#S01
「再会の空」

 


 

 

 ここ数日、ニル・ヴァーナは平和だった。
 敵の襲撃もなく、クルー達は久々に訪れた安息の時を思い思いに過ごしていた。

「さて、これでよし、と……」
 言って、ヒビキは蛮型の腕の外装を閉じる。
 と、
「宇宙人さぁん♪」
 いつものようにディータがやってきた。
「また相棒さんのチェック?」
「まぁな。
 敵がこねぇうちに、しっかり仕上げておいてやらねぇとな」
 ヒビキがディータに答えると、
 ピーッ、ピーッ!
 いきなり蛮型のコックピットの通信機がコール音を立てる。
「……なんだ……?」
 ヒビキがコックピットに入って通信に応答すると、
〈やはりそこにいたか〉
 モニターに現れたのはブザムだった。
「なんだ、あんたかよ」
〈ヒビキ、ヴァンガードは出せるか?〉
「何だよ、出撃か?」
 ブザムの言葉にヒビキが尋ねるが、
〈いや、違う。
 実は、すぐそばの暗礁宙域から救難信号をキャッチした。
 メイア達がシャトルで救出に向かうことになったのだが、敵の用意したワナの可能性もある〉
「……で、オレにシャトルの護衛をしろってか……」
〈そういうことだ。
 行ってくれるか?〉
 ブザムの問いに、ヒビキは少し考え、
「5分くらい時間くれ。
 相棒の整備してたから、後片づけしなきゃならねぇんだ」

 そして、ヒビキとディータはメイア、ジュラ、バーネットと共に、問題の暗礁宙域へと向かった。
「それにしても、こんなところで誰がSOS出してるのかなぁ?」
「そうよね。近くに星らしい星もないし……」
 シートに座って、ディータとジュラが話していると、
「おそらく、我々と同じ旅の者だろうな」
 メイアが深刻な表情で答える。
「どうしたのよ? そんなマジな顔しちゃって」
 バーネットの問いに、メイアは表情を崩さず、
「……気になるのは何者か、よりも……」
〈なんで救難信号を出すハメになったのか、だろ?〉
 メイアのつぶやきに、モニター画面に現れたヒビキが言う。
「地球の刈り取り艦隊に襲われた可能性もある。
 やはり我々もドレッドで出た方がよかったかもしれない」
〈ま、今さら言っても始まらねぇだろ。
 敵が近くにいないことを祈っとけよ〉
 ヒビキがメイアに答え、彼らは暗礁宙域に入る。
「そろそろ見えてくるわよ……」
 バーネットが言うと、突如アステロイドで覆われていた視界が開けた。
 そして、そこにあった船体は、彼らの見知ったものだった。
『ピッ、ピットキャリー!?』
 そう。それはかつて、惑星エレメニアで共に地球艦隊と戦ったエレメニア宇宙軍の機体、武装換装機ピットキャリーだったのだ。

 ――プシュゥ……
 ドアを開け、ピットキャリーに乗り移ったヒビキ達はコックピットに入る。
 と、そこには彼らの見知った、ついでに言えば予想通りだった二人の人物が倒れていた。
 エレメニア宇宙軍対刈り取り部隊のパイロット、水上悠と、その妹でこのピットキャリーのパイロットでもある水上璃緒である。
「悠! 璃緒!
 おい、しっかりしろ!」
 ヒビキが悠を抱き起こすと、気がついた悠がゆっくりと目を開け、
「……ヒ、ヒビキ……か……!?」
「おい、何があった!? 誰にやられた!?」
 うめく悠にヒビキが言うと、
「は……」
『は?』
「……腹、へった……」

 間。

「悠、てめぇはぁっ!」
「やめなさいって、ヒビキ!」
「宇宙人さん、落ち着いて!」
 拳を振り上げてわめくヒビキを、バーネットとディータが必死でなだめる。
「許せるかっつーの!
 せめて一発殴らせろぉっ!」
 などと大騒ぎのヒビキ達から視線を移し、ジュラは床に放り出された悠に尋ねた。
「あんた達……空腹で倒れてたワケ?」
「もう2週間、なんも食ってねぇよぉ……」
 そんな彼らを見てため息をつき、メイアはマグノに連絡すべく通信機のスイッチを入れた。

 悠達と彼らが出会ったのは、ヒビキ達が刈り取り艦隊の母艦のひとつを撃破してそれほど経っていない頃、惑星エレメニア近宙でのことだった。
 悠もまた、ヒビキやディータ達と同じく暴走したペークシスに取り込まれた経験を持ち、ドラゴン型ロボ“ナイトドラゴン”が変形するヴァンドレッド、“ナイトブラスター”に乗り込んで刈り取りに対抗していたのだ。
 そして、彼らは互いに協力し、攻撃を仕掛けてきた新たな敵母艦を撃破することに成功したのである。

「つまり、キューブ部隊との交戦中、ピットキャリーの食料庫に被弾して、食料がすべて流出してしまった、と……」
ほぁああぁ
 事情を聞いて言うブザムに、どんぶりに山盛りのドライカレーを口の中にかき込みつつ悠がうなずく。
 となりでは、悠ほどの量ではないが、やはり璃緒が2週間ぶりの食事に全力でありついている。
 ニル・ヴァーナに収容された二人はここ、カフェテラス“トラペザ”に直行、まさに台風のような栄養補給に励んでいた。
「ふぅっ、食った食った。ごちそーさん♪」
 言って、悠がどんぶりを下ろすと、ヒビキが尋ねた。
「にしても、なんでお前らがこんな所にいるんだよ?」
「ンなの決まってるだろ」
 ヒビキに答え、悠はテーブルに備え付けの爪楊枝を1本もらい、
「お前らに追いつくつもりが、いつの間にか先回りしちまってたんだよ」

 悠の話はこうである。
 マグノ達がエレメニアから旅立ったしばらくの後、再び刈り取り母艦が近宙に現れた。
 元々エレメニアは通りかかっただけらしかったこともあり、マグノ達と共に行った電撃作戦の応用でなんとか撃退することに成功したものの、母艦を沈めるには至らなかった。
 事態を重く見た軍部は、反刈り取りに賛同している各惑星の連携を強め、さらにより多くの殖民星を仲間に加えることを決定。その手始めとして、メジェール星系への使者として、マグノ達と面識のある 悠と璃緒に白羽の矢が立ったのである。

「そっか……またそっちに出やがったのか……」
「あぁ。敵のそれまでの航路から推測すると、ヤツらはメジェール星系を目指していた。
 敵がメジェール星系を最優先ターゲットとして、続々と集結しつつある証拠だ」
 話を聞いてつぶやくヒビキに、悠が答える。
「だからね、あいつらとの戦いに、みんなの力を貸してほしいの。
 お願い。メジェールまで連れてって」
「ふーむ……どうしたものか……」
 璃緒の言葉に、ブザムは息をついて考え込む。
 彼女が考え込むのも当然だ。悠達の故郷エレメニアで補給を受けてはいるが、何が起こるかわからないこの旅路において、決して物資に余裕があるとはいえない。
 その状況下で、共に戦った仲間とはいえさらにクルーが増えるというのは、合理的な考え方をするブザムにとっては頭の痛い問題であった。
 だが――
「いいだろう。一緒に行こうじゃないか」
 あっさりと承諾するのはマグノである。
「お、お頭……」
「どうせ目的地も敵も同じなんだ。だったら、お互い協力していった方がより安全ってもんだろ」
 反論しかかったブザムにそう答え、マグノは悠達に向き直り、言った。
「けどね、うちのモットーは『働かざるもの食うべからず』だ。
 うちの船に乗るからには、普段からきっちり働いてもらうからね」

 そんなワケで……
「いーよな、お前は仕事場選ばせてもらえることになって。
 オレだって相棒の整備、いつでもやれるような仕事につきてぇぜ」
「仕事の合間に人にグチこぼすためだけにここまで来てるクセして何言ってるかなお前は」
 ナイトドラゴンのコックピットの脇でぐちるヒビキに、そのコックピットから顔を出した悠は一息でツッコミを入れてやる。
「こんなトコまで来れるんなら、整備くらいできるだろ。
 それにお前、今日はもうすぐ仕事終わりだろ? シフト見たぞ」
「そーゆー問題じゃねぇって。
 どーせやるなら、一番やりてぇ仕事につきてぇじゃんか」
「……ま、それもそーだけどな」
 ヒビキの言葉に答え、悠はコンソールのフタを閉じる。
「よし、今日のノルマ終わり♪
 ヒビキ、オレぁメシ食いに行くけど、お前はどうする?」
「お、いいな。オレも行くぜ!」
 悠の言葉にヒビキが賛成すると、
「宇宙人さぁん♪」
「のわぁっ!?」
 いきなり後ろからディータに飛びつかれ、ヒビキは押し倒されそうになりながらもなんとか踏みとどまる。
「こっ、こら! そーやって不意討ちすんじゃねぇっていつも言ってんだろ! 危ねぇだろ!」
「ご、ごめんなさぁい……」
 ヒビキに言われ、ディータは思わずシュンとして答える。
「……なるほど、こっちは相変わらずの関係か……」
 悠が思わず納得してつぶやき――突然の警報が、彼らの平穏の時を打ち砕いた。

「敵か!?」
「はい!
 ピロシキ型5、こちらに向けてキューブタイプ、鳥型を排出しながら接近中です!」
 声を上げるブザムに、ブリッジクルーのひとり、アマローネが答える。
「総員、戦闘配備!
 ドレッドチーム、出撃!」
 マグノが言うと、テンホウが報告する。
「ヴァンガード、ナイトドラゴン、ディータ機、先行して発進します」
「ヒビキ達が?」
「どうやら、また格納庫にいたらしいね、あの子達」
 聞き返すブザムの言葉に、マグノはやれやれといった感じでつぶやいた。

「助けてもらった恩返し、さっそくさせてもらうとすっか!」
 言って、悠はナイトドラゴンを加速させ、
「この程度の相手、変形しなくても!」
 ナイトドラゴンの腕の爪“ドラゴンクロー”で間合いに入ったキューブを次々と粉砕する。
 さらに、ナイトドラゴンが口から吐き放つプラズマ火球“ナイトブラスト”が鳥型キューブ・ドラゴンフライのフォーメーションをかき乱す。
「よっしゃ、オレ達もいくぜ!
 他の連中が来るまでは数で負けてる! デカブツは悠に任せて、オレ達は合体せずに各個撃破でいくぜ!」
「うん!」
 ヒビキの言葉にディータが答え、二人は散開してキューブを叩きにかかる。
 ニル・ヴァーナに乗り込んだばかりの頃は先走ることの多かったヒビキだったが、航海の中での様々な体験を通じて、他者と協力することもできるようになってきていた。
 また、ディータもディータで、ヒビキとの幾度かのトラブルを通じて、自分の身勝手な気持ちの押し付けは相手の迷惑になる事を悟り、必要に応じてヒビキやみんなの意見を尊重することも覚え始めていた。
 ペークシスの暴走に端を発した彼らの長い旅は、ヒビキ達を確実に成長させていたのである。

「我々も急ぐぞ!
 キューブはまだ排出され続けている。すぐにヒビキ達も支えきれなくなるぞ!」
「わかってるわよ!」
 メイアの言葉にジュラが答え、二人がそれぞれのドレッドへと乗り込む。
 と――
〈――ドグンッ――!〉
『――!?』
 突然、得体の知れない“何か”を感じ取り、二人は動きを止めた。
「……なんだ……? この感じは……」
「なんだかわからないけど……すごくイヤな感じ……!
 メイア、急ごう!」
「あぁ!」

「よっしゃ、このまま一気にいくぜ!」
「はーい!」
「あぁ!」
 キューブをブレードで斬り捨てたヒビキの言葉にディータと悠が答えると、
〈――ドグンッ――!〉
『――!?』
 メイアとジュラの感じ取ったのと同じ“何か”を、彼らもまた感じ取った。
「なっ、なんだ……!?」
 ヒビキがつぶやくと、
「グァオォォォォォッ!」
 突然大きく咆哮し、ナイトドラゴンが急加速、敵の攻撃を振り切ると勝手に人型形態“ナイトブラスター”へと変形する。
「どっ、どうしたんだよ!? ナイトドラゴン!」
 悠が声を上げると、
〈前線の3機、気をつけろ!〉
 突然ブザムが通信してきた。

「レーダーに新たな敵の反応がキャッチされた。
 照合の結果、敵であることは確認されたが、エネルギーの波形パターンが今まで確認されたどの敵タイプとも一致しない。油断するな!」
 ブリッジから通信回線を開き、ブザムがヒビキ達に言う。
 と、そこへ悠から通信が入り、彼の顔がモニターに映し出された。
〈おいっ、それって……こんな波形じゃなかったか!?
 今からデータを送る!〉
 悠の言葉と同時、モニターの横のデータ表示欄に波形パターンが表示される。
「テンホウ、照合してくれ」
「了解」
 ブザムの言葉に答え、テンホウはデータを受け取り、レーダーが捕らえた相手のデータと照合し、
「……波形パターン、一致しました」
「悠、なぜデータを持ってる?」
 ブザムの問いに、悠は真剣な顔をして、
〈そいつらなんだよ! ピットキャリーに攻撃当てて食料全部フイにしたヤツらは!〉
「……あぁ、そうか……」
 いかにも悠らしい、独特な判断基準を聞かされ、ブザムはあきれてそう答えるしかなかった。

「ヒビキ、ディータ、気をつけろ!
 敵の新型が来るぞ!」
「新型だって!?」
 悠の言葉にヒビキが声を上げると、
「来た! たぶんアレだよ!」
 戦闘宙域に侵入してきた新たな敵の一団を見て、ディータが二人に言う。
 それは、蛮型よりやや大きめで、上下が逆さになった四角錐のような形の頭部を持ったキューブタイプと、エイを思わせる平たい三角形の板のような形状のピロシキ級母艦であった。
「へっ、こっちの強さにビビッて新型のご登場ってワケかよ!
 おもしれぇ、相手したらぁっ!」
「待て、ヒビキ!」
 言って、敵の新型部隊へと突っ込もうとしたヒビキを、悠が止める。
「なんで止めんだよ!?」
「一度戦ったことがあるからだよ!」
 抗議するヒビキの言葉に、悠は真顔で言い返す。
「キューブクラスはいいけど、あのエイの火力はシャレにならねぇ! うかつに突っ込むな!」
「へっ、どんな相手だろうと、ビビッてられっかよ!」
 悠の言葉にヒビキが言い返すと、
「何をしている! 来るぞ!」
 先陣を切って戦場へと飛び込んできた白亜のドレッドのコックピットで、メイアが声を上げる。
 その言葉にヒビキと悠が見ると、エイ型の翼端に赤い光が生み出され――
 ――ズォビッ!
 放たれた赤い閃光が、ヒビキ達に向けて宇宙空間を疾駆する!
「くそっ!
 ナイトテリトリー!」
 悠が叫ぶと、ナイトブラスターが左手を迫り来る閃光に向けてかまえ、その手を中心に青白いバリアが展開される。
 空間を歪め、相手の光学兵器を反射する偏向力場“ナイトテリトリー”である。
 そして――
 ズドゴォッ!
 エイ型の放った赤い閃光がナイトテリトリーに衝突。すさまじいエネルギーの奔流が巻き起こる!
 赤い閃光のエネルギーを、ナイトテリトリーが反射しきれずにいるのだ。
 しばし、両者のエネルギーが拮抗し――くすぶっていたエネルギーが弾け、無数のビームとなって周囲のキューブを次々に薙ぎ払っていく。
「なっ、なんて火力だよ、あいつ……!」
「これで、わかっただろ……!」
 うめくヒビキに、悠が左手を押さえて言う。
 その悠の様子にヒビキが見ると、ナイトブラスターの左手がさかんにスパークしている。敵の赤い閃光を防いだナイトテリトリーの過負荷で、回路のいくつかが焼き切れたのかもしれない。
「最大出力のナイトテリトリーでさえこのザマだ。
 蛮型の装甲なんて、あいつの前じゃ紙切れ同然だぞ」
「けど、だったらどーしろっつーんだよ!
 このまま何もしなかったら、どっちにしろやられちまうんだぞ!」
 ヒビキが言うと、悠は苦笑して、
「バーカ。頭を使えって言ってんだ。
 メイア、こっちに回れるか!?」
「何をするつもりだ!?」
 悠の問いに、キューブの攻撃をかわしながらメイアが聞き返す。
「ヒビキと合体だ!
 少しの間だけでいい。あのエイを引き付けておいてくれ!」
 言って、悠は機体を反転させ、その場から離脱する。
「お、おい、悠!」
 ヒビキが声を上げるが、
「何をしている、ヒビキ!
 水上の考えに賭ける! 合体するぞ!」
 言って、メイアのドレッドが突っ込んでくる。
「ちぃっ、仕方ねェか!」
 うめいて、ヒビキはメイアのドレッドと接触。放たれた光の中で白亜の怪鳥、ヴァンドレッド・メイアへと合体をとげた。
 と、それに気づいたエイ型は次なる目標をヴァンドレッド・メイアへと定め、翼端に再び赤い光を生み出す。
「気をつけろよ!
 あの光、なんかヤバい!」
「同感だ!」
 ヒビキの言葉にメイアが答え――エイ型が無数の赤い閃光を発射する!

「璃緒!」
「はいはい、待ってました!」
 声を上げる悠に答え、璃緒はピットキャリーの上部ハッチを展開。整備基地モードに変形させて悠のナイトブラスターを招き入れる。
「左手の修理は後回しだ!
 グリッドバスターをスナイプモードで頼む!」
「スナイプモードで?
 ……うん! わかった!」
 悠の言葉に、璃緒は怪訝な顔をしながらもコンソールを操作し、ナイトブラスターにグリッドバスターを渡す。
 その銃身には悠の注文通り、精密射撃用のロングバレルと長距離サイトスコープが装着され、狙撃スナイパーライフルとして使えるようになっている。
 そして、悠はドレッドチームの各機へと通信し、
「みんな! デカブツは後回しにして、とにかくキューブタイプの数を減らしてくれ!
 特に、新型キューブを最優先だ!」
〈どうするの?〉
「まずはあのエイを叩く!
 そのためには、ザコの数を減らしてもらう必要があるんだ!」
 尋ねるジュラに答え、悠はエイ型に向けてグリッドバスターをかまえた。

「くそっ、こいつ、調子に乗りやがって!」
 エイ型の放つ無数の赤い閃光をかわしつつ、ヒビキが憎々しげに毒づく。
「水上……! 何を考えている……!」
 メイアもつぶやき、さらに放たれた閃光の雨の範囲から逃れる。
 一方、キューブタイプは、ジュラ達によってみるみるうちにその数を減らされていく。
 だが、いくらキューブが減っても、ピロシキからいくらでも排出される。
 現に今も、ピロシキ型はキューブがやられたそばからさらに新たなキューブを排出してきている。
 そして、それはエイ型も例外ではなかった。
 自らが放った新型キューブが数を減らしてきたことに気づき、メイアとヒビキへの攻撃を続けたまま反転、戦場に向けてキューブを排出すべくその口を開いたのだ。
 と――それを見て笑みを浮かべた人物がいた。
 悠である。
「へっ……そいつを、待ってたんだ!」
 言って、悠はこちらへと向けられたエイ型の口に向け、グリッドバスターを発射する!
 グリッドバスターから放たれた閃光は戦場を貫き、狙いたがわずエイ型の口の中に現れた新型キューブの塊を直撃、その口腔内に大爆発を巻き起こす!
 さすがのエイ型もこれはたまらない。爆発はいともたやすく内部の装甲を焼き尽くし、その体内を炎で包み込んでいく。
「へっ! 近づけないなら間合いの外から!
 離れてビームが減衰するなら、それでも効果の出るトコを狙えばいい!
 さぁてメイア、ヒビキ! さっさとトドメを刺しちまえ!」
「あぁ!」
「おぅよ!」
 悠の言葉にメイアとヒビキが答え――ヴァンドレッド・メイアのファイナルブレークがエイ型を粉砕した。

「悠さん、左手は大丈夫?」
「あぁ。ナイトブラスターの左手回路のダメージが、筋肉痛って形でリンクしただけだ。
 ほっときゃそのうち治るだろ」
 心配そうに尋ねるディータに、悠は答えて左手をピシャリと叩き――
「いだだだだ……」
「今痛いのは変わらないのに調子に乗るから……」
 痛がる悠を見て、バーネットがあきれてつぶやくと、
「……あれ?」
 悠の眼下――ピットキャリーのコックピットで璃緒が首をかしげた。
「どうしたの? 璃緒」
「なんか、レーダーに微弱な反応が……」
 ジュラに答え、璃緒は反応を解析し、
「……これ、救難信号だよ。
 パターンは旧殖民船時代のもので、出力とサイズから考えて……小型ポッドクラスだよ、たぶん」
「小型ポッドが、こんな宙域にプカプカ漂ってたってのか?」
 メイア機と分離して戻ってきたヒビキが尋ねると、悠は少し考えて、
「もしかして……オレ達が今回の敵と会ったのって、単なる偶然だったのかもしれない……」
「どういうこと?」
「だってそうだろ? この辺に刈り取るような星なんてないし、連中の勢力圏からも外れたところにいる。
 そんな制空権のないようなところで、あの程度の部隊で攻撃してくるほど、連中の学習能力は低くないぜ」
 聞き返すバーネットに、悠が答える。
「確かに……
 では、お前はヤツらが別件で行動していたところに、偶然私達が出くわした、そう言いたいのか?」
 メイアの問いに、悠はうなずいて璃緒に言った。
「璃緒、とにかくポッドの回収だ。
 こんなへんぴな所でヤツらが狙うようなものって言ったら、他に心当たりないからな」
「はーい!」

「それで……回収したポッドっていうのは?」
「あぁ、ピットキャリーの中だよ」
 ニル・ヴァーナに戻り、さっそく出迎えたパルフェにヒビキが答える。
 と、璃緒がピットキャリーの倉庫スペースのハッチを開け、自動台車に乗せたポッドをこちらへと運び出す。
「どれどれ……?」
「どう? なんとかなりそう?」
 調べ始めるパルフェにディータが尋ねるが、
「……難しいわね。
 これ、旧世紀のパスワードシステムじゃない。
 レトロすぎて簡単には調べられないわよ」
 パルフェが困ったように頭をかきながら言うと、
「どれ、ちょっと代わってみ」
 言って、悠がパルフェに代わってポッドのシステムコンソールに向かい、
「……このタイプなら、実家でずいぶんといじり込んでたぜ。しかもシステムの電源も生きてる……
 よっしゃ、これならなんとかなりそうだ。ちょっと待っててくれ」
 言って、悠は慣れた手つきでキーボードを操作していく。
「すごいね、こんな旧式、よく扱えるわね」
「実家に、じっちゃんが地球から持ち込んだアンティークのガラクタがいっぱいあったからな。
 興味を持っていくつかいじってるうちに、殖民船時代以前の小型機械はだいたい扱えるようになっちまってたんだ」
 パルフェに答え、悠が最後にキーボードのエンターキーを叩き――
 ――プシュゥ……
 蒸気を噴出し、ポッドはゆっくりと開いていく。
 そして、その中から現れたのは――
「――救命……ポッド……?」
 ディータのつぶやいた通り、中から現れたのはラグビーボール状の救命用コールドスリープカプセルだった。
「悠くん、どう……?」
 パルフェの問いに、悠はカプセルを調べ、
「……全システム正常、生体反応にも異常なし。とりあえず、中のお方はご無事のようだね。外装の歪みもないから、問題なく開けられそうだ。
 けど……外のポッドの様子を見た限り、相当長いこと漂ってたみたいだな……1年や2年でつく汚れじゃねぇぜ、これ」
 そして、悠は振り返り、誰に言うでもなく頼んだ。
「なぁ、誰かドクター呼んできてくれよ。それだけ長いこと眠ってたとなると、起こした後はあの人の出番になりそうだ」

「私達の力が必要かもしれないそうだな」
 ドゥエロとパイウェイがパルフェに艦内通信で呼ばれてやってきたのは、それからすぐのことだった。
「あぁ。
 ちょっとデータを引き出して調べてみたんだけど、少なくとも50年以上宇宙を漂ってたのは確かだね」
「……なるほど。それだけの期間冷凍睡眠していたとなると、生命は維持できていても身体に異常が起きている可能性がある、と……」
「そういうこと。
 オレとしては、こいつを作った星の人達がちゃんとしたコールドスリープ技術を持っててくれることを祈るだけだよ」
 悠がドゥエロに答え、あらかじめ調べておいたパスワードを入力する。
 と、システムが起動し、カプセルの中からカチャカチャと音が聞こえてくる。
「……おい、大丈夫なのか? なんかカタカタ言ってんぞ」
「中で物理的にかかってる鍵を外してるだけだよ。
 オレがメイン電源を立ち上げた時点で解凍処理も始まったはずだし、開けばすぐに目覚めるはずだ」
 悠がヒビキに答えると、
 プシュウゥゥゥゥゥッ……
 ゆっくりとカプセルが開き、隙間から冷気がこぼれ出す。
「何ナニ? どんな人が入ってるの?」
「まだ見えないわよ。少しはじっとしてなさい」
 はしゃぐディータをバーネットがたしなめると、冷気がうすれ、中にいた人物がその姿を現し――
「……女の子……?」
 それが、まだ幼さの残った少女だと気づき、ジュラが思わずつぶやく。
「刈り取りから逃がしてもらったのかな?」
「今んトコ、一番ありえる話だな」
 悠が璃緒に答えると、
「……ん……んんっ……」
「あ、気がついたぜ」
 うめき声を上げた少女に気づき、ヒビキが思わず顔を近づけ――
 ――ヒョイッ。
 悠がヒビキのエリ首をつかみ、まるで猫でも扱うかのように引き戻す。
「ってオイ、何すんだよ!」
「初対面の女の子に、いきなり顔近づけるヤツがあるか。失礼だぞ、ソレ」
「……そうなのか?」
 悠の言葉にヒビキが思わず尋ねると、少女はゆっくりと目を開き――まず、真正面に立っていた悠と彼につかまれたままのヒビキが視界に入ったようだ。二人に向かって、弱々しい声で尋ねた。
「……あなた……達は……?」
「あっと、オレはヒビキ。ヒビキ・トカイだ」
 悠の手の下でヒビキが答えると、少女は静かに、
「あたし……は……ミス……テ…ィ……」
 それだけ言うと、少女は再び気を失った。
「ミスティ……それが名前か……
 けど……一体こいつの身の上に、何があったってんだ……?」
 少女を見下ろしてつぶやき――ヒビキは悠に言った。
「ところで悠」
「ん?」
「いい加減下ろしやがれ」
「あぁ、すまん」

 to be continued……


Next Episode Digest

「こいつぁまた、とんでもないトコからのお客さんだぜ。
 ……冥王星だよ。この娘の実家」

「みなさんに、受け取ってほしいものがあります」

「こいつぁ……カウンターウィルス!?
 くそっ、プロテクトだけだと思って、完全に裏をかかれた!」

「戦うことはオレ達だけでもできる!
 けど、あのパスワード解析は、悠にしかできないんだ!
 だからオレ達は……意地でもあいつらを守るんだ!」

 Next Episode It's――
#S02「蘇る少女」


 

(初版:2001/12/14)
(第2版:2003/06/20)