「はやてちゃん! どうして出ちゃダメなの!?」

「どう考えても、アイツのところが一番ヤベぇじゃねぇかっ!」



 機動六課の指令室。現在現場はドタバタしとる。

 フェイトちゃん達はディセプティコン構成メンバー総出で足止め状態。恭文達の方は、通信妨害でもかけられとるんか状況がつかめへん。

 けど……戦力の割り振りから、恭文やマスターコンボイのところにはあのマスターギガトロンが行っとる可能性が非常に高い。だって他のメンバーが全員フェイトちゃん達にぶつかっとるんやもん。他に誰があそこに行っとるっちゅうんよ?



 …………で、そんな状況なもんやから、いても立ってもいられん状況になっとんのが目の前の二人や。



「出たらあかん理由?
 そんなん、二人が一番わかっとるはずやろ?」



 私の淡々とした答えに、なのはちゃんとヴィータが同時に押し黙る……うん。さすがにそこまでわからんようになるほど頭に血は上ってなかったか。



 なのはちゃん達を出動させられへん理由は単純明快。

 二人とも、コンディションが万全やない。特になのはちゃんは“JS事件”でのブラスター使用の反動がまだ残ってる。

 ヴィータかて軽いダメージやなかったんやし……とにかく、そんなガタガタのスターズ隊長コンビを現場に出すワケにはいかん。



 それに、気になっとることがもうひとつ……



「なぁ……なのはちゃん、ヴィータ」

「はやてちゃん?」

「はやて……?」

「連中……なんで“ドール”を出してこんのやろうな」



 その言葉に、なのはちゃんとヴィータの顔色が変わる。

 そう。連中は“ドール”と呼ばれる無人の自動機械を大量に保有している。そう。ちょうど“JS事件”でスカリエッティが保有していたガジェットのように。

 それが、今のところどこにも出てきていない。主力がフル出動しとるのに、使い捨てと言ってもいいドール部隊を温存する意味があるとは思えん。

 だとすると、どこか別のところに展開するつもりだとしか……





「サーチャーに反応!
 ドール、空戦型多数! この隊舎を包囲するように向かってきています!」





 ………………



 まるで私の提案を合図にしたかのようなタイミングで飛び込んできたアルトの報告に、指令室の全員の視線が私に集まった。



 ……いや、ちょっと待って。私が悪いワケやないよね!? そんな「余計なこと言うから」なんて目で見るのやめてくれへんかな!?



「とにかく、迎撃しなくちゃ!」

「おっしゃ!」

「って、二人とも待ちぃやっ!」



 って、それどころやないっ! 今にも飛び出していきそうな(体調的な意味での)ポンコツ2名をなんとか止めへんと……っ!











「そこまでだ、二人とも」











 と、そんな私に代わって二人を止めてくれたのは、アリシアちゃんに連れられて指令室に現れたイクトさんやった。



「お前達二人は出る必要はない。
 外はオレ達に任せて、貴様らはシャマル達やザフィーラ達と共にこの隊舎の直衛にでもついていろ」

「けど、イクトさん達だけじゃ……」

「アレを見ろ」



 反論しかけたなのはちゃんに答え、イクトさんが視線で示したのはレーダー画面。

 そこには、サーチャーに引っかかった空戦型ドール、エアドールの反応が……って、アレ?



「アイツら……動いてねぇな?」

「あの場に、留まってる……
 ただ、六課を包囲しているだけ……?」

「そういうことだ。
 どうも連中、積極的にこちらに仕掛けてくるつもりはなさそうだ」



 確かに、レーダー画面の敵影はまったく動く気配がない。隊舎の南方海上に布陣して、こちらの出方をジッとうかがってる感じや。



「どう思いますか?」

「こちらの出撃を誘う囮……という線は薄いな。
 もしそうなら、むしろこちらを引っ張り出さなければならない。もっと積極的に動いてくるはずだ。
 だとすると……」

「けん制……か」



 そう答えたのは、私でもなのはちゃんでも、ヴィータでもない。

 我が頼れるパートナー、最近隊舎でのお留守番が多くて影が薄かったビッグコンボイや。



「はやて……今何か失礼なことを考えなかったか?」

「気のせいや」



 だってしゃあないやん。ビッグコンボイのトランスフォーム形態ってマンモスと戦車やで。ぜんぜん街中での行動の利便性考えとらへんやん。

 ……まぁ、その辺の議論は後でするとして、や。



「で……アレがけん制って、どういうことなん?」

「簡単だ。
 『出てくれば撃つ。おとなしく隊舎にこもっていろ』……といったところだろうな」

「ハッ、なめられたもんだぜ。
 そんな脅しに乗るかよ。全部ブッつぶしてやる!」

「やめておけ。
 敵だってそういう反応も想定してる――大方、アレを叩いたところで第2波、第3波と波状攻撃をかけられるのが関の山だ」



 獰猛な笑みを浮かべるヴィータやったけど、イクトさんにあっさりと一蹴されて黙り込む。



「今回の敵の作戦、布陣を考えれば“レリック”が本命であることは明白だ。だからこの六課隊舎への戦力投入はドールのみに留めた。
 本気でここをつぶすつもりなら、マスターギガトロンが全力で向かってくるさ――何しろ、一度はオレ達全員を相手に完勝しているんだからな」

「ここで出たところで、足止めを喰らっていたずらに消耗するだけだ。
 お前達の“現状”を考えると、それは容認できない――だから、ここはあえてオレ達の出撃の線は捨てる。
 むしろドール部隊をこちらに引きつけ、テスタロッサ達の方に行かせないのが最善の対応だろう」

「け、けどよぉ……」



 ビッグコンボイやイクトさんの提案はもっともやけど……ヴィータはそれでも納得できへんみたいやな。

 まぁ、恭文が心配なんやろな。何しろ今頃マスターギガトロンとご対面、やろうし……





 ………………ん?



「そういえばイクトさん。
 なんでここにいるん?」

「ん?」

「確か、フェイトちゃん達と一緒に出動したはずじゃ……」



 まぁ、だいたい想像はつくんやけど。











「………………道に迷って、合流し損ねた。
 アリシア・T・高町が通りかからなければ、きっと今もまだ……っ!」

「いい加減に隊舎内の道くらい覚えましょうよっ!」

「相変わらずの方向音痴だな、お前わっ!」



 …………やっぱり。

 

 


 

第13話

たまにはジャンプのノリも悪くない

 


 

 

「久しいな、マスターコンボイ。
 ほんの数ヶ月ぶりなのに、ずいぶんと懐かしく感じるな」



 何てことないかのような言葉と共に一歩を踏み出す――僕とマスターコンボイ、そしてかがみとつかさを前に、ディセプティコンのリーダー、マスターギガトロンはあくまでも余裕の態度。

 けど……決して油断しているワケじゃない。さっきから不意討ち上等で仕掛けようとしてるんだけど、ちっともスキを見せてくれない。



 さすが、一組織を力でまとめ上げてるだけのことはあるよ。昔はデストロンの破壊大帝でもあったそうだし。



「お、お前は一体誰っツか?」

「動じるなと言ったぞ、ラグナッツ」



 そして……僕らとは対照的に状況をちっともわかってないのが、起動したてのラグナッツ。尋ねるその問いに、マスターギガトロンは堂々とそう答える。



「オレっち、聖王様守らなきゃいけない。
 聖王様はどこっツか? お前、知ってるっツか?」

「聖王は、もはや存在しない」



 そして、続けられた問いには容赦なく答える。



「貴様が眠っている間に、聖王家は滅亡した。
 もはや、貴様が守るべき聖王は存在しない」

「マジっツか!?」

「あぁ、マジだ。
 …………そこで、だ」



 そう答え――マスターギガトロンの口元がニヤリと釣り上がった。



「貴様……新たにオレに仕えてみるつもりはないか?」

「っツ?」



 この展開は――マズイ!



「おっと、行かせねぇぜ」



 けど、ジャマしに動こうとした僕らの前にはロックダウンが立ちふさがる。

 もう間違いないとは思ってたけど、やっぱコイツのクライアントはディセプティコンかっ!



「聖王を守るために生まれた貴様のその力、実に素晴らしい。
 貴様のような強い戦士が加わってくれれば、これほど心強いことはない」

「そ、そうっツか?」



 そうして僕らが足止めされている間に、マスターギガトロンは口先三寸でラグナッツを抱き込みにかかる。

 あー、くそっ! アイツ見るからにバカっぽいし、このままじゃ向こうに引き込まれる! なんかすでにグラついてるしっ!



「どうだ? 貴様のその力、我がディセプティコンで存分に発揮してみるつもりはないか?」

「…………し、仕方ないっツね。
 そこまで言うなら、手伝ってやらないこともないっツよ」



 …………陥落しやがった。

 マスターギガトロンにおだてられ、ラグナッツはあっさりとディセプティコンへの協力を宣言。マスターギガトロンと共に僕らへと向き直る。



「ロックダウン、よくやった。
 ついでにマスターコンボイ達を叩いてくれるなら、さらに報酬は弾んでやるぞ」

「へぇ、そいつぁありがたい」



 そしてさらにロックダウンまで。マスターギガトロンの報酬に釣られたか、彼らに加わってこちらと対峙する。



「…………マスターコンボイ、スバルの合流予定は?」

「今のところはなしだ。
 くそっ、タイミングが悪いにもほどがある……っ!」



 尋ねるかがみに答えて――マスターコンボイの動きが止まった。その視線がゆっくりと移動して――



「おいコラ、なんでそこで僕を見るんだよっ!?
 僕のせいだとでも言うつもりかいっ!」

「いや、貴様の不幸が感染したのかと」

「するかっ!」

「え? 恭文くん、運悪いの?」

「近づいちゃダメ、つかさっ! 不幸がうつるっ!」

「うつらんっちゅうにっ!」



 まったく、どいつもこいつも、僕のことを何だと思ってるんだか。



「そのくらい現状が不遇だということだ。
 現状では、こちらが戦力的に不利すぎる……スバルがいれば、まだなんとかなったかもしれんが……!」



 あぁ、そうだよね。

 マスターコンボイは現状ではその力をフルに発揮できない。六課フォワードの内あずささんを除く4人、またはこなたとゴッドオンすることで、ようやくまともに戦えるようになる。

 そして、さらにスバルとなら、より強力な切り札も切れる……



「確か……ハイパーゴッドオン、だっけ?
 僕は報告書の情報でしか知らないけど」

「そういうことだ。
 こういう時こそアレの出番だというのに……!」

「そうか……貴様、ゴッドオン相手がいないのか。
 それはまた好都合だ」



 けど、敵はそんなの待ってくれるはずがない。余裕の笑みと共に、マスターギガトロンはこちらに向けて一歩を踏み出す。



「貴様のハイパーゴッドオンは少々厄介だからな。
 できない今のうちに……つぶさせてもらうぞ!」



 そんなマスターギガトロンの言葉にラグナッツやロックダウンがかまえ――











「そこまでだっ!」











 その言葉と共に乱入者あり――今頃になってようやく駆けつけてきた、空港警備隊の魔導師やトランスフォーマー達。彼らが僕らもろともマスターギガトロン達をグルリと包囲する。



「そこのトランスフォーマーの一団! 速やかに武装解除し、投降しなさい!」



 そして、隊長と思われる魔導師の言葉に、彼らは一斉にマスターギガトロン達へとそれぞれの獲物を向ける――って、ちょっと待てっ!



「貴様ら、何をやっている!?
 コイツらは貴様らの手に負える相手じゃない! 下がっていろ!」



 そう。相手は曲がりなりにも大帝級。そこらの魔導師やトランスフォーマーが束になってもかなう相手じゃない――マスターコンボイが警告の声を発するけど、警備隊の連中はかまわずマスターギガトロンへと狙いを定める。



「ほぉ、このオレとやり合うつもりか。
 その覚悟はいいが……相手が悪かったな!」

「――――――っ!
 ってぇーっ!」



 対するマスターギガトロンはすっかりやる気だ。殺気がふくれ上がるのを感じた隊長の指示で、空港警備隊の連中が一斉に発砲する!

 放たれた魔力弾やトランスフォーマー達のビームが、一斉にマスターギガトロンへと襲いかかり――











「“支配者の領域ドミニオン・テリトリー”!」











 マスターギガトロンが吼え、周囲に“力”をまき散らす。

 フィールド系の魔法だ。それは飛来する攻撃の群れも巻き込んで――迫る光が次々に霧散し、消滅する。



 AMF……いや、違う。



 アレがウワサに聞く“支配者の領域ドミニオン・テリトリー”……!



《報告書にあった通りですね。
 魔力弾もトランスフォーマーのビームも、まとめて分解され、マスターギガトロンに吸収されています》



 そう。今アルトが告げたのが、“支配者の領域ドミニオン・テリトリー”の効果。



 AMFほどの即効性はないものの、魔力やトランスフォーマーのスパークエネルギー、さらにはジュンイチさん達の使う精霊力やナンバーズ達の使う対AMF用に変換されたISエネルギーまで、とにかく空間に放出された、生命エネルギーに類するあらゆるエネルギーを分解、術者に還元することができる。

 つまり、こっちが攻撃すればするほど、マスターギガトロンにエネルギーを与える結果になってしまうワケだ。



 さらにタチが悪いのが、このフィールド魔法の効果対象となるのが、“空間に放出された”生命エネルギーである、ということ。

 つまり飛行魔法のために放出された魔力も、バリアジャケットの起動によって周囲に展開される魔力障壁も、そしてたぶん、僕がスバル&マスターコンボイ戦で見せたアルトへの魔力付与も……空気中に放出されている分のエネルギーはすべて吸収されることになる。



 それがどれくらいタチが悪いかというと……公開陳述会への襲撃から始まったミッド地上本部攻防戦。その戦いの中で、警備に当たっていた六課隊長陣全員と地上本部襲撃を担当したナンバーズ・メンバーが、このフィールドの前に手も足も出せず、ひとり残らず半殺しの憂き目にあったほど……と言えばわかってもらえると思う。



「フンッ、その程度でオレを止められると思われていたとは、またなめられたものだな」



 そして、迫る攻撃を排除したマスターギガトロンが動き出す――自分達の一斉攻撃を難なく止められ、動揺する空港警備隊が身がまえるけど、



「オレ達がいるんだぜ!」

「マスターギガトロン様のジャマするなっツ!」



 マスターギガトロンが手を下すまでもなかった。突撃したロックダウンやラグナッツに襲われ、空港警備隊の面々は次々に蹴散らされていく。



「………………っ!
 やめなさい!」



 そんな一方的な戦いに、かがみが制止の声と共にクーガーを発砲――するけど、彼女の魔力弾も“支配者の領域ドミニオン・テリトリー”に捕まった。あっという間にエネルギーを分解され、取り込まれてしまう。

 そして――



「そう急くな。
 貴様らの相手はあの二人などではなく、このオレが直々にやってやる」



 それは、マスターギガトロンの意識をこちらに向けるには十分すぎた。不敵な笑みと共にこちらへと向き直る。



「…………蒼凪恭文」

「何?」

「魔力付与なしでヤツを斬れるか?」

「装甲を、って意味で言ってるなら……ムリ」



 戦いの中で過信は禁物。マスターコンボイの問いに、迷わず断言する。



「狙うなら関節部だね。
 恭也さんみたく、相手の関節にダメージを与えて、動きを封じるくらいなら」



 魔法という助けがなかったら、生身の人間がトランスフォーマーにできることなんて本気でそのくらいしかない。

 それすらできなきゃ、ただぶちのめされるのを待つだけ……ちょうど、地上本部攻防戦で魔法という牙を根こそぎもがれたなのはやはやてみたいに。



「できることはあるワケだ……
 なら、オレと貴様でヤツの手を止める。
 現状で最も打撃力を期待できる柊姉妹のゴッドオンに賭ける……いいな?」

「同意するしかないでしょ、ここはさ」



 告げるマスターコンボイに答え、僕はアルトをかまえて腰を落とす。

 マスターコンボイも、ロボットモードのままオメガをかまえて――



『――――――ッ!』



 同時に地を蹴った。鋭く息を吐きながらマスターギガトロンとの距離を一瞬にして詰める。



 スピード差から先行する形になった僕がアルトで一撃。右のヒジ関節を狙う――けど、マスターギガトロンもそんな僕の狙いは読んでいたらしい。右腕を後ろに引いて僕の斬撃をやり過ごし、



「むんっ!」



 続くマスターコンボイが大上段から振り下ろしたオメガを、転送で取り寄せた大剣で受け止める。



「止まるな、蒼凪恭文!」

「わかってる!」



 マスターコンボイの言葉に、突撃をいなされ、マスターギガトロンの背後に回っていた僕は迷うことなく地を蹴って再度の突撃。

 理由は簡単。



 マスターコンボイの追撃指示――その“本当の意味”を理解しているからだ。



 その根拠は、マスターギガトロンが取り出した大剣。

 一見するとただの剣……アームドデバイスにしか見えないけど、アレは……



「柊姉妹! さっさとしろ!」



「わかってるわよ!
 つかさ!」

「う、うん!」



 とにかく、今はこっちも戦力を整えるのが先決――マスターコンボイの声に答え、かがみはつかさと二人でそれぞれのトランステクターに向けて走る。





『ゴッド、オン!』





 その叫びと同時、二人の身体が光に包まれた。

 それは大きく広がって、そのまま二人のトランステクターを包み込むと、まるで染み込んでいくかのようにその内部へと消えていく。



「ライトフット!」

「レインジャー!」



『トランスフォーム!』



 そして、2機のトランステクターが姿を変える――それぞれに特徴的なバックユニットを分離させるとホバリングの要領で空中に飛び上がり、どちらも同じシークエンスでロボットモードへと変形する。

 分離していたバックユニットを背中に再合体。かがみのゴッドオンした高速型のライトフット、つかさのゴッドオンした重装型のレインジャーがマスターギガトロンへと向かう。

 けど――



「おっと、そうはいかないぜ」

「お前の相手はオレっちっツ!」



 そんな二人の前に立ちふさがるのは、空港警備隊を蹴散らしたロックダウンとラグナッツ――くそっ、二人の援護を封じられたっ!



「マスターコンボイ、僕達で!」

「わかっている!」



 こうなったら僕達だけでやるしかない。マスターコンボイと二人で再度突撃をかけるけど、



「残念だったな。
 そうくることは、織り込み済みだ!」



 マスターギガトロンには読まれていた。背中のコウモリっぽい翼を広げ、僕らの突撃をかわして上空に逃れる。



 くそっ、こっちが飛ぶのは封じられてるのに、向こうは飛べるってのは不公平にもほどがあると思わないかな、ねぇ!?



「残念ながら、まったく思わんな。
 貴様らは、そこでゆっくり見ているがいい!」



 いらつく僕にかまうことなく、マスターギガトロンは手にした大剣を軽く頭上に放り投げる。



 そして――告げる。



「悲願を果たせ――」

















「“復讐鬼(ネメシス)”」

















 その言葉を合図に――大剣が姿を変えた。

 僕のアルトが宝石から刀に、フェイトのバルデッシュが戦斧に変わるように、マスターギガトロンのデバイスが“待機状態の”大剣から本来の姿へと変化する。



 そして現れたのは――円形のボディに全体から触手を生やしたモンスターな機動メカ。



 ……うーん……戦闘記録で見て、知識としては知ってたけど、実際目の当たりにすると、また不気味なデザインだなぁ。

 けど……それが決して見た目で油断できる相手じゃないことを、僕はちゃんと理解している。そしてもちろん、マスターコンボイも。

 だって――



 さっそく、ネメシスとかいうあのデバイスが全身から生やした触手を飛ばしてきたからだよっ!



 一本や二本なら叩き斬って対処するところなんだけど、全身のそれで一斉攻撃なんか仕掛けてるところにそれをやったら、目の前のヤツを斬ってる間に他の触手につぶされる。僕とマスターコンボイは迷うことなく左右に跳び、そのまま触手による刺突や打撃が降り注ぐ中を駆け抜けていく。

 そんな僕らを追って、ネメシスの攻撃は間断なく降り注ぐ――くそっ、飛べない上に上空からコレじゃ、反撃するヒマなんかありゃしないっ!











 ……とか、僕らが考えてると思ってるんだろうけどっ!



「マスターコンボイ!」

「おぅっ!」



 こっちにだって手がないワケじゃない。僕の意図を正しく理解したマスターコンボイの差しのべてきた手に足をかけ――マスターコンボイが、僕を上空高く放り投げる!



 狙いはもちろん、上空のマスターギガトロン――の前に、ジャマしてくれてるネメシスからっ!

 マスターコンボイがメジャーの頂点も狙えそうなコントロールとスピードで投げ飛ばした僕は、ネメシスが反応するよりも早くその眼前へ。アルトをフルスイングで叩きつけ、マスターギガトロンに向けてブッ飛ばす!

 狙いは上々。こういう反撃は予想していなかったのか、マスターギガトロンはモロにネメシスと激突して落下――もちろん決定打には遠いけど、少しはダメージになったはず。



 とにかく、ダメージのほどを確認しなければ始まらない。着地と共にアルトをかまえ直し、マスターコンボイと並び立って様子をうかがう僕の前で、マスターギガトロンはゆっくりと立ち上がる。



 ……うん、予想はしてたけど、ムカつくくらいにダメージ軽いね。



「そうでもないさ。
 あんな単純な手で一本取られるとは、少しはプライドが傷ついたぞ」

「あ、そ。
 何ならそのまま泣いて帰る? 止めたりしないからさ」

「口の減らないガキめが……」



 僕の言葉に、少しはクるものがあったらしい。ほんの少しだけ、マスターギガトロンの表情に怒りのようなものが見え隠れし始めた。



「貴様と話していると、あの柾木ジュンイチを思い出す。
 正直、あまりいい気分はしないな」



 あー、そういえば、マスターギガトロンって、ジュンイチさんに何回も痛い目見させられてるんだっけね。

 けど、僕を見てあの人を思い出すって何? 僕はあの人みたいに性格悪くなんかないんだけど。



「オレにもよくはわからん。
 ただ……貴様からはヤツと良く似たものを感じる」



 いや、だから何で僕とあの人が似てるって……



 …………いや、そこは後だ。気を引き締めてかからないと。





 だって……その言葉と同時、マスターギガトロンから放たれるプレッシャーが重苦しさを増したから。





「だが……貴様が油断のならない相手だということは間違いない。
 ここからは……全力で、つぶさせてもらう!
 ネメシス!」



 そして、マスターギガトロンの指示でネメシスが彼の背後へ。そのボディがいくつかのパーツに分割されると、マスターギガトロンの四肢に装着されていく。

 そう。アレはただの自立型デバイスじゃない。

 パワードデバイスと呼ばれる、持ち主に合体してその能力を引き上げることのできる、マスターの強化を目的としたデバイスなのだ。



 ちなみに、フェイトや横馬も持っていたりする。目の前のネメシスみたいなモンスターな感じじゃなくて、もっとヒーローものみたいなカッコイイやつを。フェイトがうらやましかったり横馬のクセにナマイキだとか思ったりするけどその話はまたいずれ。

 問題なのは、そのパワードデバイスによって、マスターギガトロンがパワーアップしたということだ。



「マスターギガトロン、スーパーモード!」



 この手のパワーアップのお約束、名乗りを挙げるマスターギガトロンだけど……こっちは正直、その辺にツッコんでる余裕はない。

 そうこうしている間に、マスターギガトロンに合体したネメシスの触手が、青白いエネルギーに包み込まれて輝き始めたからだ。



「マスターコンボイ! 恭文!」

「あわわわわ、マスターギガトロン、スーパーモードになっちゃってる!?」



 そんな僕らの周りに、かがみやつかさも合流――マスターギガトロンの元にもロックダウンやラグナッツが集結して、お互いに仕切り直し。



 けど……あー、くそっ、どう考えてもこっちが不利じゃないのさ。

 魔法ナシで戦う手段がないワケじゃない。ないワケじゃないけど……うん、今やらかしたら、確実にマスターコンボイやかがみ達を巻き込むハメになる。

 一緒に戦う仲間がいる時にやるもんじゃないでしょ。マスターギガトロンを航空燃料の貯蔵タンクにおびき寄せて、まとめて吹っ飛ばす、とかさ。



 うーん、こうして考えると、僕もまだまだなんだよね。

 先生やジュンイチさんだったら、この状況でも場をひっくり返すことくらい簡単にできるはずなのに。というかジュンイチさんは地上本部で実際にひっくり返してるし。



 …………っと、反省会やってる場合じゃないよね。

 アルト、ここからは気合入れていくよ。



《でないと、冗談抜きでシャレにならない相手ですしね》

「そういうこと」



 アルトに答え、僕はマスターギガトロンやそのお付きの二人の出方を慎重にうかがう。



 マスターコンボイや、かがみ達もだ。状況がこう着して、今までとは打って変わった静けさがその場を支配して――



「――――――来るぞ!」



 マスターコンボイの声と共に、触手が襲いかかってきた。左右に跳んだ僕らの間の地面を、触手の乱舞が深々と抉り抜いていく。



 ……って、あっぶねぇぇぇぇぇっ!? あんなのくらったら一瞬でミンチだよっ! 僕はマスターコンボイやゴッドオンしたかがみ達と違って生身なんだから!



「蒼凪恭文!
 アレをかいくぐって距離を詰められるか!?」

「もうやってる!」



 魔法が封じられてる今の状況では、僕ができることと言ったらアルトでぶった斬ることくらい。だからまず第一に距離を詰めようとしてるんだけど……くそっ、この触手がうっとうしいっ!

 突撃しようとする僕の進路を的確に阻んで、なおかつ攻撃までしかけてくる。斬ろうとしても弾かれるし、さっきから屈辱極まりないんですけどっ!



「つか、どーして僕に言うのさっ!?
 かがみ達の打撃力に期待するんじゃなかったの!?」

「あぁも触手で防衛戦を張られては、もっとも小柄な貴様しかヤツの懐には飛び込めんだろうが!」

「それはアレかっ!? 僕が小さいってかっ!?
 自分だけロボットモードに戻ってでっかくなったからって余裕かコラぁっ!」

「ちょっと、こんな時に何言い争ってるのよ!?」

「二人ともちゃんと戦ってぇっ!」



 かがみもつかさも失礼な。

 マスターコンボイはともかく、僕はマジメに戦ってるよ? うん。これが僕らの“マジメ”だよ?



「……仕方あるまい。
 柊姉妹! 蒼凪恭文を援護する――全力で砲撃をかけるぞ!」

「正気!? 吸収されるだけじゃないの!」

「AMFとは違う! 一瞬で吸収されるワケじゃない!
 マスターギガトロンに届かせることはできなくとも、触手に当てるくらいならっ!」

「なるほど……そういうことならっ!
 つかさ!」

「うんっ!」



 マスターコンボイの意図を読み取り、かがみとつかさはすぐに動いた。自分達に向かっていた触手をかがみがかわし、つかさが防御しながら距離を取り、





『フォースチップ、イグニッション!』





 フォースチップを呼び出した。それぞれの背中のバックユニットに備えられたチップスロットにフォースチップが飛び込み、二人に力を与える。

 そのエネルギーはかがみ改めライトフットが手にする専用銃ライトショットに、つかさ改めレインジャーの背中の砲塔群に集中。もれ出たエネルギーがバチバチと火花を散らす。



 そして、マスターコンボイも振りかぶるようにかまえたオメガの刀身に魔力を込めて――





「ハウリング、パルサー!」



 かがみの。





「レンジャー、ビッグバン!」



 つかさの。





「エナジー、ヴォルテクス!」



 そしてマスターコンボイの。





 3人の放った砲撃が、マスターギガトロンが繰り出してきた触手の群れへと襲いかかる!



 もちろん、のた打ち回るように荒れ狂う触手にクリーンヒットなんてなかなかしない。炸裂した爆風で動きが乱れるくらいだけど――僕にとってはそれだけで十分っ!

 爆風によって押し広げられた触手のすき間を、魔力を体内に流して身体強化をかけた上で駆け抜ける。



 なお、強化したのは身体能力だけ。強度アップは魔力を身体の外側に流す手前、マスターギガトロンのフィールドに吸収されるだけだからだ



 ともあれ、僕は一気に距離を詰めてアルトを叩きつける――って!?





「残念だったな」





 そう告げるのはマスターギガトロンじゃない。

 その前に飛び込んできたロックダウンが鉤爪で防いでくれた――くそっ、仕掛けてこないと思ったらっ!



「もらったっツ!」



 で、ロックダウンが来たってことは、とーぜんコイツも来るよねっ!

 飛び込んできたラグナッツの体当たりをやり過ごそうと、僕は後方に跳――べないっ!?



 ロックダウンが、鉤爪をひねってアルトの刀身を押さえてくれたのだ。おかげで、僕の動きが一瞬遅れて――























「ぐぅっ!?」























 かわせない――そう思われた体当たりを喰らったのは僕じゃなかった。









 飛び込んできたマスターコンボイが、僕をかばってその一撃を受けたのだ。



「調子に乗るなよ……この、ポッと出のド新人がっ!」



 けど、それにもひるまずラグナッツをつかまえ、持ち上げる――そのままラグナッツの巨体をロックダウンに叩きつけ、解放された僕を抱えて後退する。



「あー、ゴメン、マスターコンボイ、助かった」

《正直、油断していました》

「気にするな。こちらも読みが甘かった。
 貴様さえ一撃入れられれば、そこから崩せると思っていたからな……っ」

《しかし、まさか私の刃が抑え込まれるとは……
 マスターが技でスパスパ斬ってくれるおかげであまり目立ちませんが、強度だけでなく私自身の切れ味にもそれなりの自信があったのですが》

「マスターギガトロンはともかく、ヤツは賞金稼ぎだという話だからな……
 貴様のような相手の御し方も、心得ていたのだろう……っ!」



 僕やアルトに答えるマスターコンボイだけど、なんだかその息は荒い感じ。

 ラグナッツの体当たりのダメージにしては、どうにも苦しそうな……って、まさか!?



「かがみ、つかさ!
 一旦下がるよ! マスターコンボイ担いでっ!」

「恭文っ!?」

「“レリック”はラグナッツになっちゃったんだよ!
 あとはマスターギガトロンの個人的な恨みだけなんだし、ここで戦うことにこだわる理由ないでしょ!」



 戸惑うかがみに答え、僕はマスターギガトロン達へと向き直る。

 当然、向こうも僕らの動きに気づいている。逃がすまいと仕掛けてくるけど――残念っ!

 その触手、ガチにやり合うには厄介だけど、追撃には向いてないでしょ!



「鉄輝」



 だから――こうする。



「一閃っ!」



 とっておきの一撃は足元の地面に。砕けたアスファルトがマスターギガトロンの触手によってさらに粉塵と化し、完全にあちらの視界を覆い隠す。





「かがみ、つかさ!」

「わかってるわよっ!
 つかさ!」

「うんっ!」



 とにかく、今のうちだ。僕の合図でかがみとつかさはマスターコンボイのボディを二人で担ぎ上げ、そのまま戦略的撤退っ!



 正直性に合わないけど――ここは一旦仕切り直しだ!






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「オラオラオラオラァッ!」

「く………………っ!」



 ボーンクラッシャーが繰り出すのは、まるでサソリの尾のように背中から伸びる、地雷除去アームの変形したクローアーム。次々に襲いかかる刺突を、エリオくんは素早い動きでかわしていき、



「ウチのパートナーに何してくれてんだ、めんどくさいなぁっ!」



 そこに飛び込んできたのがアイゼンアンカー。クローアームの中ほどをつかんで、力任せに振り回して投げ飛ばす。





「ホイール、ナックル!」

「なんのっ!
 姫には指一本触れさせないでござるっ!」

「フリード! シャープエッジの援護を!」

「きゅくるーっ!」



 両足から分離したタイヤをナックルとして装着したバリケードに対するのはキャロちゃん、シャープエッジ、フリードの3人。





 そしてあたし、柾木あずさは――



「フォースチップ、イグニッション!
 アームド、キャノンッ!」


「イスルギ!」



 現在、レッケージと絶賛交戦中――身にまとったパワードデバイス“イスルギ”から射出したシールドビットで大型の防壁を展開。レッケージの腹部から放たれたビームを受け止める。

 けど……重い……っ! ビームが防壁に叩きつけられる勢いに押されて、防壁は少しずつあたしの方に押し戻されてきている。



「あずさ!
 スプラング!」

「わかってるって!
 スプラング、トランスフォーム!」



 そんなあたしを援護しようとしたヴァイスくんの指示で、スプラングがヘリコプターからロボットモードへとトランスフォーム。あたしの方に向かってくるけど、



「そうはさせるかってんだ!」



 二人の相手をしていたブロウルがジャマをする。対空砲撃を絶やさず、二人をこちらに近づかせてくれない。



「だったら僕が!」

「行かせると思ってるのか?」



 そして、ジャックプライムくんの前にはビーストモードのジェノスクリームが立ちふさがる。

 ……うん。キミは自分の心配しようか。ディセプティコンの地上戦力でも最強の子を相手してるんだから。

 あと、彼氏のヴァイスくんはいいけど、キミに心配されると複雑なんだよ。どれだけあたしに助けがいると思われてるんだか。

 これでも魔法なしならキミの相棒のフェイトちゃんより強いんだよ。そしてあたしのデバイスは一応“対オーバーSランク”を謳ってるカスタム品だよ?



「そんなワケだから、ジャックプライムくんはジェノスクリームに集中して!
 むしろ、あたしがコイツを瞬殺して、ヴァイスくんを助けて、キャロちゃん達やエリオくん達助けて、ティアちゃん達助けて、フェイトちゃん助けて、その後で助けに行ってあげるからっ!」

「どんだけ後回しなのさ、僕わっ!
 けど……とにかく了解っ!」



 ツッコみながらも、ジェノスクリームのかみつきをかわしたジャックプライムくんは距離を取り、



「そういうことなら、遠慮なくコイツに集中させてもらうよっ!」



 言って、ジャックプライムくんが取り出したのはウェイトモードのデバイスカード。



「キングフォース、召喚!」



 そう叫ぶジャックプライムくんに応えて――それはあの子の周囲に出現した。

 ヘリコプター型のキングジャイロ。

 潜水艦型のキングマリナー。

 ドリルタンク型のキングドリル。

 消防車型のキングファイヤー。

 ジャックプライムくんをサポートする4機のパワードデバイス“キングフォース”。

 そして――



「ジャックプライム、スーパーモード!
 キング、フォーメーション!」




 ジャックプライムくんが叫ぶのにあわせて、キングフォースはあの子の周りを飛翔し、合体体勢に入る。



「キングジャイロ! キングファイヤー! 各アームモードへ!」



 キングジャイロとキングファイヤーはそれぞれジャックプライムくんの左腕、右腕に合体、より巨大な腕となり、



「キングドリル! キングマリナー! 各レッグモードへ!」



 同様の指示を受けたキングドリルが右足に、キングマリナーが左足に合体、こちらもより巨大な両足となる。

 その一方でジャックプライムくんの胸部装甲が展開――ミッドチルダ・トランスフォーマーのリーダーに代々受け継がれてきた“第2のマトリクス”の輝きによって、内側から照らされた新たな胸部装甲が姿を見せる。



「ディスチャージサイクル、スパークパルスコンディション、メインプログラム・システムチェック、各ウェポンシステム、スラスターバランス――その他いろいろ、オールオッケイっ!」











「スーパーモード――キングコンボイ!」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ジンジャー!」

《はいっ!》



 私の呼びかけに応え、バルディッシュからあふれた光は一点に集まる――それは一瞬にして物質化。私のもうひとりの相棒へと姿を変える。



 鳳凰をモチーフとしたパワードデバイス“ジンジャー”。私と一緒に戦うだけじゃなくて、分離して私の鎧となったり、いざとなればバイク形態にもトランスフォームできたりする。



「ジンジャー! パワードクロス!」

《了解です!》



 そして、今は鎧になってもらうことを選んだ――分離したジンジャーがマントを取り外した私の身体に装着されていく。

 分離したジンジャーの四肢が両手足に、翼が背中に、そして頭部が私の左肩に装着され、取り外していたマントが翼の間に垂らされる。

 改めて戦闘態勢を整え、私は対峙するジェノスラッシャーやショックフリートへと向き直る。

 ブラックアウトはティアナとジェットガンナーが抑えてくれている。二人への負担を減らす意味でも、ここは私が……!



「上等じゃねぇか!
 オレ達二人を、たったひとりで相手するってかっ!」

「なめられたものだな!」



 けど、向こうもそう簡単にいく相手じゃない。飛び込んできたジェノスラッシャーがすれ違いざまにくれ出してきた翼による斬撃をバルディッシュで受け流すけど、そこへショックフリートがエネルギーミサイルをばらまいてくる。

 もちろん、かわせない攻撃じゃないけど――そこにジェノスラッシャーが飛び込んでくることで、その攻撃は格段にその凶悪さを増す。

 破壊の光弾の群れの中を飛来する必殺の斬撃は、装甲の薄い私を撃墜するには十分すぎる威力を持つし、エネルギーミサイルだって、一発では墜ちなくても、姿勢を崩されるには十分すぎる。そこにたたみかけられたら――



 一発の被弾も許されない状況の中、私は機動をフルに回して反撃のチャンスを探る。

 そんな私に向けて、再びジェノスラッシャーが飛び込んでくる。翼をひるがえしてロボットモードにトランスフォーム。翼から分かれた両腕のビーム砲をこちらに――って、攻め方を変えてきたっ!?



 繰り返された一辺倒のコンビネーションに慣れていた……ううん、きっとこの瞬間のために意図的に慣らされていたと思う。とにかく相手の攻め方の変化に私は対応できなかった。

 とっさにシールドを展開して防ぐけど、そのせいで動きを止められてしまう。そこへ、ショックフリートのエネルギーミサイルがここぞとばかりに殺到してくる。

 ジェノスラッシャーじゃなくてこっちが本命!? 回避――ムリ、ソニックムーブの発動も間に合わない!



 背筋の凍りつく私に向け、エネルギーミサイルが襲いかかり――























 目の前に飛び込んできた人影の展開した防壁が、エネルギーミサイルをひとつ残らず受け止めていた。























 防壁を展開していた左手を引き、代わりに右手をかざす――そのすぐ前にすさまじい熱量が発生、放たれた熱線を、ジェノスラッシャーが後退して、ショックフリートが空間に溶け込んで回避する。



 そして――







「あのさぁ……
 恭文が心配なのはわかるけどさぁ……オレのことが気に入らないなら、そのオレに助けられるようなポカすんじゃねぇよ」







 ため息まじりにそう告げて、ジュンイチさんは右手に残った炎の残滓を振り払った。



「って、ジュンイチさん!?
 空港に向かってたんじゃ……」

「んー、最初はそのつもりだったんだよねー。かがみやつかさもいたみたいだし」



 驚く私に答えて、ジュンイチさんは苦笑まじりに頭をかき、



「よく考えたら、心配いらないかなー、って。
 だって……あそこにゃ恭文がいるんだしな」



 恭文が……?

 でも、相手はあのマスターギガトロンなんですよ? マスターコンボイやかがみ達がいると言っても、マスターギガトロンが相手じゃ……!



「だから、心配いらないっての」



 けど、そんな私の心配を、ジュンイチさんは軽く笑い飛ばしてみせた。



「恭文なら負けないよ。
 だって……」











「アイツは、オレの“友達”だ」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「とりあえず……まいたみたいだね」

「けど……間違いなく追ってきてると思うわよ。
 ここぞとばかりに、マスターコンボイを叩きたがってたし」

「だよねー……」



 最初にロックダウンと出くわした物流ターミナルに逃げ込んでとりあえず一息。ここならガレキで隠れるところなんていくらでもあるし、あちこち爆発してるその熱量で、センサーもある程度はごまかせるはずだ。



「けど、だからこそここに隠れてるってのは読まれてると思うわよ」

「仰る通りで」



「…………おい」



 かがみの言葉に苦笑する僕に声をかけてきたのは、かがみとつかさによってここまで運ばれてきたマスターコンボイだ。



「どういうつもりだ? いきなり戦略的撤退など」

「それをマスターコンボイが言うワケ?」



 迷わず返した僕の言葉に、マスターコンボイが押し黙る……うん、ちゃんと自覚はあるみたいだね。



 さっき、マスターコンボイがラグナッツの体当たりから僕を守ってくれたあの時……あの体当たりをくらっただけにしては明らかにダメージが深すぎた。

 たぶん、ラグナッツの体当たり以外にも攻撃を喰らってる。つまり――





「飛び込んできた時に、マスターギガトロンの攻撃、何発かもらってたでしょ。
 それも、行動に支障をきたしかねないくらいのダメージ」

《あなたには悪いと思いますが、あのままあなたに戦闘続行されても正直ジャマだったので、あの場を退いて仕切り直させていただきました。
 少なくとも、自己修復で戦闘に復帰するまで、くらいの時間は稼げるかと》

「余計なマネを……!
 オレがジャマだと? この程度のダメージで、このオレが……」



 反論するマスターコンボイの言葉を皆まで聞かず、僕はしゃがみ込むマスターコンボイの後ろに回ると、その背中をアルトで軽く小突く。

 とたん、マスターコンボイが痛みにうめく――これのどこが『この程度のダメージ』なのさ?



「まったく……あの横馬といいジュンイチさんといい、なんで僕の周りはこうもやせがまんする人ばっかりなんだか」

「ジュンイチさんも……?」



 ため息をついた僕の言葉に、かがみが思わず声を挙げたのが聞こえる。

 まぁ、いつもやせがまんしてる横馬だけじゃなくてジュンイチさんの名前まで挙がったのが意外なんだろうね。

 あの人のことだから、みんなの前じゃ絶対にそういうところを見せてないだろうし……



「…………あぁ、そうだったな。
 話に聞く、貴様がヤツの“友”となった一件と、状況はかなり似通っているな……」



 ……って、マスターコンボイ、どうしてそのこと知ってるの!?



「八神はやてを問い詰めてな……聞き出した」



 あー、そういうことですか。



 つか、はやてもあっさり話すんじゃないよ。人の過去の話をさ。

 別に後ろ暗いことがあるワケじゃないけど……こう、恥ずかしいじゃないのよ。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 あれは、はやて達経由でジュンイチさんと知り合って、それほど経ってなかった頃の話。

 ちょっとした仕事の過程で、僕はオーバーSランクの違法魔導師とガチでやり合うハメになった。

 で、なんとか勝ったワケだけど……被害がなかったワケじゃない。



 ジュンイチさんが、当時は今ほど強くなかった僕をかばって被弾したのだ。



 それも、ジュンイチさんの力場とは相性の悪い実体弾。当然防御は抜かれてジュンイチさんはモロにくらった。

 けど、ジュンイチさんはぜんぜん平気な顔をしていた。ごくごく平然と、その違法魔導師をしばき倒してた。

 なもんだから、僕はその時はただ獲物を奪われたことを悔しがったりしてたんだけど……







「…………ひどい?」

「ひどいわね」



 尋ねるジュンイチさんに、シャマルさんの非情な宣告が容赦なく下る。断言され、ジュンイチさんは痛みに顔をしかめながらため息をつく。



 そう。結局、ジュンイチさんのダメージはぜんぜん大丈夫じゃなかった。

 気づかず、出番を奪われたことを悔しがっていただけの僕と違って、そんなジュンイチさんの状態をしっかりと見抜いていたシャマルさんによって強制的に診察が行なわれた結果、そのダメージが僕なんかの想像をはるかに越えたものだったことが判明したワケだ。



 というか……ジュンイチさん。

 普通の人間は、服はぎとったら身体の大半内出血だらけになってるような状態で平気な顔なんかできないんです。背骨へし折られていても平然と歩き回ったりできないんです。内蔵半分くらいつぶされているのを『大丈夫』って言わないんです。



「まったく……どうしてこんな状態で平気な顔ができるの?
 あなたの超回復は、ブレードさんのそれほど強力じゃない。強化人間としての身体がその命を維持しているだけで、動き回っていていい状態じゃないのよ」

「ンなの、オレだってわかってんだよ。
 けど……オレがこんなだって、知られちゃマズイ連中がいるだろうが」



 あぁ、シグナムさんとか師匠とかだね。

 あの二人、ジュンイチさんとはいつもケンカしてるようでいて、その裏でそうとうつながりが深いみたいだからなぁ。なんか複雑な因縁があるらしくって、僕は詳しくは知らないけど。



「オレがこんなだって知ったら、アイツらはきっと笑顔でいられない……それに、はやてだって。
 アイツらや、みんなの笑顔を守りたくて戦ってるのに、そのオレがアイツらの笑顔を奪う原因になっちまったらダメだろうが」



 そう告げるジュンイチさんだけど……アルト。



《はい。
 ここはきっちり言っておくべきでしょう》

「だよね」



 相棒の許可を得て、僕はシャマルさんの診察を受けるジュンイチさんの傍らに。右手をグーで振り上げて――







 ジュンイチさんの脳天に叩きつけた。







「ってぇっ!?
 何すんだ、恭文!?」

「やられるようなバカ言ってるからでしょうがっ!」



 顔を上げ、文句を言うジュンイチに、僕も力いっぱい言い返す。



「『みんなの笑顔のため』!? ちっとも守れてないでしょうがっ!
 少なくとも、今のジュンイチさんのその状態を知って、僕やシャマルさんは笑顔になんか絶対なれないっ!」



 そう。シャマルさんがジュンイチさんの不調を言い当てた時、僕は本当に驚いた。

 だって、本当に平気そうな顔をしていたから。出番を取られてむくれる僕の背中をバシバシ叩いて、豪快に笑っていたから。

 そんなジュンイチさんの姿を見ていたから……ケガの具合を知って、何も知らずに唇を尖らせていた自分を思い切りぶん殴りたくなった。



 きっと……シグナムさんや師匠や狸が知っても同じだと思う。もちろんリインも。



「だいたいねぇ、ジュンイチさん、仮に僕らがそんなジュンイチさんを認めて、ご要望通り笑顔でいられたとしても……それでも、『みんな』の笑顔は守れてない。
 だって……当のジュンイチさんが、ちっとも笑顔じゃないじゃないのさっ!」



 真っ向から鼻先に右の人さし指を突きつける僕の言葉に、ジュンイチさんが思わずうめく。



「みんなの笑顔を守りたいんでしょ? 笑顔全部守りたいんでしょ?
 だったら、どうして自分の笑顔も守らないのさ!? そんなんでよくそんなことが言えるね!?」



 そんな本末転倒の守られ方したって、きっと誰も笑顔になんかなれない。

 本当にみんなの笑顔を守りたいなら、何よりもまず守らなきゃならない笑顔がある。

 守ろうとする本人。ジュンイチさん自身が笑顔でいなくちゃ――なのに、この人はそれをちっとも守れてない。



「本当にみんなに笑顔でいてもらいたいなら、まずジュンイチさんが笑顔でいて。
 それも、痛みをこらえた作り笑いなんかじゃない。本当に心からの、掛け値なし100%の笑顔でね」



 そうして放った僕の一言――ある意味、それが僕らの関係を決定づけたと言ってもいいかもしれない。



「もし、ジュンイチさん自身にそれができないっていうなら……」



















 

「僕が、その笑顔を守ってやろうじゃないのさっ!」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 あの一言がきっかけで、僕とジュンイチさんは“友達”になった。

 「自分を守る」と言い切った僕のことを、ジュンイチさんは背中を預けられる相手として、対等のフィールドに立つ資格を持つ相手として扱ってくれるようになった。

 「そうなるに相応しい実力を身につけてもらわなきゃ」ってことで、先生や師匠顔負けのスパルタ特訓とかかましてくれたりもしたけどね。



 ……なるほど。確かにダメージを隠していた今のマスターコンボイはあの時のジュンイチさんに重なるや。



「もっとも、貴様の目もあざむけんようではな……やはり、あの男のようにはいかんか。
 まぁ……オレは別に、貴様の“友”というワケでもないしな」

「当然でしょうが。
 マスターコンボイはジュンイチさんじゃない。あの人みたいにいくワケないじゃないのさ」



 苦笑するマスターコンボイに答え、僕は答えてため息をつく。



「それにね……マスターコンボイ、ひとつカン違いしてる」

「何…………?」

「だってさ……」











「少なくとも、僕はもうとっくに、マスターコンボイの“友達”のつもりなんだけど?」











 うん。なんつーか……そういうつもり。



 何かと突撃してくるスバルをうまくいなしてフォローしてくれたりするし、一緒にいてもイヤな感じがしない……うん、人付き合い的な意味でね。決してはやての好みのシチュ的な意味じゃないからね?

 そして何より、ヒューマンフォームの時は僕と同じ悩みを持つ“同志”なワケだし。



「オレが……友達、か……?」

「そ。
 まぁ、そういうのになじみのないマスターコンボイには実感がわかないかもしれないけどさ」

「それは……な。
 正直……貴様に『友達』と言われて、戸惑っている」



 答えて、マスターコンボイは息をつくけど……



「だが……悪くはないものだな」

「でしょ?」



 その口元には確かな笑みが。答えて、僕も苦笑まじりに肩をすくめる。



《さて……それはともかく、そろそろ戦闘再開の準備を始めた方がいいですかね?
 マスターギガトロンの反応がこちらに向かっています……かぎつけられましたね》

「えぇっ!? もう!?」



 けど、のんびりできるのはもうそろそろ限界みたいだ。アルトの言葉につかさが声を上げるけど……



「仕方ない。
 返り討ちにするとしようか」

「大丈夫なの?」

「問題ない。
 よくはわからんが、テンションが上がってきて、暴れずにはいられないほどだ」



 尋ねる僕に答えるマスターコンボイは本当に飛び出さずにはいられない、といった感じだ……僕の友達宣言、そんなにうれしかったんですかアンタ。



「さぁな。
 だが……今ならマスターギガトロンだろうが負ける気はしないな」

「そっか。
 そいつは頼もしいね」







「言ってくれるな!」







 その言葉と同時――近くの、僕らの姿を隠していたガレキの一角が吹き飛んだ。



「まさか、こんなバレバレなところに隠れているとは思わなかったぞ。
 おかげで、ムダに裏をかいてぜんぜん別の場所を探してしまったぞ」

「うわわわわっ、来たぁっ!」



 考えるまでもない。マスターギガトロン達の登場だ――あわてるつかさだけど、





「下がっていろ」





 そう告げたのはマスターコンボイ。オメガを手に立ち上がり、僕らの前に進み出る。



「言ったはずだぞ。『今ならコイツらにも負ける気がしない』と。
 今や、ヤツの相手などオレひとりで十分だ」



 おーおー、すごい自信だねー。



 けど……ひとつ忘れてるよ。



「はい、ちょっと待ってよね。
 僕やアルトだって、まだまだ暴れたりないんだからさ」



 そう。僕らのことだ。アルトを肩に担いで、マスターコンボイのとなりに並び立つ。



「だからさ……一緒に叩こうじゃないの。
 友達、でしょ? 僕ら」

「まぁ、な」

「ごちゃごちゃと……何を話している!?」



 笑みを浮かべる僕と答えるマスターコンボイに、マスターギガトロンが触手を飛ばす――けどっ!



「そんなもの……」

「お前をぶちのめす相談に、決まってるでしょうがっ!」



 今さら、そんな攻撃が通じる僕らじゃない。あっさりとかいくぐった僕の繰り出したアルトがマスターギガトロンの鼻先を痛打。ひるんだマスターギガトロンを、同じく飛び込んできたマスターコンボイが蹴り飛ばす。



 残念だったね、マスターギガトロン!

 戦いってのは……ノリのいい方が勝つんだよっ! テンション上がりまくりの今の僕らに、冷静なまんまのお前が勝てるはずないでしょぅがっ!



「そういうことだっ!
 さっさと叩くぞ、蒼なg……いや……」









「恭文っ!」









「りょーかいっ!」



 迷うことなくうなずく……うん、本当に一切の迷いなく。

 自然と動いた。ごくごく当然のように。



 そして……僕とマスターコンボイは同時に叫ぶ。









『ゴッド――オン!』









 その瞬間――僕の身体が光に包まれた。強く輝くその光は、やがて僕の姿を形作り、そのままマスターコンボイと同等の大きさまで巨大化すると、彼の身体に重なり、溶け込んでいく。

 同時、マスターコンボイの意識がその身体の奥底へともぐり込んだのがわかる――代わりに全身へ意思を伝えるのは、マスターコンボイの身体に溶け込み、一体化した僕の意識だ。



《Saber form》



 トランステクターのメインシステムが告げ、マスターコンボイのボディカラーが変化する――グレーだった部分が、まるで染め上げられていくかのように青色に変化していく。

 それに伴い、オメガが分離――巨大な両刃の剣が真ん中から別れ、二振りの刀となって両腰に留められる。

 そして、ひとつとなった僕ら二人が高らかに名乗りを挙げる。







《双つの絆をひとつに重ね!》

「ふざけた今を覆す!」



「《マスターコンボイ・セイバーフォーム――僕(オレ)達、参上!》」







「バカな……!?
 貴様ら二人が、ゴッドオンだと……!?」

《そういうことだ。
 残念だったな……今のオレ達に不可能はないっ!》

「知らないようだから教えてあげるよ。
 友情パワーでパワーアップっていうのはね、こういうバトルもののお約束なんだよっ!」



 まぁ、そういうあなたのリアクションも、じゅーぶんにお約束なんだけどね。

 僕らの初ゴッドオンに驚くマスターギガトロンに向け、僕はマスターコンボイの身体で一歩を踏み出す。



 ……というか……











 視点、高っ!











 すごいっ! すごいよっ! ナチュラルにいろんなものを見下ろしてるよ、今の僕っ!

 あぁ、こんなに大きくなれるなんて、神はやっぱりいたんだっ!



《まぁ、マスターコンボイの身体を借りてるだけですから、ゴッドオンを解けば元に戻るんですけどね》



 はい、そこ黙るっ! 重要なのは今この時なんだよっ! 僕がおっきくなってるこの瞬間なんだよっ!



 ……つか、アルトは今どんな感じなのさ?



《二つになったオメガの一方に宿っている感じですね。
 なんかこう……落ち着かない感じです》

《私は感激だよ、姉様っ!
 今、私が姉様に身体貸してんだよなっ!?》



 あー、なるほど。分離したオメガの制御をそれぞれで担当してるワケか。





 …………さて、状況確認はこんなものでいいでしょ。

 ゴッドオンした僕らの力は……これから実地で確かめるっ!



「なめるなぁっ!」



 そんな僕らに向け、マスターギガトロンが改めて触手を放つ。進路上のガレキを薙ぎ払いながら、のた打ち回るように僕らに向けて破壊の渦が迫り来るけど――



《そんなもの――》

「当たるワケないでしょうがっ!」



 今さらそんなのに当たる僕らじゃない。地を蹴り、ステップを駆使してかいくぐり、あっさりとマスターギガトロンの懐に飛び込む。

 腰の両側に留められたセイバーモードのオメガ――アルトも宿っているそれをそれぞれ抜き放ち、マスターギガトロンにたて続けに叩きつけるっ!

 一応訓練したことはあるって程度で、二刀流ってそれほど経験ない僕だけど、身体の方が自然に動いてくれる。流れるような動きで連撃を叩き込み、マスターギガトロンを吹っ飛ばすっ!



 というか……速っ!

 えっと、加速魔法とか使ってないよね!? なんか、こんなでっかいボディでいつもの僕よりずっと速く動けてない!?



「ば、バカな……っ!
 何だ、この速さは……っ!」

《どうやら、この速さがこの形態の特徴のようだな》

「そだね。
 マスターコンボイの身体で、いつもの自分より明らかに重量増してるのに、むしろいつもよりぜんぜん速く動けてる感じなんだよね」

《扱い的には、エリオ・モンディアルとのサンダーフォームと同じ感じでいけるか……恭文!》

「オッケイッ!」



 マスターコンボイに答え、僕は再び立ち上がったマスターギガトロンへと突っ込む――反撃も許さず、もう一度一方的に連撃をぶち込んでブッ飛ばす!



「マスターギガトロン様に何するっツかっ!」

「大事な金ヅルだ! やらせるかよっ!」



 完全に流れのかたむいた戦いの様子に、ラグナッツやロックダウンがあわてて救援に動くけど……



「行かせないよっ!」

「今度は、アンタ達が足止めされる番よ!」



 残念でした。こっちにはかがみ達がいる――あっさりと二人の前に立ちふさがり、さっき自分達がやられたみたいにヤツらの援護を封じ込める。



 二人とも、そのままジャマ者抑えててよ。

 その間に――このまま一気にフィニッシュ、決めちゃうからさ!



《恭文!》

「うん!」



「《フォースチップ、イグニッション!》」




 僕とマスターコンボイの咆哮が交錯し――僕ら二人のもとにセイバートロン星のフォースチップが飛来した。そのまま、背中のチップスロットに飛び込んでいく。

 それに伴って、僕が宿るマスターコンボイの両足、両肩の装甲が継ぎ目にそって展開。内部から放熱システムが露出する。



《Full drive mode, set up》



 僕らに告げるのはトランステクターのメイン制御OS――同時、イグニッションしたフォースチップのエネルギーが全身を駆け巡ったのがわかった。四肢に展開された放熱システムが勢いよく熱風を噴出し始める。



《Charge up.
 Final break Stand by Ready》




 強烈なエネルギーが周囲で渦巻く中、制御OSが告げる――僕らのかまえた二振りのオメガに、フォースチップのエネルギーが集中していく。

 そして、僕らは地を蹴った。

 ヨロヨロと身を起こすマスターギガトロンとの距離を一気に詰めて――





《鉄煌――》



「双閃っ!」





 双剣による渾身の二連撃が、マスターギガトロンの胸に思い切り叩き込まれる!



 間髪入れず、僕らが後退――同時、マスターギガトロンに叩き込まれたフォースチップのエネルギーが炸裂した。余波で周囲に飛び散っていた余分なエネルギーにも引火。大爆発となって、マスターギガトロンは大きく放物線を描いて吹っ飛んで大地に叩きつけられる。



「…………ぐぅ……っ!」



 あ、まだ生きてる。けっこう本気で叩き込んだのに、しぶといなぁ。



「マスターギガトロン様っ! 大丈夫っツか!?」

「あぁ……問題ない」



 かがみとの戦いを放り出し、あわてて駆け寄るラグナッツにマスターギガトロンが答える……そうかい。まだまだ問題ないんかい。

 だったら……大問題になってもらおうかっ!



 今度こそトドメを刺すべく、僕は地を蹴り、マスターギガトロンへと襲いかかる――けど、一瞬早くマスターギガトロンとラグナッツの姿がかき消える。



 転送魔法か――くそっ、逃げられたっ!



「って、こら、待ちなさいっ!」



 一方、背後で上がるかがみの声――振り向くと、ロックダウンがビークルモードにトランスフォーム、かがみの制止も聞かずに走り去っていくところだった。

 あっちも、クライアントの逃亡と同時に撤退か。本当に抜け目ないなぁ。



《まぁ……これもまたお約束……というヤツか》

《そうですね。
 そう簡単には決着はつきはしないということですか》

「だね」



 そんなこんなで、結局決着はつかずじまい。



 友情パワーで合体なんてどこのジャンプ漫画ですか的なパワーアップを果たした僕らだけど、、結局“レリック”もラグナッツとしてマスターギガトロンに持っていかれた形だし……うーん、実質負け戦、かな?



《そうでもないさ。
 見方を変えれば、奪われこそしたが、所在はハッキリしているということ――奪い返す余地が残されている以上、この仕事はまだ終わってはいない。
 ラグナッツを叩き伏せ、こちらに連れ戻す……それで解決する話だ》

「まぁ、それもそうだね」



 とりあえず、次会ったらきっちりケリをつけるとしましょうか。



《………………あぁ、それから》



 ん? 今度は何?



《一応言っておく。
 ……これからも、よろしく……とな》



 あー、“友達”として再出発、とか?

 別にいいのに。友達なんだから、そんな気を遣わなくてもさ。



《そ、そういうものなのか?》

「そういうものなの」



 うん。そういうものなんだ。



 ……うん。別に改めてあいさつされたのが照れくさいからごまかした、なんてことはない。絶対ない。



《マスター、一体どこのツンデレですか》



 うるさいよ。



 ツッコむアルトへのリアクションはひとまず保留して――とりあえず空を見上げてみたりする僕であった。











(第13話へ続く)


次回予告っ!

マスターコンボイ 《ところで恭文》
恭文 「んー? 何?」
マスターコンボイ 《いつまでゴッドオンしているつもりだ》
恭文 「あー、もうちょっと」
マスターコンボイ 《…………高くなった視点を満喫したい気持ちはわかるが、ゴッドオンを解いた時のやるせなさを助長するだけだぞ》
恭文 「……………………ほっといて」

第14話「忘れさせちゃいけないことがある。
 壊させちゃいけないものだってある」


あとがき

マスターコンボイ 「……と、いうワケで、1クール目の締めくくりとなるディセプティコン復活編の後編だ」
オメガ 《…………ボス、あなたは本当にボスですか?》
マスターコンボイ 「………………?
 どういう意味だ?」
オメガ 《今回の本編をみてくださいよ。
 こんなカッコイイのがボスなはずないじゃないですかっ!》
マスターコンボイ 「どういう意味だ、それはっ!?」
オメガ 《だってそうじゃないですかっ!
 『とまコン』連載開始以来、(主にこの場で)みんなのおもちゃであり続け、愛されるべきマスコットとしての地位を順調に築き上げてきたのに、ここに来て何を方針転換してるんですかっ!》
マスターコンボイ 「いや、その主張からしておかしいだろ!
 オレはこの作品の男性主人公チームの一角だぞ!」
オメガ 《だから、主人公男性組のマスコット要員でしょう?》
マスターコンボイ 「違ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁうっ!」
オメガ 《まったく、何をわがままなことを》
マスターコンボイ 「どっちがだっ!?」
オメガ 《ボスがですよ。
 ……まぁ、いいでしょう。からかうのはこのくらいにして、今回のエピソードについての話に移りましょうか》
マスターコンボイ 「そもそもからかうなっ!
 ……で、今回の話だが……冒頭でも語った通り、ディセプティコン復活編の後編だな」
オメガ 《そして、ボスがミスタ・恭文にフラグを立てられるお話ですね》
マスターコンボイ 「そういう八神はやてが喜びそうな言い回しはやめてもらおうかっ!?」
オメガ 《けど、友達になったワケですよね? ミスタ・恭文と》
マスターコンボイ 「まぁ……な」
オメガ 《しかし、ボスにとっては初めての“友達”ですからねぇ。
 暴走イベントフラグとしては十分すぎますよ》
マスターコンボイ 「おいおい……まさか、作者のヤツ、それを元に騒動を起こしたりしないだろうな?」
オメガ 《何言ってるんですか。
 そこはむしろ起こしてもらわないと》
マスターコンボイ 「起こされるこっちはたまったもんじゃないんだよっ!」
オメガ 《そこがいいんじゃないですかっ!》
マスターコンボイ 「断言された!?」
オメガ 《しますとも!》
マスターコンボイ 「……相棒の教育、間違ったかなぁ……」
オメガ 《そもそも教育してないクセに何言ってるんですか》
マスターコンボイ 「………………」
オメガ 《あ、崩れた。
 えー、そんなワケでボスが使い物にならなくなったので、今週はここでお開きとさせていただきます。
 また来週、お目にかかりましょう。それでは♪》
マスターコンボイ 「オレは……オレは……っ!」

(おわり)


 

(初版:2010/09/25)