第2話
「決意と銃口」

 


 

 

 明けて翌日――
「えぇっ!?」
「まぁ……」
 放課後、讃州中学校――家庭科準備室に間借りした勇者部部室。
 先に来ていた犬吠埼姉妹から“その事実”を知られ、友奈と美森は驚きの声を上げた。
「じゃあ、ジュンイチさんって……」
「昨夜は、先輩達の家に泊まったんですか……?」
「おぅ、泊めてもらったぞー」
 あっさりと二人に答えるのは、備品として置かせてもらっているポットで湯を沸かし、人数分の茶を淹れているジュンイチだ。
「オレは野宿でもぜんぜんよかったんだけど、なんか風ちゃんが“上”からそう指示されたらしくてさ」
「“上”……ひょっとして“大赦”の……?」
「そうなのよ……」
 聞き返す友奈には、何やらやつれた様子の風が答える。
「そりゃさ、いきなり樹海の中に現れた上に得体の知れない異能をこれでもかってくらい見せつけてくれたジュンイチを放っておくワケにはいかないのはわかるけどさ……
 でも、だったら男の人をよこしてその人に任せるって形でもいいじゃない。何で年頃の女の子に『泊めてやれ』なんて話になるのよ……
 おかげで気まずくて、昨夜はほとんど寝られなかったわよ……」
 あぁ、どこかやつれたように見える原因はそれかと納得する――見れば、樹やブイリュウなどはすでにうつらうつらと夢の中だ。
「でも、ジュンイチさんは平気そうですね。寝られたんですか?」
「バカ言え。オレなんて『ほとんど』どころか一睡もしとらんわ。変な疑いかけられてたまるかっての」
 話を振ってくる友奈に、ジュンイチは淹れ終わった茶をお盆に並べ、運んできながらそう答える。
「平気に見えるのは、単に徹夜慣れしてるから。それだけだよ。
 ……あぁ、風ちゃんと樹ちゃんは眠気覚ましにコーヒーな」
「あぁ、ありがと……
 ……って、うちにコーヒーなんて備えてあったっけ……?」
「作った」
 あっさりとジュンイチが答える――「『作った』……?」と友奈達が首をかしげるが、かまうことなく友奈達の背後の備品棚に背を預け、
「で……オレは『戦った相手については友奈ちゃん達とまとめて説明するから』って言われたから、わざわざめんどくせぇ外来手続きを済ませてまでここにいるワケなんだけど?」
「あぁ、そうね。
 ほら、樹もいい加減それ飲んで起きなさーい」
 話を振られ、風は立ち上がって予定表仕様の黒板へと向かう。
 図を交えて説明するつもりなのか、黒板に何やら絵を描き始める風を待っていると、ジュンイチの視界にフヨフヨと何かが漂ってきて……
「って、コイツ、昨日友奈ちゃんと一緒にいた……」
 そう、樹海で“勇者”として戦う友奈と共にいた牛型の精霊だ。ジュンイチにつつかれてくすぐったかったのか、軽く身をよじると友奈のところに逃げていく。
「その子懐いてるんですね」
「えへへ……牛鬼っていうんだよ」
 目を覚ました樹に友奈が答える――「誰かそんな名前の妖怪がいたなー」と思い出すジュンイチだったが、目の前の牛鬼とはイメージがつながらないので黙っておく。カワイイし。
「ビーフジャーキーが好物なんだよね」
「牛なのに!?」
「共食いかよ」
 それでもとりあえず、樹と二人でツッコんでおく――と、図解を描き終えたらしい風がこちらへと向き直った。
「ハーイ、注目。
 改めて……昨日はお疲れ様。みんな無事でよかったわ。
 さっそくだけど、昨日のことをいろいろ説明していくわ。
 戦い方はアプリの方に説明テキストがあるから、今は“なぜ戦うのか”って話をしていくね」
 言って、風が指さしたのは黒板に描かれた……“ナニカ”としか形容できないような“何か”だった。
「コイツ――バーテックス。人類の敵が、“あっち側”から“壁”を越えて、12体攻めてくることが、神樹様のお告げでわかったワケで……」
「それ、この間の敵だったんだ……」
「きっ、奇抜なデザインをよく表してるよね!」
 樹がわからなかったのもムリはない。先日の敵の特徴を何ひとつとして捉えていない絵なのだから――とっさに友奈がフォローしているのを聞きながら、ジュンイチは軽く鼻を鳴らした。
(“あっち側”、そして“壁”……“結界”の外から、ってことか……)
 昨夜、犬吠埼家で交換した情報、この世界についての予備知識についての部分を引っ張り出す――話によると、この世界は300年前に死のウィルスが蔓延。“神樹様”と呼ばれる神秘の存在が張った結界によってウィルスから逃れることに成功したこの四国地方を除く全世界が全滅してしまったのだという。
 以来結界の内側では暦を神世紀と改め、神樹を祀る“大赦”なる組織が主導権を握る形で独自にやりくりしてきた、とのことで――いろいろと気になることはあったが、まずはより多くの情報を集めるべきだと判断。今は“狭く深く”よりも“広く浅く”だと割り切ったジュンイチは、それら“気になること”の検証をひとまず保留することを昨日の時点で決めていた。
「目的は神樹様の破壊。
 二年前にも襲ってきたらしいんだけど、その時は追い返すだけで精一杯だったみたい。
 特徴は三つ。人間を襲うということと、一応の知性はあるものの、対話は不可能と思われること……そして、通常兵器はほとんど効果がないってこと。
 そこで、大赦が作り出したのが……」
 と、そこで一度話を切り、風は黒板の一角、ちょうどバーテックスの絵(仮)の対角線上に描かれた四つのこけしのような物体を円で囲い、
「神樹様の力を借りて、“勇者”と呼ばれる存在に変身するシステム。
 人智を超えた力に対抗するには、こっちも人智を超えた力ってワケね」
「その絵、私達だったんだ……」
「げ、現代アートってヤツだよ!」
 またもや樹のツッコミと友奈のフォローが入り――
「なるほどねぇ」
 そんな樹が何気なく取り出していたスマホが、いつの間にかとなりに出てきていたジュンイチによって取り上げられた。
「システムが携帯電話のアプリなんて形になってるのは人類製だからか。
 こういう形式なら、いつもはただの携帯電話として持ち歩けるから、カモフラージュと有事への即応性も両立できる……いいアイデアじゃんか」
「そういうジュンイチこそ、かなりシステマチックな感じじゃない。
 通信ブレスを使って変身なんて、どこの特撮ヒーローよ」
「ハッハッハッ、非常にオレ好み極まる例えをアリガトウ。
 けど、オレの方の話は後な。今はお前らの方のシステムの話だろう?」
「むむっ、大人の対応で流された気がする……」
 ジュンイチにあっさりといなされ、からかい損なった風がぷぅと頬をふくらませる――が、ジュンイチの言う通り今は自分達の話だ。気を取り直して続ける。
「じゃ、ツッコミ入っちゃったし、話を戻すわね。
 注意事項として、樹海が何らかの形でダメージを受けると、その分現実世界に戻った時に何らかの災いとなって表れると言われているわ」
「あ……」
 と、風の話に何か気づいたのか、友奈が不意に声を上げた。
「そういえば、今朝クラスの子達が話してるのを聞いたんです。
 昨日事故があって、けが人が出たって……」
「あぁ、今朝のニュースで言ってましたね。
 幸い重傷者はいなかったみたいですけど……」
「ふーん……」
 友奈や彼女に同意する樹の言葉に眉をひそめると、ジュンイチは風へと視線を戻し、
「『言われている』ってことは、お前らの上――大赦だっけか。そっちの方でもハッキリしたことはわかってないのか?」
「そうね……
 災いとなって表れる、ってところまでは確定……けど、それがどういう形で表れるかは、実際に起きてからでないとわからない。そんなところね」
 答える風の顔が一瞬曇る――が、そのことに気づいたジュンイチが問いただすよりも先に、風は元の笑顔に戻っていた。
「そんなワケだから、どんなことになるかわからない以上、樹海を傷つけるような戦いは可能な限り避けるべきだわ」
「敵の攻撃はもちろん、こっちの攻撃に巻き込むのもアウトってワケだな」
「そういうこと。
 うっかり樹海を傷つけて大惨事、なんてことにならないように、私達勇者部ががんばらないと」
 補足するジュンイチに風がそうまとめると、
「……その勇者部も、先輩が意図的に集めた面子だったというワケですよね……」
 そう口を開いたのは美森だった。
「うん……そうだよ。
 適正値の高い人は、わかっていたから……」
 風もまた、そんな美森の言葉を肯定し、改めて黒板の“現代アート”へと視線を向け、
「私は、大赦から使命を受けてるの。
 この地域の、担当として……」
「知らなかった……」
「今まで黙っててゴメンね。
 昨日も言った通り、選ばれなければ、そのまま黙ってるつもりだったから……」
 実の妹である自分ですら知らなかったと目を丸くする樹に、風は謝罪も込めてそう答える。
「次は敵、いつ来るんですか?」
「わからない……
 明日か、一週間後か……少なくとも、そう遠い話じゃないはずよ」
 続いて尋ねる友奈にも風がそう答えて――
「……どうして、もっと早く勇者部の本当の意味を教えてくれなかったんですか……」
 静かに、美森が口を開いた。
「友奈ちゃんも、樹ちゃんも、死ぬかもしれなかったんですよ……」
「……ゴメン。
 でも、いくら適性が高くても、どのチームが神樹様に選ばれるか、実際に敵が来るまでわからなかったの。
 むしろ、変身しなくて済む可能性の方が高くて……」
「そっか……私達以外にも、各地に同じような勇者候補生がいる……んですよね?」
「つまり、選ばれちまったらしょうがないけれど、そうじゃなければ普通の中学生でいられた、と……
 勇者の候補チームってのは、それだけたくさんいるってことか……」
 風の話やそれに納得する友奈の言葉に、ジュンイチもまたそう納得して、
「逆に言えば、大赦はそのくらい徹底して準備を進めていた、とも言えるな。
 いくつもの候補のチームを用意した上、こんなアプリまで用意して……
 いきなり巻き込まれて、半ば自腹で対策環境を整えたオレ達とはえらい違いだ」
「人類存亡の、一大事だからね……」
 先ほど樹から借りたっきり手にしたままだったスマホを返しながらのジュンイチの言葉に風がそう答えると、
「……人類存亡の一大事……
 そんな大事なことを、ずっと黙ってたんですか……」
 苦々しげにつぶやくと、美森は風に対して背を向けた。自ら車イスを操り、部室を出て行ってしまう。
「東郷さん!
 私、行ってきます!」
 そんな美森を放っておけず、友奈もまた部室を飛び出していってしまう――その後ろ姿を見送り、ジュンイチは軽く息をついた。
「……参ったね、どーも」
 つぶやいて、困り果てた様子の犬吠埼姉妹を見て、再び友奈達の出ていった廊下へと視線を戻した。
「……一番説明しなきゃいけないことを残してる二人が、二人そろって出ていっちまったわ」



    ◇



「………………」
 部室を出たものの特に行く当てもなく、美森は独り渡り廊下にて佇んでいた。
 と――
「ほらな、オレの言った通りここにいたろ?」
「すごーい、なんでわかったんですか?」
「気配察知の発展さ。
 ま、ちょいとコツをつかめばお前らにだってできる、初歩的なスキルだよ」
 背後からの声に振り向くと、友奈がジュンイチと話しながらこちらへとやってくるところだった。
「友奈ちゃん……? ジュンイチさんも……」
「はい、東郷さん」
 美森のつぶやきにかまうことなく、友奈が彼女に手渡したのは、ここに来る途中自販機で買ってきた紙パックのお茶である。
「私のおごり♪」
「え…………?
 でも私、おごられるようなことなんて……」
「したよ」
 しかし、根が義理堅い美森は素直にそれを受け取ることができなかった。お茶を友奈に返そうとするが、友奈はそんな彼女の手を押しとどめてそう答える。
「だって、東郷さん、さっき私達のために怒ってくれたんだよね?
 だから、これはそのお礼――ありがとう、東郷さん」
 そう。美森に自覚がなかっただけで、友奈にとっては“おごるに足る理由”は十分にあったのだ――友奈の言葉に、美森は今度こそお茶を受け取った。
「それで、ジュンイチさんはどうして……?」
「ンなの、お前や友奈ちゃんに話すことがあったからに決まってんだろ」
 友奈の理由はわかったが、ジュンイチはなぜ自分を追ってきたのか――尋ねる美森に、ジュンイチは肩をすくめてそう答えた。
「風ちゃんの話の後でオレ達の事情も話すって言ってたろうが――なのに風ちゃんの話も終わらない内から中座しやがって。
 幸い風ちゃんと樹ちゃんには昨日の内に話してあるから、あとはお前ら二人だけ――だったら別に話すその場に風ちゃん樹ちゃんがいなくてもいいじゃないか。よし、追いかけた先でさっさと済ませちまおう――と、まぁそういうワケだ。
 それに……」
 と、そこでジュンイチは言葉を切り、美森の車イスを指さした。
「この学校のバリアフリー度がどの程度か知らんが、この手の話に万全ってモンはあり得ねぇものだし、友奈ちゃんがついてったところでどこまでフォローできるのかをオレは把握しとらん。
 ンな不確定要素だらけの中、車イスの小娘をひとりで放り出すほど、薄情な人間なつもりはないんだがね、オレは。
 増してや、自己嫌悪に駆られて飛び出していったとなればなおさらだ」
「え……?
 自己嫌悪、って、東郷さんが……?」
 ジュンイチの言葉に、友奈が美森を見る――対し、美森は気まずそうに視線を伏せた。
「東郷さん……?」
「あのね……私、昨日ずっとモヤモヤしてたんだ……
 このまま変身できなかったら、私は勇者部のみんなの足手まといになるんじゃないかって……」
 まさか本当に――不安そうな顔を見せる友奈に、美森はそう話し始めた。
「だから、さっき怒ったのも、そのモヤモヤを先輩にぶつけてたところもあって……
 悪いこと言っちゃった……」
 言って、美森より深く視線を伏せ、
「友奈ちゃんはみんなのために変身したのに……
 国が……大変な時なのに……」
「と、東郷さん……?」
「それに引き換え、私は勇者どころか……敵・前・逃・亡……」
「み、美森ちゃーん……?」
「風先輩の仲間集めだって、国や大赦の命令でやっていた事だろうに……
 あぁ、私はなんて……」   

「わーっ! ちょっ! 美森ちゃん、すとーっぷっ!」
「そうやって暗くなってたらダメーっ!」
 あかん。この子一度ダウナー入ったらとことん沈んでいくタイプだ――加速度的にテンションが落ち込んでいく美森を前に、ジュンイチは友奈と二人であわててストップをかける。
「そ、そうだ!
 元気の出るもの見せてあげるね! きっとすごく楽しくなるよ!」
 と、友奈が何やら妙案を思いついたようだ。自分の手帳を開き、取り出したのは――
「ジャジャーンっ! キノコの押し花!
 他にトウモロコシのもあるんだよ!」



 ………………

 …………

 ……



「……ウン、キレイダネ……」
「気を遣わせてしまった!?」
「確かに、それを押し花にしようっていう発想はおもしろいけどさ……」
「ジュンイチさんまで!?」
 友奈の“とっておき”はものの見事に空振った。美森のみならず、ジュンイチにまでフォローされ、友奈は「おもしろいのに!」と悲鳴を上げる。
「じゃあ、じゃあ……そ、そうだ!
 一番・結城友奈! 一発芸やります!」
 しかし、友奈はあきらめてはいなかった。ついて来ていた牛鬼をむんずと捕まえると、ジュンイチや美森に見えないように何やらモゾモゾしていたが、
「見て見て!」
 振り向いた友奈の制服、胸の辺りに牛鬼が詰め込まれていて――
「私の胸、まるでホルスタインっ!」



 ………………

 …………

 ……



「……私のために、こんなネタまで……」
「もういい、もういいんだ、友奈ちゃん……っ!(泣)」
「あああああっ! 逆効果〜っ!?」
 なんかもう泥沼であった。
 それでも何かないかと、牛鬼が制服の中から脱出していくのもかまわず次の一手を考えていると、
「……友奈ちゃんは……」
 不意に、美森がそんな友奈に尋ねた。
「友奈ちゃんは、大事なことを隠されていて、怒ってないの……?」
「え? えっと……」
 美森の問いに、友奈はどう答えたものかと軽く考え込んで――
「『隠してた』っつっても、風ちゃんの場合悪気があってのことじゃないだろ」
 そう口をはさんできたのはジュンイチだった。
「それどころか、むしろお前らを想っていたからこそ秘密にしていた……オレはそう見るね。
 自分達じゃなく、他のチームが選ばれれば、自分達は勇者にならなくてすむ……そうすれば、今まで通りに勇者部としてやっていける。
 大赦から与えられた使命より、お前らとの勇者部での毎日の方を、大切にしたかったんじゃないかな?」
「……何がわかるっていうんですか。
 昨日、私達と初めて会ったばかりのあなたに」
 ジュンイチの話は筋が通っていた――かはわからないが、とりあえず納得できるだけのものはあった。
 が、それを語るのが自分達のことを何も知らないジュンイチであるというのは何となくおもしろくなかった。意図せずして美森の言葉にトゲが含まれてしまうが、
「ん。そうだな。オレはお前らと出会ったばかりで、お前らのことは何も知らない」
 対し、ジュンイチはあっさりとそれを認めてしまった。認めてしまったが――
「けどな……美森ちゃん。
 何も知らないからこそ――感情に流されることなく、客観的に状況を見ることができる」
 美森に対し、“知らないからこその利点”をそう語ってみせた。
「ガチ第三者のオレから見ても、風ちゃんがお前らを大切に想ってるのはわかる。
 そのくらい大切に想っているからこそ、自分達が重大な使命を背負うことになるかもしれないって事前に教えることで、余計なプレッシャーをかけたくなかった。
 お前らにはお前らのままで、風ちゃんの大好きなお前らのままでいてほしかった……んじゃないかな?」
「……そう……なんでしょうか……」
 ジュンイチの言葉に、美森は思わず視線を伏せて――
「……あのね、東郷さん」
 そんな美森の手に、友奈は優しく自分の手を重ねた。
「私も、勇者部のことを知らされて驚いたよ。
 でも……驚いたのと一緒に、嬉しいって気持ちもあるの」
「うれ、しい……?」
「うん。
 だって……」
 聞き返す美森に答えて、友奈は自らの胸に手を当てて、
「この適性のおかげで、風先輩や樹ちゃんと出会えたんだから」
「……この適性の、おかげ……?」
「うん!」
 もう一度、友奈は元気にうなずく――そんな友奈の言葉をかみしめるように、美森は目を閉じて想いを巡らせる。
 結論はすぐに出た――いや、すでに出ていた結論が確かな形を成した、と言った方が正確だろうか。
「……私は……中学に入る前に事故で足がまったく動かなくなって、記憶も少し飛んじゃって……
 だから、学校生活を送るのが怖かったけど、友奈ちゃんがいたから不安が消えて……勇者部に誘われてから、学校生活がもっと楽しくなったんだ……
 そう考えると……そうだね、適性に感謝だね」
「これからだって楽しいよ」
 応えて、友奈は重ねていた美森の手を取り、
「ただ……ちょっと大変なミッションと、頼れるお兄さんが増えただけで」
「へぇ、オレもカウントに入れてくれるんだ」
「もちろん!
 ジュンイチさんも、ブイリュウくんも、私達と同じ“勇者”なんですから!」
 加わってくるジュンイチにも、友奈は笑顔でうなずく――立ち上がり、ジュンイチと「イエ〜イ♪」とハイタッチを交わす親友の姿に、ようやく美森の顔に笑顔が戻るのだった。



    ◇



「…………ん?
 樹、何してるの?」
 一方、勇者部部室では、美森や友奈のフォローをジュンイチに丸投げしてその場に残っていたブイリュウが、机の上に何やらカードを並べている樹に気づいた。
 見える位置まで浮き上がってみれば、樹の並べているカードはトランプやカードゲームのカードにしては縦に細長いものだった。
 これは――
「タロットカード……?」
「うん。
 いかにして、お姉ちゃんと東郷先輩が仲直りするか……」
「……『いかにして』、ねぇ……」
 占いという“儀式”に臨んでいるからだろうか、少し仰々しい言い回しの混じった樹の説明に、ブイリュウはため息まじりに“そちら”を見て――
「『えっとーっ! 説明足りなくてごっめんねぇ〜っ!』
 ……軽すぎてもっと怒っちゃうかな……
 『皆……本っ当にごめんなさいっ!』
 ……低姿勢すぎるなぁ……」
 風が、デフォルメした犬のような姿をした自身の精霊、犬神を相手に美森へ謝る予行練習中。しかし、なかなか難儀しているようだ。
「困った〜。どうやって仲直りしよう……
 樹、どうするべきか占えた?」
「今結果出るよ」
 応えて、樹がカードの配置を終える。めくってみた一枚目のカードは……
「お、なんかモテそうな絵じゃない」
「“恋人ラヴァーズ”の正位置だね。
 意味は確か……」
 風やブイリュウが話す中、樹は二枚目のカードをめくって――
「……あれ?」
 机に置こうとした二枚目のカードが、“樹の手を離れた瞬間静止した”――“樹が机に置こうとした結果、少し反り返ったそのままの形で”
「え? な、何……?」
「これって……っ!」
 初めて見る現象に目を見張るブイリュウをよそに、風の表情が険しくなる――なぜなら、彼女にはこの現象に心当たりがあったから。
 そしてそれは樹も同様だ。何しろ“昨日、同様の体験をしたばかりなのだから”
 そんな彼女達のもとへ、犬神が風のスマホを持ってくる。その画面には“風達の予想通りに”――
「まさかの、連日……!?」
 ――“樹海化警報”との一文が表示されていた。



    ◇



 それは、ジュンイチにとっても憶えのある感覚――自分達をこの世界に導いたあの空間の揺らぎを感じ取るなり、ジュンイチ、そして友奈と美森は再びあの樹海へと転送されていた。
「ここは……」
「あの樹海……!?」
 周囲を見回して、友奈と美森がつぶやく――その一方で、ジュンイチはこめかみに手をあて眉をひそめた。
 違和感はない――否、“違和感がないからこそおかしかった”
(転送酔いにならない……?
 位置情報に変化がない……友奈ちゃん、美森ちゃんとの位置関係が変わっていないのはまとめて樹海に送られたからだと思ってたけど……そう考えると、この樹海化は別空間にオレ達を飛ばしたワケじゃなくて、現実空間の上に樹海をそっくりそのまま上書きしてるってことか……?)
 先日、戦いの後で現実世界に戻された時とは違うようだ――おそらく先日転送酔いに陥ったのは、あの時は空間の上書きの解除と共にあの屋上へ全員を集めるための転送も同時に行われていたためだろう。
 樹海に“入る”時は各自の位置はそのままに、空間をただ重ねているだけ――そう考えれば、“戻った”時と違って風達と合流できていないのも納得できる。
「となると、まずは合流からだな……」
 すでに風と樹の位置はつかんでいる――というか、先ほど“力”の解放と共に二人の気配がグンと強くなった。おそらくこちらの合流を待たずに先行して変身したのだろう。
 ならばこちらも――
「いくぜ、友奈ちゃん!」
「はいっ!」
 ジュンイチの呼びかけに、友奈が応えて勇者へと変身。ジュンイチも“装重甲メタル・ブレスト”を着装し、戦闘準備完了である。
「東郷さん、待っててね。
 すぐ倒してくる!」
「ま、待って、私も……」
 友奈の言葉に思わず追いかけてこようとする美森だったが、先の戦いを思い出したか、進み出ようとしたその場で身をすくませてしまう。
 と――
「美森ちゃんはそこにいな」
 言って、ジュンイチは美森の前へと進み出た。
「風ちゃんへのわだかまりが解けたっつっても、戦うことへの迷いまで晴れたワケじゃないだろ。
 今回はここでおとなしくしてな」
「で、でも……」
 ジュンイチの言葉に、美森は不安げな視線を友奈に向ける。
 彼女が友奈のことを心配しているのは明らかだ。だから――
「大丈夫」
 言って、ジュンイチは美森の頭を優しくなでてやる。
「オレが守ってやる。
 友奈ちゃんも、お前もな」
 そして、ジュンイチは友奈と視線を交わし、風と合流すべく二人で地を蹴る。そして――
「………………」
 その場に独り残され、美森は思わず視線を伏せた。

『オレが守ってやる。
 友奈ちゃんも、お前もな』

 ジュンイチの言葉が思い出され、無意識の内に彼がなでてくれた頭に右手が伸びる。
「私は……」
 意図せず、胸中の想いが言葉となってこぼれ落ちる――
「……私は……」



「……また、何もできないの……!?」



    ◇



「風先輩、樹ちゃん!」
「ブイリュウ! やっぱりお前も飛ばされて来てたか!」
 その姿を見つけてみれば、風や樹のみならずブイリュウの姿も――口々に声を上げ、友奈とジュンイチが風達と合流する。
「ブイリュウが一緒にこっちに来たから、もしかしてと思ってたけど、やっぱりジュンイチも来てたのね……
 でも、どうして……? ジュンイチもブイリュウも、神樹様に選ばれた勇者じゃないのに……」
「一応、仮説はあるけど……聞く?」
「いや、後にしとくわ」
 ジュンイチに答え、風が“そちら”を向く。ジュンイチもまたそれに倣い――
「そうだな。
 今はとりあえず、アイツ“ら”の相手をしなきゃだもんな」
「三体同時に来たか……モテすぎでしょ」
 そう――樹海の向こうに見える敵影は三つ。
 数珠つなぎの尻尾を持つもの、棒状の浮遊端末を多数従えるもの――そして、さながら生首が浮いているような、額に当たる部位にももうひとつの口を備えているもの。
「蟹座に蠍座、それに射手座か……」
「ん? 何ソレ?」
「バーテックスは12体って言ったわよね?
 以前出現した時の情報を元に、12体にはそれぞれ黄道12星座に対応したコードネームが割り振られているのよ――ほら」
 ブイリュウに答え、風が見せたスマホ、勇者用サポートアプリの画面はレーダーモードになっており、そこには風達四人に加え、蟹型、蠍型、射手型の表示がある――ちなみにジュンイチとブイリュウは“UNKNOWN”扱いだ。
「……あれ?
 このバーテックス、進む速度にばらつきがない?」
「そうですね……蟹と蠍が射手座を置いてきぼりにしてる感じです」
 一方で、同じく風のアプリ画面を見た友奈が気づく――樹が同意した通り、三体のバーテックスの内、蟹座、キャンサー・バーテックスと蠍座、スコーピオン・バーテックスが射手座、サジタリウス・バーテックスを置いて先行してきている。
「むしろ好都合よ。
 遠くのヤツは放っておいて、前線の二体、まとめて封印の儀、いくわよ!」
「はいっ!」
「うん!」
 敵の配置は気になるが、三体まとめて来られるよりはよほどいい――気を取り直して指示を出す風に友奈や樹がうなずくが、
(本当に、何も意味はないのか……?)
 一方で、ジュンイチは言い知れぬ不安を感じていた。
(ヤツらとの意思疎通は不可能だって話だけど……)
 つまり、それはヤツらが何を考えているかわからないということ――だからこそ、風達はこの位置関係を単なる進行速度の違いによるものだと思っているようだが、ジュンイチにしてみれば“配置が配置なだけに”少しも安心できない。
(あれが人間の兵士で構成された三人一組スリーマンセルなら……)
 胸中でつぶやきながら、敵の位置関係を再確認する。
 前線のキャンサー、スコーピオン両バーテックスはそろそろ友奈達とぶつかりそうだ。風の提案通り、サジタリウス・バーテックスには誰も――

 ――――――

(――――――っ!)
 その瞬間、ジュンイチの脳裏を“何か”が駆け抜けた――



 『ここから先は、通行止めだぜ』

 今まさに対峙している三体のバーテックスと対峙している自分。



 『よぉ、クソサソリ』

 腹に大穴を開けた状態で、スコーピオン・バーテックスをにらみつける自分。



 『よくも柾木を!』
 『やってくれたわねっ!』


 これも相手はやはりスコーピオン単騎。そのスコーピオンに突撃していく、二人の少女の後ろ姿。



 さらにいくつもの映像、そして声が、記憶のフラッシュバックのように脳裏を突き抜ける。
(何だ、今の……っ!?)
 だが、自分には今見えた光景を見た記憶がない。前世の記憶をさかのぼっても、今見えた光景にも、聞こえた少女達の声にも聞き覚えがない。
 だが――その“光景”のおかげで、“不安”の正体に思い至ることはできた。
 後方にいるサジタリウスが攻撃する光景も見えたからだ。その攻撃とは――
(“サジタリウス”――“射手”座!
 くそっ、なんでもっと早く気づかなかった!)
「みんな! “サジタリウスを”警戒!」
 あわててジュンイチが警告するのと同時、サジタリウス・バーテックスが上の口を開いた。
 その口の中、頭を貫くように槍のようなものが出現して――



 風が“たれた”。



 それは“槍のようなもの”ではなく“矢”だったのだ――高速で射出されたそれを風はかろうじてガードに成功するが、衝撃に負けて吹っ飛ばされ、宙高く跳ね飛ばされて――
「やってくれるぜ、あの射手座!」
 そんな風の手を取る形で、飛翔するジュンイチが彼女を空中で拾う。
 と、今度はサジタリウス・バーテックスの下の口が開かれた。そこから、まるで噴水が吹き上がるように大量の光の矢が吐き出され、こちらに向けて降り注いでくる!
「なんかいっぱい来たぁーっ!」
「ちぃっ!」
 眼下の地上から樹の悲鳴が上がるのを聞きながら、ジュンイチは防壁を強化、光の矢に対して防御を試みる。
 光の矢が一斉に降り注ぐが、ジュンイチの展開する力場はエネルギー系の攻撃に対しては鉄壁の防御力を誇る。サジタリウス・バーテックスの弾雨も難なく防ぎきる――はずであった。

 ――めりっ。

「――――っ!?」
 実際にそんな音が聞こえたワケではない。自身の力場が歪むのを感じ取った異能者としての感覚が、ジュンイチにそんな幻聴をもたらしたのだ。
 その意味は容易に察せられた――とっさの判断でその場を離れたジュンイチの目の前で、座標を固定、先の場に残しておいた力場の防壁が光の矢の雨に貫かれ、砕け散った。
「ちょっと!?
 アンタのバリア、エネルギー攻撃にはめっぽう強いって言ってなかったっけ、ゆうべ!?」
「物理的な衝撃には弱いとも説明したよな、ゆうべ!」
 自身に手を引かれたままの風に答え、ジュンイチはアクロバティックな機動で追撃の光の矢の雨をかわしていく。
「ありゃただのエネルギー弾じゃねぇ!
 質量を持つまでに圧縮した超高密度エネルギー弾――あんなの、事実上の“エネルギーでできた実体弾”だ!」
「つまり!?」
「エネルギー弾そのものの威力じゃなくて、それが力場を叩いた物理的な衝撃で力場を破ってきやがったんだよ!
 オレの力場で唯一防げないエネルギー攻撃――敵さんもやってくれるぜ!」
 舌打ちまじりに、ジュンイチは風を捕まえたままサジタリウス・バーテックスの光の矢をかいくぐる。
(というか、これ、思ったよりヤバくないか……?)
 そんなジュンイチの脳裏をよぎるのは、敵に対するひとつの不安――
“このタイミングで”オレの力場を破る攻撃を撃てる相手が出てきた……これを単なる偶然と片づけていいのか……?
 もし、前回の戦いでオレがヴァルゴのエネルギー系攻撃を防ぎきった情報が伝わっていて、その対抗策としてあのサジタリウスを送り込んできたのだとしたら……
 そして、あのサジタリウスを最大限に活かすため、前衛としてあの蟹と蠍を意図的に組ませて、出してきたんだとしたら……)
 もしこの推論が正しければ、それは相手に「情報戦を行う能力がある」「考えて戦うことができる」、それだけの知能があるということになる。
 大赦の言う「知性がある」という情報を、もう少し深刻に見積もるべきだった。意思疎通はできないというから、考え方を推し量ることは難しいと読み合いを放棄したのが裏目に出た。
 そこまで達した瞬間、ジュンイチの思考は一気に結論まで駆け抜けた。
 相手に考える能力があるとすれば、これ以上の情報を与えるのはマズイ。かと言って、未知の相手に対し手を抜くのも論外だ。
 ならばどうするか――答えはひとつしかない。
(情報を引き出す間も、どっかに伝える間も与えねぇ!
 相手がオレ達のことを知る前に――速攻でつぶす!)
 だからと言ってゴッドブレイカーまで投入するつもりはない――召還、合身とやっている時間すら今は惜しいからだ。
 オーグリッシュフォームもダメだ。樹海に被害を出せないという制約がある以上、習得したばかりで力加減に難を残しているあの姿になるワケにはいかない。うっかり樹海を焼き払う、なんてことになれば目も当てられない。
 生身、且つ通常形態のままでの最大火力。一気に叩き伏せて勇者部の面々による封印に持ち込む――これが現状で折り合いのつく妥協点だろう。
 そう結論づけて、ジュンイチは風に告げる。
「風ちゃん! ちょっと乱暴だけど下ろすぞ!
 オレの機動力じゃ、人ひとり抱えてアレをかわすのはちとキツイ!」
「ちょっと! それ私が重いってこと!?」
「安心しろ! じゅーぶん軽いっ!
 オレが言ってるのは、お前がいる分“的”がデカくなるってこ――とっ!」
 年頃の女の子ならではの抗議にフォローを入れつつ、ジュンイチは風を“投げた”。勢いよくカッ飛んだ風が地面に突っ込む――否、体勢を立て直して“着地”する中、腰にさした霊木刀“紅夜叉丸”を抜き放つと爆天剣へと“再構成リメイク”し、
「止められねぇなら――叩き落とすまでだ!」
 なおも迫る光の雨に向け、刀身に集めた炎を解き放つ――が、あまりにも数が多すぎる。自身への直撃弾と少々の+αを吹き飛ばすので精一杯だ。
 と――そんなジュンイチの眼下を駆け抜ける者がいた。
(撃ってくるヤツを、なんとかしないと……っ!)
 友奈だ。後方支援に徹しているサジタリウス・バーテックスを先に排除しようと走り――そんな友奈の動きに気づいたのか、キャンサー・バーテックスが友奈の後を追うように振り向いた。
 と、キャンサー・バーテックスの従えていた浮遊端末に変化が。棒状の本体から引き出されるように、大きなプレートが姿を現したのだ。
 あれは――
「友奈さん、危ない!
 後ろです!」
 気づいた樹が叫ぶのと同時、プレートにサジタリウス・バーテックスの光の矢が降り注ぎ――反射した。プレートを境に鋭角に射線を曲げ、友奈を背後から狙う!
「ぅわっ、ぅわわわわっ!?」
 それでもなんとか反応が間に合った。両手の手甲で直撃弾をすべて叩き落とし、友奈はひとまず地上に着地する。
 勇者として強化された反応速度がなければ危ないところだった。ゾッとするものを感じながら、友奈は安堵の息をつき――
「バカ! 動きを止めるな!」
「え――?」
 上空からのジュンイチの叱責に思わず周囲を見回す――が、襲撃は“下から”。樹海に紛れて忍び寄ってきていたスコーピオン・バーテックスの尾が、友奈を上空高くまで突き上げる!
 攻撃そのものは牛鬼が防壁を張って防いでくれた。おかげで尾の先端の槍と見まごうほどの巨大な針に貫かれることはなかったが、結果友奈の身体は上方に大きくはね飛ばされてしまった。落下する友奈の身体を飛来したジュンイチがキャッチするが、
「ぅわぁっ!?」
「きゃあっ!?」
 そこへスコーピオン・バーテックスの追撃。その巨大な尾に思い切り打ち据えられ、ジュンイチと友奈は真横にブッ飛ばされる!



    ◇



 ブッ飛ばされた友奈とジュンイチの支援に向かおうとする風と樹だが、そんな彼女達のもとには光の矢が降り注ぐ――プレートを増やし、頻繁に反射角を変えながら光の矢を降らしてくるサジタリウスとキャンサー、両バーテックスの連携攻撃に、二人は反撃のチャンスも見出せず、回避に徹するしかない。
 一方で、スコーピオン・バーテックスが単独で移動を開始。樹海の奥にうっすらと見える神樹に向けて進み始める。
 そう。“樹海の奥へ”。つまり――
「こっちに、来る……!?」
 それは同時に、友奈とジュンイチが戦いに巻き込むまいと避難させていた美森の元への侵攻も意味していた。迫るスコーピオン・バーテックスの威容に、美森は思わず身体を強張らせる。
 と――そんな彼女の前方で衝撃が巻き起こった。舞い上がる土煙にせき込みながらも、何が起きたのかと目をこらしてみると、
「――――っ! 友奈ちゃん、ジュンイチさん!」
 そこには、抱きしめるように友奈を守り、出来上がったクレーターの中心に背中をうずめたジュンイチの姿があった。
 気絶しているのか、ジュンイチの腕の中の友奈に動きはない――そんな二人に向けてスコーピオン・バーテックスが尻尾の針を繰り出すが、とっさに前に出た牛鬼が防壁で防ぎ、
「どいてろ、牛鬼!」
 友奈を抱きかかえたまま、ジュンイチが立ち上がった。再度自分達を狙う巨大な針を、手にした爆天剣で弾き、受け流す。
 なおも針を繰り出すスコーピオン・バーテックスに対し、友奈を守るために大きな動きのできないジュンイチは完全に防戦一方で――



「――やめて――」



 気づけば、美森の口からそんなつぶやきがもれていた。
 一方、横薙ぎに振るわれた尻尾の一撃を、ジュンイチは友奈を抱えて飛翔、空中に逃れる形で回避する。
 が、敵も負けてはいない。返す刀とばかりに尻尾で真上からの一撃。友奈を抱えているジュンイチはかわしきれずにまともにくらい、地面に叩きつけられ、押しつぶされ――
「…………平気っ!」
 ――てはいなかった。両足でしっかりと踏ん張り、右手とその手で握る爆天剣で巨大な尾を受け止めている。
 しかし、そんな彼も無傷というワケにはいかなかった。ヘッドギアが割れ、顔を縦断して流れる血が腕の中の友奈の勇者装束に落ちる。



「…………やめ…ろ……っ!」



 反撃とばかりに爆天剣から炎の塊を発射。尻尾の先端付近を直撃し、先端部分が断ち切られる。
 しかし、それでも敵の尻尾は生きていた。先日のバーテックスの攻撃端末のように飛翔し、その針でジュンイチを、友奈を狙う。
 ジュンイチもそれをかわし、上空から突っ込んできた元尻尾はむなしく地面に突き刺さる――が、本体の、再生しつつある尻尾の一撃がその後に続いた。とっさに友奈をかばい、その背に一撃を受けたジュンイチは吹っ飛ぶ先の大樹の幹にも身をひるがえして背中から突っ込む。あくまで友奈を守り、傷つけまいとしているのだ。
 そんなジュンイチに、元尻尾と本体の尻尾の波状攻撃が襲いかかり――



「……友奈ちゃんを……」







「ジュンイチさんを……」





















「…………いじめるなぁぁぁぁぁっ!」





















 悲鳴に近い咆哮が響いた。
 戦いを見守っていた美森だ。そんな彼女に気づいたスコーピオン・バーテックスが元尻尾を差し向けて――



 止められた。



 “美森の前に出現した精霊が”、防壁を展開してスコーピオン・バーテックスの攻撃を受け止めたのだ。
「…………美森、ちゃん……!?」
 その光景に、ジュンイチは状況も忘れて思わず見入り――
「東郷、さん……?」
 腕の中から声が。見れば、友奈が意識を取り戻し、先の自分のように美森の姿に見入っている。
「私、いつも友奈ちゃんに守ってもらってた……」
 そんな二人の前で、美森は自分のスマホを握りしめる。
「ジュンイチさんは、そんな友奈ちゃんを守るって言ってくれて……守ってくれた」
 恐怖と、それ以上の強い意志の宿る瞳でスコーピオン・バーテックスをにらみつける。
「……だから、次は、私が勇者になって……」







「みんなを守る!」







 その瞬間、美森の姿が変わる。
 讃州中学の制服から、青色を基調とした勇者装束へと――元々不自由だった両足は変身しても回復することはなかったのか、靴も履いていないその両足ではなく、冠の後ろから伸びる四本の帯状の装飾が触腕となって彼女を支えている。
 と、傍らに美森の“別の”精霊が姿を現す――そう、“別の”。先にスコーピオン・バーテックスの攻撃を防いだ精霊は卵のような、上下に分かれたそのすき間から両手と両目をのぞかせるような姿をした精霊だったが、今度のは着物を来た狸のような姿をしている。
 そして、狸の精霊の出現と共に美森の手に武器が――現れた拳銃を手に、美森はスコーピオン・バーテックスをにらみつけた。
(どうしてだろう。変身したら落ち着いた……
 武器を持っているから……?)
 そんな美森に向け、スコーピオン・バーテックスが尻尾を振り上げ――その先端の針が撃ち砕かれた。
「もう二人に手出しはさせない……っ!」
 すかさず迎撃に動いた美森の銃撃だ。と、今度は元尻尾が背後から迫り――
「なら、オレも言わせてもらおうか」
 そんな一言と共に真っ二つ。針も含めて正確に二等分された元尻尾は美森の両脇を駆け抜け、その先の地面に突っ込む。
「こっちだって、美森ちゃんに手出しさせねぇっつーの」
 “友奈を抱きかかえたまま”飛び込んできたジュンイチだ。美森に並び立ち、爆天剣の切っ先をスコーピオン・バーテックスに向けて言い放ち、友奈も“ジュンイチの腕の中で”コクコクとうなずいてみせる。
「やる気になったみたいだな」
「えぇ。もう大丈夫です。
 ……それと」
 声をかけてくるジュンイチに答えると、美森は不意にジュンイチ“達”へと冷たい視線を向け、
「二人とも、いつまでくっついているつもりですか?」
「え…………? あ、ひゃあっ!?」
 そこでようやく、友奈は自分がジュンイチに抱き寄せられたままなことに思い至ったようだ。思わず顔を赤くしてジュンイチから離れる。
「……ずいぶんと堪能したみたいね、友奈ちゃん?」
「なっ、なななっ、何言い出すのかな、東郷さん!?」
 ジト目の美森とあわてる友奈、そして二人のやり取りの意味するところに思い至らず、首をかしげるジュンイチ。そんな三人に向け、スコーピオン・バーテックスが尻尾を振り上げ――叩きつける!
 が――
「話の途中なんだから――」
「ジャマしないでやってくれねぇかなっ!?」
 三人はしっかり回避していた。舞い上がる土煙の中から飛び出してきた友奈とジュンイチが、スコーピオン・バーテックスの顔面にダブルパンチを叩き込み、
「二人とも!」
 美森の合図と共に二人が離れると、美森が三体目の、炎に手が生えたような姿をした精霊を呼び出した。同時に召喚された、逆手に握るタイプの二丁拳銃で、スコーピオン・バーテックスに追撃の銃弾を叩き込む。
「バーテックス、ねぇ……
 “頂点”とか大層な名前の割には、案外大したことねぇな。ちょいと自分の優位が崩れた程度でそのザマかよ?」
 友奈と共に並び立つ形で敵の目の前に降り立ち、ジュンイチは不敵な笑みと共にそう言い放つ――その一方で、チラリ、と先に自分が真っ二つにした元尻尾の墜落した辺りへと視線を向ける。
 元尻尾が再生している様子はない。どうやら本体に直接つながっていない部分についてはバーテックスの再生能力も及んでいないようだ。
 なら、向こうで風達を苦しめているキャンサー・バーテックスの“反射板”も――反撃の糸口を見つけ、ジュンイチはさっさとこの場を“終わらせる”ことにした。スコーピオン・バーテックスへと爆天剣の切っ先を突きつけ、
「オレ達を前に“頂点”名乗ろうなんざ100年はえぇっ!
 思い知らせてやるから、顔を洗って出直してこいっ!」
「あ、あのー、ジュンイチさん……?」
「出直してこられると困るんですけど」
 せっかく切った啖呵にツッコミが入った。



    ◇



 何枚ものプレートによって複雑に反射され、執拗にこちらを狙ってくる光の矢の雨から逃れ、風と樹、そしてブイリュウは大樹の陰に身を隠した。
 バーテックス側も管理しきれなくなるのだろうか、今のところ多方向に反射しての包囲攻撃がないのが救いと言えば救いだが、その分狙いが正確且つ執拗で、なかなか反撃の糸口がつかめない。
「あーもうっ! しつこい男は嫌いなのよ!」
「モテる人っぽいこと言ってないで、何とかしようよ、お姉ちゃん」
「ふーん……『っぽい』ってことは、風って実際は……」
「うっさいわよそこっ!」
 自分の愚痴や樹のツッコミに対し余計なコメントをもらしたブイリュウに風が言い返し――
「って、何か飛んできたよ!?」
「え? ――って、きゃあっ!?」
 樹の叫びに振り向いた瞬間、衝撃――見れば、キャンサー・バーテックスが“スコーピオン・バーテックスに”押しつぶされている。
 しかし、友奈やジュンイチと戦っていたはずのスコーピオン・バーテックスがどうしてここに――
「――――あ」
 と、またしても樹が気づく――ジュンイチと友奈が、スコーピオン・バーテックスを追って、自分達のすぐそばに降り立つ。
「ヘイお待ちっ! ってところかね」
「そのエビ運んできたよーっ!」
「サソリでしょ」
「どっちでもいいと思うのオイラだけ……?」
 ジュンイチのとなりで言う友奈に風が、その風にブイリュウがツッコんで――そんな彼らの元に、少し遅れて美森も合流してくる。
「東郷先輩……」
「遠くの敵は、私が狙撃します」
 樹のつぶやきに美森が応じ――と、美森と風の目が合った。
「東郷……戦ってくれるの……?」
「はい。
 援護は任せてください」
 風に対してうなずくと、美森は少し離れて射撃態勢に。うつぶせに伏せると最初に現れたあの卵型の精霊が出してくれたスナイパーライフルをかまえる。
「わかった!
 手前の二匹、まとめてやるわよ! 散開!」
『OK〜』
 風の指示に友奈と樹がうなずいて――今度は美森から友奈達へ。
「不意の攻撃に気をつけて!」
『はいっ!』
「……私の時より返事がいい……」
「器の差だろ」
 ジュンイチが風にトドメを刺した。



    ◇



 自分と友奈達とのやり取りで風がダメージを受けて(ついでにジュンイチからも追い討ちをもらって)いることなど気づくよしもなく、美森はうつ伏せの狙撃姿勢でサジタリウス・バーテックスを狙う。
 そんな美森に気づいたらしい。サジタリウス・バーテックスも上の口に巨大な矢を作り出した。美森を狙い、放ち――
「バーテックスさんよ――矢斬りって知ってっか!?」
 その射線上に飛び込んできたジュンイチが、爆天剣でその矢を叩き落とす!
「ジュンイチさん!」
「悪いが援護はここまでだ!
 オレは友奈ちゃん達封印組のサポートに回る! アイツの方は任せるぞ!
 遠慮なく目標を狙い撃て――美森ちゃん!」
「はいっ!」
 言って、地上に降りていくジュンイチにうなずくと、美森は改めてターゲットサイト越しにサジタリウス・バーテックスをにらみつけた。
「こいつが、みんなを苦しめた……おとなしくしてて……っ!
 東郷美森、目標を狙い撃つ!」
 ジュンイチの言い回しを受け継いだ美森の狙撃が、サジタリウス・バーテックスを撃ち抜く――その一方で、友奈達はキャンサーとスコーピオン、二体のバーテックスの封印に取りかかっていた。二体まとめて封印の術式陣に囚われ、キャンサー・バーテックスの後頭部から、スコーピオン・バーテックスの下半身、球体状のパーツから、それぞれ御魂が姿を現す。
「私、行きます!」
 さっそく友奈が動いた。キャンサー・バーテックスの御魂へと突撃、拳を叩き込――もうとしたが、
「あっ、あれっ?」
 外した――確実に捉えると思われた一撃を、“かわされた”。
 御魂が自ら動き、友奈の攻撃から逃れたのだ。追いかける友奈だが、御魂も緩急織り交ぜた動きで友奈の一撃を許さない。
「ふぇぇ〜んっ、この御魂、絶妙に避けてくるよぉっ!」
「代わって、友奈!」
 思わず泣き言をもらした友奈に代わって前に出るのは風だ。ジュンイチと共にキャンサー・バーテックスの御魂へと突撃する。
「点の攻撃をヒラリとかわすならっ!」
 言いながら、ジュンイチが正面へと炎をぶちまける――広範囲に放たれた炎はさすがにかわしきれず、まともにくらった御魂が吹っ飛ばされた。大樹の根に衝突、跳ね上がり――
「風ちゃんっ!」
「面の攻撃でぇっ!」
 ジュンイチの合図で風が飛び込む――ジュンイチの先のセリフに続きつつ、犬神を呼び出し“力”の供給を受ける――それを受け、風の剣が何倍にも巨大化し、
「押しっ、つぶーすっ!」
 “剣の腹を”叩きつけた。宣言通りに“面の一撃”をくらい、御魂は地面と大剣とのサンドイッチ。大剣の下で光を散らして砕けて果てる。
「さすが風先輩っ!
 よぅし、次こそ私がっ!」
 ジュンイチとのコンビネーションで御魂を撃破した風の雄姿に、ますます友奈の気合にターボがかかる。「風ちゃんだけ? オレは?」と先の発言に反応しているジュンイチをよそに、スコーピオン・バーテックスの御魂の方へと向かう。
 と、今度は自分が狙われていると察したのだろう。スコーピオン・バーテックスの御魂が“増えた”。大量のダミーを作り出し、その中に隠れてしまう。
 が――
「数が多いならっ!」
 その前に立ちはだかったのは樹だ。自身の精霊“木霊”の力を借り、腕輪から多数のワイヤーを射出し、
「まとめて――えいっ!」
 ダミー・本物おかまいなく、御魂をまとめて捕獲。ワイヤーの一引きで周りのダミーを一気に粉砕し、続く一引きで残された本物の御魂が改めて細切れにされ、砕け散る。
「ナーイス樹!
 あと一体よ!」
「よっしゃ! さっさと封印だ、封印っ!
 御魂出せーっ! 今度こそオレがっ!」
 残るバーテックスはサジタリウス一体のみ。風とジュンイチが一気に決めるぞと息巻いていると、突如風の懐にしまっておいたままのスマホが震える――誰かから連絡が入ったようだ。
 試しに風が応答すると、
〈――風先輩〉
 連絡してきたのは美森だった。
〈部室では言い過ぎました。
 ごめんなさい……これからは精一杯援護します!〉
「東郷……
 心強いわ。私の方こそ――」



 ズバンッ! ドンドンドンッ!



 風の言葉を待たずして、サジタリウス・バーテックスを貫く狙撃“の嵐”――援護どころかもうそのまま仕留めてしまうつもりなんじゃなかろうかと思ってしまうような勢いで目標を狙い撃ちまくっている美森の攻撃に、ジュンイチは「援護って何だっけ……」と思わず自問自答。
 そして風は――
「……ごめんなさい。いやホントごめんなさい、ハイ」
 全面的にガチ謝りしていた。



    ◇



 とはいえ、いくら美森の狙撃がすごくても、バーテックスは“封印の儀”によって御魂を露出させなければ倒せない。美森の狙撃にさらされ、動きを止めているサジタリウス・バーテックスを友奈達が包囲。封印にとりかかる。
 すぐにサジタリウス・バーテックスの下の口から御魂が姿を現し――と、御魂が自ら動き始めた。こちらの狙いから逃れるかのように、自身の身体の周りをかなりのスピードで飛び回る。
「この御魂、速すぎるよぉっ!」
「あれじゃ狙えないよぉっ!」
「ハッ、ようやくオレの出番か!」
 友奈や樹の声に、勇んで前に出てきたのはジュンイチだ。
「下がってな!
 あの程度の移動半径でオレの範囲攻撃から逃げられるとでも――



 ――ズバンッ!



 ジュンイチの一撃どころかセリフすら待たずして、御魂を叩いた――否、貫いた一撃があった。
「東郷先輩!?」
「撃ち抜いた……!?」
 そう、樹が、風がつぶやいた通り、美森の狙撃によるものだ。高速で飛び回っていた御魂が失速し――砕け散った。それに伴い、サジタリウス・バーテックスの身体が頭から砂になって崩れ落ちていく。
「……状況、終了」
 標的を仕留めたのを確認し、ようやく美森はターゲットサイトから目を離した。息をつき、天に昇っていくかのように散っていく御魂の残滓の輝きを見送る。
「みんな、無事でよかった……」
 友奈達は全員無事だ。誰も失わずに済んだことを美森は素直に喜んで――
「……オレ、見せ場なし……っ!」
 ジュンイチが、反撃開始後の自分の活躍の場のなさに絶望していた。



    ◇



「東郷さん!」
 戦いが終わり、一同は前日と同じように讃州中学の屋上へ――変身が解け、元通り車イスに座る美森に、友奈は背後から飛びついた。
「カッコよかったよ〜っ♪ ドキッとしちゃった!」
「そんな、私……」
「いやいや、すごかったって」
 友奈の賛辞に照れる美森に応えるのは飛んできたブイリュウだ。そして――
「それに引き替え……今回何かしたっけ、ジュンイチ?」
「活躍したもん……っ! 友奈ちゃん守ったもん……っ! スコーピオンぶん殴ったもん……っ! 風ちゃんのフィニッシュ援護したもん……っ!」
 ブイリュウが視線を向けた先では、転送酔いでダウンし、樹に介抱してもらっているジュンイチが横になったまま子供っぽくすねていたりする。
 と――
「本当に助かったわ、東郷」
「風先輩……」
 美森に声をかけてきたのは風だった。
「それで……」
「覚悟はできました」
 改めて決意を問う風に対し、美森はキッパリと答えた。
「私も勇者としてがんばります」
「東郷……ありがとう。
 一緒に国防に励もう」
 礼を言い――付け加えた風の一言に美森の動きが止まった。
「……国防……」
 そう風の言葉を繰り返す美森の瞳は、形容しがたい熱っぽさを含んでいて――
「……はいっ!」
「え? そこうっとりしちゃうようなトコ?」
 明らかにテンションが上がったのを隠しきれていない美森の様子に、ブイリュウは東郷美森という人物のキャラクター像を修正する必要性を感じずにはいられなかった。
 と――その美森が何かに気づいたようで、背後の友奈に向けて一言。
「そういえば友奈ちゃん、課題は?」
「………………え?」
 止まった。
 美森の指摘を受けた友奈が、それはもう、ビデオの一時停止ボタンでも押したかのように。
「……わ、忘れてた……
 明日まで、だよね……? アプリの説明テキストばっかり読んでたから……」
「そこは守らないから、がんばってね」
「えぇ〜っ!?」
「よっしゃ、任せろ、友奈ちゃん!
 現役高校生の頭があれば、中学の課題なんぞっ!」
「ダメですよ、ジュンイチさん。
 友奈ちゃんの課題なんだから、友奈ちゃんがやらないと」
『そんな〜っ!?』
 バッサリと斬り捨ててくれる美森に、ジュンイチと友奈の声が唱和する。
「東郷さん! そこを何とか! この通りっ!」
「活躍させろーっ! 見せ場をよこせーっ!」
「……なんか、友奈がもうひとり増えたみたいだわ……」
「ごめん。あーゆーマスターなんで……」
 友奈、そして彼女と同レベルで騒ぐジュンイチ――目の前のドタバタ劇に思わず額を押さえる風にはブイリュウが頭を下げる。そして――
「勇者も勉強も両立よ♪」
 満面の笑みで要望の一切をシャットアウトしてくれた美森に、友奈とジュンイチはガックリとその場に崩れ落ちるのであった。


次回予告

「前衛系はそのくらいアグレッシブでないと!」

「いきますよーっ、ジュンイチさんっ!」

「これじゃ援護にもならない……っ!」

「最大戦力で、一気に叩きつぶしてやる!」

第3話「天秤とオーバーキル」


 

(初版:2018/01/29)