「VANDRED」年越しSS
「ニル・ヴァ―ナの年越し模様」

 


 

 

マグノ一家の襲撃に端を発したぺークシスプラズマの暴走、ヴァンドレッドの出現、“刈り取り”という名の脅威、そしてみんなで過ごしたクリスマスと、力を合わせて乗り越えた最終決戦――
 一連の騒動もどうにか片付き、平穏を取り戻したニル・ヴァーナは――

「ディータ、そこの窓拭きは任せた。男達は神棚とやらを用意してくれ。
 バーネットはエズラと一緒に料理の仕込みの指揮を、ジュラは私とパーティの飾り付けだ。
 新年まで後2日、なんとか間に合わせるぞ!」
 メイアの指示がカフェテラス『トラペザ』に響き渡る。
 マグノ一家は、2日後の迫った元旦に向けて、クルー総出の大掃除&カウントダウンパーティの準備に追われていた。

「やれやれ、今までで一番せわしい正月だねぇ」
「しょうがありませんよ。
 “刈り取り”との決戦からまだ2日。敵が新年を待ってはくれなかったのですから」
 自室のほこりをはたきでパタパタと払いながらボヤくマグノ(掃除の人手が足りないのだ)に、手伝いながらブザムが言う。
「まぁ、今年は生きて迎えられるだけでもうけものかね」
 マグノが言うと、艦内放送でエズラの声が響いた。
〈え―、現在手が空いていて、料理の出来る方にお知らせします。
 パーティ料理仕込み班の手が足りないので、カフェテラス『トラペザ』にお集まりくださーい〉

「……で……なんであたし達も?」
「エズラも言ったでしょ! 手が足りないって!
 今日中に仕込みを終わらせなきゃ、パーティーには間に合わないのよ。
 今はひとりでも手伝ってくれる人が欲しいの。文句言うヒマがあるならさっさと手伝う!」
 メイアと共にエプロンを手渡されたジュラの問いに、バーネットが答える。
 ディータはといえば、すでに窓拭きを終え、鼻歌まじりに料理に加わっている。
「だけどねぇ……」
 言いかけ――ジュラはふと思い直した。
 確かに、人手が足りないのは見ただけでわかるほどだ。となれば、間に合わなかった場合、新年のパーティーに料理がない、という、最悪の事態が発生することになる。
 そのテのイベントに目がないジュラとしては、なんとしても避けたい事態である。
「……仕方ないわねぇ……
 メイア、私達も手伝いましょ」
「……わかった」
 ジュラの言葉にしぶしぶうなずき、メイアは慣れない手つきでエプロンを身につけた。

「えーっと……確かこの辺にあったよなぁ……」
 言って、ヒビキは神棚を探して倉庫の中を歩き回る。
 と、近くの山積みの荷物の向こうから、バートの声が尋ねる。
「なー、ホントにここに神棚があるのか?」
「あぁ。前に“くりすます”の電飾を探しに来た時に見かけたんだ。
 あの後荷物あれこれひっくり返しちまったから、どっかに埋もれちまったのかなぁ……」
 ヒビキが答えると、ドゥエロが言った。
「他にもまだ足りない物があるぞ」
「何だよ?
 おせち料理、ってヤツはピョロが女どもに料理の仕方を教えてたはずだし、お年玉はばぁちゃんがポイント追加してくれるって言ってたろ?」
 ヒビキの問いにドゥエロはため息をつき、
「初日の出だ。
 宇宙ではどうあっても見られないぞ」
「あ、そうか……」
 バートが納得する反対側で、ヒビキは何やら考え込んでいたが、
「……よっし!
 ワリぃ、ここは頼む!」
 言って、ヒビキは倉庫を飛び出していった。

「ふぅ、なんとか仕込みは完了ね」
「あー、疲れた……」
 料理の仕込みの方も一段落し、バーネットとジュラが言う。
 と、そこへ、
「おい、お前ら!」
 息を切らせてヒビキが駆け込んできた。
「あ、宇宙人さん」
「なぁ、ばぁさん見なかったか?
 話があるんだけど、ブリッジにも館長室にもいねぇんだよ」
 声を上げるディータに、ヒビキはセルフサービスの水をコップに注ぎながら尋ねる。
「お頭なら、副長と部屋の掃除をしているはずだ」
「そうか! ありがとな」
 メイアの答えに、ヒビキは水を飲み干して駆け出して行った。
「……何だったの?」
「さぁ……」
 ジュラの問いに答え、バーネットは首をかしげた。

「やれやれ、やっと一段落だねぇ」
 自室の掃除の手を休め、マグノがつぶやく。
「少し休みましょう。
 お茶の用意をさせます」
 ブザムが言うと、
 ――コンコンッ。
「ばあさん、いるか?」
 ドアをノックし、ヒビキがドアの向こうで言う。
「いるよ。入っといで」
 マグノが言い、ヒビキが部屋に入ってきた。
「今度は何の用だい?」
 マグノの問いに、ヒビキは笑みを浮かべて言った。
「へへ、ちょっといいコト思いついてね」

「……なるほど。
 あんたにしちゃ、なかなかシャレたコト考えるじゃないか」
 ヒビキの案を聞き、マグノがつぶやく。
「……わかった。ノッてやるよ。
 そうと決まれば、必要なヤツらを呼び集めておいで。
 いいかい? 他のヤツらには絶対教えるんじゃないよ。
 ギリギリまで秘密にしておいて、ビックリさせてやりたいからね」
「おぅ!」
 いって、ヒビキが部屋を出て行き――そこへブザムが声をかけた。
「ヒビキ」
「あん?」
「このアイデア、誰に見せたいと思って考えついた?」
 挑戦的な態度で尋ねるブザムに、ヒビキも挑戦的な微笑みを返して答えた。
「どうせ、聞くまでもなくわかってるんだろ?」

 そして翌日。ついに大晦日である。
「……これでよし、と……
 すまなかったな。手伝わせてしまって。
 機関室の大掃除も済んで、休みたいだろうに……」
「いいわよ、気にしなくても。
 あたしが好きでやってるんだから」
 見つけてきた神棚をパーティ会場となるトラペザの壁の一角に飾り終え、パルフェとドゥエロが話していると、
「宇宙人さぁ〜ん」
 言って、ディータがやってきた。
 自分の仕事が一段落したので、ヒビキを探しているのだ。
「あれ、ディータじゃない」
「あ、パルフェ。それにお医者さんも。
 宇宙人さん知らない?」
「昼食の後、バートと二人でどっかに行ってしまった」
 ディータの問いに、ドゥエロはいつも通りあっさりと答える。
「そういえば、伝言を預っているぞ」
「え? 何ナニ?」
 駆け寄ってくるディータに、ドゥエロは言った。
「『いいモノを見たいなら、今日はおとなしくしていてくれ』だそうだ」
「どういうこと?」
「さぁな」
 パルフェの問いにも、ドゥエロはやはりあっさりと答える。
「ただ、バートと『バレたらマズい』とか話していた。
 何か、秘密の催しを用意しているのではないか?」
 相変わらず、カンが鋭すぎるドゥエロであった。

 そのヒビキ達は、ブリッジ&バイオパークを立ち入り禁止にして、『催し』とやらの準備をしていた。
「おい、この向きでいいのか?」
「左に3度ズれてるピョロよ」
 ナビゲーション席のバートの問いに、ピョロが位置を計算して言う。
「よし、じゃあ、この位置と向きを維持するようにオートドライブを設定してくれ」
 バートに言って、ヒビキは外に見える惑星を見上げた。
「これで仕込みは完了。あとは時間になるのを待つだけ、か……」
 ヒビキが言うとバートが彼に尋ねた。
「ところでヒビキ、今日はレジに呼ばれてたんじゃなかったか?」
「!? いっけね、忘れてた!」
 言って、ヒビキはブリッジを飛び出して行った。

「ワリぃ、遅くなった!」
 言って、ヒビキがレジに駆け込んでくると
「宇宙人さぁん♪」
 そこで待ち構えていたのはなんとディータ。
「おっ、おめぇ、なんでここに……」
「あのね、今日宇宙人さんが来るって聞いたから待ってたの」
 戸惑うヒビキの言葉に、ディータはしごく当然といったふうに答える。
「……誰から聞いたんだよ?」
「パイウェイ」
「……あのガキ、年明けたら真っ先にシメる……!」
 ディータの言葉にヒビキがうめくと
「おや、ようやくお出ましかい?」
 そこへガスコーニュがやってきた。
「よぅ、今日は何の用だよ?
 大掃除なら昨日おめぇらですましたろ?」
 ヒビキの問いにガスコーニュは手を差し出し、
「IDカードを出しな」
「え? あぁ……」
 ヒビキがIDカードを渡すと、ガスコーニュはそれをセンサーにあてがい、読み込まれたヒビキのポイントのデータに何やら入力する。
「お前さん、最初にIDカードをもらってから、給料のポイント一度も受け取りにきてなかったろう。だからたまりにたまっているのに気づいてね。
 IDカードに入れてあったポイントも尽きる頃だと思ったんで、入れてやったのさ」
「え?
 働きゃ勝手にポイントに増えるんじゃないのか?」
「違うよ。ちゃんと給料日にIDカード内のメモリにポイントを移さないと使えないんだ。
 レジと食堂じゃあ、システムがそれぞれ独立しちまってるから共用できないんだ」
 キョトンとして聞き返すヒビキに、ガスコーニュが説明する。
「宇宙人さん……知らなかったの?」
「う、うるせぇ」
 真っ赤になってディータに答え、ヒビキは入力の終わったIDカードをガスコーニュから受け取る。
「用がすんだんなら、オレぁもういくぜ!」
 言って立ち去るヒビキに、ガスコーニュは言った。
「今年もご苦労さん。来年も頼むよ」
「おぅっ!」

 そして――
『カンパ―イッ!』
 クルー一同の元気な声が、トラペザに響き渡る。
 カウントダウンパーティの幕開けである。
「宇宙人さーん♪」
 言って、ディータが料理を皿に載せてヒビキの元へ向かうが、
「待て、ディータ」
 メイアがそれを止めた。
「リーダー……?」
 ディータが振り向くと、メイアはバート、ドゥエロと同じテーブルで料理を食べているヒビキを目で示し、
「ヤツら、あの決戦の時に約束したらしい。『一度宴の場を持とう』とな。
 男同士の付き合いだ。今日は彼らにゆずってくれ」
「……はーい。
 あ、リーダー、これディータが作ったんですけど、食べてみます?」
「……もらおう」
 ディータの言葉に微笑みを返し、メイアはディータの作った唐揚げを食べ、
「……悪くない。
 いいファーマになるな、ディータは」
「エヘヘ……」 
 メイアの言葉に、ディータはテレながら言った。
「その時は……オーマは宇宙人さんがいいな……♪」

 ディータがそんな夢見る発言をしていた頃、ヒビキ達は――
「あ、これうまいぞ、ヒビキ」
「こっちの“かるぼなーら”もいけるぞ」
「少しは静かに食べた方がいいぞ。よく租借できない」
 ムードもへったくれもない、嵐のような食事が展開されていた。

 さて、パーティ料理もあらかた片付き、それぞれが雑談を楽しんでいると、
〈まもなく、メインイベントの時間です。
 みなさん、バイオパークへ移動してください〉
「メインイベント……?」
 艦内放送を聞いて、ドゥエロがつぶやくと、
「オレ達が用意したのさ」
 ヒビキが言い、バートと共に立ち上がる。
「さて、オレ達も行こうぜ」

 そして、『メインイベント』に興味を持ったクルー達は艦内庭園へと移動した。
「宇宙人さ〜ん」
 ディータがヒビキを探して歩き回っていると、
「おい、ここだここだ」
 いきなり頭上からかけられた声にディータが見上げると、枝の上にヒビキが座っていた。

「準備している時に見つけたんだ。ここならよく見えるぜ」
 ディータを木の上に引っ張り上げ、ヒビキがディータに言う。
「宇宙人さん、何を見せてくれるの?」
「へへ、すぐにわかるよ」

「あ、ドクター! こっちこっち」
 ドゥエロが通りかかったのを見かけて、パルフェが声をかける。
「ここにいたか」
「それはこっちのセリフよ。探したんだから」
 ドゥエロの言葉に答え、パルフェは彼を自分の確保したスペースに案内する。
「これから何が始まるのよ?」
「私にもわからん。
 しかし……」
 パルフェに答え、ドゥエロは星空を見上げた。
「あのヒビキが考えついたことだ。
 私達の常識で計れることではないはずだ」

〈新年まで、あと10秒!〉
 クリスマスの時に使ったカウントダウン時計が、最後の秒読みに入る。
〈9、8、7……〉
 それを、バートはナビゲーション席の上に座ってながめていたが、
「おい」
 不意に声がかけられた。

〈6、5、4……〉
「さぁて、どんな仕掛けをしたのかね、あいつ……」
 つぶやき、艦内庭園のすみでガスコーニュが星空を見上げてつぶやく。

〈3!〉
 ジュラやバーネットが――
〈2!〉
 メイアやピョロが――
〈1!〉
 そしてヒビキやディータが見守る中、
〈0!〉
 ついに時計が新年を告げ――艦内庭園に光が降り注いだ。
 目の前の惑星の後ろから、恒星が姿を現したのだ。
 そう。ヒビキは日付が変わると同じに日の出が見られる位置にニル・ヴァーナを配置していたのだ。
「ぅわぁ〜♪ キレぇ〜っ!」
「よっしゃ! タイミングドンピシャ!」
 はしゃぐディータの隣でヒビキがガッツポーズをとって言い――バランスを崩し、
「うわわわわっ!」
「う、宇宙人さん!」
 落ちかけたヒビキをディータがあわてて引き上げる。
 そして、ディータはそんなヒビキに笑顔で言った。
「……ありがとう、宇宙人さん」
 そんなディータを、いつものようにヒビキは正規できず、顔を赤くしてそっぽを向いて、
「へっ、別におめぇのためじゃねぇよ。
 オレが見たかったからやっただけだよ」
 相変わらず、素直になれないヒビキであった。

 そんな二人に静かに忍び寄る影があった。
「パァイ、チェェ〜ック……」
 毎度おなじみのチェック魔パイウェイである。
 と、そこへ、
「ハイ、ストップ」
 いきなり差し出されたジュラの手が制した。
「あんたねぇ、そのパパラッチのせいで、このあいだ大ゲンカになったこと反省しなさいよ」
「あぅ……ゴメン……」
 さすがのパイウェイがシュンとして言うと、ジュラはため息をつき、
「それに、今はそっとしといてあげなさい、あの二人は」
「は〜い」

「なるほど……『初日の出が見られぬなら見られるところに行けばいい』というわけか……」
 宇宙に輝く壮大な初日の出を見つめ、ドゥエロがつぶやく。
「実にあいつらしい発想だな」
 ドゥエロが言うと、
「キレイだね、ドクター」
 彼によりそうようにして、パルフェがつぶやく。
「……あぁ、そうだな」

「な……何でしょう……?」
 自分にかけられた声の主――ブザムにバートはおそるおそる尋ねる。
 ただでさえ、バートはクリスマスの時にブザムにアタックして玉砕している。必要以上に不安になるのも無理もない。
 一方、当のブザムはしばらく初日の出を見つめていたが、
「……フッ」
 小さく微笑を浮かべ、バートに言った。
「いいものをみせてもらった。  
 ヒビキへの協力、感謝する」
 バートはしばし、ブザムの言葉を理解しかねていたが、ようやく彼女が礼を言っているのだと分かった。
「は……はい!」
 元気な返事をするバートを見て、ブザムは微笑んだまま彼に背を向け――思い出したかのようにバートに言った。
「そういえば、クリスマスにもらったペレットだが……」
「はぁ……」
「見映りは悪かったが、少なくとも味は悪くなかったぞ」
 言って、ブザムは立ち去っていった。
 バートは、ブザムの意外な態度にしばし呆然としていたが、
「……フ……フフフフフ……
 ……ぃやったぁっ!」
 大喜びで飛び上がり――足を踏み外し、
「のわぁぁぁぁぁっ!」
 ナビゲーション席から落ちていった。

「……あ、あのよぉ……」
 満面の笑みで初日の出を見つめるディータにヒビキが照れくさそうに声をかけた。
「……なぁに?」
「だ……だから……その……
 ……き、去年は世話ンなったな。ありがとよ」
 そんなヒビキに、ディータは微笑を浮かべていった。
「……来年も……ううん、これからもずーっと、よろしくね♪」

 おわり♪


あとがき
 さて、テレビの本編でクリスマス話があったので、年越しの話を書いてみました。
 とりあえず、年内に“刈り取り”との決戦が片付いた、という前程で書いてます。
 一応名前持ちのクルー全員集合! って形にしたかったけど……エズラさん艦内放送でしか出番ない……

(初版:2000/12/19)
(第2版:2003/03/13)