朝日がまぶしい。黄色に見えるんは気のせいやない……いや、もう太陽は昇りきってるんやけどな。







 まー、あれや。あれなんよ。もうあれがあれしてあれでな。辛い辛い。











 ……コメントするとカットなんよ。悪いんやけど察してくれると助かるわ。







 とにかく私は首都に戻ってきた。ロッサとは途中で会話少なげに別れた。

 現在は某ファーストフード店でマフィンかじっとる。

 そして、胸元には、青い宝石……よし。











「……なぁ、アルトアイゼン」

《……》



 返事がない。ただのしかばね……って、アホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!



「何を華麗に無視しとるんやっ!? ほら、起きてるやろっ! さっさと返事しいっ!」

《さっさ》

「自分私を舐めとるやろっ!」

《……あんなあり得ない状況を私に見せておいて、よくそんなことが言えますね》











 う……







 ……そう、昨日の夜ありえへんことが起こった。







 嵐で帰れなくなって、同じ部屋に泊まることになったロッサと祝杯上げたんや。理由は恭文(orイクト)×フェイト成立の前祝い。

 いや、同じ部屋で泊まることになったっぽいし、これはもう恭文かイクトさんが男を見せて確定かなと。なお、私の英断。



 それで、なんやかんやとあって……







 気がついたら朝で、私ら……その……








 何が原因やったっけなぁ。えっと……







《あなたが『男女が同じ部屋に泊まっていたら、当然エロい事をする』……と言い出したからですよ》

「あぁ、そうやった。そしたらロッサが『そんなことない』って反論してきて……」

《そうして……アウトコースです。いや、これしか説明できないなんて、おかしいですけど》

「そうやな……どないしよ」



 テーブルに突っ伏す。いや、マジメにどないしよ。







 ……いや、大丈夫か。恭文達だって……やろうし。







《どうでしょ。だってマスター達ですし》

「いや、でもさすがに……」

《それより、自分のことを考えたらどうですか?》











 ……そうやな。どないしようか。







 ハプニングでそうなるって、ラブコメではよくあるやん? ……キツいな。実際のところ。







 やっぱここは誰かに相談した方がえぇかな……ロッサには『気にすることない』なんて言うてしまったけど、ミスやった。











 …………………………………………………………どないしようか、マジで。







 フェイトちゃんに相談する? 一応同じ境遇やし……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……どうしようか。まさかこうなるとは思わなかった。







 いや、やめよう。こんな事を口にしても、最低なだけだ。







 はやてとそうなったことを……僕自身は後悔はない。うん、それはない。







 ただ、はやては……違うよね。『気にしない』とハッキリ言われてしまったし。







 確かに、その場の勢いでそうなる事は……ある。というか、なった。



 だけど、今回は抑えるべきだった。僕は男だ。男として、女性であるはやてを守らなくてはいけない。







 なのに、これだ……本当に最低だな、僕は。











 ただ……あの時。







 僕は………………………………

 

 


 

第32話

とある魔導師達のそれぞれの答え探し

 


 

 

「……じゃあ、本当に何もなかったのね」



 えぇ、ありませんよ。そういういかがわしい事はひとかけらも。



「まぁ、そうだよね……うん、予測はしてた」

「エイミィさん、なんでそんなに呆れ顔なんですかっ!?」

「……お祝いじゃないの?」

「パパ、おめでとうじゃないの?」







 ……みんなの期待とは違うし、お祝いじゃないね。つか、こんな大げさに祝う事じゃないし。



 でも、なんで? いつものノリとは明らかに違うし……







「……鶏肉野郎」



 思考はその声で中断された。そちらを見ると……なんか不満そうな方々がいた。



「ヴィータちゃんの言う通りだ。オレ達の期待を裏切りやがって……」

「なぎさんのヘタレ」

「……現状維持なんだね。恭文、それはどうなのかな?」

「泣けるです……」

「蒼凪、またあのおでん屋に行くか。シグナムと、近所の火野殿や志葉殿と一緒にな」

「恭文くん、精密検査しましょうか。大丈夫、E○は治るのよ?」

「……アホかぁぁぁぁぁっ!」





 そう、僕は現在吊し上げに遭ってます。みなさん……カレルとリエラ以外ね。不満そうです。



 いいじゃん、何もなくたってっ! あって気まずくなるよりは数倍マシでしょうかっ!





「まぁ……確かにな。つか、ようやくだな」

「えぇ、ようやくノーダメバリアは解除できました」

「長かったわね。うん、本当に……」

「シャマルさん、お願いだから泣くのはやめて」



 僕も泣いたけどさ。

 ある意味、そうなるより快挙じゃない? いや、自分で言うと説得力ないんだけど。



「……やっさん」



 ……サリさん、どーしたんですかそんな真剣に。











「高級レストランでピアノフォームを弾くなよ……」













 あ、なんか崩れ落ちた。つーかまてまてっ!



「『これでいいか』ってスタッフさんやらに確認は取りつつ弾きましたよっ!?」



 当然である。前回も言ったけど、ちょこっと弾いてこういう感じで大丈夫かと念入りに確認した。それはもう念入りに。

 フェイトもいるのに、無許可でそこまでチャレンジなことをするワケがない。全部の工程はすべて前段階でキッチリしてるに決まっている。

 まぁ、唯一の例外がイクトさんの提案のもと、子供達がスタッフの人達を押し切ったシンケンジャーなワケだけども。



「つか、そういうところでも大丈夫なアレンジ方法教えたの、サリさんですよねっ!?
 実際やって彼女落としたとか言ってたじゃないですかっ!」

「あんなのホラに決まってるだろうがっ! 実際は引かれたわっ!」





















 ………………は?





















「…………ドウイウコトデスカ?」

「いや、やっさんのやる気を促すために事実の脚しょ」







 その瞬間、サリさんが吹き飛んだ。というか、蹴って吹き飛ばした。







「……何すんだお前っ!?」

「それはこっちのセリフだっ! 何とんでもないフカシ吹いてるっ!?
 思わず鳥肌立ったし血の気が引いたでしょうがっ!」







 ……怖っ! マジメに怖っ! 一歩間違ってたらイクトさん巻き込んでBAD ENDじゃないかよっ!



 僕らがすさまじく奇跡的なバランスで昨日を越えた事を、今さらながら認識したよっ!







「まさか本気でやるとは思わなかったんだよっ!
 お前ら“TPO”って知ってるっ!? 場を考えろよ場をっ!」

「それは僕が言ったことでしょっ!? しっかりとした完成度で文句言わせなければOKって言ってたでしょうがっ!」











 そう。戸惑う僕にサリさんはそう言った。それだけじゃない。こうも言ってた。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『お前は馬鹿かっ!? 音楽に国境なしっ! 素晴らしい演奏に、曲の出地は関係ないっ!
 いや、出地どうこうだけで判断する奴は二流以下だっ! ついでに判断させる弾き手も三流以下だっ!』








 ……サリさんの言葉は、そんないろんなものにケンカを売った発言から始まった。







『そもそも音楽とはなんだっ!? そうっ! “音”を“楽”しむことだっ!
 確かに場に合ったチョイスは必要だろう。しかしっ! それだけでは足りないっ! 足りるはずがないっ!』








 ……その時いたのは、カリムさんと僕。で、僕はなぜか殴られて倒れてた。








『なぜならっ! 場に合う曲を弾くだけでは音楽は完成しないからだっ! ただ弾くだけならば、音源をスピーカーから流せばいいだけの話になるっ!
 お前はそれでいいのかっ!? いいや、よくないっ! いいワケがないっ!
 お前がやることは場に合う曲を弾くことじゃない。曲にっ! ピアノを通じて魂を込める事なんだよっ!』








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……サリエル殿、やはりあの方の弟子なのですね」

「ですです……」

「そう言いながら、みんなでオレを呆れた目で見るのはやめてくれないかなっ!?」

「……まだあります」

「まだあるのっ!?」











 そう、まだある。サリさんの固有結界は……すごかったのだ。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『この場合、楽しむという言葉は、気持ちを込めるという意味に変換してくれ。
 そう、ディスクや音源を使用するならともかく、人間が生で弾く場合、音と言う情報に付与されるものがある。
 それは……心っ! 魂だっ!
 演奏者が自らの魂を込めるからこそ、音楽は人を魅了するんだ。それを……アニメ関係だからダメ? 場を考えろ? TPOだとっ!?
 貴様っ! それでもピアニストかっ!? 歯を喰いしばれっ! 腐りきった性根を修正してやるっ!』








 ……あの時、なんでぶっ飛ばされたんだろ。改めて考えるとワケわからないし。







『もう一度言うっ! 出地など関係ないっ!
 そしてカン違いするなっ! 好きな曲ばかりを弾けと言っているワケでもないっ!
 必要最低限なチョイスはしなくてはいけない。ただ好きな曲を弾くだけでは、それは押しつけになる。それはプロの仕事ではないっ!
 その場合どうするか? ……答えはひとつっ! そう、アレンジだっ!』








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……なんつうか、洗脳ですか?」

「なぎさんに精神操作の魔法を使ってたとか」

「そんなことしてないからなっ!?」

「……で、折り返して」

「これでようやく半分なのっ!?」











 そう、折り返して、固有結界はまだ続く。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




『一件激しい曲が、演奏する楽器やテンポを変えただけでとても雰囲気のいい曲になるだろう。そう、アレンジだっ!
 新しい可能性を、その手で作り出すっ! それこそがアレンジの理念っ! 場に合わないなら、まず合う可能性を探すことが先決だろう。
 ……もちろん、
版権をぶっちぎらない程度にっ!』








 この時、あわてて付け加えた時点で気づくべきだった。いや、もう遅いけど。








『何度も言うようだが、好き勝手をやれと言っているワケではない。ただっ! くだらない常識で自らの音楽の可能性を狭めるなと言っているんだっ!
 お前はそんな器じゃないだろっ!? 貴様っ! 「電王」のピアノマンの回を見ていないのかっ!』








 僕は首を横に振る。もはや主旨がさっぱりだけど、そんなの関係ない。言葉に込められた熱が、僕を、カリムさんを貫く。







『見ているなら話は早い……あれこそがお前の目指すべき姿だ』







 ……いや、本気で振り返るとワケがわからない。僕、なんでこれで納得したっ!?

 僕だけじゃなくて、カリムさんも説得されかけてるし。








『弾く曲がどうかなど関係ないっ! そんな戯言は聞き流せっ! あれこそが真なる音楽っ! 真に弾き手の想いがこもった音は、万人を魅了するっ!
 そんな音楽をその指で、その心で奏でたいとは思わないかっ! 自らの魂のすべてを叩きつけてだっ!
 そんな常識を飛び越える演奏がしたいとは思わないのかっ!?』








 ……なんで僕はちょこっと涙目なんだろう。どうしてカリムさんは『目から鱗が落ちました』的な顔してるんだろ。

 改めて考えると本気でワケがわからないしっ!








『お前ならできるっ! いや、お前にしかできないっ! 何ものにも捕らわれない本当の音楽というものを、世間様に教えてやれっ!
 やっさんっ! お前は今からピアノマンになるんだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……恭文」

「お願い、言わないで」

「なんでそれで説得されちゃうのっ!? おかしいよっ! 僕、今相当回数ツッコんだよっ!」



 ……なんでだろうね。こう……サリさんの勢いがすごくてつい。



「……だって、こう言わなきゃやっさんは納得しないだろっ!
 別にオレと同じ目に合えばいいとか考えてたりしたワケじゃないぞっ!? それは2割程度だっ!」

「何げに無視できない割合じゃないのさっ! どんだけ最低な思考してるんですかアンタっ!」







 いや、確かに文句は言わせませんでしたよ? えぇ、まったく。あの言葉に感動して、必死に練習し続けた甲斐は確かにありましたよ。



 でも怖いわっ! 振り返ると本気で怖いわっ! おかげでこっちは危うくイクトさんを道連れに、「自滅」という名の谷底にノーロープバンジーするところだったんだよっ!?



 つか、常識や規律ぶっちぎって目的達成する人がそんなホラ吹くなっ!







「あぁ、どうしてオレの周りにはマトモじゃないのばかりがいるんだよ。本気でそれでなんとかするって、おかしすぎるだろ……」

「アンタが言うなっ!」



 なんか失礼なことを言い出したし。



「……って、違う。こんな話じゃなかった」

「じゃあ何が言いたかったんですか……」



 そしていきなりテンションが変わった。というか戻った。



「ここまでだからな」

「はい?」

「オレ達にできるのはここまで。そう言ったんだ。後は、フェイトちゃんとお前が決めていく事だ。
 もうフェイトちゃんは“今”のお前を見ている。ここから導き出される結果は、全部お前次第だし、お前の責任だ」

「……はい」











 他のみんなも、同じくらしい。表情がサリさんと同じだし。







 つまり、これでダメならそれはフェイトどうこうじゃない。僕の問題ということ。

 ここからは、みんなは味方でも敵でもない。ある意味審判だ。レッドカードものなら、遠慮なく退場させられる。







 ……それで、いい。一番変えたくて、変えられなかったことは、覆せたんだから。







 子供扱いしないで、スルーしないで、ちゃんと見てくれる。ずっと……ずっと……そうしてほしかったから。

 やっと、ちゃんとぶつかれるんだ。そしてそれはつまり、答えが出るということ。覚悟は、決めてた。







 ……まぁ、ダメだったら、多分泣く。でも、引きずりはしない。ううん、したくない。







 もう、今までとは違うんだから。見てくれた上でダメなら、納得しなきゃね。











「ま、がんばれ。サリさんの言う通り、ここからはお前次第だからよ。
 アタシらは本当にマズイって思わない限りは、フォローしねぇから」

「それで充分です……一番の願いは、叶いましたから」







 一応進展はあったから、いいのさ。







「……うん、なら硬い話はここまでにして、みんなで美味しくご飯にするか。せっかくのごちそうが冷めるしな」

「はい」











 そして、その後はみんなで楽しくご飯を食べた。それはもう楽しく騒ぎながら。







 ……とは言え……だよな。どうしたもんか。







 フェイトやイクトさんとのことじゃない……新しい自分、どうやって始めればいいか、考えてる。







 忘れたくないことがある。絶対に忘れたくない事が。



 僕が僕でいるために、絶対に必要な記憶と時間。



 その記憶と時間があるから、僕は守りたいものを、壊したいものを、見失わないですむ。迷わないで戦える。







 ……それでも、時々間違えちゃうし、取りこぼしちゃうけどね。







 たとえ持っていることで、誰かを傷つけても、遠ざけることになっても、消しちゃいけない記憶。







 つか、それでどうこうなる覚悟なら、とうに決めている。



 だって、僕は……弱い。だからきっと、組織やコミュニティにそれを預けたら、忘れる。



 今の気持ちも、重さも、その存在さえも。それだけは、それだけは絶対にイヤで……







 だから今までは嘱託でいた。局員として戦ったら、きっと忘れる。今までは、そう思っていた。











 でも……











 フェイトの言う通り、そうならない道、あるのかな?



 局の中にいても、自分として、大事な時間と記憶。何ひとつ忘れたり、捨てたりしない道が。







 もし、もしも……そんな道があるなら、僕は……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「何も……ないですから……」

「……テスタロッサ、そこはもうわかった。だから安心してくれ」



 ……テスタロッサ、その涙目はやめてくれ。いや、我々が原因なんだが。

 しかし蒼凪は……いや、だからこそらしいのか。







 現在は談話室でテスタロッサと茶を飲んでいる。私が蒼凪仕込みの淹れ方で淹れた。

 茶葉を湯に通してから、揺らさずにじっくり待つ。飲んでくれる相手の笑顔を考えながら、ゆっくりとだ。

 これだけで、ずいぶんと味が良くなるのだから不思議だな。まぁ、それはさておき……







「それで、相談とはなんだ?」



 恋愛事……ではないな。第一、そんな話をするなら私には相談しないだろう。



「はい。実は……」





















「……なるほど」

「はい……」



 蒼凪を補佐官にか。また英断を……



「だが、そこまで気を遣う必要はないのではないか? 蒼凪ならば、ひとりでもなんとかなるだろう」



 実際、現在もどうにかなっている。局員になり、部隊に正式に入ったとしても、問題は……



「……怖いんです」

「怖い?」

「ヤスフミ、あの人に似ていますから」







 それだけでテスタロッサが何を危惧しているのかを理解した。







 ……蒼凪の師、ヘイハチ・トウゴウという人間は局員ではあった。しかし……その枠に縛られる人間ではなかった。

 自分がそうしたいと思えば、局の命令や常識など、無視して進む。今もそうだ。



 そして蒼凪も……



「万が一を考えて、ヤスフミに来てはもらいました……今の所は大丈夫ですけど」



 そう……ディセプティコンもその他の連中も、暗躍こそすれ表立っての行動自体は遭遇戦や小競り合い程度のおとなしいものだ。我々が総出で、全力で当たらなければならないほどの事態が起きているワケではない。

 おかげで、何かあった場合のために来てもらった蒼凪に負担を強いることもなく日々が過ぎているが……これからもそうだという保証はない。



「もし、何かが起きて局や組織……私達の動きと自分の動きが大きく食い違えば、間違いなく飛び出します。アルトアイゼンと一緒に」

「……そうだな」

「それだけじゃなくて……その、昨日……というか、最近、改めて気づいたんです」







 気づいた?







「ヤスフミ、すごく危ういんです」







 表情は重く、何かを恐れた色が見えるのは気のせいではない。



 しかし、ここまでになるとは。一体、何がそんなに気になる。







「どういうことだ?」

「守りたいものがあって、壊したいものがある。頑なでも、結果として自分の想いを押しつけることになっても、絶対に忘れたくない記憶と時間がある。
 それは理解……できました。ヤスフミにとってそれが必要なものであることも」



 理解『している』ではなく、『できた』……か。やはり、変化はあったのだな。



「でも、ヤスフミ……それを一番に考え過ぎているんです。
 こう、そう考えていることで、人から疎まれたり、自分の今の居場所をなくすことになることに、恐怖を感じていないようで……」







 ……アイツは迷わない。そして止まらない。心の中に通すべきものが、しっかりと存在しているからだ。



 そして、それ故にアイツはそれを通すのにジャマだと判断すれば、遠慮なくそれを振り切り、対価を差し出す。

 その状況で一番対価にされやすく、雨風に晒されるのは……アイツに対する信頼や、アイツの立場だ。







「もっと言うと……『自分の気持ちを通したら、人に嫌われても、居場所をなくしても仕方ない』。そう考えている部分が見えました。
 そういうのを覚悟していると言えばいいんでしょうか。もしかしたら、自分は殺して……奪った人間だから、仕方ないと考えているんじゃないかなと」

「……そうだな、あの方や柾木と同じく、アイツはそういった所がある」











 そう、テスタロッサの言うように、アイツは自らの風評や自分の立ち位置を軽視する傾向が見られる。私も気づいてはいた。



 ただ、今まではアイツがちゃんとその状況毎に判断して、覚悟を決めている様子だったからこそ、何も言わなかったのだがな。







 それにだ、それは決して間違いではない。

 自分を通す……行動するということは、自分を他者に押しつけていくこととも言える。他者のためと言おうと、それは変わらない。







 そう、他者に何も押しつけない者など、存在しない。私とて同じだ。







 もし、自分は何も押しつけてはいないと、その相手の事を思い行動していると言うなら、それは幻想であり錯覚であり、エゴだ。

 他者に干渉するという事はそういう事だと……まぁ、今のは受け売りだがな。実際はそこまでドライではないと思う。







 だが、蒼凪はそれ故に、テスタロッサの言うように考えている。

 ……例え、それ故に居場所を持てず、孤独になったとしてもだ。

 アイツにとって、人を殺めた記憶はそれほどに重い。その中で見据えた戦う意義もだ。その覚悟をしてでも、背負わなければならない。

 組織に預けて、楽になることなど、できないのだろう。その記憶とて、蒼凪にとっては必要なものなのだからな。





 だが、蒼凪の現状が、テスタロッサは疑問なワケか。











「局員になる必要は……ないんです。ずっと嘱託でもかまいません。ただ……」

「蒼凪に、今いる場所を捨てて当然のものとは、見てほしくないと」

「……はい。立場や状況に固執しろとは言いません。ただ、もう少しだけ大事にしてほしいんです。
 でも、どれだけ考えてもどうしたらいいのかわからなくて……」



 納得した。とは言え……いや、答えなどひとつしかないんだがな。テスタロッサにとってはそうだ。



「それで、お前はそれを一緒に考えることにしたワケだ。側にいれば、最悪そうなりかけても力になることはできると」

「……約束しましたから。少しずつでいい、新しい私達を始めたいんです。何より、私は……イヤです」

「例え、押しつけで現実を見ていないとしても、そう言いたいのか?」

「しても、です」



 テスタロッサは、迷いなく言い切った。



「ヤスフミの今までが間違っているなんて、言うつもりはありません。ただ、それが全部で、絶対じゃない……という風に、できれば……と……
 結局、また押しつけかもしれないんですけど」

「それは蒼凪とて同じだ。問題はなかろう」



 若さ故だと思ってしまう私は、きっとダメなのだろう……若さが足りないのだろうか。うん。今度のオフにでも知佳に相談するとしよう。この手の話題で恭也は役に立たん。



「……蒼凪には話したのか?」



 テスタロッサはうなずいた……蒼凪は相当苦い顔をしていただろうな。



「してました……『やっぱり局に入ってほしいからそう言う』。そんな表情をしてました。
 そして言われました。私の望むようには、きっとなれないと」

「……そうか」



 確かにテスタロッサは何回か話していたしな。そう思うのはムリはない。



「でも、うなずいてくれました。先のことを、一緒に考えていくことだけは、なんとか」

「……よかったな」

「はい……あ、それと相談事なんですけど」







 そう言えばそうだったな。すっかり忘れていた。



 しかし、話し出すとここまで止まらないとは。昨日の一件が、テスタロッサ達にとっていい傾向になっている証拠か?







「……あの、シグナム」

「どうした、改まって」

「また……話を聞いてもらっていいですか? 私ひとりだと、煮詰まっちゃいそうで。今も、ちょっとこんがらがってますし……」











 こ、コイツはっ……!



 まさかそれを言うためだけにわざわざここに連れてきたのかっ!?







 そんな私の思考が伝わったのか、申し訳なさげにうなずくテスタロッサの頭はくしゃくしゃにしてやった。







 これからしばらくはコイツの話に付き合うことになるんだ。これくらいは許してほしい。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ………………さて。

 光凰院、ハイングラム、あずさ……少しは頭に上った血は下がったか?



「……えぇ、おかげさまでね」

「いい加減気分も落ち着いてきたところですね」

「うんうん。もう大丈夫だよ」







 そうかそうか。それはよかった。



 それなら、オレも貴様らを簀巻きにして中庭の木に逆さ吊りにした甲斐があったというものだ。







「イヤミで言ってんのよこっちはっ!
 いい加減下ろしなさいってのっ!」

「というか、血が下がるどころか上がってきて……っ!」

「さすがに辛いから、そろそろ許してくれませんかなー? とか思っちゃったりしてるんですけど」

「ふむ」







 確かに、これ以上やっても仕置きにはならんか……三人を吊り下げているロープに炎一閃。ロープが焼き切れたことで彼女達が解放され――直後に響いた、つぶれたような三つの悲鳴は無視しておく。







「あたた……
 ……けど、ホントに何もなかったワケ?」

「………………もう一度吊るすぞ?」

「確認よ、確認っ! いちいちロープ持ち出さないでよっ!」

「それで……本当に、“そういうこと”は何もなかったんですね?」

「なかったと言っている。
 まぁ……オレ達の関係が変化したことだけは、確かだがな……」



 言ってから……気づいた。

 今のは明らかに失言だったと。



 なぜなら……







『そこんとこを、もーちょっと詳しくっ!』







 この3バカを、もう一度吊るす必要性を再燃させてしまったからだ。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ………………またやっているのか。



 炎皇寺往人によって、ライカ・グラン・光凰院とジーナ・ハイングラム、柾木あずさの3名が再び逆さ吊りにされるその光景を廊下の窓から見下ろし、オレは思わずため息をついた。







「マスターコンボイ」







 ………………何だ? サリ・サムダック。



「いや、こんなところで何してるのかなー、って」

「ん」



 無言で中庭を指さす――そこに広がる光景をオレのとなりから見下ろして、ようやくサリ・サムダックは納得したようだ。



「あれって……その、アレでしょ?
 イクトさんが、フェイトさんや恭文と朝帰りしたーって」

「そういうことだ。
 まったく、何をやっているのやら……」



 本当に、何であんなにエキサイトしているのやら……うん、オレにはよくわからん。



 オレにわかるのは、せいぜい今回の外出で恭文達3人の関係に変化があったことぐらいで……











 ………………変化、か……











 自らが心の中でつぶやいた、その一言に、オレの中の何かが反応するのがわかった。







 ………………いや、違う。“何か”ではない。







「アイツらは……変わっている……変わり始めている……
 ならば……」











 これは……











「オレは……?」











 “焦り”だ。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……夜。来てくれたみんなにお礼を言いつつ見送ってから数時間。







 本日はお泊りとなった双子が早々に眠った後……僕は、お姉さんとお母さんに人生相談をしていた。





















「……局にっ!?」



 やけに驚くエイミィさんの言葉にうなずく。というか、リンディさんまでビックリ顔。



「それはまたどうして? いえ、フェイトと話をして、ひとつの可能性として、本気で考えようとしてるのはわかるわ。でも……いきなり過ぎない?」



 ……そう思います。



 けど……



「今見ているものだけじゃ足りないんです」







 結局、僕が通したいものは、変わらなかった。

 ワガママで、身勝手で、傲慢だとも思う。でも、変わらなかった。



 今を守りたい気持ちと、過去を忘れたくない気持ちは、何も変わらなかった。







「だけど、それでも迷っていたんです。それがどうしてか、自分でもわからなくて……
 でも、昨日フェイトと話して、わかったんです。まだ……足りないんだと」

「だから、今までは敬遠してた局員としての道も、見てみることにしたと……」

「そう、です」





 ……正直、合わないとは思う。きっと簡単じゃない。



 だけど、このままじゃ前に進めない。嘱託をするにしても、ちゃんと考えなきゃいけないんだ。







「……正直、あなたが局員というのは……難しいと思うわよ?」



 でしょうね。自分でも思います。



「あなたは、管理局を信じてはくれないでしょう? 人を信じているだけであって」

「……はい」

「まー、休業中の身だけど、それでも局員として言わせていただくとですよ。そういう子はどこにいても厄介だろうね。
 局員になるって、局の正義に背中預けるのと同じだからさ。そういうのを少しでも信じられないと、辛いと思うな」







 ですよね。うん、わかってた。でも、そうすると……







「あと……それがらみで言いたいことがあります」



 え?

 リンディさんとエイミィさんの表情が厳しくなった……なんだろ。



「……あなた、もういいのよ」

「……何がですか?」

「過去に縛られなくても、いいの」



 縛られてるつもり……はない。ただ、忘れたくないんだ。



「でも、恭文くんがそのためにあきらめているのは、見てられないかな」

「あきらめては」

「いるよね……今の居場所にずっといること、あきらめてる。居場所を、大事にしてない」



 反論できなかった。その通りだから。きっと、エイミィさんや……フェイトの言う通りだ。



「……あのね、フェイトちゃんがずっと恭文くんを子供扱いしてたの、それが原因じゃないかな」



 ……え?



「恭文くんの、いつの間にフラっといなくなっちゃいそうな所を見て、ずっと不安だったんだよ。
 自分と似ている所もあるし、ヘイハチさんがまさにそれだから、余計に」

「私もそう思うわ。もし、本気でフェイトさんとの時間がほしいと思うなら、そこは直すべきよ。
 でないと、きっと互いに不幸になるだけだわ」



 そう、かな。ううん、きっと……そうなんだ。



「……もちろん、あなたがそう考えてしまう理由はわかるわ。ね、ひとつ聞かせて?」

「はい」

「命を奪ったという事実は、そんなに重いもの?」



 僕はうなずいた。重い、すごく。重くて重くて、キツい。



「なら、忘れてもいいんじゃないかしら」

「できません」

「それはなんで? ……やっぱり、忘れられないのかな」

「違います……忘れたく、ないんです」



 うん、そうだ。忘れたくない。なかったことにもできない。



「……どうして?」

「どうしてと言われましても……」

「正直ね、理解できないのよ。
 あなたは、そうするから失うものがある。信じられないものがある。それは、哀しいことなのよ?」



 何も言えない。だって、間違いではないから。



「……忘れることが美徳だと言うつもりはないわ。でも、決して罪ではない。
 あなた……十分がんばったと思う。だから、もういいのよ。
 もう、下ろしましょう? それでもあなたはきっと……幸せになれるわ」











 そう言われた瞬間、どう返事をしていいかわからなくて……うつむいた。

 変わらなきゃいけない。本当に守りたいなら。







 ……僕のやることは。





















「……リンディさん、エイミィさん」

「何かしら?」

「すみません、すぐには決められません……一番話さなきゃいけない子達に、まだ話していないんです」

「……そうね。あなたが生き方を変えるなら、あの子達にちゃんと話さないとね。でも、きっとそれでいいと言ってくれると思うわ」

「前に進むためだもん。きっと……許してくれるよ」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「………………確認します。
 ほんっ、とーに、何もなかったんですね?」

「ねぇよ」



 改めて尋ねる私に、ジュンイチさんはため息まじりにそう答える……まぁ、私がしつこく聞きすぎたせいなんだけど。



「………………本当に、それが原因だと思ってるのか? なのは」

「え? 違うんですか?」

「違うも何も……」



 首をかしげて聞き返す私に、ジュンイチさんはため息をついて――











「朝一番出勤してくるなり訓練場に引っ張り出されて、砲撃の雨と共に尋問されれば疲れもするだろうがっ!」











 ………………えっと、別に、そういうつもりはなかったんだけど……あれ? なんでこうなったのかな?







 確か、訓練場に来てもらったのは人目につかないところで話がしたかったからで……あれれ?



 それから……どうしたんだっけ?



《マスターがジュンイチさんに昨日のことを聞いていたところ、「何もなかった」という彼の返事がどうしても納得できなくて……》

《「どうしてもホントのことを聞かせてもらうんだから」って、私達まで総動員して砲撃の雨アラレ》



 答えたのは私の長年のパートナー、レイジングハートとパワードデバイスのプリムラ……うん、ゴメン。思い出した。



「つか、お前はそもそも何を期待してんだよ?
 オレがギンガに手を出さなかったのがそんなに不満なのかよ?」



 いや、そういうワケじゃ……

 というか、私はジュンイチさんがギンガに手を出すのを期待してたワケじゃ……むしろそうなったんじゃないか、って不安で……











 ………………あれ? どうして私、不安になってたんだっけ?











「………………まぁ、いいや。
 とにかく、お前らが思ってたようなことはねぇよ」



 首をかしげる私だけど、ジュンイチさんは気にしないでさっきの答えを繰り返す。



「むしろ、そうなると思う理由がわからねぇよ。
 そもそも、ギンガはオレの義妹だぞ?」











 ……あの、ジュンイチさん。



 それ……本気で言ってます?











「ん? 本気だけど?」











 ………………ゴメン、ギンガ。勝手な思い込みで突っ走ったりして。



 今私が感じているのと同じ絶望を、きっとギンガも感じてたんだね。







 というか……ジュンイチさん、そこまでですか。



 一緒の部屋でお泊りして、それでもまったく異性として意識してもらえなかった、って……あのフェイトちゃんですら、恭文くんやイクトさんと一晩お泊りになって進展できたっていうのに……







 これは私もそうとう気合を入れなくちゃ振り向いてもらえな……って、違う違うっ! 私とジュンイチさんはそういうのじゃないからっ!







 私とジュンイチさんは……そう! ヴィヴィオのママとパパなんだからっ! それだけなんだからっ!







《マスター。それはもう「それだけ」で済まされるような関係ではありません》

《ジュンイチさんもジュンイチさんなら、なの姉もなの姉だよねー》







 ………………うん、レイジングハートもプリムラも少し黙ろうか。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「本当に……何もなかったのか?」

「う、うん……」







 昨夜、ギンガが帰ってきた。



 休みをとってデートに出かけた蒼凪を心配した柾木が尾行すると言い出している……そうスバルから聞いて、そんな柾木が何かしでかすのではないかと同行して……悪天候によって現地で柾木と一夜を明かしたギンガが、帰ってきたのだ。







 ………………正直、心中穏やかではなかった。



 何しろ、ギンガは柾木を好いている。その柾木と一夜を共にするとなれば……











 ………………そ、そうだ。私はギンガの身を心配しているんだっ!



 別に、その、柾木がギンガと……などと考えているワケではないっ!



 柾木は……そうっ、互いに高め合うライバルだっ! そうなんだっ!











 ともあれ、そんな私のイライラを一刻も早く解消すべく、皆の協力のもとマックスフリゲートに出勤してきたギンガを包囲し、何があったのか問い詰めたのだが……そうか。何もなかったのか。











 ………………と、それで終われればどれだけよかっただろう。







 だが……目の前で地の底まで沈んでいきそうなほどに落ち込んでいるギンガを前にしては、何もなかった安心感も簡単に吹き飛んでしまった。







「………………あー、チンク姉」



 わかっている、セイン。だからそんな手のつけようもなく絶望に満ちた顔をするんじゃない。







 安易に問い詰めてしまった自分の浅はかさを呪いながら、意を決してギンガに尋ねる。



「………………ギンガ」

「チンク……」

「一体何があった?
 お前がそこまで凹むなど、尋常なことではないぞ?」

「何も……なかったから……」



 やはり、原因は柾木にスルーされたことか……



 だが、それだけとも思えない。本当にそれだけなら………………他人事ではないが“いつものこと”だ。



 当然、考える。それ以上の“何か”があったと……



「ギンガ……本当に何もなかったかよ?」

「うん……
 本当に、何も……」



 私と同様の疑問を抱いたのだろう、ノーヴェが尋ねるが、やはりギンガの答えは変わることはなくて……











「なーるほどねー」











 上がった声は、私達の姉のもの。すなわち……







「クアットロ……?」

「わかったわよ。わかっちゃったわよ。
 この私の優秀な頭脳に、ピーンときちゃったのよねー♪」



 顔を上げたディエチの声に、クアットロは上機嫌に答える。

 そんなクアットロの姿に、私達は顔を見合わせて……











「さて、ギンガに何があったか、だが……」

「当のギンガが話してくれないんじゃ、どうしようもないわね……
 ドゥーエ、何か気づかない?」

「うーん、そうね……」







「ちょっとっ! 何で私スルーっ!?
 ウーノ姉様やドゥーエ姉様までひどいっ!」



 いや、そうは言うが……お前のそういう発言ほど不安をかき立てるものはないというか……







 まぁ……そこまで言うなら、聞かせてもらおうか。

 クアットロ、一体何に気づいた?



「ふふん、そこまで言うなら、教えてあげようかしら♪」



 ………………復活が早いな。



「それはそれ、これはこれ♪
 で、ギンガちゃんがどうして凹んでるかというとね……」











「何も“なさすぎた”から……でしょう?」











 メガーヌ殿……? それはどういうことですか?



「つまり……普段ならいざ知らず、解放的なリゾート地で、しかも不意討ち同然のお泊りデート。
 そこまで条件がそろっていながら、完璧なまでにスルーされちゃったもんだから……」

「カケラも意識してもらえない自分に、自信がなくなっちゃった……ってこと?」

「………………うん……」



 メガーヌ殿に続くクイント殿の問いに、ギンガが力なくうなずく……そうか。お二人の読みは正解か。











「私が最初に気づいたのにぃぃぃぃぃっ!」



『クアットロうるさい』











 見苦しく騒ぐ我らが四女は全員からの口撃で撃墜。



 しかし……あのバカが。ギンガに対してそこまで無反応だったのか……



「うん……
 嵐でレールウェイが止まって、ホテルで一泊することになって……
 期待、してなかったって言ったらウソになる……」







 ………………苛立つ心を、今はグッと押さえつける。



 そうだ。今は嫉妬する時ではない。



 私達を救おうと尽力してくれる、新しい“友”のために力になる時だ。







「けど……ジュンイチさん、本当にいつも通りで……
 本当に優しくて……私が不安にならないように、ずっと寄り添ってくれた……
 でも……それだけだった……
 本当に、ごく当然のように、私を……“妹”を守ってくれた……っ!」



 胸の内を言葉にしていくうちに、ギンガの周りの空気がさらに重いものへと変わっていく。



「私……ダメなのかな……?
 いつまで経っても、私はあの人の“妹”でしかいられないのかな……っ!?」







 ………………すまん。力になりたい気持ちが、いきなりくじけそうだ。



 正直、あの男の鈍感がそこまで徹底しているとは思わなかった。



 まさか、自分を好いている年頃の娘と一夜を共にしてもなお好意に気づかないとは……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 んー、まいったわね……



 ギンガがジュンイチとお泊りだって聞いて、今度こそは我が娘も恋の成就の大チャンス! と思ったんだけど……まさか惨敗して帰ってくるとは。







 追い討ちを覚悟で言わせてもらえば、ジュンイチは確かにギンガのことを“妹”としてしか見ていない。



 今回のお泊りは、その辺りの壁を打破できるいいチャンスだと思ったんだけど……







 母親的な立ち位置にいる私から見ても、ジュンイチは本当にみんなから好かれていると思う。

 ギンガはもちろん、チンクやウェンディもそうだろうし、最近ではあのエース・オブ・エースの高町なのはちゃんも……古い仲間内からも挙げるなら、ライカやジーナもまだジュンイチのことを想ってる。

 なのに、肝心のジュンイチがそのことに気づいてない。どれだけあの子達がアプローチをかけてもちっともあの子達の好意に気づかない。

 まさか、一緒の部屋で泊まることになってもまだ気づかないなんて……







 ただ……たまに思う。



 あの子は、気づいてないんじゃない。自分でも無意識のうちに、気づくことを拒絶してるんじゃないか、って……



 でなきゃ、あの病的なまでの鈍さが説明できない……たまにそんなことを思ったりすることがある。











 もちろん、それは私が勝手に抱いてる印象でしかない。真実である保証は一切ない。



 でも……もしそうだとしたら……それはとても、哀しいことだと思う。



 たとえ無意識でも、人に愛されることを拒絶しているあの子を、私達はなんとしても救ってあげなきゃならない。











 そして、それができるのは……







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 隊舎に着くと、気づく。僕を見るみんなの目がおかしい。

 ……まさか予想通り? 何してるの風紀委員っ! しっかり隊舎の空気をまとめてっ!





 とにかく、デバイスルームへ向かう。アルトには、お留守番してもらってたしね。





 とにかく……入る。あ、ここは普通の空気だ。










「シャーリー、おはよ〜」

「あ、おはよ」

「おはようですー!」



 ……デバイスルームはひとりじゃなかった。リインがいた。なんで?



「あぁ、リイン曹長のバイタルチェックしてたから」

「納得した。あ、僕は出てた方がいい?」

「もう終わったから大丈夫ですよ」



 シャーリーもその言葉にうなずく……そいやさ、シャーリー。



「何かな?」

「いや、何かなじゃなくて、なんでそんなにつっけんどん? つか、目をあわせて」

「……なぎくんのヘタレ」





 お前もかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! つか、ヘタレじゃないからねっ!? 何言ってくれちゃってるの本当にっ!





「仕方ないですよ……」

「なんでっ!?」

「昨日、こっちも大変だったですから」



 ……後でフェイトの様子見に行こう。うん、絶対だ。

 あー、でもわかった。微妙な空気の正体が。まぁいいや。過ぎてるようなら、グリフィスさんやシグナムさんがシメていくでしょ。



「ま、そこはいいよ。フェイトさん的にそうなるのは、BADルートだったみたいだし」



 いいんかいっ! だったらツッコまないでよっ!



《仕方ないでしょう。これでようやくと考えていたのに、肩すかしなんですから》

「いーのよ、進展はしてるから……ただいま、アルト」

《おかえりなさい。マスター》





 その声は部屋の中央のデバイス用のメンテポッドから。そちらを見ると……いた。



 心をひとつにできる大事な相棒が。





「なぎくんがいない間にメンテはしておいたから、いつでもいけるよ?」

「お、シャーリー気が利くね。ありがと……バッチリ?」

「バッチリ」

「もうすこぶる快調ですよ〜」



 うん、ならよかった。まぁ、アルトは丈夫だしね。問題はないか。



《それではマスター》

「うん」










 シャーリーがポッドからアルトを取り出して、僕に手渡してくる。





 それを両手で受け取って、首にかける……うん、やっといつも通りだ。どーもらしくなかったんだよね。ちょっとシリアスだったし。










「……シャーリー」

「何?」

「どうして局員になろうと思ったの?」

「……え?」



 あの、シャリオさん? どうしてそんなにおもしろい顔をする。いや、我ながらいきなり過ぎると思うけど。

 だけど、我が悪友は、それでもちゃんと答えてくれた。



「……うーん、私は生活が安定してるからかな?」

「……そうなの?」

「まぁ、元々メカが好きで、局でデバイスマイスターの資格を取れば、そういうのに触れていけるしね。
 ……まぁ、こんな感じかな」



 ……こういうことなのかな。



「まぁ、アレだよなぎくん」

「うん?」

「誰も彼も、局のことを全部信じて仕事してるワケじゃないよ。少なくとも、私はそう」



 シャーリーの僕を見る目が強くなる。いつもは見せない真剣な瞳。



「ただ……その中でやってみたいことができた。だから、ここにいる。きっと、みんな同じだよ。それでいいんじゃないかな。
 組織の全部を信じる必要は、きっとない。むしろ利用してやるくらいの気持ちで、いいんだよ」

「……そうかな」

「そうだよ」










 ……我が悪友は、やっぱり鋭い。いろいろ見抜かれたらしい。





 とにかく、シャーリーにもう一度お礼を言って、僕とアルトとリインは、デバイスルームを後にした。




















 あー、しかしさアルト、リイン。










《はい?》

「……僕が局員になるって言ったら、どう思う?」

「恭文さん、どうしたですか? さっきから、変ですよ」

「あの……実はね」




















 全部ぶっちゃけました。昨日のことから何まで。そして……




















《「バカじゃないんですか?」》




















 …………………………………………よし。




















「即答っておかしくない!? つか、いきなり過ぎるからねそれっ! 僕、けっこう悩んでたんですけどっ!」

「バカなんだから仕方ないですよ。ね、アルトアイゼン」

《そうですよ。リインさんの言う通りです……あなた、なんで忘れてるんですか》



 忘れてる?



《まぁ、バカなマスターにもわかるように話すとしますか》

「ですです。本当にバカな恭文さんにも、わかるように話すですよ」





 こ、こひつらは……





《……私はそうなったとしても、いつも通りに行くだけですよ。いつものノリで、いつも通りです》

「リインも同じくです。恭文さんと、アルトアイゼンと三人で、いつも通りです」



 ……そっか。



《そうですよ。そして、あなたとて同じです》

「そう思う?」

《思います。どこにいようと、あなたはあなたなんですから。
 バカで、性悪で、ワガママでウソツキでヘタレで天然フラグメイカーで……》

「その上、いつもムチャして、みんなに心配かけまくって、運もなくて、こうと決めたらやたらと強情で……」



 ちょっとっ!?



《そして、私がマスターと認めた人です》



 その言葉に胸が震えた……そうだ。僕はあの時……アルトに認められたんだ。



「私も同じですよ……大事な、本当に大事な人です。恭文さんは、私に“今”をくれた人ですから」

「アルト……リイン……」





 バカ。それは……僕だって同じだよ。二人に……そっか。

 僕、忘れてた。忘れちゃいけないと思う理由、忘れてた。



 前にスバルに話したように、戒めている部分もある。でも、それだけじゃない。

 あの時、僕は……リインやアルトと出会えて、始められたんだ。今に繋がる時間を。今を、守りたいと思うようになったんだ。

 でも、あの時のことをどれかひとつでも忘れるのは……大事なパートナー達との時間も、一緒に忘れることになるんだ。





《……思い出しましたか?》

「うん、思い出した。なんか……ダメだね」

《その通りですよ》

「恭文さん」



 リインが、真っ直ぐに僕を見る。どこか優しくて、強い瞳で。



「恭文さんは、忘れたいのですか? あの時の事覚えてるのは、ずっと持っているのは、辛いですか?」



 さっきまではわからなかった。だけど、今ならわかる。だから、リインの言葉にこう返す。



「軽くは、ないね。でも、忘れたくない。絶対に」



 ……これなんだ。僕は……これが答えなんだ。



「戒めるだけじゃない。重いだけじゃないんだ。だって、あの時の時間のすべては、今につながっている。
 それを忘れる事も、置いていく事も、絶対にしたくない」

「私も、同じですよ」



 『恭文さんと同じです』。そう言って、リインはさらに言葉を続ける。



「リンディさん達の言うことは……きっと、本当です。
 でも、私もそのためにあの時のこと、忘れて、なかったことになんて、したくありません。
 あの時の時間は、私の……恭文さんとの今につながっていますから。だから、ワガママ通しちゃいましょう?」

「ワガママ?」

「忘れないで、変わっていけばいいですよ。きっとできます」



 リインのそう言いながら浮かべた笑顔に、心が……決まった。あんなに揺らいでいた心の動揺が、動きを止めた。



《……それでも忘れそうになったら、私達が思い出させてあげます。重いのなら、共に背負います。
 私達は、そのためにあなたと一緒にいますから》

「恭文さん、本当に忘れん坊さんですね。恭文さんは、ひとりじゃないですよ?
 アルトアイゼンも、私もいます。だから、迷わないでください。恭文さんの答えはもう、出ているはずです」





 ……そうだね、きっと迷ってた。うん、ダメだ。





「そうだね。とっくに出てた……でも、いいのかな」

《いいんですよ。私達が選んで、私達が生きる時間です。私達のやり方で幸せにならないでどうするんですか。
 それに、今日までの記憶はすべて、必要であり、幸せなんです。クラジャンの歌詞にもあるではありませんか》

「私達の今と、今までの時間のすべては、誰がなんと言おうと、幸せだと思える未来につながっています。絶対に、絶対です。
 忘れてつながる未来なんて、私達には必要ありません。それをこれから、証明していきましょう。大丈夫、私達なら、きっとできます」



 不思議だ。ひとりだったら、きっとリンディさんの言うようにしてた。でも……



「きっと、すごく傲慢で、図々しいよ? いろんな人から大ブーイングだ」

《そう言いたいヤツには、言わせておけばいいんですよ》

「ですです。私達は、私達のノリで行けばいいんです」





 アルトがいる。リインがいる。それだけで、怖いものがなくなる。どんな状況も、変えていけると、心から信じられる。そのための力も溢れてくる。



 リンディさん、エイミィさん、ごめん。忘れることはできません。ワガママ、通します。

 僕達にとって、今日までの記憶はすべて必要で、幸せなんです。誰がなんと言おうと、絶対に。

 その中で忘れていいことなんて、下ろしていいことなんて、何も……ないんです。





「……僕、変わるかも知れないよ? それでも、忘れるくらいに」

《言ったでしょう? 思い出させると。それに、そんな事ができるほど、あなた器用じゃないでしょ》

「言い切ったね」

「当然です。どれだけ一緒にいると思っているですか?」



 ……そっか。なら、よかった。うん、よかった……のかな。



「アルト、リイン」

《なんでしょう》

「……これからも、僕と一緒に戦ってくれる?」

《もちろんです。
 というか……私達は約束したはずですよ? 『決してひとりでは戦わせない』と。その約束に期限を決めた覚えはありません》

「そうですよ。それに私は、“蒼天を行く祝福の風”であると同時に、“古き鉄”……あなたの、一部ですから。
 だから、守ります。私の総てで、あなたの総てを。絶対に」



 ……うん、そうだね。ひとりじゃない。だから……いつも通りだ。



「わかった。んじゃ、こっからはいつものノリで行こうか。
 めんどいのはもうおしまい。僕達は僕達のノリで、僕達の時間を生きる。楽しく、ヘラヘラと、傲慢にね」

《「はいっ!」》



 それが罪だって言うなら、背負うさ。それでも、やらなきゃいけない。

 忘れたら、なかったことにしたら、あきらめたら、ダメなんだ。それで得られる未来なんて、僕達にはいらない。



「それで……」

《ここからが私達の時間であり、私達にしかできないクライマックスです。いいですね?》

「もちろんっ!」

「やるですよ〜♪」








 少しだけ、足取りが軽くなったのは、気のせいじゃない……そうだよね。





 どこにいようと、僕は僕なんだ。だったら、始めてみよう。





 今までと違う道になっても、変わっても、変わらないものを持ち続けていられる。そして、何もあきらめないで、つかんでいける新しい僕を。





 ……あの人の言うような、守るべきものを守る騎士としての自分を。

 僕の守りたいものも、背負う……いや、大事に持っていたいものも、何も……変わらなかったから。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……そうして、午前の業務を終えてご飯をいただいてから、訓練の時間になった。訓練場へと、トレーニングウェアに着替えてから、歩いていく。







 ……で、スバルっ!











「何?」

「なんで僕をそんな微妙な目で見ているっ!?」

《いや、原因などひとつでしょう》



 ……あー、呼び出し食らうかな? でも、僕もフェイトもなんにもなかったとしか言い様がないし。



「恭文、E○って治るんだよ?」



 ゴスっ!



「いたいよー!」

「違うわボケっ! ……あと、マスターコンボイもティアナもエリオもキャロもフリードも他人のフリしないでっ!
 そこのトランスデバイス一同っ! お前らもだよっ!」

「きゅくー!」

《……仕方ないと言っていますが》



 仕方なくないからねっ!? あー、ヒドい。マジメにヒドイから。



「まぁ……あれだよ。エリオ達から聞いたけど……」

「うん?」

「よかったね。ちょっとだけでも進展して」



 ……ありがと。



「でも、これからだよ。後は恭文次第なんだからっ!」

「もち。ハッピーエンド目指してがんばろうじゃないのさ」











 ……うん、これからだ。気合い入れよう。







 とにかく、みんなで訓練場を目指す。すると……あれ?







 なのはにフェイト、ジュンイチさんにイクトさん、師匠にシグナムさんに……あれ?







 僕達とは色違いの訓練着を着た人が、二人いる。

 ひとりは170前後の白髪二つのおさげ。

 もうひとりは黒髪ざんばらで180前後。







 なんか、そろいもそろって楽しげに……えぇっ!?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「まー、アレだよフェイトちゃん。昨日も言ったけど、やっさんがアホやってダメだと思ったら見捨てていいから。
 さすがにうちらもそこまでは面倒見切れないしさぁ」



 いえ、あの……



「そーそー。それくらいシビアじゃないと、いい男は捕まえられないし、育たないよ。あ、厳しすぎてもアウトかな。
 現にヒロがそれでいき……なぁ、首筋にアメイジア突きつけるのはやめないか? ちょっと死の匂いを感じるからさ」

《いやサリ、お前が悪いと思うぜ?》

《迂濶過ぎます、主》





 ……あの、今一瞬過ぎてどうやってこの位置関係になるのか見えなかったんですけどっ! やっぱり、すごい……



 でも……厳しくか。うん、しっかり見ていくんだから、必要だよね。







「……何やってるんですか二人とも」







 その声は私のよく知っているもの。そちらを見ると……ヤスフミがいた。訓練着姿でスバル達も。

 うん、みんな来たんだ。それなら……



「やっさん、悪いけど助けて。鬼がいる……」

「……すみません、その鬼は止められません。目が怖いし」







 あはは……





















「さて、それでは訓練に入る前に、みなさんに紹介する方達がいます」







 ヤスフミ達から少し遅れてライオコンボイ達ガイア・サイバトロンのみんなが到着。



 整列したみんなを前になのはがそう言うと、一歩前に出てきたのは……あの二人。







「あー、みんなおはよ〜。もう自己紹介するまでもないと思うけど、ヒロリス・クロスフォードです。で、サリエル」

《ホワイっ!? 待ってくれよ姉御っ! オレのことを忘れてるぜっ!》



 その声は、ヒロさんの両手の中指から聞こえる。そこには二つの指輪。

 金のリングに丸いラベンダー色の宝石が付いている。そう、この子がヒロさんのデバイス。名前は……



「もうちょっとちゃんと紹介しろよっ! ……あー、サリエル・エグザです。で、こっちが」



 サリさん……じゃなかった、サリエルさん、そこは流すんですかっ!?

 とにかく、自分の胸元から下げていた十字架……いや、十字の槍の形をしたペンダントをみんなに見せる。



《みなさん初めまして。私はインテリジェントデバイスの金剛と申します。主共々、お見知りおきを》

《あ、オレはアームドデバイスのアメイジアだっ! ガール達、よろしくなっ!》

「あ、はい。よろしく……」

「お願い……します」



 ……みんな、呆気に取られてるね。うん、わかるよ。私達も同じだったから。



「あー、みんなどうしてそんなに驚いてるの? よくしゃべるデバイスなら、アルト見てるでしょ」

「……いや、同じようなのが存在してることに驚いてるのよ。それも2機も」







 とにかく、話は進んでいく。いや、二人となのはが進める。







「お二人は、今日からみんなの訓練を手伝ってくれることになりました」

「お二人とも相当な実力者だ。しっかりと学んでいけ」

『はいっ!』



 みんな、元気よく返事を返す……うん、いつも通りだ。



「それでは、お二人とも何かあれば」

「あー、じゃあ一言だけ……うちらがやるのは、あくまでも手伝いなんだ。
 みんなの教導担当は、なのはちゃんとヴィータちゃんだから。みんながやることも、進むべき方向も、変わったりしない。そこの所は忘れないように」

「オレも同じく。あと、オレはカウンセラーとかの医療スキル持ちだから、そっち方面からもサポートさせてもらう。とにかくみんな、これからよろしく」

『よろしくお願いしますっ!』











 ……昨日のことは昨日として、日常は進んでいく。私も、イクトさんも、ヤスフミも。みんなも。







 考えることは多いけど、しっかりしていこう。私は準備を始めたみんなを見ながら、そう心に決めた。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……疲れました」

「な、なんか訓練が激しくなってる……」

「アンタ……なんで私らと一緒にヘバってるのよ……」

「だって……あれはキツい」

「私……限界です」

「きゅく……」







 いや、覚悟はしてた。でも……アレはヒドい。なんで僕とやってた時より激しいのっ!?



 現在、食堂目指してみんなでフラフラしながら歩いています。あー、お空が暗い。あ、フリードは飛んでるね。







「まぁ、仕方ないかもね。
 トランスフォーマーの僕らですら、この有様なんだから……」

「もうヘトヘトじゃん……
 早くメシにしよーじゃん。肉食いてー」

「オイラはチーズ……」







 …………で、フラフラなのは僕らだけじゃない。ライオコンボイ達もすっかりへばってる。



 つか、主に本日初訓練の我が兄弟子、姉弟子が張り切りすぎたせいなんだけど。

 今日の訓練が午後だけだったからいいようなものの……いや、それを見越してたからこその、あの密度か。







「恭文から話は聞いてたし、覚悟はしてたけど……」

「ごめん、予想より密度濃かった」

《そうとう張り切ってましたね。ものすごく楽しそうでしたし》



 食堂へフラフラしながら到着。あー、でもよかったかも。



「どうしてよ?」

「一気にいつものノリに戻れた気がする」

「なるほど、納得だわ」







 とか話しながら、カウンターに向かって……いや、あの。







「ん? どうかした?」







 戸惑う僕に問いかける声――うん。軽く混乱してて答えかねてる。

 で、それはスバル達や、その後ろに並ぶライオコンボイ達も一緒。僕も人のことは言えないけど、みんなポカーンと口を開けて呆然としてる……ライオコンボイはフェイスガードのせいでよくわかんないけど。







「なんだよ、元気ないなー。
 せっかく体力がしっかり回復するように、腕によりをかけて晩メシの用意してやったのに」

「いやいやいやいやっ! そういう問題じゃないからっ!」



 そんな僕らの態度が不満だったらしい。口を尖らせてのその言葉に、僕はあわてて待ったをかける。



 うん。だってありえないから。



 だって……











「なんでついさっきまで訓練場で僕らをしばいてたジュンイチさんがへーぜんと厨房に立ってるんですかっ!
 しかもMyエプロンとMy三角巾完全装備の“パーフェクト主夫モード”でっ!」

「いや、今言った通り、お前らの回復の助けになればと思って、先回りしてメシ作ってたんだけど……
 ……あれ? ひょっとしてお前ら、オレが少し早めに抜けたの、気づいてなかった?」







 ………………ごめんなさい。そんなことに気づけるような余裕はありませんでした。







「やれやれ……どんな時でも周囲の気配を把握しておくのは、戦闘職としては必須だぞ?
 たとえば……」











「そこでつまみ食いをしようとしてるバカペンギンをしばき倒せるよう……にっ!」







 焼き魚をくすねようとしたブレイクが蹴り飛ばされた。





















 ………………まぁ、なんやかんやで驚かされたけど、ジュンイチさんも僕らのために作ってくれたんだし、そこは感謝しなくちゃね。



 そんなワケで、ジュンイチさん特製のパスタ(ビックバン盛り)を受け取る。ティアナは小皿。エリオはサラダ。スバルはパン。キャロはフライドチキン。

 ライオコンボイ達も、それぞれに自分達の好物を受け取ってる。量的にはみんな僕の受け取ったビッグバン盛りと同じくらい……もちろん、パスタ以外も全部ジュンイチさんの手作りだ。

 さすがにこの短時間で全部を一から作れるはずもなく、一部は“事前に”家で作って持ち込んできたものを暖めたらしいけど……ってことは、この人こうなるのを読んでたんかい。



 そうして、フラフラしながらも食事だけは守ろうと必死にテーブルを目指す。





「………………あ、ジュンイチさんにリンディさんの近況聞いとくの忘れた」

「そういえば、今お兄ちゃんちにいるんだっけ?」

「そ。
 まったく、我が家族ながら何やってるのか……」



 うん。今やスバル達にもリンディさん達の家出のことはバレてる……エリキャロに対して口をすべらせたフェイトが原因なのは言うまでもない。







 ……しかし、どうしてこうも次々と問題が起こるのか。もう収拾つける自信、ないんだけど。







「そういやアンタ、姪っ子甥っ子に『パパ』って呼ばれてるんだって?」







 テーブルに着いたので、各自大事な食料を慎重にテーブルに置く。というか、並べる。



 そんな時、ティアナからこう言われた。ちょっと動揺してパスタの皿が揺れた……エリオ、キャロ?



「え? 違う違うっ!」

「わたし達は何もっ!」



 だとすると……他にそのことを知ってるのは二人しかいない。



「あはは……話しちゃった」

「黙っていた方がよかったですか?」



 やっぱりメイルとライラか。

 いや、いいけどさ。知られた所でどうこうって話じゃないし。



「……恭文。なんて言うかさ、どうしてそうなの?」

「僕が聞きたい……」

《アレに関しては、不幸な偶然の産物としか言い様がないですしね》





 まーそこはいいじゃないのさ。今はご飯だ。



 とにかく僕達は、席に座って両手を合わせる。





《それではみなさんご一緒に。せーのっ!》

『いただきます(じゃん)っ!』

「きゅくー♪」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『……ホンマに何もなかったん?』

『うん、何も。その、すごく気遣ってくれたから』




















 ……聞かなければよかった。私はフェイトちゃんにこの間の一件を突っ込んだ。帰ってきた返事が……これや。





 書類の処理をしつつ、思考はどこか虚ろなもんを辿ってる。らしくないと思ったりもする。つか、なーんで事件も起きてへんのにこないにシリアスなんやろ。

 ……ロッサは、なんで私と……そうなったんやろうな。いや、本人に聞くしかないんやけど。





 ただ、怖い。





 もし……一夜の関係っちゅうヤツのつもりやったらと考えると、怖い。





 別に、そういう風に思ってたワケでもないんやけどなぁ。

 近い距離にいるお兄さん言う感じで、なんでも気楽に話せて……





 なんか、ダメやな。





 なんで、こないに……!







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ………………むぅ……



 蒼凪達は食事をすませ、隊舎へ引き上げていった。







 …………そう。蒼凪もだ。なんでも、明日の朝練に参加するために今夜はこちらに泊まりだとか。







 そしてオレは……皆の引き上げたオフィスでひとり考え事の真っ最中だ。







 考えるのは今後のこと。



 オレの今後、そして……蒼凪や、テスタロッサとの今後のこと。







 先日……蒼凪はオレに、自分やテスタロッサのそばにいてほしいと言ってくれた。

 まぁ、理由については素直にうなずきかねるものではあったが……正直、どんな形であれ必要とされているのは悪い気分ではない。







 だが……問題は、オレがヤツらのそばにいて、何ができるか、ということだ。







 テスタロッサは執務官を目指している。そして蒼凪はその補佐官に誘われている。

 執務官ということは、その職務は事件捜査が中心。鉄火場はその中の過程のひとつ、というケースが主になるだろう。

 そして、捜査が中心となると……











 ………………オレ、むしろ足引っ張るんじゃないか?











 別に、捜査が苦手というワケではない。そのあたりのスキルも、“Bネット”で活動する中で、この六課での活動の中でそれなりに学んできた。



 だが……捜査が中心になるということは、それに伴う報告などで事務仕事の割合がどうしても多くなる。そして現代の事務仕事において書類仕事は端末を使うのが当然であり必然。







 ………………今ですら端末を再三フリーズさせるオレには、正直荷が重いんだ、うん。







 いかん……このままでは戻ってきたところでたまの戦闘くらいしかやることがないぞっ!? しかもその後の報告でまた足を引っ張ることになるっ!



 何か考えなければ。オレのできること。オレのとるべき道を……っ!











「………………あれ、イクト……?」











 光凰院か……今あがりか?



「うん。食事も終わって、隊舎に戻るとこ。
 そういうイクトはどうしたのよ? なんか進路に悩む高校三年生みたいな顔しちゃっ……って、あれ? なんでそこで泣き崩れるのっ!? あたし何か地雷踏んだっ!?」



 気にするな。お前が悪いワケではない……だが、ひとつ聞かせろ。











 先日の蒼凪といい……オレは、そんなに思考が顔からダダモレなのか?





















「………………つまり、フェイトだけじゃなくて、恭文からも誘われたんだ。
 けど、自分のスキルじゃ二人やその周りのみんなの足を引っ張りそうで、どうしたものか、と……」



 ………………あれ? どうしてオレは洗いざらい光凰院に話してるんだ? いつの間に?



 気づけば、光凰院はオレのとなりのデスク(日ごろからあまり使われていないシグナムのデスクだ)のイスに腰かけ、オレと向き合っての面談の形が出来上がっていた。







 ……本気でワケがわからん。光凰院がさも当然のようにこの形に持っていったものだから、違和感をまったく感じることのないままにここまで来てしまった気がするぞ?







「そんなことは気にしなくていいのよ。
 問題はあんたがこのままじゃ役立たずだってことでしょうが」

「ぐぅ………………っ!」



 落ち着けオレ。少なくともここで光凰院を焼き払うのは筋違いだ。



「そんな難しい顔しないの。
 少なくとも……あたしはいい傾向だと思ってるのよ?」

「何………………?」

「だって……少なくとも、こないだまでのイクトだったら、そんなことは考えなかったと思うから」



 そう……なのか?



「そうよ。
 アンタは、10年前からずっと、戦い続けることしか考えてなかった。
 “瘴魔大戦”を生き残った神将のひとりとして……あんな戦いを、二度と繰り返させないために」

「そんなことは……」

「あるでしょ?
 だから……あんたは独立機動部隊にいる。ジュンイチが好き勝手するために作ったチームに便乗して、自分の信念を貫いて、戦い続けることを選んだ」



 ………………否定、できなかった。



 蒼凪にも見抜かれていたことだ……オレは神将として世界の敵に回った“罪”を、今でも背負い続けている。

 だから、オレは光凰院の言う通り、あの“瘴魔大戦”を繰り返さないために戦い続けることを選んだ……



「そんなアンタが、戦い以外の道を考えるようになった……
 六課でみんなと一緒にいる間に、アンタも変わってきてる……“戦士”として生きてきたアンタが、“人”としての生き方を考え始めてる」



 そう言うと、光凰院は立ち上がった。オレの肩をポンと叩いて、



「アンタの悩み……答えはあげられないけど、答えを出す方法なら教えて上げられるわよ?」

「本当かっ!?」

「食いつきすぎでしょ。どんだけ悩んでたのよアンタわ。
 ……まぁ、いいわ。とにかく、あたしに言えるのはひとつだけ」



 そう言って、光凰院が示した“方法”は……







「アンタが選んだ道は、アンタひとりで歩く道だったりするワケ?」











 …………………………











「………………蒼凪に相談してくる」

「ん。よろしい」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「………………それはまた……」

「難しい問題だね……」



 一部始終を話してくれて……恥ずかしさやら情けなさやらですっかり凹んでしまったイクトさんを前に、僕とフェイトは苦笑すらできない。自分の頬がひきつってるのがハッキリとわかる。



 ………………うん。フェイトもいるの。約束してた『さらば電王』の主題歌のディスクを渡してたところにイクトさんが来た。



 イクトさんとしては僕だけに相談したかったみたい……うん。フェイトに知られるのは恥ずかしかったんだと思う。僕だって同じ立場だったらフェイトには知られたくないと思うだろうから。

 けど、フェイトもいる時に来ちゃったのがこの人の運の尽き。フェイトにガッツリ知られたイクトさん、今現在テンション8割減といったところかな?



「でも、そんなに気にすることもないんじゃ……
 私は、イクトさんがいてくれてすごく助かってますし」

「そ、そうか……?」

《えぇ、そうですね》



 なんとか元気づけようとするフェイトの言葉に顔を上げたイクトさんに答えるのは、もちろん僕の胸元の我が相棒。



《そしてその分書類仕事やプライベート方面で同じくらい迷惑をかけていますが。
 世話になっている分と迷惑をかけられている分とでプラスマイナスゼロ、といったところですか》

「うがぁぁぁぁぁっ!」

「おのれは何を追い討ちかけとるかっ!
 ただでさえイクトさんそうとう煮詰まってるのに、これ以上トドメ刺してどーすんのさっ!?」



 あー、もうっ。イクトさんますます凹んじゃったじゃないのさ。



《何言ってるんですか。
 この人、マスター達と同じ道を歩いていくと決めたんでしょう? そのクセしてマスター達に相談もしないでひとりで抱え込んだりして。
 まったく、なんで私の周りの男どもはこうして人間関係がダメダメなんでしょうかねぇ?》



 うん。確かにそれは僕達が悪いと思うよ?



 けどね……半分くらいはお前がその毒舌で余計な波風を立てるからだと思う僕は間違ってるのかなっ!?







 アルトの「ツッコミ」という名の“追い討ち”で、イクトさんのテンションは8割減から9割減にランクダウン……あー、まぁ、なんだ。







「確かに、今のままだと………………うん、フォローは必須だと思うよ?」



 ………………さらに9分減。トータル9割9分のマイナス。もう1%しか残ってないや。



「け、けどさっ! それでもやりようなんかいくらでもあるんだしっ!
 実際、書類仕事だって端末使うからダメなんであって、手書きだとグリフィスさんもビックリなくらい完璧じゃないのさっ!」

「私達も一緒に考えますから、なんとかする方法、三人で見つけましょう。ねっ!?」

「………………手伝ってくれるのか?」







 ………………イクトさん、自分の苦手分野の話になると別人かと思うくらいに弱気になりますよね。







「もちろんだよ。
 一緒にやっていこう、って決めたでしょうが……だったら、ダメなところも一緒に直していこうじゃないのさ」

「そうですよっ! 私達にも力にならせてくださいっ!」

「だが、それでは世話になりっぱなしになってしまう……
 いつもいつも言われていればさすがに自覚がなくとも思い知る……オレには、できないことや問題となるスキルが多すぎる」



 ………………自覚、なかったんですね。



「まぁ、その辺はイクトさんにできることで、僕らの足りてないところを直してくれればお互い様、でしょ?
 ね? フェイト」

「うん。
 少なくとも、イクトさんは私達よりも強い……私達を鍛えてくれる、強くしてくれるのも、十分私達のためですよ?」

「しかし、それでは今やっていることの延長だ……お前達はそれでいいのか?」



 なおも渋るイクトさんに対して、フェイトと二人でうなずく……まぁ、恋敵に対してちょっと塩を送りすぎな気もするけど、そこは今ツッコむところじゃないでしょ。



「僕らみんなで、強くなっていこう」

「そして……私達みんなで、変わっていきましょう。
 私達なら、きっとできますよ」

「………………そうだな」











 ……うん、強くなろう。そして、変わっていこう。きっとできる、うん。





















「……あ、それなら」

「……何?」

「ひとつ、思いついたことがある。
 蒼凪……せっかくだからやってみるか? テスタロッサも手伝ってくれると助かる……というかお前の意見がぜひ欲しい」

「いや、まずは何をやるのか教えてくださいよ」










 ……この時のイクトさんの思いつきが、AAA試験での僕の窮地を救うことになるとは、この時、知るよしもなかった。





















(第33話へ続く)







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



おまけ……というか新たなる爆弾?







 ………………はやての様子がおかしい。







 表面上は取り立てて違いがあるワケではない。注意深く観察しなければわからない程度の違いだが……明らかについ先日までとは様子が違う。



 おそらく、気づいているのはパートナートランスフォーマーであるオレくらいか……この程度の違和感では、おそらく毎日職場で顔をつき合わせているグリフィスですら気づいてはいまい。







 はやてがこういう状態の時は、間違いなく、何かについて悩んでいる時だ。



 こうなると、こいつはこっちに心配をかけまいと抱え込むところがあるからな……また問題を引きずって、厄介なことにならなければいいのだが。







 こんな時に限って、他の守護騎士連中は夜勤シフトで隊舎に泊まりだ。つまり今夜の八神家ははやてとオレ、そしてリインだけということだ。これでは誰にも相談できやしない。



 いずれにせよ、時機を見て、それとなく聞いてみた方がいいか……





















 ピンポーンっ!











 ………………ん? 何だ?







「はいはーい」

「あぁ、いい。オレが出る」







 洗い物をしていたはやてがキッチンを離れようとするのを止め、オレは玄関に向かう。



 しかし、こんな時間に一体誰が……



「はい。どなたですか……」





















「うむっ、苦しゅうないっ!」





















 ………………は?











 この時、間の抜けた声を上げてしまったオレを一体誰が責められるだろうか。



 何しろ、玄関の扉を開けたオレの前……ではなく足元にいたのは……





















「故あって宿がないっ!
 しばらく泊めてたもれっ!」





















 新生瘴魔軍“蝿蜘苑ようちえん”の首魁――万蟲姫まむしひめだったのだから。





















(本当におしまい)


次回予告っ!

ジュンイチ 「うーん、お前らのこれからの進路かぁ……
 なんかこういうのを考えてると、ガキの頃の将来の夢とか思い出すな」
恭文 「ジュンイチさんは子供の頃どんな夢とか持ってたんですか?」
ジュンイチ 「我こそ最強っ!」
イクト 「………………まぁ、貴様らしいと言えばらしいが……」
ジュンイチ 「そーゆーイクトはどうだったのさ?」
イクト 「………………侍」
恭文 「………………イクトさん……」
イクト 「いいじゃないか! 侍好きだったんだよっ! 今でも好きだけどっ!
 というかっ! 幼稚園の頃に“必殺仕事人”を挙げた作者よりマシだろうがっ!」
   

 

(※実話です)

 

第33話「どれだけゴチャゴチャしていても、
 たいてい一歩くらいは踏み出せる」


あとがき

マスターコンボイ 「と、いうワケで、転機となった一夜を乗り越えた恭文達のそれからを描いた第32話だ」
オメガ 《そして相変わらずミスタ・イクトは情けない、と……》
マスターコンボイ 「もはやいつも通りの光景になっているなぁ……
 まぁ、今回の話で恭文やフェイト・T・テスタロッサのフォロー体制も成り立ちそうな気配だし、今後は何とかなるんじゃないか?」
オメガ 《なると思いますか?
 だって、あのイクトさんですよ?》
マスターコンボイ 「………………」
オメガ 《はい、話すの私とボスしかいないんですから黙らない》
マスターコンボイ 「……と、とりあえず、恭文達とは別に一泊した連中だが……」
オメガ 《強引な話題転換ですね。もうちょっとスマートにしてもらいたいところですが……まぁ、いいでしょう。
 とりあえず……ミス・はやて達はまだマシな方ですよ。本家『とまと』準拠でのアウトコースですし。
 問題はミスタ・ジュンイチとミス・ギンガでしょう》
マスターコンボイ 「……こういうのは、普通手を出すことで問題が起きるのが定番なんだろう? 実際八神はやて達がそのパターンであることだし。
 なのに……なんでコイツらは手を出さなかったことで問題になってるんだ?」
オメガ 《さすがはミスタ・ジュンイチですね。問題の起き方すら一筋縄ではいきませんか……
 まぁ、とりあえず若干一名を除き問題意識はあるようですし、遠からず解決に動くんじゃないですか?》
マスターコンボイ 「だといいんだが……メンツがメンツだからな。むしろそれが余計なトラブルの引き金になる可能性も……」
オメガ 《なんでこう平和かドタバタかで綱渡りしてるんでしょうね、この人達。
 ……私は退屈しなくて何よりなんですけど》
マスターコンボイ 「………………一度、貴様も当事者になればいいのにと心底思うぞ」
オメガ 《残念ながら、本編の私は自立活動用のボディを持ってませんからね、
 つまり、ボスのその期待は虚しく砕け散ることになるのですよ、はっはっはっ♪》
マスターコンボイ 「つくづく最低だな貴様わ……っ!
 ……とりあえず、このバカデバイスをどうしてくれようか考えたいので、今週はここでお開きにさせてもらうぞ」
オメガ 《どうせ負けるんだからやめとけばいいのに》
マスターコンボイ 「『どうせ』とか言うなぁぁぁぁぁっ!」

(おわり)


 

(初版:2011/02/05)