……抵抗って、無意味だよね。



 空戦S+試験の件で、隊長陣と緊急対談を終えた僕の意見は、この一点だった。



 そう言って……思い出す。なぜ……何故やっちゃったのかと、疑問を感じてしまった時間を。




















「……とにかく、いろいろと心配してくれているのはありがたい。考えていてくれたのもうれしい。
 だけどっ! 僕になんの事前相談もなしに決めるのは本当にやめてっ!」



 ミーティングルームの机をドンっと叩いて断言する。みんなの反応は……うわ、どこ吹く風かい。



「まぁそう言うな。嘱託魔導師の試験以来、そういったものを受けていないだろう。
 あの頃から考えても、お前はずいぶん成長しているからな。きっと必要なことだ」



 お茶を飲みながらそうなだめるのは、烈火の将であるシグナムさん。

 まぁ、なんというか……無理にでもやれという対応じゃないのがありがたい。



「そうだよ恭文くん。能力にあったランクの保有は、ある意味義務みたいなものなんだから。
 ……あの、なんでそんな怖い目でにらむの?」

「なのは、にらまれない要素がひとつでもあると?」

「…………ありません……
 でもっ! ちゃんとそういうのはしておかないと、仕事にだって差し障るよっ!」

「むしろ、取った方が差し障るでしょうが」



 ……僕が魔導師の昇格試験を今まで一度も試験を受けなかったのには、いくつか理由がある。



1.めんどくさい。

2.興味ない。

3.やる気がない。




「……なぁ、ホンマにその性格直そうや。つーか、どれも同じ意味やんっ!」

「これから言うのが重要なんだよ。
 ……Sランクになったら、間違いなく能力制限にひっかかるレベルでしょうが。そんなのやりにくくてしょうがない」





 例えば、部隊に正式な局員として入った場合、Sランク保有というのは、間違いなく足かせになる。



 一部隊が保有出来る魔導師の能力には、制限がある。と言っても、六課みたいなムチャな編成でもない限り問題のないレベルのものだ。

 ただ、なのはや、師匠達のような、Sランクor二アSランクといったレベルとなると、一部隊ではひとりか二人くらいしか保有することができない。



 そんなので、居心地のいい部隊を異動させられたり、入りたいところに入れないくらいだったら(顔見知りの実話)生涯一Aランクを貫いた方が楽である。



 あと、これが一番重要なんだけど……リミッターなんぞかけられることで、ただでさえ一般レベルな魔力が少なくなるのは絶対に避けたい。

 と言っても、本当にそうなるかどうかわからないけどね。

 ただ、高ランクってのはどうしてもそういうものに関わりやすい……イヤなのよ、それ。





「あー、それがあったなぁ」

「でしょ?」



 正直、先生レベルなら関係ないだろうけど……そういうワケじゃないもの。



「まぁ、その辺はアタシやなのはが対策考えといてやるよ……つーか、師匠命令だ。ゴタゴタ言わずに受けろ」

「師匠、悪いですけど今回ばかりは、『はいそうですか』っていう具合にはきけません」

《珍しく強気に出ましたね。マスター》



 当然である。こっちだって、めんどくさいって理由だけで今まで受けなかったワケじゃない。

 いろいろと制限がかかると、戦闘技能だけでどーにかできるレベルでそれが収まるかどうかも現時点では読めないのだ……まぁ、当然だけど。



 にも関わらず、手続きまで相談なしで済まされているのだから、ちょっとムカついている。ここは、ケンカしてでもノーと言わなくてはならない。



 こっちには、こっちの都合というものがあるのだ。予定と構想というものがあるのだ。

 それをガン無視もいいところなのだから、ムカつかないはずはない。悪いけど、「はいそうですか」じゃ納得できない。





 それに、僕が怒ってるのはそれだけじゃない。



 僕のとなりで、自分よりも僕の主張を優先してずっと黙っていてくれる“友達”のこともあるからだ。





「そして何より……ジュンイチさんを巻き込んでるのが容認できない。
 何でジュンイチさんまで受けさせることになってるのさ? よりにもよってあからさまにアンチ管理局の人をさ」

「だ、だって、ジュンイチさんだって局の依頼で仕事するんだよ?
 だから、ランクは持ってた方がいいかなー、って……」

「この人が、仕事に必要な資格を取らないままいるワケないでしょうが。
 必要がない、なかったから、今までランクなしを通してるんだよ、この人は」



 なのはの主張は迷うことなく一蹴する……そうでしょ? ジュンイチさん。



「恭文の言うとおりだな。
 別にランクがあろうがなかろうが、オレにとっては関係ない――実際、今でも依頼が来るのは、相手がオレに対してランクとは別のものを見ているからだと思うがね」

「そういうことだよ。
 少なくともはやては、ジュンイチさんのそういうところは知ってるでしょ? なのに何巻き込んでるのさ?」



「ヤスフミ……どうしても、イヤなの?」





 少しだけ、悲しい色を秘めた瞳で僕に聞いてきたのは……フェイトだった。





「事前に相談しなかったことは、その、悪かったと思うよ。
 でも……はやても、ヴィータもシグナムも、もちろんなのはだって、ヤスフミ達のこと心配して言っているのは、わかってほしいな」

「わかってるよそれは。
 だけど……僕やジュンイチさん自身に降りかかることだもの。最終決定権くらいは、僕らに預けてほしかった」

《まぁ、それは私も同意見ですね。マスターはあなた方と違って、決して全てにおいて恵まれた資質を保有しているワケではありません。むしろ、歪です。
 制限をかけられる立場に立つという事は、いろいろな状況で苦しくなるのは明白ですから》



 その通りである。それで面倒事が増えるなど、絶対にイヤなのだ。やるのは僕だし。



「うん、それはわかるよ。わかるの。だけど……」

「だけど、何?」

「それでも、うちらの意見としては取るほうがえぇんやないかと思ったんや。もちろん、アンタらに降りかかることや。うちらはそれでなんも助けてやれんかもしれん。
 これからアンタらが進む道には、Sランクなんて単なるお飾りにしかならんかもしれん。けど……恭文達で努力して、得られるひとつの結果になるのは間違いないと思う」

「だから、オレまで巻き込んだのか?
 恭文とアルトアイゼンだけじゃなくて……オレも一緒に、ひとつの目標を目指させたくて」



 聞き返すジュンイチさんに、珍しく真剣な顔ではやてがうなずく。



「少なくとも……あたしは別に『Sランクになれ』とか言うつもりはないよ。
 けどね、魔導師として、戦闘者として、恭文はもっと強くなれると思う。
 ランクそのものじゃなくて、そこまでの過程を大事にしてほしいの。もっと強くなるための修行……試験はそのための口実。そういうふうには考えられないかな?」



 アリシアも、か……

 周りを見ると、みんなも同じ表情。つまり……同じ意見。





「まぁ……アレだ。確かにアタシ達もちょっと急すぎたし、お前のためにジュンイチまで巻き込んだ。そこは悪いと思ってる。
 でもよ、はやての言う通り、何かしらの結果だったり、成果は得られるはずだ。
 だから、受けてみねぇか? ランクどうこうは関係ねぇ。お前らの今までの成果、試験にぶつけてみろよ」





 …………はぁ。





「二つ条件があります」

《そうですね》

「まずひとつ。試験の後、僕らが取得したランクを、返却しようがずっと持ってようが何ひとつ文句を言わない事。
 要するに、ランクの扱いは僕達の勝手にさせてもらいます」



 一応、ランクや資格ってのは、個人の事情での返却が認められている……まぁ、審査と面接があるけどね。

 つか、ランクや資格は、正式な局員であれば出世や待遇に直結する。普通はやろうとはしない。

 だけど、今回はやる。要事情と相談だけど。



《それが飲めないのであれば……残念ですがこの話は平行線です。
 私も、マスターのやる気がないのに無理に勧めるようなことはしたくありませんから》

「ヤスフミ、アルトアイゼン。さすがにそれはないよ。みんなの気持ちを……」

「あぁ、別にかまわねぇぞ」





 さすが師匠。ちゃんと言いたい事をわかってくれた。だけど、ひとりわかってない人間がいた。



 そう、フェイトである。





「ヴィータっ!」

「いいんだよ」

「よくないよっ!」

「……フェイトちゃん、話聞いてなかったやろ? フェイトちゃん以外はみんな今の一言で納得したで」

「え?」



 はやてが、若干呆れ気味で、興奮しかけたフェイトを止める。いや、それはフェイト以外の全員が同じ。

 ……察しが早くて助かる。説明省けるし。



「いいかテスタロッサ。今こいつらは、資格の保有のどうこうは自分達に任せろと言った。つまり……」

「恭文くんも、アルトアイゼンも、『後の事はともかく、試験は受ける。そして絶対に合格する』って言ってるんだよ?
 そして、資格の返上なんてしないで、ずっと保持するっていう選択肢だって考えてくれるんだから」

「……ヤスフミ、そうなの?」

「そーだよ。なのはの言う通り、絶対に合格する。で、ランク保持も検討しようじゃないのさ。結果は保証しないけど」



 ……そう、受けるからには、絶対に合格する。そういう気持ちでこの条件を出した。資格の保有も……まぁ、その時の心情次第だけど、考えておく。

 だって……ねぇ。今まで受かる事前提で話進めてたワケだし、それくらいは言い切らないと。

 まぁアレだよ。なんにも起きないでヒマを持て余すってのもつまらないしね。今日のスバル達見てたら、ちとエンジンかかっちゃった。



 せっかく師匠やなのは達と同じ職場なワケだし、自身のスキルアップを目指すのもいいかもしれない。そう思ったのだ。



《解散までのいいヒマつぶしにはなるでしょうね》

「だね。つか、そうじゃなきゃやる意味ないし」

「ふっ、ようやくやる気になったようだな。では……」

「アタシ達が責任もってみっちりシゴいてやる。覚悟しとけよ」

「はい、よろしくお願いします。師匠」



 まぁ、がんばらないとね。やると決めたし。



「で、もうひとつの条件はなんだ?」

「あ、簡単です。試験は、Sランクじゃないの受けたいんですよ」

『……はぁっ!?』



 そう、Sランク魔導師になんてなりたくない。だって、Sなんだから。僕がなりたいのは……



「空戦AAAっ! あ、僕の場合はプラスが付くのか」

「……えっと、ヤスフミ。なんでSランクがイヤなの?」

「だって、AAAの方がカッコイイじゃないのさ。最初から最後までクライマックスって感じだし」

《あぁ、やっぱりそういうことですか》



 そういうことだよ。あと……



「Sランクになるの、なーんか抵抗があるの。だって、師匠はAAAなワケでしょ?」

「……なるほど、ヴィータに一回でも勝たないとやる気が起きん言うワケか。ランク的には、師匠より上になってまうしな」

「弟子なりの意地といった所か? 超えるべきところを超えずして、そのような真似はできない」

「シグナムさん正解です」

「お前……そんなこと気にする必要ねぇだろうが。アタシはともかく、Sランクのシグナムやフェイトともいい勝負できるようになってんだしよ」

「そんなの関係ありません。だって、僕は師匠の弟子ですよ? 通すべき所を通してないのに、なんで受けなくちゃいけないんですか」





 そう、僕は今まで師匠に一度として勝ったことがない。いい勝負なら何度もあるけど、ギリギリのところで負けるのだ。

 師匠曰く『まだまだ弟子には譲れない』ということらしい。



 にも関わらず、Sランク? 師匠より上? 冗談も休み休みにしてほしい。



 僕にとって師匠は、超えるべき壁のひとつだ。

 フェイトに全勝しようが、シグナムさんを指先ひとつでダウンさせられるようになろうが、ジュンイチさんが裸足で逃げ出そうが、そんなのは関係ない。

 師匠に勝てなければ、師匠より上のランクになる資格などない。



 シグナムさんも言ってたけど、これが、弟子としてのプライドである。絶対に譲ってはいけない。

 譲ったら……僕は、師匠の弟子じゃなくなる。





「……わかったよ。ま、そう言ったことを後悔するなよ? 一生そのまんまかもしれねぇしな」

「さぁ、どうでしょ〜。意外と早く世代交代するかもしれませんよ?」

「バーカ。そんな簡単にやらせねぇよ。アタシだって、これからが伸び盛りなんだからな」



 などと言いながら、師匠と二人で見つめあい、不敵に笑い合う……うん、やっぱりこうじゃなくちゃ、楽しくないよね。



「でもね、ヤスフミ。それは無理だよ。もう手続きしてるし……」

「なんとかしてね♪」

「あの、恭文くん。気持ちはわかるけど、納得して……」

「……聞こえなかった?
 なんとか、してね。じゃないと、僕はやらない。絶対に」



 にっこり笑顔で言い切る……あれ? どうして二人は若干怯えた表情で僕を見るのかな?

 師匠、はやて、苦笑いしないで。僕が悪いみたいじゃないのさ。



「テスタロッサ。なのはもそうだが、あきらめろ。言うことはわからなくはないからな。師弟関係というのは、理屈では語れん」

『……はい』



「で……ジュンイチさんからは何かないか?
 恭文のついでや。要望があるなら聞くで」



「ねぇな」



 迷わずジュンイチさんが即答する……あれ、けっこうやる気?



「あー、そーゆーコトじゃないよ。
 ぶっちゃけ言えばやる気はない」





















「だって、オレ受けないし」





















『………………はぁっ!?』

「いや、だから受けない。
 完全キャンセルよろしく」

「ちょっ、おまっ、それはねぇだろ!?
 せっかく恭文が納得したのに、そこでソレって、いくら何でも空気読めてなさすぎだぞ!?」

「だろうね。
 けど……それでもオレは抜ける。そうする理由がある」



 師匠にそう答えると、ジュンイチさんは人さし指をピッ、と立てて、



「恭文のことを考えると、オレが受けるよりもコイツが……っていうヤツがひとりいる。
 オレの代わりに、ソイツに試験を受けさせたい。オレの試験をキャンセルして、その枠をそいつに回してほしい」

「ジュンイチさん、それって……」

「ん」



 なのはに答えてジュンイチさんが視線で示したのは、この場に文句を言いにやってきた僕らについてきた――







「オレ…………か?」

「そう。
 お前が受けろ――マスターコンボイ」







 そう。マスターコンボイだ。ジュンイチさんに即答され、意外そうな顔をしている。



「ち、ちょっと待ってぇな。
 ジュンイチさん、マスターコンボイは飛べへんのよ? それで空戦は……」

「今のボディになる前は飛べたんだよね?」



 反論するはやてだけど、ジュンイチさんはあっさりと答える。



「つまり、飛行経験は十分にある。今飛べないのは、新生した結果ボディが飛行能力を失ったから……ただそれだけのこと。
 だったらさ、飛行魔法を覚えさせたら、十分いけると思うんだよ。
 で……」



 そう言って、ジュンイチさんはみんなを見回して、



「お前らが言った理由と同じ想い……恭文やアルトアイゼンに、六課で、みんなとがんばって成果を出してほしいって、そういう理由で、オレは自分よりもマスターコンボイを推す。
 恭文とマスターコンボイが“友達”になったのは、お前らだって知ってるだろ? これなんか、コイツらが“友達”として一緒にがんばっていくには絶好のイベントだと思うんだよ」



 ………………うん。

 言いたいことはわかるけどさ。ジュンイチさん、あまり「友達」「友達」って連呼しないでくれるかな?



 なんつーか……照れくさいじゃないのさ。



「もちろん、なのは達と違ってちゃんと意思確認はするぜ。なのは達と違って
 どうする? マスターコンボイ。なのは達と違って、オレはちゃぁんとお前の意思を尊重させてもらうよ? なのは達と違って」

「ふむ……」



 イヤミというスパイスが存分に込められた言葉がなのは達の胸にグサグサと突き刺さる中、マスターコンボイは腕組みして考え込んで……





「………………いいだろう」





 うなずいた。



「先ほどアリシア・T・高町が言っていた通りだ。
 試験そのものには興味はないが、そこに至るための訓練のことを思えば、オレ自身のレベルアップの意味で悪くない話だ。
 オレもその話、乗らせてもらおう」

「そうこなくっちゃな。
 そんなワケで――なのは、恭文の受験内容の変更とオレの受験のキャンセル、でもってマスターコンボイの受験申請、まとめてよろしく♪
 つか、今回の話をまとめて全員で行ってこい。ムチャやらかした責任とって、全員仲良く怒られてらっしゃい♪」



『………………はい』

 

 


 

第15話

人間、誰だってひとりくらいは
 好きになれない相手がいたりする

 


 

 

 ……権力というのはすばらしいものである。どんなムチャな状況でも覆せるんだから。ある意味最強の切り札だね。



 とにかく、僕とマスターコンボイは空戦AAA+の試験を受けることになった。もちろん、Sランク試験はキャンセル。





 ちなみに、はやて達……特に手続きの主だったところを担当していたフェイトやなのはの二人は、担当者からお小言を食らったらしい。

 受験者に意思確認もしないで何してるのかと。当然自業自得なので、放っておく事にする。





















 …………つか、むしろほっときたい気分でいっぱいだよ。











 だって……本当の“問題”は、その後に待っていたのだから。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「そっか……恭文、AAAで試験受けるんだ」

「あず姉と同じだね」

「そだね。
 恭文くん、同じランクを受験する者同士、試験で組めるかどうかはわからないけど、お互いがんばろうね!」



 試験についての話を終えて、夕食時。一緒のテーブルを囲んで、フォワード陣とお話。



 その話題は当然、僕らの受けることになった試験の話。



「で、それにマスターコンボイも付き合う、と……」

「兄さん、今から飛行魔法を習う、って……間に合うんですか?」

「間に合わせるさ。
 柾木ジュンイチのセリフではないが、元々は飛べたんだ。その感覚を思い出せば、決して不可能な話ではない」



 ティアナやキャロに答えて、ヒューマンフォームのマスターコンボイはパンをちぎって口の中に放り込む。

 なんだかんだですっかりやる気だね。こういうの、興味ないかと思ってたけど。



「それにしても、ジュンイチさんも試験受ければいいのに」

「高町教導官達を相手に圧倒できるだけの実力の持ち主だ。SランクどころかSSランクでも問題はないように思えるが」

「ヤだよ、そんなの」



 で、話の流れは残りひとり、唯一完全ボイコットしたジュンイチさんへと移る……けど、ロードナックル(シロ)やジェットガンナーの言葉にも、あっさりとそう答えてココアをすすり……あ、まだ熱かったみたい。ロコツに顔をしかめてる。



「えっと……理由とか、聞いてもいいですか?」

「だってそうでしょうが。
 何が悲しくて、ケンカする相手にわざわざ自分の実力をひけらかさにゃならんのよ?」

「で、でも、高ランクだってわかれば、相手の人も自重したりして、余計な戦いをしなくてすむんじゃ……」

「代わりに、『それでもやる』ってヤツは徹底的に戦力整えて攻めてくるぞ。地上本部に“支配者の領域ドミニオン・テリトリー”なんて引っ下げて現れたギガトロンみたいにな。
 むしろそっちの方が厄介だろうが。だったら、こっちの実力が低いと思って油断してる相手を速攻仕留めて、被害が周りに及ばないうちに片づける方が一番簡単だ」



 キャロやエリオの問いにあっさりとそう答えると、ジュンイチさんは自分のハンバーガーにかじりつき、



「要するに、肩書きでケンカに勝てれば苦労しねぇよ、って話さ。
 それで勝敗が決まるっていうなら、尉官相当、オーバーSまで上り詰めといて、根無し草でランクなしのオレにぼてくり回された方々はどーなるよ?」



 その言葉に、エリオやキャロだけじゃない、スバルやティア、トランスデバイスのみんなも渋い顔をする。

 理由なんて考えるまでもない。ジュンイチさんが誰のことを言っているのかわかったからだろう。



 けど……ジュンイチさん。

 いい加減、その“こき下ろしモード”、解除した方がいいと思いますよ。



 でないと……



「それに……お前らみたいに局の中で上に行こうと思ったら確かに重要だと思うよ、魔導師ランクってのはさ。
 けど、それって逆の言い方をするなら、『局で出世するつもりのないヤツらにとってはどーでもいいもの』っとことにならない?」

















「なりません」

















 ………………遅かった。







 ジュンイチさんにそう答えたのはフェイトだ。ランクのことをあっさりと「どーでもいい」とのたまったジュンイチさんに対して、不満を隠しもせずに冷たい視線を向けている。その迫力に、ついてきていたジャックプライムがドン引きしてるくらいに。



 え? フェイトがいつからいたって? ちょうどシロの「ジュンイチさんも試験受ければいいのに」のところで食堂に入ってきてたんだよ。



 で、そんなフェイトに対してジュンイチさんは……















「…………あれ? いたの?」















 ………………ウソつけ。



 ジュンイチさん、正直に言いなさい。絶対気づいてたよね?

 ジュンイチさんが、同じ室内にいるヤツらの気配を読みこぼすなんて凡ミス、するワケないんだから。



「ジュンイチさんがランクのことをどう思おうとそれは自由です。
 けど、もっと上のランクを目指してる子達のやる気を削ぐようなことを言うのはやめてください」

「他人の意見聞いただけでぐらつくようなやる気なら、むしろ削ぎ落とされてすっかりなくなった方が本人のためじゃね?
 逆に、それでも揺るがないとなれば、それだけその子も本気ってこと……どっちに転んでも損はないでしょ」

「――――――っ!
 そんな屁理屈!」

「『理屈』とつくからには屁理屈も理屈だよ。
 文句があるなら、それ以上の理屈をもって叩きつぶしてみなよ。自分の理屈と合わないからって『屁理屈だ』って安易に否定したりしないでさ」

「………………っ!」



 あああああ、ジュンイチさんの挑発で、フェイトの顔がどんどん般若に……



 これにはスバルやティアナ、ジェットガンナー達トランスデバイス一同も壁際にまで退避。エリオやキャロに至ってはフェイトの迫力に完全に呑まれてガクブル状態だ。



 ジュンイチさんも、それがわかっててもなお笑いながら挑発するから余計に始末が悪い。

 いや、あなたの実力ならフェイトをあしらうくらいはできるだろうけど、巻き込まれる僕らはたまったもんじゃないんですって。



 正直、この場から逃げ出したい……けど、それやっちゃうと本気でフェイトがキレた時に止める人がいなくなるんだよねぇ……

 普段落ち着いてる分、弾けるとすごいからなぁ、フェイトって。溜め込んだ反動が一気に爆発する分、一度キレさせるととんでもないことになる。「本気でキレた時」とシチュエーションを限定した場合、暴走による被害規模はあの魔王すら上回るくらいに。

 でもって、相手はそーゆー手合いは全力全開で迎え撃つジュンイチさん……うん。被害なんか考えたくもないね。



「ジュンイチさん、スバル達の師匠なんですよね?
 師匠として、スバル達の模範になろうとは思わないんですか?」

「反面教師♪」

「真っ当な意味で教師になってくださいっ!」

「マヂか、そんな難しいことできないんだけど」

「普通にしていればいいんですよ!」

「その“普通”の結果が反面教師なんだってわかってる?」



 なんとかジュンイチさんを説き伏せようとするフェイトだけど、ジュンイチさんもひょうひょうとした態度でそれを受け流す。

 おかげでフェイトはますますヒートアップ。ジュンイチさんもジュンイチさんで不敵な笑みを崩さないし、なんか、二人の背後に竜と虎のオーラが見える……











 ……んだけど。











 あのさ、フェイト……フェイトの背後の虎のオーラが阪神のユニフォーム着てるのにはツッコんだ方がいいのかな?



 そしてジュンイチさん、なんであなたの背後の竜のオーラが着てるユニフォームが巨人なんですか? そこはモチーフ的に中日なんじゃないの?











 ……いや、そこをツッコんでもしょうがないか。





 ジュンイチさんがフェイトのプレッシャーをまったく意に介していないのはすごいと思うけど、正直フェイトが遊ばれているのはいい気分じゃないので、いい加減止めることにする。



「ジュンイチさん、そこまで」

「恭文?」

「ジュンイチさんの基準が人様の基準と180度違うのは、もう何も言いませんけど」

「何言ってんのさ、恭文だって立派に同類だろうに」

「失礼な。僕は世界のスタンダードですよ。
 とにかく、フェイトをからかって遊ぶのはほどほどにしてください」

「ここからがおもしろいのに」

「い・い・で・す・ね?
 そういうのはフェイトじゃなくてなのはにやればいいでしょ」

「りょーかい。それはそれでおもしろそうだ」



 僕に念を押されて、ジュンイチさんは両手を挙げて「降参」のポーズと共にそう告げる。

 なのは? 今さらジュンイチさんに(notエロな意味で)もてあそばれたって「いつものこと」なんだからどーでもいい。



「けどそうなると、オレはもう退散した方がいいかな?
 フェイトをなだめるのはお任せするわ」

「はいはい。わかったから、フェイトがこれ以上キレないうちにどっか行ってくれるかな?」



 僕が間に立ったことで、ジュンイチさんは矛を収めることにしたみたいだ。食事のトレイを食堂のカウンターに返すと、スバル達に別れを告げてさっさと引き上げて行く。

 神妙な顔のスバル達と一緒にそれを見送り――僕が次に向き直るのは当然フェイトの方。



「どこまでも人をバカにして……あの人はっ!」

「そう言うフェイトもいちいち感情的になりすぎ。だからジュンイチさんも調子に乗る」

「でも、ヤスフミ……」

「あの人がお説教くらいで考え方改めるワケないよ。
 むしろさっきみたいに屁理屈一歩手前の揚げ足取りで理不尽に論破されるのが関の山なんだから」



 うん。あの人相手にまともに舌戦なんか挑んでもろくなことにならない。

 手ごろな実例を挙げるなら……昔一緒に仕事した時、出向いた先の部隊の隊長がムチャぶりな作戦を提案してきたのを口先だけで叩きつぶしたりとかしてるし。



 ちなみにその隊長は作戦の後辞表を出したらしい。僕も背のことを言われたから同情する気はさらさらないけど。



「ジュンイチさん、アレでもしっかりしてるからさ、本当に踏み越えちゃいけないところは心得てるよ。
 ……まぁ、だからこそ遠慮なく好き勝手やってるんだけど、あの人」

「好き勝手させてちゃダメなんだよ、ヤスフミ……」



 でも、フェイトはやっぱり納得できないみたい。何がそんなに気に入らないのさ?



「あの人はすごく強い。私なんかよりも、ずっと……
 あれだけの力があれば、もっとたくさんの人が守れるはずなのに……」



 …………そういうことか。



 フェイト、局の仕事が大好きだもんね。なのはに負けないくらい、自分のことをほったらかしにしてでも人助けに人生かけてるほどだし。

 そんなフェイトからすれば、先生ほどじゃないにしても一騎当千の実力者であるジュンイチさんが、局に入りもしないで好き勝手してるのが気に入らないんだろうね。先生についても、そう いうところに関しては眉をひそめてたりするし。



 けど……



「興味がないんだよ、きっと。
 その『たくさんの人を守る』ってことにさ」



 ジュンイチさんの気持ちも、なんとなくわかる。だから、フェイトの言葉に、努めて言い聞かせるようにそう答える。



「あの人、自分の守りたいものしか守るつもり、ないからね。
 顔も知らない人達のためより、身近な人達のために命をかけたいんだよ」

「…………ヤスフミ、ジュンイチさんの味方なんだ。
 やっぱり、そういうところの考え方が同じだから?」



 味方だとかそうじゃないとか、そういう話じゃないんだけどなぁ……そりゃ、共感してる部分はあるけどさ。



 つか……スバル。



“どうしたの? 恭文”

“ひょっとして……フェイトのジュンイチさんへの態度って、ずっとこんなん?”

“うん……そうなんだ。
 お兄ちゃん、いつもやりすぎるくらいやっちゃうから……それでフェイトさん、直接会う前からあまりいい印象を持ってなくて……”



 なるほど……やっぱりそうか。



 このフェイトの態度……ジュンイチさんのことそうとうに意識してる。うん、not異性的な意味で。

 なんていうか……ライバル心ってヤツ? だから、僕とケンカするのと同じような理由でぶつかっていても、僕の時よりもずっとキツイ態度になってる。フェイトは気づいてないみたいだけど。



“お兄ちゃんもお兄ちゃんで、そんなフェイトさんをあしらってばっかりだし……最近ひどくなってるな、とは、あたしも思ってたんだよね”



 なるほど……KYのスバルから見てもわかるくらいの事態になってんのか……



“ちょっと恭文っ! それどういう意味っ!?
 いつも言ってるよね!? あたしだってちゃんと空気読んでるって!”



 念話で身の程知らずなことをほざくスバルはとりあえず無視。



 問題はあくまで今のフェイトのことだ。これを放置しておくのは、後々のことを考えると絶対にマズイ。

 かと言って、考え方がジュンイチさんよりの僕が何か言っても、さっきみたいにジュンイチさんの擁護として捉えられかねない。





 …………うん、今日はもう遅いから、明日にでもタヌキとちょっと話してみるか。



 僕よりも長くこの状況を見てるワケだし、何かしら考えてるでしょ、うん。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 フェイトをからかうのを切り上げた後は、もう仕事もないのでなのはの部屋でヴィヴィオにあいさつして帰宅。

 今は晩ご飯も終わり、プライベート端末のチェック中。さて、目新しい情報はないかなー?



「………………ねぇ、ジュンイチ」

「ん? どした、ブイリュウ?」











「どうして……フェイトと仲良くしないの?」











 ブイリュウの言葉に、端末の操作が中断される――いきなりどしたよ?



「だってジュンイチ、いつもいつもわざとフェイトを怒らせてる。
 わざとふざけたり挑発したり……フェイトがジュンイチのことを嫌いでい続けるように仕向けてる」



 …………くそっ、さすがマイ相棒。よく見てやがる。



「どうしてフェイトと仲良くしないのさ?
 他の子達とは、あんなに仲良くしてるのに」

「言っとくけど、他のヤツらとだって、お前が帰ってくる直前までケンカしまくってたんだからな」



 そう……オレは“JS事件”の真の黒幕として、六課のみんなと対立した。

 まぁ、最終的には共闘したワケだし、裁かれて終わらせるはずだったオレの“道”はアイツらのおかげで今この時につながっている。あの対立を引きずるつもりはオレにだってない。





 けど……





「悪いけど、フェイトと仲良くするつもりはねぇよ。
 アンチ管理局のオレにとって、六課の執務官志望組最先鋒であるアイツは対極の立ち位置と言ってもいい」

「でも、その理屈だと執務官目指してるスバルやティアナともケンカしなきゃいけないことになるよね? でもしてない」



 …………あー、くそっ、ホントにコイツは。

 普段はおバカキャラのクセして、こーゆーことについてはズバズバ見抜いてくる。おかげでやりづらくってしょうがねぇ。



「もう一度言う。
 フェイトと仲良くするつもりはない――オレにとってはそれで決着した話だ」

「まったく……」



 キッパリと拒絶を示したオレに、ブイリュウはそれ以上の追求をあきらめたみたいだ。ロコツにため息をついてくれた相棒にかまわず、オレは肩をすくめて作業に戻る。



 そう……フェイトと仲良くするつもりなんかない。

 アイツは恭文のもんだ。恭文と仲良くしていればいいんだよ。



 それに……









 あぁいう性格のアイツが、あぁやってオレを嫌っていてくれるからこそ、任せられる役目だってあるんだよ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 うぅっ、昨日は大変だったなー。試験のキャンセルで、フェイトちゃんと二人でタップリお説教されちゃったし。

 でも、恭文くんも試験を受けてくれることになったし、これからは本格的に試験を視野に入れて訓練していけそうだよ。



 けど……恭文くんの試験対策、どうしようか。



 シグナムさんやヴィータちゃんが面倒を見てくれるって言ってくれてるけど、六課の訓練主任は私なんだ。指揮監督について責任を負うのはあくまでも私である以上、私も真剣に考えなくちゃならない。

 とりあえず、ヴィータちゃん達だけじゃなくて、ジュンイチさんにも話を聞いてみよう。ヴィータちゃん達と同じく、ジュンイチさんだって恭文くんに教えていたことがあるんだし。







 そう思って、ジュンイチさんを探していた私だけど――







「あ、いたいた。
 おーい、なのはー」



 向こうも私を探していたみたいだ。廊下の向こうで手を挙げて、ジュンイチさんがこちらにやってきた。



「ジュンイチさん、探してたんですよ。
 恭文くんの試験対策についてなんですけど……」

「あー、悪い。
 オレ、今日はちょいとヤボ用で出かけるからさ、その辺お前に丸投げしていいかな?」



 え? 出かけるんですか?

 でも、どこに……?



「言ったでしょ? 『ヤボ用』って。
 じゃ、ヴィヴィオの相手にはブイリュウを置いてくから、後は夜露死苦〜♪」



 って、ジュンイチさん!?………………行っちゃった……



 しょうがない。帰ってきたら相談してみよう。ヴィータちゃん達も今日は108に行くって話だし、私ひとりじゃ決められないから。



 それにしても……ジュンイチさんのヤボ用って、何なんだろ……?





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 さて、はやてやなのはに外出することを伝えて、六課を出たオレが向かったのは、首都クラナガンのド真ん中……ただし「裏通りの」がつくけど。



 こないだ恭文やマスターコンボイがマスターギガトロンとぶつかるハメになった、その原因となった“レリック”の密輸――その密輸を手引きした密売シンジケートのアジトの情報が舞い込んできたので、さっそくブッつぶさせてもらいにやってきたのだ。





 で……現在はそのアジトの真上。いかにもな感じのビルの屋上で、突入に備えて準備体操の真っ最中。

 油断はすなわち死に通じる。やる時は徹底的に殺らないとね。





 さて、そんな処刑準備もいよいよ終わり。突入しようと意識を切り換え、深呼吸で息を整え……って、何、あの車の群れ。

 見れば、表通りの方から、車の群れがこちらに向けて走ってくる。



 しかも……ただの車じゃない。全部覆面パト、つまり管理局の連中だってこと。

 まさか連中もかぎつけるとはね……あのアジトの情報、けっこう広く流れてたのかも。



 それなら、もう後は連中に任せておいてもいいかも。

 うーん、思わぬ時間ができちゃった。これからどうしよう?

 久々にクラナガン大通り・ファーストフード食い尽くしツアーを楽しんでもいいけど、マックスフリゲートに顔出しに行くのもいいかなー?



 …………などと考えながら、眼下の覆面パトの群れを見下ろしていたオレだけど……ある一台を見た瞬間、自分のそんな考えが甘かったようだと正直反省した。



 だって……ものすごく見覚えのある車だったから。

 赤を基調としたカラーリングの、トレーラーも何も引いていないトラックが、捜査車両にまじって眼下のビルの前で停まる。



 そして、運転席の人物が下りると、そのトラックはロボットモードにトランスフォーム。トランスフォーマーとしての正体を現す。







 ……うん。声出しちゃバレちゃうから、心の中で叫ばせてもらおうかな?











 ……………………なんでいるのさ? フェイトとジャックプライムっ!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ここか……



 先日のディセプティコンとの戦い……そのきっかけになった“レリック”の密輸については、ナカジマ三佐達108部隊の方ですぐに捜査に動いてくれた。というか、密輸が見つかった時点で捜査をお願いしていた。

 そうしたら、すぐに見つかった。過去にも同じルートで密輸を繰り返していて、マークしていたシンジケートが浮上したんだ。



 そのアジトが見つかったという報せが入ってきたのは今朝のこと。すぐにアジトのある地区の所轄に協力をお願いして……こうして摘発にやってきた。







 ここを叩いたって、ミッドすべてがすぐに平和になるなんて、私だって思ってない。

 けど……叩いた分だけ、ほんの少しでも平和にできるはずなんだ。

 そう思ってて、私は今までやってきて……ヤスフミにも、それはできるはずなのに……どうして、わかってもらえないんだろう。



 それに……ジュンイチさんもだ。

 あの人は私達なんかよりも格段に強い。なのに、その力で好き勝手してばかり。

 局と真っ向から対立したり、かと思えば六課に来て手伝いを始めたり……行動がちっとも一貫していない。

 ヤスフミは「自分達のことを守ろうとしてくれてる」って言って理解を示してるけど……だからって、あの人はどうやったってやりすぎる。しかも意図的に。

 “JS事件”だってそうだ。ミッド地上の腐敗した部分を浄化するためだからって、あんな大事件を裏で操ったり……もっとやり方はあったはずなのに。



 ……そう。やり方はあったはずなんだ。

 あんな、いろいろな人が傷つくようなやり方じゃなくて……もっと正しいやり方で、みんなで局を変えていけたはずなのに……





「……フェイト」



 ……っと、いけない。今はそれよりもシンジケートの摘発だ。

 ジャックプライムの言葉に意識を引き戻し、私はこれから突入しようとしているビルを見上げた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……………………おかしい。



 それが、現状に対する一番の感想だった。

 何がって? 決まってる。



 管理局の部隊ひとつに囲まれてるっていうのに、ビル内に動きが見られないんだ。



 中の連中の気配を探ろうにも、何らかのジャミングが働いているのか今ひとつハッキリしない……くそっ、どうなってやがる。

 こうなったら、フェイト達に先駆けて突入して……そう思った時だった。



 ……何、このにおい。



 突然、オレの鼻がそのにおいを捉えた。





 けど……別に、そのにおいが特殊で戸惑ったワケじゃない。



 むしろその逆。よく知っていたからこそ、戸惑ったんだ。



 だって、このにおいは……











 ………………血のにおいなんだから。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「………………っ!」



 この部屋もだ……思わず顔を背けそうになるのを、心を強く持ってなんとか抑える。



 そのくらいに、目の前の状況は凄惨だった。

 あたり一面、人間“だったもの”が転がり、床といい壁といい、場所によっては天井までもが赤く染まっている。



 ビルに突入してからずっと、検索するすべての部屋がこんな状態だった。

 私達が逮捕するはずだった密輸シンジケートの構成員達が、今のところひとり残らず無残な死体に変えられてる。

 フォワードのみんな、連れてこなくて正解だったよ。こんなの、みんなにはまだ早すぎる。一応、殺人事件の捜査の手伝いをしたことはあったけど、あの時だって被害者の死体との対面は避けたんだし。





 けど……何があったんだろう。

 何かと戦っていたらしい痕跡はあるけど、死体はすべてシンジケートの構成員と思われるものだけ。相手のものと思われる死体は……今のところ見つかってない。

 それに、ここは再開発地区の無人エリアじゃないんだ。こんな惨劇が起きたのに、周りが何も気づいてないなんて……



“たぶん、コレをやられた時にはバリアが張られてたんだよ。それで戦いの音をシャットダウンしてたんだ”



 そう念話で答えるのは、別ルートから突入しているはずのジャックプライムだ。



“僕達が使った突入口の近くに、何か大きな金属の塊を置いた跡があったの。
 たぶん、携帯型のバリア発生装置を置いた跡だよ”



 金属の塊……?



 でも、それをバリア発生装置だって断定できたのはどうして?



“見たことのある跡だったからだよ。
 たぶん……見ればフェイトだってあの跡がそうだってわかったはずだよ”

“つまり……私も見たことがあるってこと?”

“うん。
 フェイトも見てるよ――”























“ヴェートルで”























 ………………え?























 ジャックプライムのその言葉に、私の頭の中で警鐘が鳴り響いた。



 そうだ。この……バリアで逃げ場を奪ってジワジワと相手を追い詰めるやり口には覚えがある。





 これは……っ!





「ジャックプライム! 退h」





 しかし、私のその言葉は、私自身にも最後まで聞き取れなかった。



 最後まで告げるよりも早く、私の声よりも大きな轟音が――























 爆音が、響いたからだ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「くそっ、やられた……っ!」



 気づくと同時に距離を取ったから、爆発をまともにくらうことはなかったけど……くそっ、耳が利かねぇ。



 爆発の轟音で耳をやられたのだ。元々同じ目にあった経験から、それなりに鼓膜も強化されてるはずなのに……コレだ。



 周囲を見れば、周りの一般市民の方々が入居してらっしゃる(もちろんこの捕り物のために局の方で避難完了済み)ビルのガラス窓が軒並み全滅してる。

 間違いなく、並の爆音よりもはるかに大音量――爆薬の中にスタンボムでもまぜてやがったか……?

 でも、だとしたら、これを仕込んだヤツらはオレの聴覚をつぶせる音量レベルを知ってやがったってことになる……!?



 内心でそんなことを毒づきながらも、オレは残る感覚を総動員して周囲の様子を確認する。

 フェイト達のことはカケラも心配しちゃいない。アイツらの実力ならこの程度の爆発でもどうってことはない――問題なく一緒に突入した局員達も救出しているだろう。

 むしろ問題なのは、この状態でアイツらを見失うこと……あ、出てきた。



 煙の中から、フェイトとジャックプライム……じゃない。煙の中で合体したのか、キングコンボイが飛び出してくる。

 局員達は……安全圏な煙の中に残してきたか。それなりの数の気配が固まってやがる。



 うん。いい判断だ。これが誰かのワナだっていうのはもう確実だ。もし犯人がフェイト達の無事を前提に、どこからか追撃を狙ってるんだとしたら、局員達を抱えた状態では巻き込むことになる。



 さて、襲撃犯は、と……





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ………………上っ!



 バルディッシュが警告を発すると同時、私は後方へ離脱――同時、真上から放たれたビームが私のいた場所を駆け抜け、地面に着弾、爆発を起こす。



“バルディッシュ!”

〈Falcon lancer, shoot!〉



 まだ聴覚は回復しないけど、念話による通話で代用する――私の呼びかけで、バルディッシュがフォトンランサーの上位魔法、ファルコンランサーの術式を発動。上空の、ビームの主の機動を予測して叩き込む。



“ジンジャー!”

《はいっ!》



 そして、そのスキに私はジンジャーを呼び出し、鎧として装着。襲撃者の追撃に備えて――



“フェイト!”



 その時、キングコンボイが私の背後に飛び出してきた。

 次いで甲高い、金属のぶつかり合う音――振り向いた私の視線の先で、キングコンボイがそこに現れたトランスフォーマーのかまえたナイフをデバイスである愛刀カリバーンで受け止めている。



 と、そんな私達に再び頭上から発砲――上空の襲撃者の追撃をかわし、私達は目の前のトランスフォーマーとの距離を取る。

 そして、上空から飛来したジェット機がロボットモードにトランスフォーム。並び立った二体のトランスフォーマーが私達と対峙する。





 …………というか……見覚えのある顔だった。





「お前達は!?」



 そしてそれは、キングコンボイも同様だ。彼らが目の前にいるのが信じられなくて、驚いて叫ぶ声がジンジャーの治癒で回復してきた私の耳に届く。



 もちろん、驚いているのは私も同じだ。

 だって……彼らは1年前、ミッドとは別の世界で私達が捕まえたはずなんだから。



「どういうこと……?」



 だから……問いかける。



「どうして、あなた達がここにいる!?」

「決まってるさ。
 1年前の……ヴェートルでの落とし前をつけに来たのさ」

「1年前、お前らのせいでオレ達は依頼を完遂できなかったんだからな。
 しかも向こうの刑務所にまでぶち込まれるし……借りを返しておかねぇと気がすまねぇんだよ!」



 私の問いに答え、彼らはこちらに銃を向ける……やっぱり、目的は1年前の復讐っ!



「フェイト!」

「わかってる!」



 ここで戦うのはマズイ。避難は済んでいるとはいえ、一応街中だ。

 なんとかして、ここから引き離して、廃棄都市まで……



「おっと、オレ達をよそに誘導しようとしてもムダだぜ」

「お前らがここを離れるなら、オレ達はこの辺り一帯を破壊する。
 お前らは、ここでオレ達と戦うしかないんだよ!」



 くっ、読まれてる……!



 どうする? このままコイツらの挑発に乗るワケにはいかないし……!





















「そいつぁ、勘弁してもらえないかねぇ?」





















 ………………え?



 突然のその声は、私にとってまさに意外なものだった。



 なんで……どうして、あの人がここに!?











「この近くにさぁ、けっこううまくてひいきにしてるラーメン屋があるんだよ。
 できれば、ブッ壊さないでくれるかな?」



 そう言って現れたのは……ジュンイチさんだった。



「それに……ターゲット以外を巻き込むその手口は、“同業者”としても見過ごせないね。
 “無敵の傭兵コンビ”の異名が号泣すっぜ……ブルーバッカス、ブラックシャドー」



「出やがったな、柾木ジュンイチ!」

「お前が来てるのは気づいてたからな……顔を見せると思ったぜ!」



「よく言うぜ。
 最初から、オレが出張ってくるのも前提だったクセしてさ」



 色めき立つ二人――かつてヴェートルで戦った二人の傭兵、ブルーバッカスとブラックシャドーの言葉に、ジュンイチさんはあっさりとそう返す。



「シンジケートのアジトの情報……ずいぶん広がりが早いと思ったけど、この状況を見れば一目瞭然だな。
 あの情報も、シンジケートの壊滅もお前らの仕業。オレ達をおびき寄せるエサであると同時、連中のスプラッタ死体の山なんていう異常事態でこっちの思考を鈍らせ、そのスキにトラップで吹っ飛ばす……そんな算段だろ。
 グロさを除けばいい作戦だけど……シンジケート皆殺しの際の証拠を残したのは失敗だったな。だからフェイトに気づかれた」

「ハッ、関係ねぇよ。
 お前らさえ出てくれば……後はオレ達二人でカタがつく!」



 ブルーバッカスが言い返すと同時、ブラックシャドーも銃をかまえる――そんな二人に、ジュンイチさんはため息をつき、



「…………しゃーない。
 お前ら……今度こそ逃げようのない身体でムショに叩き込んだらぁっ!」







 それが合図だった。ブルーバッカス達が発砲、ジュンイチさんがそれをかわして大地を蹴る。



 そして私達も――











「お前らは下がってろ!」











 って、ジュンイチさん!?



「オレひとりで――十分だっ!」



 そう私達に言い放つと同時、ジュンイチさんが強化武装、“装重甲メタル・ブレスト”を装着。その全身から真紅のオーラがあふれ出す。



 そんなジュンイチさんに向けて、今度はブラックシャドーが発砲。ビームではなく大型の光弾による砲撃がジュンイチさんを狙うけど――





「ずぁあらぁっ!」





 気合を入れつつ、ジュンイチさんが身をひるがえし――砲弾を右腕一本で弾き飛ばす!



「ンな危なっかしいもん――街中でぶっ放すんじゃねぇっ!」



 砲弾は上空に飛ばされ、そこで爆発。その間にジュンイチさんが一気に間合いを詰め、ブラックシャドーを蹴り飛ばす。



 そこへ、ブルーバッカスが殴りかかる――けど、ジュンイチさんはあっさりとそれを受け流し、逆にブルーバッカスの腹にカウンターのヒジを叩き込む。



「フェイト……下がってよう。
 あの調子なら、ジュンイチさんひとりでなんとかなるよ」



 となりで、キングコンボイがそう提案する……確かに、ジュンイチさんはあの二人を相手に互角以上の戦いを見せている。

 街中での戦いであることを考慮して自分も砲撃を撃たずに近接戦闘に徹して、同時に距離も詰めたままを保つことで向こうの射撃も封じてる。



 このままジュンイチさんに任せておけば、ブルーバッカスもブラックシャドーも取り押さえることができるだろう。

 でも……





「それじゃ、ダメだ……!」



 それは、またもジュンイチさんに解決を委ねてしまうということだ。それは絶対に容認できない。



 あんな、いい加減で、自分勝手で、傲慢な人に……いつまでも頼ってちゃいけないんだ。





 だから……





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「にゃろぉっ!」



 ブルーバッカスを殴り飛ばすと同時、ブラックシャドーがこっちに向けてエネルギーミサイルを放つ。

 別にかわしてもいいけど……街に被害が及ぶのは避けたいところだ。さっき言ってたラーメン屋の話はマジ話だからね。被害が及んだら困るのよ。



 だから――



「しゃらくせぇっ!」



 こうする。炎を広範囲にばらまいてすべてのエネルギーミサイルを迎撃、爆発させる。

 けど、向こうもそれを読んでいたのか、爆発に紛れて距離を詰めてきていた。オレの眼前に銃口を突きつけ、至近で発砲する――けどっ!



「発砲が――遅いんだよっ!」



 勢いよく向けたことによる銃口のブレ――そのせいで生じた一瞬の発砲の遅れを見逃すオレじゃない。閃光が放たれるその刹那、打ち上げるように放った掌底で銃口を跳ね上げた。放たれた閃光が上空に消えていくのを気配で感じながら、素早く身をひるがえしてブラックシャドーを蹴り飛ばす!

 けど――その瞬間、背後から伸びてきた鋼の腕がオレをガッシリとホールドする。クソッ、ブルーバッカスのヤツ、もう立て直しやがったか!



「もう逃がさないぜ!
 この体格差、人間の腕力じゃそこからは出られねぇだろ!」

「さーて、そいつぁどうかな?」



 勝ち誇るブルーバッカスだけど――残念ながら、今回はその圧倒的な体格差が命取りだ。いくらでもあるすき間からあっさりと脱出。驚くブルーバッカスを、炎をまとった拳でブッ飛ばす。



「念入りにお膳立てした割には、大したことねぇな。
 ヴェートルでやり合った時の方がまだ手強かったぞ。腕がなまったか?
 それとも、この1年でオレがまた強くなったのかな?」

「ぬかせぇっ!」

「バカにしやがって!」



 オレの挑発にあっさりと乗って、二人が上空のオレに向けて飛びかかってくる――繰り出された拳と蹴りを、オレは急降下してあっさりと回避。二人の下方へと回り込む。



 この位置なら、街への被害を気にする理由はねぇ――遠慮なく、ブッ飛ばす!



 この一撃で勝負を決めるべく、オレは両手に炎を生み出す。一気に最高レベルまで燃焼させたそれを、攻撃を空振りしてバランスの崩れた二人へと――





















「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」





















 って、フェイト!?



 突然オレ達の戦いの中に飛び込んできたのは、バルディッシュをかまえたフェイトだった。驚くオレの目の前で、ブラックシャドー達に斬りかかり、その場から追い散らしてしまう。

 おいおい、何やってんだ!? オレが一撃決めればそれで終わったもんを!



「くそっ!」



 舌打ちしながらも炎を放つ――けど、それはフェイトの攻撃をかわし、体勢を立て直してしまった二人には当たらない。あっさりとかわされてしまう。



 と、そんなオレ達の耳に届くサイレンの音――フェイトが助けた局員達が応援でも呼んだか?



「ブラックシャドー」

「あぁ。応援まで来られたら厄介だ。
 今回の作戦は失敗だ……引き上げるぞ」

「――――――っ! 逃がすかっ!」



 それに気づいたブラックシャドー達の反応は素早かった。すぐにビークルモードへトランスフォーム。ブラックシャドーはジェット機に、ブルーバッカスは戦闘ヘリに姿を変える。

 当然、逃がすまいとその後を追うフェイトだけど――そこは哀しいかな人間の限界。六課最速の彼女でも二人に追いつくことはできなかった。結局、二人はそのまま空の彼方に飛び去ってしまう。

 追跡は――クソッ、当然だけどジャミングかけていらっしゃる。



 あー、くそっ、厄介な相手に逃げられた……ただでさえギガトロン達が帰ってきてんのに、その上アイツらまで……

 アイツら、報酬さえもらえばたいていのヤツには従うからなぁ……ロックダウンみたく、ギガトロンに雇われなきゃいいけど。





「…………あー、ジュンイチ、ゴメン。
 フェイトが乱入したのがジャマした形になっちゃって……」



 そんなオレに謝ってくるのは、ジャックプライムのスーパーモード形態、キングコンボイ――いや、別にいいよ。お前が悪いワケじゃなし。



「けど、アイツらを逃がしたの、絶対後で災難になって返ってくるよ。
 ヴェートルじゃさんざん手こずったんでしょう? 僕らも戦ったけど……事前にジュンイチさんがダメージ与えてなかったら、逮捕なんてまずムリだった」



 そう……アイツらの実力はそうとうなものだ。だから、こっちをおびき出すのに成功したアイツらが図に乗ってるウチに叩いておきたかったのに……



「まぁ、そこについては気にすんな。
 エサの情報がフリーランス用のコミュニティを起点に流された点から考えて、メインターゲットはたぶん、アイツらを一番ブッ飛ばしてたオレだ。
 次いで恭文……ここでフェイトが狙われたのは、自分を逮捕した相手だってことだけじゃなくて……オレの次にアイツらをブッ飛ばしてた恭文への圧力もあったんだと思うんだ」

「あぁ、フェイトを墜として、恭文への心理的なダメージを狙ったってこと?」

「そういうこと。
 とにかく、今言ったとおりメインターゲットはオレだ。いざとなればオレが囮になってアイツらを誘い出せばいい」



 ま、その時は連中もそうとう準備を整えてくるだろうから、オレもきっちり気合入れとかないとマズイだろうけどさ。



 そんなことよりも……



「今問題なのは、むしろフェイトだよ。
 オレに頼るのをよしとしなかったとしても、あの場面で仕掛ければ仕留めるチャンスをフイにすることは、冷静に考えればわかったはずだ。
 それができないほど、今のアイツは頭に血が上ってる……」

「上らせてる張本人が何言ってるのさ」



 うん、わかってる。オレが原因だってことぐらい。



「ねぇ……どうしてフェイトと仲良くできないのさ?
 そりゃ、フェイトにとって、ジュンイチさんの戦い方は邪道そのものだけどさ……」

「お前までそれを言うのか……
 悪いが、それについちゃあ当分平行線だよ」



 キングコンボイにそう答え、オレはあっちの反論も待たずに一足先に地上に降下する。











 そう……フェイトと仲良くするつもりはないんだ。























 アイツには……ずっとオレを嫌いでいてもらわなくちゃ……な。





(第16話へ続く)


次回予告っ!

恭文 「………………ジュンイチさん」
ジュンイチ 「ど、どうした、恭文!?
 なんでそんな据わった目つきでアルトをかまえる!?」
恭文 「ほほぉ、『なんで』と聞きますか?
 今回の話、もうジュンイチさんがフェイトにフラグ立てる前フリにしか見えないじゃないの!」
ジュンイチ 「安心しろっ! 立てないから! ラストのセリフでもわかるでしょ!?
 つか、オレが今まで女の子相手にフラグ立てたことなんか、一度たりともないだろうが!」
恭文 「いい加減、自分のやってることに自覚を持てぇぇぇぇぇっ!」

第16話「『気が合わない』と『息が合わない』は意味が違う」


あとがき

マスターコンボイ 「……そんなワケで、どう見ても前後編の前編だろとそこら中からツッコミが来そうな第15話だ」
オメガ 《別の意味でもツッコミが来そうですけどね。
 ミスタ・ジュンイチは何を考えてるんでしょうかね? 前回のあの引きで読者のみなさんに『え!? ジュンイチも試験受けるの!?』と期待させておいてコレですか》
マスターコンボイ 「もっとも……ヤツの性格からして、素直に受けるとは誰も思っていなかっただろうがな。
 それでオレに話を振られるとは思っていなかったが」
オメガ 《まぁ、ボス的にはまったく問題はないのでしょうけど。
 何しろ、ミスタ・恭文との友情フラグが一気に進行するチャンスなんですから》
マスターコンボイ 「むぅ………………」
オメガ 《まったく、ボスもすっかり甘くなってしまったものですね。
 部下を従えつつも決して頼らず、一匹狼を気取っていたあのボスはもういないんですね……》
マスターコンボイ 「あー……一応間違ってはいないんだが、そう具体的に語らんでくれるか?
 昔の恥部をさらされているようで恥ずかしいんだが」
オメガ 《外見子供とはいえイイ歳したオッサンが恥ずかしがらないでくださいよ、無様に過ぎますから》
マスターコンボイ 「言いたい放題だな、貴様っ!?」
オメガ 《いえ、私のこのキャラクターが読者の皆様に大好評のようですから》
マスターコンボイ 「どいつもこいつも人の不幸をっ……!」
オメガ 《それはそれとして……今回はミス・フェイトとミスタ・ジュンイチのお話ですか。
 まぁ、大方の予想通り大いにもめてくれたワケですが》
マスターコンボイ 「その上、二人に共通して因縁のある新キャラクター……まったく、相変わらずトラブルともめごとの申し子だな」
オメガ 《まぁ、ミス・フェイトはともかくミスタ・ジュンイチはガチバトル作品出身ですからねぇ》
マスターコンボイ 「それにしても……あの新キャラクター2名は何者なんだ?
 フェイト・T・高町と柾木ジュンイチ、どちらにとっても因縁の相手とのことだが……あの二人、確か“JS事件”が初対面だよな?」
オメガ 《本家『とまと』で言うところのメルティクロス編でからんでるらしいですね。
 まぁ、うちの作者もメルティは好きですから、いずれ何があったかは描いてくれることでしょう》
マスターコンボイ 「そうか……
 だが、オレはそっちでは出番がないんだよな……」
オメガ 《ボスが死んでた間の話ですからね。
 したがって、私まで出番がないのは確定ですよ。ボスが死んでたおかげで出番なしですよ。
 まったく、何くたばってるんですか。墓の下から這い出してでも出番を確保してくださいよ》
マスターコンボイ 「ムチャを言うなっ!
 『MS』でオレが復活、という大前提そのものを覆すつもりか!?」
オメガ 《いえ、そこはご都合主義で。
 仮にも主人公格なんですから、そこはいくらでもどうとでも》
マスターコンボイ 「なるかぁぁぁぁぁっ!」
オメガ 《まったく、使えない主ですね。
 とまぁ、ボスが雨の日でもないのに無能なことが判明したところで、今週はお開きです》
マスターコンボイ 「誰が無能だぁっ!」
オメガ 《雨うんぬんにはツッコミなしですか……
 まだまだ、ボスも半人前ということですね》
マスターコンボイ 「何の話だっ!?」
オメガ 《いえいえ、お気になさらずに。
 それでは、みなさん、また来週お会いしましょう》

(おわり)


 

(初版:2010/10/09)