季節は11月も半ば。あと少し経てば、色づいた落ち葉が町を色づき始めるそんな時期。



 アタシは、ゆっくりと紅茶を飲む……うん、美味しい。



 オープンテラスで上りきった太陽の光を浴びながら、ゆったりと紅茶を飲む美女二人……うん、いい絵だわ。





「アリサちゃん、そういうのは自分で言うことじゃないよ……」

「いいじゃない別に。てか、アイツみたいなツッコミしないでよ。せっかくの紅茶が台なし」





 今、アタシに話しかけたこの子は、アタシの友達。



 紫がかった暗めの青い髪。それを、白いヘアバンドが彩る。

 この子の名前は、月村すずか。小学校一年からの大親友。アタシと同じく、現在大学生。



 ……もう10年以上になるのよね。すずかと、あともうひとりとの付き合いも。





「そうだね。でも、ホントにあっという間。アリサちゃんやなのはちゃんと出会って……うん、あっという間だよ」





 どこか遠い所を見るような目をするすずか。



 まぁ、ホントにそうよね。そこにフェイトやはやてが加わって、なのはの魔法のこととかケガとかがあって。

 そのリハビリが終わった直後くらいに、あのチビスケがこの街に来て、友達になって、いろいろあったけど……楽しい時間だった。





「そうだね……特になぎくんが来てからは、もっと楽しくなった。
 ほら、中学に上がってからは、私達女子校だったから、男の子の友達できにくかったし」

「まーね。
 でもすずか、アンタは間違いなくアイツだけじゃないでしょ」

「………………うん」



 あたしの問いに、すずかは笑顔でうなずいてみせた。





 ………………うん。本当にイイ笑顔で。





「えっと……柾木ジュンイチ、だっけ? ホント、あんなののどこがいいのよ?
 こないだミッドでユニクロンをブッ飛ばした後、祝勝会で少し話したけど、ほとんどチンピラじゃない」

「うん。それはそうだね。
 揚げ足は取るし屁理屈はこねるし仲間でも平気でハメるしツッコミは容赦ないし朴念仁だし」



 否定しないんかい。それにすずかもすずかで容赦ないわね。



「でもね、それでも、本当に大変な時はちゃんと助けてくれるんだよ。
 それって、私達のことをちゃんと見守っていてくれてるってことだよね?」

「そういうものかしら?」

「そうだよ。
 ジュンイチさんがあぁなのは……あの人が、基本的に他人を試す人だから」



 他人を……試す……?



「うん。
 ほら、さっき言ったみたいに、ジュンイチさん、態度がムチャクチャでしょ?
 でもね……ジュンイチさんも、自分のそんなところをわかってる。わかってるから、自分のそういうところを知って、自分についてくるかどうかは相手に任せてるの」

「自分のムチャクチャについてこれるならついてくればいい。受け入れられないならついてこなくてもいい……そういうこと?」



 聞き返す私に、すずかは笑顔でうなずいてみせた。



「その代わり、ついてくる人にはすごく優しいんだよ。
 どこにいても、どれだけ私達を振り回していても、ちゃんと私達のことを見守ってくれてる……
 お父さんみたいに、私達を優しく包み込んでくれる人なんだよ」

「『お父さん』って……アレが?」



 ごめん、すずか。あたしにはその感覚は理解できない。

 だって、祝勝会の時、なのはの教え子の……スバルだっけ。あの子に狙ってた肉を取られて本気でブッ飛ばしてたのよ。どう考えても「お父さん」の反応じゃないわよ。





 そんな事を考えながら紅茶をまた一口……うん、美味しい。





 アタシの名前はアリサ・バニングス。現在大学生。





 今は、すずかの家のオープンテラスで二人してまったりお茶をしながら、友達を来るのを待っている。



 大事な……すごく大事な友達を。





「あ、来たみたいだよ。ホラっ!」





 すずかが、そう言って、立ち上がりながらある一点を指差す。

 その先は、この家の庭。そこに、大きな光の柱が立っていた。



 普通なら驚くようなこの光景も、アタシやすずかにとってはもう見慣れたもの。



 その光の柱が消えると、その中から人が現れた。だけど、それはひとりじゃない。



 それを確認してから、アタシとすずかはそこへと走り寄る。友の名前を呼びながら。





「フェイトちゃーんっ!」





 その声に、アタシ達の大親友のひとり、フェイト・テスタロッサ・高町がこちらを向く。

 ……次の瞬間、すっごくうれしそうにこちらへ駆け出してくれた。





「アリサ、すずかっ! 二人とも、久しぶりだね。元気にしてた?」





 手をつなぎ合って、再会を喜ぶ……と、後ろから残りの面々が近寄ってきた。



「お久しぶりです。アリサさん、すずかさん」

「ご無沙汰しています」



 そう言いながらお辞儀をするのは、6月になのは達が仕事で連れてきた、そしてこないだのユニクロンとの戦いで再会した子供達。

 フェイトが保護者をしていて、なのはが魔法での戦い方を教えている子供達、エリオ・モンディアルに、キャロ・ル・ルシエの二人だ。



「うん、久しぶりだね。二人とも元気だった?」

『はいっ!』

「二人とも、背がちょっと伸びたんじゃないの? ……あ〜あ、もうエリオとは一緒にお風呂入れないわねぇ〜」



 アタシがそうからかい気味な口調で言うと、エリオの顔が赤くなって『いや、その、それはあの……』などとパニくりだした。

 それを、キャロがきょとんとした顔で……いや、ちょこっとにらんでる。え、なんか色んな変化が起きたのっ!?

 なら、あんまからかっちゃ悪いわね。



「そーだよ。いたいけな少年をいじめないでほしいね。エリオは未来の騎士さまだよ?」

《そうです。マスターのように道を踏み外したらどうするつもりですか?》

「そうそう……ってっ! 僕がいつ道を踏み外したっ!?」

《まぁそれは置いておいて》

「おいとくなっ!」



 ……アンタ達、ホントに相変わらずよね。色んな意味で。特にアンタよアンタ。また身長伸びてないし。



「久しぶりねナギ。あいかわらずチビスケね。でも、アンタも元気そうじゃないのよ。
 つか、メールでも言ったけど、連絡取れなくなって心配したのよ?」

「あはは……ごめん。ちょっとばかりヤボ用で一ヶ月ほど姿隠してたから」

「……いや、それはリンディさんやアルフから聞いてるけど。アンタ、本当に何やったのよ」

「いや、普通に戦ってた」



 なるほど、『普通じゃない状況』で戦ってたワケね。こいつは本当に……



「ま、元気そうで安心したわよ。ここにいるってことは、当然勝ったんでしょ?」

「もちろん」

「圧勝でしょうね?」

「とーぜん」



 小さな胸を張って、自身満々に言うナギを見て、私は安心した。

 本当に変わってない。これなら、これ以上言う必要はないかなと思ったから。



「ならいいわよ。これで負けてたらボコボコにしてるとこだったけどね」

「……というか、久しぶりだねアリサ。
 相変わらずツンデレだね。そして、クギミー的なのも変わってなくて素晴らしいよ」

「いきなりそれっ!? そういうことを言う口は、この口かしら〜」

「い、いひゃいひょー!」



 この、アタシより身長の低い男の子の名前は、蒼凪恭文。アタシは愛称で『ナギ』と呼んでいる。

 ……まぁ、アタシにとってはあれよ。アタシの方が年上だし、子分というか弟みたいな感じかな。



《そう言って、度々マスターの世話を焼いてくださって、本当に感謝しています。
 あ、遅れましたがお久しぶりです。アリサさん》

「はい、アンタも久しぶりねアルトアイゼン。相変わらずナギのサポートで大変なんじゃないの?
 コイツ、相当やらかしたみたいだし」

《それはかなり。ですが、問題はありません。マスターですから》

「そっか。なら納得だわ」



 ナギが胸元からかけている青い宝石は、ナギのパートナーでデバイスのアルトアイゼン。

 なんか、こいつとは昔からウマが合うのよね。ナギのいないところでいろいろ話をしたりもするし。

 でも、なのはのレイジングハートやフェイトのバルディッシュは、この子みたいには話さない……無口な子なのかしら?



「いや、それは前にも言ったけど、アルトアイゼンが特別だからだよ。普通は、インテリジェントデバイスでもここまでの対話能力はないから」

「じゃあ、これは何よ? 普通にしゃべりまくってるじゃないの」

「なんというか……ヤスフミやあの人のパートナーだったからかな? ごめん、そうとしか説明できないよ」



 ……よくはわかんないけど、そういうものらしい。ナギの剣の先生は、コイツ以上にアクが強いらしいから。



「ユニクロンを倒した後の祝勝会以来か。
 息災なようで何よりだ、月村」

「うん。
 イクトさんも元気そうでよかったです……あ、またナビとか壊してないですか? 壊してるならすぐ直しちゃいますけど」

「……………………後で頼む」



 で、すずかはと言えば一緒に来ていたイクトさんと話してる。こっちもこっちで付き合い長いし、話弾んでるみたい。



 そして……



「アンタも久しぶりね、マスターコンボイ。
 相変わらず、ナギに勝るとも劣らないチビっぷりね」

「ナギとは恭文のことか?
 どうでもいいが、恭文もろとも大きなお世話だ」



 あたしが声をかけたのはヒューマンフォームのマスターコンボイ。あたしの言葉にギロリとにらみ返してくるけど……あれ、なんかナギを引き合いに出したことに怒ってる?



「あぁ、それには理由があるでござるよ」



 理由? 何よ、シャープエッジ。



「恭文とマスターコンボイ、友達になったんだよ。
 マスターコンボイにとってはまさに“初めての友達”ってヤツでね……おかげでちょっと過保護気味なんだよ。めんどくさいよねー」



 ちょっ、友達って……アイゼンアンカー、それホント?

 マスターコンボイに友達って、しかもそれがナギって……



 というか、それで過保護気味って……いや、こっちはわからないでもないか。

 マスターコンボイって、“GBH戦役”の、マスターメガトロンだった頃から、それなりに縁のあったなのはに対してはどこか甘いところがあったし。



 そっか……マスターコンボイに友達ねぇ……



「…………おい、アリサ・バニングス。
 その気に入らないニヤニヤ笑いを今すぐ止めろ」



 さーて、どうしようかしらねー?





「………………オメガ」

《ボス、何怒ってるのさ?
 ミス・アリサはただ、ボスとミスタ・恭文の関係を暖かく見守ろうとしてるだけじゃないの》

「『生』がついてる時点で気に入らんのだっ! 『生』がっ!」

《二人のカップリングで本を作ろうとしたミス・はやてよりはマシでしょうが》

「確かにそうなんだけどなっ!」



 …………ナギ、その話マヂ?



「………………まぢ。
 なお、話を聴いた瞬間僕とマスターコンボイで部隊長室に突撃かけて、なんとかネームの時点で阻止したんだけどね」



 まったく、はやてもはやてで相変わらずってワケか。

 でもナギ、はやてのことだから、きっとぜんぜん懲りてないわよ?



「あー、やっぱりそう思います?
 今度またガサ入れしなきゃダメかなー……?」



 うん。ダメでしょうね。絶対まだ原稿どこかに隠し持ってるわよ。



「ったく、あのタヌキめ……
 僕とティアナやらスバルやらのカップリング本なんか書こうとしたアリシアもだけど、二人してちっとも懲りないなー、ホント……」



 ……アリシアはそっち方向なワケね。



 まぁ……苦労してるのはわかったから、その単色モノクロの瞳はやめときなさい。アンタ一応旅行中でしょう?





 とにかく……うん、いこっか。

 

 


 

第20話

男には、無意味とわかっていても
通さなきゃならない筋がある

 


 

 

 うん、あの二人には困ったもんだよ。



 タヌキは論外だとして、アリシアの方も問題だよ。僕とスバルやティアナとは何でもないのに。





 …………フェイトとのカップリング本書かれそうになった時はちょっとぐらついたけど。











 とにかく、いろいろと話をしながら僕達は海鳴の町を歩く。





 そして到着したのは……一件の家。

 中に入ると、純和風の佇まい。道場があったり、庭に池があったり。僕はよく出入りをしていた場所。





 僕達は、インターホンを鳴らすと……中から足音がする。ひとりじゃない、複数の足音。そうして、引き戸式の扉が開く。





 そこにいたのは、ひとりの黒髪の男性。その傍らに栗色の長い髪の女性。





「お父さん、お母さん、ただいま」

「いや、本当にお久しぶりです」

「フェイトちゃん、恭文くんもお帰り」

「いや、しばらく会わない間に……伸びてないな」

《士郎さん、言わないであげてください》



 この人達は、男性は高町士郎。女性は高町桃子。僕は士郎さんと桃子さんと呼んでいる。



 ここまで言えばわかると思うけど、ここは高町家。つまり……なのはとフェイト、アリシアの実家なのだ。



 そう。この旅行の本来の目的はフェイトの里帰り、なので……



「士郎さん、桃子さん、ただいま」

「お久しぶりです!」

「エリオくんとキャロちゃんも、久しぶりね」

「元気そうで安心したよ。
 だって……二人とも、なのはにしごかれてるんだろ? 向こうの世界で、悪魔とか魔王とか言われてるんだろ?」



 その瞬間、そう口にした士郎さん以外の全員が僕を見る。

 だけど、僕の視点は既に空へと向いている。なんの問題もないのだよ。あぁ、いい天気だなぁ〜。



「あ、あの……そんなことないですから。なのはさんは、変わらずすごく優しいです」

「いつも、私達のことを気遣ってくれています。魔王っていうのは、性悪なぎさんの、不器用で意固地な意地悪なんです」

「それもヒドくないっ!?」

「まぁまぁ。とにかく、みんな中へ入って。お茶とお菓子も用意してるから、それでも食べながら話を聞かせてくれ」





 そして、士郎さんの先導で、僕達は高町家へと入る……いや、ここも久し振りだよね。うん、本当に帰って来た気持ちになるよ。



 そして気づく。リビングの方から話し声が聞こえることに……ん?



 それになんとなくイヤなものを感じながら、リビングに入った。そして……僕は頭を抱えた。











「恭文さん〜♪」

「フェイトちゃん、エリオとキャロも、遅かったね。あと、恭文くん……お話しようね。お父さんに何言ってくれてるのかな?」

「否定する要素カケラもないと思うけどなー……」

「お兄ちゃん……いくら事実でも、言わない方が相手のためってこともあるんだよ」

「はむはむ……士郎さん、桃子さん、美味しいです♪ あ、恭文、フェイトママー!」











 いたのは、空色のロングヘアーの10歳前後の女の子。

 6歳くらいの、アリサと同じ髪をしたこれまたロングヘアーで両サイドをリボンでちょこんと結んでいる小さな女の子。



 まるでそんな二人の保護者のようにすぐ脇に控える、いつも通り黒ずくめの僕の友達とその妹さん。





 そして……魔王。











「魔王じゃないもんっ!」

「あぁ、神なんていなかったんだっ! 魔王からはどこへ行っても逃げられないんだっ!」

「だからっ! 魔王じゃないよっ! というか、私をそんな恐怖の代名詞みたいに言うのやめてよっ!」

《Jack Pot!》

「アルトアイゼンもなんで『大当たりっ!』って言ってるのっ! どうしてD○Cっ!?
 あれかなっ! 青くて刀使いだからOKとか思ってるのかなっ!? でもそれはまちがいだよっ!
 というかっ! この状況でそれが飛び出す意味がわからないよっ!」





 つか、どうしてリインとなのはとジュンイチさんとあずささんとヴィヴィオがここにいるんだよっ! そっちの方がわからないからっ!



 てか、なんでアリサとすずかさんまでビックリしてるっ!?





「なのはっ!」

「なのはちゃんっ!」

「アリサちゃん、すずかちゃんも久し振り〜」

「なのは、待ってっ! どうしてここにっ!?」





 やっぱり、魔王からは逃げられないから……





「違うからっ!」











◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「士郎さん達にヴィヴィオを紹介するために……」

「そうだよ。もちろん、事情は説明してたんだけど、ちゃんと会わせたくて。まぁ、フェイトちゃん達と違って、日帰りなんだけどね」

「で、こっちに私的に用のあったオレとあずさも、オレが一応ヴィヴィオの父親代わりということで同行……と言うかオレがヴィヴィオに『ついて来て』とせがまれてな」

《ですが、どうやってこちらの世界へ?》

「ハラオウン家の方のポートだよ」

「フェイトさん達のスケジュールは知ってましたから、その前に、向こうのポートから跳んで、待ち伏せしてたですよ」

《そうして、私達をビックリさせようと……》





 アルトの言葉に、リインがうなずく。うん、納得した。でも……なんでリインまで一緒っ!?





「そんなの、恭文さんに会いに来たからに決まってるですよー!」

「あぁ、それなら納得。リインは、ナギにとっての、元祖ヒロインだしね」

「はいです♪」



 いや、それで納得するっておかしいからっ!



「いや……お前らのつながりの深さ知ってるヤツからすれば当然の認識だと思うが。
 だって本来のマスターぶっちぎってここにいるんだぜ、コイツ」



 あー、そうだよねー。



 またはやてが泣かなきゃいいんだけど。マスターとして、八神家家長としてリインがこっちにべったりなのけっこう気にしてるし。





「……そういや士郎さん、美由希さんはどこに?
 休みとって戻ってきてるって聞いてたんですけど」



 もういい加減疲れてきたので、話を変える。頭を抱えながら、入ってきた時に気づいた疑問をぶつけることにした。



「あぁ、美由希なら私用で出かけているよ。本当なら、キミ達の出迎えがしたかったとゴネてたけどね」

《……想像できますね》

「僕、姿隠していいかな?」

「ダメ。お姉ちゃん、恭文くんのこと本当に心配してたんだから。ちゃんと会ってあげて」

「ちくしょお……魔王のバインドが僕をしばる」

「魔王じゃないもんっ!」





 ……とにかく、そんな感じで楽しく話しながら、時間は過ぎていった。





 今年起きたこと、ヴィヴィオのこと、六課でのこと、いろいろ話した。すごく楽しくて、幸せで……平和な時間。





 うん、本当に帰ってきたんだ……よかった。





















 そして、夕方になろうかという時間……あのお方が来ました。





















「恭文――――っ!」

「回避っ!」











 僕達がいたリビングのドアを開けて、僕の姿を確認したとたん、いきなり抱きつこうとしてきた女性が出てきた。



 僕は、ソファーから即座に立ち上がり、背中に敷いていたクッションを、全力でぶん投げる。そして……飛ぶっ!

 跳躍した僕は、テーブルを飛び越え、部屋の真ん中に着地。そして、そのまま襲撃者がいる方向とは逆に、素早く数歩下がる。



 襲撃者は、僕のぶん投げたクッションをひらりと回避すると、僕へと迫ってきたが、間合いとタイミングをずらされて、その場に踏みとどまった。

 ちっ、さすがにこれでは崩れないか。











「ひどいよ〜。久しぶりに会ったのに、どうして逃げるの?」

「美由希さんがいきなり抱きつこうとするからじゃないですか。
 というか、年齢を考えてくださいっ! 僕も大人だし、あなたも大人ですよっ!?」

「いいじゃない別に。恭文がちっちゃいのがいけないんだよ?」

「ちっちゃいって言うなぁぁぁっ! そしていけないってなんだよいけないってっ!?
 謝れ! すべての小さな巨人達に頭を垂れろっ!」











 エリキャロ&パートナーズとヴィヴィオは驚いてるけど、他のみんなはいたって冷静。というか、マスターコンボイなんかは美由希さんの身のこなしに口笛吹いて感心してるし、桃子さんに至っては、この襲撃者の応援までしてる。



 僕にいきなり抱きつこうとしてきたのは、ひとりの女性。

 黒髪をひとつの三つ編みにして、眼鏡をかけている。そして、スタイルは……抜群にいい。



 多分、100人に聞いたら、90人くらいは美人と答えるだろう。僕も答える。きっとジュンイチさんですら答える。



 ……このお姉さんは高町美由希。

 なのはの姉さんで、僕とは10歳以上離れた友達……というかオモチャ。僕が美由希さんのね。

 現在は本局の無限書庫でユーノさんについて副司書長として……本の虫やってます。



 ……あ、ちなみにジュンイチさんとも知り合い。ジュンイチさんが無限書庫を利用しに行った時に知り合って、たまに二人で組み手とかもしてるとか。











「失礼な。恭文のことを別にオモチャだなんて思ってないよ〜。
 ただ、ちょっとからかって遊んでただけで……」

「それをオモチャと言うんですけど?」

「あ、それなら恭文も私のことそういう風にしていいよ?」

「はぁっ!?」



 いきなり何を言い出すんだこの人は。



「いや、私からばっかり抱きついたりしてるから……たまには、いいよ? 恭文から抱きついても。
 それ以外のことも、優しくしてくれるなら、何してもいいよ」

「謹んで遠慮させていただきますっ!」





 なぜ『こんな美人の告白紛いの言葉を断るのか?』……だって?

 簡単だよ。今のこの人の瞳の奥にある、妙に艶っぽい感覚に恐怖を覚えたからだよっ!

 あと、何度も言ってるけど、僕はフェイトが本命だからっ!





「なら仕方ないなぁ。私から抱きつくね」

「にこやかに笑って言うなぁぁぁぁっ! そして何が仕方ないんだよ何がっ!
 そんなにハグに飢えてるならジュンイチさんにでもしてなよっ! この人そーゆーの気にしないからっ!」

「こら待て!
 オレだってそんな人身御供な流れで抱きつかれたってうれしかないわっ!」





 そんな外野の某暴君の抗議はサラリと無視しながら、美由希さんは僕ににじり寄る。

 まずいな、身のこなしやらなんやらは美由希さんの方が上だし……どうすりゃいいのさこれ? マヂでジュンイチさんとかマスターコンボイとか盾にしようか……



 ……そうだっ!





「美由希さん、重大な連絡事項があります」

「連絡事項? ……あ、そうだっ!」

「……ひどいなぁお姉ちゃん、なのはのことより恭文くんが先なんだもの」

「なのはっ! フェイトもイクトさんも、久しぶりー!
 …………あれ、アリシアはいないの?」

「うん。
 アリシアは休みの予定が合わなくて……」





 そう言って、美由希さんはなのは達の方へと駆け寄っていく……

 助かった〜、なのはがいてくれてよかったよ。たまには横馬も役に立つね。

 美由希さんに捕まったら、撫でられハグハグされて匂いをかがれて……割と大変な目にあうからな。



 正直、大人の女性である美由希さんにそういうことをされると……本気で理性がぶっ飛ぶ。





《フェイトさんはダメなのに、本命以外でこうなるというのが、マスタークオリティというかなんというか……》

「気にしないでアルト、つか、疲れた……」

「…………茶、飲むか?」

「それはいろんな意味で場違いな労いだよマスターコンボイ」

「ナギ、アンタもいろいろと大変ね」

「そう思うなら助けてよアリサ」





 というか、基本みんな傍観ってどういうことさ?

 特に高町夫妻。年頃の娘が10歳近く歳が離れてる男の子を追っかけ回すことに対して、不安はないのか?





「ないそうよ?」

「あの人達は……」

「あと、私に助けを求めないで、自分でなんとかなさい。
 例えば……誰か、フェイト以外の女の子でもいいから、恋人を作るとか」



 『フェイト以外』の部分は聞き逃すことにした。まぁ、そこはいいさ。でも、確かにそれが一番良い方法か……



「そうすれば、美由希さんだって、さすがに自重するわよ。報告の時には、間違いなく修羅場になると思うけど。
 ……腕っ節の強い子と付き合った方がいいわよ? 突然お別れになりたくなかったらね」



 かなり真剣な表情で、アリサが僕に語りかけてくる……こやつは。



「不吉なアドバイスありがとう。心から感謝するよ……でも、相手いないんだけど。
 というか、フェイト以外に興味ないし」

「アンタね……」



 アリサとそんな会話をしている一方で、美由希さんはヴィヴィオとさっそくスキンシップ。楽しそうな顔してるなぁ。



「美由希さん、なのはのこと可愛がってたしね。年下に対してはついあぁなるんでしょ。てか、アンタに対してだってそれよ。美由希さん、弟はいないんだし」

「……そうだね」





 そう考えていると、携帯端末に通信が届く……このアドレスは。

 通信モニターを……って、ダメダメ。ここは管理外世界なんだから。端末を音声通話モードに切り替えて、回線を開く。



「もしもし?」

『はろー!』

「……やっぱりエイミィさんか」

『何よー! なんか不満でもあるの?』

「だって、人妻だとロマンスに発展する可能性ないじゃないですか」

『……あの事、みんなにバラすよ? キミが私の着替え中に部屋に突撃して』

「ゴメンナサイ。チョットシタジョォクナノデ、ソレダケハユルシテイタダケルト、アリガタイデス」

「…………どうした? いきなり端末片手に土下座などして」



 うん、マスターコンボイ、これについては追求しないでくれるとうれしいかな?





 僕に通信をかけてきたのは、エイミィ・ハラオウン。



 あのムチャぶり提督、クロノ・ハラオウンの奥さんで、これまた昔からいろいろとお世話になっている人だ。

 今は、クロノさんとの間で生まれた双子の子供達“カレル”と“リエラ”のお母さん。

 なんというか……お母さんになってから、雰囲気がすっごく大人っぽくなったんだよね。それまではちょっとだけ子供なところがあったんだけど。





『ちょっと、今何か失礼なこと考えなかった?』

「いえ、なんにも」

『ホントに〜? まぁいいけどね。とにかく、恭文くん』

「はい」





 ……あれ? エイミィさんの声が、なんか真剣だぞ。僕何かしたか?





『……おっかえり〜! いやぁ、久々の帰郷は楽しめてるかな?』

「なんで、いきなりいつもの調子に戻るんですかっ! ビックリしたじゃないですか」

『いやぁ、ついつい……ね。クロノ君から、相当危ない目にあったって聞いてたから、義姉としては、やっぱ心配だったのよ』

「すみません……」

『謝んなくてもいいよ。ちゃんと、フェイトちゃんや、リインちゃんとの約束、守れたんだしね』





 本当にギリギリでしたけどね。というか、ちゃんと守れたのかどうか、やっぱり自信がない。





『ま、暗い話はおいといて……それで、今はなのはちゃんち?』

「はい。みんなでマッタリしてたとこです」

『そっかそっか。じゃあ……美由希ちゃんも帰ってきてる?』

「えぇ、たった今。代わった方がいいですか?」



 今、使っている端末は、管理局印のものではあるけど、美由希さんはなのはの姉。

 何より、本人が無限書庫の副司書長ということで思いっきり関係者。問題は特にない。



『あー、なら代わってもらってもいいかな? ちょっと相談したいことがあるから』

「了解、ちょっと待っててくださいね……美由希さん、エイミィさんから電話です。ちょっと相談したいことがあるって」

「エイミィから? わかった、ちょっとコレ借りるね」





 僕から端末を借りて『もしもし?』と話し出したとたん、すっごく楽しそうにしゃべりまくる。

 まぁ、仕方ないか。確か……10年来の大親友だっけ?



 これは、美由希さんとエイミィさんの二人から直接聞いたのだが、二人はなのはとフェイトが友達になって少し経ってから、なのは達が縁で出会ったそうだ。

 で、会った早々意気投合。

 一緒にお風呂で裸の付き合いを経た後に大親友となった……どんな体育会系ですか。



 それは、エイミィさんがクロノさんと結婚して、美由希さんがひとり取り残された寂しさをかみしめる夜を経験したとしても変わることはなか……痛い!

 痛いから美由希さん、アイアンクローはやめてっ! あなたの腕前でそれやるとシャレがきかないからっ!





「あー、ごめんねエイミィ。恭文が失礼なこと考えてたからお仕置きしてるの。
 ……え? いやだぁ〜、別にそんなんじゃないって」



 あぁ、やばい。なんか痛みが強すぎてなんにも考えられなくなって……



「うん、わかった。それじゃあ時間は……うん、それくらいに行くね。
 みんな大丈夫だと思うから。うんうん……それじゃあ後でね」





 ……あぁ……かわが……みえる…………





「そのくらいにしておけ、高町美由希。
 それ以上は恭文が危ない……つまり、それ以上はオレとの開戦を意味するぞ」

「え……? あぁっ!」





 薄れた意識の中で、美由希さんが手を離した感覚だけはわかった。でも、そのまま……





 倒れ込みそうになるが、美由希さんがすぐに抱き寄せた。女性特有の柔らかい感触といい匂いが身体と鼻をくすぐる。

 ……何回も抱きつかれたりしてるから知ってはいるけど、やっぱりこの感覚は慣れない。無意味にドキドキしちゃうもん。





「や、恭文っ!? ごめん、加減忘れてたっ! ね、大丈夫? しっかりしてー!」

「み、美由希さん……そんなんだから結婚できないんですよ……?」

「……はい」

《マスター、その状態に追い込まれてもツッコミは忘れないんですね……》

「だね……って、アルトアイゼンっ! 久しぶり〜。元気してた?」

《はい、マスター同様です……なるほど》

「どうしたの?」

《いえ、美由希さんの中では、私は高町教導官より後にあいさつしても問題ない存在なんだと思いまして》

「へ!? いや、違うから。そんなことないよ?」

《いいんですいいんです。どうせ私なんて……》










 ……アルト、美由希さんからかうのもほどほどにしときなよ? 正直きつかったから、僕は止めないけど。



 そしてマスターコンボイ。もう少し早く助けてほしかったよ。



「貴様の不用意な思考が原因だろう?
 救出を遅らせたのはそのあたりの天罰分だ」



 ……さいですか。





 とりあえず、ただただ平謝りな美由希さんの膝枕で(強引にこの状態に移行された)少し休憩しながら、感覚が元に戻るのを待つ。

 といいますか、あれは女性の握力じゃなかったって。強化魔法使ったベルカ式の魔導師とタメ張れるよ。









「アンタ、それをやられた相手の膝枕を満喫しながら言うことじゃないわよ」

「……ほっといて。まぁあれだよ、心地よい感覚が悪いんだ」

「というか……実際のところは動けないだけだろう? ダメージ深くて」

「………………正解」

「あははは。なら、これからずーっとしてあげようか?
 恭文が膝枕好きなら、すぐにできるように、私も向こうの世界に行って、そばにいるからさ」



 美由希さんが、どこか艶っぽい瞳で僕を見つめながら、そう言ってくる。

 ……からかわないでくださいよ。美由希さんは僕のことそういう風には思ってないでしょ?



「思ってるって言ったらどうする?」

「……へっ!? いや、それはあの」



 いや、別に美由希さんくらいキレイだったら、僕みたいなのよりいいのがいくらでもいるだろうし。



 ここにいるメンバーだと……ジュンイチさんとかイクトさんとか。まぁ、どっちもいろんな意味で大変な相手だけどさ。



「そんなの関係ないよ。
 というか、恭文は、私が好きでもない男の子に簡単に抱きつくような子だと思ってたんだ。なんか、ショックだな……」

「いや、思ってないですからっ!」

「ホントに? ふふ、だったらいいよね〜♪」

「いや何がっ!?」

「だって、私はずーっと恭文のこと見てたよ? 抱きつくのだって……そうだからなんだけどなぁ」



 ヤバイ。この状況はヤバイ。というか、年齢が離れすぎてるような……



「あら、愛に年の差は関係ないわよ。ね、アナタ?」

「そうだな。恭文くん、美由希は多少落ち着かないところがあるかもしれないが、いい子だと思う。
 私としても、キミが本当の息子になってくれるなら実にうれしいしな」

「……だそうだよ。どうする〜? 私は、別にかまわないよ。
 まぁ、フェイトちゃんには負けるかもしれないけど、私だってそこそこだと思うんだよね」





 ニコニコしながらそう口にするのは、高町夫妻と当の美由希さん。いや、それはその……

 というか、フェイトの前でそんなこと言うなっ! なんか応援オーラが出てるからぁぁぁぁぁっ!



 からかわれてるだけだと思うけど、でも、そうじゃなかったら美由希さんのこと傷つけるし……

 だけどこのままだとほんとに高町家に婿入り……でも……どうすりゃいいんだよぉぉぉぉっ!





「もうっ! みんなでからかっちゃだめだよっ! 恭文くん、すっごく困ってるよ?」

「そうだよっ! 士郎さんも桃子さんも自重してっ!」





 助け舟を出してくれたのは、なのはとあずささん。

 二人にそう言われて『はーい』と口をそろえる女性二人と『すまんすまん』と平謝りの士郎さん。

 ……助かったー! やっぱ神はいるんだ。ちゃんと僕を助けてくれるし。





「それに、なぎくんは柾木家に婿入りするという正式な約束があるんだよっ! それを……」

「あるかボケぇぇぇぇぇぇっ! 何勝手に人の進路決定してくれてるんですかアンタはぁぁぁぁっっ!
 そんな約束した覚えないわっ! つか、婿入りって誰の婿になるんですか誰のっ!?」

「え? そ、それは……当然、あ・た・し・の……♪」



 顔を赤らめるなぁぁぁぁぁぁっ!



「あ、あの、あずささん。ヤスフミは、ちょっとキツイところもあるけどいい子だから、仲良くしてあげてね?」

「うん♪」

「そこ勝手に話を進めるなぁぁぁぁぁっ!」

「ヤスフミっ! あずささんのどこが不満なのっ!?」

「あずささんというより、僕の意思とは関係のないところで話が進んでるのが不満なんだよっ! せめて、僕の許可を取れ僕の許可をっ!
 僕の意思は完全無視ってどういうことだよっ!」





 あぁ、疲れる。

 というか、ここでしっかりツッコまないと、本気でそうなりかねないのが辛い。あの、どうしてこんなことに? 僕はフェイト一筋なのに。





「そうですっ! みんな好き勝手言いすぎですよっ!」

「あ、リインさんが味方してる」

「やっぱり、なぎさんが大事なんですね」

「当然ですっ!」











 そりゃあまぁ、付き合い長いしね。こうなるのも当然。あぁ、ここはアウェイじゃなかった。そう、ここは天国だったんだっ!










「そういう話はっ! この元祖ヒロインであるこの私、祝福の風・リインフォースUにきっちりしっかり事前に話を通してからにしてくださいっ!
 もちろん、全力で却下しますっ!」

「お前もかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「リイン曹長、恭文とラブラブだもんね〜」

「はいです♪」

「違うからっ!」

「違わないですっ! リインと恭文さんは、アルトアイゼンも合わせて三人で古き鉄じゃないですかっ!
 どうしてそういうこと言うですかっ!? リインが……リインが嫌いになったですかっ!」



 そういう話じゃないからぁぁぁぁぁぁっ! つか、ラブラブって明らかに恋人空気じゃないのさっ! おかしいからっ!



《マスター、何を今さら。リインさんがいたからこそ、今のマスターがいるんじゃないですか。
 元祖ヒロインであるリインさんを無視して幸せになることなど、許されるはずがないでしょ》





 くそ、言っていることがもっともらしいのが余計に腹立つっ! どうなってんのさこれっ!?



 つか、六課滞在組は大事なことを忘れてる。



 あずささんの方は100%芝居だってことがなぜわからんっ!? この人ヴァイスさん一筋でしょうがっ!





『…………そういえばっ!』





 ………………待たんかいコラ。





「……でも、よかった」

「え?」

「私……まぁ、みんなもそうだけど、けっこう心配してたんだ。少しだけ話は聞いてたから。
 こうやって、恭文とまた会えて……本当によかった」



 寂しそうな、悲しそうな色合いの瞳。それを見ていると、非常に申し訳のない気持ちになってくる。

 やっぱり、相当心配かけてたんだよね。なんというか……ごめんなさい。



「いいよ。ちゃんと帰ってきて、いつも通りの顔を見せてくれた。それだけで、私うれしい……恭文、お帰り」

「……ただいま、美由希さん」



 僕がそう言うと、美由希さんは笑顔で応えてくれた。なんというか、お姉さんには勝てない。うん、そう思った瞬間だった。



「そーだよ? お姉ちゃんは強いんだから」

「……よく知ってます」



 ギンガさんもそうだしね。うん、あれも強いわ。あー、そういえば聞きたいことがあったんだ。



「美由希さん、さっきはエイミィさんと何話してたの?」



 膝枕な体勢のまま、美由希さんに聞いてみる。

 ……瞳に先ほどまでの艶っぽい光はすでになく、友達……というかなのはを見る時のような優しい光を秘めて、僕を見ている。

 うーん、やっぱりさ。それはその……ちょっち、恥ずかしいな。



「あ、うん。もしよかったら、夕飯はハラオウン家で食べないかって。なんかリンディさんが張り切って作ってるらしいんだよ」

「リンディさんが?」

「あー、僕らが帰ってくるってのもあるし、チビッ子二人がプライベートでの海鳴初上陸ってのもあるから、がんばりまくってるんでしょ」

「うん、そうみたい。あとね、その前に、みんなでスーパー銭湯に行かないかって」





 ちなみに、海鳴のスーパー銭湯は僕も当然行ったことがある。

 何種類もお風呂があって、どれもこれも広くって楽しいんだよね〜。



 ……このコミュニティの中で男が、僕とジュンイチさん、イクトさん、士郎さんと恭也さん、クロノさんとザフィーラさんくらいしかいないってことを除けば。

 その中で、よくなのは達とつるんでヒマがあったのは僕だけだし、場合によってはひとりぼっちだよ? 仕方がないとはいえ寂しいって。





「そういうワケだから、みんな、これからお風呂タイムに入るよっ!」

「んじゃ、寝てもいられないかな。よっと……」



 美由希さんの膝枕から頭を離して、身体をゆっくりと起こす。



「美由希さん、ありがとうね」

「いいよ別に。またしてほしくなったらいつでも言ってね」

「あ、恭文くんっ! 今度はあたしがしてあげるからっ!」

「……あずささん。それはヴァイスさんにしてあげるための練習台ですか?」

「とーぜんっ!」



 …………そんなことだろうと思ったよ。



「なら、私がしてあげるですよ〜♪」

「……重くない?」

「大丈夫ですよ」

「うん、なら今度お願いしようかな」





 まぁ、リインとはあれこれしてるしね。それくらいは……





「……あ、士郎さんと桃子さんはどうします?」

「おじ様、おば様、せっかくですし一緒に行きませんか?」

「いえ、私達はこのままハラオウン家の方に向かうわ」

「そうだな。リンディさん達だけでは大変だろう。少し手伝ってくるよ。私達のことは気にしないで、みんなで楽しんできなさい」

「あ、じゃあオレも……」

「ジュンイチくん、私は『みんなで』と言ったぞ。
 キミも、みんなと楽しんでくればいい」

「…………りょーかい」



 ふむ……なら、ちょっとだけ申し訳ないけど、楽しもうかな。



「エリオ、キャロも、それで大丈夫かな?」

「はいっ!」

「前に入ったし、大丈夫ですっ!」

「恭文〜。『せんとう』って何ー?」



 僕の手をくいくいひっぱってきたのは、今まで話を聞いていたヴィヴィオ……あれ? ヴィヴィオって銭湯知らないの?



「ヴィヴィオは、そういう施設に行ったことがないから」

「なるほど、だったら行きながら教えてあげるよ。『せんとう』は、とっても楽しいところなんだよ〜」

「ほんと?」

「ほんとほんと」



 僕のその言葉にヴィヴィオの顔が笑顔に染まる。

 ……うん、ヴィヴィオにとっては初めての銭湯か。楽しくなるといいなぁ〜。でも、『戦闘』とは違うからね?



「わかってるよー。ヴィヴィオを子供扱いしないでー」

「あ、ごめんごめん。ヴィヴィオはもう立派なレディだもんね〜」

「はいはい、話はそこまでだよ。それじゃあ……準備でき次第、移動開始するよっ!」





 美由希さんの号令をきっかけに、後片づけをささっと済ませていく。

 といっても、僕が膝枕してもらっている間に大体のことはすませていたので、最終確認くらいなんだけど。





 士郎さんがしっかりと施錠したのを確認してから、僕達は海鳴市が誇るスーパー銭湯へと向かうのであった……





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 あー、ヒマやー。つか、うちの末っ子はホンマに……





「主、仕方ないかと。リインは蒼凪を心から好いていますから。
 元祖ヒロインとしては、危機感を持つのでしょう。出番が欲しいと泣き出しましたし」

「アンタいつからそんな軽い言い回しするようになったんやっ!?
 いや、まぁ……そりゃわかるで? なんやかんやであの子、登場回数少ないしなぁ」





 部屋で、ザフィーラとヴィータと一緒に夕飯を頂きながら、そんな話をしとる。議題は、海鳴に男追っかけて休みとったうちの可愛い末っ子。

 まだ8歳とかそこらなのに……育て方、間違えたんかなぁ。





「はやて、ザフィーラのセリフじゃねぇけど、バカ弟子とリインは、本当につながりが深いんだ。ヘタすると、アタシら以上にな」

「……せやなぁ。リインは、祝福の風であると同時に、古き鉄の一部やしな」

「それに、高町とヴィヴィオのことも気になったのでしょう。
 第三者であり、普段から可愛がられている自分がいれば、多少なりとも棘が立つのを防げると考えたのでは?」

「あー、それがあったか。いや、しかしなぁ……」





 なーんか、私はちとヤキモチ妬いとる。相手は恭文。原因は、リインとの絆の深さや。

 もちろん、リインと恭文は出会い方が出会い方やし、つながり深いのはわかるで?

 あの子にとっては、自分の命を守ってくれた恩人でもあるしな。



 恭文も、リインを妹か何かみたいに思うてるし、リインも、兄っちゅうか、大事な存在として思うとる。ある意味相思相愛や。



 それにや、どんな理不尽な状況も覆せる、あの二人にしか切れない、最高の切り札があるしな。それもあるから、余計にそうなるのもわかる。

 せやけど、主としては危機感覚えるんよー! いや、マジメな話やでっ!?





「……よし、今度リインと一緒に休みとって、好感度アップのためにがんばるわ。つか、私は努力が足りんのかもしれん」

「主、がんばってください」

「まかせてーなっ! ふふふふ……恭文には負けんでー!」

「バカ弟子も大変だな……」










 私は、窓から見える月を見上げて、心から思うた。そうや、私は主人公のひとり。せやから……恭文には、負けんっ!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 というワケで……久々にやってきました海鳴・スパ・ラクーアッ!





 早速、僕達は男湯組と女湯組へと分かれて入ることになった。いや、楽しみだなぁ。











 なんて言いながらも、服を脱いで、タオルを巻いて浴場内に入ると……うん、懐かしい気持ちになった。





 だって、去年の年末の時と変わってなくて、逆に安心した。これで絢爛豪華にだったらどうしようかと……



「そうだね。
 ……あ、でも変わってることがひとつあるかな」

「何?」

「恭文とジュンイチさんが一緒ってこと。前回は、男で一緒だったのはイクト兄さんとマスターコンボイとジャックプライムの三人だけだったから」

「そういえばそうですね。それで、エリオはみんなから『一緒に入ろう』って言われてたです」





 ここは「うらやましい」って言うのが正直な反応なのだろう。だけど、僕の口から出てきたのは……ひとつの言葉だった。





「エリオ、大変だったんだね……」

「ありがとう……というか、アレ逆セクハラだよねっ!? 僕、完全にアウェイだったよ……
 イクトさんが助けてくれたからいいようなものの、マスターコンボイは見捨ててさっさと先に行っちゃうし、ジャックプライムは助けてくれないし……」

「お前らなぁ……」

「…………ゴメン」

「知るか」





 いろいろ大変だったんだね。うん、よくわかるよ……それはさておき。





「それじゃあ、思いっきり楽しむか。今回は僕らもいるしね」

「うんっ!」

『おぉーっ!』

「楽しむですよー♪」











 そうして、僕達はお風呂巡りへと繰り出したのだった。



















「……………………………………………………ちょっと待ってっ!」



















 そのまま、歩き出した僕達を呼び止める声……エリオだった。



















「エリオ、どうしたですか?」

「どうしたじゃないですよっ! なんでリインさんがこっちにいるんですかっ!」





 そう、ここは男湯。リインも来ていたのだ。というか、最初から。リインの衣類は、男湯のロッカーにある。

 というか、このタイミングでツッコむのか。もうちょい早く来ると思ったのに。





「そういうことじゃないよっ! だって、リインさん女の子だよっ!?」

「リインは、11歳以下ですから、大丈夫ですよ?」

「そういうことじゃなくてっ! その、平気なんですかっ!?」

「当然です。まぁ、エリオはちょこっとアウトですけど」

「なんでボクっ!?」



 なんでだろうね。うん、僕にはわかんない。



「それなら、恭文はどうなるんですかっ!」

「いや、特に気にならないし。だって、リインとお風呂入るし」

「恭文さんとは、何回もお風呂入ってるから、大丈夫ですよ♪」

「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」










 そう、僕とリインは、出会った当初から一緒によくお風呂に入っている。

 ……いや、出会った本当に最初の頃は、リインが大きくなれなかったから、僕がフォローしないと危なかったんだけどね。

 で、それはリインがフルサイズになれるようになった今も変わらない。

 泊まりに来た時は、一緒にお風呂に入って、頭を洗ったり背中を流したり、お風呂の中で一緒に100まで数えたりするのだ。










「というか……リインさんはいいんですか、それ?」

「大丈夫ですよ。恭文さんとは、長い付き合いですし。
 というか、今はこういう場所ですからバスタオルしてますけど、本当ならいらないですよ?」

「あぁ、そうだね。僕もつけないしね」

「おかげで、モザイク入るですよ」



 リイン、その表現はいろいろアウトだよ? いや、こち○とか、お風呂のシーンで湯気とかじゃなくて、ガチなモザイク入ったアニメ多いけど。

 あ、じゃあ今の僕もモザイク? いや、それはさすがにリリカルなのはじゃないって〜♪



「そんな表現しないでくださいっ! というか、恭文も、そんな楽しそうに笑わないでっ!」



 なお、僕も腰にタオルを巻いてるので、モザイクはありません。



「エリオ、私と恭文さんは、これくらい普通です」

「とにかく、せっかくのお風呂、楽しまないとね。いこうか、リイン」

「はいです♪ さ、エリオも来るですよ〜」

「……これ、本当に普通なんだよね?」

「残念ながら普通なんだよねー」

「そのようだな……」





















「…………なぁ、リイン。
 ちなみにオレ達はどうなるんだよ?」

「平気ですよー。ジュンイチさん達のことは別にどうでもいいですから」

「お前、休み明けに説教な」

「リインの口がすべりましたっ!?」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……私、リインちゃん見習って行ってこようかな? ほら、最近カップル風呂ってできたし」

「美由希ちゃん、シャレにならないからほんとにやめてね。つーかカップルじゃないでしょカップルじゃっ!」

「いやだなぁエイミィ、わかってるって。冗談冗談」





 そう言いながら笑って手を振るけど……どうだか。美由希ちゃん、恭文くんのこと本当に可愛がるもの。というか……好き?





「違う違う。弟として可愛がってるだけだって。いや、反応が可愛くてさ〜♪」

「本当に? いや、私は時々怪しく思うよ」





 よく抱きついたり撫でたりしてるし。あぁ、いつかはお姫様抱っこした時もあったなぁ。恭文くんが風邪引いて倒れたからだけど。



 それで、恭文くんもやっぱり男の子なのですよ。えぇ、間違いなく。

 美由希ちゃんみたいに可愛くてスタイルのいい女の子にそういう事をされて、口ではなんだかんだ言いながらも、本能的な部分では悪い気はしない。



 というか、強く言うと泣きそうになるので、あまりハッキリとした拒絶ができない。

 なんていうかさ……不憫だよね。どうしてこれがフェイトちゃんにできないのか……





「でも、私は大人だもの。ちゃんと分別はつけてやってるつもりだよ? 優しくするばかりじゃなくて、ちゃんと厳しくもするし」

「いや、見ててそうは思えないんだけど」





 厳しくするっていうのは、恭文くんが迂闊なこと言う度にアイアンクローや当て身を食らわせるのとは違うと思うよ?

 しかも、その後は痛い思いさせた分だけすっごく優しくするじゃないのさ。今日だって、膝枕して告白紛いなこと言ったっていうし……





「飴と鞭の使いようと言ってほしいなぁ」

「いや、飴が多いからっ! 9:1くらいの割合で多いからっ! うちの末っ子を糖尿病予備軍にするつもりなのっ!?」

「そんなことないと思うんだけどなぁ……じゃあ、そういうエイミィはどうなの? 私からするとエイミィこそ甘いと思うけどな」

「まぁ……ね。でも、美由希ちゃん達ほどじゃないよ。あくまでも、末っ子として可愛がってるだけだし」





 そりゃあ、ついつい頭を撫でたりしてしまうけど……あの撫でられて、文句言いながらも照れてる顔がまた可愛いんだよね〜。

 声も顔立ちも身長も女の子みたいだしさ、あの年であれは反則だって。

 クロノくんだって昔はそうだったけど、今の恭文くんの年には、身長も伸びて声変わりもしてたよ。



 でも、変わりないようで安心した。

 そりゃあ、通信とかメールはしてたけど、やっぱ心配だったんだ。あの子、こうと決めたら誰にも止められないもの。

 アルトアイゼンもそうなんだよね。本気の古き鉄は、だーれも止められない。敵も、味方も。



 だから……ちょこっとだけ、不安だったりする。



 いや、例外はリインちゃんか。あの子は蒼天を行く祝福の風であると同時に、古き鉄の一部だから。言うなれば、緊急ストッパーだね。



 ……でもさ、いつか、フェイトちゃんやなのはちゃんでも届かないようなところに、フラって飛んでいっちゃうんじゃないかって、思うのよ。

 本当に、ちょこっとだけ。





「……ま、あの子は自由に、自分のために戦うのが性にあってるだろうしね。または、フェイトちゃんやリインちゃんを守るため」

「やっぱり、御神の剣士から見ても、そう思う?」

「思う思う。あの子は不特定多数のために命張るような子じゃないって。
 ジュンイチくんと一緒。世界なんてどうでもいい。でも、たったひとりの大切な人のためなら、命だって賭けるタイプだよ」





 あぁ、それは正解だね。私もそう思う。現にフェイトちゃんにそれだし。





「フェイトちゃんやリインちゃんっていうストッパーがなかったら、多分エイミィの危惧どおりになると思うな。
 ……命を賭けた戦いが嫌いでもないみたいだし、不安はよくわかる。恭ちゃんをちょっと危なくするとアレで、もっと危なくなるとジュンイチくんだよ」



 ……そこまで言いますか。



「まぁ、先輩剣士としてはね。それに、今だって完全に、局の中に入ってるワケじゃないんでしょ?」

「そうだね。やっぱり……美由希ちゃんも知ってると思うけど、昔のことがあるから。局の正義とかに背中は預けたくないみたい」

「だろうね。見てて変わってなかったから、そうだろうなって思った。
 ……やっぱり、ちゃんとしてほしい? そんなこと言わないで、局のこと完全に信じて、重いものとか預けて、役職とかにもついて貰って……って」

「……うーん、どうだろ。半分半分ってとこかな。恭文くんの、そうしたいっていう気持ちはわかるから。
 私も、美由希ちゃんと同じ意見だし」





 実際、なのはちゃん達が今回関わった事件だって……局上層部の不正と横暴。ぶっちゃけちゃえば腐敗が原因のひとつだしね。

 なんて言うかさ、私の周りには比較的まともな人間ばかりだったから、気づかなかった。

 でも、子育てし始めて、客観的に見る部分が増えて……気づいたよ。



 管理局って、まともじゃないよね。



 組織自体がさ、志のちゃんとしている人の数が多いから、なんとかなっているだけだと思う……身内擁護とか言わないでね?

 私、前にヘイハチさんが『こんな胡散臭い組織のために戦うのなんて、真っ平ゴメンじゃ』って言った時、頭きてたけどさ。

 だって、元はあの人だって局員なのに。



 でも、今ならその気持ち、なんとなくわかる。ジュンイチくんが本気でつぶしにかかるのもムリないと思う程度には。

 まぁ、それでもですよ……





「でも……家族としては、理屈抜きで心配なんだ。保証みたいなものがあるワケでもないしね。
 貯金とかはしっかりしてるみたいだし、あの子は、本当に人にも恵まれてるとは思う。だけど、保証のある生活してほしいなとか、ちょっと思ったり」

「……そっか。お姉ちゃんは大変だね」

「大変だよ〜。うちの末っ子とそのパートナーは、誰にも止められないし、答えも聞かないんだから」

「あ、それなのはも。というか、あの二人似てるよね」

「恭文くんの方が性悪だけどね。したたかで、狡猾で。まぁ……そんな子だから、多少は安心できるんだけど」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 …………あぁ、いいお湯だね。



「本当です……」

「なのはママ、銭湯って……楽しいね」

「そうでしょ? 隊舎で入るのとは、また違うしね」

「うんっ!」



 確かにそうだね。色んな人がいるし、お風呂もいつもより広いし。

 あー、でもこの檜のお風呂は気持ちいいなぁ。凄く暖かくて、いい匂いで、安心する。



「あの……フェイトさん」



 聞いて来たのはキャロ。なんというか、すごく疑問顔。



「どうしたの?」

「エリオくん……はともかく、リインさんは向こうでいいんでしょうか?」

「そういえばそうだよね。リイン曹長、女の子だし」



 ……そっか、二人は知らないんだ。そう言えば、私も話してないし。



「あー、リインはあれでいいんだ。恭文くんとは、何回もお風呂に入ってるし」

「てゆーか、あの二人はいつもあんな感じよ? いつでもどこでもベタベタベタベタ」

「なんというか、付き合ってるみたいに見えるよね。私、時々リインちゃんが羨ましくなるよ。なぎくんと本当に仲良しさんなんだなって」





 そうだね。リインも、ヤスフミもなんだけど、互いに、相手に裸を見られても平気なくらいに、付き合いが深いから。

 海鳴で暮らし始めた頃は……週一かな。リイン、うちやハラオウン家に……ヤスフミのところにお泊りに来てた。一緒にご飯を食べて、お風呂に入って、遊んで、寝て……



 そして、ヤスフミや私達がミッドの方に来てからも、それは変わらない。

 頻度はちょっとだけ少なくなったけど、それでも、一緒に過ごす時間は消えたりしない。もちろん、それまでの記憶も。





「だからはやて、ちょっとだけヤスフミにヤキモチ妬いてるんだ」

「八神部隊長がですか?」

「そうなの。なんだか、自分やヴィータやシグナムより、ヤスフミの方が、リインの正式なロードに見えるって」

「ロードって……アレだよね。アレをアレしてアレしちゃうの」

「ヴィヴィオ……その恭文くんやアルトアイゼンみたいな言い方はやめて」

「アイツ、こんな子供にナニ教えてんのよ……」



 あははは……ヤスフミと仲良くなってから、ヴィヴィオ、どんどん強くなっていくなぁ。うん、いいことなんだけど、ちょっと心配。



「でも、本当にそうですね。ご飯も、時間が合えば一緒に食べてますし」

「よくお話したり、一緒にお仕事したりしてるよね……あ、そう言えば、この間の、リイン曹長とのコンビ戦闘、凄かったね」

「そうだね。敵役として出てきたガジェット数十体が、3分とかからずに全滅だし」

「リイン曹長も恭文も、すれすれで攻撃するんだよね。それで、合図とかも全然交わさなくても、一発もミスショットなんてなくて……」



 そう、ヤスフミ……は、さすがにリインとの体格や装甲の厚さで差があるし、自分の攻撃力も考慮するから、そこまでギリギリにはやらないけど、リインはやる。



 そのスレスレの攻撃の合間を縫うようにして、ヤスフミが前線として攻撃。

 それで、リインが、ガードウィングみたいな感じかな。援護したり、入れ替わってフリジットダガ―で攻撃したり。

 二人で過ごしてきた時間と、その中で一緒に培ってきた記憶が、二人の呼吸を完璧なものにする。



 ……そういうのも、はやてやヴィータのヤキモチに拍車をかけるんだけどね。『うちらより上手いのはどういうワケやー!?』って。





「二人……というか、アルトアイゼンも入れて、三人は、最初から最後までクライマックスだったねっ!」

「うん、そうだね。恭文くんとアルトアイゼンとリインのチームは、最強かな。誰にも止められないの。実際、一緒に戦うとノリがすごいし」



 ……そうだね。あの三人は、本当に強い。

 息も相性もコンビネーションもピッタリ。まさしく、熟年夫婦だよ。あれが本当の古き鉄の姿なんだ。



 でも、「最初から最後までクライマックス」って、どういうことだろ。ヤスフミもよく言ってるし、最近なのはやヴィヴィオも口にしてるし……



「というか、なのはママ」

「ん、何?」

「恭文も一緒にお風呂入れないの、少し寂しいね……」



 そう、私やなのはと同年代であるヤスフミは、さすがにこちらには来られない。というか、来てもダメだよっ!

 私だけならともかく……あ、そういう意味じゃないよ? ヤスフミは変な事を強要したりしないってわかってるから。

 というか、なのはやアリサ、すずか達以外の、他の人もいるんだし……



「じゃあヴィヴィオ、後で一緒に男湯の方にいってみる? そうすれば、なぎさん達と一緒に入れるし」

「でも……なのはママとフェイトママが寂しいよね」

「ヴィヴィオ、私やなのはのことは気にしなくていいよ。大丈夫だから、ヤスフミのところに」

「……ヴィヴィオ、もしかして、みんなでお風呂に入りたいの? 恭文くんだけじゃなくて、エリオとも」





 なのはが、少しだけ真剣な顔で聞いてきた。え、なのはっ!?





「うん」

「よし、なら……ママに任せて」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「いやぁ、いいお湯だね。エリオ」

「そうだね……このボコボコいうのって、クセになるね」

「なるですー。というか、日ごろのがんばりが癒されるですよ〜」

「まったくだ」

「そーいや、ガキの頃はおもしろ半分に泡の出てるところの中心に入っていったりしてたよなー。
 イクトにも覚えないか?」

「そんなバカはお前だけだ」

「え!? そうなの!?」

「…………ジャックプライム……貴様も経験アリか……」





 さて、僕達は泡風呂で幸せに浸っていた。それはもう見事に。エリオも、リインがいることにだいぶ慣れたようだ。実に普通にしている。





「あー、そういやエリオ」

「何?」

「本当に慣れてるね。もうちょい緊張するかと思ってたのに」

「うん……前にみんなで入って、本当に楽しかったから」





 さて、一応補足。六課メンバーは、僕やなのはにフェイトが元々暮らしていたこの街、海鳴市に、出張任務で訪れたことがあるのだ。

 ロストロギアの回収任務だったらしい……いや、本当におかしいから。どうしてそんなことが起きるのさ。



 僕がいた時にも、何回かあって、巻き込まれたりしたしなぁ。大事にならなかったのが救いだったけど。



 とにかく、その任務の中で、みんなで海鳴のスーパー銭湯……つまり、ここに来た事があるのだ。





「あの時はキャロがこちらに突撃してきて茹蛸になってたですよ」

「……まー、アレだよエリオ。大変だったね」

「うん、大変だった……というか、恭文と仲良くなってから、最初から六課に恭文がいてくれたらって何度か思ったよ。
 だって、前線メンバーって、人間組に絞ると男は僕だけだよ? イクトさんは隊長格側だし、方向音痴が祟ってあまり前線には出てこれないし……」

「いや、ザフィーラさんいるじゃないのさ」

「でも、ザフィーラは狼だし、どっちかっていうと隊舎でずっといる方が多いし」





 ………………………………ん? まてまて、なーんかイヤな予感が。






「あー、エリオ。ひとつ質問」

「何?」

「ザフィーラさんが、人の姿になれるって知ってる?」

「……………………………………………………………………え?」











 その時のエリオの顔が、非常におもしろいものだったのは付け加えておこう。





















「……じゃあ、ザフィーラさんがずっと狼形態なのは」

「はい。はやてちゃん達と一緒に暮らし始めた時、自分だけ男の人だったので、まだ小さかったはやてちゃんに気遣ってのことだったそうです」

「で、局に勤め初めてからは、はやてやシャマルさんの護衛につくことが多かったんだって。
 その時、あの形態だとやりやすいそうなんだよ。あと、狼形態だと、人材制限に引っかからないとか」





 要するに、六課が所有する隠し手のひとつになっているワケですな。



「あまり役に立ってない、立っても気づいてもらえない隠し手だけどな」



 …………ジュンイチさん、言わないであげて。



 しかしビックリした。ここまで一度も人の姿になってなかったなんて……





「……うん。というか、僕はザフィーラが始めてしゃべれるって知った時もビックリしたよ」

「でもさ、それでようやく納得できた。なーんでスバルやエリオがザフィーラさんのこと呼び捨てにするのかわからなかったんだけど、理解した」

「……今からさんづけにした方がいいかな?」

「しなくていいと思うよ? あの人、そういうこと気にする人じゃないから。むしろ親近感持ってくれてうれしいんじゃないかな」

「ですです。だから、大丈夫ですよ?」



 僕とリインの言葉に、ようやく安心した顔を浮かべたエリオを見ながら思った。

 ザフィーラさん、なんというか……“盾の守護獣”が、“影の(薄い)守護獣”になってませんか?











 ………………シャレにならないっ!

 自分でネタふっといてなんだけど、想像してみるとシャレにならないっ!



 ザフィーラさん、帰ったら僕も何か考えてあげますから、今からでももう少し目立つこと考えた方がいいですよっ!





「あの、話を戻すけど、男が僕ひとりって、やっぱりいろいろ大変だよ」

「あー、確かになぁ。そこに僕がいれば、まだ中和されるもんね」

「でしょっ!? 本当に大変だったんだからっ! 特にスバルさんっ!
 よく抱きつかれたり、お風呂に連れて行かれそうになったり……」





 ……スバル、どんだけフリーダムなんだよ。つか、10歳児にそんな感想を持たれるって大概だよ?





「最近はそうでもないの?」

「そうだね。恭文の方に興味が出てきたみたいで、僕にはあまり」

「……その言い方は誤解を招くからやめて」

「でも、恭文」

「ん?」





 エリオが、僕の顔を見て、少し真剣な顔と声をぶつけた。

 本当に、真っ直ぐに。





「ありがと、六課に来てくれて」

「……またいきなりだね。どうしたのさ」

「なのはさんの身体のこととかがあったかもしれないけど、恭文が来てくれてよかった。みんな、本当に楽しそうに過ごしているから」





 …………………………………………………………まて。今、凄まじく引っかかるフレーズが聞こえたよっ!?





「あの、エリオ? 今言ったのって、どういうことですかっ!?」

「まさか貴様……知っていたのか!? 蒼凪がどうして六課に来たのか!?」

「……休み明け、僕達訓練の前に、医務室に行ったんです。訓練用のファーストエイドキットを補充するために」

「……エリオ、盗み聞きは関心しないよ?」





 ホントだよ。つまり六課のフォワード陣は、あの僕達……僕とアルト、ジュンイチさん、なのはとシャマルさんの会話を聞いてたワケだ。



 なるほど、それで納得したよ。

 ここ最近の気合の入り具合や、スバルやティアナがやたらとなのはの身体を気遣っていたのは、あれが原因か。





「あの、ごめん。僕達、聞くつもりじゃなかったんだ。ただ、話が聞こえてきて……」

「そのまま最後まで同席しちゃったと……」

「バレてたですか……あのエリオ、その話は他の誰かにしたりとかはないですか?」

「それはないです。相談して、話すのはやめておこうと……話されても、困るよね?」

「まーね、部隊の士気に関わるし。つか、どうしてその話を今?」





 正直、僕も気づいてなかったから、このまま知らないことにしてもいいと思うのに。





「フェイトさんからね、恭文が、本当にがんばってここに来てくれたって聞いてたから、どうしても……言いたかったんだ。
 ありがとう、僕達のこと、助けに来てくれて。すごく、うれしい」





 ……エリオ、とりあえず頭を上げて。つか、顔がお湯に浸かってるからっ!





「あははは……ごめん」

「……礼なんていいよ。僕は、自分の好きでここにいるしね。まー、それに意外と楽しんでるから」

「……そっか」

「そうだよ……あ、ひとつ確認。僕達に話してるのは、スバル達は知ってるの?」

「ううん、知らない。僕が言いたかっただけだから」





 その言葉に、僕らは顔を見合わせ、うなずく。そういうことなら、しかたないでしょ。





「……スバル達には、そういう体で接することにするよ。まったく、エリオのおかげで秘密がまたひとつ増えたじゃないのさ」

「あー……うん、ごめん」











「エリオくーんっ! 兄さーんっ! リインさんっ!」

「恭文ー♪ パパーっ!」





 ……ん? この声は……キャロか。それに……ヴィヴィオっ!?



 声のした方を見ると、身体にバスタオルを巻いて、キャロがヴィヴィオと手を繋いで、ゆっくりと歩いてくる。

 あ、そうか。エリオも女湯に入れるけど、キャロも男湯に入れるんだ。もちろんヴィヴィオも。





「…………イクトさん。
 僕ら、呼ばれなかったね……」

「気にするな、ジャックプライム。
 オレ達は影だ。裏方だ。潜むことに徹するんだ」



 あー、はいはい。無視された二人は少し落ち着こうか。





「二人とも、どうしたよ? ……あ、エリオとリインを呼びに来たとか?」

「うん、二人もなんだけど、なぎさん達も呼びに来たの」

「恭文、一緒にお風呂入ろう〜」

「よし、二人を連れて行って戻りなさい、早く。つーかとっとと戻れ」

「そして二度と来るな。来たらギガフレアと思っとけ」





 二人が泣きそうな顔になったけど気にしては負けだ。

 普通に入るならともかく、呼びに来たって言ったのがポイント。つまり、ここじゃない何処かへ入ろうという話だ。

 ……あのね、僕はまだ死にたくないのよ。確かにこの外見だけど、一応男で18歳よ?

 なのは達に見つかったら、挿入歌の調べと共にフルボッコだよフルボッコ。





「別に女湯に入ろうなんて言ってないよっ!」

「そうだよ……恭文のエッチ」

「……ヴィヴィオ、正直に答えてくれるかな? その言い回し、誰から教わった?」

「スバルさんが言ってたよ?」

「あのバカタレが……っ!」





 ……よし、スバルは少し痛い目に合わせてやろう。グリグリがゲシゲシかガリガリのどれかの刑に処してやる。

 そう心に決めたと同時に、疑問が湧いてくる。女湯じゃないとすると……どこに入るのよ?





「家族風呂だよー♪」

『家族……風呂?』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 そうして、僕達は、二人の少女に連れられて、施設内のある一角にやってきた。



 ドアを開けると、そこは露天風呂。

 入り口からみんなで空を見上げると、泡風呂を堪能している間に、空は暗くなり、夜の色へと染まっている。



 ここから見上げる空は、星が見える。なんというか……綺麗だ。

 ……こんな所があったんだね。





「うん、今年の10月に新築されたんだって。それで予約式なんだけど、今日はたまたま空いていてすぐに入れたの」

「ママー! 恭文とエリオさんと、リイン曹長連れてきたよ〜」



 ……ま……ま……っ!?



「あ、来た来た。恭文くん、ジュンイチさん、マスターコンボイさん、こっちこっち〜」

「キャロ、ヴィヴィオ、案内ありがとうね。私達が男湯に入ると、大変なことになっちゃうから……」





 ……よし、今やるべきことはひとつだ。足を踏み出そう。そう、後ろへとっ!





「みんな、戻ろうか」

「ですです」

「恭文、なんか身体が熱いんだけど、どうすればいいの?」

「じゃあ、水風呂入りなさい。でも、急に入っちゃだめだよ? 心臓のところにまず水をかけて冷たさに慣らしてから、身体を入れるの。
 それをやらないで急に入って、ショック状態とかになって、病院に運び込まれた人もいるから」

「そっか、わかった。やってみるよ」





 あー、なんか『ちょっとまってー』とか聞こえてるけど気のせいだ。

 うん気のせいだ気のせいに決まっているっ! 頼むからそうだと言ってくれ神様っ!





 ……なんだこの状況はっ!?

 というか、なぜになのはとフェイトがバスタオル巻いて湯船に浸かってるんだよっ!

 エリオがまたもや茹蛸になってるじゃないかよっ!





「なのは……説明してくれるか?」

「えっとね、ヴィヴィオがみんなと一緒にお風呂入りたいって言い出したから、ここのこと、ロビーのチラシで見たの思い出して、お願いしてみたの」

「そうしたら、丁度予約が空いてたんだ。それで、せっかくだからみんなで入ろうって思って……」

「なるほど……事情はわかったけど、いいのか二人はっ!? 僕らはこれでも男なんですけど」





 一応ね、あなた方は鈍いからあれかも知れないけど、エリオはまだいいさ、子供なんだし。

 でも、僕に裸とか見られるのは……イヤじゃないの? まぁ、タオルは巻いてるけど、ラインとかはくっきりだよ?



 なのはは成長なくぺったんこかと思ったら、意外と着痩せしてるんだなとか。

 フェイトは……うん、すばらしい。ただただすばらしい……とか思ってしまったりしてるんです。というか、今朝感じてた柔らかさとぬくもりが……



 でも、当のなのはとフェイトは目を合わせて、クスリと笑った……何がおかしい?





「あぁ、ごめんごめん……私達は、そういうの気にしないから平気だよ?」

「気にしろよ19歳っ! つーかそういうのは彼氏に言え彼氏にっ! もっと言うなら僕のとなりの暴君にっ!」

「……あのねヤスフミ。私も大丈夫。
 みんなとは、付き合い長いんだもの。変なことしないっていうのは、わかってるから」

「そうだよ。だから、別にお風呂くらいはOKだよ? 裸はともかく、私もフェイトちゃんもこうやってタオル巻いてるんだし。
 ……あ、もしかして、私の事見て変なこと考えちゃうのかな? もう、恭文くんったら……そういうのはだめだよ。私にだって心の……イタッ!」





 なのはの一言に、手元にたまたたまあった風呂桶を手にとって、なのはの頭頂部目掛けてスローインしたとしても……きっとそれは罪などではない。



 そう、それは……正義だっ!





「痛いよやすふ……ごめんなさい。私が悪かったと思うのでその目はやめてください。泣きたくなってくるんです……うぅ」

「……ほう? だったら泣けっ! 泣いてしまえこのうつけがっ!」

「ヤスフミ、おさえておさえて……
 あ、もちろん、私もなのはも、ヤスフミを小さいからって男の子として見ていないっていうワケじゃなくてね。そのなんていえばいいのかな……あぅ……」





 僕が身長や体格を気にしているのを思い出したフェイトが浴槽の中でアタフタしている。

 その様子を見てたら、さっきまで動揺しまくってたのが馬鹿らしくなった。

 まったく、この二人は……





「あぁ、もういいから。それ以上小さいって言われるとムカツク」



 そう言いながら、軽くため息。

 そこまで言われちゃ、悪くないかな、とも、ちょっぴり思っちゃったりもするけど……



「けど……悪いがそれでもムリ。
 悪いが自重してくれるか?……最低限でもお前ら二人は」

「ジュンイチさん、どうしてですか?」

「ん」



 聞き返すなのはに対して、ジュンイチさんは足元を指さした。

 それに従う形で、みんなが足元を見下ろして……



「ぅわ、何この赤いの!?」

「まさか……血!?」

「そのまさかだよ」



 言って、ジュンイチさんは自分の背後へと振り向いて――



「て、テスタロッサが、高町が……っ!」

「い、イクトさん、しっかりっ!
 大丈夫だよっ! こんなのかすり傷だよっ!」

「気をしっかり持て、炎皇寺往人っ!
 めでぃっく! めでぃーっくっ!」



「………………あの異性免疫0の純情バカを失血死させたいなら、止めないけどさ」



 鼻血の海で溺死しかかっているイクトさんをジャックプライムとマスターコンボイが必死に介抱している姿に、なのはもフェイトも何も反論できなかったのは……まぁ、言うまでもなかったかな?





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「なのはママ、フェイトママ……」

「あきらめよう、ヴィヴィオ。
 イクトさんを死なせるワケにはいかないでしょ」

「………………うん」



 結局、なのはとフェイトにはあきらめて女湯に戻ってもらった――キャロに回復魔法を(もちろん、他のお客には見えないように極小の結界を張った上で)かけてもらっているイクトさんを尻目に説得する僕の言葉に、ヴィヴィオはなんとか納得してくれたみたいだ。



「でもさ、ヴィヴィオ。なんで僕とそんなにお風呂入りたかったの?」

「うーんとね……」



 僕がそう聞くと、ヴィヴィオは少し考え込んだような顔をして……こう答えた。



「なのはママがね、一緒にお風呂に入ると、いっぱいお話して、いっぱい仲良くなれるって言ったの。
だから、恭文と一緒に入れば、もっと仲良くなれるかなって、思ったの」

「それは、私もかな……なぎさんの事、もっと知りたいなと思って。それでこんな感じに……
 なぎさん、前に言ってくれたでしょ? フェイトさんと家族なら、自分とも家族だって。
 だから、互いにいろんなこと話して、コミュニケーションしたいなと」





 そのヴィヴィオの言葉に乗っかったのはキャロだ。

 ……はやて、僕もコミュニケーション不足してたのかもしんない。ふと、そう思った。





「なるほど、納得したわ……ヴィヴィオ、湯当たりしない程度にお話しようか。もちろん、エリオとキャロともね」

『うんっ!』







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あー、このマッサージ機はキモチいいねぇ〜」

「美由希さん、少しおばさんくさいですよ……」

「う……」

「でも、なぎくん……本当に元気そうでよかった」





 まぁ、アンタと美由希さんは、本当に心配してたしね。





「いや、家の末っ子が心配かけちゃってごめんね。あの子もそうだけど、相棒も止まんない子だからさ」

「あー、大丈夫大丈夫ー。なんとかなるって信じてはいたから」

「なぎくん、ここ一番では強いですから」





 そうよね。アイツ、普段はともかく、ここ一番の大勝負では凄まじく強いし。つか、あの引きはチートよチート。



 でもま、だからこそ少しは安心できるんだけどね……姉貴分としては、心配なのよ。あいつ、本当にフラっていなくなっちゃいそうだから。





「でも……フェイトちゃんとは、相変わらずみたいだね」

「そうですね……あたしがくっついても、フェイトちゃん、応援オーラとか出しちゃうし。ダメだよアレ。恭文くんが可哀想」

「あら、ひょっとして二人とも、それで恭文くんにくっついてるの?」

「まぁ、それも含めつつ……かな。恭文、反応可愛いし」

「恭文くんといるの、楽しいもんねー♪」

「いや、それっておかしくない?」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 まぁ、こんな感じでスーパー戦闘……もとい、銭湯タイムは終了した。



 このあと、全員でハラオウン家へと向かった。ちょこっとだけ、エリキャロとヴィヴィオと仲良くなれたような気がして、うれしかった。





 ただし、ひとつの問題が……











「リンディさん、ただいま」

『ただいま戻りましたー!』



 なお、エリキャロはただいまと言うことにしようと、事前に取り決めていたそうだ。まぁ、正解だね。



『パパ、おかえりー!』



 そうして、リビングから僕の方へと駆け寄ってくるのは……一組の男女。というか、子供。



 同じ顔立ちで、ほぼ同じ髪型。ヴィヴィオよりも小さい身長のこの子達は、クロノさんとエイミィさんの子供。その名も、カレルとリエラ。



 そして、パパと呼ばれたのは……僕です。





「うん、ただいま。カレル、リエラ、元気だった?」

『うん♪』

《お二人とも、お久しぶりです。というか、まだパパなんですね》

「あるとあいぜんー♪ おひさしぶりー。というか、パパはパパだもんっ!」

「そうだよっ! パパには、パパって呼ばなきゃいけないんだよ?」





 ……さて、説明が必要? うん、そうだよね。エリオもキャロもヴィヴィオさえもぽかーんとしてるし。





「あのね、ヤスフミは、二人からパパって呼ばれてるんだ」

「いや、それは見ればわかるんですけど……」

「なぎさん、まさか……エイミィさんとそういう関係なのっ!?」

「んなワケあるかボケっ! まったくクリーンな関係だよっ!」



 あぁ、そうだそうだっ! これがあったんだっ! 仕方ない、ちゃんと……



「あー、それは私から説明するわ」



 ……エイミィさんが説明してくれるらしい。



「恭文くんね、この子達が生まれた時に、一年くらい魔導師の仕事休んで、私の子育て手伝ってくれてたのよ」

「あ、ひょっとしてそれでパパって呼んでるんですか?」

「うん……なんでか、うちの旦那様より先にね」





 あぁ、そうでしたね。その事実は忘れていたかった。



 ちなみに、原因と思われることはこれだけではない。





「それだけじゃなくて……まぁ、その。私の出産の時、恭文くんが最後まで立ち会ってくれたのよ。
 というか、出産してすぐ、私の次にこの子達抱いたの、恭文くんだよ?」

「なぎさん……」

「恭文、さすがにそれは……」

「待てっ! そんな非難の目で僕を見るなっ! つーか、クロノさん航海任務でいなかったしっ!
 あと、僕に子供抱かせたのは病院の助産婦さんだからっ! あの感動シーンで抱かないって選択肢はなかったんだよっ!」



 アレですよ。アレなんです。

 『よかったね。パパに抱いてもらえて』って、言われた時の居心地の悪さとクロノさんへの申し訳なさは、思い出すと頭痛がしてくるレベルです。



 実際、それからクロノさんはすごく凹んだ。僕を責めるようなことは言わないけど、凹んでた。



「まぁ……アイツの自業自得なところは、確かにあるかなー……」



 わかっていただけて何よりです、ジュンイチさん。



 なお、それだけで済めばよかったんだけど……

 僕がクロノさんより先にパパって呼ばれたもんだから、また凹んだ。



 一時期、本気で疑惑持たれてたし。何回ガチな家族会議が行われたと?





「……まぁ、実際問題として、恭文くんとエイミィには何もないんだけどね。ということで、みんなお帰り」

「ただいま、リンディさん」

『ただいまもどりました』

「リンディさん、ただいまです」





 エプロンで手を拭きながら再び出てきたのは、リンディさん。当然、この家の家主である。





「……ねぇ、恭文くん」

「ただいまです。リンディさん。あと、それはイヤです」

「まだ何も言ってないでしょっ!?」

「いや、なんとなくイヤな予感したんで。さ、とにかくあがりますね。つーか、ご飯ご飯♪」

「あぁん、いけずー。お願いだから一回くらい『お母さん』って言ってくれていいじゃないのよー!」





 ……言ったじゃないですか。ここにお世話になるようになってから、一回だけ。というか、気恥ずかしいので、後にする。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 とにかく、それから楽しくお食事会を済ませた。アリサにすずかさんも、ホクホク顔で帰っていった。



 そして高町家の面々やフェイト達も後片づけが済んだら高町家に帰る予定。今日はそれぞれの実家で家族水入らずですごす、ということで、ハラオウン家の僕と高町家のフェイト達はここで一旦別行動になるのだ。



 で、日帰りな予定を組んでいたなのはとヴィヴィオ、リインは、このまますずかさんの家の転送ポートから、ミッドに戻るそうだ。で、泊まりの予定だったジュンイチさんとあずささんは高町家で空き部屋を使わせてもらうとか。

 ……ま、しばしのお別れってことで。



 で、僕はちょうどアリサやすずかさんのお見送りを済ませたところ……いや、楽しかったな。うん。



 家へと入ると、リンディさんとアルフさん、それにフェイトが、せっせとお食事会で使った食器などを洗っていた。

 ……すごい量。みんなよく食べて、よく飲んだしねぇ。



 それを見て、僕もキッチンへ行って食器清掃隊に加わる。





「あら、手伝ってくれるの?」

「別にいいぞ? 自動食器洗い機あるし、今あるのをぶちこめば終わりだしな〜」



 ……あー、そうだった。僕の家にはそういうのないからついつい。



《いつものクセみたいになっていますからね》

「だね……って、ずいぶん久しぶりに声を聞いた気がするよ」

「そうだね。海鳴に来てからは、ずっと黙ってたし」





 胸元から聞こえた声は、考えるまでもない。僕の大事なパートナーであるアルトアイゼンの声。

 ここは部屋の中だし、いる人間も次元世界がらみの人ばかり。アルトがしゃべっても問題はないのだ。





《……私だって好きでしゃべらなかったワケではありません。
 リンディさん、早くこの世界も管理世界になりませんかね? どうにもこうにもマスターたちの会話にツッコみたくて仕方ないんですが》



 いや、そんな理由でなったりしないから。次元世界をなめているよ、アルト。



「そうね。さすがにその理由だと……弱いわね」

「てゆうか、お前がおしゃべりしすぎなだけだぞ? フェイトのバルディッシュやなのはのレイジングハートを見てみろ。あれが標準だ」

「……でも、バルディッシュは無口な子だから。
 ちょっとだけ、アルトアイゼンとたくさんお話できるヤスフミがうらやましいな」



 まぁ、アルトと話すの楽しいけど、ツッコむの大変だよ?

 でも、バルディッシュはそこまで無口なのか。相当稼動年数多いはずなのに。



《……特に問題はありませんので。というより、アルトアイゼンがしゃべりすぎなだけかと》

「そうかもしれないけど、私としてはバルディッシュともっと話したいな。
 『Yes Sir』とか『問題ありません』ばかりじゃなくて、色んなことを」

「だ、そうだけど……どうする、バルディッシュ?」

《……善処しましょう》



 なんだか、照れたような顔が浮かぶような声に、僕とフェイトは顔を見合わせて笑う。

 ……うん、どっか対照的なのかも。フェイトとバルディッシュ、僕とアルトって。



《まぁ、バルディッシュはそれでもいいでしょ。フェイトさんは優秀ですから。私はマスターがへタレだから大変で大変で……》

「うっさいっ!」





 この後、みんなで少しだけあれこれ話した後、高町家組も帰っていった。



 で、僕達はそれぞれ寝室に入り、ゆっくりと眠りについた。

 僕が使っていた部屋はそのままにしてあったので、僕とアルトはそこで、マスターコンボイも床に布団をしいてお休みである。カレルとリエラが大きくなったら、片さなきゃいけないな。

 もう部屋に空きはないし、さすがにずっと親と同じ部屋ってのもあれでしょ。



 ……まぁ、帰るべき家に、自分の場所がなくなるってのは……ちょっとだけ寂しいけどさ。











 ………………うん。やっぱり、仕方ないよね。





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ………………来たみたいだね。



 高町家に帰還すると、もういい時間だったのでエリキャロはおねむ。で、フェイトやあずさもそれに付き合う形で就寝と相成った。





 けど……オレは寝る前にまだやることがあった。だからこうして、高町家の道場の真ん中で待っていたんだけど……ようやく待ち人が現れた。





 士郎さんと、桃子さんだ。



「どうしたの? ジュンイチくん。
 こんなところに呼び出して……」

「腕試し……というワケではなさそうだな。それだと桃子も呼んだ意味がわからない」

「ちゃんと、お二人に話があって呼んだんですよ」



 尋ねる二人に笑顔で答え――ここからは真剣なお話。オレも表情を引き締めて再度口を開く。



「二人に、ちょっと聞きたいんだけど。
 もし、オレが……」





















「8年前のなのはの大ケガ……アレの原因だと言ったら……どうする?」





















 オレの強烈な先制パンチに、士郎さんと桃子さんが停止する――すぐに我に帰り、説明を求める二人に、俺はすべてを打ち明けることにした。











 そう。オレは、なのはが死にかけた、あの撃墜事件に深く関わっている。







 あの時、なのはは疲労のたまった状態で偶然遭遇したアンノウンの相手を引き受けて戦い、不覚を取っている。



 そしてその結果、なのはは何年もリハビリを必要とする大ケガをすることになった。



 それこそ、一時はもう二度と飛べなくなるかもしれないっていうくらいに。







 だが……そこで疑問には思わないだろうか?



 なのはの遭遇したアンノウンというのは、まだ当事悪人だったスカリエッティが使用していた、“ゆりかご”で作られていたオリジナルのガジェットだったワケだけど……





 そもそも、ガジェット達はどうしてあの場に現れたのだろうか?





 答えは簡単。







 あの時のあのガジェット達は、追いつめられて、あの場に逃げ込んできたのだ。



 そう……





















 オレの手によって。











 オレがスカリエッティを追跡する中で、ガジェットを発見。情報を得ようと追い回した結果、ガジェット達はよりによってなのは達の訪れていた遺跡に逃げ込んでくれたのだ。

 そして……その結果、なのはは墜ちた。











 オレが、なのは達があそこにいると知らないまま不用意に動いたことで、なのはに一生残る傷をつけてしまったのだ。



 いや……場合によっては死んでいたかもしれない。



 そう。オレは一歩違えばなのはを間接的に殺してしまうところだったのだ。







 それだけのことをしておいて……何も償わないというのも違うだろう。



 だから、オレはこうしてこの家を訪れた。

 なのはに同行するのにかこつけて……士郎さん達にこのことを伝え、謝るために。



「なるほど。
 それで、用意したのがこの場か」

「えぇ。
 あれから、もう8年――謝罪がここまで遅くなってしまった分も含めて、あなた達にはオレを責める理由がある。
 なのはには、もう話してる……けど、アイツの家族であるあなた達にも、話しておくべきだと思った。だからこうしてこの場を設けさせてもらったんだ」





 すべてを知り、息をつく士郎さんに対して、オレもまた静かにそう答える。





 これで、士郎さん達がオレを許さないのであれば、オレはおとなしく討たれてやる覚悟だってある。



 この、ちょっとやそっとでは死ねない身体で、何度だって……





















「…………ひとつだけ……きいてもいいかい?」





















 えぇ、どうぞ、士郎さん。



「どうして……8年間も謝らずにいたんだい?
 キミなら、最初になのはが墜ちた時点で謝罪に来ることはできたはずだ」

「それは……“JS事件”が未解決のままだったからです」



 そう。オレがなのはや士郎さん達に対し、すぐにでも自分のミスを謝罪しに現れなかった理由はそこにある。





 なのはがあんな目にあったのはオレのミスだ。


 けれど……いや、だからこそ、そのミスに落とし前をつけないうちから、許しだけをすんなりもらうワケにはいかなかった。





 だから……謝罪するのに今までかかってしまったのだ。





「ガジェットがなのは達のいる方向へ逃げ込んだのはただの偶然。オレは悪くない……そう片づけるのは簡単だった。
 けれど……オレはそうすることに納得できなかった。だから……」





「もういい」





 話し続けるオレの言葉をさえぎったのは士郎さんだった。桃子さんをその場に控えさせて、オレの方へと歩みを進める。



 途中、壁にかけてあった稽古用の刀のうち、迷うことなく真剣を選んで手に取る。

 …………こりゃ、討たれるコース確定かな?



 そんなオレに対して、士郎さんは……











「これが……答えだっ!」











 一瞬だった。

 オレが瞬きをしたかしないか、その一瞬の間に、多数の斬撃がオレの周りを駆け抜けたのがわかった。



 けど……その中の一発も、オレの身体を捉えることはなかった。





「キミの気持ちはよくわかった。
 なのはのために、そこまで責任を感じてくれる子を、一時の怒りだけで斬ることはできないさ」





 言って、士郎さんは刀をサヤに納める……やべ、動き、ぜんぜん見えなかった。





「キミはなのはのことで、この8年間ずっと苦しみ続けてきたはずだ。
 もう、やめにしないか?」



 桃子さんも…………同じ意見ですか?



「えぇ。
 あの子にも……なのはにも、そのことは話したんでしょう?
 その上で、あの子はあなたを受け入れている……あなたを許してる。
 当事者であるあの子があなたを許しているのに、私達が意固地になってもしょうがないでしょう?」



 そう答えると、桃子さんはオレの手を取って、



「あなたは、自分を許せないのかもしれない。
 けれど……それで自分を責め続けて、あなたが苦しむことはないわ」

「そういうことだ」



 桃子さんに同意すると、士郎さんはオレの方をポンと叩き、



「オレもキミと同じく戦闘者として生きてきた身だ。なのはを危険にさらした罪を、背負わずにはいられない気持ちも、少しはわかる。
 けどね……だからと言って、キミが幸せになってはならないということには、必ずしもならないと思うんだ。
 背負わなければならないとしても……背負った上で、キミは幸せになるべきだ」

「背負った上で……ですか」



 復唱するオレに対して、高町夫妻は迷いのないまっすぐな笑顔でうなずいてみせる。



 うーん……こういうところはさすがにあのなのはの両親だ。問答無用で許しに来たか。

 なまじ罪悪感が払拭されたワケじゃないだけに、ここでスッキリ許されるのはいい気分はしないんだけど……そういうのも受け入れて、その上でさらに幸せになれ……ってことなんだろうな。





 正直な話、オレは今までいろいろな“罪”を犯して、それを背負って生きてきた。背負った上で……なんて考えたこともなかったから、今の士郎さん達の話に納得できたワケじゃない。ないけれど……





「…………考えてみます」





 それでも……そういう選択もあるっていうことは、知っておくべきなのかもしれない。





 オレが、もしそれを実現させることができたなら、実現させる道を見出すことができたなら……











 オレとは別の形で、別のものを背負っているオレの友達も、きっと幸せにしてやれるはずだから……







(第21話へ続く)


次回予告っ!

エリオ 「イクト兄さん、大丈夫ですか?」
イクト 「あ、あぁ……すまない……」
ジュンイチ 「ったく、だらしねぇなぁ、お前は」
イクト 「貴様は貴様で平気すぎる。
 なんでそんなに免疫がついてるんだ。このムッツリスケベが」
ジュンイチ 「………………ことある毎に実の母親からエロゲが送られてくる生活をしてればこうもなるよ」
イクト 「………………オレが悪かった」

第21話「言うまでもないことだけど、
 三國無双のあの暴れっぷりは、現実的にはありえない」


あとがき

マスターコンボイ 「さて……ライトニング旅行編も2日目。恭文達の故郷である地球へとやってきた第20話だ」
オメガ 《というか、またメンツが一気に増えましたね。
 帰省先在住のメンバーだけでなく、ミス・なのは達まで……》
マスターコンボイ 「まぁ、なのは達は別にいいだろう。
 問題は柾木ジュンイチだ。また目立ちに現れたな、あの男め」
オメガ 《本当に、どこにでも現れる人ですよねー。
 ボスやミスタ・恭文から主役の座を奪う気でもあるんですかね? この人》
マスターコンボイ 「いや、ヤツとてそこまでは……」
オメガ 《本当にそう言い切れますか?
 だって彼のイメージCVは保志総一朗氏ですよ。あの2作目で新主人公から主役の座を奪い取った旧主人公と同じ声なんですよ》
マスターコンボイ 「よし、貴様は少し黙れ。
 その例えはいろいろな意味で危険すぎる」
オメガ 《別にいいじゃないですか。
 もし何かあっても、私はすべてをボスのせいにして煙にまく気満々ですから》
マスターコンボイ 「やめんか!
 そういうことは……そうだな、八神はやてのせいにでもしておけ!」
オメガ 《なぜミス・はやて……》
マスターコンボイ 「いや、出番のないアイツに少しでも登場する機会を、と思ってな」
オメガ 《それはそれでミス・はやて達には大きなお世話な気もしますけど……
 ……と、そんなワケで、ボスが出番の救済という形で厄介事を押しつけるいじめっ子だとわかったところで、今週はお開きとさせていただきます。
 また次回お会いいたしましょう》
マスターコンボイ 「いじめっ子とか言うなっ!」

(おわり)


 

(初版:2010/11/13)