#S00
「キミと出逢えて……」
「このぉぉぉぉぉっ!」
「いっけぇっ!」
ヒビキとディータが咆哮し、ヴァンドレッド・ディータのペークシスキャノンから放たれたビームが、キューブもろともピロシキ型を撃沈する。
「よっしゃ! さらに一隻!」
「エズラ、テンちゃん、あと何隻!?」
〈あと7隻です。
……あ、Bチームが一隻撃破、あと6隻!〉
〈球体、残り3です〉
ヒビキとディータの言葉に、モニターに現れたエズラとテンホウが答える。
と、そこへメイアのドレッドが接近してきた。
「ヒビキ、ディータ、分離だ!
ピロシキは後でどうとでもなる。私とヒビキの合体で、先に球体を叩く!」
「了解!
宇宙人さん!」
「おぅよ、任せろ!」
男女の協力により、刈り取り軍団の本隊のひとつを撃破したヒビキ達だったが、敵本隊はまだ五つも残っていた。
敵の放つ刺客を次々と撃破し、メジェール星系をめざすヒビキ達。
そして今日も、彼らは地球型の惑星のすぐそばで敵の部隊と交戦していた。
『いけぇっ!』
メイアとヒビキが叫び、ヴァンドレッド・メイアのファイナルブレークが球体を貫く。
「あと二つ!」
メイアが叫び、ヴァンドレッド・メイアが通常時の速度まで減速し――
〈メイア、後ろ!〉
ジュラが叫び、その背後に球体が回り込む!
最高速で突っ込み、エネルギーを収束させたくちばしで敵を貫く、ヴァンドレッド・メイアの必殺技ファイナルブレーク。
当然、常に最高速でいることはできないため、一度放った後は通常のスピードまで減速することになり、そこに一瞬の硬直が生まれる。
まともにスピードで勝負しても勝ち目がないと悟った球体は、仲間の1機を犠牲に、その一瞬のスキをついたのだ。
「しまった!」
メイアがうめき、球体が迫り――
ズガァッ!
球体は真っ二つに両断され、次の瞬間二つの火球へと変わっていた。
「なっ、何だ!?」
ヒビキが声を上げると、消えていく爆発の炎の向こうから、それは姿を現した。
白銀に輝くボディに赤、青のアクセントカラーを施された、ヒビキ達のヴァンドレッドとほぼ同サイズの人型のロボットである。
胸にはドラゴンの頭部をあしらったブレストガードを持ち、背中には生物的なデザインのウィング。そして額には、ペークシスの結晶を思わせるクリスタルが輝いている。
球体を両断した一撃は、手に持った大型のブレードによるもののようである。
そして、ロボットはゆっくりと最後の球体へと向き直った。
「なっ、なんだい、あいつは!」
「パワードスーツ……にしては大型すぎますね……」
ニル・ヴァーナのブリッジでマグノとブザムが言うと、
〈……似てる……〉
ナビゲーション席のバートがつぶやく。
「似てる……?
バート、何が似てるってんだい?」
〈あいつから感じる雰囲気……ヴァンドレッド・ディータにそっくりなんスよ!〉
マグノの問いにバートが言うと、テンホウが言った。
「あながち間違ってませんね。
あのパワードスーツから、ヴァンドレッドと同系のエネルギー波形が計測されました」
「では……」
テンホウの言葉に、ブザムはつぶやいた。
「あの機体も、ヴァンドレッドだというのか……!?」
「なっ、なんだ? あいつ……!」
「味方なのか? それとも……」
ヒビキとメイアがつぶやくと、ディータが通信してきて言う。
〈大丈夫! 彼はいい宇宙人さんです!〉
「なぜそう言える?」
メイアの問いにも、ディータはいつものようにあっさりと答えてみせる。
〈感じるんです! 宇宙人さんと合体した時と同じ……なんていうか、あったかい感じが……〉
〈そりゃ、あたしもあいつからイヤな感じは受けないけど……〉
横から通信に割り込んできたジュラも言い、メイアは考え込み――
「あ、あぶねぇ!」
球体がロボットへと突っ込むのを見て、ヒビキが声を上げる。
しかし、ロボットはあわてる様子もなく、
ガッ!
球体のトゲをつかみ、その動きを封じる。
それに対して、球体もトゲを射出形態に変化させるが、ロボットはそれが発射されるよりも早く球体を投げ飛ばす。
と、ヒビキ達の元に音声のみで通信が入った。
〈そこのヴァンドレッド! 今だ!〉
「わ、わかった!
いくぞ、ヒビキ!」
「お、おぅっ!」
ロボットからの通信にメイアとヒビキは気合を入れなおし、ヴァンドレッド・メイアは球体に向けて加速し、
ズガァッ!
ファイナルブレークで球体を貫いていった。
残ったピロシキ型やキューブは、ジュラやディータ達ドレッドチームによってすでに撃破されていた。
「あいつは……一体何者なんだい?」
「先ほどの交信内容から、やはりヴァンドレッドのことを知っているようですが……」
ニル・ヴァーナのブリッジで、マグノとブザムが言うと、エズラが二人に言う。
「パワードスーツから通信ですぅ」
「つないどくれ」
マグノがエズラに言うと、モニターにひとりの少年が現れた。
年はだいたい17、8といった感じの、黒服の少年である。
〈あんた達、災難だったね〉
「まぁ、ね。
お前さん、そこの星の人間かい?」
〈あぁ。
オレは水上 悠。今オレ達の真下に見える、惑星エレメニアの出身さ〉
マグノの問いに、悠と名乗った少年は元気に言う。
「そうかい。
あたしらは――」
〈宇宙海賊マグノ一家。船の名前は『ニル・ヴァーナ』、だろ?〉
言いかけたマグノに、悠はサラリと言う。
〈あんたら、ラバットっていう宇宙商人兼情報屋、知ってるだろ?
あいつから情報買ったんだ。
金さえ払えばきちんと商売してくれるからな、あいつ〉
「あいつがねぇ……」
悠の言葉に、マグノは正直信じられない、といった感じでため息をもらす。
「……まぁ、いいや。
あたしらを知ってるなら話は早い。
少しそっちに寄らせてもらっていいかい? クルーも連戦で疲れてるから、ちょっとは休ませてあげたいんだよ」
〈あぁ。かまわないよ。
ついてきてくれ。オレ達の基地からのビーコンが届く辺りまで案内するよ〉
悠が言い――彼の機体は人型からドラゴン型へと変形、ニル・ヴァーナを先導するように飛行を始めた。
そして、ニル・ヴァーナは悠の案内で、衛星軌道上に浮かぶ彼らの基地へと入港したのだった。
――プシュウ……
ドッキングポートの扉が開き、マグノ達は基地の格納庫へと入った。
と、そんな彼らに頭上から声がかけられた。
「ようこそ、サイレントベースへ!」
その声に一同が見上げると、ハンガーに納まったドラゴン型ロボの頭部コックピットから悠が顔を出した。
「サイレントベース……この基地の名か?」
「あぁ」
メイアに答え、悠は元気に彼らの前へと飛び降り、
「来いよ。うちの司令官のトコに案内するから」
「へぇ……なかなか大した規模の基地じゃないか」
「こっちも刈り取られたくないからね。それなりの準備はするさ」
廊下を歩きながら感心するマグノに、前を歩く悠が答える。
「けど、オレ達の戦いに首突っ込んできたのはお前だけだったよな」
「ま、こっちにもいろいろ事情があるってことだよ」
ヒビキに答え、悠は彼らをコマンドルーム――指令室へと案内した。
「普通、応接室か作戦室に通さないか?」
「どっちもせまいんだよ、この基地。
なんせ、元は戦艦だったからね、大人数が入れるような部屋は少ないんだ」
悠がメイアに説明すると、
「その方々か? ラバットのデータにあったマグノ一家というのは」
言って、ひとりの男がやってきた。
「私は、このサイレントベースの責任者、水上和輝といいます。
私の息子がお世話になったようで……」
「いや、あたしらはむしろ助けてもらった側さ。礼を言わせてもらうよ」
和輝に答え、マグノは悠が持ってきたシートに座る。
「ところで、あんたらは刈り取りを知っているのかい?」
「えぇ。我々の星は移民当時から、近辺の星に移民した人々と国交をもっていました。
ですが、他の星は刈り取りによってすでに……
そこで、これ以上の犠牲を出さないために、私達はこうして対刈り取り部隊を編成し、彼らと戦い続けてきたんです」
マグノの問いに、和輝は沈痛な面持ちで語る。
「地球がどうなってるのか、少しでも情報はないものかねぇ?
あたしらも、母星がどうなってるのかさっぱりなんでね」
「いえ……その辺りの情報は何も……
移民船が旅立った当時の資料はあるのですが、現在の地球の、となると……
さすがのラバットも、そこまでの情報は持たないようです」
和輝がマグノに答えると、ガスコーニュがマグノへと通信してきた。
〈お頭、ちょっといいかい?〉
「どうしたんだい? ガスコーニュ」
〈今ざっと船体をチェックしてみたんだけどね、外装よりもペークシスの回路組織の方にあちこちガタがきてるんだ。
パルフェの話じゃ、新しい回路組織はもうでき始めてるけど、1、2週間はかかるらしいね〉
「今まで連戦だったからねぇ……仕方ないよ」
言って、マグノは和輝に尋ねた。
「聞いての通りなんだが……しばらく厄介になってもかまわないかい?」
「もちろんです。歓迎しますよ。
それに、必要でしたら補給物資も用意いたします」
そんな二人の会話に大はしゃぎなのはディータである。
「じゃぁ、しばらくこの星にいるんですね!?
ねぇねぇ、悠くん、この星案内してよ!」
「え? お、オレがか!?」
ディータの言葉に戸惑う悠だが、その後ろで和輝があっさり言った。
「いやいや、こんなバカでよければいくらでもお貸ししますよ。はっはっはっ」
「おい、親父! 勝手に決めるな!
どーせ『あ、こりゃ面白いことになってきたなー♪』とか思ってんだろ!」
和輝の言葉に悠がくってかかるが、
「え〜? ダメなの?」
心底残念そうなディータの顔を見て、悠は深くため息をつき、
「あー、もう! わかったよ!
案内すりゃいいんだろ! やってやるよ!」
「ぅわぁ、やったぁ♪」
そんな悠とディータのやり取りを見ながら、ヒビキとメイアは『やはりあの状態のディータには誰も逆らえないのか……』などと奇妙な納得感を覚えていた。
「へぇ、男と女が別々の星でねぇ……」
地上に降り、電車で悠の家の近くへと向かう途中、ヒビキ達からメジェール星系の話を聞き、悠が納得する。
ちなみにメンバーはディータとヒビキ、悠の他、メイアとテンホウ、そしてジュラとバーネットとバートである。
「それじゃ、うちみたいな男女が共存する星は珍しいだろ」
「うん! もう見るもの全部がステキすぎ!」
悠の言葉にすっかり興奮気味のディータがカメラを片手に答えると、メイアが悠に言う。
「今まで立ち寄った星も、みんな男女が共に暮らしていた。
どうやら、我々の星系だけが男女別々に暮らしているらしい」
「ま、ヤツらの狙いがお前らの生殖器だっつーことを考えると、最適の環境ではあるな」
「ところで、おめぇらは何を狙われてんだ?」
「知らないよ」
尋ねるヒビキに、悠はスパッと言ってのける。
「今までの戦いじゃ、戦死した人こそいるけど、刈り取りそのものの犠牲者はまだひとりも出てないんだ。
ヤツらの残骸から手に入れたデータにも、それらしい記述はなかったし……」
悠が言うと、横からディータが尋ねる。
「ねぇねぇ」
「ん?」
振り向く悠に、ディータは興味津々な眼差しを向け、尋ねた。
「どうして男と女が別れてると生殖器を育てるのに最適になるの?」
「……そーゆーことを聞くな。頼むから……」
赤くなって返答を拒否する悠を見て、ヒビキ達は互いに顔を見合わせ、首をかしげるしかなかった。
「水上流……空手道場?」
「そ。ここがオレんち」
悠の家の門に掲げられた看板を読み上げるヒビキに、悠が答える。
「キミんち、空手を教えてるのかい?」
「表向きはな」
悠がバートに答え、一同は門をくぐる。
「表向き……?」
「うちの本来の流派は『水上流“戦闘”術』。
家人とその代の継承者が認めた者のみが学べる、戦場格闘術なんだ」
悠がバーネットに答えると、
「あ、お兄ちゃん、お帰り!」
元気な声と共に、ひとりの女の子が出てきた。
と、女の子はヒビキ達に気づき、
「あれ、お客さん?」
「まぁな。しばらくうちに厄介になることになったんだ」
女の子に答え、悠はヒビキ達に女の子を紹介した。
「こいつは璃緒。オレの妹さ」
「水上璃緒です。よろしくお願いします!」
きちんとおじぎをしてあいさつする璃緒を見て、ジュラは悠に言った。
「ずいぶんと素直な子ね。ホントにあんたの妹?」
「うるせぇよ」
「とりあえず、男二人の部屋はここだ」
ヒビキとバートを和室のひとつに案内し、悠が言う。
「けっこう広いんだな、お前んち……」
「この星じゃごく普通さ。
地球で言うところの純和風っつー建築様式なんだとよ」
部屋を見回してつぶやくヒビキに、悠が説明する。
「じゃ、次は女の子達の部屋だな。
二部屋になるけど、部屋割り決まってっか?」
「えーっとねぇ……」
悠の問いにディータが答えようとすると、
「お兄ちゃぁーん!」
廊下の向こうから、璃緒の声が悠を呼ぶ。
「夕飯作るから手伝ってよぉ!」
「先にやってろ! 後で行く!」
悠が答え――ふと後ろでギョッとしているヒビキ達に気づいた。
「……どした?」
悠が尋ねると、真っ先に我に返ったヒビキが尋ねる。
「……おめぇ、男なのに料理できるのか?」
「『男なのに』ってのはごあいさつだね。この星じゃ当たり前だぜ。
それに、うちは母さんがいないから、家事は小さい頃からこなしてきてんだよ」
ヒビキの問いに、悠はあきれながら答える。
「だいたい、そんなこと言うなら、お前らタラークの連中はメシどーしてたんだよ?」
悠に聞き返され、ヒビキとバートは顔を見合わせ、せーので答えた。
『工場で作ったペレット』
「………………」
ともかく、そんなこんなで悠が料理のために台所へ消えてからしばし。
ヒビキ達は荷物を自分達の部屋に置いてきたディータ達と共に部屋で話していた。
「男と女が別れてるのと共存してるのと。
それだけの違いでずいぶん習慣も変わってくんだなぁ……」
「うんうん! だから素敵なんじゃない!」
腕組みしながらつぶやくヒビキに、力いっぱいディータが力説する。
「確かに、ボク達の星には料理なんて概念自体がないからねぇ」
「そりゃないでしょ、主食がペレットじゃ」
つぶやくバートにジュラがあきれてうめくと、
「……メイア?」
バーネットが、さっきから黙り込んでいるメイアに気づいた。
「一体どうしたのよ? さっきからずっと黙り込んじゃってるけど」
「あ、いや、別に……」
バーネットの言葉に我に返り、メイアは彼女にしては珍しく歯切れの悪い答えを返す。
そんなメイアを見て、ディータとテンホウが不思議そうに顔を見合わせると、
「おーい! メシだぞぉっ!」
悠の呼び声が聞こえてきた。
『をををををっ!』
食堂に入るなり、テーブルの上に並べられた料理の数々を見て、ヒビキとバートが声を上げる。
テーブルの上には、それほど多彩な料理が並べられていたのだ。
「……これ、みんなあんた達二人で作ったの?」
「おう」
「うん!」
ジュラの問いに悠と璃緒が答え、一同はそれぞれ席につき、
『いただきます!』
一斉に言って、それぞれ好きなおかずを選んで食べ始める。
「あ、意外とうまいやコレ」
「ホントだ、男の作ったものには思えないよな」
「お前ら……この期に及んでオレの料理の腕疑ってやがったな……!」
一口食べて言うヒビキとバートに、悠がこめかみをピクピクとひくつかせながらうめく。
「まぁ、そう言わないでやれ。我々には男が料理をするという発想自体がないんだ」
「そりゃそーだろーけど、やっぱ言われっぱなしってのも悔しいだろ」
なだめるメイアの言葉に、悠はまるで子供のように口をとがらせて言う。
と――悠は何やら思いついたのか、唐突に笑みを浮かべてヒビキに尋ねた。
「ところでさ、ヒビキ」
「ん?」
「ずいぶんとディータと仲良さそうだけど……恋人同士なのか?」
ブゥゥゥゥゥッ!
悠の狙いはバッチリ的中。ヒビキはまともに吹き出してみせる。
「なっ、なななっ、何言い出すんだよ、てめぇっ!」
「お前ってホント予想通りのリアクションしてくれたよな。
おかげでからかいがいあるわ」
顔を真っ赤にして言い返すヒビキに、悠は笑いながら言う。
そんな二人を見て、メイアはこれまで感じたことのない、不思議な安らぎを感じていた。
その晩、メイアはなかなか寝つけず、中庭に出てきて夜空を見上げていた。
ディータほどではないが、メイアにとってもこの星で見るものは新鮮だった。
男女の共存はもちろん、男が女の仕事も平気で手伝える、両者が対等の社会――
しかし、今のメイアにとって、もっと気にかかることが他にあった。
「……あの、水上のパワードスーツ……あれは一体……」
メイアがつぶやくと、
「教えてやろうか?」
背後――それも頭上からかけられた声にメイアが振り向くと、屋根の上に悠が座っている。
メイア同様夜空をながめていたのだろう。
そして、悠はメイアの前に飛び降り、
「その前に、こっちの質問に答えてくれ。
確認したいことがある」
「……いいだろう」
「じゃあ、まずは最初の質問。
お前らの船やヴァンドレッドは、移民船時代のペークシスプラグマの暴走増殖によって生まれた。そうだったな?」
「あぁ」
「なら二つめ。
その暴走だけど……いつ起きた?」
「だいたい、4ヶ月から5ヶ月ほど前だ」
「ふ〜ん……」
メイアの答えに、悠は深く考え込む。
「……水上?」
メイアが声をかけると、悠は彼女に話し始めた。
「メイア、こんな話があるのを知ってるか?
地球にかつてかつて存在した、ニホンザルって種類のサルの話なんだけどな。
ある日、ある無人島でヤツらの生態を研究していた科学者達は、そこに暮らすサルの一匹に、好物であるサツマイモを洗ってから食べることを教えさせたんだ。
そしたら――まだそのサルを群れにも戻していなかったのに、他のサル達も一斉にイモを洗うことを覚えていたっていうんだ」
「……確かに不思議な話だが……それと今回の件と、何の関係があるんだ?」
「ま、確かに話がここで終わりだっつーなら、何の関係もねぇな。
けど……」
メイアの問いに答え、悠はそこで息をつき、
「……けど、そのニホンザルのイモ洗いの習慣が、その日を境に世界中で行なわれ始めていたとしたら?」
「――――――!?」
悠の言葉に、彼の言わんとしていることを悟ったメイアは言葉を失っていた。
「こういった、世界規模の同時多発性の現象を。シンクロニシティっつーらしいんだけど……」
「まさか……」
「そう。そのまさかだ」
つぶやくメイアに、悠はうなずいてみせた。
「その移民船時代のペークシスの暴走はあんた達の船だけじゃない。同時にあちこちで起きていたんだ。
そして――その暴走で生まれたのが、サイレントベースとオレのヴァンドレッド――ナイトブラスターだったんだ」
「………………」
部屋に戻り、布団に入ってからもメイアはなかなか寝つくことができずにいた。
悠と交わしたさっきの会話が脳裏にこびりついて離れずにいる。
「では、やはりあの機体はヴァンドレッドなのか!?」
「あぁ。お前らのと違って、“合体”じゃなくて“変形”するんだけどな。
今日の戦いの時、お前らも感じてたはずだ。暖かみのある優しい感覚を。
こいつぁオレの仮説なんだけど、ありゃペークシスに呑まれたことのあるヤツだけがわかる、一種の共振現象だと思うんだ」
「共振……?」
聞き返すメイアにうなずき、悠は続ける。
「お前らもわかってることだと思うけど、ヴァンドレッドは形成時に決まる性能特性だけじゃなく、その後の性能にまでパイロットの精神が大きく影響する。そういうことがあっても不思議じゃない」
「パイロットの精神が……関与しているのか?」
悠の言葉につぶやき――メイアは自分のヴァンドレッドが鳥形となった理由に思い当たった。
すなわち――自分の開放。
そんなメイアに、悠はさらに続ける。
「現にオレも、最初のうちはナイトブラスターの力を引き出せずにいた。
オレが戦いに向かう気持ちが半端だったから、ナイトドラゴンはナイトブラスターになりきれなかった……」
「付き合いがなかった私が言うべきことではないのだろうが……お前のような明るい人間でも、気持ちが半端になることがあるんだな」
「そりゃ、あるさ……」
メイアの言葉に、悠は遠い目をしてつぶやいた。
「やっぱ、好きになれないんだよな。相手を“倒す”んじゃなくて“仕留める”戦いなんて……」
「……だが、ヤツは今も戦い続けている……」
天井を見上げたまま、メイアが静かにつぶやく。
「一体……何がヤツを支えているんだ……
私にはあるのか……? そんな、戦い抜ける理由が……」
そのメイアの疑念に、答える者はいなかった。
翌朝――
『せいっ! せいっ!』
「……んぁ……?」
「なんだ……?」
ヒビキとバートは、道場の方から聞こえてくるかけ声で目が覚めた。
二人が廊下に出てみると、
「あ、ヒビキお兄ちゃん、バートお兄ちゃん」
「おはようございます」
言って、璃緒とテンホウが浴衣姿でやってきた。
「なんだお前ら、朝風呂か?」
「……はい」
「あたしがテンホウちゃんを誘ったの。
お兄ちゃんとの早朝稽古で汗かいちゃったから、どうせなら誰かとおしゃべりしながら入りたいなー、って思って」
ヒビキの問いに、ちょっと恥ずかしそうなテンホウと朝から元気な璃緒が言う。
「じゃあ、悠、もう起きてるのかい?」
「うん。道場で門下の子達の朝稽古を見てあげてるの。
お父さんがいない時は、お兄ちゃんが当番だから」
バートに答え、璃緒はかけ声の響く道場を指さす。
「門下の“子”達って……
ってことは、オレ達ゃガキどもより朝遅いのか」
「そーゆーことになるね」
「……ハッキリ言いやがるな、おめぇ」
「うん。
だってあたし、お兄ちゃんの妹だもん」
その言葉に、なぜか納得できてしまうヒビキであった。
「先生、さよならーっ!」
「おう。気をつけて帰れよ。
それから『先生』はやめろっていつも言ってっだろーが!」
朝稽古が終わり、帰っていく子供達に悠が言う。
「さて、オレも……」
言って、悠が家の方へ戻ろうとすると、散歩に出ていたメイアが戻ってきた。
「よう。お帰り。
散歩はどうだった?」
「別にどうということはない。
朝の空気を吸いに出ていただけだからな」
悠の問いに答え――メイアはふと思い出して悠に尋ねた。
「そうだ、気のついたことといえば、ずいぶんと格闘技の道場やジムが多かったが……」
「あぁ。そういうお国柄なんだよ。第一世代の方針でね。
道場を開くでもなく、弟子をとるでもなく、普通に働きながら地球時代から代々伝わる技を伝えている家もある」
「ほぅ……」
「ま、そんなことより……」
言って、悠は時計を見て、
「そろそろ朝メシの支度しないとな。
メイア、お前料理できるか?」
「ディータほどうまくはないが……なぜだ?」
「いや、手伝ってくれると個人的に楽ができてうれしいなー♪ とか思ってんだけど」
カラ笑いでごまかしながら言う悠に、メイアは思わずため息をつく。
以前のメイアなら、ここで遠慮なく突き放していただろう。
しかし、その時のメイアの口から出た答えは、まったく違うものだった。
「……いいだろう。
味の方は期待するなよ」
「へっ、上等♪」
「ところでさぁ……」
「ん?」
居間でくつろいでいたところに璃緒に声をかけられ、ヒビキが応える。
「昨日、お兄ちゃんにディータお姉ちゃんとは恋人じゃないって言ってたよね?」
「たっ、たりめーだ。あいつぁ仲間だ」
真っ赤になって答えるヒビキに気づいているのかいないのか、璃緒はそのままサラリと続けた。
「じゃあ、メイアお姉ちゃんと恋人同士なの?」
ずがんっ!
璃緒の爆弾発言に、ヒビキは豪快に目の前のちゃぶ台に頭を打ちつけていた。
「なっ、なんでオレがあんな暗ぇヤツと!」
「え? メイアお姉ちゃんも違うの?」
「あたりめぇだ!」
「そっか……」
ヒビキの答えに璃緒は考え込み、
「けどそれって惜しくない?
二人ともけっこう美人だと思うしスタイルだってバツグンだし……
正直憧れちゃうなぁ……」
「……あ、そ……」
夢見るようにウットリしながら言う璃緒の言葉に、なんだか強烈な気疲れを覚えたヒビキはそう応えるしかなかったのだった。
「全員集まれーっ! 朝メシだぞーっ!」
悠の声が屋敷に響き渡り、ヒビキ達はゾロゾロと食堂に集まってきた。
今朝のメニューは白いご飯に卵焼き、そして赤味噌の味噌汁。典型的な和食の朝食パターンのひとつである。
「……あれ? ディータお姉ちゃんとジュラお姉ちゃんは?」
「まだ寝てるわ。起こしてくるわね」
璃緒に答え、バーネットは部屋へと戻っていく。
「お、今朝も豪勢だな、おい!」
料理の数々を見てヒビキが目を輝かせていると、
「フッ、この程度で豪勢とは、寂しい食生活だな」
「なんだと、てめぇっ!」
メイアの言葉にヒビキが振り向き――
――ピシッ。
「……どうした?」
瞬時に目を丸くして固まってしまったヒビキを見て、エプロン姿のメイアが尋ねる。
「……どぉしたんだ? その格好……」
「水上の料理を手伝ったんだ」
まだ硬直から立ち直れないでいるヒビキの問いに、メイアはサラリと言う。
「おめぇ……料理できたのか?
やってるトコ見たことねぇんだけど……」
「失礼な。
得意ではないが、他人の料理を手伝えるくらいの腕はある」
ヒビキの言葉に、メイアが珍しくムッとして答えると、
「ぅわぁ! リーダー、料理したんですか?」
やってきたディータが、メイアのエプロン姿を見て声を上げる。
「ディータ、リーダーの料理食べるのって初めて!
ねぇ、味見してもいいですか!?」
「ダメだ。全員そろうまで待て」
「あうぅ〜……」
そんなメイアとディータのやりとりを見ながら、悠がヒビキに言った。
「なぁ、ヒビキ」
「ん?」
「あの二人……なんかホントの姉妹みたいだな」
「どっちが上……って、聞くまでもねぇか」
そして起きてきたジュラも加わりみんなで朝食をすませ、ヒビキ達は悠と璃緒の案内で都市部に出ていた。
20世紀末の日本――東京をモチーフにしたというその街並みを歩きながら、ディータを始めとした一同の質問に悠や璃緒が答える、といった形の会話が続いていた。
車道では、車やバイクの他、動物型のロボットも頻繁に行き交っているのが見える。
「そういえば、さっきから見かける、あの動物のロボットはなんなの?」
「あぁ、G-ノイドっつーんだ」
思い出したように尋ねるディータに悠が答え、璃緒が説明する。
「G-ノイドはこの星にもともと住んでた動物型のロボット生命体で、自分の意志を持ってるんだよ。
あたし達この星の人達はG-ノイドを操縦できるようにコックピットを取りつけて、自分達の生活に役立ててるの。
お兄ちゃんのナイトブラスターも、ナイトドラゴンっていうドラゴン型の戦闘用G-ノイドが暴走したペークシスに飲み込まれちゃって、人型のヴァンドレッド形態に変形できるようになったものなんだよ」
「やっぱ、おめぇのあの機体もヴァンドレッドだったのか!?」
「まーな」
声を上げるヒビキに、悠はサラリと言う。
「他にも、ヴァンドレッド化したG-ノイドとそのパイロットはいるんだけど、今はみんな宇宙に出てる。
いろんな殖民星に散って、移民のみんなに反刈り取りを呼びかけてるんだ。
おかげで、この星の防衛はオレと璃緒に一任。サイレントベースの超遠距離レーダーがなかったら、今ごろパトロールで大忙し、過労モード一直線さ」
「それで、最初の戦いに乱入してきた時キミひとりだったんだね」
悠の話にバートが納得すると、
「……あら?」
ジュラが路地の入り口に置かれた立て看板に気づいた。
「ねぇ、これなんて読むのよ? 男文字なんだけど……」
「どれどれ……?」
ジュラに言われ、ヒビキは看板をのぞき込み、
「……『この先合戦場。非参加者の立ち入りを禁ず』だとさ」
『合戦場……?』
ヒビキの言葉にディータ達が顔を見合わせるのを見て、悠は思わずため息をつき、
「お前ら……入星手続きの時にもらったこの星の紹介パンフレット、ちゃんと目ェ通したか?」
悠のその問いに、ヒビキ達はそろってフルフルと首を左右に振る。
「あのなぁ……
お前ら、絶対よその土地に旅行できねぇタイプだな。
いいか、合戦場ってぇのは……」
【悠くんの雑学講座:「合戦場って何?」】 合戦場――地球暦でいう西暦1900年代始め(日本では大正時代)まで日本の沖縄に実在した戦闘解放区の呼び名。 首里城近くの人気のない辻などで、武人達が激しい実戦で己の実力を試し合う場だったが、続出する死者の数がついにハブの被害者数を上回るに至り、ついに警察の手によって廃止に追い込まれてしまった。 |
「……が、合戦場は完全に消滅したワケじゃなかった。
沖縄の合戦場の廃止で行き場を失った武人達は全国に散り、それぞれの地で細々と伝えられてきた。
で、武術を奨励するうちの第一世代がそんないいものを見逃すはずがなく、めでたくこの惑星エレメニアで復活を遂げた、ってなワケさ」
会話の場を大通りの屋外カフェテラスに移し、悠がヒビキやバートに説明する。
女性陣はといえば、悠の話に飽きてきたところへブティックを見つけ、『興味ない』としぶるメイアを強制連行。ショッピングに行ってしまった。
無論、お金は悠&璃緒持ちなのは言うまでもない。
「他にもいろいろやってるぜ。
合戦場と違って広いところでも戦えるように街のあちこちに用意されたストリートファイト用のスペースに、もめごとをすべて当事者の対決によって解決する『Kファイト制』の導入。戦闘用G-ノイドのバトル競技『Gバトル』……
とにかく、うちの第一世代はこれでもかってくらいバトルを奨励してんだ。
実際存在しなかったもの、つまり架空の物語に登場したものでもバトルの奨励に使えるものならなんでもありさ」
『へぇ……』
悠の言葉にヒビキとバートが納得すると、
「なぁに? まだそんな武骨な話してんの?」
ジュラが言って、彼女を先頭に女性陣が戻ってきた。
「よっ。おかえり。
どーせ楽しかったろ? 人の金で買い物するのは」
「当然っ!」
自信タップリに答えるジュラに、悠は皮肉をあきらめることにした。
ちなみにジュラの服装はいつものそれから、今のショッピングで買ってきたのであろう、Tシャツとジーンズといういでたちに変わっている。
ジュラにしては地味な部類に入るであろう服装だが、少しサイズが小さめのため身体のラインがハッキリと現れており、スタイル抜群なジュラの魅力を十二分に引き出している。
一方、バーネットも同様にジーンズに柄違いのTシャツといったいでたちだが、ジュラと違って落ち着いた色合いでTシャツのサイズも大きめのため、逆に没個性化が進んでしまっている。
ディータはといえば、買い物はしたものの着替えてはいない。「後のお楽しみ」とばかりに腕の中の紙袋にしきりに頬擦りを繰り返し、同じく買い物袋を抱えたテンホウと璃緒が不思議そうにそれを眺めている。
「……ま、いいけどさ」
「すまないな、あいつらがワガママを言って」
ため息をつく悠に、メイアがすまなさそうに言う。
「いいよ。あいつらがブティックに入った時点であきらめた。
それより……」
言って、悠はメイアの上はTシャツにジャケット、下はミニスカートといういでたちを見て、
「どー見てもお前のシュミに見えんな、そのカッコ」
「……あぁ。ジュラとディータが選んだ」
悠の問いに、メイアは顔を真っ赤にして答える。
そんなメイアに、悠はため息をつき、
「……ま、そー赤くなることもねぇんじゃねぇの?
元がいいんだ。そーやってりゃ、ずいぶんとカワイイ子してるぜ」
「え……?」
悠の言葉に、うつむいていたメイアは思わず顔を上げるが、悠はそんな彼女の反応にまるで気づかずヒビキ達に言った。
「さーて、次行くぜ、次!」
「船の修理、順調みたいだね」
「えぇ。うちのスタッフも優秀ですからね。
この分なら、予想よりも早くすみそうです」
サイレントベースのコマンドルームにやってきたマグノの言葉に、和輝が振り返って言う。
「星に降りたうちの子達はどうしてるかわかるかい?」
「あぁ、メイアさん達ですね。
今朝、うちの娘から連絡があって、今日は一日、街を案内して歩くそうです」
マグノに答え、和輝はマグカップに注がれたコーヒーをすする。
「そうかい。そりゃよかった。
メイアは少しマジメすぎてね。こういう時に息抜きさせてやらないといけないのさ」
「なるほど。しぶっていた彼女をムリに行かせたのはそのためですか。
そのマジメさ、少しうちの息子にわけてほしいものですね」
和輝が答え、マグノと二人で笑みをかわした、ちょうどその時、
ビーッ! ビーッ!
突然警報が鳴り響いた。
「ぅわぁ♪ すっごぉい!」
「おーおー! よく見えるじゃんか!」
東京タワーを模したテレビ塔の展望台から双眼鏡をのぞき込み、ディータとバートが大はしゃぎで声を上げる。
「今時レンズ式の望遠鏡なんて、レトロよねぇ……」
「いーだろ。古いからこそ味わえる風情ってもんがあんだから」
あきれてつぶやくバーネットに、悠が少しムッとして答える。
「ったく、たかが双眼鏡で浮かれやがって。
まるでガキだよな、あいつのあーゆートコ」
ディータの様子にヒビキがあきれて言うが、
「宇宙人さん、見て見て!
さっき話してた『Gバトル』やってるよ!」
「ホントか!? 見せろ見せろ!」
「……人のことは言えないな、ヒビキも」
「そんな連中をまとめるお前に同情するよ」
ディータの方へと駆けていくヒビキを見て、メイアと悠がため息まじりにつぶやく。
「……で、お前は見ないのか?
テンホウちゃんだって、璃緒と一緒に反対側を見に行ったぜ」
「私はいい。
そういうものにはしゃげる性格じゃないのでね」
「あ、そ」
メイアに言って、悠は自販機へと向かう。
「何か飲むか?
自販機のヤツだから味は保障しないけどな」
「なら、ミルクティーを頼む」
メイアが答え、悠はミルクティーを買ってメイアに渡す。
「ところで……」
言いながら、メイアは缶のプルタブを起こし、
「水上、お前はなぜ刈り取りに立ち向かうことにしたんだ?」
「え……? なんでまたそんなことを?」
「いや、夕べの話を聞いた限り、戦い自体は好んでいないようだったからな。少し気になった」
聞き返す悠に答え、メイアはミルクティーを飲む。
「あぁ。バトルは好きだけど、戦争は嫌いだぜ」
サラリと言って、悠は自分のココアを買い、
「けど……」
悠がそこまで言った、ちょうどその時、
ピーッ! ピーッ!
悠の左手の通信ブレスがコール音を立てた。
「……なんだ……?」
つぶやき、悠はメイアにココアを預けて通信に応答する。
任務の都合上、高指向性のスピーカーを使っているのだろう、メイアの耳には通信の声は聞こえない。だが、小声で話している悠の顔がみるみるうちに青ざめていくのがハッキリとわかった。
「……どうした?」
「招かれざる客のご登場だよ」
尋ねるメイアに、通信を終えた悠が言う。
「すぐサイレントベースに戻るぜ。
五つ残ってる敵母艦のひとつが、まっすぐこの星を目指しているらしい」
「親父!」
悠を先頭に、ヒビキ達がコマンドルームに駆け込んできた。
「おぉ、来たか」
「敵の位置は!?」
「およそ15000、まっすぐこっちに向かってきてます」
尋ねるメイアに、レーダー席を借りているエズラが答える。
「マズいねぇ、船が動けないこんな時に……」
「えぇっ!? ニル・ヴァーナまだ動けないんスか!?」
「オレ達だけで迎撃するっきゃねぇってことか……」
つぶやくマグノの言葉に、バートとヒビキが言う。
「けど、相手はあの母艦クラスよ。
まともにやり合っても、数で圧倒されるだけじゃない」
「大丈夫だよ。今度は、最初から宇宙人さんがいるんだもん。
ヴァンドレッドに合体さえすれば!」
不安そうなジュラにディータが言うと、
「水上、お前の意見を聞こうか」
メイアが尋ねるその言葉に、一同の視線が悠へと集まった。
「お前はずっとナイトブラスター1機での単独戦闘を続けてきた。
少数対多数の戦術には、この中の誰よりも長けているはずだ」
「なるほど……確かにこの状況じゃ、一番頼りになる作戦参謀ね」
メイアの言葉にバーネットが納得すると、悠は息をつき、話し始めた。
「お前ら、さすがに虫くらいは知ってるよな?」
「え? うん……」
ディータの答えにうなずき、悠は続ける。
「昆虫はいくら足をもいでも死にやしない。せいぜい生活に支障が出るくらい。タチの悪いヤツになると再生までしやがる。
刈り取りの連中もそれと一緒だ。どれだけザコをツブしても、いくらでも作り出せる。
ではここで質問。虫を叩く時、どこをツブすのが一番早い?」
「そりゃあ――」
ヒビキが答えかけ、悠の意図に気づいた。
「――そうか、頭――母艦を叩けってか!」
「そういうこと♪
敵中での戦闘心得。『ザコにはかまわず頭をツブせ』ってヤツだ。
知っての通り、ヤツらのメカはより高位のメカによって指揮・統括されている。
なら、その『指揮者ピラミッド』の頂点にいるヤツ――母艦を叩けばそれで終わりだ」
「それで、具体的な策はあるんですか?」
「あるよ」
テンホウの問いに、悠が笑って言う。
「迎撃ポイントはこの星とヤツらとの間にある暗礁宙域だ。
ただの暗礁宙域じゃねぇぞ。ヤツらの使う独特のレーダー波を誤認させるジャマーを仕込んだダミー隕石をゴロゴロ忍ばせてある。
そこで、母艦に気づかれる前に電撃作戦をかける。
ま、わかりやすく言っちまえば、敵に対処される前に叩けばいいってことさ」
「しかし、我々の火力で、とてもあの母艦を叩くことは……」
ブザムが言うが、悠は平然と続ける。
「心配無用。狙い目はある。
確かに、ブザムさんの言う通り、オレ達の火力なんざ、あいつの外装にとっちゃ水鉄砲みたいなもんだろ。
けど……殻が硬いヤツは中身がもろいってのはお約束でね」
「中身……? 内部に攻撃しろっての?」
聞き返すジュラに悠がうなずく。
「主砲だよ。
ヤツの最大の武器である正面の主砲。ここだけは内部メカにシステムが直結しているはずだ。
つまり、ここはヤツの切り札であると同時に最大の弱点でもあるんだ。
ここから内部に攻撃を叩き込んでやれば、あの外装が仇となって、爆発はヤツの内部を破壊し尽くす」
「火力で劣る我々には、その手しかないか……」
悠の話に、メイアが腕組みしてつぶやく。
「なら、善は急げだ。
あいつらに目にもの見せてやろうぜ!」
『おーっ!』
ヒビキの言葉に、一同の答えが唱和した。
閃光を放ち、ヒビキの蛮型とメイアのスペシャルドレッドが合体。ヴァンドレッド・メイアが出撃する。
そして、ニル・ヴァーナから発進したドレッドチームや、サイレントベースから発進した悠のナイトドラゴンが合流する。
「では、作戦を確認するぞ。
ヤツらが暗礁宙域に差しかかったら、ディータのドレッドをつかんだヴァンドレッド・メイアがナイトドラゴンと共に突撃。敵母艦の目前でヴァンドレッド・ディータとナイトブラスターになり、最大火力で一気に主砲を狙う。
ドレッドチームは、ジュラとバーネットの指揮で敵機動兵器の牽制を頼む。
ピロシキも、すぐにはキューブを射出できない。私達が母艦を叩くまでなら、なんとかなるはずだ」
淡々と作戦内容を復唱するメイアに、ヒビキやディータ、そして他の面々もそれぞれのコックピットで一様にうなずく。
「けど悠、いくらヴァンドレッド形態より速いっつっても、ホントにナイトドラゴンでオレ達のヴァンドレッドについてこれるのか?
ムチャクチャ速いんだぜ、この形態」
ヒビキの問いに、悠は肩をすくめ、
「ま、このままの装備じゃムリだな。
けど、追加ユニットでブースターがあるから、そいつをつければ少なくとも加速性能では同等のはずだ」
「じゃあ、あんた達もうちのデリバリー機みたいなシステム持ってるの?」
ジュラが聞き返すと、スピーカーから元気な声が響いた。
〈はいはーい! そのは何を隠そう、あたしの仕事なんでぇす!〉
そう言って、ニル・ヴァーナのデリバリー機と同等の大きさの大型機でやってきたのは璃緒である。
「あれ、璃緒ちゃんがデリバリー機の担当なの?」
「あぁ。あの機体は、長距離巡航型武装換装機“ピットキャリー”だ。
あれでオレは弾薬の補給や武装の換装をこなしてるんだ」
悠がディータに答えると、璃緒が悠に言う。
「お兄ちゃん、使うのはアタックブースターユニットでよかったんだよね?」
「あぁ。頼む」
悠が答え、ピットキャリーの上部ハッチが展開、現れた内部作業スペースへナイトドラゴンが着地する。
と、周囲の壁から作業アームが出てきて、ナイトドラゴンのバックパックに大型のブースターユニットを取り付ける。
「お兄ちゃん、ユニット換装完了!」
「オッ、ケイッ!」
璃緒に答え、悠は元気に言ってピットキャリーから飛び出し、
「よっしゃ、準備完了!
さっそく作戦宙域に出向くぜ!」
そして、ヒビキ達は悠の案内で暗礁宙域に急行、潜伏して敵艦隊を待ち受けていた。
「けど、敵がもう戦力を展開していたらどうするの?」
「いや、それはないだろうな」
心配そうにつぶやくディータに、メイアが答える。
「ヤツら刈り取りのメカは、モニターか自分達のレーダーに相手の反応を捕らえなければ戦闘態勢をとらない。
サイレントベースはまだヤツらのレーダー圏外だし、我々もジャミングで見えていないはずだ」
メイアが言うと、サイレントベースのコマンドルームで彼らの様子をトレースしているテンホウが通信してきた。
〈敵母艦、ジャミング領域に入りました〉
「了解だ。
いくぞ、作戦開始!」
メイアが叫び――ヒビキが声を上げた。
「待て、上だ!」
『――!?』
その言葉に、一同はとっさに散開し、
――ズビュアァッ!
上方から放たれたビームが、彼らのいた空間を貫く。
「くそっ、向こうも斥候出してやがったか!」
ヒビキがうめくと、
「あ、あれは!?」
ビームの主の姿を見つけたディータが声を上げた。
彼らの上方に佇む3体の伏兵、それは――かつてヒビキ達を苦しめた偽ヴァンドレッド達だったのだ。
「まったく、あいつらもとんでもないヤツをよこしてくれたわね!」
ジュラが言うと、
「大変よ、みんな!
母艦が!」
偽ヴァンドレッドから報せを受けたのだろう、こちらに向けてピロシキを次々に排出し始めた敵母艦を見て、バーネットが声を上げる。
「こうなってしまっては、ヤツがピロシキを出し終えるまでが勝負か……!」
「あぁ。さっさと片づけて母艦を叩くぜ!」
メイアの言葉に悠が答え、ヴァンドレッド・メイアとナイトドラゴンが偽ヴァンドレッド達へと突っ込む。
「これでもくらえ!」
悠が叫び、ナイトドラゴンが連続して火球を吐き放つ。
むろん、ただの火球ではない。ペークシスエネルギーによって超高温で燃焼するプラズマ火球である。
しかし、そのプラズマ火球も、偽ヴァンドレッド・ジュラのシールドによって防がれてしまう。
「くそっ、シールドかよ!」
ヒビキがうめくと、偽ヴァンドレッド・ディータがビームを放つ。
とっさにヒビキ達もビームをかわすが、
ドガァッ!
偽ヴァンドレッド・メイアのファイナルブレークがかすめ、ヴァンドレッド・メイアとナイトドラゴンがバランスを崩す。
「くそっ!」
うめいて、悠が制動をかけ、ヒビキとメイアも姿勢を立て直す。
「やってくれるじゃねぇか、あいつら……!」
「偽ヴァンドレッド・ジュラで防ぎ、他の2体で攻める、か……
特性を活かしたコンビネーションってワケかよ……」
悠とヒビキがうめくと、メイアが二人に言う。
「なら、まずはその連携から破るしかないな」
「あぁ。
母艦の戦力展開率20%突破。そろそろ決めなきゃヤバい……!」
悠の言葉にうなずき、メイアは一同に指示を出す。
「よし、私とヒビキは偽ヴァンドレッド・ディータをスピードでかき回す。
水上は偽ヴァンドレッド・メイアをパワーでねじ伏せてくれ。
ドレッドチームは、偽ヴァンドレッド・ジュラを頼む」
「けど、ドレッドの武装だけじゃ、あのシールドは……」
バーネットが言うと、悠が言った。
「ヒントをくれてやる。
面は線が集まってできる。
なら……線はどうやってできる?」
それだけ言って、悠は偽ヴァンドレッド・メイアへと突っ込む。
「線は何からできるか……?」
ジュラがつぶやくのを尻目に、ディータはずっと考え込んでいたが、
「――わかったぁっ!」
そう叫ぶなり、ディータは偽ヴァンドレッド・ジュラへとビームを連射する。
当然、偽ヴァンドレッド・ジュラもシールドを張って対抗するが、
「そう……シールドを張ったよね。
けど、ここならどう!?」
言って、ディータはさらにビームを放ち――シールド発生器のひとつを粉砕する!
「そうか! シールドがジャマなら、その発生元をツブしてやれば!」
「あの子、悠のヒントからちゃんと突破口見つけたじゃない!」
バーネットとジュラが言い、彼女達も偽ヴァンドレッド・ジュラのシールド発生器に一斉攻撃、次々に破壊していく。
「へっ、気づいたみてぇだな」
その様子を見ながら悠がつぶやくと、そこへ偽ヴァンドレッド・メイアが突っ込み――
――ズガァッ!
その突撃は、瞬時に人型へと変形したナイトブラスターに受け止められていた。
「つっかまえたぁ♪
さぁて、さっきの一発、万倍返ししてやらぁっ!」
ガガァッ!
ヴァンドレッド・メイアのファイナルブレークを受け、偽ヴァンドレッド・ディータの左腕が粉砕される。
「よぅし! こいつら1体ずつなら大したことないぜ!」
「しかし、もう時間はかけられない。
決定打に欠けるヴァンドレッド・メイアで叩けるか……!?」
ヒビキとメイアが言うと、悠が通信してきた。
〈ヒビキ、メイア! こっち落とせ!〉
見ると、力任せにウィングを引きちぎられた偽ヴァンドレッド・メイアとディータ達によってシールド発生器をすべて破壊され、丸裸にされた偽ヴァンドレッド・ジュラが、ナイトブラスターの腕のアンカーによって縛り上げられている。
「よっしゃ、任せるぜ!」
「受け取れ!」
ヒビキとメイアが答え、ヴァンドレッド・メイアは両足で偽ヴァンドレッド・ディータをつかみ、悠に向けて投げつけ、
「んじゃ、逝ってこぉいっ!」
悠も偽ヴァンドレッド2体を蹴飛ばし、偽ヴァンドレッド・ディータにぶつける。
「よっしゃ、仕上げだ!」
言って、悠は離脱し、ピットキャリーへと通信する。
「璃緒! 今すぐグリッドバスターを射出しろ!」
〈うん!〉
「ピットキャリー、展開!」
璃緒が叫ぶと、ピットキャリーの左舷甲板が展開され、小型のカタパルトになる。
「グリッドバスター、射出!」
璃緒が言ってボタンを叩き、カタパルトから一門のバスターキャノンが射出される。
「お兄ちゃん、いったよ!」
「おぅっ!」
璃緒に答え、悠は飛来したグリッドバスターを受け止める。
「これで終わりだ、バッタモン!」
言って、悠は偽ヴァンドレッドへ向けてグリッドバスターのトリガーを引き――
偽ヴァンドレッド達がひとつの火球に変わったのは、その数瞬の後のことだった。
「残るはてめぇだ!」
ヒビキが叫び、ディータのドレッドとヴァンドレッド・メイアがナイトブラスターと共に敵母艦へと突っ込む。
展開を終えている一部のピロシキやキューブが次々に攻撃をしかけてくるが、ヴァンドレッド・メイアはそのスピードで、そしてナイトブラスターは人型ならではのアクロバティックな動きでそのすべてをかわしていく。
「よし、このまま一気に決めるぞ!」
メイアが叫ぶと、エズラとテンホウが通信してきた。
〈みなさん、すぐにそこから退避してください!〉
〈敵母艦に超エネルギー反応。
おそらく主砲を撃つつもりです〉
「えぇっ!?」
「ヒビキ、ディータ、水上、離脱するぞ!」
二人の通信にディータとメイアが言うが、
「いや――このままいく!」
ヒビキはそこから動こうとしない。
「何言ってんだよ!
このままここにいたら、ヤツの主砲でやられちまうんだぞ!」
悠が言うと、ヒビキはキッパリと言い返した。
「このままヤツに主砲を撃たせたら、やられるのはオレ達だけじゃない!
その後ろにいる、サイレントベースも、エレメニアも……オレ達のニル・ヴァーナだってやられちまうんだ!
だから絶対……退くワケにはいかない!」
「ヒビキ……」
宣言するヒビキの言葉にメイアがつぶやくと、彼は続けた。
「それにな……向こうが主砲を撃つなら撃つで、そいつを利用してやりゃいい!」
『え……?』
次の瞬間、
ズドゴォッ!
敵母艦の放ったビームが、二体を包み込んでいった。
「ディータ!」
「ヒビキ!」
「メイア!」
「お兄ちゃん!」
バーネット、ブザム、ジュラ、璃緒が声を上げる中、主砲のビーム発射は続く。
と――
「――!? あ、あれは……!?」
テンホウがつぶやくと、メイア達のいた地点を境にビームが霧散し始める。
「な、何よ、あれ……!」
バーネットがつぶやくと、
――ブワッ!
エネルギーを吹き散らし、ナイトブラスターを上に乗せ、ディータのドレッドをつかんだヴァンドレッド・メイアが出現する!
「そんな、どうして……!?」
言いかけ――ジュラは気づいた。
彼らの目の前で、円錐状に展開された偏向力場が、敵主砲のビームを受け流し、同時にその一部を各機のエネルギーとして吸収しているのだ。
かつて、ニル・ヴァーナが最初に敵母艦と戦った時、ヴァンドレッド・ディータは恒星のフレアのエネルギーを吸収、エネルギーに変換した。それと同じ原理である。
「ったく、間に合わなかった時のことも、きっちり考えてあったのかよ、お前」
「ま、そういうこった!
間に合わなかった場合、相手が主砲を撃つのは確実だ。となれば、そいつを利用しない手はねぇだろ。
この方法なら、吸いきれないエネルギーは逃がせばいい。さほど負担じゃないだろ?」
ホッとしたようにつぶやく悠に、ヒビキが笑みを浮かべて言う。
「だからといって、ムチャをしすぎだ!
偏向できなかったらどうする気だったんだ!」
メイアが反論するが、ヒビキはキッパリと言った。
「へっ、そん時は、バリアがもってるうちにトンズラしたさ!
そんなことより、このまま突撃だ!」
ヒビキが言い、ヴァンドレッド・メイアは一気に加速し、ビームの中を敵母艦へと突っ込んでいく。
「よぅし、一旦外に出ようぜ!
UFO女と合体し直して、一気に決めてやるぜ!」
ヒビキが言うと、メイアが反論した。
「いや、このまま力場を使ってファイナルブレークをかける!
すでにピロシキが展開を終えている以上、敵中での分離は危険だ!
ディータと水上はファイナルブレークで敵母艦へ突入した後、ありったけの武装を撃ち込め!」
「了解!」
「O、Kっ!」
メイアの言葉に元気に答え、ディータと悠はトリガーを握り直す。
そして、
ズガァッ!
ヴァンドレッド・メイアは力場に包まれたまま敵母艦の主砲に突撃、そのまま内部に突入する。
「よっしゃ!
ディータ、撃ちまくれ!」
「はーい!」
悠に答え、ディータは彼と共に全火器を一斉発射。ヴァンドレッド・メイアはそのまま敵母艦の内部を突っ切っていく――
メイア達が敵母艦の最後尾から飛び出し、敵母艦が巨大な火球と化すのに、それから大した時間は必要としなかった。
それから、数日が過ぎた。
「いろいろ、世話になったね」
「いえ、こちらこそ、刈り取りの撃破に協力していただき、感謝しています」
言って、マグノと和輝が握手をかわす。
修理と補給の完了したニル・ヴァーナが、惑星エレメニアを旅立つ時がやってきたのだ。
その一方で、ヒビキ達は悠兄妹と話している。
「平和になったら、テンホウちゃんの星に遊びに行くからね。絶対だよ!」
「はい。私も待ってます」
別れの辛さに半泣き状態の璃緒に、テンホウが優しく微笑んで答える。
「ってことは、セットでオレも連れてかれるワケか」
「あぁ〜あ、何心にもないこと言ってるんだい」
「どーせ、あいつが嫌がっても強制連行して来るんだろーが。お前の場合」
わざとらしくボヤく悠をヒジで軽く小突き、バートとヒビキが笑って言う。
「そろそろ時間だ。
名残惜しいだろうが、船に戻るぞ」
言って、メイアが自分の荷物を持ち上げると、
「メイア」
悠が彼女を呼び止めた。
「……なんだ?」
「ひとつ、答えそこなってたことがあった」
聞き返すメイアに答え、悠は続ける。
「タワーでオレに聞いたよな? 戦う理由。
……見たいんだよ。みんなの笑顔をな。
だから、笑顔を奪う刈り取りは絶対に許さない。それだけだ」
「他人の笑顔、か……
立派な理由だな」
「そうでもないさ」
悠はメイアにそう言い、自嘲気味に肩をすくめ、
「オレが“見たい”から。れっきとしたオレの勝手な願望だよ。
人が何かする理由なんてそんなもんさ。自分がしたいこと、欲しいもの、見たいもののために行動して、その逆のためには動かない……そんな自分の望みに忠実なだけさ。
だから……お前にも、もう戦いを選んだ理由はあるはずだ。自分が自覚してないだけでな。
なら、後はそれを見つければいい。自分に戦う理由があるか、なんて悩まねぇこった」
そして、悠はメイアに言った。
「……またな」
「あぁ……またな」
「気持ちのいい連中だったね」
「えぇ。本当に……」
ブリッジから小さくなっていくエレメニアを見つめ、マグノとブザムが言う。
「なんか……あいつらとはこれでお別れって気がしねぇよな」
ヒビキがつぶやくと、メイアがそれに答えた。
「少なくとも……水上はこれでお別れとは思っていなかったぞ」
「リーダー、どうしてわかるんですか?」
ヒビキをはさんだ向こう側から尋ねるディータに、メイアは笑って、
「別れ際、ヤツは何て言っていた?」
「え? 『またな』って……」
「あぁ。『またな』だ。
『さよなら』じゃ、なかっただろう?」
そして、メイアは小さくなっていくエレメニアへと視線を移し、
「そう……きっとまた会える。
お前のような男が、素直に星の上でじっとしているとは思えないからな。
その時を、楽しみにさせてもらうぞ」
そして、『その時』は意外と早く訪れるのだが……それはまた、別の話である。
(初版:2001/05/07)
(第2版:2003/05/20)