#S06
「雷の巨竜」
《こいつっ!》
苛立たしげに声を上げると、ヴァンドーラはナイトドラゴンの首をつかみ、
「貴様ごときが、ジャマをするんじゃねぇ!」
力いっぱい、格納庫の床に叩きつける!
《とどめだ!》
言って、ヴァンドーラがナイトドラゴンに向けて右手をかざし、そこに赤いペークシスのエネルギー光が生まれ――
「させるかぁっ!」
ドガァッ!
《ぐわぁっ!》
突然突っ込んできたヒビキの蛮型が、ヴァンドーラに蹴りを叩き込む!
「悠、今だ、急げ!」
「おぅっ!」
ヒビキに答え、悠もナイトドラゴンに乗り込み、ナイトドラゴンを再び立ち上がらせる。
そして、悠はブリッジへと通信をつなぎ、
「ブリッジ! こちらナイトドラゴン!
今すぐハッチを開放してくれ!」
〈ちょっと、大丈夫なの!?〉
「心配するな! ディータ達は格納庫の外に避難させた! 今なら安全だ!」
あわてて尋ねるベルヴェデールに答え、悠は殴りかかってきたヴァンドーラに組みつく。
「ここで戦うワケにはいかねぇ! 頼む!」
〈り、了解!〉
同様にヴァンドーラに飛びつくヒビキに答え、ベルヴェデールは格納庫のハッチを開放、ヒビキ達は漆黒の宇宙空間へと放り出された。
「よっしゃ! これで思いっきり暴れられるぜ!」
「かと言って、アスラが向こうに捕まってる以上、ヘタに攻撃もできないな……
合体して、一気にパワーでねじ伏せるぞ!」
ヒビキに答え、悠はナイトドラゴンをナイトブラスターへと変形させるが、
《そうはさせるか!》
叫ぶなり、ヴァンドーラは両肩のペークシスキャノンを連射し、悠とヒビキを引き離す。
「くそっ、合体させない気かよ!?」
「このままやるしかねぇってことかよ!」
ヒビキと悠がうめき――
「宇宙人さぁん!」
ディータの声と共に、彼女のドレッドが戦場へと飛び込んできた。
しかも都合がいいことに、彼女はヒビキの蛮型のちょうどすぐそばにいる。ヴァンドーラの妨害よりも早く合体が可能だ。
「宇宙人さん、合体しよう!」
「おぅっ!」
ヒビキもそれに気づいたのか、ディータの提案にすぐさま賛成して彼女のドレッドと接触、ヴァンドレッド・ディータへと合体する。
「よっしゃ、このまま2体がかりで一気に叩くぜ!」
すっかり勢いに乗り、ヒビキが言うが、
《おっと、そうはいかないぜ》
そんなヒビキにヴァンドーラが言う。
《言い忘れていたがな、オレは今、アスラとつながってるんだ。
つまり、小娘と体内のペークシスを通じてリンクしている状態だ。
これが何を意味するか……そこのペークシアンの小僧はわかるよな?》
「くっ……汚いヤローだな、てめぇは……!」
ヴァンドーラの言葉に、悠はその意味するところに気づいてうめくしかない。
「何だよ、どういうことだよ!?」
ヒビキの問いに、悠はしばし沈黙し――答えた。
「今、ヴァンドーラとアスラは神経レベルでつながってる。
つまり……ヴァンドーラが傷つけば、アスラも同様に傷つくってことだ。
わずかな攻撃でも、アスラにダメージが行っちまう。ただ捕まってるよりもタチが悪いぜ……!」
「そんな……っ!」
《そういうことだ。
貴様らに……仲間のために小娘を犠牲にすることができるかな!?》
息を呑むディータにそう叫ぶと同時――ヴァンドーラは急加速、一気にヒビキ達へと突っ込む!
「ヴァンドレッド・ディータとナイトブラスター、ヴァンドーラと交戦状態に入りました!」
「ヒビキちゃん達は、ヴァンドーラに対して攻撃できないでいます!」
「くっ……どうすればいいんだ……!」
ニル・ヴァーナのブリッジで、アマローネとエズラの報告にブザムがうめくと、
「お兄ちゃん達は!?」
声を上げ、璃緒がテンホウ――ヒカリとミスティに連れられてブリッジに駆け込んできた。
「璃緒!?
お前は戦闘時はピットキャリーで待機だろう!」
「ゴメン! 確かめたいことがあるの!」
ブザムの叱責にそう答えると、璃緒はヒカリと共に彼女の席へと駆け寄り、
「ヒカリさん、ヴァンドーラをスキャンして!
特にコックピット周辺を念入りに!」
「くそっ! 手出しできねぇ上に、向こうの方が速い……!」
「このままじゃ、アスラを助けられないよ!」
ヴァンドーラの攻撃で揺れるコックピットの中で、ヒビキとディータが衝撃に耐えながらうめく。
「くそっ、何か手はねぇのかよ……!」
同様に攻撃を受けるナイトブラスターのコックピットで悠がうめき――
〈お兄ちゃん達、聞いて!〉
そこへ璃緒が通信してきた。
「璃緒か、どうした!?」
〈アスラお姉ちゃんを助けられるかもしれないの!
これを見て!〉
悠に答え、璃緒はヴァンドレッド・ディータとナイトブラスターのコックピットに解析したデータを表示、ヒカリが説明を始めた。
〈ヴァンドーラは、パイロットと機体のペークシス神経系を密接にリンクさせることで反応速度を上げています。そしてその神経系は、一度コアペークシスに収束した後、コックピットにつながっています。
つまり、コアペークシスとコックピットをつなぐペークシス神経は一まとめにされていますから、そこを断つことができれば、それ以後はどれだけヴァンドーラを攻撃しても、彼女へダメージがいくことはありません〉
「よぅし、それでいこう!」
ヒカリの言葉にヒビキが同意し、ヴァンドレッド・ディータはヴァンドーラへと突っ込む!
《くっ、ガキどもが!
小娘の命が惜しくないのか!》
「知るか! アスラが死ぬ前に助けるだけだ!」
戸惑うヴァンドーラに言い返し、ヒビキはヴァンドーラの中に捕らわれているアスラへと呼びかける。
「聞こえるか、アスラ!
お前は、オレ達が必ず助けてやる!
死ぬほど痛いが、勘弁しろよ!」
「その意気だぜ、ヒビキ!」
言って、悠が加勢しようとすると、
〈ちょっと待って、もうひとつ!〉
そこへ、璃緒がさらに続けてきた。
「ヴァンドーラにはひとつ、地球側のヴァンドレッドにしては不自然な点があるの」
分析を続けるヒカリのとなりで、璃緒がインカムを耳にあててヒビキ達に呼びかける。
〈不自然な点?〉
「そう。
地球軍の使ってるペークシスは、憎しみとか負の感情を司る赤いペークシスだよね?」
ディータに答え、璃緒は次々にデータが表示されるディスプレイを見ながら続ける。
「なのに、ヴァンドーラに使われているのは青いペークシスだった……
変だと思わない?」
(どういうことだ……!?)
ヴァンドーラとの戦闘を続けながら、悠は胸中で思案を続ける。
(正の感情を司る青いペークシスじゃ、負の感情に支配された地球軍の機体に使うことはできない……そんなことしたら、エネルギーの対消滅でどっちもお陀仏だ。
それを可能にする方法があるとしたら……)
そこまで考え――悠の脳裏にひとつの可能性がよぎった。
「まさか――洗脳か!?」
「洗脳!? どういうことだよ!?」
「ヴァンドーラも、地球のヤツらに操られてるだけかもしれないってことだ!」
聞き返すヒビキに答え、悠は続ける。
「けど、だとしたらすべてのつじつまが合う。
オレ達はヴァンドーラがアスラを操っている元凶だと思っていた。けど――そいつぁとんだお門違いだったってことか!」
と、その時――
「――――――!?」
その事実に気づけたことが無意識の内に第6感をさらに研ぎ澄ませたのだろうか――“それ”を感じ取り、悠は動きを止めた。
「お、おい、何やってんだ!?
止まったらいい的だぞ! 動け!」
ヒビキが言うが、悠はしばし虚空の一点を見据え、
「……悪い、ここ任せた!」
そう言うなり、悠は何かを感じ取った方向へと向き直り、ナイトブラスターを加速させる。
「お、おい!」
「悠さん!?」
ヒビキとディータが声を上げ――焦ったのはヴァンドーラも同じだった。
《あいつ……まさか気づいたのか!?》
「いる……強い意志を持った何かが、こっちに!」
その“何か”へ向けてナイトブラスターを飛ばし、悠がつぶやく。
近づくにつれ、その感覚がだんだん正確さをおびてくるのがハッキリとわかってくる。
「――そこにいやがるな!
さっきからオレ達を眺めて、ほくそえんでるヤツ!」
叫ぶと同時、肩にラックされているハンドキャノン『ナイトキャノン』を外して両手にかまえ、気配に向けて攻撃をかける。
が――
――バシュゥッ!
気配をとらえるかと思われた瞬間、ナイトキャノンのビームは見えない壁のようなものに弾かれて四散した。
「――バリアか!?」
悠がうめくと、
「大したものですね。ペークシアンというものは。
ストーミングを最大にかけた私を、ここまで正確に見つけられるとは……」
言って、気配の主は光学迷彩を解いて姿を現した。
周囲に滞空するビットと、両肩に巨大なアーマーを装備した赤いペークシスのヴァンドレッドである。
「てめぇか……アスラとヴァンドーラを操っている元凶は!」
「いかにも。
一応名乗らせていただきましょうか。我が名はヴァンヒュプノス。ヴァンドレッド三巨頭のひとりです」
「そうか……ヴァンルシファーのお仲間ってワケか……」
言うなり、悠は再びナイトキャノンをかまえ、
「だったら、手加減はいらねぇな!」
言うと同時にナイトキャノンを連射するが、
「ムダですよ」
ヴァンヒュプノスが言うと同時、彼の周囲のビットがバリアを張り、ナイトキャノンのビームを防ぐ。
「防御強化型……!?
まさか、てめぇ!」
「その通りですよ」
悠に答え――ヴァンヒュプノスは両足を前方に畳み込み、両腕を肩アーマーに収納、ヴァンドレッド・ジュラと同型のクリーチャーモードへと変形する。
「私はね、貴方がたの防御型ヴァンドレッドの進化形ですよ!」
《ちぃっ! やっぱりそうか!
ジャマをさせるかよ!》
ヴァンヒュプノスとの交戦を始めたナイトブレイカーを見て、ヴァンドーラがそこへ割り込もうとするが、
「そうはさせっか!
てめぇの相手はオレだ!」
言って、ヒビキがヴァンドーラの前に立ちふさがる。
《ジャマをするな!》
ヴァンドーラが肩のペークシスキャノンをかまえ――
――ドォンッ!
その背後にミサイルが直撃する。
駆けつけてきたメイアによる援護射撃である。
さらに、彼女に少し遅れてジュラやバーネット、他のドレッドチームもそれぞれの愛機で続々と駆けつけてくる。
「ヒビキ、ディータ! ここは我々に任せろ!」
「なんだと!?
おいおい、合体してならともかく、合体しないままのお前らでこいつの相手なんかできるワケないだろうが!」
メイアの言葉に、ヒビキが思わず反論するが、
「あ〜ら、心配してくれるの?
ずいぶんとお優しくなったことで」
「ば、バカ! 違うわ!」
バーネットにからかわれ、ヒビキは真っ赤になって言い返す。
「あの偽ヴァンドレッドを倒せば、アスラもヴァンドーラも止められるんでしょ!?
だったら、どっちに戦力を回すべきか、あんただってわかるでしょ!?」
「そういうことだ。
お前達はさっさとあの偽ヴァンドレッドを叩きに行け!」
「宇宙人さん……」
ジュラとメイアにも言われ、ディータは背後のヒビキへと振り向き――ヒビキは笑みを浮かべ、
「――へっ、わかったよ。
いくぜ、UFO女!」
「うん!」
「このこのこのこのっ! いい加減落ちろってぇのぉっ!」
イライラしてわめき散らしながら、悠は両腕のナイトキャノンを撃ちまくるが、人型――ファイターモードのヴァンヒュプノスはビットによって展開したバリアによってそれをことごとく防いでいく。
「……当分、ジュラのヴァンドレッドが嫌いになりそうだな」
大人気なくこめかみを引きつらせ、悠がそううめくと、
「悠!」
ヒビキが言い、ヴァンドレッド・ディータが駆けつけてきた。
「加勢するぜ!」
「ありがてぇ!
あの防御力は厄介だけど、ヤツに合体を妨害するほどのスピードはない!
一気にヴァンブラスターに合体だ!」
「おぅ!」
悠の指示に答え――ヒビキは素早く自機を分離、蛮型をナイトブラスターへと接触させ――光の中で合体を開始する。
まず、ナイトブラスターのつま先が足首を境に180度回転、前後逆になり、両カカトの爪が倒れる。
続けて、両腕の拳が収納され、そこへ両肩アーマーがかぶさり、両肩のクローを爪としたより巨大な両腕へと変形する。
頭部が収納され、背中のスタビライザーが起き上がって首となり、そこへ分離した胸部のドラゴンの頭部が合体し、背部にできたスペースへ蛮型が収納。それをフタをするようにナイトキャノンが合体する。
すべての変形を完了し、光を振り払ってヴァンブラスターはヴァンドーラと対峙した。
「これでも、くらいやがれ!」
咆哮し、ヒビキはトリガーを握り、
『プラズマ、ギガブレス!』
悠と同時にトリガーを引き、放たれた必殺のプラズマ弾がヴァンヒュプノスへと突っ込み――
「ムダですよ」
ヴァンヒュプノスが言うと同時――彼の展開したバリアによって、プラズマ火球の軌道が逸らされる!
「なんだと!?」
「プラズマギガブレスが……効かない!?」
ヒビキと悠が驚きの声を上げると、
「残念ですが、貴方がたの攻撃は通じませんよ」
ヴァンヒュプノスが、そんなヒビキ達に言う。
「その攻撃は、ペークスエネルギーで燃焼しているとはいえ、それ自体はあくまでも超高温のエネルギー体――ただのプラズマエネルギーでしかないんですよ。
そしてプラズマは電磁場の影響を大きく受ける……つまり、電磁場を展開すれば、プラズマを誘導して受け流すことなど造作もないのですよ」
「へぇ、よくしゃべるじゃねぇか。
そこから対策考えられて……とか考えねぇのかよ?」
「その心配は無用ですよ。
なぜなら……」
悠に答えながら――ヴァンヒュプノスはビットにエネルギーを蓄え、
「その形態の出力では、私の電磁場の干渉を弾けるほどのプラズマエネルギーを生み出すことはできないのですから!」
言うと同時、ビットから放たれたビームがヴァンブラスターに襲いかかる!
「くそっ、悔しいがヤツの言う通りか……!
どーすんだよ、ヒビキ!」
「あのバリアがあるんだ、なんとかアレをかいくぐって攻撃を叩き込むしかないぜ!」
ヴァンヒュプノスの攻撃を必死にかいくぐり、悠の言葉にヒビキが答えた、次の瞬間――
――バシィッ!
突如ヴァンヒュプノスに向けて飛来したビームが、ビットのひとつによって弾かれた。
「何だ!?」
驚きの声を上げ、ヒビキが振り向くと、
「えぇいっ!」
ディータがドレッドのビームを連射し、ヴァンヒュプノスへと攻撃をかける!
「バカ! 何やってんだ!
ドレッドの火力でどうにかなる相手じゃないだろ!」
「だけど、見てるだけなんてできないよ!」
あわてて声を上げ、制止するヒビキに、ディータは珍しく気丈に言い返す。
「ディータだって、なんとかしてあげたいもん!
アスラを助けたいのは、宇宙人さん達だけじゃない……
ディータだって、アスラを助けたい!」
揺るぎない決意のままにディータが宣言し――
――ドウッ!
突如、ディータのドレッドからペークシスエネルギーが吹き出す!
「な、何っ? どうしたの?」
突然のことに、戸惑いながらディータが声を上げると、突然手元のコンソールの一部が開いた。
中には、何かの端末らしきデバイスとそれに対応しているらしいカードキーが入っている。
「何? コレ……」
「あ、あれは……!?」
ディータ機の突然の変化は、周囲の面々にも動揺を与えていた。悠もまた、呆然とディータ機の変化に見入っていた。が――
「それが、どうしたというんですか!」
言って、ヴァンヒュプノスがディータに向けてビットのエネルギーを収束させる!
「くそっ! 悠!」
「お、おぅっ!」
それに気づき、声を上げたヒビキの言葉に我に返り、悠はヴァンヒュプノスへとビームを斉射。ビットを防御に使用させてディータへの攻撃を阻む。
と――それを見て、ヒビキはあることに気づいた。
「あれって……!?」
だが、ヒビキのその思考を断ち切り、悠が叫ぶ。
「ディータ、何やってる! さっさと引き上げろ!」
「け、けど!
悠さん、コレ見て!」
悠の言葉に答え、ディータはモニター越しにデバイスとカードを見せた。
「いきなりドレッドのコンソールから出てきたの!」
「コンソールから……?」
ディータの言葉に、悠は思わず声を上げ――
――ピッ。
その言葉に呼応したかのように、手元のコンソールにある文章が表示された。
Armord Progress System Stand By...
「武装……進化……?」
表示されたそのメッセージの意味を量りかね、悠がつぶやき――ある可能性に思い至った。
「――まさか!?
おい、ディータ! さっさとそのカードをデバイスに読み込め!」
「え!?」
「いいから早く!」
戸惑うディータに悠が叫ぶが、
「何をするつもりかは知りませんが――させるとお思いですか!」
叫んで、ヴァンヒュプノスはビットからビームを放って攻撃してくる!
しかし、ヒビキの操作で割って入ったヴァンブラスターがその攻撃を弾き、
「早くしろ、UFO女!
何かは知らねぇけど、今はテメェが頼りなんだ!」
「う、うん!」
ヒビキに答え、ディータはカードをかまえ、デバイスへと読み込ませる。
すると、ディータのドレッドから信号が発せられ、それを受信したヴァンブラスターの中で新たなシステムが起動する。
そして、表示されたマニュアルに従い、悠が音声入力でコマンドを入力する。
「APS Select of Systel Call――“Deata”!」
その途端――ディータのドレッドとヴァンブラスターに変化が生じた。急激に加速すると互いに距離を詰めて接触し――光が放たれた。
ヴァンドレッドやヴァンブラスターへの合体の時と同じ現象である。
やがて光は凝縮していき――弾けた。
そして、その中からそれは姿を現した。
背中にディータのドレッドが、両肩にペークシスキャノンとナイトキャノンの合体した大型キャノン砲を備えた、新たな進化を遂げたヴァンブラスターが。
合体したことで、ヴァンブラスターのコックピットもまた変化していた。
ヒビキと悠の位置関係は上下が逆転、悠が上に位置しており、さらに従来のヴァンドレッド・ディータのコックピットのようにヒビキの席がディータとの二人羽織式に変化、上から悠、ヒビキ、ディータの順に座る形になっている。
「お、おい、どうなってやがる!?
UFO女のドレッドが、合体しやがったぜ!?」
突然のことに驚いているヒビキがわめくが――考えているヒマはなかった。
「だから、どうしたというのです!」
叫んで、ヴァンヒュプノスがビットからビームを放つが、
「しゃらくせぇ!」
ヒビキが叫び、ヴァンブラスターの放ったプラズマギガブレスがヴァンヒュプノスのビームを弾き飛ばし、
――ドゴォッ!
ヴァンヒュプノスがとっさに展開したバリアに激突、バリアのエネルギーと拮抗する!
先ほどと違ってその攻撃はヴァンヒュプノスの干渉をはねのけている。ディータのドレッドが合体したことで、エネルギー兵器の出力が劇的に増しているのだ。
「くっ――! これほどの出力が出せるとは……!」
「へっ、防御に手いっぱいだな、ヴァンヒュプノス!
さっき見てたぜ――そのビット、防御と攻撃は同時にできねぇだろ!」
うめくヴァンヒュプノスにヒビキが告げ――さらに出力を上げたプラズマギガブレスが、ヴァンヒュプノスをバリア越しに弾き飛ばす!
「SPドレッドと合体し、その特性を反映させることができる……
これが……ヴァンブラスターの、本当の力……」
その光景を目の当たりにして、悠は事態を把握してつぶやき――すぐに気を引き締めてヒビキ達に告げた。
「けど、おかげで突破口が見えてきたな!
速攻で決めるぞ、ヒビキ、ディータ!」
「おぅっ!」
「はいっ!」
「出力、限界域まで上昇!
ツインペークシスキャノン、プラズマギガブレス、発射準備完了!」
「ターゲット、ロックオン!
最終セーフティ解除!」
悠とディータが叫び、彼らの操作でヴァンブラスターはその二つの主兵装をヴァンヒュプノスに向けて、限界まで出力を振り絞る。
「全システム、オールグリーン!
やったるぜ、お前ら!」
「おぅよ!」
「はーい!」
ヒビキの言葉に二人が答え――三人は一斉に音声入力のコマンドを叫んだ。
「トライ、プラズマバスター!」
ドゴォッ!
その瞬間――ヴァンブラスターがプラズマギガブレスとトライプラズマバスターを同時に発射、そのエネルギーは互いに引き付け合うとひとつの巨大な閃光となり、ヴァンヒュプノスへと襲いかかる!
「くっ――!」
とっさにビットを集中させてバリアを張るが――トライプラズマバスターのエネルギーはそのバリアを易々と撃ち抜き、ヴァンヒュプノスの右腕を粉砕する!
「ぐぁあぁっ!
……おのれぇっ!」
ダメージにうめきながらも、ヴァンヒュプノスはヴァンブラスターへと向き直り――
「そこまでだ」
それを止めたのは、突然飛来したヴァンルシファーだった。
「そのダメージでは、これ以上の戦闘は不可能だ」
「何を言います! 私はまだ――」
反論しかけたヴァンヒュプノスに対し、ヴァンルシファーは視線を動かし――動きを止めたヴァンドーラがメイア達に牽引され、ニル・ヴァーナへと向かう光景を指さした。
先のトライプラズマバスターのダメージのよって、ヴァンヒュプノスの洗脳が途切れたのだ。
「自分の施した洗脳が解けたのにも気づけないほどシステムが破損した状態で、戦闘が継続できるのか?」
「くっ……!
いいでしょう。今回は退いてあげましょう……」
ヴァンルシファーの言葉にうめくように答え、ヴァンヒュプノスはクリーチャーモードへと変形するとヴァンルシファーと共にその宙域を離脱した。
「……ふぅっ、なんかなったか……」
ヴァンヒュプノス達の離脱をレーダーで確認し、悠はため息をついてシートに身を沈めた。
「アスラも助かったみたいだし、よかったね、宇宙人さん♪」
同じく安堵のため息をついてディータがヒビキに言うが、
「じょーだんじゃねぇ。こっちはもうクタクタだぜ……」
すっかり疲れきっているヒビキはそう言うと目を閉じ、
「もう、金輪際人助けなんか……やんねぇ……ぞ……」
そこまで言うと、ついに限界に達したか、意識を手放して寝息を立て始めた。
「……お疲れ様、宇宙人さん」
「オレもがんばったんだがな」
「あ、ゆ、悠さんもお疲れ様!」
ツッコまれてあわてて付け加えるディータに、悠は思わず笑いながら機体をニル・ヴァーナへと向けたのだった。
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「そうか……ヴァンドーラは……」
「あの子をどうするつもりなのよ?」
「ディータは……アスラと仲良くなりたいな♪」
「誰もてめぇに同情なんかしちゃいねぇよ。
……オレ達がしてんのは心配だ」
「復活させられるのか? ヴァンドーラを……」
「ヒビキ・トカイ! オレを使え!」
Next Episode It's――
#S07「蘇れヴァンドーラ!」
(初版:2005/10/09)