーをセットしたアルターテーブルが90度回転。縦にはめ込んだコマンダーが横向きになるまで回転して、コマンダーを完全に固定する。

 と、その瞬間――“力”が巻き起こった。

 ベルトから放たれた漆黒の光――否、“闇”が渦を巻き、オレの全身を包み込んでいく。

 十分な時間を経て、渦を内側から弾き飛ばす。一連の流れに巻き込まれ、舞い上がっていた土煙が少しずつ晴れていって――その中から、“オレ”はゆっくりと進み出る。

 漆黒のスキンスーツに、黒と赤を基本色に配色したプロテクター。

 プロテクターのデザインは禍々しい曲線系のデザインで、白銀の縁取りがスキンスーツの漆黒によく映えてる。

 頭をすっぽりと覆った仮面は口元に呼吸用のスリットがあって、ゴーグル部分は真ん中に仕切りが入って左右に分けられているけど、視野自体は仮面の左右、上方までかなり広めに確保されている。このゴーグルも、まるで翼を広げたコウモリのように鋭角と曲線の組み合わさったデザインで、全身のプロテクターと合わせてかなり禍々しい印象がある。



 そう。ドライバーやコマンダーが発した、『ルシフェル』というコールを象徴するように、その姿はまさしく“悪魔的”なそれ。

 最後に、背中の部分、肩甲骨周辺を守るように配されていたプロテクターから翼が“生えた”。コウモリのそれのような、骨組みと翼膜によって構成された翼が羽ばたき、周囲の土煙を吹き飛ばすと、すぐにその翼を元通り収納する。だって陸で戦う分にはぶっちゃけジャマだし。

 ともあれ、これにて変身完了。オレの変身に明らかに驚いている連中を右手で、指鉄砲の形で軽く指さして、



「覚悟を決めろ……」



 言いながら、指鉄砲をサムズアップサインに切り替えて――







「断罪の時間だ」







 手首を返して上下反転。真下に向けた親指でファ○クサインをぶちかました。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「仮面、ライダー……!?」



 そう。あの人が……信長さんが、仮面ライダーに変身した。

 少なくとも、あたしの見たことのない……まったく未知のライダーに。



「ら、ライダーだと!?」

「てめぇ……仮面ライダーだったのか!?」



 驚いているのはあたしだけじゃない。相手も同じ……信長さんの変身に、ネガショッカーの怪人達の間からも驚きの声が上がる。



「仮面ライダー、ねぇ……
 なんか、どいつもこいつも同じようなことばっかり言いやがる。コイツにゃ、“ギルティ”っていうれっきとした名前があるのによ」



 そんなあたし達の反応に対して、信長さんはマスクの裏側で明らかにため息をつきながらつぶやいてる。

 なんだか、『仮面ライダー』って呼ばれてることに納得がいってないみたいだ。本来の名前にこだわりでもあるのかな?



 で、その本来の名前はギルティ……意味は確か、“断罪”……?



「あぁ。
 こいつぁギルティ……“断罪者”、ギルティだ」



 断罪者、ギルティ……仮面ライダー、ギルティ……



「はっ、何がギルティだ。こけおどしが」



 けど、そんな信長さんの変身も、アイツらにとっては一時的なサプライズでしかなかったみたいだ。落ち着きを取り戻したガミオの言葉に、他の怪人達も動揺が収まったらしい。ついさっきまであたしに向けられていた、獣特有の獰猛な殺気が今度は信長さんに向けられてるのがわかる。

 それに対して、信長さんは――



「……一度だけ、忠告してやる」



 特に動揺する様子もなく、そう言い出した。



「死にたくないヤツは今すぐ消えろ。
 逃げるヤツをわざわざ追いかけてぶち殺すようなくだらねぇマネはしねぇからさ」

「何だと、こいつ!?」

「ずいぶんとなめた口叩くじゃねぇか!」



 …………まぁ、当然そうなるよねー。

 と、いうワケで、完全に相手を下に見た信長さんの“忠告”に、怪人のみなさんは非常にエキサイトしてる。ほんのわずかでも何かしらのきっかけがあれば、その瞬間に信長さんを細切れにするために襲いかかることだろう。



「……やっぱ帰らねぇか」



 そんな怪人達を前に、信長さんは本当にめんどうくさそうにため息……そんな信長さんの態度に、怪人達の間から「なめるな」的な苦情の嵐が巻き起こってる。







「ぶち殺せぇぇぇぇぇっ!」







 そして、誰かの声が口火を切った。それを合図に、怪人達が一斉に信長さんに襲いかかる!







「ったく……手間取らせるなよな」







 対して、信長さんも動く――自分から前に出て迎え撃つ。先頭のウルフイマジンを、向こうが一撃を放つ前に殴り倒して、そのあまりにもあっけないカウンターに動揺した後続のウルフオルフェノクの顔面にブーツの靴底を叩きつける。

 さらに、つかみかかってきたウルフアンデッドの腕をかわすと逆につかみ返して――







 べぎっ。







 イヤな音がして――悲鳴。右腕を抱えるようにして、苦痛にもがくウルフアンデッドがその場に崩れ落ちて、







「寝てろ」







 その後頭部を、信長さんが思い切り踏みつけた。

 しかも、それで終わりじゃない。何度も何度も、執拗に後頭部を踏みつける。

 というか――音がおかしい。普通こういうシーンって『ガスガス』とか普通の打撃音だよね? なんで『バキバキ』とか割れる音がするの? 頭蓋骨が踏み割られてるとしか思えないんだけど。

 最後に、一際思い切り力を込めて踏みつけて、その衝撃でウルフアンデッドの頭の下のアスファルトが砕け散る――顔面を、というか、頭の前半分を地面にうずめて、ウルフアンデッドの全身がピクピクと痙攣けいれんした後、ぐったりと脱力する。



「……どーせ、また復活してくるんだろうなー。コイツら不死身アンデッドだし」



 言って、マスクごしに前髪をかき上げるような仕草を見せる信長さんを前に、怪人のみなさんはそろってドン引き――まぁ、ムリないよね。前二人はともかく、ウルフアンデッドのやられっぷりはあたしから見てもむごかったもの。







「な、何やってんだ!
 相手はひとりだけだぞ! さっさと囲んでフクロにしてしまえ!」







 けど、そんなひるんだ怪人達にはファングからの檄が飛ぶ――その声に我に返ったのか、怪人達は散開。信長さんを取り囲みにかかる。



「ふぅん……数に任せて押しつぶしに来る気か……
 なら」



 けど……信長さんは落ち着いていた。腰のベルトに手をかけて、変身する時にベルトにはめ込んだ、あのブレスレット(本体)のカバーを開いた。

 変身の時にはめ込んでいたコインっぽい何かを外すと、それと同じ、だけど別のヤツをセットする。具体的には、青色だった最初のヤツに対して、今度は赤色だ。







《アスモデウス!》







 コインのようなものの交換を済ませて、コール音が響く中カバーを閉じる。ブレスレットを狙ったのか、ベルトのバックル全体をパンと叩いて――











《ゥアァァァァァスモォッ! デェェェェェェェェェェゥウスッ!》











 ベルトから、さっきの変身の時と同じようにやたらとテンションの高いコール音声――それに伴って、信長さんの変身したギルティの姿が変わる。

 スーツの真っ黒だった部分が真っ赤に変化。プロテクターの縁取りも、まるで炎をイメージしたみたいな、渦巻き状の曲線中心のデザインに変わる。

 あれって、まさか、電王と同じ――



「フォーム、チェンジ……!?」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 数に任せて攻めてこられたら、あのままじゃちょっと不利だった――なので、こっちもそれに対応した姿へとモードチェンジ。

 バランス重視の全局面対応型であるさっきまでの姿、モード・ルシフェルから、この状況にあっていそうなモード、モード・アスモデウスへと変身する。

 そして、ベルトのバックル、その右側面に備わったスライド式のスイッチを下へと押し下げて――







《ゥアァァァァァスモォッ! スェエイヴァアァァァァァァァァァァッ!》







 ……つくづく思う。やかましいからこのやたらとテンションの高いコール音はなんとかしてほしい。音量調節とかマナーモードとかねぇのか、コイツ。

 ともかく、クソやかましいコール音と共にベルトのバックル――のすぐ前に生まれた拳大の空間の穴――から顔を出したグリップを握る。一気に引き抜いたのは、片刃の太刀。

 ギルティの使う専用武器デモンアームズのひとつ、アスモセイバー。ブンッ……と音を立てて、刃の部分が光に包まれたそれをかまえるオレの姿に、怪人達が何やら警戒してる。

 けど、もう“遅い”。お前らがビビってる間に地を蹴って――











 全員に一太刀ずつ浴びせた上で、包囲網の外に着地した後だから。











「ぐわぁっ!?」

「がはぁっ!?」







 次々に上がる悲鳴、さらに怪人達が受けた刀傷から発火して、何人かの怪人が倒れる――ま、致命傷にはまだ遠いみたいだけど。

 とはいえ――これでわかったはずだ。このモードの能力特性が。

 今見ての通り、モード・アスモデウスは“炎”属性のスピード特化型。パワーを犠牲にスピードに特化したこのモードなら、相手がどれだけ厚い包囲網を強いていようが関係ない。

 全部かわして、すり抜けて、ぶった斬るだけ――ちなみに威力の方は属性である炎と加速の勢いに全面依存だ。







「なんだ、コイツ!?」

「今何しやがった!?」







 未だに自分達が何をされたのかわかってないヤツらのことなんぞどうでもいい。かまわず地を蹴って、再び突撃。片っ端からぶった斬る。

 行って、そして戻って――結果、オレは連中の敷いた(あってないようなものな)包囲網の内側に戻ってきた。トッ、なんて軽快な足音を立てて足を止めて――







「がぁぁぁぁぁっ!」







 あ、ウルフアンデッド復活。

 腕はもちろん、オレにさんざん踏み砕かれた頭も治ってるっぽい。さすがは不死者アンデッド、ってところだけど――







「おせぇ」







 関係ない。改めて滅多斬りにしてやって、ウルフアンデッドが地面を転がる。

 とはいえ、死なないし復活されるしでちょっとウザイ。どうしたものか……



 ………………よし。



 “ちょうどいいモードでいることだし”、“これ”でいくか。

 ギルティドライバーの中央、アルターテーブルの向きを発動モードの横向きから奉納モードの縦向きに戻し、ギルティコマンダーを取り外す。アスモセイバーの柄尻に供えられたコネクタにコマンダーをセットして――







《アスモデウス!》

《ギィィィィィルティィッ! ブレェェェェェイクゥッ!》








 コマンダーから、そしてアスモセイバーからテンションの落差がやたらとでっかいコール音声。それに伴って、アスモセイバーの刀身に炎が宿り、燃え盛る。

 立ち上がるウルフアンデッドに向けて、その距離を一瞬で縮めて――











「アスモ――スラッシュ!」











 一閃――で済ませるつもりは一切ない。刃に込められた炎がヤツの身体にすべて燃え移るまで、ウルフアンデッドの身体を徹底的に滅多斬り。

 最後の一閃は真下からの斬り上げで、ウルフアンデッドの身体を思い切り弾き飛ばす。放物線を描いて、ヤツが地面に叩きつけられ、ゴロゴロと転がる。

 それでもしぶとく立ち上がるウルフアンデッドだけど――もう“終わり”だ。







「ぐっ!? がっ!? はぁっ!?」







 ヤツの身体に刻まれた無数の刀傷、そこに叩き込まれた炎が次々に爆発。ヤツの身体を内側から打ちのめして――











「ぐわぁぁぁぁぁっ!?」











 大爆発。ウルフアンデッドのヤツはその中に消えた。







「さて……次はどいつだ?」







 もうヤツは“終わった”。次の獲物に立候補してくるのはどいつか、適当に周りの怪人どもに問いかけて……







「……ま、待て……」







 爆煙の中からの声――ウルフアンデッドだ。







「まだ生きてる……!?」

「そりゃアンデッドだし、殺したって死なないだろ」







 呆然とつぶやくスバルの声が聞こえたので、適当にそう答えておく。

 けど……







「ま、だとしても……もう“終わり”だ」







 そうオレが付け加えた、その時――







「ぐっ!? がっ!? はぁっ!?」







 それはまるでさっきの再現――ウルフアンデッドの身体が内側から連続爆発、ヤツをまたもや打ちのめす。

 そう――アスモスラッシュで叩き込んだ炎が、まだヤツの中で燃え続けているんだ。







「ぐわぁぁぁぁぁっ!?」







 そして、再度の大爆発。崩れ落ちて――それでも生きてるウルフアンデッドの身体の中で、炎による爆発がまた始まる。内側からの衝撃で、その身体がビクンビクンと跳ね回る。







「オレがてめぇに叩き込んだ炎はただの炎じゃねぇ。
 かの大悪魔、“煉獄の剣王”アスモデウスの力によって冥界から召喚された地獄の炎――その炎は、燃やしているものが燃え尽きるまで、決して消えることはねぇ」







 つまり、その炎を全身に叩き込まれたウルフアンデッドは、その全身が燃え尽きるまであの炎に燃やされ続けることになる。

 けど、アイツはアンデッド。決して死ぬことのない存在――さて、その身体が燃え尽きる時なんて、果たして来るのかね?







「死なねぇてめぇにゃ似合いの末路だ。
 地獄の炎にその身を焼かれて……」











「死ぬまで死んでろ」











 オレがウルフアンデッドに言い放って――再びの爆発が、ヤツの身体を飲み込んだ。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ぐぁあぁぁぁぁぁっ!」



 三度目の爆発と共に、ウルフアンデッドが吹っ飛ぶ。あたし達の前で、地面に崩れ落ちて――また、爆発の嵐がその体内で巻き起こるのがわかる。

 とはいえ……正直、ちょっとやりすぎかな、と思わなくもない。死なない相手に向けて、死ぬまで苦しめ続ける攻撃を撃つなんて……何そのエンドレス地獄。

 というか、“地獄の炎”がどうとか言ってたし……それ以前に最初の方の、ウルフアンデッドの頭を割れるまで踏んづけていたのもそうだけど、あれじゃ仮面ライダーじゃなくて、まるで悪魔か何かだよ……



「……スバルちゃん、今『悪魔みたい』って思いました?」

「え?」



 ブレスさんからツッコまれた……え、ひょっとして声に出してた?



「声じゃなくて、顔に」

「あ、いや、その……ごめんなさい。
 助けに来てくれたのに、『悪魔みたい』とか思っちゃって……」



 失礼なことを思っちゃったことを、素直に謝る……んだけど、あの、ブレスさん?

 なんか苦笑しちゃって、どうかしたんですか?



「ううん、何でもないですから、気にしないで。
 うん、本当に気にしなくてもいいんですよ――だって、スバルちゃんはギルティの本質を“正しく見極めた”んですから」



 ………………え?

 あたしの見極めが正しい? 『悪魔みたい』なんて思ったのに?



「はい。
 だって、ギルティの力は……」











「“本当に悪魔の力なんですから”」











 ………………

 …………

 ……



 ………………え?



「このミッドチルダで生まれ育ったスバルちゃんには馴染みのない名前でしょうけど……アスモデウスも、ルシフェルも、地球ではその手の書物に名前が挙がらないなんてあり得ないほど有名な大悪魔なんです。
 そして……ギルティの力の源でもある」



 それって、つまり……



「はい。
 スバルちゃんの考えた通りです」



 つまり、ギルティは……










 悪魔の力で戦う、仮面ライダー……?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「もう一度聞く。
 次はどいつだ?」



 改めて怪人どもに尋ねるけど、返事はない……オレの後ろで現在進行形で“死に続けてる”ウルフアンデッドの姿に全員ドン引きでソレどころじゃないらしい。



 …………うん。めんどくせぇ。



「……全員殺るか」



 ポツリ、ともらしたオレの言葉はしっかり聞こえてたらしい。怪人どもがビクリと肩をすくませて、こっちに視線を向ける――まぁ、こっちはかまうことなくモードチェンジさせてもらうけど。







《ベルゼバブ!》







 アスモセイバーを地面に突き立てて、腰のドライバー、アルターテーブルに戻していたコマンダーにセットしてあるデモンズタリスマンを緑色のそれに交換して――











《ヴェエェェェェェルゼッ! ヴァアァァァァァァァァァァゥブッ!》











 またもや、ギルティドライバーがやかましくコール――ルシフェル、アスモデウスに続く三番目のモードのお披露目だ。

 緑色のスーツ、風をイメージした、後ろに流れていく感じの流線型のプロテクター。

 “疾風の蠅の王”ベルゼバブの力を宿したモード、モード・ベルゼバブ。そして――







《ヴェエェェェェェルゼッ! ヴァアァストァアァァァァァァァァァァッ!》







 ギルティドライバーのアームズスイッチを押し下げて、拳銃型デモンアームズ“ベルゼバスター”を二丁召喚、両手に握る。







「さぁ……狩りを始めようか」







 怪人どもがオレのモードチェンジに動揺してる……けど、相手するつもりはない。言い放って、かまえたベルゼバスターの引き金を引く。

 とたん、まき散らされる銃弾の雨アラレ――けど、それは決して適当にばらまかれたものじゃない。

 感覚を鋭敏に研ぎ澄ませたモード・ベルゼバブの能力特性によって、このモードでオレの時間感覚は、集中の度合いによって1秒が一分にも、10分にも感じられる――その“延長された時間”の中でじっくり狙いをつけた、正確極まる精密射撃だ。

 結果――顔面を、腹を、弁慶の泣き所を、銃弾で正確に叩かれた怪人どもの悲鳴が上がる。中にはたまらず逃げ出そうとするヤツもいるけど……あめぇよ。モード・ベルゼバブの目から逃れられるワケがねぇだろうが。

 そういうヤツには後頭部に五、六発くらいワンホールショット――倒せねぇまでも脳ミソはまともに揺さぶられたはず。逃げ出そうとした怪人どもはその場に倒れて動かなくなる。







「馬鹿が……このオレから逃げられると思ったのかよ?
 ひとり残らずぶち殺してやるから、おとなしく殺されてろ、てめぇら」

「ち、ちょっと待て!
 それは正義のヒーロー、仮面ライダーとしていろいろ間違った発言じゃないか!?」







 オレの言葉に、怪人どもの中からなんか“的外れな”ツッコミの声が上がる――あぁ、本当に何言ってんだ、アイツら。







「『正義のヒーロー』だぁ?
 てめぇら……いつ、誰がオレのことを『“正義”だ』っつったよ?」

『………………え?』







 あぁ……こいつら、本当にわかってねぇよ。







「正義なんて、クソくらえだ……っ!」







 逃げられないとわかって腹が据わったのか、ウルフオルフェノクが襲いかかってくる――その顔面に右のベルゼバスターの銃口を押しつけて、零距離射撃でヤツの右目を撃ちつぶす。







「正義は……人を救わねぇ……っ!」







 逆にそれでも見苦しく逃げ出そうとしてるウルフイマジンの右足に左のベルゼバスターで射撃。ヒザを後ろから撃ち抜かれて、右足をつぶされたウルフイマジンがもんどりうってその場に倒れ込む。







「『正しい』ってことに縛られて、動けなくなって……結局、弱者は救われねぇ……っ!」







 逃げても地獄、かかってきても地獄……怪人どもはまさに阿鼻叫喚って感じにパニクってやがる。知ったこっちゃねぇけど。







「くっそぉぉぉぉぉぉっ!」







 そんなオレの耳に聞こえる、一際大きな咆哮――あ、大将自らお出ましか。

 ファングとか名乗ってた連中の親玉の片割れが、オレに向かって突っ込んできて――







「覚えとけ。
 悪を殺すのは正義じゃねぇ」







 ヤツの繰り出した拳を、右手のベルゼバスターを放り出し、残る一丁を両手でかまえて受け止める。

 両手撃ちの体勢でかまえたベルゼバスターで、真正面から――ちょうど、突きつけた銃口でヤツの拳を受け止めた形だ。







「悪を殺すのは……」







 アスモスラッシュの時と同じだ。右手でギルティドライバーからギルティコマンダーを外して、ベルゼバスターのグリップ、その先端に備えられたコネクタに接続。







《ベルゼバブ!》

《ギィィィィィルティィッ! ブレェェェェェイクゥッ!》








「……それ以上の、悪だ」







 そう告げて、引き金を引く――ベルゼバスターの必殺技ギルティブレイクであるフルパワー発射“ベルゼバニッシュ”を零距離からくらって、ファングの右拳、どころじゃない。右腕全体から右肩、胸の右半分に至るまでがきれいサッパリ吹き飛んだ。







「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?
 ば、バカな……!? オレ様の腕を、まるごと……!?
 オレ様の骨格は、シザーの甲羅と並ぶ瘴魔獣将の中でも最高硬度……それが、こうもたやすく……っ!?」







 悲鳴を上げて、激痛にのた打ち回るファングがうめいてる。なんか、頑丈さが取り柄だったみたいだけど……悪いな。ベルゼバニッシュに限らず、ギルティブレイクには物理防御効かねぇんだわ。

 ギルティの力が悪魔の力ってところを忘れちゃいけない。物理法則なんか関係なく、そのエネルギーに触れた物質は問答無用で“殺され”ちまうんだよ。

 しかもその後それぞれの属性の追い討ち付き。燃やされ、吹き飛ばされ、つぶされ、凍りつかされる……どれをかまされるにせよ、待っているのは確実な“死”だ。







「喰われるだけの正義に“堕ちる”くらいなら……オレは、悪を喰らう、悪になる」







 聞いているかどうか……つか、聞く余裕があるかどうかの段階からはなはだ疑問だけど、一応ファングに対し、さっきの話をしめくくる。中途半端は気持ち悪いからな。







「く…………っ! そがぁぁぁぁぁっ!」







 どうやら聞こえていたらしい。痛みに対する苦悶から一転、オレでもわかるくらいにハッキリした怒りと共に、ファングが残る左手で殴りかかってくる……お約束のリアクションどーも。

 その強力ごうりきがふんだんに乗っているだろう拳が次々に振るわれる。その勢いはまるで台風――だけど、モード・ベルゼバブの超感覚の前じゃそよ風とさして変わらない。ちょっと集中しただけでスローモーション同然の鈍さ“に見えてくる”、振り下ろされた拳を半歩も動かずかわしていく。

 その内、一際大きく振りかぶった一撃が来た――ので、軽く足を払ってバランスを崩して転ばせる。

 もちろん、仰向けに倒れたヤツの腹にはベルゼバスターの射撃を雨アラレ――横隔膜の辺りに念入りに撃ち込ませてもらう。足元から上がる、(横隔膜をやられてるから)言葉どころか声にすらならない悲鳴はもちろん無視だ。







《ルシフェル!》

《ルゥゥゥゥゥ、シッ! フェエェェェェェゥルッ!》








 ファングがもがいてる間に、コマンダーの中のタリスマンを入れ替えて、モード・ルシフェルに戻る――そろそろ“終わらせる”ために。







「ま、待て……っ!」







 ……とか思ってたらファングから待ったがかかった。何だよ?







「お前……『正義より悪になる』と言ったよな?
 だったらお前は、ライダーよりもむしろこちら側だと思うんだが?」

「……つまり、『仲間になれ』って?」

「お前にとっても、悪い話じゃないと思うぜ。
 正義なんてくそくらえ、なんだろう?」







 あぁ……うん。よくわかった。

 やっぱりコイツら、わかってねぇ。

 オレが“どうしててめぇらとケンカしてるのか”、その一番の根本を、何ひとつわかってねぇ。

 だから――











《ギィィィィィルティィッ! ブレェェェェェイクゥッ!》











 態度をもって答える――コマンダーを外してドライバーの左側に備わっているコネクタに接続。ギルティブレイクを発動させるオレの行動に、ファングの顔から血の気が引いた。

 けど、そんなことは知ったことじゃない。強く地を蹴って、ファングに向けて大ジャンプ。両足に“力”を集中させて――











「コキュートス、ドロップ!」











 オレの渾身の両足蹴りが、ファングを直撃、ブッ飛ばす!

 吹っ飛んだファングが転がっていく先には、ディケイドのヤツが『壊してこい』って言ってた、連中の作ったエネルギーの塊――ファングがそこまで転がっていったところで、オレのコキュートスドロップのエネルギーが炸裂した。

 解放されたエネルギーが一瞬にして凍結して、出来上がるのはファングとエネルギーの塊を飲み込んだドデカイ氷柱。

 ここまでくれば仕上げは簡単。足元に転がってた石ころを適当に拾って、投げる――その小石がカツンと当たっただけで、氷柱は粉々に崩れ落ちた。

 もちろん――中身のファングとエネルギーの塊も一緒に、だ。

 絶対零度まで冷やされたんじゃ、ホントなら倒されたら爆発するはずの怪人の身体も凍りついて着火すらしない。そんなファング“だった”氷の粉末に対して、一言で締める。



「わかったかよ?――」











「踏みにじられる者の気持ちってヤツが」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ――――カラッ……



 小さな――本当に小さな、音がした。

 ディケイドに変身したジュンイチさんが放った、四人分身からのかめはめ波――その破壊の渦が過ぎ去って、沈黙が周囲を支配した、その中で。

 そして僕らは、その音の発生源にすぐに気づく――“やっぱり生きてたか”。

 そう確信すると同時、前方のガレキの山が轟音とともに“内側から”吹き飛んだ。

 その中から姿を現すのは――



「……やってくれたな、貴様……っ!」



 仮面のおかげで表情はわからないけど、明らかに声に怒りの感情が宿ったシャドームーン。

 見れば、ジャーク将軍やローズイマジンも無事らしい……チッ、ローズイマジンは僕らが直々にブッ飛ばしてやりたかったからいいとしても、せめてシャドームーンかジャーク将軍、どっちかくらいは倒れてくれればよかったのに。



「……あー、そこの二人」



 とか考えてたら、ディケイドなジュンイチさんに呼ばれた……あぁ、“そろそろ”?



「ん、“そろそろ”。
 厄介なクライシス組二人は、このまま引き受けてやる。
 代わりにあのバラ野郎はお前らで何とかしてくれ。つーかしろ」



 16歳バージョンってことは年下だろうに、なんか偉そうな物言い。いつもならカチンとくるところだけど、今回は素直にうなずいておく。つか――



「カードの大盤振る舞いでなんとかごまかしてきたけど……さすがに、ザコ付きであの二人の相手をするのはそろそろ厳しくなってきた。
 あの二人はきっちり何とかしてやっから……オマケの方は任せる」



 僕らの知ってるジュンイチさんより若くて、あっちのチートっぷりにはまだまだ及ばないと言っても、その実力が超一級品なのは今の戦いを見てよくわかった。

 そんなディケイドなジュンイチさんが、“肩で息を切らせるくらい”がんばって僕らを休ませてくれたワケだしね。そろそろ働かないとバチが当たるってもんでしょ。



「じゃあ、そっちは任せるよ。
 けど……『引き受ける』って宣言したんだからね、後で『やっぱムリでした』とかはなしだよ?」

「たりめーだ。
 こちとら“世界の破壊者”ディケイド様だぜ――“こっちのオレ”とは別ベクトルでチートだってところを見せてやらぁ。
 そっちこそ、二人がかりなんだから、『なのはさん達の時間を使ってるヤツに勝てるか!』とかぬかすなよ」

「フッ、ほざけ」



 返してくるジュンイチさんにはマスターコンボイが答える――なるほど、ディケイドなジュンイチさんは横馬のこと「さん」付けで呼ぶんだ。違いに気づいてちょっと楽しい。

 これが終わったら、根掘り葉掘りいろいろ聞き出してみよう。間違い探しみたいでなんかおもしろそうだ。



《確かにおもしろそうですね。いろいろいぢるネタが出てきそうです》

《だけどボス、そのためには……》

「うん」

「あぁ」



 それぞれの相方に答えて、僕らはかまえる。

 もちろん狙いは、フェイト達の時間を奪ってくれた、そしてそれを好きなように使ってくれているくそったれなバラのイマジン。

 ディケイドなジュンイチさんのおかげできっちり回復できたしね……ここからは僕らのターンだっ! さっきやられた分はきっちり返してやる!





















「ついでに、ディケイドなジュンイチさんが持ってったインパクト全部ひっくり返してやる!
 あの人達ばっかりに目立たせてたまるかっ! 主役は僕だぁ――っ!」

《結局そこですか》







(第30話に続く)


次回、とコ電っ!

 

「どうしたの?
 もっとボクを笑顔にしてよ」

 

「獲物の独り占めは感心しないな」

 

「とうとうなったか、本気に……」

 

「どうした?
 笑ってみろよ――“笑うことができるなら”」

 

第30話「贖罪の紅炎プロミネンス

 

「これがオレの……本当の“炎”だ」

あとがき

マスターコンボイ 「ディケイドとなった柾木ジュンイチが大暴れ、そしてついにモリビトオリジナルライダー、ギルティが登場の第29話だ」
オメガ 《派手に暴れてくれましたよね、ホント。
 ギルティの方は初登場補正ということでまだ納得できますけど、ディケイドはレールガンにかめはめ波ですよ》
マスターコンボイ 「ということは、ディケイドな方の柾木ジュンイチは、元ネタの世界に行ったことがあるということか……」
オメガ 《まぁ、レールガンの方はまだわかりますね。『W』とのクロス小説書いてる作者ですし。
 けど、そうなるとかめはめ波は……》
マスターコンボイ 「………………あの世界観と釣り合うライダー、いるか……?」
オメガ 《さぁ……
 それこそディケイドが“世界の破壊者”にならないと無理ゲーもいいところなんじゃ……》
マスターコンボイ 「……まぁ、そこはいいか。考えれば考えるほど恐ろしいことになりそうだし。
 ともあれ、ひとまず両ライダーの活躍は今回の話で一区切り……か?」
オメガ 《 まぁ、ギルティの彼は人間嫌いですからね。積極的に関わってくるタイプではありませんから、今回生き残ったガミオをさっさと倒してすぐ帰る……という展開もあり得ますね。
 一方のディケイドなミスタ・ジュンイチの方はまだまだ戦闘継続のようですが》
マスターコンボイ 「こちらはオレ達が復帰するし、メインの視点もそちらに移るんじゃないか?」
オメガ 《だといいですね。
 何しろ相手は別時間の存在とはいえミスタ・ジュンイチですからね。油断してたらあっという間にまた見せ場を持って行かれますよ》
マスターコンボイ 「敵よりも先に身内を警戒しなければならんとは……しかも戦いとは少しも関係してないところで」
オメガ 《彼に関してはいつものこととあきらめるしかないかと》
マスターコンボイ 「結局頼れるのは自分だけということか……
   ……と、そんなことを話しているうちに、今回もお開きの時間だ。
 では、次回も楽しみにしているがいい」
オメガ 《次回もよろしくお願いいたします》

(おわり)


 

(初版:2013/12/13)