時期は、僕が六課に来て一週間も経っていない時のこと。



 朝早くに隊舎に来て、なのはを軽くいぢめたりした後で仕事をこなしていると……それは、突然始まった。



『あー、蒼凪恭文に告ぐ。蒼凪恭文に告ぐ。
 大至急部隊長室まで来るように』




 ロングアーチのオフィスでぽちぽち書類など打っていると、いきなりこんな感じで呼び出しがかかった。



 声は……うん、タヌキだ。



『誰がタヌキやっ!』



 そういう風に思考を感じ取るのがタヌキって言ってるんだよ。



『自分ムカツクなっ!』

「あの、なんと言いますか、その……」

「こう、周りがついていけないから全体放送と言い争うのはやめない?」



 呆れ気味なグリフィスさんとシャーリーがツッコんできた。

 いや、それならあのタヌキに言ってほしいよ。



『まだ言うかっ!
 そっちがその気なら仕方ないなぁ。アンタが持っとたエロい物について語ろうやないか。
 まず……』






 その瞬間、僕は走り出した。当然全速力で。なぜかって? 答えは簡単だ。



 目に見えるスピードを超えていくから。



 天道さんは素晴らしい人だから。



 ヒマが出来たらクロックアップの魔法での再現に挑戦したいから。





 そんなワケで……





 おばあちゃんが言っていたっ! あのタヌキをとりあえずぶっ飛ばしてやれとっ! ……まってろよぉぉぉぉぉぉっ!

 

 


 

第6話

彼なりの、彼女なりの『これから』の理由

 


 

 

 ……さて、二人っきりやな……♪



「あぁ、そうだね。というワケでPSPでモンハンしてていいかな? ジンオウガが倒せないのよ」

「やる気ないな自分っ! つか、女の子と二人でいるのにそれは最低やでっ!」

《はやてさん、マスターのやる気のなさはいつものことですから》



 まぁ、そうやなぁ。若者のはずなのにエネルギッシュな感じがゼロやもん。正直それはどうなんや?



「失礼な。はやてをぶっ飛ばすことに関してはエネルギッシュだと思うけど?」

「……うん、そうやな。
 いきなり隊長室に駆け込んできてライダーキックかましてきたもんな。
 私の人中に危うく直撃するとこやったで?」

「何を言うか、全体放送でバカ発言してきた愚か者に神の鉄槌を下そうとしただけだよ」

「なぁ、自分優しさ持っていこうや。いや、ほんまに。その怖い瞳を収めてくれると助かるわ」

「十分に優しいじゃないの。
 僕が優しくないんだったら……」



「お待たせー」



「同じ手で呼び出されて、突入と同時にブレイジングスマッシュかましたこの人はどーなるのさ?」

「ん? 何の話?」



 あー、せやったね。

 ジュンイチさん、ちょぅど入り口前におったビッグコンボイを見事にK.O.しよったね。でもってそのまま放置やったね。



 まぁあれやで。ジンオウガは後で手伝ったるわ。これでも時空管理局モンハン会のメンバーやし。



「ところでジュンイチさん、どこ行ってたん?」

「あぁ、リンディさんトコ。
 恭文に出向の話をぶちかました件について、一度直接文句言っときたくてさ」



 まぁ、そうやろね。

 友達として恭文を大切に思っとるジュンイチさんは、元々今回の出向の件、よく思っとらんかったし、やっぱ文句のひとつも言いたかったんやろうね。



「それで、リンディさんは何て?」

「いや、いなかった。
 仕事関係で出てるらしい」

「あー、そうやったんだ」

「仕方がないから、あの人の部屋の砂糖類全部塩に“作り変えて”オシオキしといた」

「果てしなくリンディさん向けのオシオキっ!?」



「まぁ、それはそれとして……あとは、マリーに預けてたコイツの受け取りもね」



 リンディ提督の話から唐突に話題を切り替えて、ジュンイチさんが懐から取り出したのは、首から提げられた黒い宝石。



「デバイス……?
 ジュンイチさん、デバイス持ってたっけ?」

「あぁ。“JS事件”の対抗策のひとつとして作ったんだ。
 ほれ、自己紹介」

《初めまして。
 “蜃気楼”と申します》



 恭文に答えたジュンイチさんに促され、蜃気楼はていねいな口調で自己紹介する。



《マスターがいつもお世話になっております。
 本来ならば対面にあたり手土産などを持参すべきなのでしょうが、見ての通り自分では身動きもままならないデバイスの身。なにとぞご理解の程、お願いいたします》



 ……うん。

 いつも思うけど、ホンマに礼儀正しいデバイスや。ジュンイチさんの相棒とは思えんくらい。

 それとも、ジュンイチさんを反面教師として育ったんやろか? あのムチャクチャぶりを見て「こうはなるまい」と思ったんやったら可能性は……







「……はやて。
 帰ったら“ウィリアム・テルの刑”な」



 思考を読まれた!?







 さて、私とこの性悪ボーイと暴れん坊さんが3人一緒にどこにいるかというと……時空管理局の本局や。



 私は事件が片づいた後も色々忙しい。今日も会議のために来たんやけど……恭文とジュンイチさんにもそれについてきてもらった。理由は簡単や。



 ……みんなの努力で完成した詳細な報告書の量が半端じゃなく多くて、無茶苦茶重かったからや。

 くぅ、メールでいいやないかっ! なんでペーパーにこだわるんやっ!?

 まぁ、そんなワケで、厳密には分隊に編入されてへん、フリーの立ち位置にいる二人に協力を願った次第や。



 とにかく、私はこれから会議。書類の方も提出済み。つまり、ジュンイチさん達の出番はなくなった。
 というワケで、ジュンイチさん、恭文の面倒見ながら先帰っててもらえます?





「ライダァァァァァァァッ!」

「ブレイジングぅぅぅぅぅっ!」

「冗談っ! 冗談やからっ! ちゃんと手伝ってくれたお礼はするからっ! お願いやから二人そろってそんな戦闘態勢整えるやめてーなっ!
 まぁ、会議言うても報告会みたいな感じやし、2時間くらいで終わるから、それまでうろついて待っててくれへんでしょうか?」

「りょーかい。
 じゃあ、オレはお見舞いでも行ってくらぁ」



 お見舞い? ……あぁ、あの人か。確か、検査入院やっけ?



「そ。
 恭文、お前もこっち来い。PSPしまってさ」

「へ? 僕も?」

「あぁ。
 いつかは会わせたかった人だし、ちょうどいい機会だ」

「そっか。
 なら、会議終わったメールしますから、適当なところで落ち合うということで」

「おぅ、じゃあな」



 そして、私は恭文やジュンイチさんと別れて、つまんないのは間違いなしな会議スペースへと足を運んだ。



 まぁ……しゃあないやろ。これかて部隊長の立派な仕事や。うん。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「これに、これ。あと……これもか」



 本局の購買施設でお土産を買ってから、オレは恭文を連れてある人が入院している病室へと向かう。



 その人は、オレにとって大切な“家族”。8年前にあったある事件で殺された……と思っていた。

 けど、実際には生きていた。生きていて、最高評議会のジジイどもに捕まってて……先日無事に救出された。

 連中の処置によって身体は万全の状態を保たれてはいたけど、万一を考えて経過観察の検査入院を定期的に繰り返している。そして、今日がちょうどその日だったワケだ。



 ちなみに本人は不満タラタラ。同じく捕まっていた仲間のリハビリもあるのにー、ってダダをこねてたけど、命が助かっただけめっけもの。オレみたいにセルフチェックできないんだし、このくらいはしておかないとね。





 そうして、その人の病室の前につく。

 まぁ、これが男なら遠慮なくドアを蹴破るところなのだけど、女性なのでそうはいかない。

 なので、一応ノック。





「あ、はーい」

「通りすがりのブレイカーでーす。
 見舞いの品、持ってきました〜♪」

「……あぁ、ジュンイチくん?
 ゴメン。今着替え中だからちょっと待ってもらえる?」

「10秒だけね。
 10秒待って開けてくんなきゃゼロブラックね。じゅー、きゅー」

「ちょっとっ!?」



 冗談だよ。



「前にホントにやったことあるわよね!? 家でだけど!」

「気にしない気にしない♪
 で、ちゃんと待っててあげるから」

「うん。ごめんね」



 そして、見舞いの品を持って、恭文と二人でドアの前で待つ。そして数分後……



「お待たせ、もう大丈夫よ」

「なら、失礼しまーす♪」



 オレ達が中に入ると、ベッドの上に居たのはひとりの女性。

 青色のストレートロングヘアーを、明るい桃色のリボンでまとめて、髪の色にあわせた青色のパジャマに身を包んでいる。

 こんな格好でベッドに腰かけている今の姿からは想像もできないだろうけど、立って、走って、殴り合えば本当に強い。オレですら、勝とうと思ったらフルパワーでぶつからなきゃならないくらい。



 そんな彼女はクイント・ナカジマさん。スバルやギンガのお母さん。



 そして……家族ぐるみで付き合っていたオレにとっても、二人目のお母さんと言える人だ。



 10年前、あるきっかけでミッドチルダに流れ着いて、事情も知らないまま管理局とちょっとぶつかることになって……そんなオレを保護観察の名目で受け入れてくれたのが、ゲンヤさんとクイントさんだった。

 その後、“ギガトロン事件”やら“クラスカード事件”やらでいろいろ迷惑かけたけど……こうして生きて対面できているんだし、よしとしておこう。うん。

 だって、何かがほんの少しでも違ってたら、ケンカすらできなくなっていたかもしれないんだし。



「それで納得できるワケないでしょう?
 いつもいつも、犯罪スレスレで……今回だってテロリスト同然のところまでやってたそうだし……」

「それで悪党ぶちのめせるなら、オレの評判なんて安い対価だよ」



 先日恭文に「なのはやヴィヴィオのためにも自分を大切にする」と約束したけど、それでもここは譲るつもりはない。

 合法・非合法とか社会的な立場とか、そんなのを気にして守りたいものを取りこぼしたくはないし、ぶちのめさなきゃならないヤツらを取り逃がしたくもないのだ、こっちは。

 まぁ、これについては恭文も立派に同類なんだけど。



「けど、元気そうだね。
 まぁ、ただの検査入院じゃある意味当然なんだけど」

「まぁね。
 それで、今日はどうしたの?」

「はやての手伝いでこっちにね。
 で、クイントさんの検査入院のことを思い出して、ちょっとお見舞いに。
 それから……」



 答えて、オレが視線で示したのは恭文だ。PSPを取り出そうとしていたところに注目され、罰が悪そうにしているコイツを紹介したかった、というのもこの場に顔を出した理由のひとつだ。



「前に話したでしょ? オレの友達の蒼凪恭文。
 ちょうどいいから、紹介しに連れてきた」

「そう。
 初めまして。クイント・ナカジマです」

「あ、どうもご丁寧に。
 ご紹介に預かりました、蒼凪恭文です。それと……」

《初めまして。アルトアイゼンです》



 名乗り、頭を下げるクイントさんに対して、恭文達も頭を下げるけど――



「話は聞いてるわよ。
 ウチのジュンイチに負けず劣らず、大暴れしてるみたいね」



「………………ジュンイチさん?」



 うん。とりあえずこっちをにらみつけるのはやめようか。



 まぁ、安心しろ。暴れっぷりしか話してないから。お前がフェイトに対して8年間スルーされまくってることは話してないから……これから話す予定だけど。



「そんな予定は今すぐキャンセルしてっ!」

「何でだよ? とっておきのネタなのに」

「うるさいよっ!
 人の心の傷をとっておきにするんじゃないよっ!」

《そうですよ。
 マスターの恋の敗残兵っぷりは私の持ちネタなんですから、あなたが語らないでくださいよ》

「お前もお前でだまってろっ!」



 などと言い合っていると、脇から上がる笑い声……あの、クイントさん?



「あぁ、ごめんごめん。
 とっても仲がよさそうだから、つい」

「いや、今のやり取り聞いてました?
 このバカ、僕の恥部を思い切りぶちまけようとしやがりましたが? 未遂で防ぎましたけど」

「ちょっ、誰がバカだっ!?
 お前、相変わらず年上とか先輩に対する敬意ってモンがねぇなっ!?」

「ジュンイチさんに敬意払うくらいならあのタヌキに払った方がマシだよっ!」

「ぅわっ、オレへの敬意ってはやてへのそれ以下っ!?」

「はいはい。そこまで。
 そんなに楽しそうにしてて、仲がよくないなんて言わせないわよ?」



 オレ達を止め、なおも「仲がいい」とのたまうクイントさんに恭文が何か言いたげにしているけど……あー、やめとけ、恭文?

 相手はクイントさんだぞ。あのギンガとスバルの母親だぞ?



「あー、納得した。
 要するに、こっちの話をちっとも聞いてくれないんだね?」



 そういうこと。



「ちょっとちょっと。失礼しちゃうわねー」



 クイントさんがぷぅと頬をふくらませてるけど、そこは気にしない。



 だって、頬をふくらませているだけで、クイントさんの目はすごく優しいものだったから。



 オレ達とのやり取りを、楽しんでいる目だったから。





 だから――



「まぁまぁ。
 とりあえず、これでも食って機嫌を直さない?」



 クイントさんにそう言いながら、オレは買ってきた土産を入れた買い物袋からリンゴを取り出した。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 えー、いきなりですがすみません。



 私、八神はやて。現在ぶっちぎりで混乱してます。





 思ってたよりもずっと早く会議が終わって、ジュンイチさん達にメールで連絡しようとしていたところに、いきなりレティ提督から連絡が入った。

 用件は会ってから話すっちゅうことやったから、とりあえず提督のオフィスまで来てみたんやけど……



 …………うん。いつまでも混乱しとっても話進まへんし、ここは気を取り直して。



「あー、いろいろ言いたいことはあるんやけど……とりあえず、一番の疑問から片づけよか。
 なんでここにいるん?――」







「スカリエッティ」







「はっはっはっ、いきなり何を聞かれるかと思ったら。
 本局に用があったからに決まってるじゃないか」

「私はその『本局への用件』を聞いてるんですけど」



 そう。そこにいたのは“JS事件”の実行犯。狂気の天才科学者と言われた、あのジェイル・スカリエッティ。

 戦闘機人ナンバーズとガジェットドローンを生み出し、“聖王のゆりかご”を起動させて管理局に真っ向からケンカを吹っかけた稀代の次元犯罪者。







 そして――







 “娘であるナンバーズを管理局に利用させないため”という真の目的を隠し、ジュンイチさんと同じく、その目的を果たした後で“悪”として裁かれようとしていたひとりの“父親”。



 結局、その目的を暴かれた挙句、“悪”として討たれようとしていたジュンイチさんを助けるためにしかけた世論誘導に巻き込まれ、うやむやのうちに“管理局の暗部と戦った英雄”に祭り上げられてしまったワケやけど。





 いずれにせよ、管理局のド真ん中、本局のオフィスに当然のように居座っていていい人物ではない。なのでその理由を問いただしたワケやけど……ムダに偉そうでイマイチ要領を得ぇへん。



「まー、簡単に言えば事情聴取ね」



 と、そんな私に助け舟を出してくれたのはレティ提督やった。



「確かに、“ゆりかご”は墜ち、ユニクロンも倒れた。
 けど……後始末という意味では、“JS事件”はまだまだ終わってない。
 そのことは、あなた達が一番よくわかっているでしょう?」



 そうですね。

 実際、今日もそれについての書類を山ほど提出してきたところですから。



「私のガジェットプラントもまだまだ未摘発のものが多いし、今までの戦いの中で、様々な理由からコントロールから離れてしまった“はぐれガジェット”も皆無ではない。
 そして何より……“レリック”だ。当然のことだが、今回の事件で発見されたものがすべてというワケではない。
 そういったものに対処する意味でも、私の証言と情報は必要だろう?」

「そんなワケで、地上本部からの依頼で、私達本局の方でそういった物理的な意味での“後始末”を引き受けることになって、その情報を得るためにスカリエッティを……というワケ」

「はぁ………………って、地上本部の!?」



 スカリエッティに同意した形のレティ提督の話に思わずうなずきかけた私やったけど……地上本部の依頼、っちゅうのはちょっと、いや、すごく驚いた。

 だって、ミッド地上部隊の本局嫌いは相当なもんやから。機動六課の設立の際にも、それが元でそうとうゴタゴタしたくらいやし。

 その地上部隊のトップ、地上本部が本局に協力を依頼してきた。それがどれだけとんでもないことか、実際に六課の隊長として地上部隊の中で働いてきた身としてよくわかる。



「まぁ……さすがに今回の件で、レジアス中将も思うところはあったみたいよ。
 それに、今ミッド地上部隊は“JS事件”の余波をまともに受けている……と、これはあなたには説明するまでもないわね」

「はい」



 そう。レティ提督の言わんとしていることもわかる。

 今、ミッド地上部隊は相当にバタバタしとる。最高評議会のスキャンダルによる支持率や現場のモチベーションの低下……は、大丈夫か。ジュンイチさんやここにおるスカリエッティがいい感じの客寄せパンダになって、最悪の状況は免れた感じになっとる。



 せやけど、組織そのものはそうもいかへん。最高評議会が壊滅したこと、さらにその最高評議会が事件の黒幕であったことから組織の再編に迫られたワケやけど、そうとうに難儀しとる。

 ただ単純に部隊を再編成するだけじゃ足らん。事が事だけに、最高評議会の息のかかっとった者は使えへん。思い切り“毒抜き”せなあかんし、抜いた“毒”に代わる“薬”を用意せなあかん。

 おかげでレジアス中将もオーリス三佐もてんてこまいみたいや。こないだ報告のために地上本部に出向いたら延々とグチられた。



 つまり……今回の地上部隊からの依頼は、再編に追われて動けへん状況に、さすがに見栄も外聞もかなぐり捨てざるを得なくなった……っちゅうことですか?



「そういうことね」

「まぁ、私個人としても本局に用があったからね。
 渡りに船ということで、証言に応じたワケだ」



 は? スカリエッティが……依頼とは別に、本局に用事?



「あぁ。
 実はね……」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ホントのコトを言うとね、キミの事を聞いてたのは、ジュンイチからだけじゃないのよ」



 ジュンイチさんのむいてくれたリンゴをみんなでシャクシャクと食べていたところ、クイントさんがそう切り出してきた。



「ジュンイチさんからだけじゃない……って、ひょっとしてギンガさんとか?」

「あと、スバルからもね。メールでいろいろ」



 あー、なるほど。あの豆芝なら速攻でメールしてそうだ。



「聞いたわよ。初日からいきなり模擬戦したって」



 やっぱりそのことも話してたか。

 メールの話を聞いた時点で、スバルの性格上、まず話してるだろうとは思ったけどさ。

 ホント、ジュンイチさんの義妹で弟子だっていうのが信じられないくらい素直なんだよね、スバルって。



「やかましい」



 となりでジュンイチさんが口を尖らせているけど気にしない。



「いろいろ言ってたわよ。
 負けたのと、振り回されたのと、全力を出させられなかったのと……いろんな意味ですっごく悔しかったって。
 とは言え、スバルも、もっと強くなってこっちが何も言わなくても、全力全開を出させてみせるって書いてたけどね」



 あー、うん。それは僕も言われた。



「最終的にはキミと友達になれてうれしかったってことで。
 ウチの子達と仲良くやっててくれてるみたいで……ありがとうね」

「いえいえ。
 こちらこそスバル達と模擬戦するの楽しかったし」

《マスターとスバルさんとのフラグも立ちましたしね》



 うるさいよそこっ! フラグなんて立ててないしっ!



「そうなの?」

「みたいだよ。
 いやー、スバルも嫁のもらい手が見つかって、よかったよかった」



 そしてジュンイチさんもあおるなっ! っつーかアンタはむしろ自分の心配しなよっ!



「は? 何で?
 オレ、お前と違ってフラグなんてちっとも立ててねーし」



 その一言に、リンゴを口に運んでいたクイントさんの動きが止まる。

 そして、意味ありげな視線を僕に向けてくる――だいたい何を言いたいかわかったので、うなずくことでそれに答える。



 えぇ、そうですよ。

 この人、自分の周りに乱立してるフラグにまったく気づいてません。それこそ一本も。

 僕が六課で見ている限りでもけっこうなものなのに、当の本人がまったく気づいてないってどういうことさ!?



「……あー、そういえば」



 で……そんなだから、当然僕らの苦悩にも気づかないワケで。手の上でオレンジを切り分けながらあっさりと次の話題を振ってくる。



「クイントさん、現場復帰した後ってどうするの?
 元々の所属だったゼスト隊はもうないんだぜ――それともゼストのオッサン達が復帰するのを待ってもっかい再編成するの?」

「うーん……難しいわね。
 ゼスト隊長もメガーヌも、もちちろん私も、死亡扱いになってるだろうし……」



 あー、そうだよね。

 ジュンイチさんから聞いた話だけど、首都防衛隊・ゼスト隊は昔とある事件で壊滅。隊員は全員死亡として処理されていた。

 まぁ、実際はクイントさん達主力メンバーはその実力に利用価値を見出したスカリエッティやら最高評議会やらに捕まっていたワケだけど……生きていたからハイ、復帰、というワケにはいかないよね。



「だから……しばらくは、更正プログラムに、教える側として参加しようと思ってるの」

『更正プログラム?』



 クイントさんの言葉に、ジュンイチさんと僕は思わず顔を見合わせた。

 更正プログラムとは……簡単に言ってしまえば、犯罪者が局の一定のプログラムを受けて、社会復帰を目指すというものだ。

 と言っても、みんながみんな受けられるワケじゃない。その時の状況を鑑みて、まだ同情の余地がある人間を対象としていたりするんだけど。

 けど……なんでまたいきなり更生プログラムを?

 ひょっとして、プログラムを受ける側に何かある? 一体誰のプログラムを?



「うん。ナンバーズの子達が対象なの」

「……え?」

「はいぃっ!?」



 まてまて、今信じられないフレーズが飛び出したぞ?



 えっと、クイントさんが……ナンバーズの更正プログラムに参加っ!?





 ここで説明しておかなければならないと思う。



 ナンバーズとは、先の事件においてスカリエッティの尖兵となってアレコレと動いていた戦闘機人の集団を指した呼び名である。



 まぁ、これは彼女達の名前が数字を模していたのが原因だそうなのだけどね。



 とにかく、彼女達はJS事件において、スカリエッティの中心戦力として動いていた。

 ただ……その中の何人かは、事件が進展していく中でスカリエッティの元を離れてジュンイチさんの元に転がり込んだ。そして、そのままジュンイチさんに協力して、事件解決に尽力してくれた。

 そして、スカリエッティの元に残った子達も、ユニクロンとの最終決戦の時や、別の勢力の攻撃でミッド全域がヤバめになった時にはミッドを守るために力を貸してくれたりもした。



 その事実から見ても、ナンバーズが根っからの悪人ではないというのはわかってもらえると思う。彼女達が更生プログラムを受ける余地は十分にある。



 ただ……クイントさんにとって、実はナンバーズは因縁のある相手なんだそうだ。



 さっき話した、昔のゼスト隊壊滅事件……その時の相手というのが、他ならぬナンバーズの古参メンバーだったというのだ。

 つまり……あの戦いでジュンイチさんを一度は殺害し、クイントさん達を致傷・拉致したのも、またナンバーズだ。

 オマケに、クイントさんの娘であるギンガさんも一度は連中に敗れ、拉致されている。



 つまり、クイントさんとナンバーズというのは、被害者と加害者の関係にあたる。なのに……



「あー、クイントさん。いくつか聞きたいことができたんですけど」

「……やっぱり、ビックリする?」

「当たり前ですよ。
 こういう言い方したらアレですけど、クイントさん達とナンバーズって、被害者と加害者の関係なんですよね? それも、直接的な。
 そのおかげでクイントさんは今の状態。なのに、その加害者を更生させようなんて、驚かないはずがないでしょ」

「そう……だよね。
 けど……」



 驚く僕に対して、クイントさんがチラリと視線を向けたのはジュンイチさんだった。



「同じ加害者と被害者の関係で……その子達を信じて、救おうとした子だっているのよ?」



 そんなクイントさんの言葉に、ジュンイチさんは気まずそうに視線をそらす――まぁ、そうだよね。そのためにやらかした無茶で、先週僕に怒られたばっかりだしね。



「正直……キミの言うとおり、一歩間違えばあの子達に殺されていたかもしれないんだもの。複雑と言えば複雑よ。
 でも……ギンガと二人で、ジュンイチくんのところに転がり込んできた子達と、ちょっといろいろ話をしてみたの。その上で、最後までスカリエッティ側だった子達とも話してみた。
 それで……必要なんだって思った」

「更正プログラムが?」

「うん」



 聞き返す僕に、クイントさんはうなずいてみせた。とっても優しそうな笑顔と共に。



「確かに、あの子達は私達と戦った。管理局に戦いをしかけた。
 けどね……スカリエッティがそういう選択をしたのは、そうすることで、あの子達の居場所を勝ち取ろうとしたから……
 今の管理局は、違法技術で生み出される存在である戦闘機人や人造魔導師に対して、どこか冷たいところがあるから……だから、そんな管理局に娘達を利用させるワケにはいかなかった。だから、管理局を叩いて、自分の娘達が管理局に縛られず生きていけるような社会を作りたかった。
 けどね……きっと、そんなことをしなくても、あの子達があの子達でいられる場所っていうのはあると思うの。
 そのことを、あの子達に教えてあげたくて……」

「なるほどね……どっか重ねちゃったの? ギンガやスバルと」

「かもね」



 ジュンイチさんの言葉に、クイントさんがうなずく……そっか。そう考えると、ムリないと言えば、ムリないのかな。やっぱ。



「ねぇ、クイントさん。ひとつだけ質問」



 そんなことを考えていると、ジュンイチさんが再度口を開いた。



「なに?」

「もし、アイツらにその“居場所”を教えて……その上でまた“JS事件”みたいなこと起こしたら、そうなる道を選んだら、どうすr」

「すると思ってるの?
 ジュンイチくん……キミが命を賭けて救おうとした子達が」



 ……何のためらいもなく、一瞬の間も開けずに答えたよこのお母さんは。それこそ、ジュンイチさんの問いかけにおっかぶせるような勢いで。

 ジュンイチさんもこれには何も言えないでいる。ため息まじりに肩をすくめるだけだ。

 まぁ、こんな言い方されたら、ジュンイチさんは何も言えないよね。この上でクイントさんの選択を否定したら、自分がナンバーズを救おうとしたことまで否定するようなものだから。

 けど……これなら……



「僕らがどうこうは言えないよなぁ……」

《ですね》

「どうこう言うつもりだったの?」

「当然。
 友達と、そのお母さんな人の問題なんだから」



 両者の関係が関係だし、心配するなという方がムリだ。

 まぁ、実際には心配なさそうだからいいんだけど。



「でも、本当に心配はいらないわよ。
 私だって、二人の娘を育てた身だし……手のかかるやんちゃ坊主の面倒だって見てきたんだから」



 ……左様ですか。



「それに……私ひとりじゃないもの。
 ギンガやマグナさんも、この話には乗り気でね。手伝ってくれるって」



「ギンガやマグナも?」



 クイントさんの言葉にジュンイチさんが目を丸くしているけど……マグナさん?

 ギンガさんはわかるけど、その方はいったい何者さんですか?



「あぁ、オレ達の仲間だよ。
 クイントさんを手伝うんなら、その内紹介できる機会はあるかもな」

「ふーん……」



 まぁ、友達だからって一から十まで知ってなきゃいけない理由はないし、僕の知らないジュンイチさんの知り合いが十人や二十人いても問題ないよね。



「それにね、今回講師役に立候補してるの、私だけじゃないのよ」

「へ?」



 けど……クイントさんの話はそれで終わりではなかった。



「講師候補は、私の他にもうひとり……」



 その名前を聞いて、僕とジュンイチさんは今度こそ、正真正銘ぶったまげた。



 そして、ジュンイチさんとの協議アイコンタクトによって、即座に今後の方針が決定された。





 うん。近いうち、絶対顔を出しておこう。



 “事件”は起きなくても……“騒動”は間違いなく起きそうだから。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「アンタが……ナンバーズの更生プログラムに!?」

「あぁ」



 スカリエッティのその言葉は、私を驚かせるには十分すぎた。きっと今の私は、漫画ちっくに目を丸くしていると思う。

 で……そんな私に対し、スカリエッティは落ち着いたもの。私のリアクション、見透かされてるみたいでなんかムカつくけど、そこはいい。



「今話した通りだ。
 私も、彼女達の更生プログラムに講師側として参加したい」



「そ、それはえぇけど……なんでまた?
 ホントやったら、プログラム受ける必要ないんやろ? あの子達」



 そう。

 ナンバーズは現在、“一般常識を正しく教育されておらず、物事の善悪を判別できなかったためにスカリエッティに利用された”ということで更生プログラムを受けることになっている。

 せやけど、事の真相は違う――あの子達はスカリエッティによってちゃんと一般常識の教育を受けとる。

 ちゃんと物事の善悪を判別できる程度の知識を、あの子達はスカリエッティから与えられとる。ただ、スカリエッティがそれらを示すデータを消してしまったために、表向きそういう話になっただけのことや。



 つまり――建前上更生プログラムを受講させる必要はあるけど、実質的にはあの子達に教えられることはそう多くはない。

 そんな更生プログラムの講師に立候補して、スカリエッティは一体何をしたいんや?



「確かに、今からあの子達に教えられることはそう多くはない。
 しかし……それは裏を返せば、多くはなくても、教えることは確実にある、ということだ」



 そんな私の疑問に答え、スカリエッティは「それに」と付け加えると軽くため息。



「確かに私は彼女達に教育を施した。
 だが……そこには、“計画遂行のために必要な知識を得るため”という側面があった。あの子達のために進めた計画ではあったが……私が彼女達に施した教育は、純粋にあの子達のための教育というワケではなかった」

「つまり……その辺の埋め合わせがしたくて、更生プログラムの講師に?」



 私の問いに、スカリエッティがうなずく。事件前までの印象からは明らかにかけ離れた、マッド臭さの感じられない人間味あふれる笑顔で。



「私は、あの子達の“親”として、あの子達を管理局の道具にさせないために事件を起こした……しかし、あの子達の“親”を名乗りながら、私は本当の意味で“親”として振る舞えてはいなかった……
 だからこそ、私は今度こそあの子達の“親”として、あの子達を改めて導きたいんだ」

「そっか……」



 そのスカリエッティの言葉に、私は自分の胸の奥で引っかかっとったもんがストンと落ちていったのを感じていた。



 正直、スカリエッティが娘であるナンバーズを守るために今回の事件を起こしたと聞いた時は半信半疑やった。今でこそ受け入れてるけど、それでも、どこか疑いの気持ちが自分の中に残っとったんやと思う。



 せやけど……今のスカリエッティを見ていたら、その不安も杞憂にすぎなかったと感じた。だって……娘さん達を見ている時のクロノくんやヴィータと同じ目をしとるから。



「ちゃんと……“親”、しようとしとるんやね」

「あぁ。
 もっとも……今さら手遅れかもしれないがね」

「そんなことないわよ」



 苦笑するスカリエッティに答えたのはレティ提督。手元のお茶(もちろんかの有名な“リンディ茶”やなくて普通のお茶や)を飲み干し、



「親が子を導こうとするのに、早いも遅いもないわ。
 あの子達は、どれだけ成長してもあなたの“娘”なんだから……」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「そっか……スカリエッティがそんなことをね」

「えぇ。
 同じ親としては……なんとなくわかるわ。彼の気持ち。
 だから、彼がもう一度“親”になろうとしているのを、手伝ってあげたいと思ったの」



 お見舞いに持ってきたフルーツの詰め合わせももうほとんど片づいた状態だ。やっぱりジュンイチさんが切り分けてくれたメロンをかじりながら、僕とクイントさんが言葉を交わす。



「だったら、家でゴロゴロしてる4人も、やっぱり参加させた方がいいかな?」

「あぁ、そうね。
 帰ったら話しておくわ」

「よろしく」



 対して、僕の知らない情報を根拠にクイントさんと話すのはジュンイチさん。

 あの、その『4人』っていうのは……?



「あぁ、お前には話してなかったな。
 今話した通り、ナンバーズは保護されて、更生プログラムを受けることになった。
 けど……それは全員じゃない」

「キミも知ってるんだよね? ナンバーズの何人かがジュンイチくんのところに転がり込んで、事件解決の手助けをしてくれたこと。
 その時の活躍によって、その子達はすでにプログラム受講終了相当と判断されて、保護観察扱いでウチにいるの」

「さっき名前の出たマグナと一緒にな」



 あー、なるほど。

 そりゃその子達も参加させた方がいいでしょ。スカリエッティが“親”としてナンバーズを再び導こうとしてるのなら、“娘”であるその子達も一緒じゃなきゃね。



「そういうこと。
 ナンバーズだけじゃない。スカリエッティも、“親”としてもう一度歩き出そうとしている……“親”として私は先輩なワケだし、できる限りのことはしてあげたいのよね」

「まぁ……それは、オレも同意見だけどさ……」



 クイントさんの言葉に肩をすくめるジュンイチさんだけど、その表情はマジメなものだ。クイントさんに対し、改めて正対して告げる。



「けど……本当にムリしたらダメだからな。
 スバルやギンガを育てたクイントさんには釈迦に説法だろうけど……いくら“親”側の主役がスカリエッティで自分がその補佐だからって、12人も教えていこうってんだ。どれだけ大変か、わかったもんじゃねぇ。
 特にクイントさんは8年ぶりに目覚めたばっかりなんだから、身体的な負担だってバカにならないんだし」

「あら、言うじゃないの」

「曲がりなりにも“パパ”になった身ですから」



 言って、クイントさんとジュンイチさんはクスリと笑みを交わす。



「心配はいらないわよ。
 知り合ってしまったんだもの、最後まで関わるわよ。
 ジュンイチくんが、いつもそうしているみたいにね」



 …………そっか。



「なら、僕らも手伝わないワケにはいかないよね」

「恭文くんも?」

「知り合ったからには最後まで、なんでしょ?」

《まぁ、私達も戦闘機人には思うところもあります。
 あのマッドサイエンティストに義理立てする理由などありませんが、彼女達のためとなれば話は別です》

「そう。
 ありがとう、二人とも」



 そう言って、微笑んでくれるクイントさんだけど……あの、ちょっと。



「えー、頭をなでるの、できればやめてくれるとうれしいんですけど」

「あら、そうなの?」

「子ども扱いされてるようでヤなんだろ。
 コイツ、自分の背の低さにコンプレックスがあるから」

「ジュンイチさんも具体的に説明しないでっ!」







 ……なんていう会話をしながら、あっという間に時間は来てしまった。



「明日には家に戻るんでしょ?」

「うん。
 で、メガーヌのリハビリに……」

「ちったぁ休め」

「むーっ。大丈夫なのに……」

「大丈夫かどうかわからないからこその検査入院でしょーが。
 とにかく……オレは明日は顔出せないから、迎えならゲンヤさんあたりに頼んでよ」

「あぁ、機動六課にいるんだっけ?」



 みんなで食べた果物の後片付けをしながら、ジュンイチさんとクイントさんが話しているのを、僕は少し下がった壁際で見守っていた。

 参加? しませんよ。親子同然の付き合いしているこの二人の間に割って入るような野暮はしませんって……ツッコミ以外では。



「ツッコミなら参加するんだ」



 地の文を読んだクイントさんがクスクスと笑ってるけど……うん。ツッコまない。今ツッコんだら負けだと思うから。







 そして、僕らはもう一度クイントさんにあいさつして、ジュンイチさんと一緒に病室を後にした。



 さて、はやての会議、終わってるんだよね? じゃあ待たせちゃダメだね。



《そうですね。行きましょう》

「うん」

「おぅよ」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……まだかなぁ。



 レティ提督(とスカリエッティ)との会談が終わって、私はまた転送ポートの方へ来たんやけど、ジュンイチさんや恭文に待たされてる最中や。



 まぁ、ジュンイチさんとクイントさんの仲やし、二人が色々と話し込んでるんやろ。

 それに、クイントさん、ジュンイチさんやギンガから話を聞いて興味を持ったのか、恭文と会いたがってたしな。そういう意味でも興味は尽きんやろ。



 なんて思っていると……お、来た来た。



「ごめーん、はやてお待たせ〜」

「うむ。出迎えご苦労♪」

「ほんまや。女の子待たせたらあかんで?
 あとジュンイチさん、なんで私がジュンイチさんの出迎えなんですか?」

「そこはほら、後輩の義務?」



 なんて言いつつも、私も恭文もジュンイチさんも笑顔は変わらずや。

 正直、ジュンイチさんには昔模擬戦でトラウマものの負け方したせいで身がまえてまうところもあるんやけど、恭文の存在がいい感じにクッションになってくれてるみたいや。



「ジュンイチさん、クイントさんと楽しくやっとったんですか?」

「ま、それなりにな」

「そっか。
 まぁ、そこは車の中で話聞かせてもらおうか」



 そして、私らは転送ポートでミッドチルダの中央本部へ。

 で、そこから車で隊舎に戻ることにした。



 ……いや、ビッグコンボイ呼んで足になってもらうワケにはいかへんし。

 だって……







 ビッグコンボイのビークルモード――戦車で街中走るワケにはいかへんし。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……そっか。二人も更正プログラムのこと、聞いたんか」

「うん。正直驚いたけど……話を聞いて、大丈夫かなって思った」

「ま、スカはともかく、クイントさんなら、体調にさえ気をつければ平気でしょ」



 まぁ、私も聞いた時はビックリしたけどな。



 スカリエッティのこともそうやけど……クイントさんや。ナンバーズとは被害者と加害者の間柄。

 どうしても負い目やら優越感やら、そういう下世話な感情が出てくるのが正直なところやと思うんやけど……



「まぁ、ゲンヤさんやギンガさん、ラッドさん……というか、108部隊で全面的に協力していくそうだし、何かあったらちゃんとストップかけていくでしょ。
 クイントさんには、ジュンイチさんがそうなったらちゃんと従うようにって釘を刺してた」

「せやな」

「一応、後でギンガやマグナにもちゃんと見ててくれるように釘を刺しておくつもりだし」



 まぁ、そこは心配せぇへんでも問題ないわな。きっと。あの人はホント周りの人間に恵まれとるし。



「あと……」

「なんや?」

「僕も……スバルのこと、頼まれた。
 自分はこんな状態で、ギンガさんもしばらく六課には顔を出せないから、何かあったら助けてやってほしいってね。
 まったく、あぁいう状態だからこそ、自分の事だけ考えてればいいっていうのに……」



 そっか……まぁ、クイントさんもたいがいスバルには甘いからな。

 以前、事件解決直後にウチに来た時の様子を見るに、相当やったし。

 ギンガがスバルに甘いのも、絶対あの人の影響やろうね。



「だろうね。僕、ギンガさんから写真ムリヤリ見せられたりしたことあるし。『会う機会があるかわからない』って言ったのに。
 それも、満面の笑みで。アレ、一種の脅迫だったよ」

「いや、それもどうなんやっ!?
 ……まぁ、そんな人からスバルのこと頼まれたんや。しっかりせぇへんといかんで?」

「……六課にいる間だけでいいのなら、ね」



 うん。そこはしょうがないやろ。

 機動六課は何もなければ後半年で解散になる。そうなれば、嘱託に過ぎない恭文はまたフリーや。スバルとは別の道を進むことになる以上、その後まで面倒を見る理由はない。

 それでなくても、恭文、正規の局員になるのを嫌がっとるしな。“JS事件”のアレやコレで、間違いなくその想いも強くなっとるはずやし。





 ……そや、ちと疑問がひとつ。





「報酬は何を要求したんや。二人のことやから、当然代価を求めたんやろ?」

「ん?
 僕はお手製のお菓子。また会う時にでも作って持ってきてくれるって」

「オレはそのレシピ。
 8年前に教わりそこなってたのがけっこうあるし」

「恭文はともかく……ジュンイチさんはそれでえぇんですか?
 もっといろいろ、趣味全開で要求すると思ったんですけど」

「料理の腕、レパートリーではマイナー地方の料理とか作れるオレが上だけど、味付けではまだクイントさんには勝てないからな。少しでも技術を盗まんと。
 ……ま、それはお前相手にも言えることだが」

「は、ハハハ……私の時はどうかお手柔らかに。
 けど……そっか。それやったら、ほんまにしっかりせぇへんといかんなぁ」

「うん、報酬の分はね。やらせてもらう。
 あと、あの人自身のフォローもね。まったく、どうして僕の周りにいるヤツは、そろいもそろって自分の身を省みないのか……」



 あー、恭文。お願いやから私やジュンイチさんをそないにジト目で見ないでほしいんやけど?

 いや、覚えが色々とあるから、やっぱ痛いんよ……ジュンイチさんなんか迷わず視線そらしたし。



 よし、話を変えようか。明るい話題に。



「あ、せっかくやし、どっかでご飯食べていかんか? 書類運ぶのを手伝ってくれたお礼や」

「あ、いいねぇ。
 でも……どこで食べる?
 ジュンイチさん、この辺で穴場スポットとか知ってる?」

「知ってるけど……ここは言いだしっぺさんのお手並み拝見といこうじゃないか」



 ふふふふっ! ご心配なく、ジュンイチさん!



「ティアに教えてもろったお店があるんよ。
 魚料理のお店で、味も雰囲気も中々やったんよ。ちょっと戻るんやけど、どうや?」

「いいねぇ。ちょうど魚の気分だったのよ。
 それじゃあはやて、お願い」

「うし、ほんなら全速力でいくでぇぇぇぇっ!」

「ダメ。お前の腕で全速力なんぞ危なっかしくてかなわんわ」

「せっかく上げたテンション落とさんでほしいんですけどっ!?」



 そうして……私達はご飯を食べるために今来た道を戻って、お店へ向かった。



 なんちゅうか……うん、二人といるとほんまに楽や。

 ジュンイチさんも恭文も、付き合う分にはいろいろ疲れさせられるモノはあるけど、それ以上に二人がいると気が楽になる。これだけでも、来てもらった甲斐があるわな。うん。



「僕らははやての精神安定剤っ!?」

「よーし、はやて。店に着いてもお前だけ車で待機な」

「そーゆー意味やないですからっ!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 さて、この話にはもうちょっとだけ続きがある。















 …………うん。とりあえず質問。





 クイントさん、なんでさっそくここにいるのっ!?



「もちろん、ジュンイチくん達が六課でちゃんとやっているかどうかを見に来たのよ」

「よし、見たよね。充分見たよね。もういいよね」

「じゃあ帰ろうか。っつーか帰れ。
 そしてじっくりリハビリしてろ。メガーヌさんじゃなくてあなた自身の」

「ちょっとっ!? 二人とも母さんに何てこと言うのっ!」



 ギンガさんは黙ってて。早速再登場でビックリなんですよ。

 あの時の「またいずれ」がこうもあっさり実現してたらいろいろ拍子抜けなんですよ。

 っつーワケで、空気を読む気があるならもう帰ってください。いやホント。



「そうはいかないわ。
 私には、ジュンイチくんの行動を見守り、正しい方向へと導くという使命があるもの。
 昔からそうだったでしょ?」

「だったら僕は関係ないですよね!?」

「大丈夫よ。
 この間のアレコレを見て、キミもジュンイチくんと同じように見守っていかないといけないと思ったから」

《マスター、こうなったらきっと止められませんよ。
 何しろあのギンガさんとスバルさんのお母さんなんですから》



 だね……ま、心配してくれるのはありがたいけど。



 さて、あのお見舞いから数日が経って……なんでか、クイントさんが六課に来ていた。しかもギンガさん同伴で。



 お昼時のいきなりと言えばいきなりの来訪に僕やジュンイチさんはビックリ。スバルはニッコリ。クイントさんとギンガさんは……なぜか僕の淹れたお茶を飲んでウットリ。



「だって美味しいんだもの……あぁ、やっぱり落ち着くな。
 なぎくんの淹れてくれたお茶、本当に美味しい」

「そうね。
 ジュンイチくんの淹れるお茶よりおいしいんじゃないかしら」

「ホントだねぇ〜。
 恭文、この間のウェアの時も思ったけど、意外と家庭的なんだよね。これがまた母さんのマドレーヌとよく合うし……」

「まー、そう言って喜んでくれるのはうれしいけどね。
 でも、クイントさんのマドレーヌだってレベル高いよ。すっごく美味しい。
 以前に食べたギンガさんのマドレーヌよりも格段に」

「そりゃあ、この子の母親なんだもの。あっさり負けていたら立つ瀬がないわ。
 でしょう? ギンガ」

「うぅっ、未だに未熟なんだと痛感しました……」



 そう、クイントさんは、手土産にお菓子なんぞ持ってきていた。手作りのマドレーヌ。もちろん、大量に。

 ……この間のお願いの報酬でしょ。まったく、動きが速いというかなんというか。



「さて、お茶を飲んだら……スバル、早速貸してくれない?」

「うん!」

「貸す?」

「あのね、ギン姉と二人で話してて……母さんの両手リボルバーナックル、見せてもらおうと思って」



 そっか。元々二人のリボルバーナックルって、クイントさんが使ってたんだよね。

 で、8年前、クイントさんが死んで(実際には捕まって)、形見としてギンガさんとスバルが受け継いだんだ。

 けど、クイントさんが生きていて、こうして帰ってきて……だから、これを機会に本来のスタイルを改めて見ておきたいってことかな?



「そっか……
 で、見せてもらうのはいいけど、具体的にはどうするの?
 なのはに頼んで、シミュレータ使わせてもらうの?」

「その必要はないわよ」



 当然といえば当然の疑問をぶつける僕だけど、それにはクイントさんがあっさりと答えた。



「いるじゃないの。
 ちょうどいい模擬戦の相手が」



 そう言って、クイントさんが視線を向けたのは……



「………………ん? 何?」



 無粋にもクイントさんのマドレーヌの味を分析して、レシピの逆算に挑戦していたジュンイチさんだった。





















「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



「どわぁっ!?」







 うわ、ハデに吹っ飛んだねおいっ! ジュンイチさんがガードの上からモロって!?



 まずは、右手で一撃。吹っ飛び、宙に浮いたジュンイチさんに一気に追いついて……



「いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」



 左拳で……トドメっ!





「でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」







 ……とりあえず、心の底からわき上がる疑問がひとつ。



 クイントさん、あなた本当に退院したばっかり? リハビリ必要な人の行動とその結果とは思えないよ。

 いくらジュンイチさんの防御が物理衝撃に弱いからって、その人が模擬戦で命からがら逃げ回ってる光景なんて、僕の剣の先生とやり合った時以外に見たことないんですけど。



「……なぎくん、どうかな?」

「そうだね……うーん、やっぱ有効だわな、両手装備って」



 となりで観戦し、尋ねるギンガさんに、僕は素直に感想を述べる。

 まぁ、月並みな意見だけど、両手に武器を装備というのは、防御や攻撃の面から言っても有効である。



 当然のことだけど、今まで左右分ける形で使っていたスバルとギンガさんと違って、クイントさんの両手装備なら左でも右でも、どちらからでも、もしくは両方一緒に一撃を叩き込めることが出来る。

 それにこのリボルバーナックルの場合、両手がそれぞれ独立してカートリッジを装備しているから、火力の向上が見込まれる。



 まー、某十一番隊の隊長さんも、剣も片手じゃなくて両手で持った方が強いって言ってたしね。両手バンザイですよ。



「二人がやろうとすると、今までのスタイルからいきなり両手になるから、しっかりと訓練する必要はあるけどね」

「なぎくんから見ると、むしろ両手装備にした方がいいって感じ?」

「だね……これなら、二人にも両手用のリボルバーナックル作ってもいいとは思う」



 ……あ、ジュンイチさん、またガードの上から吹っ飛んだ。

 威力はもちろんだけど、あの人に回避を許さないクイントさんもたいがいすごいと思う。

 まったく、僕らの周りの一世代上はなんでこうもバケモノぞろいなのか……



「どういうこと?」

「今後あのリボルバーナックルをどうするかにもよるんだけどね……クイントさんに返すって選択肢もあるんだし。
 ともかく、二人やクイントさん、みんなが両手装備ができるように、新しくリボルバーナックルを作ってもらうってこと」

《なるほど。今のリボルバーをクイントさんに返すのなら、新しいリボルバーをスバルさんとギンガさんとで使えばいい。
 クイントさんに返さないにしても、一組をクイントさんに。残り一組をスバルさんとギンガさんで分け合えば全員に両手分行き渡りますし。
 それならば元のリボルバーは、今のまま大事に使えますね》



 これからもシューティングアーツで戦うなら、戦力強化も含めてこれがベストだと思うんだけど……



 しかし、そんな僕の提案に、二人は何故だか苦い顔を浮かべていた。



「何か問題?」

「うん……なんていうかさ、まだ私達には、重いかなって」



 重い? えっと、筋力的に……じゃないよね。

 じゃあ、何が重いんだろう。

 死に物狂いでクイントさんの左右のラッシュをしのいでいるジュンイチさんを視界の外に追いやりつつ、その辺りを二人に聞いてみる。



「なんだかね、いけるかなって思ってたんだけど、私もスバルも、まだ母さんみたいにはなれないかなって」

「……うーん」

「母さんは、家庭も仕事も、両手でしっかりと背負ってる。
 でも、私達はまだ背負いきれないなって、母さんを見ててわかったの。こう、もっとがんばらないといけないかなって」



 僕はクイントさんの日頃の姿を知っているワケじゃないからよくわかんないけど……そう言うんなら仕方ないか。

 まぁ、二人にとっては師匠であり憧れの女性であるのは間違いない。それと同じスタイルでいっていいのか、まだ踏ん切りがつかないってとこかな?



「ごめんねなぎくん。
 せっかく付き合ってもらって、色々考えてくれたのに……」

「別に謝ることじゃないでしょ?
 どうするかは、ギンガさんとスバルが決めればいいんだし」

《その重さを背負うのはあなた方です。好きなようにすればいいんです》

「……そうだね。ありがと」







「お前らっ! オレが死ぬような思いしてんのに無視か、こらぁぁぁぁぁっ!」

「ほらほら、ジュンイチくん、余所見してる余裕はないよっ!」

「クイントさんも自重してぇぇぇぇぇっ!」













「……それじゃあスバル、見送りありがとうね。なぎくんやジュンイチさんも」

「いいよいいよ」

「いろいろ言いたいことはあるんだけどな……主にクイントさんに」

「あら、何か気に障るようなことしたかしら?」

「要リハビリの身の上で全力全開で模擬戦しかけてくんじゃねぇよっ!」

「なぎくん、六課のみなさんにご迷惑かけないようにね? あんまり暴れたりしたらだめだよ」

「ギンガさん、僕はいつからあなたの子どもになった?」



 さて、ギンガとスバルのリボルバーナックルの両手装備は一時保留。今のリボルバーナックルも当面は引き続きスバル達が使うということで決着したその後、僕とジュンイチさん、スバルはクイントさんとギンガさんの見送りに出ていた。

 もうすぐ、108部隊からの迎えの車が到着するとかで、僕達は外だ。



「ギン姉、恭文ってそんなに暴れてるの?」

「そうね。なぎくんの使う魔法の大半は、最大火力効率を重視し過ぎていて、周辺被害が広がりやすいのよ。
 ……とりあえず私の知っている武勇伝をひとつ挙げると、建物ひとつを軽々と倒壊させたことがあったわ」



 あー、立てこもっていた犯人をいぶり出そうとした時か。相手に警告しつつ、支柱を一本ずつ斬り落としてやったんだっけ。

 ってゆーか、そのくらいならジュンイチさんだってやるじゃない。むしろ僕よりもド派手にやってるじゃない。

 何しろこの人は倒したビルをそのまま武器にするし。“びるでぃんぐはんまぁ”、ギンガさんだって知ってるでしょ?



 そしてスバル、そんな目で僕を見るな。なんか居心地が悪いじゃないのさ。



「だって……」

「そういうワケだから、スバルやジュンイチさんもそうだけど、なぎくんのことも心配なのよ。
 なぎくんもアルトアイゼンも、ジュンイチさんと一緒でやると決めたら誰にも止められないし」

「それが僕達のいいところだよ」

《まったくです。倒すと決めたら、相手の答えなんて聞かないだけですよ》

「違うでしょ? というか、答えは聞いてっ!」

「安心しろ。オレはちゃんと聞いてるから」

「ジュンイチさんは聞いてる“だけ”でしょ!? 聞くだけ聞いて聞き入れないじゃないですかっ!」

「ジュンイチくん……今でもそんな感じなのね……」

「……スバル、そういうワケだから、ジュンイチさんはともかく、なぎくんのこともお願いね。
 いや、止められないとは思うの。でも、止めようとすることが大事だと思うから」



 そんなオリンピックの精神みたいなことを言わないでほしい。そして、スバルよ。張り切るな。僕が疲れるから。あとジュンイチさんも。



「大丈夫だよギン姉。恭文はちょっとエッチなところがあるけど、いい人だよ?」

「待てっ! なんでその話になるっ!?」

「なぎくん、スバルに何をしたのっ!」

「何もしてないからっ! とりあえず首を放してっ!」



 苦しい。真面目にこれは苦しいからっ!

 ギンガさんは、そこまで言ってやっと放してくれた……ふぇぇ、助かった。



「つーかスバルっ! 人様に誤解をされるようなこと言うなっ!」

《そうですよスバルさん、訂正してください。マスターはエッチなどではありません》



 おぉ、さすがアルト。僕のパートナーだけのことはあるよ。そのフォローはいい! 他はダメな分好感度が急上昇だよ。



「えーっ!?」

《いいですかスバルさん。マスターは“年相応にスケベ”なだけです。現にマスターの部屋のあそこには、そういう描写のある本やディスクがぎっしり……》

「だまれやぼけぇぇぇぇぇっ! なんでそんな内情をバラされなくちゃいけないんだよっ!」

《あぁ、これは失礼しました。ただ、偶数日に二時間ほど私がスリープモードに入る時があるだけでしたよね……あ、今日ではありませんか。今から入ります?》

「だまれやこらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! いや、お願いだから。お願いだからしゃべるなっ!」



 いや、あの……違うのよ? アニメとか漫画とかゲームって、ちょぉぉぉぉぉぉぉっとそういう描写があるものがあるだけで。



「……ふーん」

「ギンガさん、なんでそんな目で見るの? 怖いからやめて」

「なぎくん、今度あなたの家に上がらせてもらうわね。あなたに悪影響を及ぼすものがある場合、没収させてもらいます」

「なんでそうなるっ!?」

「あ、あたしもいい?」

「とっとと部屋に戻れ豆柴っ!」



 冗談じゃない。この姉妹が僕の家に上陸? イヤだ。アレとかコレとかソレとかが危険に晒されるのはイヤだっ!



「大丈夫だよ。いかがわしい物がない限りは、そんなことしないから」

「だから、ないって言ってるでしょっ!?」

「だったら、問題ないわよね。私も、そんなものがないのに没収なんてしないから」



 う、うぬぅ……



「それとも、私が来たら……迷惑かな?」

「恭文、もし、もしね。あたしやギン姉が行って迷惑なら、無理は言わないよ」





 こ、この姉妹は……!



 ちょっと落ち込み気味な表情で、僕にそう言ってきた。あー、ギンガさんが目元を抑えてる。くそ、こいつらずるいっ!





「……別に、迷惑じゃない」

「なら決定ね。近いうちに必ずいくから」

「言っておくけど、うちにあるものは、人からの預かり物もあるんだから。物がなんであろうと、勝手に没収なんてしたら怒るからね?」

『はーい! ……って、それはずるいんじゃないっ!?』

「今の二人よりはマシだよっ!」

「あ、オレ目録作っといてやろうか? 恭文のと借り物と」

「ジュンイチさんはそういうこと言わないっ! しないっ! アンタも帰れぇぇぇぇぇっ!」





 ……ま、迷惑ってワケじゃないのは本当。来る事になったら、少しくらいはもてなそう。二人とも、大事な友達なんだしね。





“……とりあえず……ヤバめなものはウチで預かってもいいぞ”



 そしてジュンイチさん。余計なことを言った後でもそうやって念話でフォローを入れてくれるのは非常にありがたいです。



“ウチなら母さんの送りつけてくるエロゲの山があるし、そこに隠しとけば問題ないだろ”



“素直に感謝しづらいもののある隠し場所だねオイっ!?”



 とりあえず、ジュンイチさんのところにブツを避難させるのは最後の手段にしようと心に誓った、ある日の夕方の出来事だった。







(第7話へ続く)


次回予告っ!

ジュンイチ 「そうだ、クイントさん」
クイント 「ん? 何?」
ジュンイチ 「更生プログラムに行く時にお土産頼める?」
クイント 「いいけど……何を?」
ジュンイチ 「チンクのヤツに、おニューのシャンプーハットをね」
クイント 「え? あの子ってそういうキャラ?」
ジュンイチ 「うん。そーゆーキャラ」

第7話「『心配ない』と言われたって、
 心配なものは、やっぱり心配だったりする」


あとがき

マスターコンボイ 「……と、以上で第6話は終了だ」
オメガ 《見事なまでに私達の出番がありませんね。
 まったく、ボスがもっと本腰を入れて物語に介入しないから》
マスターコンボイ 「いや、今回は仕方なくないか?
 舞台が六課から離れているし、八神はやてが蒼凪恭文達を同行者に選んだ基準も、“所属がフリー同然のヤツ”だったんだからな。分隊所属のオレ達に立ち入るスキなどないだろう」
   
  (忘れられがちですが、マスターコンボイのコールサインは“スターズα”。つまりれっきとしたスターズ分隊の隊員なのです)
   
オメガ 《だからこそですよ。
 もっと積極的に物語に武力介入して、見せ場を作っていかないと》
マスターコンボイ 「それでムリヤリな展開になってもアウトだろうが……
 というか、今『介入』の前に物騒な単語をつけなかったか!?
 アレか!? オレに蒼凪恭文達を蹴落とせと!?」
オメガ 《いえ、ミス・はやてを。彼女なら問題ないでしょう?》
マスターコンボイ 「いやいや、あるからっ! 楽屋のオチ的には大歓迎だろうけどっ!」
オメガ 《(無視)さて、それはともかく、次回は前作『MS』ではイマイチ影の薄かった“彼”が登場します!》
マスターコンボイ 「誰のことだ?
 『MS』で影の薄かったヤツ……ユーノ・スクライアとか?」
オメガ 《違いますよ。
 というか、ミスタ・ユーノは影の薄さこそがアイデンティティじゃないですか。
 ここで登場して影を濃くしてしまったら、彼は彼でなくなってしまいますよ》
マスターコンボイ 「しれっとひどいな、貴様っ!?」
オメガ 《いつものことじゃないですか。
 と、いうワケで、いったい誰が登場するのか、いろいろ含みを持たせつつ、今回の締めとさせていただきます。
 それではみなさん――》
マスターコンボイ 「また次回、本編で会おう」

(おわり)


 

(初版:2010/08/07)