#S03
「“力”と“資格”」

 


 

 

「はい、これで全部だよ」
 言って、ガスコーニュは集めた資材のリストを悠に渡す。
「けど、どうするんだい? こんな廃材」
「まったくだぜ。
 必死こいて探したこっちの身にもなれってんだ」
 ガスコーニュとそのとなりですっかりへばっているヒビキの問いに、悠はリストに目を通しつつ、
「んー、オレ達の部屋、リフォームしようと思ってさ」
「『りふぉーむ』?」
「あんたらの言葉でいうなら、『改装』ってトコかね」
 悠に聞き返すヒビキに、ガスコーニュが説明する。
「お前らだって、いつまでも監房暮らしで納得いってるワケじゃないだろ?
 けど、この船の空き部屋事情を考えると、そう簡単に引っ越せもしない。何しろ一番近い空き部屋でも2ブロックは隔たってるからな。
 なら、答えは簡単。今の部屋をより快適にしてやりゃいい」
 悠が言うと、ヒビキが半眼で尋ねる。
「……簡単に言ってくれやがるがよ、それぁ誰がやるんだ?」
「2週間くらいとなりの監房に引っ越してろ。後はオレがやってやる」
 悠がそう答えると、
「ヒビキィッ♪」
 元気な声と共に、ヒビキに飛びついてきたのはディータ――ではなくミスティ。
「あれ、ミスティじゃん」
「あら悠さん、こんにちは♪」
 つぶやく悠に気づき、ミスティは元気にあいさつを返してくる。
 一方、抱きつかれたヒビキの方はたまらない。元々こういった行動に免疫があるワケではないのだからなおさらである。
「だぁぁぁぁぁっ! いきなり飛びつくなっつーの!」
「えー? いいじゃない。
 ねぇ、一緒にご飯食べに行こう!」
「知るか! オレはひとりで食う!」
 言って、ヒビキはミスティを振りほどこうとするが、ミスティはしっかり抱きついていて離れない。
「おい、悠! なんとかしてくれ!」
 そんなミスティに対し、自力での抵抗をあきらめたヒビキは悠に助けを求めるが、
「さーて、パルフェに工具借りに行かないと♪」
「逃げんなぁぁぁぁぁっ!」
 そそくさと資材格納庫から出てにげていく悠に、ヒビキが絶叫した。

「ふー、人を巻き込むなっつーんだよ、あいつも……」
 ため息混じりにつぶやき、パルフェから工具を受け取った悠は監房へと戻ってきた。
 すでにリフォームの準備が完了している自室から工事を始めることにしたのだ。
「さて、さっそく……」
 悠がつぶやき――
「宇宙人さぁん♪」
 元気な声と共に、ディータがやってきた。
 その手には手料理の乗せられたトレイがある。おそらくヒビキに食べさせてあげるつもりで作ってきたのだろう。
「あれ、ディータ……?」
「悠さん、宇宙人さんは?」
「あぁ、ヒビキならミスティから逃げ回って……」
 言いかけ――悠はふと口をつぐんだ。
 ミスティの名が出たとたん、ディータの表情が沈んだのに気づいたからである。
 そんなディータに、悠はため息をついて言った。
「……待ってろ。茶でも煎れてやる。
 気になるんだろ? ヒビキとミスティのこと」

「最近、宇宙人さんと話せてないの……」
 悠の自室に指定された監房で、彼の煎れてくれた麦茶を飲みながら、ディータが悠にこぼす。
「あの子ってば、宇宙人さんにずっとベッタリ。
 なんだか、すごくずうずうしいよ……」
「ずうずうしい、か……確かにそうかもな」
 ディータの言葉に同意しつつ、悠はディータに向けてしっかりした口調で告げた。
「けど……あいつはあいつで、自分にできる精一杯のことでヒビキと仲良くなろうとしてんだよ。お前と同じようにな」
「だけど……」
「不安なのはわかるが、それでそんなふうに沈んでたら、お前らしくなくなっちまうぜ。
 いつも明るさを失わないのが、お前のいいところだろ。
 ヒビキをミスティに取られたくないなら、それを最大限に活かすことを考えるんだな」
「……うん……そうだね。
 ディータがんばる! ミスティなんかに負けないんだから!」
 悠の言葉に、ディータがいつもの調子を取り戻して言い――
「――――――!?」
 悠は突如として得体の知れない悪寒を感じた。

「――――――!?」
 悪寒を感じたのは、悠だけではなかった。
 ブリッジでアマローネ達ブリッジクルーに自分達の機体データを見せていた璃緒もまた、同様の悪寒を感じていた。
「どうしたの?」
「……すごく……イヤな感じがする……
 こないだの新型と同じような……けど、それ以上にイヤな感じ……」
 尋ねるベルヴェデールに璃緒が答えると、
「前方に反応! 長距離サーチの限界距離ギリギリのところに敵です!」
 長距離レーダーの反応に気づき、アマローネが声を上げる。
「ドレッドチーム、出撃準備!」
 ブザムが指示を出すかたわらで、マグノはひとりつぶやいた。
「……あの子達は……敵の接近を感知できてるっていうのかい……?」

「おら、放せって! 敵が来てんだよ!」
 警報の響く中、ヒビキはミスティを振り払って格納庫へと急ぐ。
 と――
「宇宙人さん!」
 声を上げ、そこへディータが悠と共にやってきた。
「おめぇらも来たか。
 よっしゃ、いっちょ暴れてやろうぜ!」
 ヒビキが言うが、悠は真剣な表情で告げた。
「油断するなよ。
 今度の敵からは、妙な気配がする……今までのヤツらとは、どっか毛色が違うみたいだ」
「毛色が……?」
 悠の言葉に、ヒビキは怪訝な顔で聞き返す。
 が、悠のこの感覚には何度も助けられている。信用しても問題ないだろう。
「……ってことは、敵さんも確実に新しい段階に進みつつあるってことか……」
「そういうことになるな。
 とにかく、敵の正体がつかめるまでうかつな行動は控えようぜ」
「おう」
「うん」
 悠の言葉に、ヒビキとディータがうなずいた。

「……話はわかった。
 確かに、水上の感覚は信用ができる。それに今回は璃緒も同様の感覚を感じたと言っていた。用心しておくべきだろう」
「璃緒ちゃんも?」
 出撃し、ヒビキの話に答えるメイアの言葉にディータが聞き返す。
「ねぇ、あんた達って何なのよ?
 敵の接近を感知できたり、変な敵がいることまでわかっちゃったり」
「んー、まぁ、説明しようとすると長いから、今度機会があったらな」
 尋ねるジュラに悠が苦笑いしながら答えると、
「――来た!」
 前方に見え始めたピロシキ型の一団を確認し、メイアが声を上げる。
「……なんだ、新しい敵なんていねぇぜ、いつものピロシキだけじゃねぇか」
 ヒビキが言うが、通信モニター上の悠の表情は険しい。
「……悠?」
 ヒビキが尋ねると、
「……いや、いる……!」
 悠がつぶやくと同時、ピロシキの一団が左右に分かれた。
 そして、その背後に控えていたひとつの機影が、ゆっくりと前に出てくる。
 ヴァンドレッド・ディータによく似た――漆黒のヴァンドレッドである。
 偽ヴァンドレッド・ディータではない。デザインが微妙にちがうし、何よりキューブが合体してできたことを示す継ぎ目がどこにもない。
 つまり――完全なワンオフ機だということだ。

「……あれが……璃緒ちゃん達の感じた敵……?」
「なんだ、ただの偽ヴァンドレッドじゃない」
 ブリッジで新たな敵の姿を見て、エズラとアマローネが言うが、
「……違う……」
 璃緒はポツリとつぶやいた。
「違う……? どういうこと?」
 ベルヴェデールが尋ねると、璃緒は言った。
「……ニセモノなんかじゃない……
 あいつも……正真正銘のヴァンドレッドだ……!」
「なんだと……!?」
 璃緒の言葉に、ブザムは驚愕しつつ新たなヴァンドレッドに視線を向けた。

「あ、あれは……!?」
「偽ヴァンドレッド・ディータか……?」
「けど、それにしちゃフォルムが微妙に違うぜ。新型か?」
 現れた漆黒のヴァンドレッドを前に、ジュラ、メイア、ヒビキがつぶやく。
 と――
「確かにヤツが元ではあるが、この私をあんなまがい物と同一視されては困るな。
 私もまた、正真正銘のヴァンドレッドなのだから」
「――しゃべった!?」
「自我があるっていうの!?」
 突然言葉を発した黒いヴァンドレッドに、ディータとバーネットが驚きの声を上げる。
 と、二人の言葉を聞き、黒いヴァンドレッドはうなずき、
「いかにも。
 我が名はヴァンルシファー
 地球艦隊のヴァンドレッド――『ヴァンドレッド三巨頭』がひとり、そして貴様らに滅びをもたらす者だ」
「へっ、それがどうした!
 おい、UFO女! ビビってんじゃねぇ、合体だ!」
「う、うん!」
 ヴァンルシファーに言い返すヒビキの言葉に、気圧されていたディータが我に返ってうなずき――二人の機体は接触し光を放つと、閃光の中からヴァンドレッド・ディータとなってその姿を現す。
「速攻で決めてやる! 覚悟しやがれ!」
 ヒビキが言い、ヴァンドレッド・ディータが殴りかかるが、
「――動きにムダが多い」
 言って――ヴァンルシファーはあっさりとその攻撃をかわしてみせる。
「何だと!?」
「かわされちゃった!?」
「……どうやら、まだわかっていないようだな。
 私は貴様らのヴァンドレッドの模倣機をベースに、さらなるパワーアップを施して生み出された。
 つまり――!」
 驚くヒビキ達に言い、ヴァンルシファーはヴァンドレッド・ディータの腕をつかみ、
「単純な性能だけなら、お前達など問題ではない!」
 そのまま投げ飛ばす!
『ぅわぁっ!』
「ヒビキ! ディータ!」
 吹っ飛ぶヴァンドレッド・ディータを、悠はナイトドラゴンをナイトブラスターに変形させて受け止めるが、
「――遅い!」
 そこへ、ヴァンルシファーが襲いかかる!
「くっ――!」
 とっさに悠はヴァンドレッド・ディータをかばうように前に出て、
 ――ガキィッ!
 ヴァンルシファーの振り下ろした、赤いペークシスでできたブレードをナイトランサーで受け止める。
「ほぉ、やるな」
「こいつ……強い……!」
 新しいオモチャを見つけた子供のように感心してみせるヴァンルシファーを前に、悠の頬を冷や汗が伝った。

「あいつ……強いよ……!」
 ニル・ヴァーナのブリッジで戦いを見つめ、璃緒がつぶやく。
 彼女の言う通り、モニター上でヴァンドレッド・ディータとナイトブラスターを同時に相手をしているヴァンルシファーの動きには明らかな余裕がある。
 その動きからは性能面だけでなく、戦士としての技術面からも上回っているのがわかる。彼女の特殊な感覚を抜きにしても、強敵であることは明らかだ。
「ドレッドチーム! ヒビキ達の援護に向かえる者はいるか!?」
 ブザムが通信機に向けて叫ぶが、返ってくる答えは「キューブに阻まれて援護に行けない」というものばかり。
「くっ……! なんとかできないのか……!」
 ブザムがうめくと、エズラの報告が事態の悪化を告げた。
「大変!
 あのエイ型がヴァンドレッド・ディータとナイトブラスターに近づいてます!」

〈ヒビキ、悠! 気をつけろ!
 敵の新型母艦がそちらに向かっている!〉
「なんだって!?」
 ブザムからの通信にヒビキが声を上げると、
「――!
 ヒビキ、かわせ!」
 悠が言い、ナイトブラスターがヴァンドレッド・ディータを突き飛ばし――
 ズドォッ!
「ぅわぁっ!」
 放たれたビームが、ナイトブラスターを直撃する!
『悠(さん)!』
 ヒビキとディータが絶叫すると、
「……だ、大丈夫だ……!」
 爆発の中から、大きなダメージを受けたナイトドラゴンが姿を現した。
「お、おい! 変形が解けてるじゃねぇか!」
「あぁ……
 どうやらヤツの赤い光には、オレ達青いペークシスのヴァンドレッドを強制的に形態解除する働きがあるらしい……!」
 声を上げるヒビキに、悠はナイトドラゴンのコックピットでダメージに顔をしかめながら言う。
「くそっ、やってくれたな!」
 ヒビキが言い、ヴァンドレッド・ディータがペークシス・ランスをかまえてエイ型に向けて突っ込むが、
「私のことを、忘れてもらっては困る!」
 ドガァッ!
「ぅわぁっ!」
「きゃあっ!」
 ヴァンルシファーの蹴りがヴァンドレッド・ディータを弾き飛ばし、
 ズドォッ!
『わぁっ!』
 そこにエイ型の赤い閃光が直撃、ヴァンドレッド・ディータもまた分離してしまう!
「ヒビキ! ディータ!」
 悠が声を上げるが、彼もまた動くことができず、
 ズドドドドドッ!
『ぅわぁぁぁぁぁっ!』
 3人に向け、新型キューブの一団がビームの雨を降らす!

「ヒビキ! ディータ! 水上!」
 メイアが叫び、彼女のドレッドが援護に向かおうとするが、
「次は貴様か!」
 斬りかかってきたヴァンルシファーの斬撃をメイアはなんとかかわすが、
 ズビュヴァァッ!
 さらにエイ型が拡散ビームを放ち、メイアをまったく寄せつけない。
「くっ……! どうすればいい……!?」

「悠、動けるか!?」
〈いや、ムリだ……!
 まるで全身がしびれたみたいに動けねぇ……!〉
「くそっ……!
 おいUFO女! そっちは!?」
〈こっちもダメぇ!〉
 ヒビキの問いに、モニターに映る悠とディータが答え、
 ドガァッ!
「ぐあぁっ!」
 新型キューブの体当たりが、ヒビキの蛮型を吹っ飛ばす!
 そして、その衝撃で蛮型は悠のナイトブラスターに激突する。
「フッ、こちらにセパレーションビームがあったとはいえ、なんとも手ごたえのない連中だ。
 無人とはいえ、こんなヤツらに母艦を2隻も沈められたとはな」
 言って、ヴァンルシファーは背中のペークシスキャノンをかまえ、
「だが、それもこれで終わりだ!」
 ヒビキと悠に向けてチャージを始める!
「宇宙人さん!」
「水上、離脱しろ!」
 ディータとメイアが叫ぶが、ヒビキも悠も動くことができない。
 そして――
 ズドゴォッ!
 ヴァンルシファーの放った閃光が二人を直撃。巨大な火球へと変えていった。
「宇宙人さぁぁぁぁぁん!」
 ディータが絶叫し――
「――――――え……?」
 突然、何かを感じ取った。
「……これって……?」

「ヒビキ!」
「悠くん!」
 ヒビキの蛮型と悠のナイトドラゴンが火球の中に消えるのを目撃し、ブリッジのミスティとエズラが声を上げる。
「ヴァンガード、及びナイトブラスター、反応消失……!」
 レーダーを前にアマローネがそう報告し――
〈まだです!〉
 通信回線を開いてそう断言したのはディータである。
「なぜそう言える?」
〈あの時と、同じ感じがするんです!〉
「あの時……?」
 ブザムに答えるディータの言葉に、マグノが怪訝な顔で聞き返す。
〈はい、初めて宇宙人さんと合体した時と同じ感じが……〉
 その言葉に、マグノとブザムはハッとして顔を見合わせた。
 あの時と同じ、ということは――
「……まさか!?
 テンホウ!」
 あわててブザムが尋ねると、テンホウは手元に表示されたデータを彼女に報告した。
「ヴァンルシファーの攻撃による爆発の中心から、青いペークシスの共振反応を確認。
 それも……徐々に増大しています」
 テンホウが言うと、爆発の火球が消えていき――
「――あれは!?」
 現れた青く輝くエネルギー球体を見て、マグノが驚きの声を上げた。

 青く輝くペークシスの空間――
 かつて自分達を何度となく導いたこの空間を、ヒビキと悠は気を失ったまま漂っていた。
 だが、その無意識の中で、二人の想いは一致していた。
「くそっ、こんなトコで、負けられるか……!」
「力がほしい……!
 この手で、みんなを守れる力が……みんなの笑顔を救える力が……!」
 圧倒的な力を見せつけたヴァンルシファー。その前に自分達はどうすることもできなかった。
 だが、負けるワケにはいかない。負ければ仲間達やニル・ヴァーナに危険が及ぶ。
 負けられない戦いの中、強大な敵に対抗し、仲間達を守ることのできる“力”を二人は求めていた。
 と――どこからともなく声が響いたのは、ちょうどそんな時だった。
《――力が……欲しいのですか――?》
『………………?』
 その声は脳裏にまで届き、二人の意識は一気に覚醒へと向かった。
「……くっ……!
 こ……ここぁドコだ……!?」
「ペークシスの作り出した……精神世界か……!?」
 意識を取り戻し、二人が頭を押さえてうめくと、
《あなた達もまた――力を求めるのですか……?》
「だっ、誰だ!?」
 再び聞こえた“声”に悠が周囲を見回すが、そこには彼ら以外誰もいない。
「どうなってんだ……?」
「さぁな……今までは、オレ達の知り合いの姿を借りてペークシスは語りかけてきた。
 なのに今回はそれがねぇ。それにいつもオレはここにひとりで来てた」
 つぶやく悠にヒビキが答えると、再び“声”が問い掛ける。
《力を手にして、どうするのですか?》
「どうする? ンなの決まってんだろ!
 倒すんだよ! あいつらを!」
 悠が“声”に対して言い返すと、
《しかし――強すぎる力は諸刃の剣となる……》
「――――――!」
 “声”の言葉に、悠は思わず息を呑んだ。
 “声”の言わんとしていることを悟ったからである。
《強すぎる力は、使い方を誤れば自分や周りをも傷つける……
 あなた方は……それでも力を求めますか?》

 その言葉に、悠は答えることができない。
 強すぎる力を持つが故に生じる歪み――ヴァンドレッドという強い力で戦うことは、その歪みを如実に浮かび上がらせることになる。
 そのことはわかっていた。だが――改めてその可能性を突きつけられ、悠の心には再び迷いが渦巻いていた。
 が――ヒビキがそんな悠に言った。
「へっ、何ビビってんだよ?」
「ヒビキ……?」
 そして、ヒビキは笑みを浮かべ、ハッキリと宣言した。
「力は使い方を誤れば誰かを傷つける……だったら……誤らなかったらいいんだろ!
 オレ達には戦う理由がある。
 その理由がある限り……絶対力に押しつぶされたりしない!」
 そのヒビキの宣言に――“声”は言った。
《では……見せてもらいましょう。
 あなた達に、本当に“資格”があるのかを……
 しかし、忘れないでください。あなた達の心から“青き力”が失われた時――ペークシスはあなた達を照らさない――》

「“資格”……?
 おい、それって、どーゆーことだ!?」
 “声”の言葉にヒビキが言うが、その気配は次第に遠ざかっていく。
 そして、空間そのものが光を放ち――!

「あ、あれは……!?」
 爆発の中から姿を現した青いエネルギー球を前に、メイアが呆然としてつぶやくと、
「――あれ?」
 自らの機体の異変に気づき、ディータが声を上げた。
「どうしたの? ディータ」
 バーネットが尋ねると、ディータは首をかしげ、
「うん……ドレッドのダメージが……回復してるの……」
「なんですって!?
 ――まさか、あの光の玉の影響で!?」
 ディータの言葉に驚き、バーネットは静かに輝きを放つエネルギー球へと視線を戻す。
 一方、驚愕しているのはヴァンルシファーも同じだった。
「あれは……“エヴォリューション・スフィア”……!
 まさか、ヤツら……!」
 ヴァンルシファーがそううめき――
 ――ヴワァッ!
 エネルギー球――エヴォリューション・スフィアが突如ほどけるように解け始め――
「グァアァァァァァッ!」
 その中から出現した“それ”が咆哮した。
 一見するとナイトドラゴンに見えるが、細部に違いが見える。
 無骨な肩アーマーは腕を覆うように移動し、その腕はまるで前足のようにかまえられている。
 流体結晶合金でできたウィングは薄く広く展開され、その身体をより大きく見せている。
 そしてその頭部にはアーマーが追加され、より獰猛さを強調したデザインとなっていた。

「あ、あれは……!?」
「ナイト、ドラゴンなの……!?」
 現れた新たな機体を前に、ベルヴェデールやミドリが呆然とつぶやく。
 そんな中、ブザムもまた驚愕してつぶやいた。
「まさか……ナイトブラスターとヴァンガードが合体したのか!?

「こ、こいつぁ……?」
「なんか……合体した、みたいだな……」
 変貌を遂げたコックピットの中で、ヒビキと悠が呆然とつぶやく。
 しかし、彼らのいるコックピットは、今までのヴァンドレッドのコックピットとは少し趣が違っていた。
 基本的にはヴァンドレッド・ディータと同じ前後に並んだ複座式のコックピットだったが、二つの席は少し距離をとっており、上部のヒビキの席のちょうど足元に悠の席が配置されている。
 内装のデザイン的にも、他のヴァンドレッドのように流線型を基調としたものではなく、直線的でメカニカルな感じのするデザインとなっていた。
「これが……あの“声”が言ってた“力”か……?」
 ヒビキがつぶやくと、
「おのれぇっ!」
「ぅわぁっと!?」
 二人が呆然としている間に突っ込んできたヴァンルシファーの斬撃を、悠はあわてて機体を制御してかわす。
「こりゃ、呆然としてる場合じゃねぇか……
 悠! やってやろうぜ!」
「あぁ!」
 悠がヒビキに答え、二人の機体が合体した新ヴァンドレッドがヴァンルシファーに向けて突っ込む!
「させるか!」
 負けじとヴァンルシファーがペークシスキャノンを放つが、
「こなくそっ!」
 悠はなんとかそれをかわす。
「くそっ、スピードはナイトドラゴンより落ちてやがる……!
 おいヒビキ!」
「なんだよ!?」
「射撃と打撃、どっちが得意だ!?」
「打撃!」
「なら任す!
 オレは機体制御と射撃をやる!」
 そう言うなり、悠は再びヴァンルシファーに向けて突撃をかける!
「バカのひとつ覚えが!」
 言って、ヴァンルシファーもペークシスキャノンをかまえ――
「バカはてめぇだ!
 ヴァン・ブラスト!」
 悠が放ったプラズマ火球がヴァンルシファーの機先を制する。
「くっ!」
 ヴァンルシファーがプラズマ火球をかわすそのスキをつき、悠は一気に機体を相手の懐へ滑り込ませ、
「ヒビキ!」
「おぅ!」
 ドガァッ!
 ヒビキの放った、新ヴァンドレッドの前足による一撃がヴァンルシファーをとらえる。
「ぐっ、おのれぇっ!」
 吹っ飛ばされながらも、ヴァンルシファーはビームを拡散で放って反撃に出るが、
「悠!」
「拡散ビーム……こいつか!」
 悠も新ヴァンドレッドの武装をいち早く把握し、その攻撃を迎撃し、
「追い討ちっ!」
 尾の先端のビームガンで追撃をかける!

「宇宙人さん、すっごぉい!」
 ヴァンルシファーと幾度となく激突するヒビキと悠の戦い振りを見て、ディータが思わず感嘆の声を上げる。
「あのヴァンルシファーと、互角に渡り合っている……!」
「あれならいけるわね!」
 ジュラとバーネットが言うと、メイアが突然声を上げた。
「――いかん!
 エイ型がヒビキ達を狙っている!」
「えぇっ!?」
 メイアの言葉に、ディータがあわてて援護に向かおうとするが、そこへキューブが割って入る!
「もう、ジャマしないでよぉ!」
 ディータが言い、キューブに向けてビームを放つ!

「――!? おい、ヒビキ!
 エイ型が来る!」
 こちらもエイ型の接近に気づき、悠が声を上げる。
「くっ、またあのなんとかビームを撃つつもりかよ!?」
 ヒビキが言うと、
「スキあり!」
 その背中へヴァンルシファーが飛びつき、背後から新ヴァンドレッドを締め上げる!
「そのまま、セパレーションビームをまともにくらうがいい!」
 ヴァンルシファーが叫び、
 ズドゴォッ!
 エイ型がセパレーションビームを放ち――
「そうは……させっかよ!」
 ヒビキが叫び、新ヴァンドレッドが力任せに身をよじり、
 ドゴォッ!
「ぐはぁっ!」
 セパレーションビームの閃光は、新ヴァンドレッドの背後にしがみつくヴァンルシファーを直撃する!
「とはいえ、このままじゃジリ貧だぜ!
 おい悠! 何か必殺武器とかねぇのかよ!? こいつぁ元々ナイトブラスターなんだろ!?」
「今探してる! そう急かすな!
 文句があるなら、機体の制御全部お前に押しつけるぞ!」
 ヒビキに答え、悠はヴァンルシファーとエイ型の放つ赤い閃光の雨を必死にかいくぐりながらデータを検索する。
 と、悠の手元のディスプレイにひとつのデータが表示された。
「……プラズマ……ギガブレス……?
 あった! たぶんこいつだ!」
 そして、悠は新ヴァンドレッドをヴァンルシファーとエイ型に向き直らせ、
「ヒビキ! 二人同時の音声入力と同時にトリガー!
 キーワードは『プラズマ、ギガブレス』だ!」
「おぅよ!」
 悠の言葉にヒビキが答え、二人は同時に叫んだ。
『プラズマ、ギガブレス!』
 その言葉に、新ヴァンドレッドが大きく身をそらし、次の瞬間――
 ドゴォッ!
 放たれた特大のプラズマ火球が、ヴァンルシファーとエイ型に向けて突っ込む!
「――いかん!」
 とっさにその一撃の危険性を悟り、ヴァンルシファーはとっさに離脱するが、エイ型は間に合わない!
 そして、
 ドガオォォォォォンッ!
 火球の直撃を受けたエイ型を中心に、とてつもない大爆発が巻き起こる!
「ぐぅっ……なんて威力だ……!
 ヤツの戦闘力を知らないまま、これ以上戦闘を続けるのは危険か……!」
 なんとか爆発の衝撃波に耐え、ヴァンルシファーはその衝撃に紛れてその宙域を離脱していった。

「やったぁ!
 宇宙人さん、やっぱりすごぉい!」
 残存するキューブやピロシキを軒並み撃墜し、一息ついたディータが歓声を上げる。
「あのヴァンルシファーとか言うヤツは逃げたみたいね……」
「なぁに、そんなのまたやっつけちゃえばいいのよ!
 ジュラ達の前には、どんな敵だってメじゃないわよ!」
 バーネットの言葉に、勝ち戦ですっかり気をよくしたジュラが言う。
「ヒビキ、水上、大丈夫か?」
「あぁ。なんとかな……」
「けどクタクタ。早く帰りたいよ……」
 メイアの問いにヒビキと悠が答えると、
〈けど、その前にやることがあるだろう?〉
 そんな彼らに通信し、マグノが言う。
「やること……?」
 メイアが怪訝な顔で聞き返すと、マグノはニヤリと楽しげな笑みを浮かべ、
〈その新型の名前、決めてやんないとねぇ。
 ヴァンドレッドであるナイトブラスターがさらに合体したんだよ。同じ「ヴァンドレッド」で呼ぶのも、なんだかねぇ〉
「……楽しそうだね、お頭……」
「そういえば……ニル・ヴァーナの名前つけた時もノリノリだったしねぇ……案外名付け親になるのが好きなのかも」
 つぶやくディータに、バーネットが同意するように言う。
「なら私の出番ね!
 とびっきりエレガントなのを考えてあげるわよ!」
〈いやいや、それならこのボクが華麗な名前を……〉
 そんな一同にジュラとバートが自信タップリに言い――
『とんでもない名前がつきそうだからヤだ』
『なんでぇ!?』

 ヒビキと悠に即答され、二人はそろって抗議の声を上げる。
 と、そこへミドリが通信を割り込ませてきた。
〈はーい! だったらあたしにひとつアイデアがありまーす!〉
「あんたが……?」
〈うん!〉
 聞き返すジュラに、ミドリはニッコリと笑って、
〈“ヴァン”ガードとナイト“ブラスター”が合体したんだから、ヴァンガードとドレッドが合体したヴァンドレッドにちなんで……『ヴァンブラスター』! なんてどうかな?〉
『ヴァンブラスター……』
 ミドリの言葉に、ヒビキと悠は顔を見合わせ、
「……うん、耳あたりも語呂も悪くないし、いいんじゃないか?」
「けっこういいんじゃねぇか? オレも賛成だぜ」
 二人でミドリの意見に同意する。
〈なら、決まりだね。
 今日からその新型は、ヴァンブラスターだよ〉
「えー? ヤダヤダ、ジュラが決めるのぉ!」
「はいはい、それはまたの機会にね」
「さー、帰ろ帰ろ!」
 締めくくるマグノに抗議するジュラに言い、バーネットとディータがニル・ヴァーナへと機を向ける。
「もー! なんでこうなるのよぉ!」
「………………どうする?」
「ほっとこう」
 未だダダをこねるジュラを前に、悠の問いにヒビキはサラッと結論づけ、彼もまたニル・ヴァーナへと向かう。
 そして、ヒビキは息をつき、静かに言った。
「……よろしくな、新しい相棒♪」

 to be continued……


Next Episode Digest

「私はアスラ。アスラ・ミューティ。
 そしてこいつは、ヴァンドーラだ」

「アスラ……あなたはどうして……」

「この機体……なんだかイヤな感じがする……」

「私と共に来い。ヒビキ。
 私達なら、最高のパートナーになれる」

「あいつぁ……オレの、何なんだ……?」

 Next Episode It's――
#S04「黒き雷鳴」


 

(初版:2002/07/01)
(第2版:2003/08/02)