「それで……みんなを振り回した罰として、みんなに手料理をごちそうすることになったワケ?」
「あぁ。
とりあえず、全員分一気におごるんじゃなくて、数人ごと日を分けて作るって形にしてもらえたのはせめてもの救いだけど……」
機動六課、隊員食堂――あたしに答えて、厨房に入っていたジュンイチさんはあたしの頼んだオレンジジュースを手際よく用意してくれた。
「はい、サリちゃん」
「ありがと」
ジュンイチさんからジュースを受け取って……新しい疑問が出てきたから、きいてみる。
「それで……何作るの?」
「みんなそれぞれにリクエスト。
どいつもこいつも、ここぞとばかりに高い食材を使った料理とか手のかかる料理とか頼みやがって……ライオコンボイなんかマンガ肉だぞ、マンガ肉」
マンガ肉って……あの、骨の両端が飛び出た輪切りの肉?
「そ。
つか、どいつもこいつも考えなしにオーダーしやがって……
食材はオレ持ちだからいいけど、ここの設備で調理できないものだったらどうするつもりなんだっつーの」
あぁ、それで今、厨房の機材を点検してたんだ。必要な設備がないと困るから。
「そういうこと。
設備がなかったら事前に用意しとかなくちゃいけないからな」
………………設備、用意できるんですか。
「キッチンの設備についてはひいきの業者があるから、そこに頼めば後はお任せで済むからな。食材の調達の方がよっぽど手間なんだよ。
さっき話したライオコンボイのマンガ肉なんて普通の肉使って作ればいいけど、サリ兄なんて地球の三大珍味なんか要求しやがったんだぜ?」
サリ兄……サリエルさんのことか。
けど、“地球の”三大珍味って……それ、ひょっとしたらわざわざ地球まで仕入れに行かなきゃいけないんじゃ……
「その可能性が高いんだよなぁ……ミッドでの流通量なんてたかが知れてるし。
あー、また転送酔いと戦わなきゃならんのか……」
あー、うん、がんばってくださいね。
「おぅともよ。
……あ、そうだ、サリちゃん」
「はい?」
「お前はリクエストとかないのか? あるなら一緒に作ってやるけど」
「いいの?」
ジュンイチさん、それでなくてもみんなの分を作らなきゃいけないのに……
「今さらひとり分くらい増えたところで変わらねぇよ。
それに……ヴィヴィオはもちろん、エイミィにアイツんトコの双子にブイリュウに、あげくは万蟲姫まで便乗でリクエストしてきてやがるからな。これでお前の分を作らなきゃ、逆にお前が仲間外れだろ」
んー、じゃあ……
「はいはいはぁーいっ!
オレは最高牛肉のサーロインステーキ!」
「オイラはエスカルゴを腹いっぱいなんだなっ!」
「てめぇらには聞いとらんっ!」
あたしの脇を駆け抜けたジュンイチさんの炎が、乱入してきたガスケットとアームバレットだけをピンポイントで吹き飛ばした。
っていうか、この二人……久しぶりの出番がこれ?
「ったく……すでにとんこつラーメン×2を頼んでるクセして図々しい」
……図々しいこと言われても、作るのをやめるって選択肢は出てこないんだね。
「フッ、もちろんタダとは言わないぜ、旦那」
「『食材費出すから』とか言ってもムダだぞ。
それでなくてもオーダー件数多いんだ。買収に乗って手間をこれ以上増やしてたまるかっつーの――」
「引き受けてくれたらこの『今日のわんこ』超限定ベストセレクション(非売品)のDVDをプレゼントっ!」
「その買収乗ったぁぁぁぁぁっ!」
え!? 乗っちゃうの!?
数秒前に自分が言ったことを思い出そうよっ!
「いいんだよ。『今日のわんこ』のためならな」
………………いや、ジュンイチさんがそれでいいなら、いいんだけどね。
「で? お前のリクエストは?」
「んーとねぇ……」
気を取り直して尋ねるジュンイチさんの質問に、あたしはちょっと考えて……
「満漢全席」
「どういう料理かわかった上で発言してるか? お前」
ううん、知らない。
……ジュンイチさんからどういうものかを説明してもらって、素直に断念して手作りハンバーガーにオーダー変更。
っていうか……すごい量の料理が出てくるフルコースみたいなものだったんだね。教えてもらってよかったよ。そんなのとても食べきれないもん。
名前だけは聞いてて、どんな料理か興味があって頼んだんだけど……うん、無知って怖いね。
「ところで……誰から名前を聞いたんだ?」
「えっと、スバルさんだけど……あれ? どこ行くの? ジュンイチさん」
「ちょっと……愚妹をしばきに行ってくる」
あ、あはははは……スバルさん、強く生きてね。
後でちゃんと謝るから……
スバルさんがまだ生き残ってたら。
第36話
一難去ってまた一難……せめて間は開けてほしい
「こんちわーっス!」
その日、六課には久しぶりの客人が来た。
誰が来たかっていうと……
「さっそくやるよ、恭文っ!」
「おぅよっ! こなたぁっ!」
そう。僕の悪友のひとり、こなただ。そして交わすのは恒例の“あいさつ”――
「ビッグサイトは!」
「オタクの風よっ!」
「防寒!」
「しっかりっ!」
『徹夜は厳禁っ!』
『見よっ! 冬コミは、熱く萌えているぅぅぅぅぅぅっ!』
………………
…………
……
『…………サンクリ編っ!』
「だからやらんでいい」
ジュンイチさんの炎が、次の演武に移ろうとした僕とこなたを吹っ飛ばした。
「いつぞやといい今回といい、なんでオレを混ぜてくれないんだよ、お前ら?」
「……ジュンイチさん、ツッコむところはそこじゃないです……」
横から口をはさむのはなのはだけど……まだまだジュンイチさんのことがわかってないね。こういうバカ騒ぎではギャラリーよりもキャストでいたいのがジュンイチさんなんだよ?
「つか、こなた」
「何? 先生」
「いや……今日平日なのに、何してんだよ?
冬休みにはまだもーちょっとあるはずだし……また学校サボリか?」
「むー、失礼しちゃうな。
期末テストも終わって、学校は自由登校期間なんだよ」
首をかしげるジュンイチさんにこなたが答える――あぁ、高校によってはそういう休み同然の期間があるんだっけか。
「いや……それならそれでお前が休みなワケないだろ。補習はどうした?」
「最初から赤点前提っ!?
大丈夫だよっ! ちゃんと赤点は回避したからっ!」
「『赤点“だけは”』の間違いでしょ……」
あぁ、かがみも来てたんだ。
ということは……つかさも?
「えぇ。
今頃はライトニングのオフィスじゃないかしら……あの子、キャロと仲いいから」
あぁ、それでかがみはここに来たんだ。
ツンデレ仲間のティアナに会いに。
『ツンデレじゃないっ!』
実にナイスコンビネーション……うん。ティアナもいたの。だってここはスターズのオフィスだし。
ところでさ……こなた、かがみ。
「そっちのお姉さんはどなた? 初対面だと思うんだけど」
そう。やってきたのはこなたとかがみだけじゃない。
もうひとり……桃色がかった髪を長く伸ばした、なかなかスタイルがよさげなお姉さんがいた。
まぁ、こなた達の友達……もっと言えば“JS事件”で一緒に戦った仲間なんだろうけど、少なくとも僕は初対面のはず。
「あなたが蒼凪恭文くんですね?
初めまして。私は高良みゆきといいます」
「あ、こちらこそ初めまして。
蒼凪恭文です」
ていねいにあいさつされて、僕もつられて頭を下げる……高町さんちの美由希さんが脳裏に浮かんでくるので、呼ぶ時は高良さんでいいね、うん。
にしても……うん、礼儀正しい人だ。どこぞの横馬も見習ってほしいものだよ。
「どういう意味かな、恭文くん。
私だってちゃんとあいさつくらいできるよっ!」
「初対面からいきなりバインドかましたヤツにンなセリフを吐く資格なんぞないわボケっ!」
「そんなことしたんですか? なのはさん……」
こなたのなのはを見る視線が微妙だ……ほら見なよなのは。これが世間一般の正しい反応ってヤツだよ。
「ま、それはともかくとして……
そんなこんなで、4人そろって泊りがけで遊びに来ちゃいましたーっ♪」
「じゃなくてっ! テストの打ち上げ旅行のついでに立ち寄っただけでしょうがっ!」
元気に言うこなたの言葉にかがみがツッコむ……うん、なんかこれにすっごくよく似た光景を僕は知ってる気がするんだけど。
「恭文、どうしてそこであたしやティアを見るのっ!?」
「アンタがこなたばりに世話を焼かせるからでしょうがっ!」
スバルがティアナに怒られた……うん、やっぱりすごくよく似た光景だ。
「他のメンツは来てないのか?」
「あぁ、ひよりんと岩崎さんはゆーちゃんが体調崩しちゃったんで」
「峰岸さんと日下部さんは、家の方の用事だそうです」
「そっか。
にしても、ゆたかのヤツまぁた体調崩してんのか……身体弱いんだから、ムリしなきゃいいのに」
尋ねるジュンイチさんにはこなたと高良さんが答える……また知らない名前がポロポロと。
あ、でもゆーちゃん=ゆたかちゃんはわかる。こなたの従姉妹の子だね。前にこなたから聞いたことがある。
「そっか……来てるのはカイザーズ初期メンバーの4人だけか……
残りのメンツも来てくれればよかったのに……」
そんなことを考える僕の傍らで、ジュンイチさんが残念そうにうめく……あの、ジュンイチさん?
「ん? 何?」
まさかとは思いますけど……
「こなた達も巻き込もうとしてません?」
「だって、今思いっきり人手が欲しいトコじゃんか。
こいつら、これでもけっこうやるんだぜ?」
「え? 何? まさかまた事件?」
あちゃー、こなたが食いついてきちゃったよ。
マスターコンボイ、説明よろしく。
「そこでオレに振るのかっ!?
……まぁいい。実は、今六課の業務の方が立て込んでいてな」
「何? また“レリック”が出たの?」
「いや、そういうワケではない。
実は、地上部隊の方で追っていた“古代遺物”密輸シンジケートのアジトの情報が浮かんできてな。
そいつらが“レリック”を扱っている可能性もある、ということで、オレ達六課にも捜査協力の依頼が来たんだ」
「ほら、以前、『ガジェットに狙われるかもしれない』っていう理由で、“レリック”もないのにホテルの警備をしたことがあったでしょ?
あの時と似たようなケースだよ――基本、“レリック”がからんでる疑いがあるならお呼びがかかる、って感じかな?」
聞き返すかがみにマスターコンボイとなのはが答える。
ちなみに、その“ホテル”の時のことは僕も報告書で見て知ってる。あの時のことが話題に挙がるとすると、次につながる話題は……
「あぁ、当時敵のフリをしてた私達とぶつかって、先走ったティアにゃんがゴッドオンの過負荷でマスターコンボイをノックダウンしちゃったあの時ね?」
「うぅっ、あの時はご迷惑をおかけしました……」
そう。ソレだ。思い出したこなたの言葉に、ティアナが軽く凹んでいるけどそれはさておき。
「まぁ、アジトがハッキリ見つかったワケじゃないんだけどね……たれ込みの裏付け捜査で東奔西走、っていう状態なワケ。
ホント、さっさと見つけてから協力依頼してほしいよ。そうすれば僕らは暴れるだけで済むんだから」
「ダメだよ、恭文くん。そういうこと言っちゃ。
こういう地道な捜査が、事件解決には一番大事なんだから」
説明を締めくくる僕に対してなのはがツッコんでくる……言ってることは間違ってないけど、なのはに言われるとなんかムカつく。
「なんで!?」
「いや、どう考えても捜査官向きじゃないでしょ、なのはは」
「……ともあれ、そんなワケで、今ちょっと六課全体が立て込んでるんだよね。
かまってやれなくて勘弁な、こなた」
「むーっ、先生もなんでそこで私に振るんですか。
別に、先生にかまってもらえなくて寂しいなんて思ってないんだからねっ!」
……うん、こなた。ツンデレを演じるならもっとうまくやろうね。なんか芝居くさい。
「あ、やっぱり?
自分でもそうだと思ってたんだよねー」
「まぁ、今日の業務終了までどっかで時間つぶしててくれるんなら、その限りでもねぇんだけどな。
どうせ、今夜の宿は恭也さんをあてにするつもりで決めてなかったりするんだろ? だったらアイナさんに頼んで部屋を用意してもらえよ。空き部屋もあるんだしさ」
「うん、そーするー♪」
ジュンイチさんの提案にこなたがあっさり同意する……え? まさかジュンイチさんの読み通り? そんな行き当たりばったりでいいの?
「何言ってるのさ。
それもまた旅の醍醐味っ! でしょ?」
いやまぁ、言いたいことはわかるんだk
「お、おねーちゃぁんっ!」
……今度はつかさの悲鳴か。一体何事?
「つかさ!?」
「お、お姉ちゃんっ!
ヘビっ! おっきなヘビがーっ!」
声を上げるかがみに、つかさが思いっきり泣きついてる……つか、「おっきなヘビ」か……
「………………ジュンイチさん」
「奇遇だな、恭文。
オレも、騒動の原因にすっごく心当たりがあるんだよねー」
「………………顔を見るなりいきなり悲鳴と共に逃げ出されたら、いくらなんでも傷つくんだけどなー……」
やっぱりお前か、コラーダ。
けどさ……いくら隊舎の中が暖房効いてるからって、ビーストモードでうろついてたコラーダが悪いと思うのは僕だけ?
「ちょっと、恭文!
何なのよ、コイツ!」
「あー、ビーストタイプのトランスフォーマーだよ。
同じビーストタイプでも、ロボットっぽい見た目なアニマトロスの人達と違って、完全に動物に擬態してるの」
つかさをかばうようにしながら声を上げるかがみに答える……あのさ、コラーダ。ビビられて凹むくらいならロボットモードになったら?
「ねぇ、こっちで悲鳴が聞こえた気がしたんだけど、何かあったのー?」
「コラーダの声もしましたけど……何かやらかしたんですか?」
うん、まぁ……何かあったワケだよ、メイル。何かやらかしたワケだよ、ライラ。
で……
「一体何の騒ぎだ?」
ライオコンボイも来たんだ。
けど、ビーストモードで出てきたら……
『ライオン――――――っ!?』
………………うん、そうなるよね。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「……じゃあ、この人達は……」
「そう。
同じビーストトランスフォーマーでも、この人達はアニマトロスじゃなくて惑星ガイア出身。
生まれが違うせいか、アニマトロスの人達と違ってビーストモードは本物の動物そっくりなんだよ」
この際なので、こなた達が落ち着く間に他のガイア・サイバトロンのみんなも呼び集めて、改めて紹介することにした。説明を受けて、確認するこなたに恭文が答える。
「驚かせてすまなかった。
僕らのビーストモードは、僕らの生まれた星の環境に適応するためのものでね、ビーストモードですごすのも、ロボットモードですごすのと同じくらいに自然なことなんだ。
ほら、コラーダも」
「あー、悪かったな、ビビらせちまって」
「あ、えっと……大丈夫ですよ。気にしていませんから。
それよりも、こちらこそ悲鳴なんて上げてしまって……」
素直に頭を下げるコラーダに高良さんが答える……まぁ、これでこの辺についてのドタバタは解決かな?
「………………ジュンイチさん。
本当に解決したと思ってます?」
……思わせてくれないかな? かがみ。
けど、現実は非情。オレ達はそちらに視線を向けて――
「ぅわぁ、かわいいウサギさん〜っ♪」
「ち、ちょっとぉっ!
メイル、助けてぇっ!」
さっきコラーダにビビりまくってたのも何のその。つかさがビーストモードのスタンピーに思いっきり萌えていた。
つか、どいつもこいつも、ビーストモードでごたつくんならロボットモードなりヒューマンフォームなり別の姿になりゃいいだろうに……
「フンッ、なんでいつもスタンピーばっかりかわいがられるんだな。
タヌキだってかわいいマスコットなんだな」
そしてそっちで対抗意識を燃やしてるハインラッド。六課でその基準は通用しないぞ。
最近不調の部隊長のおかげで、六課では「タヌキ=トラブルメーカー」の図式が成り立ってるから。
そんな感じでバタバタしてたら、隊舎にチャイムが響く……あらら、バカやってる間にオレ達日勤組はお仕事終了の時間だよ。
「あー、もうそんな時間なんだ」
「すみません。
なんだか、お仕事のジャマをしてしまったみたいで……」
「ううん、気にしなくてもいいよ。
私達はちょうど隊舎待機組で、入ってくる情報をまとめるくらいしかやることもなかったし」
つぶやくこなたのとなりで頭を下げるみゆきになのはが答える……まぁ、だからと言ってバカやっててもいいってワケでもないんだけどな。
そこはオレ達なりの自然体の保ち方と思っておくことにしよう。
「なら、未だに抱えてるその荷物、アイナさんに預けてこいよ。
せっかくだ。みんなでメシにしようぜ」
「うんっ!
じゃ、ちょっと待っててねーっ♪」
オレの提案に答えて、こなたはかがみ達を先導してパタパタと駆けていく――おーい、廊下は走るなー。
……やれやれ。我が弟子は相変わらずやんちゃだことで。
「……ジュンイチさん……それ、子供を見守る父親の思考ですよ」
……うん、ほっとけ、なのは。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「……本当、なんですか……?」
「残念ながら」
尋ねる私に、ジーナさんは申し訳なさそうにうなずく……でも、このデータ……
これが本当なら、あの子は……
「落ち着きなさい、フェイト。
当人から話を聞かないうちから、結論を出すべきじゃないわ」
「す、すみません、ライカさん……」
ライカさんに言われて、深呼吸して気持ちを落ちつける。
それで……ジーナさん。
「はい?」
「このこと……ジュンイチさんには?」
「それは……この調査を依頼してきた依頼人ですから、もう……」
「あと、ビッグコンボイにも話したわ。
はやては、最近なんか上の空だし……何かあったの? あの子」
それは私も気になっていた。
はやて、どうしたんだろ………………って、今はそれよりも“彼女”についてだ。
「それで……どうするんですか?」
「とにかく当事者から事情を聞くのが先決よ。ジュンイチやビッグコンボイもそのつもり。
今あたし達の手元にあるのはあくまでも手がかりでしかないもの……単に、当事者に事情をしゃべらせられるだけの力を持ってる、っていうだけの……ね」
そう……ですね。
とにかく今は落ち着いて対処しよう。すぐ感情的になるのが私の悪いクセだ。
ジュンイチさんとギンガの一件でだって、それで熱くなっちゃったから隊舎での留守番になっちゃったんだし……
………………ん? 通信……?
『あ、フェイト……ちょっといい?』
「うん。
どうしたの? 恭文」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「……フェイト、来るってさ。
ちょっと遅れるから、先に食べてていいって」
「ありがとう、恭文」
「なぎさんも、フェイトさんと一緒にご飯食べたいんだもんね?」
うーん、最近キャロがしたたかだ。エリオみたいに素直にお礼を言ってくれない。
まさか、ティアナやかがみのツンデレ成分に感染したとかっ!? ツンデレの感染拡大っ!?
「なんでそうなるのよっ!
あたし達のせいだとでも言うつもりっ!?」
「つか、私達はツンデレじゃなーいっ!」
……ティアナとかがみ、やっぱり息ピッタリだね。
「あ、そういえば……先生」
「ん?」
………………? 向こうで食器を用意していたこなたが何かに気づいたみたいだ。反応したジュンイチさんに向けて尋ねる。
「スバルから聞いたんだけど……」
「ギンガとケンカしたんだって?」
あ、ジュンイチさんがスバルをブッ飛ばした。
「いきなり何するの、お兄ちゃんっ!?」
「やかましいわっ!
何こなたに速攻言いふらしてやがるかっ!
サリに満漢全席について吹き込んだことといい、ホントにお前が口開くとロクなことにならんなっ!?」
すぐに復活した、炎でちょっぴりこげ気味のスバルにジュンイチさんが言い返す……うん、とりあえずすぐ終わると思うから、僕らは先に食べてようか?
「いやいや、待て待てっ!
何しれっと流してるかなっ!?」
「恭文、ひどいよっ!
なのはさんも止めてよーっ!」
「にゃはは……ごめんごめん」
ジュンイチさんがあわててスバルを放り出すと、今度はスバルとなのはがじゃれ始める……うん、さすがにそろそろ食べ始めない?
「そうだね。
ほら、スバルもジュンイチさんも席について」
「はいっ!」
「へーへー」
じゃあ、騒いでたメンツも席に着いたことだし……せーのっ!
『いただきまー
ピッ!
『総員出動準備!
密輸シンジケートのアジトの場所が判明! 所轄部隊より応援要請! 繰り返す――』
………………よし。
「さて……殺りに行こうか、ジュンイチさん」
「そうだな。
オレ達のメシをジャマした罰……その命をもって償ってもらおうか」
「自分達がふざけてなかなか食べずにいたせいだとは思わないんだね……」
気にしないでいこうか、サリ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ゴメン、みんな。
なんか、冗談で『手伝ってもらおうか』なんて言ってたのに、ホントに手伝ってもらうことになっちゃって」
「いーよいーよ。気にしなくて」
「そうそう。乗りかかった船ってヤツよ」
出動準備が進む中、謝る僕にこなたとかがみが答える……うん、結局こなた達も手伝ってくれることになった。
スバル達フォワード陣人間組はヴァイス陸曹とスプラングに現場まで運んでもらうことに。で、僕や今回トランステクターを持ってきていないこなた達カイザーズもそっちに同行。
『飛行許可出ました。
ライトニング1、タイラント1は空からシンジケートのアジトを押さえてください。ブレイカー1はスプラングの直衛に』
で、隊長格で現場に出るのはフェイト、ジュンイチさん、イクトさん。なのは組以下残りの主力は隊舎で待機。
まずは飛行組がアジトを襲撃、相手が浮き足立ったところを僕らとヒューマンフォームのガイア・サイバトロンのみなさん、そして協力を要請してきた所轄部隊の突入隊の3チームがそれぞれ別方向
から突入して押さえる……というのが基本作戦。
ヒューマンフォーム持たない組はアジトに入れるガタイじゃないので、ジャックプライムの指揮で外の包囲担当。
………………イクトさんがスプラング&ヴァイス陸曹の直衛なのは……まぁ、察してあげて?
……だけど、フェイトがちょっと遅れてて……
「ゴメン、みんな!」
あ、来た来た。
「よし、みんなそろったな。
なら、それぞれ予定ポイントで待機。以後の指揮は所轄部隊の指揮官が執る」
「あれ? 先生かフェイトさんが仕切るんじゃないの?」
「フェイトさんの指揮、すごく動きやすいのに……」
「そう言ってもらえるのはうれしいけど、私達は協力を要請された側だからね。
指揮系統を混乱させないためにも、今回は向こうの指揮下に入ることになる」
ジュンイチさんかフェイトが指揮を執ると思ってたのか、こなたが意外そうに声を上げ、つかさが肩を落とす……答えるフェイトだけど、つかさにほめられてちょっとうれしそう。
と――
「ねぇねぇ! ちょっと待ってよーっ!」
手を振りながらこっちに駆けてくるのは……サリ?
「犯人逮捕に行くんでしょ?
あたしも行きたい! 一回そーゆーの生で見たかったの!」
「ダメ」
当然ながらフェイトが瞬殺する。
「遊びに行くんじゃないんだよ。
非戦闘員のサリさんを連れては行けないよ」
「えー? いいじゃない。ヘリでおとなしくしてるからさ」
「それでも、だよ。
サリさんは隊舎で待ってて。そこは絶対だよ」
改めて却下するフェイトに、サリはあきらめたみたいだ。おとなしく引き下がる。
「さて、それじゃ行くか。
スバル、こなた。しっかりやれよ」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん!」
「私にドドーンとお任せっ!」
自信タップリに胸を張るスバルとこなたの答えに、ジュンイチさんは二人の頭をポンポンとなでてフェイト達と合流する。
相変わらず、いい“お兄ちゃん”してますねー……色恋のからまない範囲で。
「は? 何言ってんの、恭文。
オレがいつ色恋沙汰でヘマしたよ?」
………………この人、ギンガさんとのアレコレ、ホントに反省してるのかなぁ……?
「反省してても、色恋の問題だって認識してないんでしょ」
ティアナ……
すっごくありそうだから、そういうこと言わないでくれない?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
恭文達がビークルモードのヘリコプターにトランスフォームしたスプラングに乗り込んで出発、フェイトさん達も飛び立っていく。
……むーっ、なんかつまんない。
話題の機動六課に出向ってことになって、どんなところかすごく楽しみにしてたんだけど、こういうところはさっぱり見せてくれないんだよねー。
現場は危ないっていうのはわかるけど、安全なところから見てるくらいならいいじゃない、もう……
あー、もう、気になるなー。
ドラマでよくあるみたいなハデなドンパチとかあるんでしょ? モノホンとかすごく迫力ありそうなのに……
なんとかして、見に行く方法ってないものかなぁ……?
「だぁぁぁぁぁっ! 出遅れたぁぁぁぁぁっ!
急げ、アームバレット! もうみんな出発しちまってるぞっ!」
「ガスケットがエグゾーストショットをシャーリーに預けっぱなしにしてたからなんだなっ!」
「仕方ねぇだろっ! ここんトコ排熱がおかしかったんだからさっ!
ほっといて暴発するよりマシだろっ!」
「直ったって聞いてからもう一週間も経つのに、まだ取りに行ってなかったのはガスケットが悪いんだなっ!」
………………あれは……ガスケットと、アームバレット……?
「ねぇ、ちょっとっ!」
「ん………………?
サムダックさんちのサリちゃんなんだな……?」
「何か用かよ?
オレ達ゃ急いでんだけど」
大丈夫。話はすぐ済むから。
「それがらみで、ちょっと頼みたいことが、ね……」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「動かないで! 時空管理局よ!」
扉を蹴破り、言い放つティアナの言葉に室内にいた連中が驚いて飛び上がる。
中には、すぐさま武器をかまえる気の利いたヤツらもいたけれど……
「動かないでください」
「動いてもいいけど、いいことないよ」
とっくにエリオやこなたがチェックメイト。それぞれのデバイスの切っ先を連中のノド元に突きつけている。
「あーちゃん、ホームランっ!」
「抵抗しないでくださいっ!」
あずささんは実際抵抗してきたヤツをレッコウでブッ飛ばして、スバルも向こうで別のひとりを取り押さえてるし……
「はい、すとーっぷ」
《一応、抵抗はしないよう忠告しておきますよ。
この人、あなた達が最悪のタイミングで見つかってくれたおかげで晩ご飯を食べ損ねて非常にご立腹ですから》
僕もだ。机の上に放り出されていた拳銃に手を伸ばしたひとりの前にアルトを突き立てて抵抗を封じる。
「こちらライナー1。
この部屋の制圧は完了したわ」
《わかりました。
じゃあ、次の部屋に向かってください》
通信で報告するかがみに答えるのは、つかさやキャロと一緒に後方に控えている高良さん。つかさが情報管制、高良さんが現場指揮って形で後衛について、こなたとかがみが前衛として目標を制圧……っていうのが、こなた達“カイザーズ”の基本戦術なんだとか。
あー、そうだ。
「高良さん、ライオコンボイ達は?」
『あぁ、すでに二部屋目を制圧して、次の部屋に向かっています』
『通信、つなげようか?』
「いや、そこまではしなくていいから。それじゃ」
つかさに答えて、通信を切る……そっか。向こうはもう三部屋目か。
「負けていられないぞ、恭文」
となりでオメガを軽く振るい、マスターコンボイが言う……うん、そうだね。局の仕事の上では先輩なんだし、負けてられないよね。
「そんじゃ……次いくよ、みんなっ!」
『おぅっ!』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「おーおー、ハデに殺ってるねー」
「字が違いますから、ジュンイチさん。『殺』ってませんから」
細かいことは気にするなよ、フェイト。
どーせ、誰かしらが恭文の身長のことをツッコんだら違わなくなるから。
「気にしますよ、それはっ!?」
……それはともかく、突入開始から3分。
すでに再開発地区の一角にかまえられたアジトの大部分は制圧完了。現在、抵抗を続ける魔導師崩れなシンジケートの構成員を相手に恭文達が中で大暴れしてる。
………………あ、この感じはマスターコンボイがヴォルテクス撃ったな?
「……相変わらず、よくそういうのがわかりますね……」
「お前らだってちゃんと修行すればできるようになるよ。
今度イクトから教わったら?」
「考えておきます」
一応言っとくけど、こうやってバカ話をしながらも、フェイトはアジト内部の様子を可能な限りサーチャーで拾ってモニターしてるし、オレも気配察知は怠ってない……うん、ちゃんと仕事はしてるからね?
「それにしても」
「あん?」
「ちょっと……意外でした。
ジュンイチさんの性格を考えたら、作戦を無視してでも先陣を切って飛び込んでいきそうな気がしていたので」
それが、ちゃんと作戦通り最初の爆撃を済ませた後はこうして待機してるのが不思議……と。ほうほう……
「そんなことを言うお前にはこの至近距離から思い切りスマッシャーを叩き込みたい気分なんだがどうだろう?」
「なんでそうなるんですかっ!?
いつものジュンイチさんを見ていたらそう思うのは当然じゃないですか!」
「なっ!? 『いつもオレを見ている』と!?
ダメじゃないかっ! お前はちゃんと恭文とイクトを見てないとっ!」
「そ、そういう意味じゃありませんよっ!」
おーおー、真っ赤になっちゃって。相変わらずコイツで遊ぶのは楽しいね。
「それはともかく、お前の“意外に思ったこと”への回答だけど……別に、あんなザコども相手に暴れたって楽しくないからやらない。それだけだよ。
むしろ、スバル達の研修の材料にちょうどいい……だったら、アイツらにやらせるのが一番ムダがないだろ。
万一に備えて、恭文にもフォローは頼んだし、よっぽど事態の変化が早くない限り、ここからでも十分フォローに駆けつけられる」
「ここから間に合うんですか?」
「お前だって駆けつける気マンマンのクセに……ん?」
この“力”は……
「ジュンイチさん……?」
「いや、別に。
単に、遅刻してきたバカ二人がようやく到着したってだけの話さ」
そう、ガスケットとアームバレットのご到着だ。
………………余計な“お荷物”と一緒にね。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「悪い悪い! 遅くなったっ!」
「だなっ!」
「まったく、二人とも……
まぁいいや。今のところ僕らの出番はなさそうだし」
………………ホッ、とりあえず、ジャックプライムからお咎めなしで安心したぜ。
ヘタに会話が長引くと、アームバレットがボロを出すかもしれないしな。
「……大丈夫なんだな?」
「心配いらねぇだろ。
置いてきたのは向こうの路地のガレキの影だ。こっちからは完全に死角だよ」
あそこなら、現場からも距離があるし、巻き込まれる心配はないだろ。
ったく、サリのヤツも「現場が見たい」なんていきなり言い出しやがって……
「おしゃべりはいいけど、ちゃんと警戒はしててよ。
今のところは順調だけど、連中が何か隠し玉を持ってるって可能性はあるんだから」
「へーい」
ジャックプライムに答えて、センサーの知覚を上げる――ま、オレだって好き好んで吹っ飛んでるワケじゃないし、気をつけられる分は気をつけなくちゃな。
「さぁ、油断せずに行こう」
「ガスケット……手塚部長ってキャラじゃないでしょ」
「うっせぇ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
………………おかしい。
惑星ガイアに生きる者としての、トランスフォーマーとしてではなく生物としての第六感が僕にそう教えてくれる。
もっとも……そんなカンがなくても、怪しいことはちょっと考えればわかるのだけど。
今のところ、アジトの制圧は順調だ……けど、犯人逮捕が順調というワケじゃない。
見つからないのだ、犯人が。
犯人達を確保できたのは最初の部屋のみ。そこから先は、人っ子ひとり見当たらない。
「たぶん、最初の部屋を制圧している間に、難を逃れた犯人達は離脱に移ったんでしょうね。
抵抗しようにも戦力差は明らかですし、賢い選択とは言えるんでしょうけど……」
「追う側としては、面倒くさいことこの上なしですね……」
現状について考えられる仮説をエアラザーとライラが話し合っている――正直、僕もそう思う。
けど……問題はどこへ逃げているか、だ。
アジトの出入り口は事前に把握している。部隊を三つに分けて突入したのも、そうして確認した出入り口を残さず押さえるためだ。
つまり、犯人達には逃げ場などないはずなのだ。緊急脱出用の隠し通路でも用意していない限りは、な……
「まっさかー。
こんなボロビルにンなもんあるワケねぇだろ」
そうだよな、ブレイク。そんなものがそう簡単に設置されているワケが……
『こちらCチーム!
地下水道に続く隠し通路を発見! 犯人グループはこちらから逃走のもようっ!』
………………え? ビンゴ?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
………………むー、やっぱりここからじゃよくわかんないよ。
ムリヤリお願いして、アームバレットにここまで乗せてきてもらったけど……恭文達は建物の中で暴れてるみたい。
せっかく来たのに、これじゃぜんぜんつまらない。どうしようかな……?
………………ガコッ。
……何? 今の音……
「……ん? 何だ? コイツ」
音のした方を見ると、地面がまるで扉みたいに開いていて……なんだか悪者っぽい人達が。
………………あれ? もしかしてあたし、けっこうヤバイ?
「見られたぜ……どうする?」
「管理局に知らされると面倒だな。
……消すか?」
「いや、それよりも人質にするっていう手もあるぜ」
あたしを前にして、悪者達は物騒なことを話し合う……今のうちっ!
「おっと、そうはいかないぜ」
でも、逃げ出そうとしたあたしの後ろには別の悪者……そんな、いつの間にか囲まれてるっ!?
「さて、おとなしくしてもらおうか」
言って、悪者のひとりがあたしに向かって手を伸ばして……
「はぐっ!」
「でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
思いっきりかみついてやった。誰が捕まってやるもんですかっ!
痛がる悪者のすき間を抜けて、あたしは駆け出して――
「ふざけやがって!」
顔に痛みが走って、いきなりはね飛ばされた――殴られた、の……?
「手間かけさせやがって……」
ため息をついて、悪者のひとりがもう一度あたしに向けて手を伸ばして――
「ジャマ」
悪者は顔面を思いっきり殴られて、ブッ飛ばされていた。
でも……誰が悪者を……?
「さて、と……
やんちゃした天罰は、それなりに堪能したみたいだね」
って、ジュンイチさん……!?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
飛び込んできたオレだけど、サリは何が起きたのかわかってないっぽい……殴られてまだもうろうとしてやがるな。
まぁ、何にせよ……うん、間に合ってよかった。
まさか、連中が脱出に使った隠し通路の出口がサリちゃんの隠れてたすぐそばだったとはな……トレースしてなかったら危なかった。
つか、連中の位置がサリちゃんの位置とモロかぶりになった時にはマヂ焦った。恭文達はどう考えても間に合わないと判断して飛んできて正解だったよ。
フェイト? 状況もつかめてないのに全速力で向かえるはずもない。この状況に限ればオレの方がよっぽど早く動けるってもんだ。
ま、それはともかくとして、だ……
「お前ら、よくもうちのお客様をぶん殴ってくれたね。
骨の10本くらいは覚悟しろよ」
「いや、そりゃ折りすぎだろお前っ!」
チンピラどもから抗議の声が上がる……チッ、うっせぇな。
「人間にゃ200から208本も骨があるんだぞ。
今さら2、30本へし折ったところで何だっつーの」
『折る数増えたぁ――っ!?』
なんかうるさいけど、細かいことは気にしない〜♪
「大丈夫じょぶJOB♪
ちゃんと命に別状のないところで50本折ってやるからさ」
「ちょっ、さらに増えたぞっ!?」
「ヤバイ! アイツ本気だぞ!」
「こーなったらヤケクソだっ!」
オレの言葉に完全にビビリモードに入って、チンピラどもが一斉にデバイスやら拳銃やらをかまえる。
けど――
「どこ狙ってるのかな?」
すでにオレの姿はさっきまでの場所にはない――だって、先頭にいたひとりの目の前で、その胸板に掌底を叩き込んだ後だから。
骨の砕ける感触と共に衝撃音。口から血反吐を吐き出してチンピラがぶっ飛ぶ――あわててこっちに銃を向けた次のひとりのアゴを、振り上げた右足で思い切り蹴り砕く。
続けて、仰向けに倒れる二人目の向こうにいるヤツに向け、懐から取り出した苦無を投げつける。腕を刺し貫かれて痛みに歪むその顔に、飛び込みついでの飛び蹴りを叩き込む――なお、ブーツに鉄骨を仕込んであるつま先で、思いっきり。
着地と同時に地を蹴り、次の獲物に向かう。冷静にこっちを狙ってるひとりの射撃――魔力弾を回避。そいつの持っていた杖型の一般的なデバイスを取り上げて、
「えいやぁ」
そいつに背中を向けつつ、脇の下を通す形で石突を突き込んだ。脇腹に強烈な一撃をもらって苦しむそいつからすぐに離れて――ぅわ、ゲロ吐きやがった。すぐ離れて良かったぁ〜。あと、食事中の読者の方がいたらゴメンナサイ。
手に持ったままのデバイスは別のひとりの顔面に投げつける。直撃をもらって昏倒するそいつは無視して――残りのヤツらに向けて突撃っ!
ひとり目の脇を駆け抜けざまにそのこめかみにヒジを一発。続けて二人目の懐に飛び込んで、アッパー気味にそのアゴを掌底で打ち上げる。
崩れ落ちるソイツを踏み台にして大きく飛び上がり――
「どっ、せぇいっ!」
最後のひとりの顔面を思い切り踏みつけた。
空中に身を躍らせて、フワリと音も立てずに着地して――
まだ立っていたチンピラ達が、一斉に崩れ落ちた。
うんうん。我ながら決まったね。
さて、後は……
「ぬがっ!?」
………………え?
衝撃音、そして悲鳴――振り向くと、オレに向けて銃を向けていたチンピラが崩れ落ちるところだった。
そして――
「まったく……油断してるからですよ。
ひとり、取りこぼしてましたよ」
言って、やってきたのはフェイト――なんだけど……
「何やってんお前ぇぇぇぇぇっ!」
「ひゃあっ!?」
オレの放った炎が、フェイトのすぐ脇を駆け抜けた。
「いきなり何するんですかっ!?」
「やかましいわっ!
最後の最後にブッ飛ばそうと思ってた獲物を横取りしやがってっ!」
フェイトに言い返し、オレが指さすのは、さっきフェイトがトドメを刺したチンピラ。
「だって、ジュンイチさん、気づいてなかったじゃないですかっ!」
「しっかり気づいてたんだよっ! 気づいてないフリしてたんだよっ!
気づいてないフリして、後ろで逃げようとするなり不意討ちしようとするなりしてるヤツを振り向きざまにブッ飛ばすのが最高にカッコイイのにっ!
そのためにあえて意識も刈り取らず、行動不能にもせず、生かさず殺さずしばき倒したっつーのに、それを、それをお前がぁぁぁぁぁっ!」
「そ、そんなこと言われても困りますよっ!
なんでそんなカッコよさにこだわって一撃で倒せる相手を倒さないんですかっ!? それで勝てる勝負を逃したらどうするんですかっ!?」
「そんな不安の残る相手ならちゃんと一撃でしばき倒すわっ!
そんな心配のいらないザコだったからこそ狙ってたのにぃっ!」
くそっ、これだから様式美に理解のないヤツわっ! ホントに恭文の彼女候補か、お前っ!
「なっ、なんでそこでヤスフミが出てくるんですかっ!?」
「恭文もそーゆーのが大好きな人種だからに決まってんだろっ!」
あー、くそっ、フェイトの横槍で段取りがおじゃんだっ!
こーなったら……っ!
「おいコラ、てめぇっ!
やり直しを要求するっ! 気づいてないフリしてやるから背後で逃げるなり抵抗するなりしやがれっ!
起きろっ! 起きろっ! 起ぉきぃろぉぉぉぉぉっ!」
「落ち着いてください、ジュンイチさんっ!
そんなにガシガシ踏みつけたらむしろトドメですよっ!」
くそっ、ダメか……
こんな手ごろな感じでしばき倒せるザコなんてむしろ貴重なのに……めったにないチャンスをムダにしたじゃないかっ!
「こうなったらウサ晴らしにアジトをチリひとつ残さず焼き尽くして……」
「そういう不穏なこと言わないでくださいっ!
まだヤスフミ達がいるんですよっ!」
「大丈夫っ! 今のアイツらならオレがぶちかましてもしのげるさっ!
………………多分っ!」
「その間と『多分』が出る時点でダメじゃないですかっ!」
いい感じにフェイトがヒートアップしてきた。顔なんかもう真っ赤。
こりゃ……そろそろかな。
「……ま、バカやるのはこのくらいにして」
「………………え?」
いきなりテンションを切り替えたオレに、フェイトが思わず間の抜けた声を上げる……うん。“演出”をジャマしてくれたウサ晴らしはのくらいでおしまい。
というか……これ以上フェイトを刺激するのはマズイ。ヘタするとキレていつぞやの模擬戦の二の舞だ。
「とりあえず、こいつらを縛っとこうか。
フェイトはサリちゃんをお願い」
「は、はい……」
まだ“いぢられモード”から抜けきってなかったみたいだけど、やることを示されたことで再起動。サリちゃんを介抱しに彼女の元へと向かう。
さて、それじゃあオレも……
「ジュンイチさんっ!」
………………今度はどうしたよ、フェイト?
「あの、これ……っ!」
言ってフェイトが示したのは、介抱していたサリの右腕。
サリ本人も驚きの余り固まってる。そんな彼女の右腕は、さっきシンジケートのチンピラにブッ飛ばされた時に受けたらしい傷があって――
その傷のすき間から、火花を散らす機械部分がのぞいていた。
「な、何よコレ……
なんで、あたしの身体が……!?」
「ジュンイチさん、まさか……」
信じられない様子のサリちゃんを落ち着かせるように抱きかかえながら、フェイトがオレに視線を向ける。
「フェイト……お前は見たのか? ジーナの“調査”結果」
「は、はい……」
「そっか」
なら、フェイトの動揺は最小限に抑えられそうだ。落ち着かせる人間が減ったことに正直安堵しながら、サリちゃんの前にひざまずくと彼女と目線の高さをそろえて、告げる。
「失礼とは思ったけど……サリちゃんのこと、調べさせてもらった。
その結果……サリちゃんについては戸籍も、養子縁組届も、社会保障番号も……出生届すらも存在しなかった。
つまり……“サリ・サムダック”という人間は、法律上存在しないことになってる」
「え………………?」
「それに、このケガ……」
呆然とするサリちゃんの右腕をとる――サリちゃんが痛がらないように気を遣いながら、ケガの部分を軽くなでる。
「……思ったとおりだ。
こいつぁ、トランスフォーマーのものと同じ金属細胞だ」
「ジュンイチさん……」
フェイトの言いたいことはわかる。サリちゃんが真実を知るには、この展開はあまりにも突然すぎる。
けど……自分の身体のことを知ってしまった以上、説明を後回しにする方がアウトだ。
確かにこの場で知るのはショックだと思うけど、だからって後回しにしても、今度は逆に自分が何者かわからない……そんな不安にさらされることになる。
実際……オレの時がそうだった。
だから……告げる。
「サリちゃん。
お前は、サムダックさんと血のつながった娘じゃない。
お前は、人間とトランスフォーマーの特徴を併せ持った……」
「“生機融合体”だ」
(第37話へ続く)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
おまけ
「………………ほほぉ」
連中の同行を探っていたら、これはおもしろいものが出てきたな。
「一体どうしたっつーのさ?」
「これを見ろ」
相方に答え、ウィンドウを拡大してそれを映し出す。
柾木ジュンイチとフェイト・T・高町……今まで再三我々のジャマをしてくれたあの二人に介抱されている、ひとりの少女だ。
人間でありながら、その身体はトランスフォーマーのような金属生命体としての特徴も兼ね備えている、か……今のところトランスフォーム能力があるかどうかはわからんが、それを抜きにしても興味深い。
彼女を調べることができれば、この身体をさらに進化させることも不可能ではない……
「あれ? いろいろ調べてるのは、元の身体に戻るためじゃなかったのかよ?」
「その“いろいろ調べた”結果だ。
今となっては、この身体を元に戻すのは極めて難しい……となれば、ここは発想を転換させるべきところだ。
そう。元の身体に戻れない、人外の存在のままでいるしかないのなら……その人外を極めるのも悪くない」
そうだ……どうせ戻れないのなら、せっかくだ。この力で頂点を極めてやろうじゃないか。
見ているがいい。柾木ジュンイチ、そしてフェイト・T・高町。
貴様らなど、所詮このオレの敵ではないことを教えてやる。
頂点に君臨するのはこのオレ……
溶解人間、メルトダウンだ!
(本当におしまい)
次回予告っ!
フェイト | 「まさか、サリが人間じゃなかったなんて……」 |
サリ | 「サリ・サムダックは改造人間である。彼女を改造したどっかの誰かは、世界制服を企む悪の秘密結社である。サリ・サムダックは人類の自由のためにどっかの誰かと戦うのだっ!」 |
恭文 | 「サリ……なんだかんだでけっこう余裕あるよね……」 |
ジュンイチ | 「つか、『どっかの誰か』って誰だよ? 適当に埋めとけよ、ディセプティコンとかさぁ」 |
マスターギガトロン | 「オレ達は無実だぁぁぁぁぁっ!」 |
第37話「少数派はいつだって肩身が狭い思いをしていたりする」
あとがき
マスターコンボイ | 「以上、サリ・サムダックの正体が明らかになった第36話だ」 |
オメガ | 《それは違いますよ、ボス。 正しくは「正体が原作準拠であることが判明した」です》 |
マスターコンボイ | 「それはそれでミもフタもないな……」 |
オメガ | 《そのくらいスパッとぶった切るのもまた一興かと》 |
マスターコンボイ | 「それはともかく……また厄介なのが再び顔を出してきそうな流れなんだが」 |
オメガ | 《あぁ、メルトダウンですか。 確かに、またブッ飛ばされるフラグを立ててきましたね》 |
マスターコンボイ | 「もはや、前々から話題になっている“現クールの脱落者”がヤツで確定な勢いだな……」 |
オメガ | 《いいんじゃないですか? 彼、他の勢力ほど話の本筋にからんでませんし……むしろミスタ・ジュンイチとミス・フェイトのからみを盛り上げるだけの存在だったワケですから。二人のケンカが終息した今、もはややられ役以外に用途なんてありませんよ》 |
マスターコンボイ | 「言いたい放題だな、貴様っ!?」 |
オメガ | 《いいんですよ、やられ役の扱いなんて水素よりも軽いのが当たり前なんですから》 |
マスターコンボイ | 「………………さすがにあの二人が不憫に思えてきた」 |
オメガ | 《『あの“二人”』……? メルトダウン以外に誰かいましたっけ?》 |
マスターコンボイ | 「もはやスピードキングは認識外!? ……と、相変わらず話の盛り上げに貢献しないキャラクターには容赦をしないこいつの一面が再確認できたところで、今週の締めとさせてもらおうか」 |
オメガ | 《また次回も見てくださいねー》 |
(おわり)
(初版:2011/03/05)